フラグデイズ4コメント

1 見習い id:vt-c3kNhkO.

2012-09-07(金) 21:37:15 [削除依頼]
真っ白い雲が空を覆っていた日だった。大きな泣き声を上げながら、雄太は帰ってきた。ガチャリとドアが開いた途端、その声が奥のリビングにまで届いた。驚いて出てきた母親の目に、泥だらけの五歳の少年の姿が飛び込んだ。
「どうしたの、こんなに汚して」
駆け寄って服の泥を掃う母親に、雄太はひくひく喉を震わせて言った。
「喧嘩したの」
「誰と?」
「亮太君」
亮太は近所に住む雄太の友達だ。
「亮太君と?」
「うん」
「どうして」
「分かんないよ、僕何も悪くない」
状況が掴めない。何があったというのだろう。
「とにかく、お風呂行きなさい、ね?」
このままではろくに話もできない。雄太の肩を掴むと、信子は優しい声でなだめながら、リビング手前の風呂場へと連れて行った。
  • 2 見習い id:vt-c3kNhkO.

    2012-09-07(金) 23:53:42 [削除依頼]
    母親の目→母親の信子の目

    風呂上がり。髪を乾かし、新しい服に着替えた雄太は、じっとリビングの机を見下ろしていた。幸い怪我はなかったようで、帰ってきた時の汚れの割に、風呂の時には泣き声も収まっていた。
    「落ち着いた?」
    冷たいお茶の入ったコップが差し出される。無言のまま、雄太はびくともしない。同じ姿勢のまま、椅子に座っている。涙をこらえているようにも見える。
    「何があったの?」
    傍の椅子に腰かけて、信子は問いた。
    「喧嘩したの」
    低い声で雄太は答える。
    「それはさっき聞いたわよ。どうして喧嘩したの?」
    「亮太君が先に手を出してきたの」
    亮太は雄太と同い年の男の子である。雄太とは大の仲良しで、いつも一緒に遊んでいた。お互い一番の親友の筈だった。
    「いきなり?」
    「うん」
    「本当に?」
    「うん」
    雄太が小さく頷く。仲良しの筈がどうしてだろう。一向に状況は掴めない。雄太の一方的な言いがかりかもしれない。信子は頭を巡らせる。
    「亮太君が嫌がることしたの?」
    「分かんないよ、本当にいきなりだもん」
    訴えかけるように、雄太が顔を上げた。泣きそうな目で、信子を見ている。
    「そう」
    自分は悪くないと雄太は思っているようだ。亮太のかんしゃくに本気で混乱している。嘘をついているようには見えない。
    「何も分からないのね」
    「うん」
    雄太が頷く。信子が話を聞いてくれたことに安心したらしい。すっかり落ち着いていた。
    「そっか」
    身を乗り出し、そっと雄太の頭を撫でる。信子が微笑むと、雄太もようやく笑顔になった。
    「もう痛くない?」
    「うん」
    元気な声が返る。
    「どんなことされたの?」
    「いきなり突き飛ばされたの」
    亮太が突き飛ばす様子を身振りで表現する。
    「雄太はどうしたの?」
    「僕は」
    雄太が押し黙った。
    「どうしたの?」
    少し怯えを含んだ目で信子を見ている。言いたいことは何となく掴めていたが、あえて答えを待った。
    「やり返した」
    「殴ったの?」
    「うん」
    小さな声で返す。他人に手を上げてはいけない。それは信子との約束だった。暫く間を空けた後で、
    「ごめんなさい」
    と小さく呟く。
    「そっか」
    もう一度頭を撫でる。雄太が不思議そうに信子を見つめた。
    「正直に話してくれたから赦す。でももうやっちゃ駄目よ、約束だからね」
    「うん」
    雄太の顔が明るくなる。信子に招かれて、彼女の膝の上に鎮座した。
    軽い取っ組み合いからエスカレートしたようだ。雄太を抱っこしながら信子は考えた。しかしどう解釈しても原因は思い浮かばない。信子の知る限り、亮太はいい子だった。いきなり手を出してくるような子供にも思えない。理由を伝えきれていないことも有り得る。
    雄太は疲れていたのか、いつの間にかぐっすりと寝息を立てて眠っていた。考えるのを中断すると、信子は立ち上がった。余ったお茶を一気にすすった。
  • 3 見習い id:vt-Kq0GFmm0

