生と死の遁走曲20コメント

1 比翼鳥 id:POJzfiT.

2012-12-25(火) 18:24:08 [削除依頼]

 嗚呼、君の名を僕は唄おう。
 眩い栄光を背に笑っていた……
 君の後ろに光はあり、君の前に光はない。

 歓喜に満ちているようで
 それはすべて虚栄に過ぎないと知りながら、
 それでも目の前の果てなき桃源郷を追い求めたその人を。
  • 2 比翼鳥 id:POJzfiT.

    2012-12-25(火) 18:25:08 [削除依頼]
    序章「Let`s begin the tragedy!」

     コツコツ、コツコツと無機的な音が闇に塗りつぶされた部屋の隅に響いた。やがて中央のセンタースポットに立った男は、いくつものライトに照らされた青白い頬に、その荒廃した性分を表わすかの如く歪んだ笑みを浮かべていた。
     死んだように光を伴わない瞳は虚。木偶のように浮動する腕は滑るように柱時計のビードロに触れた。指の腹との接触部が擦れ耳障りな音を立てる。まるでその旋律を楽しむかのように、男は大きく両腕を広げた。
     「Let`s begin the tragedy!」(さあ、悲劇を始めよう!!)
  • 3 比翼鳥 id:gsIPmSp1

    2012-12-26(水) 18:37:46 [削除依頼]
    01「Banshee」

     その街は先進国の都市とは思えないほど荒れ果てていた。畦道には雑草の影が消え、代わりに黒光りする鉄の球がごろごろと転がっている。いつでも死臭が漂うここは、人間が最期に来る場所として成り立っていた。いつでも誰かが消えていく。自分が息をしている間に一つの命が落ちていくのだ。それを普通の感情を持った人間であれば、胸に痛みを覚えただろう。しかし、そこにいるのは壊れた人間。まるで操り人形のようにただ心臓が動くだけの、それだけのモノなのだ。無論、繰り返される生と死のサイクルに痛みを感じる筈などない。

     だからこそ、ここに来るやつはすべて、世界から消えても何の不都合も起こらない人間ばかり。そう「彼」もまた思っていた。
  • 4 比翼鳥 id:gsIPmSp1

    2012-12-26(水) 18:39:11 [削除依頼]

     「彼」に名前はなかった。物心つく頃にはとうに親はおらず、彼は二人の人間から自分が生まれたことも知らない。人が人から生まれることを知らず、ただ文明の産物だと勘違いしている彼にとって、人間の価値もそこらに落ちている鉄の価値も同じ「1」という単位にしか過ぎなかった。
     「彼」を育てた人間には心があった。感情があった。何も映そうとしない「彼」の浅黄色の瞳を見ては、いつでも目を潤ませた。けれども名前はつけなかった。
     名前は縛りでもある。肉体と魂に同じ名前を付けることで、本人の希望では肉体と魂が離別することはできない。肉体は生きていて魂が死んでいても、関係ないのだ。だから、その人は名前を付けなかった。もしもう魂が死んでいても、肉体が生きている。ならば逆に、肉体は死んでしまっているけれど、魂だけは生きているヒトは、それにより現世に命を保つことができる。その人は心の隅で、浅黄色の瞳に光が灯ることを願っていたのかもしれない。中身が「彼」の魂でなくとも、ただ元気に駆け回る幼き稚児の姿を見たかったのかもしれない。
     それを醜く歪んだ愛だというなれば、それはそれで正しい解釈かもしれない。
     けれどもその人はそんな幸福感に満ち足りた情景を見ることなく命を落とした。
  • 5 比翼鳥 id:t1Ai57k/

    2012-12-27(木) 11:30:43 [削除依頼]

    「彼」はもともと魂が死んでいたのだ。希望もなければ絶望もない。ただ必要最低限の事をして、心臓を動かしているだけのイキモノ。その人は彼の肉体しか救うことはできなかった。


