完全過ぎた犯罪90コメント

1 マラカス日和 id:i-HMDRs8O/

2012-07-24(火) 11:26:11 [削除依頼]
 偽装工作。
 世の中のミステリーには、全てに何らかの偽装工作がなされています。
 その中でも最もポピュラーと言える偽装工作は『殺人を自.殺に見せかける』という手でしょう。良く目にしますね。
 しかし、今回の事件はその真逆。
 つまり『自.殺を殺人に見せかける』という完全犯罪を計画した、とある男のお話です。
  • 71 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:33:57 [削除依頼]
    「あー、念のために後で筆跡鑑定に出しときましょうか」
    「その必要はないですよ」
     須藤は鼻から息を吐き出すと同時に、口から言葉を吐き出した。
     相変わらず憂鬱げな須藤に、桐先は尋ねる。
    「つまりお認めになるのですね。あなたが二川の連絡先を月野さんに教えた、と」
    「ええ、そうです。私は、彼に二川の連絡先を教えました。しかし――」
     須藤はそこで言葉を切る。少しの間を取って次の句を考えたあと、ゆっくりとそれを声にした。
    「――しかし、だから何ですか? 私が月野くんに二川の連絡先を教えたら、どうして私が犯人になるんですか。私は、月野くんの計画など知らない!」
  • 72 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:35:33 [削除依頼]
    「それは違います」
     須藤の眉がピクリと痙攣した。しかし、それっきりで、彼の周りの時間は停止する。
    「あなたは知っていました。月野さんの計画をです。それを知った上で、あなたは二川の住所を彼に教えた――」
    「――どうして、そんな事が言えるんです」
     須藤が立ち上がろうとした瞬間。その刹那のタイミングを見逃さず、桐先は月野にさっきの書類を突き付けた。
     シュレッダーにかけられていた、月野の計画書である。
    「これが何ですか」
     顔をしかめて抗議する須藤に向けて、桐先は一言だけ、ポツリと言い落とした。
    「指紋です」
  • 73 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:35:56 [削除依頼]
     須藤が呆気にとられる。
    「この朝、この部屋で、この書類を見つけてから、あなたは一度も、この書類に触れてません」
     須藤の頭に、先程の光景がフラッシュバックする。
     シュレッダーにかけられていた紙を復元した、と言ってこの書類を見せた桐先は、何故だか須藤に書類を触らせなかった。
     あまりの出来事に口を閉じることすら忘れて呆然とする須藤に、桐先は囁くように続ける。
    「ですが、この書類には、あなたの指紋がベッタリ残っていました。分かりますか? シュレッダーにかけられた書類を復元したら、あなたの指紋が検出された。つまり――あなたはシュレッダーにかけられる前、この書類を触っている」
     須藤は押し黙っている。
     対称的に、桐先の弁は弾む。
    「あー、分かりやすく言いましょう。これは『あなたが月野さんの計画を知っていた』という、決定的な証拠という事です」
  • 74 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:36:38 [削除依頼]
     須藤の座っている机にその書類を置いて、桐先は神妙な面持ちに変わった。
    「須藤さん、あなたはこの部屋で、月野さんが立てていた計画書を発見し――そして今回の犯行を思い付いた。違いますか」
     須藤は何も答えない。こめかみを押さえていた指は、やがて須藤の顔を覆っている。そこから表情は読み取れないが、少なくとも良い気分で無いことは確かだろう。
    「えー、あなたは実に巧妙に、月野さんが自.殺をする様に仕向けました。流石はカウンセラーと言った所でしょうか」
     そんな皮肉にも、反応する者は居ない。
    「計画を立てた月野さんは、血眼になって二川を探していたハズです。そこに来て、あなたが二川の連絡先を落として行ったとしたら――」
     桐先はそこで意図的に話を区切った。
     須藤の反応を伺って、それから再開する。
    「恐らく、二川の連絡先も“偶然”を装って部屋に落として行ったんでしょう。月野さんは最期まで『自分が操られている』ということにも気付かなかったハズです。つ、ま、り――」
     桐先は一瞬だけ、下唇を前歯で噛み締めた。ほんの、一瞬だけ。
    「あなたは、自らの手を下すことなく、月野さんを殺害したんです」
  • 75 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:37:03 [削除依頼]
     ――言い終わると、不気味な程の沈黙が部屋を支配した。
     須藤からは相変わらず重苦しい空気が垂れ流されているだけである。
     反論しようとしているのかどうかもハッキリとしない。と、思ったが、それは杞憂に終わった。
    「全て正解です」
     須藤は顔を覆っていた手を退けて、桐先の顔を見つめた。
    「私はある日、彼の書いた計画書を見つけました。そこには彼を自閉症にした二川に対する復讐計画がビッシリと書かれていて――私は、気付かれない様に、それを実行に差し向けた」
     その自供に、桐先は無言で耳を傾けている。
     しかし、須藤は背もたれに体重を預けると、こう言った。
    「桐先さん、私は、何罪ですか」
