秋雨うつろい【四季?】25コメント

1 よみ id:AyPtN4P/

2012-11-29(木) 21:59:41 [削除依頼]

 まだ館内に残っている生徒は、私と彼女だけになっていた。揃って貸出手続きを済ませた際に、図書カードの学年と名前を盗み見た。『中等部三年 志摩文乃』。
 あぁ、この子が。あの志摩文乃か。
 私は驚きつつも、深く納得した。彼女の名前は有名だ。学年で知らない者はいない。私を含め、彼女の顔と名前が一致していない者は多かったけれど。
「では、ありがとうございました。葛城さん」
 志摩文乃はさりげなく私の名を呼んだ。図書カードの氏名欄を確認したのは、彼女も同じだったらしい。その呼びかけにかすかな親しみを感じて、私は内心嬉しくなった。
「それでは、また」
「ええ、また。さようなら」
「さようなら」
 図書館を出ると、雨の匂いと金木犀の香りが同時に鼻を掠めた。水気を帯びた甘い香り。雨は朝から変わらぬ調子で一日中降り続けていた。
 志摩さんは正門の方向へ足早に去っていった。赤い傘が、灰色の景色に鮮やかだった。
 秋雨、金木犀、赤い傘。
 志摩さんのことを思い返すたび、私の眼裏(まなうら)に浮かぶ光景は、このときに強く印象づけられたものだ。私の記憶の中の彼女は、甘くひんやりした雨の気配に彩られている。綺麗で、懐かしくて、どことなく物哀しい、秋雨の気配に。

――【本文抜粋】

*秋雨うつろい
  • 6 よみ id:tEQxOYa0

    2012-12-02(日) 09:25:48 [削除依頼]
    >>5  そんなときに考えるのは、図書館のことだ。図書館まで行けば息が深く吸い込める。高い書棚と、行き交う人の無関心と、心休まる静けさが、私を匿(かくま)ってくれる気がする。  人の流れが途切れた。教室にはもう私しかいない。  私はゆっくりと立ち上がる。少し、息をするのが楽になった。降りしきる雨音が快い音楽のように耳に染み込む。  階段には金木犀の香りが漂っていた。金木犀の季節は短い。たっぷりと熟した果実のような甘い香りは、秋雨が降るたびに薄らぐ。季節は雨によってうつろい、深まってゆく。  ふと、赤い傘が浮かんだ。香りの記憶だ。金木犀の香りと雨の匂い。遠ざかる赤い傘。 「私、あれが一番好きな小説です」  サガンを胸に抱え、可憐に微笑む少女の姿を思い出した。  彼女は今日もいるだろうか。  図書館への道のりを辿りつつ、私は志摩さんに会えることを期待した。昨日の今日だから来るかどうか分からないけど、あの綺麗な子と顔見知りになれたという事実だけで十分だった。図書館に行く新しい楽しみができた。  放課後に図書館に寄るのは日課だった。書棚と書棚の間を歩き回っているうちに、教室の人いきれでぼんやりとしていた頭の霧が晴れ、気持ちは落ち着きを取り戻し、身体の内側に静寂が満ちてくる。家に帰ったって誰もいないし、部活もしていないから、私は放課後の大部分を図書館で過ごすことにしている。
  • 7 よみ id:tEQxOYa0

    2012-12-02(日) 09:33:41 [削除依頼]
    >>6  学校の図書館は、中等部と高等部のそれぞれの校舎の間に位置していて、校内の敷地のほぼ真ん中にある。広さも蔵書数もかなりのものだ。もちろん、中等部の生徒も高等部の生徒も分け隔てなく利用できる。  背の高い書棚が通路を挟んで壁のようにそびえ立ち、奥まで連なっている。木のテーブルや小さな椅子や書見台が通路のあちこちに置かれ、読書灯までしつらえてあった。  私が**学園を目指したのも、この図書館に魅せられたからというのが大きい。地元の中高一貫校で、こんなに恵まれた図書館があるのは**学園だけだった。自宅から徒歩圏内というアクセスのよさも志望理由の一つだ。私の家から学校へは歩いて十分もかからない。学区の中学校よりも近い。  私は目標を**学園一本に絞り、受験に臨(のぞ)んだ結果、合格した。それが三年前のことだ。
  • 8 藍非 id:xJVse6O0