     街の外側にそびえたつ高い柵を見上げ、「彼」は何をするでもなくただそこに居た。漆黒の鴉は灰色の空を背負って旋廻するが、決して鳴くことはない。ここはどこだろう。随分遠い場所に来てしまった。不安に心を駆られることもなく、ただぼんやりと「彼」はそこにいる。
    「ねえ、ここはどこか、知ってる?」
     突然その場に響いた新しい声に、「彼」は声の主へと視線を移す。灰色の世界の中でも、その人の淡い銀髪は輝いていた。長い前髪が隠してしまって目元はわからない。けれどもほんのわずかに口元は微笑んでいるように見えた。灰色のローブの前を左手で手繰り合わせており、優しく風が吹けば緑色のシンプルなワンピースが隙間から垣間見えた。
    「わからない。君は?」
    「私も知らないの。でも、ここはとってもさびしい場所ね」
     さびしい場所。彼女の発したその言葉の意味に、「彼」は首を傾げた。さびしいなんて感情は「彼」にはわからないのだから、理解できなくて当然なのだが。それを彼女は慣れだと勝手に解釈し、音をさせずに歩み寄る。彼女の口に浮かぶ笑みはとても綺麗な笑みとは思えなかった。
    「――貴方、もうすぐ死ぬわよ」
  • 6 比翼鳥 id:/51hzj..

    2012-12-28(金) 18:33:11 [削除依頼]

     どのくらい時間が経ったのだろう。ようやく思考が成り立つまでに随分時間を浪費したように「彼」は感じていた。それはあくまで「彼」の感覚であって、もしかするとたった一分や二分、数秒だったかもしれない。けれども「彼」には一時間以上たったように、重く感じた。
    「へえ。死ぬのは恐ろしい?」
     お前のような人形でもか、そう尋ねたようだった。人形でも、始めから心は死んでいたとしても、死ぬのは怖いのか、と。軽蔑のような言い草には動揺することもなく、ただ「彼」は彼女の歪んだ口元を見ていた。
    「……」
    「彼」が何か言いかけた時、疾風が二人の間を駆け抜けた。舞い上がる長い銀髪。「彼」の浅黄色の瞳に、柘榴石(ガーネット)のような深紅が映る。その瞳は確かに嘲笑の色を浮かべていた。
    「残された時間をせいぜい生きなさい」
     反響するその言葉を残し、彼女はその場を後にした。茫然と立っている「彼」の頭に浮かぶ言葉はただ一つ――。自分は死ぬ。
     それならばいっそ、ここから旅に出よう。どうせ死ぬなら、他人と同じようにここで骸になるより、違った生き方をしてみたいというものだ。
  • 7 比翼鳥 id:/51hzj..

    2012-12-28(金) 18:40:57 [削除依頼]
     「彼」は何も持たず、身一つで来た道と反対方向へ進んでいった。濃霧が辺りを覆い尽くしているその道を歩んでいく。やがて「彼」の劣化した姿も薄紫の闇へと霞み、消えていった。
     誰もいない。生き物の気配のない空間がまた一つ、そこに広がった。
  • 8 比翼鳥 id:/51hzj..

    2012-12-28(金) 18:41:36 [削除依頼]

     端の擦り切れたジーンズに、よれよれのジャケットを羽織った青年が村に入れば、すぐに噂になった。というのもその村は複数の大きな山の渓谷にあり、訪れる人もいなければ出ていく人もいない。たまに霧の晴れた日に頭上を飛び交う戦闘機が発見してしまう程度だ。門外不出の村は人々に語り継がれるうちに伝説の村として形を成し、いくつもの地域を駆け回るうちに、妖怪が出る村だの、住人は皆幽霊だの、馬鹿げた噂まで立つようになった。
     村人はもともと一つの氏族から枝分かれし、人口を増やしてきたので、皆血縁といえば血縁であり、家族のようなもの。他人のような気がしなければ良心が疼くのか、村全体が一つの家族のように成り立っていた。霧の向こうの村は、まさに争いの無い平和で長閑な村だったのである。しかし、その雰囲気をイメージできないのは、やはり濃密な薄紫の霧が常に立ち込めていたからかもしれない。
  • 9 比翼鳥 id:/aI4SEo1

    2013-02-10(日) 10:40:08 [削除依頼]

