をかしき部に在りて君は何を想うのか7コメント

1 toto id:20ejPMc0

2012-08-31(金) 22:30:35 [削除依頼]
 桜の花びらが舞う終末の日。
「何も新聞部を作る必要はなかった」
 と、神野は言った。

 消去。
 やはり、もっと前の話から始めたほうがいいだろう――
  • 2 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 22:32:07 [削除依頼]
     楽しかった夏休みも終わり、二学期が始まってしまった。嫌々ながらも久しぶりに袖を通す制服の、妙にかしこまった感触にも慣れてきた頃。つまりは夏休み明けから少し経った何度目かの放課後。放課後になれば新聞部の部室で下校時間になるまで暇を潰す。今日も今日とて、いつも通りだ。
     俺は、部室の窓から空を見ていた。夏の名残りを残すピーカン晴れの突き抜けるような青空が、やけに眩しい。思わず溜息が出てくる。そんな俺の吐息に、誰かが反応を示した。
    「二階堂、君は暇さえあれば溜息を吐いているね」
     暇さえあれば菓子をぼりぼりと食べている神野が言った。今日はマシュマロを食べているようだが、心底どうでもいい。
    「そういえばそうよね。あんたって暇さえあれば、はぁはぁはぁ溜息吐いてるわよね。なんかこの光景、どっかで見た事あるのよね」
     頬杖をついて暇そうにしている御堂が、ちらりと俺を一瞥してそんな事を言う。
    「だろう? こういうのを何と言うのだったかな。見た事もない光景なのに、どこか記憶にあるような……うーむ、確か――」
    「あたし知ってるわ! ソレ再放送の事でしょ!?」
    「そう! それだよ! 流石は御堂君だ。二階堂、君は再放送かい?」
     二人して訳の分からない事を言う。まぁ、何となく言わんとしている事は理解できるが。
    「ひょっとしてデジャヴの事を言ってんのか?」
    「ああ、それだよ! しかしデジャヴも再放送も似たようなモノだろう?」
     似て非なるものどころか、どう考えてもその二つは別物だと思った。
    「全然違うだろが!」
    「まぁまぁ二階堂。マシュマロと私の毛髪を記念に一本あげるから落ち着きたまえ」
     言って、それら二つを俺の机に置いてくる神野。行動から見るに、落ち着いた方がいいのは確実に神野だ。
    「いらねえよ……」
     俺はマシュマロと神野の毛髪一本を指で摘み、それをクズ入れに放り投げた。こんなに嬉しくない記念の品を贈呈されたのは初めてだった。街で無作為に配られているポケットティッシュよりも価値がない。
    「そういう訳で本日の戯れタイムを終了し、本題に入るとしよう」
     と、今までの流れの全てを神野がなかった事にした。長い前フリだった。
    「……んで、その本題ってのはなんだよ?」
     どうせ下らない事だろうが、一応訊いてみた。
    「ふむ、実はこの間、写真部の部長、明星あかね君からお願いをされたのだよ。活動に使用するカメラが壊れたから、新聞部に余っているカメラがあるなら自分たちに譲って欲しいと。その時は『余っているカメラがあるか調べてみるよ、期待しておいてくれたまえ』などと八方美人の私は言ってしまったのだが、本当はカメラを渡すつもりなんてないのだよ。どうだい、大問題だろう?」
     予想通りの下らない事だった。
  • 3 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 22:32:34 [削除依頼]
    「大問題でもないだろが」
    「正気かい、二階堂?」
    「そりゃ、こっちの台詞だ。カメラくらい素直に渡してやればいいだろ」
     新聞部で使用されずロッカーの中で埃を被っている数台のカメラ達も、写真部で有効活用して貰ったほうがよっぽど嬉しい筈だ。物に感情があれば、の話だが。
    「しかし二階堂、勝負もせずに渡すと、それは負けた気がするというかだね……闘わずして屈したというか……新聞部が写真部に劣っていると見られるというか……とにかくカメラは、そう簡単に渡すつもりはない!」
    「いらんとこで変な意地を張んなよ……」
    「失敬だね二階堂、私は意地なんて張っていないよ! 頑固に自分の考えを押し通そうとしているだけではないか」
    「それが意地を張るって事だろが馬鹿」
    「む……あぁ……でもだね……でも二階堂……」