    2012-12-02(日) 10:00:19 [削除依頼]
    「オーラって?」

    「他の人には無い、強い意志を持っている」

    「徠はなんで笑うの?」

    「君はなんで笑わないんだ?」

    「別にいいじゃない」

    「じゃあ僕が笑っても別にいいだろ」

    「誰かが笑っているのを見ると、イライラする」

    「君は一回も笑った事が無いのか?」

    「10年前から笑ってない」

    「昔、空來に何があったんだ?」
  • 9 よみ id:tEQxOYa0

    2012-12-02(日) 10:33:38 [削除依頼]
    >藍非さん
    投稿するスレッドをお間違えではありませんか?
  • 10 よみ id:tEQxOYa0

    2012-12-02(日) 21:32:44 [削除依頼]
    >>7  放課後の図書館はひっそりとしている。ざっと見渡したところ、志摩さんの姿はなかった。ちょっと落胆したものの、まだ早い時間だし、予想通りだった。彼女は閉館する直前に来ることが多い。  私はいつもの席に腰かけた。太い柱が入口からの目隠しになる奥まった席だ。右手に西向きの窓、左手に画集の書棚がある。  勉強中の生徒がノートにペンを走らせる音、本のページをめくる乾いた音、誰かの控えめな咳払い。そんなささやかな音が作り出す沈黙の中、読みかけの小説を開く。  この短編を読み終えたら、テスト勉強をしよう。  こんなにのんびりしているけど、中間テストは目前まで迫っていた。今日は金曜日。中間テストは来週の月曜日からだ。
  • 11 よみ id:tEQxOYa0

    2012-12-02(日) 21:36:01 [削除依頼]
    >>10  二時間後、閉館のメロディーが流れた。図書館は五時閉館だ。貸出カウンターに向かう途中の文芸書の棚で、華奢な背中を見つけた。  志摩さんだった。わずかに首を傾けた姿勢で、棚の前をゆっくりと移動している。 「あら、こんばんは」  私の視線に気づいたのか、志摩さんは振り返った。柔らかな微笑みを浮かべ、 「この時間にいらっしゃることが多いんですか?」と尋ねた。 「え、ええ。だいたいは」  実は二時間前からいました、とは言えない。私はあいまいに頷いた。その拍子に、彼女が手にしている本が目に入った。 「あっ、これ……」  私は思わず声を上げた。 「この作家、好きなんです。もしかしてご存じですか?」  志摩さんは持っていた本を胸の前に掲げた。  私も好きな作家の新刊だ。チェスを題材にしたひそやかな物語だ。透明な哀しみが根底に流れている。上質なファンタジーだった。 「それ、何日か前に読んだわ」 「えっ、本当ですか。どうでした?」  志摩さんは明らかに嬉しそうな表情になった。どうやら、私と彼女の本の趣味は似ているらしい。 「いい本だったわよ。図書館で借りて、読み終わってすぐに本屋で買い求めたくらい。手許に置いて、何度も読み返したくなるの」 「それはいい小説の証明ですね」 「そうそう。それに、読んでいるうちにチェスが指したくてたまらなくなったから、チェスの教則本も買ったの。まだ全然指せないんだけど」 「わあ、そういうのって素敵。じゃあ、私もチェスの本と一緒に読みます」  志摩さんは屈託のない声で笑った。 「葛城さん、本の紹介が上手ですね。さっそく読みたくなりました」  カウンターの列に並んでいる間、好きな本や作家や小説のジャンルについての話が弾んだ。特になんてことないやりとりだったけれど、彼女との共通点がいくつか見つかったことが嬉しかった。  この日も、彼女の赤い傘を見送った。夜が近づくと、金木犀はひときわ濃く匂う。志摩さんが細い肩に差しかけた傘は、一輪の花のようだった。赤い花は揺れながら遠のいて、正門を出たところで見えなくなった。
  • 12 よみ id:tEQxOYa0

