愛を飼うライオン25コメント

1 空子 id:0tq0uts1

2012-07-15(日) 01:59:56 [削除依頼]

来た。黒い手紙、通称「デスメッセージ」。

「青山田さん、これ読んでください」

「はあ、分かりました」

暇だったらね、と心の中で呟きながら私はその手紙の入った黒い封筒を受け取った。

学年中の噂でみんな知っているであろうこれは、2−Aのクラスの佐藤川昴から佐藤川の好みの女子に渡されるというある意味プレミアム招待券だ。

何故かというと、佐藤川の父親は大企業の社長で実家も大豪邸の大金持ち。

そんな家に招かれたものは、特別待遇を受けただでご馳走を食べたり、エステやマッサージを受けられる。

ただし、ある条件をクリアできたらの話だけれど。

「理衣、すごいじゃん!昴君から直々に招待状貰えるなんて」

「デスメッセージ貰ったって嬉しくないし」

「そんな呼び方するのあんただけだよ、普通はみんな貰ったら喜ぶものなのに」

「大体何で私にあいつは渡したんだ?」

「知らないよ、今までに貰ったのは半年前の神埼さんだけだったんだから」

「ねえ、加奈子。今日、あいつの家行かなきゃいけない?」

私は加奈子が勝手に封筒を開けて読んでいる招待状を覗き込むと、はあっとため息をはいた。
  • 6 空子 id:0tq0uts1

    2012-07-15(日) 03:21:37 [削除依頼]

    誰だろうかと見ると、隣に黒スーツで白い髪、そして白い髭の生えたおじいさんが立っていた。

    こんな人知らない。絶対初対面。てか何でこんな人物が学校にいるんだ。
  • 7 空子 id:0tq0uts1

    2012-07-15(日) 03:22:23 [削除依頼]

    「私、佐藤川家に仕えて25年、ボンジュール北野と申します。もう学校が終わるお時間なので理衣様をお迎えにあがりました」

    「あ、ああ、佐藤川君家の執事さん?」

    「校門に車を用意してありますので参りましょう」

    「あ、あの私、行きません」

    「行きません、とは?」

    北野さんが優しそうに微笑みながら首を傾げた。
  • 8 空子 id:0tq0uts1

    2012-07-15(日) 03:25:57 [削除依頼]

    この笑顔を見たら行かないのも申し訳ない気持ちになるんだけれど。

    「折角ですけど、他の子を誘ってください」

    そう言って私は頭を下げた。

    そして席を立ち帰ろうとした瞬間、北野さんが「すいません、私何も聞こえませんでした」とだけ言った。

    「え?」

    それから拍子抜けして抵抗することを忘れていた。

    いや、私の本能がこのご老人に逆らっては危険だと察知したのかもしれない。

    「よっこいしょ」と言って北野さんは私の体を肩に担ぐと、勝手に歩き出した。

    何歳なんだ。軽々と担ぐところからして、その肉体は鍛え上げられているに違いない。
  • 9 空子 id:0tq0uts1

    2012-07-15(日) 03:55:53 [削除依頼]

    私が言葉を発したのは、北野さんが驚いているクラスメイト達に向けて「チャオ」とお辞儀し、教室を出てからだった。

    「ちょっと、降ろしてくださいよ!」

    「聞こえません」

    「降ろしてっ」

    「聞こえませんな」

    「き、聞こえとるだろうがオラー!」

    「ほっほっほっ」

    北野さんが笑いながら廊下の階段を軽快に下りていく。

    階段を下りると靴箱があり、北野さんは私の靴をスルーして玄関を出た。


    「靴ー!私の靴ー!」

    校門には黒の車が止めてあった。

    しかも運転手付きの高級車だ。

    その車内に乗せられようとしていると、私たちを追ってくる息の切れた加奈子の姿に気づいた。

    心の友よ、私が連れ去られているから心配してくれてるんだね。

    「加奈子ー!助けて!」

    「理衣ー!」

    加奈子は大きな声で叫ぶと私に向かって笑顔で手をふった。

    「がんばってこいよー!」

    同じく担任やクラスメイト達が「うらやましいぞ」「いってらっしゃい」と笑顔で手をふっているのを見て、私はいつか復習してやると誓った。

    その横で北野さんが微笑んだ。

    「しゅっぱーつ!」
  • 10 由菜 id:OtSd..E/

    2012-07-15(日) 04:01:10 [削除依頼]
    おもしろい!

    続き気になります!

    更新頑張ってください^^
  • 11 空子 id:i-vcCQuKG/

    2012-07-15(日) 12:12:47 [削除依頼]
    由菜サン
    ありがとうございます(´∀`*)
    マイペースでガンバリマス♪♪
  • 12 空子 id:PFIdWYI.

