矢と魔7コメント

1 Dizzy id:ez-SHNfdJp.

2012-08-30(木) 09:03:42 [削除依頼]


 これは三の奇譚。
  • 2 Dizzy id:ez-7pCYjQy1

    2012-09-04(火) 16:50:06 [削除依頼]

     八百万。文字通りの数値に非ず、数多という意味でこの国には神々が居る。ならば、神前にて煙草を吹かそうが許して下さる神様もきっと御座すことだろう。それが設楽 ナツメの主張であった。
     漆器のように艶やかな黒の長髪は腰まで伸び、それが元々色白な肌に愈々浮き世離れした透明感を与えている。黒の半袖ブラウスとパンツを纏い、真ん中分けされた髪から覗く顔には丸いサングラスが掛けられていた。美人であるのは間違いないが、威圧的な雰囲気を持っている。そして、どう見ても神社には不似合いだった。
     縁側に燦々と降り注ぐ蝉の鳴き声には、最早五月蝿いという感想すら湧かない。人々の期待とはまるで的外れな晴天には間抜けな入道雲が立ち上る。見飽きた夏の風景画。そこに一味加えている。ナツメの風貌にはそんな違和感がある。
     長く煙を吐いてから、ナツメは口を開いた。
    「するとこうですかな? この神社の外法が未だに言い伝えられていたらしく、更に愚かしくもそれを行った輩がいる、と」
    「外法とは“裏参り”のことですか?」
     林という神主の問いに、「今回の場合は」とナツメは頷く。
     日本の神社や寺は、古来から政や祝賀、祈願の為に造られた以外に、封を目的として存在する例も少なくない。魑魅魍魎が跋扈した世には人が巻き込まれる事は珍しくなかった。大事に至った場合、または怪異がそこに留まった場合等にはそこに社を建てて封じ込めたのだ。その封を潜り抜ける方法の事を「外法」と呼ぶわけである。
    「外法、この場合の裏参りを行った莫迦者に制裁をお見舞する。という事で宜しいか?」
    「いえ、そうではないのです」
     神主も三十代半ばの、神主にしては比較的若い方であったが、今年で二十一のナツメに完全に迫力負けし、萎縮してしまっている。
    「どうも、裏参りによってですね……笑わないで下さいよ? この界隈で、ま、魔物が現れるようになったらしいんですよ」
    「魔物?」
  • 3 Dizzy id:ez-xIKuNUf1

    2012-09-09(日) 20:38:06 [削除依頼]
    「えぇ、正直なところ、私も信じてはいないんですがね……最近市内で起きている連続殺人、貴女も御存知でしょう? あれをやっているのがその魔物だって言うのですよ」
    「連続殺人……あれですか」
     ナツメは市外在住であるから詳細こそ認知してなかったが、この界隈では、数ヶ月前から犯人を特定出来ない殺人が何軒か続いているという。当初は別々に扱われていたそれらの事件は、“手掛かりが少な過ぎる”という共通点から、最近になって警察は連続殺人との見方を表明した。
     近頃紙面を賑わせているそれらを回想してナツメは笑みを浮かべる。
    「確か、人間には到底不可能な力で体を抉られる様に殺されたので熊等の猛獣によるものかと見られていたのが、猛獣なら残す筈の痕跡が無い上、行方不明者が出る等、猛獣の行動パターンとも符合しなかったとか」
    「誰が殺されたかは御存知で?」
    「いえ、人間でも猛獣でも無い連続殺人。という事くらいですね」
    「これが、全く、本当に関連性が無いらしいんですよ。全く関係ない人間を証拠も無しに次々と殺す。そんなこと、確かに人間にも猛獣にも出来そうには思えない」
     林神主は手拭いで額の汗を拭き取った。
    「つまり林さん、貴方としては魔物なんてものを信じてはないが、状況から考察するに信じるしかない。という事ですか。しかし先程から誰かの話を打ち明けられている感じがするのですが……」
    「その通りです。私の甥の話でしてね。というのも、その甥も魔物に襲われたと言うんです」
    「……なに!?」
     レンズの奥でカッとナツメの瞳が見開かれた。立って寄りかかっていた柱から離れ、煙草を携帯灰皿に押し込む。それから胡座をかき、改めて林神主と向き合った。
     神主の眼に、嘘は見つからない。
    「これを見て下さい」
     懐から布包みを出し、ナツメの前で開いてみせる。
     ナツメはサングラスを持ち上げ、碧の双眸でまじまじと確認した。
     それは、古びた矢尻であった。
  • 4 Dizzy id:ez-qNFXOjT0