     完膚なきまでに論破してやったのが効いたのか、神野は幾分、大人しい様子になった。たたみこんで言い包めるチャンスがあるとすれば今だ。多分、この機を逃せば二度と巡ってこないかもしれない。
     俺は、ここぞとばかりに神野に言ってやった。
    「いいかよ神野? お前は普通にやればものの十数分で片付く事を厄介事に展開するのが仕事のような奴だけどな。今回のはカメラを渡せば、それで終わる話だろ。だから、写真部の奴らに使ってないカメラを渡して、その問題ってやつはそれで終わりだ。御堂もそれでいいよな? な?」
     一息で言い切り、それと同時に御堂へ顔を向ける。上谷と柏木は、まだ部室に来ていないので知った事ではない。いない奴よりも、まずは居る奴、それも部における力関係が強い神野と御堂を説得するのが先決だった。が
    「はぁ? そんなの良くないに決まってるでしょ。どうしてタダでカメラをあげなきゃいけないのさ。世の中はギブアンドテイクで成り立ってんのよ。それなのに、なんでもかんでもホイホイ笑顔で渡して、それで解決なんて言ってちゃ下手に見られてこれからもつけあがった態度を取られるだけじゃん。見返りもなしにカメラは渡せないわね! っていうか、あんた、そんなだから駄目なのよ」
     真顔の御堂に長々と説教されてしまった。
    「ははは、仕方ないよ御堂君。二階堂は事なかれ主義だからね」
     一応、問題に対する解決法は提示したつもりだが、御堂の話に乗っかってきた神野にまで嫌な感じの言い方をされた。
    「くっそ、うるせえな。じゃあどうするってんだよ、写真部と喧嘩でもすんのか?」
    「なにかとあれば喧嘩、喧嘩って……あんた、もうちょっとスマートなモノの考え方できない訳? 顔だけじゃなくて性格まで不良になってきてるんじゃないの?」
     御堂が呆れたように小さく嘆息する。その人を小馬鹿にしたような態度は、俺をいらつかせるには十分だ。
    「拳骨ひとつで、いつも問題を解決してるお前に言われる筋合いはねえよ!」
     このウリボウ女、とは付け加えずにおいた。言えば殴られるだろうからだ。
  • 4 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 22:40:32 [削除依頼]
     数十分後。
    「――よし、写真部とはカメラを賭けてサバイバルゲームで決着をつけるという事で異論はないね?」
    「あるに決まってんだろうが。どこから、そういう話になったんだよ」
     この数十分間、非生産的な話しかしてこなかった俺達だが、神野が脈絡もなく組み立てたこの話だけは絶対に間違っている気がした。
    「サバイバルゲームって俗に言うサバゲーの事よね。エアガンで撃ちあう馬鹿っぽい遊びでしょ?」
     馬鹿にしたような口調で言う御堂。しかし、その表情はどことなくサバゲーに興味がありそうな緩々としたものだった。なにやら嫌な予感がしてくる。
    「うむ、その通りだよ御堂君。君は二階堂と違って興味を持ってくれたようだね」
     俺が感じた不吉な予感をそのまま口に出す神野。
     御堂は分かり易すぎる感情を神野に読まれてしまったのが意外だったのか、照れ笑いを浮かべて。
    「まぁ、そうね。ちょっと楽しそうよね、ちょっとだけよ」
     思いっきり楽しそうな顔で言う。
     新聞部に知性の光が差し込んだことなど一度たりともない。柏木がいれば、まだ俺の味方をしてくれたかもしれないが、今日に限ってそいつも遅刻している。よって、いつも通りに今日も新聞部は馬鹿てんこもりの状態だ。
     俺は呆れたように溜息を吐いた。
    「お前らどうかしてんぞ。写真部とサバゲーなんかしてどうすんだよ。素直にカメラをくれてやれば、それで終わる話だろが」
    「ぷっ、あはははは」
     と、いきなり御堂が笑いだした。俺は真面目な事を普通に言ってやっただけだが。
    「なにが面白いんだよ……?」
    「あんたビビってんでしょ? ぷっ、だっさ」
    「誰がビビるか!」
    「嘘ばっか。本当は私に撃たれるのが怖くて仕方ないから、やめとこうよーなんて言ってんでしょ」
     誰もそんな事は言っていない上に。
    「なんでお前に撃たれなきゃいけないんだよ! お前は新聞部だから俺の味方なんじゃないのかよ」
    「はぁ? なんで、このあたしがあんたの味方なんてしなきゃいけないのよ。戦場じゃ臆病者はお荷物なのよ」