    2012-09-08(土) 14:21:26 [削除依頼]
    雄太はリビングの隣の寝室ですやすやと横になっていた。ほっと一息ついて、傍に座る。寝顔を見ているとまるでさっきまでの騒ぎが嘘のようだ。雄太の髪に触れながら、信子はくすりと笑った。まだ五歳だと言うのに、抱き上げると改めて我が子の成長を感じる。すっかり重くなってしまった。抱いたまま布団を敷くにも一苦労だ。だがその度に自分の身体が満更でもないことを感じて得意げになる。まだ二十八であることを実感できる。
    そんな雄太が友達に危害を加えられた。原因は不明。本人の話からも手がかりはなし。信子は悩んでいた。
    ふと奥の時計に目を遣る。針は四時を指している。雄太が帰ってきてから幾ら経過したのかは判らないが、その下の窓から差し込む日射しは赤みがかっている。それなりに経ってはいるようだ。
    信子はリビングへ移った。さっきシンクに置いたコップを取り上げ、軽く洗う。右の冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注ぐ。向かいの机に置き、椅子についた。
    リビングの戸が左に写る。手前の棚の上には電話機がある。それを信子は見つめる。
    電話をすべきか。無視はされないだろう。亮太の母親は知っている。子供が同じ幼稚園に通うので、自然に打ち解け合ったママ友である。雄太と亮太の仲同様、信頼はある。
    しかし子供同士の喧嘩に大人が口を挟むのもはばかられる。あくまで二人の問題であることは分かっている。何より相手に喧嘩を売っているようでためらわれる。
    亮太は彼女にどのように話したのだろう。それを彼女はどのように捉えているのだろう。ただの子供の喧嘩と言えばそれまでだが、それに関わる身としては不安が尽きない。
    お茶を一口飲む。考えられることは色々ある。雄太も亮太もまだ小さい。ささいなことでもトラブルに繋がる。しかしもし亮太の行動に理由がないとすれば……
    コップをがたんと置いて首を振った。流石にそれは考え過ぎだろう。信子は電話機へ向かった。じっとしていたのではどんどんマイナスな方向へ思考が流れてしまう。とにかく亮太がどんな話をしたのかだけでも聞いておかねば。信子は受話器を取った。
  • 4 見習い id:vt-Kq0GFmm0

    2012-09-08(土) 15:30:25 [削除依頼]
    ボタンを押して、番号を打っていく。本当に電話して良いものか心配はあったが、コールを鳴らすと相手への第一声を考える暇もなく、ガチャリと音がした。
    「はい、田辺ですが」
    女の他人行儀な声がした。間違いなく彼女の声。信子は一瞬戸惑っとしたが、少し間を置くと話しかけた。
    「もしもし、智子さん? 信子です」
    「あら、信子さん」
    智子の声が柔らかくなる。信子だと知って気を許したようだ。身構えている様子はない。相変わらずの陽気な声だ。
    「どうしたの?」
    「あ、いえ、その」
    思わず言葉が淀む。いざ相手を前にするとどう切り出すべきか迷う。
    「お元気?」
    当たり障りのない言葉を返す。
    「ええ、私は元気だけど」
    相手の怪訝な様子が伝わってくる。ろくに話す内容を考えなかったことを後悔した。
    「今お時間大丈夫?」
    意を決して本題に移る。
    「ええ、大丈夫だけど。どうしたの? 何か相談事?」
    相談事?と聞かれて信子は不思議に思った。あまりにも無警戒過ぎる。少しばかり不穏な空気が流れるものと思っていたが、その様子がない。もしかして亮太は何も話してないのだろうか。
    「ええ、その」
    調子を狂わされつつも続ける。
    「何?」
    「亮太君、帰ってる?」
    「ええ、帰ってるけど。亮太がどうかしたの?」
    「うん、実はね――」
    雄太から聞いた喧嘩の一部始終を信子は話した。その間智子は黙っていたが、亮太から何か聞いていないかと問われると、変わらない調子で答えた。
    「いいえ、何も聞いていないわ」
    「そう、話してないのね、亮太君」
    「そうね」
    「喧嘩の理由が分からないから、智子さんが何か聞いてたらと思って電話をかけたんだけど」
    弁解っぽくなっていることを感じつつ話す。
    「ごめんなさいね」
    「そんなこと」
    慌てて声を上げる。
    「雄太の話したことが全て本当だとは限らないし、だからその」
    「分かってるって」
    智子の軽い調子の声を聞き、信子ははっとした。
    「そんなに気を遣わなくても大丈夫よ。とりあえず私からも亮太に話を聞いておくわ。伝えてくれてありがとね」
    「じゃあ、そういうことで」
    と交わして電話が切れる。受話器を置き、智子とのやりとりを思い返して、変に慌てた自分を恥ずかしく思った。
    話を聞いてくれると言っていた。また後日智子から改めて詳細を聞けることだろう。肩の荷が降りたような気がして、信子は軽く溜息をついた。
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