流動する.6コメント

1 ゆい id:d/Wm8oP0

2012-08-19(日) 11:25:52 [削除依頼]
殺風景な打ちっぱなしのコンクリート。彼女は冷たい床に丸まっている。呼吸の音が微かに聞こえて、ああ彼女は生きているんだなと僕は胸を撫で下ろした。机もない、椅子もない。ただ六枚切りの食パンと赤い鞄があるだけだった。どんな風に彼女は生活しているのだろう。白く光る肌は何から出来ているのだろう。僕は彼女を眺め、ふと窓の外に目をやる。
「そうか、光合成か」
カーテンもない窓から光が溢れて彼女を照らす。光合成、ならば彼女の着ている緑色のワンピースも彼女自身の色か。
昔顕微鏡で見た、あの動く緑色。流れるように、生きる、緑色。
僕は突然にそれを思い出した。
  • 2 ゆい id:d/Wm8oP0

    2012-08-19(日) 11:27:32 [削除依頼]
    >1 緑色が突如動いた。音もなく静かに丸まっていたそれはむくりと立ち上がる。マリオネットの糸が千切れたように、彼女の首だけはうなだれたまま、細く白い腕を上げる。彼女の小さな手の平が僕の眼前で力一杯開かれた。 「くらえ」 彼女はそう言って顔をあげた。目力が凄まじく、僕は思わず息を呑んだ。仄かに香る昨晩の自棄酒。彼女は知らないが僕は知っている。眠らないまま整理されずにいる僕の記憶の中に昨晩の彼女はしっかりと居るのだ。 僕は彼女の手の平を掴んだ。 「おはよう、笹川」 僕が言うと笹川は笑った。確実に笹川の手の平からは何かがでていた。食らった僕はどうなるのかわからない。 「徳山、グッドモーニング」 直後、彼女は次の言葉を付け加えた。いいえ、今日ばかりはバッドモーニングか。 僕が微笑したのを見て、笹川は言う。 「昨日の事、まるで覚えていないの」 僕の頭にも時々微かに鈍痛が走る。笹川も同じらしく、時たまこめかみあたりを指で抑えていた。緑色が眩しいようでくすんでいる。ほこりを被った観葉植物といったところか。 「僕だって飲んでた。覚えてないよ」 小さく呟けば携帯の着信音が響く。笹川は聞き慣れたその音楽ににっこりとし、通話ボタンを押した。 「こちらアルコール笹川奈緒。至.急、私の部屋まで来い」 通話相手は笹川の話し方でわかった。 「石川が来るのか」 問うてみれば笹川は思い切り笑った。あんたら久しぶりでしょ、と笑っている。何か親切な事をしたとでも言いたげなその表情は頭に来たが、すぐにその感情は消える。いつものことだった。笹川は憎めない。僕の大嫌いな石川がここへ来ようと、僕の大嫌いな石川が笹川と付き合おうと、僕は笹川だけは憎めない。
  • 3 ゆい id:d/Wm8oP0

    2012-08-19(日) 11:32:31 [削除依頼]
    ゆいです。 かつては沢山の板に出没していました。 今は詩板とSS板と小説準備板の居酒屋にたまに行かせていただきます。 何せ書くのが久しぶり過ぎて頭が痛い。 >2の段階で既にミスがちらほら。 書き溜めて投稿する形態なので更新は大変遅いです。 ゆい、松代、この名前に見覚えがありましたら 是非ともお声かけを! 頑張ります。
  • 4 ゆい id:Rk6BINT/