     飛石に佇んでいた噂の青年は、その浅黄色の瞳をうかがわしそうに細め、振り返った。視線の先の紫立つ霧からうっすらと何者かが姿を現す。それは、腰の曲がった老人だった。
    「やあ御若い人。どうしてこの街にやってきたのかね?」
     細い川を渡りきって、丸い苔の生えた切り株に腰かけた「彼」は、老人から差し出された湯呑に入った透明色の飲み物をすすった。温かいな、と両手で包み込む。
    「とある少女に――貴方は死ぬ、と言われました」
    「ほう」
     老人は興味深そうに「彼」を覗きこんだ。淡々とした口調と浅黄色の瞳でどこを見るでもなく「彼」は続きを言う。
    「どうせ死ぬなら、と」
     その横顔を老人は意味ありげに見ていたが、やがてふっと口を緩ませた。ちょろちょろとたどたどしい水音が辺りに響いた。静謐な山奥の一角に老人の声が反響する。
    「……そうか。君はあの子にあったのか」
    「あの子?」「彼」の問いには答えることなく、老人は尋ねる。
    「――バンシーという妖精を、知っているかね?」
    「いえ」聞き覚えのない名だった。妖精、と言われるとますます解らない。そんな幻想的な存在など考えたこともなかった。
    「死を予告する妖精さ。彼女はそのバンシーと人の間生まれた子供。だから、人の死を予告することができる」
    「だから」納得して何か言いかけた彼を留め、老人はなお云い募った。
    「いや、それだけじゃないんだよ。彼女は、いたずらっ子でねえ。最近街の人に会うたびに、もうすぐ死ぬもうすぐ死ぬと言い続けているんだよ」
    「へ?」間が抜けて思わず尋ね返した「彼」は浅黄色の瞳を老人にまっすぐ向けた。
    「君にも出会いがてらにいったんだろうさ。彼女にすれば挨拶なんだろう。もっとも、永遠とも呼べるほどの長い時間生きられる妖精の血をひいているんだから、彼女もまた長い長い道を歩むことになるだろう。ならば、人の一生なんて、「もうすぐ」と呼べるほど短いものかもしれないね」
     その論理に納得して「彼」は飲み物をぐっと喉に入れた。ほっとしたのか緊張していた筋肉がゆるむ、身体が脱力していく。その様子をまるで我が子を見守る親のように老人は眺めていた。
  • 10 ミシシッピ$¥423 id:q510Nmt0

    2013-02-10(日) 16:02:16 [削除依頼]
    面白いです!
    なんか、独特の世界観というか・・・
    これからも頑張って下さい(^^
  • 11 比翼鳥 id:/aI4SEo1

    2013-02-10(日) 21:07:34 [削除依頼]
    >ミシシッピ$¥423 さん
    おお! こんな愚作に初コメありがとうございます。
    亀進行ですがのろのろ頑張りますww
  • 12 ミシシッピ$¥423 id:Umlmv1U1

    2013-02-11(月) 16:28:19 [削除依頼]
    >11 ミシシッピ$423だと長いので ミシシッピだけで良いですよ(^^
  • 13 ミシシッピ$¥423 id:.Ih8w.t1

    2013-03-06(水) 18:59:12 [削除依頼]
    やっぱり、文章かっこいい・・・・!!!
    「比翼鳥」って、中国(?)の例え言葉(?)の
    仲がいい様子って意味ですよね?
    あれ?中国でしたっけ?うろ覚えですいません(^^;
  • 14 比翼鳥 id:KzhJDzA0

    2013-03-11(月) 21:07:50 [削除依頼]
    >ミシシッピさん
    ええ。よく御存じですね(^^
    更新遅くてあれなんですがww
  • 15 比翼鳥 id:KzhJDzA0

    2013-03-11(月) 21:26:16 [削除依頼]
    数日後――。
     阿鼻叫喚の地獄絵とは、これのことだろうか。
     ぼんやりとした頭で「彼」は村の惨状を眺めていた。道端にごろごろと転がるのは石ではなく無数の屍。足の置場さえないぐらいのそれらをまたぐたび、ああ自分もあと少しでこうなるような気がしていた。
     なぜだろうか。
     神がいるのなら――なんて、無力で儚い叫びだろう。でもそう罵らずにはいられない。この幸福な村の留め具が外れたのはいつだったんだろうか。それは、やはり自分の存在があった故だったのだろうか。結局己は不幸の根源にしか成りえなかったのだろうか。
     川のすぐそばに倒れていた人影があの老人だと気付き、「彼」は足をとめた。血の気の無い肌の色を見れば、どうなっているかなど一目瞭然である。
    「おじいさん」
     名前すら聞かなかった。でも確かにこの胸中で渦巻き己を締め付ける痛みは何なのだろう。草にひれ伏し、もう自分の声はその人に届くことはない。そう理解すればするほど、それらは一層反響して――。
    「っ」
     頬に伝う熱いものを拭った瞬間、彼の心は砕けた。
    「あ、あ、あぁああああああああああああああああああああ!」
     それは絶叫というよりは咆哮だったかもしれない。「彼」は気付いた。初めて触れた。いや、凍りついていた心が溶けたと言った方が正しいかもしれない。死なないと聞いた時のほっとした感情、今痛烈に締め付ける悲しさという感情、それらが何を指示していたのかをやっと理解したのである。
    「く、ぐあっ、あぁ……」
     そして彼もまた地にひれ伏した。だんだんと霞んでいく視界の中――彼は最期にその人を見つけた気がした。その人は哀しげに口元を歪め――確かに笑っていた。