  • 76 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:37:47 [削除依頼]
     机に置かれた書類を片付けようとする桐先の体が、動作を停止した。
     そこに須藤が念を押す。
    「私は月野くんに二川の連絡先を教えただけです。これだけの事で、警察は私を逮捕できますか」
     全てを悟ったかの様な口調の須藤に、桐先は少しだけ考える素振りを見せると、大きく息を吸い込んだ。
    「できません」
     その答えに、ニヤリと笑う須藤。
    「今回の事件に限っては、私はあなたを逮捕することは不可能です。須藤さん、あなたの立てた計画は、完全でした」
     ほんの数秒だけ部屋が静まり返った。しかし、その沈黙は笑い声によって破られる。
     笑ったのは須藤だった。勝利を確信したその笑い声は、今までの重たい空気を跳ね退けて、明るく部屋に響いた。
  • 77 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:38:26 [削除依頼]
    「――須藤さん。私には、どうしても分からない事がありました」
    「何でしょう」
     ようやく笑いが収まった須藤は、椅子の背もたれから体を離してからそう言った。
    「動機です。あなたは、どうして、月野さんを殺さなければならなかったのか。それが分からなかった」
     分からなかった。
     という言葉は過去形だ。つまり、今は、その理由が分かっている事になる。
     須藤が黙っていると、桐先はゆっくりと窓へと近付いた。
     部屋の突き当たりにある、あの大きな窓である。
    「やっぱり良い眺めだ。電信柱も、良く見えます」
     あたかも何でもない会話のように、桐先はその台詞を口にした。
  • 78 えれ☆ id:oLhogzE1

    2012-07-25(水) 18:39:21 [削除依頼]
    …感動((
    文才すごいですね!!
    ていうかストーリーがすごい!!
  • 79 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:39:22 [削除依頼]
     瞬間、須藤が、勢い良く立ち上がった。その顔は驚愕に彩られている。
    「えー、やはりそうでしたか。あなたの動機は、あれです」
     桐先は窓から見ることが出来る電信柱を指さした。須藤の額から脂汗がこぼれる。
     その電信柱の根本には、花束が置かれていた。それはつまり、交通事故があった証である。
    「轢き逃げがあったそうですねェ。二週間前だそうです。被害者はお婆さんで、即死だったとか。――私、あの花を見た時、犯人があなただと気付きました」
     須藤がへなへなと椅子に座る。座ると言うより、倒れ込むと言った方が正しいかも知れない。
  • 80 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:39:41 [削除依頼]
    「私があの花について須藤さんに尋ねた時、あなたはこう言いました。『さあ、聞きませんね』と。妙だなと思ったんです。だって、あなたは、毎日欠かさず月野さんの家に通っていたんですから。ここで事故があったのなら知らないハズがない!」
     須藤はポケットからハンカチを取り出すと、ゆっくりと額を拭った。その間も、桐先は喋り続ける。
    「となると、あなたは知らないフリをしたことになります。何故そんな事を? 考えられる理由は一つです」
     人差し指を立てて、一、という数字を表し、
    「あなたが事故を起こした犯人だから――そして」
     その人差し指を、須藤に向けた。
    「その事故を、月野さんに目撃されていたから」
     桐先は最後に、違いますか、という言葉を付け加えて、論理展開を続ける。
  • 81 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:41:04 [削除依頼]
    >>78 ありがとうございます! 本編はもう少しですので、最後までお付きあい頂けると嬉しいです。
  • 82 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:41:43 [削除依頼]
    「最初に変だと思ったのは、あなたと会った時です」
    「そんな馬鹿な!」
     思わず須藤が顔を上げる。初対面から自分が疑われていた、と聞かされれば、当然の反応と言えるだろう。
    「だって、あなた、徒歩で現場に来てたじゃないですか。急いでいたハズなのに、どうして車で来なかったんですか」
    「それは、月野の家――この家から現場に向かったから――」
    「それなら、どうして、あなたは自宅まで車を取りに行かなかったんでしょう。あなた言いました。『自分の家は月野くんの家から目と鼻の先だ』と」
    「車を持っていなかったんだ!」
    「いえいえ、この家に来る途中、私が『コンビニに切り返してくれ』と言ったのを覚えていますか? その時のあなたのハンドルさばき、とても手慣れていました。普段から車に乗っていたハズです」
    「こ、故障中で、今は修理に――」
     何とか必死に食い下がろうとする須藤に対して、桐先は人差し指を自らの口に当てた。
     静かにしろ、というジェスチャーである。突然の事に、須藤は思わずそれに従う。
  • 83 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:42:04 [削除依頼]