     知った事ではない。
     すっかりやる気になっている御堂から視線を逸らし、深く溜息を吐いた時。
    「もういい二階堂! 君も参加だ!」
     がたり、と自席から立ち上がった神野が筋の通っていない言葉を投げつけてきた。キャッチできる筈もない。
  • 5 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 22:45:59 [削除依頼]
    「おい、ふざけんな! 勝手に俺を巻き込むな」
    「部長は私、副部長の君は私の命令に従ってもらわないと困る。どうしても嫌というのなら毎週金曜日をカラオケの日と定め、君の奢りで部員全員を二丁目のカラオケボックスに連れて行って貰う事になるが、それでも構わないかい?」
     どっちにしても俺に不利益しかない条件だった。が、どっちを取るかと言われれば、どんな結果になるにせよ、今日一日を乗り切ればそれで済むサバゲーのほうだ。
    「わかったわかった! もうわかった! 参加すりゃいいんだろうが! 銃でも手榴弾でも持ってきやがれ、写真部の連中なんざ纏めて硝煙の底に沈めてやる! これでいいんだろうが!?」
    「うむ、流石は二階堂、私の見込んだ男なだけはあるね」
    「ふーん、前言撤回するわ。あんたも中々、言うじゃない。あたしの後ろは任せたわよ」
     どうして、いつもこうなってしまうのか。
     放課後の部室で今、現代社会のモラルが問われる時がきていた。
  • 6 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 22:47:38 [削除依頼]
     
     思い立ったら、いつもの如く行動だけは早かった。
    『それでは早速、サバゲー同好会に協力を取り付けてエアガンを提供して貰うとしよう。あぁ、写真部にもサバゲーの事を伝えてこないとね。二階堂と御堂君は柏木君と上谷君が部室に来たら、今日の活動内容を二人に伝えて校庭に向かってくれたまえ』
     そう言った神野は足早に部室を後にした。
    『でわでわ戦場で会おう、諸君!』と敬礼を決めて。
     本当に、どうしていつもこうなるのだろうか。
     溜息を一つ吐き、部室の窓を開放した俺は煙草を口に咥えてライターで火をつけた。嫌な感じに高揚している気分を落ちつける為だ。
    「ふぅ……」
     緩慢な動作で喫煙を続けていると、不意に伸びてきた何者かの手が俺の口から煙草を奪い取っていった。
    「煙草! 校内での喫煙は駄目だって何度も言ってるでしょ」
     声の主は御堂だった。片手を腰にあてがって、実に生徒会役員らしい口ぶりと態度で俺に説教を垂れていた。喫煙防止ロボットは今日も元気に稼働中のようである。
    「煙で自.殺するならよそでやりなさいよね」
     追撃をかけてくる。なんてキツい物言いだろうか。
     ごくごく自然な感じで俺の口から溜息が漏れた。
    「煙で自害しようとしてんだ。返せよ……」
     そんなつもりは毛頭ないが、とにかく一本二十数円もする煙草の返還を俺は求めた。
    「返す訳ないでしょ! こんなのはこうよ!」
     言って、先端に火が点いているだけの煙草を机の上に押し付けて丁寧に揉み消し、さらにそれをくしゃくしゃに丸めてクズ入れに放り投げる御堂。俺の二十円はゴミ屑と化した。
    「鬼か、お前は……」
    「うっさいのよ、怪人煙吐き男」
     今時、小学生だってもう少し捻った悪口を言うと思うが。まぁ、どうでもよかった。
    「へいへい、もうなんでもいい」
     俺は御堂を無視して、開け放った窓から外を見る。野球部、サッカー部、陸上部などなどの運動部の連中が元気に校庭を駆けまわっている。それらの光景をボケっと眺めていると、不意に一人の女子生徒がこちらに向かってブンブンと手を振ってきた。
    「よー! ニカイドー、元気かー!」
     続いて、馬鹿っぽい間の抜けた大声。
     俺は、そいつに焦点を合わせた。年中、日焼けしているような色黒の肌にザク切りのショートヘアが、活発そうなイメージを見かけで説明してくれている。確か、神野と同じクラスの女子だ。いつかの騒ぎの時に俺とも面識があり、それ以来、ちょくちょく挨拶を交わしたりはしていた。と、言っても名前すら知らないし、俺から挨拶をした事なんて一度もないが。廊下なんかですれ違う時に、色黒が一方的に『ニカイドー! 今日も顔こえーなぁ』なんて言って、肩を叩いてくる程度だ。ようするに余り知らない奴だった。