     そして、死臭の漂う“マルヴ”はまた広がっていくのだ。

    「――だから言ったじゃない」
     人気のない屋敷のロビーの広間に突如無数の銀箔とともに姿を現した少女は、誰に届くでもないコマドリのような声と瞳で、辺りを見回した。
    「『貴方、もうすぐ死ぬわよ』って」
  • 16 ミシシッピ$¥423 id:kcglMd3.

    2013-03-12(火) 18:50:34 [削除依頼]
    やったー!更新されている☆
    続きが気になります(・・
  • 17 ミシシッピ$¥423 id:GMInFzQ1

    2013-05-12(日) 18:32:36 [削除依頼]
    あ、ていうか主人公死んじゃったから
    終わりですよね。
    16<勘違いしててすいませんww
  • 18 比翼鳥 id:xuUGjQ.1

    2013-05-14(火) 21:00:36 [削除依頼]
    >ミシシッピさん
    いえ、終わってないんですよww 実は。更新遅いだけですww
  • 19 比翼鳥 id:xuUGjQ.1

    2013-05-14(火) 21:16:04 [削除依頼]
    第一章 脚本家は悲劇を歓ぶ

    「ねえ、噂。聞いた?」
    「聞いた聞いた〜。女の子の話でしょ?」
    「美少女、なんだってさ。見てみたいよね」
    「この街にいるならいつか会えるでしょ」

     人の噂というのは本当に拡散するのもあっという間で、彼女が辿り着くより先に、彼女がその街を訪れるという事実は広まっていた。噂の影響力というのも馬鹿に出来ない。いつの間にか、それが真実と入れ替わっている可能性もあるのだ。
    「お譲ちゃん、一人かい?」
    「……」
     陽気な男が店の窓から少女に声をかけた。葉巻煙草をくわえ、笑いながら手招きする。昼間の温かい光が街中を照らしていた。
    「見たところ、この町の住民じゃないね? どこから来たんだい?」
    「……」
     少女は黙って西の方向を指さした。はるか遠くにぼんやりと映る山並みの向こうを目を細めて男は眺め、おだやかに笑った。何があるのか悟ったような表情だった。
    「……そうか」
     少女は話が終わったと言わんばかりに足を動かし始める。フードの付いたマントが柔らかく揺れた。活気のある街中に一人、長い銀髪の美しい少女はまるで浮かんでいるようだった。周りの景色と溶け込むことができず。周りの幸せそうな情景の一部に馴染むことができず。
     そんな少女を一瞬で街の中の一場面に引きこんでしまったのは、まだ幼い少年だった。
    「わっ……」
     路地を曲がるなり早い勢いで子供が少女にぶつかった。思わず後ろに倒れる少女に驚き謝って、少年は手を差し伸べた。
    「ごめんなさい。お姉ちゃん」
     純粋なあどけない青い瞳。光の角度で黄金色にも見える明るい茶髪。年をとればたいそう美しい容姿になるであろうと思わずにはいられない。
    「ありがとう」
     小さな声で少女は礼を述べた。
    「あらあら! もう、ごめんなさいね」
     母親らしき人物がやっと追い付いたのだろう、息を切らしながらも少年の肩にしっかりと手を置いて言った。首を振る少女に笑いかけ、良かったら家に寄ってくださいな、と言った。
    「お姉ちゃん行こう」
     小さな子供に手を引かれ、彼女はその場を後にした。
     狂ったシナリオが踊りだす、教会の鐘を鳴らすように。
  • 20 ミシシッピ$¥423 id:7oAWuhl.

    2013-06-09(日) 14:50:37 [削除依頼]
    >17で言ったこと忘れて下さい!! ていうか、スイマセンデシタ!! もう、全力で>17の書き込みをした自分を殴りたいw 新章ですね!はやくも気になる少女が・・・! なんか、少年とお母さんの雰囲気が好き・・・(^^
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