    2012-12-02(日) 21:37:45 [削除依頼]
    >>11  以来、私は志摩さんと共通の趣味である読書の話をするようになった。彼女が図書館に姿を見せるのは、決まって閉館寸前だったから、そう長く話すことはなかった。  志摩さんは頭の回転が速く、打てば響くような反応が返ってきた。私がまだ読んだことのない面白い小説もたくさん教えてくれた。それでいて、豊富な読書量を自慢するようなところはまるでない。あくまでさりげなく、「でしたら、この本もお好きだと思いますよ」と秘密めいた語調でタイトルを囁くのだ。彼女の澄んだ声にかかれば、どんな題名も魅力的なリズムを持った。私はいくつかの題名を記憶に刻みつけ、彼女と次に会うまでに読んでおくのが習慣となった。紹介してもらった本は私の琴線にことごとく触れ、志摩さんの読み手としてたしかさをすっかり信頼するようになったのだった。
  • 13 よみ id:7k4sNmo0

    2012-12-05(水) 17:27:26 [削除依頼]
    >>12  志摩さんにチェスの小説を薦めた日の、翌週のことだ。  月曜から二日間続いた中間テストの出来はまずまずだった。いつも通りの手ごたえだ。予想外のミスをしでかしていない限り、成績は現状維持だろう。  その週の金曜日にテストの結果が出た。廊下の突き当たりの壁に順位表が貼り出されるのだ。  順位表には三十位までの成績優秀者の名前と点数が載っている。朝一にこれが貼られ、その日のうちに個人の成績表が配られる。生徒数は二百人余り。私はだいたい五十番台の成績だから、順位表に名前が載ることはなかった。  順位表の前には人だかりができている。私も後ろの方から覗き込んだ。一番上の名前はわざわざ見なくても分かったが、どうしても確認してしまう。  一位 一組 志摩文乃  見慣れた名前は、今回も誇り高く首位を飾っていた。みな予想がついていた結果だが、それでも口々に感想を述べる。 「相変わらず、ぶっちぎりだよなぁ」 「見ろよ。二位の斎藤との点差!」 「全科目九十五点超えじゃない?」 「うわ、英語と国語は百点だって」  順位表には総合成績表と科目別成績表の二種類がある。総合一位の志摩文乃はどの科目でもトップの成績を取っていた。  そう、志摩さんが有名な理由はこれだった。彼女は中等部の最初のテストから頑なに一位を守り続けている。不動の学年首席だった。
  • 14 よみ id:7k4sNmo0

    2012-12-05(水) 17:29:56 [削除依頼]
    >>13 「ねえ、保健室に『おめでとうございまーす』って言いに行こっか」  最初はただ感心していただけの群衆から、皮肉げな声が洩れた。誰が口にしたのかは分からない。その声はあからさまな棘(とげ)を持って、集団の内に潜む悪意を誘った。 「あの子ってまだ保健室にいるの?」 「いるよ。あたし、こないだ通りかかったときに見た」 「いいよなぁ、特待生さまは。トップの成績さえ取り続ければ、授業の出席免除だもんな」  私は腕をさすった。急に、肌に触れる制服の冷たさを感じた。 「羨ましいよねえ。あたしだって学年一位だったら、保健室でぬくぬくしてられたのに」 「やだー。言いすぎだって」  きゃらきゃらと笑い合う同級生たちに背を向け、私は教室に向かった。
  • 15 よみ id:7k4sNmo0