    2012-08-21(火) 17:28:11 [削除依頼]
    >2 それから三十分程経った時、小さくではあったがバイクのエンジン音が聞こえた。僕はまだ痛む頭を抱え込むように立ち上がった。笹川は取り憑かれたように無表情で白湯の入ったカップに噛り付いている。そのカップをどこから出してきたのかはわからないが、笹川は夢中で噛り付いていた。今がチャンスだと上の空の笹川を横目に部屋を出る。すると僕のいる廊下から続いた玄関のドアが開いた。そこにいるのは想像していた通り、石川だった。 「帰るんか」 石川はヘルメットを脇に抱えて立っている。閉まろうとする重そうな玄関扉を肩で支えて僕を見つめていた。 「帰らないよ」 戸惑う僕の後ろから声がした。笹川だ。少し埃の散らばる床へ視線を落とした僕の腕を笹川は掴み、僕を部屋へ連れ戻した。それを見るなり石川もサンダルを脱いで部屋へ続く。 「何があったか知らないけど、あんたらが仲悪いと私は嫌なの」 僕と石川を向かい合わせに床へ座らせ、笹川は渋い顔をして言った。 「仲が悪い訳じゃない。少し距離が出来たんだよ」 石川が素早く言い、傍にあった白湯を飲んだ。笹川のお気に入りらしいカラフルなマグカップに入っているものだ。笹川は私のだからとマグカップを石川から奪い、残りの白湯を飲み干した。 「何のための距離が出来たの。前は三人で遊んでたのに。私はまた三人で遊びたいの」 笹川はマグカップを大袈裟に床へ置く。僕がずっと黙っているからか、笹川は僕を睨んでいた。 笹川の言う様に高校から同級生の僕と石川と笹川は大学でもサークルなどを通して仲が良く、週末は兎に角三人で過ごしていた。石川の家か僕の家で夕飯を食べながら談笑する。それがとても楽しかった。 「変わったんだ色々」 石川が言う。灰色のティーシャツは汗で色の変わっている所がいくつかあった。しっかりとした体格は以前と変わらない。未だにジムへ通っているのか、と考えたところで笹川が立ち上がった。 「何が変わったの。私は私のまま。あんたらが変わったんじゃない。勝手に喧嘩して。私は喧嘩しても良い許可なんて出してないけど」 確かに笹川は笹川のままだ。石川も、僕だって以前と変わらない。ただ個人では変わらないとしても、だ。 「変わったのは君たちだ。笹川、好い加減気付いてくれ」 僕はそう言って今度こそ部屋を出た。格好付けて飛び出したものの、笹川の家に来たのは初めてでここがどこかもわからない。右手に下り坂、左手に上り坂が見えたので僕は右へ進んだ。 少し歩くと、またエンジン音が微かに聞こえたので振り返れば、上り坂を行くバイクが一台小さく見えた。石川だろうか。まだまだ続く一本道に、僕は溜息を吐く。
  • 5 ゆい id:whpralr/

    2013-05-18(土) 13:03:11 [削除依頼]
    しばらくしてやっと駅についた。何歩歩いたか、万歩計でもつけておけば良かったと思った。小さな無人の駅のホームに僕は一人で佇んでいる。ふと側の時計に目をやると針は十時を指していた。
    風が吹いて木の揺れる音がする。負けじと蝉がわんわん鳴く。騒がしい周囲の音に消え入るように、僕はベンチに腰掛けた。次の電車がいつ来るか、それもわからずただ俯いていた。そして思い出すのは、今日もあの日のことだった。
    「徳山くんじゃない」
    蝉の声も風の音も何もかもがぼやけていたその時、氷柱のように透き通る声が響いた。そして、そこで僕の回想は止む。
    声の方へ振り返ると西田さんがいた。白いカッターシャツにジーンズを履いている。長い髪もいつも通りだ。
    彼女は二つ年上の陶芸家で、僕の父がやってるアトリエで働いている。
    「こんなところでどうしたの」
    西田さんは爽やかに笑った。大きな瞳がいつもより少し、霞んでいた。
    「友達と飲んでいたんです、朝まで」
    友達、という言葉を発することがここまで難しいとは。西田さんも僕の返事に違和感を感じたように微笑する。
    「夏休み、満喫してるみたいね」
    強い風が吹いて、遠くに電車が見えた。こっちへ向かって来る。僕は立ち上がった。
    「そういうわけでもないんですよ」
    西田さんに言うと、彼女は鞄を漁って小さな飴玉をぼくの手のひらにのせた。メロン味と書いてある。
    扉が開いて西田さんは僕より先に電車へ乗り込んだ。僕も続いて電車へ乗り込むと、ひんやりした空気で体が軽くなる感じがした。
    メロンの飴玉とひんやりした空気、また僕は回想を始めそうだった。今朝の、笹川の。
    「君たちは悩むために生きてる」
    西田さんが言うと扉が閉まって電車は走り出した。そして気怠い車掌のアナウンス。
    「そうかもしれない」
    僕が呟くと西田さんが笑った。
    「生きるために悩みなさい」
    流れて行く景色の中に音はなかった。色とりどりな世界が無音で流れて行く様は、どこか懐かしい。
  • 6 ゆい id:YVzr6uM.

    2015-10-09(金) 10:01:46 [削除依頼]
    あげときます
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