トゥエンティー、サーティー、メカニック。10コメント

1 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

2012-07-21(土) 16:11:40 [削除依頼]
 この二十年間で、これが百四十二回目の交換だ。
  • 2 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:11:59 [削除依頼]
    「んー、気持ちの良い朝だ」
     お父さんの声が聞こえて、僕は目を覚ました。同時に小鳥の囀りが青空に響く。耳を撫でるような美しい音色だ。
     そんな風にありふれたこの朝は、しかし僕にとっては記念すべき朝となった。
    「父……さん? 起きたのかい? 父さん!」
     今起きた現実に、僕は思わず立ち上がった。最初は聞き間違いかと思ったが、確かに父さんは目を覚ましていた。
     二十年前から植物状態だった僕の父さんが、遂に。
  • 3 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:12:18 [削除依頼]
    「お前、は……もしかして、雄介、か?」
     お父さんはとても喋りづらそうに言うと、僕の顔をジッと見つめた。二十年もの間を夢の中で過ごしていたのだ。喋れなくても無理はない。
    「そうだよ。雄介だよ。父さんったら、二十年も寝てたんだから」
    「二十年? おい、おい、本当か。じゃあ、今、何年だ?」
     お父さんは上体を起こそうとしたが、体が動かないのを悟って諦めた。二十年のブランクを埋めるには、これからのリハビリが必要だろう。いや、僕が診てあげれば、すぐに動くようになるかも知れないが。
    「二千三十年だよ」
     イタズラっぽい口調で僕が答えると、父さんは目を剥いた。
  • 4 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:12:39 [削除依頼]
    「そんなに、経ったのか。じゃあ、もしかして、車は空を、飛んでるのか」
     父さんが余りにもありきたりな未来予想図を口にしたので、僕は思わず吹き出した。
    「いやあ、それは無いけど……でも、車、速くなったよ。そうだなあ、二十年前でいうと、飛行機くらいかなあ」
    「それ、危なくないか」
    「大丈夫。運転するのはコンピュータだから」
     僕は財布から免許証を取り出すと、それが父さんにも見えるように近付けた。
     二十年前とはあまり変わっていない自動車の免許証に、父さんは少しだけ笑って見せた。
  • 5 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:13:06 [削除依頼]
     二十年ぶりの笑顔だった。父さんが眠りに落ちる前、最後に見せてくれた笑顔を、僕はずっと忘れていなかった。
     あの時と少しも変わらない、曇りのない透けるような笑顔は、僕の心を締め付けた。出る訳がないと分かっていても、涙が出るんじゃないかと思った。
    「じゃあ、あれだ。ロボットは、いるか」
     父さんの声は弾んでいた。目は期待に輝いている。
     だから僕は嬉しくなった。その質問の答えなら、父さんに満足して貰えそうだからだ。
    「いるよ」
  • 6 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:13:41 [削除依頼]
    「本当か」
     父さんの目は一層に希望を帯びた。
     僕は焦らすことも考えずに、父さんに向かってそっと呟いた。
    「ロボットなら、いるよ。僕の目の前にね」
     父さんは驚いたように、部屋を見渡した。ロボットを探しているようだった。でも、それらしき者が居ないので、父さんは再び僕の方に視線を戻した。
    「なあ、ロボットは、どこニ、イルん……ダ……ヨ……」
     ピーっと、電池切れの音がした。
  • 7 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:14:02 [削除依頼]
    「あー、折角起きてくれたのに」
     僕はタメ息を一つだけ吐き出すと、研究室のベッドで寝ている父さんを抱き上げて、うつ伏せに引っくり返した。
     ――二十年前、食料問題を解決するために全ての人間をロボットにする計画が発令された。
     それは極秘に行われた計画で、僕は朝、目が覚めたら、ロボットになっていたのだ。
     父さんも当然ロボットになったけど、何の手違いか、父さんだけは電源をつけても目を覚ますことはなかった。
     だから僕は、ずっと一人で待っていたのだ。父さんを治すためにロボット工学者になって、自分の研究室で、ずっと、ずっと。
  • 8 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:14:24 [削除依頼]
     二十年前から歳を取っていない僕は、二十年前から歳を取っていない父さんの背中を開いた。
     鮮やかな電線が張り巡らされている父さんの体内から、僕は黒色の箱を取り出す。それをゴミ箱に捨てると、引き出しから新しい電池を取り出した。
    「あーあ、バッテリー、替えなク……チャ……ナ……」
  • 9 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:14:36 [削除依頼]
     ピーっ
  • 10 マラカス日和 id:i-xhE2O5B.

    2012-07-21(土) 16:15:22 [削除依頼]
    (了)
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