何も知らない3コメント

1 盛口 id:vt-v8cnAmo0

2012-12-10(月) 20:13:10 [削除依頼]
東の空はすっかり明るくなって、鳥たちの明るい声が風と共に響き渡る頃。
男はネクタイを締め、スーツのシワを整え、ドアを少し開けると、振り返って一言。
「じゃあ、行ってくるよ」
少し待っても返事がないのを、特に気にも留める様子もなく、そのまま外へ出て行ってしまった。
玄関から丁度真っすぐ手前のリビングでは、ジャアジャアと水の音が立ち、カタカタと食器の音が聞こえる。中では今まさに蛇口から水を流し、泡立たせたスポンジで皿についた汚れを洗う、エプロン姿の女がいる。
無言でシンクに溜まった食器の全てを横の食器棚に返すと、蛇口を捻り、水を止め、手を振って水滴を払った後に、足元のタオルで軽く拭い、皿洗いを終えた。エプロンを外し、傍の机に放り置くと、隣の寝室へと向かう。化粧鏡の前に正座し、引き出しから化粧道具を取り出して、台の上に並べ立てる。それらを器用に使い分けながら、眉を染め、顔を塗り、爪を撫でる。
「安藤さんと何しよう」
女の頭はそれでいっぱいだった。精一杯のおめかしで、彼を喜ばせてやりたかった。それは妻であることを忘れたいがためでもあった。化粧を終えると、そのまま道具を片付けて、パジャマの胸ポケットから携帯電話を取り出した。そのまま彼−安藤−からのコールを待った。
  • 2 盛口 id:vt-v8cnAmo0

    2012-12-10(月) 20:26:28 [削除依頼]
    窓際で、男はただモニターを凝視しながら、キーボードを打っていた。慣れた手つきで、まるで流れるように、なめらかに文字が羅列されていくのを見つめつつ、たまに校正を挟んで作業を続ける。今朝は寒く、社内はいい具合に暖房が効いている為か、汗が滴ることはない。作業はスムーズに進んでいく。男は少し手を止めた。窓の外で小鳥の囀りが聞こえた気がした。周りはキーボードの音ばかりが響く。空はどこまでも青かった。
  • 3 盛口 id:vt-v8cnAmo0

    2012-12-10(月) 20:49:14 [削除依頼]
    数分前のことだ。化粧鏡の前で今か今かとコールを待ち侘びていたら、そこに突然着信音が鳴り響いた。すぐさま携帯に手を伸ばし、食い入るように液晶画面を見つめ、安藤の文字を認めると、受信ボタンを押し、震える手で耳に押し当てた。
    「もしもし、加奈さんですか?」
    その声は紛れも無く安藤のものだった。
    「ええ、私よ、加奈よ」
    若干声が震えているのを気にしつつ、加奈は答えた。
    「ああ、よかった、今お暇でしたか?」
    「ええ、ええ、そりゃもう。主人も行ってしまいましたし、随分と暇しておりました」
    「そうですか、私も丁度暇してましてね、よければ今からどうですか?」
    「あら、お仕事は大丈夫なの? 私はいつでもよろしくてよ」
    「ええ、大丈夫です。今日はいつもより早く済みまして。近くのカフェで待ってます、場所は……」
    加奈は慌てて台所から紙と鉛筆を持ち出して、安藤の言葉を復唱しながらそれを書き写した。タクシーを呼び、以前安藤から貰ったお気に入りの革製鞄を手に持って、今彼が待つというカフェへと向かっている。
コメントを投稿する
名前必須

投稿内容必須

残り文字

投稿前の確認事項
  • 掲示板ガイドを守っていますか?
  • 個人特定できるような内容ではありませんか?
  • 他人を不快にさせる内容ではありませんか?

このスレッドの更新通知を受け取ろう!

ログインしてお気に入りに登録すると、
このスレッドの更新通知が受け取れます。

お気に入り更新履歴設定

お気に入りはありません

閲覧履歴

  • 最近見たスレッドはありません

キャスフィへのご意見・ご感想

貴重なご意見
ありがとうございました!

今後ともキャスフィを
よろしくお願い申し上げます。

※こちらから削除依頼は受け付けておりません。ご了承ください。もし依頼された場合、こちらからの削除対応はいたしかねます。
※また大変恐縮ではございますが、個々のご意見にお返事できないことを予めご了承ください。

ログイン

会員登録するとお気に入りに登録したスレッドの更新通知をメールで受け取ることができます。

お気に入り更新履歴設定

お気に入りはありません
閲覧履歴
  • 最近見たスレッドはありません