    2012-12-05(水) 17:32:58 [削除依頼]
    >>14  志摩さんが有名なのは特待生というだけではない。もう一つの理由があった。テストでは必ず首位を取るが、教室に足を踏み入れたことは一度もないのだ。彼女は一年生の頃から保健室登校をしている。  彼女がどうして不登校ではなく保健室登校を選んだのかは知らない。彼女は、入学当初から、うちの学校にいるのが勿体ないくらいの成績をマークした。**学園はそれなりに偏差値の高い私立校だが、トップ校というほどではない。彼女はもっと上の学校でも十分にやっていけるだけの学力を持っていた。それでも、彼女は転校することもなく、不登校になることもなく、この**学園の特待生に収まっているのだ。学園側が特例とも言える保健室登校を黙認している理由はそれだった。  他の生徒の反感を買うのは分かる。私だって羨ましいと思ったことが何度もある。でも、それは志摩文乃の名前だけを知っていた頃のことだ。  私は図書館で出会った志摩さんに強く惹かれていた。それは恋愛感情ではなくて、綺麗で愛らしいものを目にしたときに感じる陶酔であり、憧憬だった。私は彼女に憧れていた。  志摩さんに惹かれた理由は、少しだけ自分と似たものを感じたからだ。  彼女が教室に入らない――いや、入れないのは、なにか神経的な理由だと風の噂で聞いたことがある。私は現場を見ていないけれど、入学式の日に教室の前で倒れたらしい。助け起こした生徒が「顔が紙みたいに真っ白だった」と語ったそうだ。志摩さんは元から色白だけど、一目で尋常な体調じゃないことが分かったと言う。この話を耳にしたとき、私は疑問でも同情でもなく、親近感を覚えた。  あぁ、私以外にも教室が苦手な人がいるのか。それも、私以上に。
  • 16 よみ id:7k4sNmo0

    2012-12-05(水) 17:35:23 [削除依頼]
    >>15  それでも、彼女は私よりもずっと潔く、他人を寄せつけない空気を纏っていた。そこに惹きつけられた。図書館で時折見かける彼女は、図書館の静寂よりもいっそう深い静けさに包まれていた。あのとき、書棚の前で手が届かない本に困っていなければ、とても話しかけることはできなかった。彼女には馴れ馴れしく声をかけるのがためらわれるような気品がある。  ただ、私は図書館以外で志摩さんの姿を見ようとは思わなかった。  閉館間際の図書館で見る彼女が好きだったのだ。ひそかな憧れを抱いて、その姿を眺めていられれば満足だった。けして慣れ合いにはなりたくなかった。  つまり、私にとって、彼女は美しい偶像なのだ。閉館のメロディーが鳴っているほんの束の間、好きな本の話をするだけで満足してしまう。保健室の彼女は、ある意味では素の彼女だろう。私は一定の距離を置いて、憧れの人を眺めていたかった。
  • 17 よみ id:iHTAG.g/

    2012-12-15(土) 00:34:07 [削除依頼]
    >>16  思った通り、私の成績は現状維持だった。テストも一区切りついたことだし、この日の放課後は寄り道をした。早い時間に図書館を出て、近所の美術館に行った。  家から歩いて五分ほどの距離にある美術館だ。幼い頃、祖父がよく連れてきてくれた。閑静な住宅街にひっそりと建っている。この一帯は古い屋敷が立ち並び、落ち着いた空気を醸し出している。  地元の名士の屋敷を改築したという美術館は、本館が風情ある日本建築、別館がこじんまりした洋館で、どちらも長い年月に洗われた建物だけが持つ、静かな安らぎと高潔さを備えていた。本館には見事な日本庭園があり、別館には居心地のよいティールームがある。展示品以外のところでも、存分に楽しませてくれる美術館だ。  これだけ近いと、散歩の途中に寄ることが多い。そのため、私は年間パスを持っている。  平日の夕方の来館者は少ない。ゆったりと心置きなく見ることができた。  今日は常設展だ。本館には、所蔵品の日本画が中心に展示されている。充実した美人画のコレクションが見ものだ。  私は、上村松園の美人画に特に惹かれる。初めて美術館を訪れた日、荘園の絵から目が離せなくなった。白く浮かび上がる肌、凛と一点を見つめる眼差し、清澄な気品。一目で魅せられた。荘園の作品を前にすると、背筋を伸ばし、襟を正さずにはいられなくなる。その引き締まった緊張感が心地よい。
  • 18 よみ id:iHTAG.g/