    「ニカイドー! ニカイドー! おーいニカイドー、元気かー!?」
     しかもウルサイ。何度も俺の名前を呼んでくるものだから、校庭で活動している運動部の連中も色黒の声につられて、怪訝そうにこちらを見てくる。
     俺は、なんだか恥ずかしくなってきた。というか、恥ずかしかった。
    「お、おう、元気だー。お前も頑張れよー」
     聞こえるかどうかの声で返答。そして、速やかに窓を閉めた。
     どうして、色黒はあんなにフレンドリーなんだろうか。俺のように根暗でクラスでも空気扱いされているような人種にまで、あんなふうに声をかけてくれるのだから悪い奴ではないと思うが。などと考えて溜息をついた時。
    「へ、へぇ、あんたって意外とモテるのね」
     何故かうろたえている御堂が話しかけてきた。
  • 7 toto id:20ejPMc0

    2012-08-31(金) 22:56:22 [削除依頼]
    「いや、多分そういうのじゃないと思うぞ。あいつ、誰に対してもああいう感じっぽいしよ」
     なんせ色黒は、あの神野と友達でいられるくらいの奴なのだから。人類みな兄弟みたいな感性をもった奴なのだろう。
    「ふ、ふーん。ま、別に興味ないけどさ」
    「お前は、いっつも聞いてきといて興味がないで流すよな」
     一体、どういう了見なのか。
    「うっさいわね、興味ないわよ! あんたの事なんて! それよりそろそろ校庭に向かうわよ、戦争するんだから!」
     滅茶苦茶な事を言って話を打ち切った御堂は、俺の手をむんずと掴み、引っ張るようにして部室から廊下に連れ出した。
     そうして部室から出るや否や
    「……」
    「あっ、二階堂先輩になずなちゃん。遅れてごめんねー」
     今まさに部室に入ろうとしていたらしい柏木と上谷に遭遇した。
    「あんた達、来るのが遅いのよっ、て言いたいとこだけど、まぁいいわ! 今日の活動は校庭で戦争だから、あたしの後についてきなさい!」
     御堂は二人を睨みつけながら、絶対について行きたくないと思わせるような事を言う。
    「えっ?」
    「……は?」
     首を傾げる上谷と柏木。当たり前の反応だった。校庭で戦争をするから来いと言われて、よっしゃ行くか、やったりますか、と返されたらそれはそれで扱いに困る。
    「だーかーらっ! 校庭で戦争すんのよ!」
     御堂は声を張り上げて必死に説明しようとしているようだが、何ひとつとして情報は増えていないので、聞かされている柏木と上谷はひたすら困惑している様子だった。
    「……先輩、どういう事だコレは? 意味が分からない」
     怪訝顔の柏木が俺に訊ねてくる。
    「あぁ、えっとだな……つまり、また神野が下らない事を思いついた。んで、それに御堂が乗っかったって訳だ」
    「……あぁ……」
     柏木もそれで納得したようだった。納得してしまえるだけの説明を俺がしたからだ。
    「そういう訳だから、あんた達もあたしの後に続きなさい! さぁ行くわよ!」
    「……行くわけない。僕は帰る」
     言うが早いか、柏木は鞄を肩に回して俺達の脇をすり抜けていく。人として正しい行動を取っている柏木だったが
    「待ちなさいよ! あんたも来なさい!」
    「そうだよー、かっしーノリ悪いぞー」
     御堂と、状況を早くも理解したらしい上谷の二人に制服の袖を掴まれて、動きを封じられていた。
    「……離せ。僕は帰る」
    「えー、なんでー? 戦争だよ戦争。きっと楽しいよー。ねー、かっしーも参加しようよー」
     猫撫で声で適当な事を言いながら柏木の袖をくいくいと引っ張る上谷。
    「撃ち合いよ撃ち合い! あんたも来なさい女男!」
     心の底から楽しそうに笑いながら柏木の袖をグイグイと引っ張る御堂。
     そんなふうに両袖を掴んでいる女子たちの手を振り払った柏木は、俺達に向かって親指を下に切った。地獄に落ちろ、の意か。
    「……そのまま、くたばれ」
     そう言って柏木は振り返る事なく逃げるように駆け足で、その場から去ってしまった。
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