    2012-09-15(土) 12:44:13 [削除依頼]
     磨き上げられた金属のような光沢はまるでない。錆びてこそいないが、刃物として必要な鋭利さは失っているようだ。
     触っていいか、と了承を取ってからナツメは矢尻を手に取った。そして、万華鏡でも覗き込むかの様にまじまじと観察する。
    「(微かに魔力が残っている。しかし、これは……)」
    「甥は、魔物に襲われた際、その矢で撃退したと言っておりました」
     非現実的なあまり、馬鹿げた内容に林神主は話しながら苦笑いした。対して、ナツメにしてみると話はいよいよ信憑性を帯びてきている。
    「ふむ……林さん、この矢尻はこの神社の、そうですなぁ……御守りか何かとして甥御さんに上げた物ではありませんかな?」
    「え!? えぇ、その通りです。受験の合格祈願に、今年の冬に私が上げた御守りの中に入っていた物なんです」
    「矢張りそうですか。そうであるなら心配はありませんよ。甥御さんがこの矢尻で魔物を撃退した時に、その魔物は滅んだ筈ですから。甥御さんが襲われて以降、連続殺人は止まっているんじゃありませんか?」
    「それは、確かにそうですが」
    「あとは最初に私が申しました通り、外法を知る者に制裁を加えれば大丈夫でしょう。それについても私が承りますが、如何?」
    「えぇ、御願い致します」
     林神主は深々と頭を下げた。顔を上げた時には、安堵感から幾らか表情が和らいでいた。
    「ターゲットが幾人で、どの様な輩かに依って話が変わってくるので、報酬等につきましてはまた後日。それでは失礼します」
     そう言い残してナツメは縁側から陽向へ出、長い石階段を降りて行った。
  • 5 Dizzy id:ez-A0MMdzG1

    2012-09-16(日) 14:09:41 [削除依頼]
    *御挨拶*
    スレ立てして結構経つので今更ですが、とりあえず序文が終わったので。
    怪奇現象の解決、所謂「妖怪退治」的な事を生業とする設楽 ナツメ(したら なつめ)。寧ろ彼女の方が妖怪じみている、そんな美しさを持つ彼女が、界隈で起きた連続殺人事件の原因、外法「裏参り」を行った人物の捜索に乗り出します。
    扱いの難しい作品ではあるのですが、頑張ります。どうぞ宜しくお願いします。
  • 6 Dizzy id:ez-le0M1Kn/

    2012-09-24(月) 21:51:59 [削除依頼]

    ?


     漆黒の外国製高級乗用車。町から離れた、障害物がまるで無い田園地帯を直進していた。
     運転席に座るのは強面の大男で、浅黒い肌にスキンヘッド、その上サングラスとスーツである。SPか、さもなくば裏社会の人間にしか見えない。彼は名を真田 幹雄をと言い、世間からすれば見た目通りいかがわしい職業に就いていた。妖怪退治を専門とする、怪奇現象の解決屋である。
     無愛想な表情で前を向いたまま、ミラー越しに後部座席に掛けるナツメを確認した。
    「お前はあの街の問題が残っているだろう。今回のは俺がやるか?」
    「……いや、いい。大丈夫」
     ナツメは涼しげな眼で飛び去る景色を眺める。
    「魔は出たのだが、話を聴く限りではどうやら既に滅された後のようだから、後は原因を潰すだけ。幹雄の手を借りる程の事はないさ」
    「そうか」
    「それにしても、あの神社の神様は中々几帳面な奴だよ」
    「どういう意味だ?」
    「矢だよ。あれは裏参りによって魔が現れた時、神によってあの神社の柱にでも突き立てられたに違いない……魔を呼び出す“きっかけ”を与えてしまったのは神の過失。実際に魔を呼び出してしまったのは人の過失。だから神は魔を滅する“きっかけ”を矢として人に与え、自らの責任を果たしたのさ。しかし実際に滅するのは人の責任、という分けだ」
    「ハッ、何も自分の過失だけをキッチリ返さなくてもなぁ。どうせ神様なら、サクッと魔を滅ぼしてくれりゃあいいのによ。そうすりゃ死人も最小限に済んだんだ」
    「フフッ」含み笑いをしながらナツメは煙草をくわえ、火を点け「几帳面と言ったのさ」と煙を吐いた。
  • 7 Dizzy id:ez-le0M1Kn/

    2012-09-24(月) 22:02:40 [削除依頼]
    >6 最後、「だから几帳面と言ったのさ」でした。
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