    2012-12-15(土) 00:38:00 [削除依頼]
    >>17  子供のときからずっと好きな絵を眺めていると、祖父が生きていた頃のことを思い出す。  優しい祖父だった。私といとこ、二人の孫を連れて、綺麗なものを訪ねるのが好きだった。繋いだ大きな手は温かく、祖父の手を放しさえしなければ、なにも怖いことは起きないのだと、子供の私は本気で信じていた。この上なく平和で穏やかな居場所だった。展覧会の帰りに、別館のティールームでケーキやアイスクリームを食べるのも楽しみだった。  芸術好きの祖父が遊びに連れていってくれるのは、もっぱら美術館だった。私といとこは二人とも内向的な性質だから、騒がしく館内を走り回るような真似はしなかった。美術館の静謐(せいひつ)な空気に安心感を覚えるのは、一心に展示品を見つめていた当時の記憶がよみがえるからかもしれない。  母の仕事の都合で、幼い頃は母の実家に預けられることが多かった。母の実家は、祖父の代から会社を経営しており、いとこの母親である伯母が婿養子(むこようし)を取って会社を継いだ。同い年のいとことはきょうだい同然に育った。友人のいない私が心を許せる唯一の相手だ。祖父が亡くなってからも、その関係は変わらない。
  • 19 よみ id:iHTAG.g/

    2012-12-15(土) 00:43:43 [削除依頼]
    >>18  本館の日本画を見たあとは、別館の西洋画や硝子(がらす)製の美術品を眺め、ティールームで熱い紅茶を飲んだ。庭園には出なかった。なんとなく雲行きが怪しかったからだ。一雨来そうな空模様だった。  雨が降らないうちに帰ろうと思ったのに、結局閉館の時間まで寛(くつろ)いでしまった。窓のないティールームでは、外の様子が見えないし、物音も耳に入らなかった。  美術館を出ると、雨が降っていた。ざあざあと容赦なく、冷たい秋雨が降りしきっていた。西に傾きつつあるはずの太陽は姿を隠し、空を覆うのは暗い灰色の雲ばかりだ。  私は美術館の入り口に佇んだまま、止む気配のない雨を眺めた。往来に人通りはなく、隣家の気配は激しい雨音にかき消された。この世に私一人しかいないような気分になった。  こんな本格的な降りになるなんて思わなかった。昼までは晴れていたのに。傘も持っていなかった。  しっとりとした冷気が足元から忍び寄り、雨混じりの突風が吹きつけた。私は制服のスカートを押さえ、乱れた髪をかきあげた。  傘もなしに帰るには雨脚が強すぎる。でも、美術館はもう閉まってしまった。  仕方ない。走るか。  覚悟を決めて雨の中に駆け出そうとしたとき、 「葵(あおい)ちゃん」  聞き慣れた声で名前を呼ばれた。 「聡(さとし)くん」  美術館の前を、制服姿のいとこが通りかかった。 「すごい雨だね。傘、持ってないの?」  いとこ――聡くんは自分の紺色の傘をちょっと上げて、「入りなよ」と言った。その言葉に甘え、私は傘に入れてもらった。 「ありがとね、聡くん」 「ナイスタイミングだったみたいだね」 「あと二秒遅かったら走り出してたところよ」 「葵ちゃん、思い切りがよすぎるのもどうかと思うよ」  聡くんは苦笑した。 「走り出す前に、僕に電話しなよ。傘くらいすぐに持ってくるって」  美術館は、私の家からは歩いて五分ほどの距離だが、いとこの家からならもっと近い。歩いて一分もかからない。彼の家は、美術館の正面の邸宅だ。 「あぁ、それは思いつかなかった」 「思いついてよ。携帯鳴らすとかさ」 「だってそんなの迷惑じゃない」 「葵ちゃんが風邪引くよりずっといいよ」  やんわりとたしなめられた。  聡くんは家の門を開けた。話しているうちに着いてしまう。 「寄ってく? 今夜は母さん特製のビーフシチューなんだけど」 「行くわ」  即答した。料理上手な伯母のビーフシチューは絶品だ。 「言うと思った」  聡くんはくすくすとおかしそうに笑った。 「でも、ちょうどよかったよ。葵ちゃんに渡したいものもあったし」 「もう仕上がったの?」 「うん。今回は早めに書けたんだ」 「そう。楽しみね」  居間の灯りが窓から洩れている。潤んだ雨の景色の中にオレンジ色の光が滲(にじ)んでいた。
  • 20 よみ id:kEmYN9r.