     ――耳を澄ますと、甲高い音が近付いて来るのが分かった。パトカーの、サイレンである。
    「さっきね、私の部下の――高田っていうんですけど、ま、彼に頼んどきました。須藤さんの自宅にある車、調べとけって。ちゃんと令状も取りましたので、ご心配なく」
     須藤の汗は、既に止まっていた。その顔には、もう、自分の罪を否定しよう等という考えは残されていない様だった。
     須藤は桐先に反論するために溜め込んでいた酸素を肺から全て吐き出した。そして大きく、うなだれる。
    「なんてこった。まさか、そんなことからバレるなんて……」
     その悔やみ切れない感情がこもった言葉には、自白という意味が込められている事を、桐先は瞬時に悟った。
  • 84 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:42:31 [削除依頼]
    「えー、お疲れ様でした」
     軽くお辞儀をする桐先をチラリと見てから、須藤はまた息を吸った。
     今度の酸素は反論のための物ではない。
    「二週間前、私が、事故を起こした時、あの窓から、誰かが覗いていた気配がしたんです」
     諦めと達観を携えた瞳で、須藤は少しずつ舌を回し始めた。桐先は何も言わずに聞いている。
    「でも自閉症の月野は、何も喋れなかった。だから、彼が轢き逃げを知っているのか分からなかったんです。でも『私が轢き逃げしたのを見たか』なんて聞ける訳がない。かといって彼を治したら、ひょっとして轢き逃げがバレるかも――」
     椅子に座りながら両手で頭を抱える須藤。しかし、すぐに顔を上げる。
    「そんな時でした。月野の立てた計画書を見つけたのは。月野の自閉症も、もう治りかけてた時で――私は、彼を殺すつもりでいたんです。それで、私は、月野の計画に手引きをしました」
  • 85 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:42:50 [削除依頼]
     その自供に、桐先は無言で頷いた。その顔はもう笑っていない。犯人を追い詰め、犯人が自供したあと、桐先が取る行動は一つだけである。
    「須藤さん、あなたの計画は完全でした。“今回の事件に限っては”私はあなたを逮捕することは不可能です。しかし――」
     桐先はパーカーのポケットから手錠を取り出した。それを見ると、須藤は諦めたかの様に両手を差し出す。
    「それでも私は、あなたを逮捕します」
  • 86 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:43:31 [削除依頼]
     パトカーのサイレンが月野の家の玄関に辿り着いたようで、開け放たれた部屋の窓がその音の侵入を許していた。
     夕方の涼しい風もが音と共に部屋へと流れ込み、二人の間に横たわる重たい空気の温度を急激に冷やしていった。
     桐先が須藤の両手首に、ゆっくりと手首をかけた。
     須藤はそれによってようやく平常心を取り戻したのか、少しだけ頬の力を緩めた。
     それに釣られて、桐先も笑い声を漏らす。
    「いやあ、巧い計画だと思ったんですけどね」
     自分の手首をしっかりと拘束する冷たい金属を肌で感じながら、須藤は言った。その顔には自嘲ぎみな笑顔が広がっている。
    「はい。あなたの犯罪は完全でした。前回の轢き逃げが無ければ……の、話ですが」
     桐先は窓の方から反対側の扉の方へと歩いて行き、ゆっくりと扉の開いた。ドアノブが回る音が須藤の耳に残る。
    「偽装工作も、難しい物ですね」
     須藤はその音を鼓膜と脳みそから振り払うように、そう呟いた。
     桐先は頷く。
  • 87 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:43:51 [削除依頼]
    「あー、お迎えも来ています。そろそろ――」
    「――はい、行きましょう」
     二人は顔に別々の思惑を持つ笑みを貼り付けたまま、月野の部屋を後にした。
     絶え間なく続くサイレンの音を遮って、パタン、と、扉の閉まる音がした。
  • 88 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 18:44:24 [削除依頼]
    (了)
  • 89 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 19:00:11 [削除依頼]
    さて、よくよく考えてみるとキャスフィでは初めてだったかも知れないミステリーですが、実は今、すごく不安です。 矛盾がないか、無理がないか、フェアな勝負かどうか。 まあ、僕のミステリーはこんな物です、という自己紹介も兼ねた作品ですので、全力で書かせて頂きました。 近い内に次のお話も書きたいと思います。今回が“誘導殺人”というマイナーなジャンルだったので、次回はメジャーな“密室殺人”でも書こうかな。 ご拝読、ありがとうございました。 >1+3-12+15-33+38-77+79-80+82-88 ↑本文のみを読む場合は、こちらからどうぞ。
  • 90 マラカス日和 id:i-u1LatcM0

    2012-07-25(水) 19:01:32 [削除依頼]
    まさかの安価ミス。 >>1+3-12+15-33+38-77+79-80+82-88 ↑改めまして、本文のみを読む場合は、こちらから。
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