    2012-12-19(水) 23:55:06 [削除依頼]
    >>17 ×初めて美術館を訪れた日、荘園の絵から目が離せなくなった。 ○初めて美術館を訪れた日、松園の絵から目が離せなくなった。 失礼しました。今さらですが、誤字の訂正です。 近いうちに続きをアップします。
  • 21 実柚*miyu id:6VJrOIo1

    2012-12-20(木) 00:21:09 [削除依頼]



      ふぁぃとですッ!!

     


     

     


      
  • 22 ちさ id:ez-hmK6BxC0

    2012-12-20(木) 07:38:37 [削除依頼]

    ひっそりがっつり読んでました(笑)

    やっぱりよみちゃんの文章は心が洗われるというか、すごくほっとした気分になれます
    読み進めれば進めるほどお話の世界にどっぷり浸かれて。
    早く続きが読みたくなる
    言葉足らずで説明下手くそでごめん(´`)

    このお話の雰囲気、すごくすきだなあ。
    よみちゃんのペースで更新がんばってください。・
  • 23 よみ id:rpcJnix/

    2012-12-20(木) 14:54:15 [削除依頼]
    >実柚*miyuさん
    ありがとうございます。
    引き続きお付き合いいただければ幸いです。
  • 24 よみ id:wD1Jafn.

    2012-12-20(木) 16:48:36 [削除依頼]
    >ちさ
    コメントありがとう!
    ちさちゃんが読んでくれてたなんて思わなかった!
    まだ誰にも見つかっていないだろうと思って、こそこそ更新してました(笑)

    わー、嬉しい感想をありがとう。心が洗われるなんてとっても嬉しい。
    物語世界にどっぷり浸れる文章は目標なので、舞い上がっちゃいます(笑)
    続きね!お待たせしていてごめんね!嬉しすぎるので気合入れて推敲します!

    今までで一番の難産だから、自分では不安が大きいんだけど、雰囲気が好きと言ってもらえるとほっとします。
    更新中のコメント、すごく励みになりました。どうもありがとう!
    最後まで見届けてもらえたら幸いです。
  • 25 よみ id:yYlWOlW0

    2013-02-03(日) 20:47:43 [削除依頼]
    >>19  食事のあと、聡くんが席を立った。自分の部屋に向かい、すぐに戻ってきた。手には大判の封筒を持っていた。 「はい。これ」  封筒の中身は聞かなくても分かった。 「ありがとう」  封筒を受け取った。腕にたしかな重みを感じた。 「今日の部活でこれを仕上げたの?」  食後のコーヒーを飲みながら、尋ねる。 「いや。完成したのはおとといだよ。今日はミーティングに顔を出しただけ」  聡くんはちらりと窓を見た。だいぶ勢いが弱まったものの、雨はまだ降っている。 「雨にうんざりした人から自由解散だったけどね」 「本当にゆるやかな部活よね」 「まあ、文芸部なんてそんなもんさ」  聡くんは肩をすくめ、コーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を入れた。彼は大の甘党だ。「文章を読んだり書いたりするには糖分が必要なんだ」とは言うものの、一杯のコーヒーにティースプーン山盛り五杯の砂糖は入れすぎだと思う。もはやコーヒーを飲む意味があるのかさえ分からない。それでも太らないのがずるい。いとこはわりとスマートで整った容姿をしている。 「ミーティングって言っても、決めることはほとんどないし、いつも通りお茶を飲んでお喋りしているだけなんだ」  私といとこは同じ学校に通っている。彼が所属している文芸部は、とにかく謎のベールに包まれている。部員が少ないし、部室の場所さえはっきりしないし、体験入部を受け付けていないのだ。正式入部したいとこに聞くと、「あぁ、一見さんお断りだからね」と意味不明な説明が返ってきた。部員の誰かの紹介がないと入部できないそうだ。
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