    2012-07-15(日) 12:53:08 [削除依頼]

    佐藤川の豪邸には、車で10分もしないうちに着いた。

    車から降りると、私はその自分の家と比べものにならないぐらい広い敷地にある豪邸を見て息を飲んだ。

    何だここは、将軍様のお屋敷か。

    お屋敷の主は水戸光圀公か。

    「この家は世界でも有名な建築デザイナーが、日本の和をテーマに高級な木を使い手がけております」

    「凄いですね…」

    「では参りましょう」

    北野さんがお屋敷の門を開けてエスコートしてくれるのに私はただついて行くしかなかった。

    帰りたいのに帰れない、くそこうなったら、このお屋敷を満喫してやる。

    「この部屋でございます」

    そう言うと北野さんは、ふすまの閉められた部屋の前で止まった。
  • 13 空子 id:Av58rfs/

    2012-07-15(日) 19:32:12 [削除依頼]

    それからスーツのポケットから折りたたんだ1枚の紙を出して、開くと私に見せてきた。

    招待条件。そう大きな文字で書かれた後に、箇条書きでいくつか文章が書かれている。

    何か嫌な予感がする。

    「青山田理衣様、改めまして今日は佐藤川家へ起こしいただきましてありがとうございます」

    いや、無理矢理連れてこられたんですけど。

    「理衣様は何故招待されたのかまだお分かりじゃないと思いますので、私目から説明させていただきます」

    「お願いします」

    「昴様は佐藤川家の大事な跡取りにございます。それ故、高校を卒業後は佐藤川企業の副社長に就任される予定です」

    「副社長!?いきなりですか?」

    「はい。ですから一刻も早く自立していただき、家庭を持っていただきたいのです。その将来の良き昴様の妻となられる方を、昴様が推薦されました。理衣様、あなたです」

    「どうして私なんですか?私一度も佐藤川君と接したことないのに」

    「さあ私には分かりませんが、昴様が結婚するなら絶対にあなただとお父様で社長の建造様におっしゃっていました」

    意味が分からない。

    佐藤川は一体どういうつもりなのだろう。

    「よろしいですか理衣様。この部屋で社長と昴様がお待ちです」

    「ええっ!?」

    「特別招待の条件は、その一、社長に昴様の将来の妻として認められることです」

    「いや無理です、私!」

    「ではがんばってください」

    そう言うと北野さんはふすまを開けた。

    中は広いお座敷だ。

    畳の上に長いテーブルがあって、奥の方に誰か座っていた。

    あいつだ。佐藤川昴だ。
  • 14 空子 id:Av58rfs/

    2012-07-15(日) 19:53:17 [削除依頼]

    佐藤川がどんな人間なのかも全然知らないし、どんな声でどんな風に笑うのかも分からない。

    そんな関係なのに、あいつは何で私を婚約者に推薦したのだろうか。

    ただあいつについて分かることは、こんな意味の分からないことをする成績優秀男ということだ。

    恐る恐る私は、奥に座っている二人のところへ歩いた。

    「青山田さん、初めまして、昴の父です。どうぞ座ってください」

    「初めまして、青山田理衣です」

    佐藤川の父親が笑顔なことに少しほっとしながら座布団の上に座った。

    隣には無言の佐藤川がいて変な汗が出てくる。

    「どんな子かと思っていたら昴、可愛い子じゃないか」

    「理衣さんとの結婚、許していただけますか?社長」

    初めてちゃんと聞く佐藤川の声は、淡々としていて低い。

    「そうだな、もうちょっと理衣さんのことを知ってからだな。理衣さん、今日は昴と一緒に晩ご飯を食べていってください」

    「えっ、いや悪いです」

    遠慮しないで、と佐藤川に微笑まれ、私は頷くことしかできなかった。
  • 15 空子 id:Av58rfs/

    2012-07-15(日) 20:54:04 [削除依頼]

    「申し訳ないけど仕事が忙しくてね、私はもう失礼するから。理衣さん、またおいで」

    「あ、はい。ありがとうございます」

    社長は立ち上がると急ぎ足で部屋を出て行った。

    部屋に佐藤川と二人になって、急に気まずい気持ちになる。

    もう帰ろうか。でも一緒にご飯食べるって言ってたし。いやでも帰りたい。

    というか、私は何でここにいるんだ。

    「あの、佐藤川君」

    「何?」

    「どういうこと?」

    「どういうことって?」

    しらばっくれるつもりだろうか。そんなことさせてたまるか。

    「結婚って…」

    「あーあ失敗した」

    私が質問しようとすると、座っていた佐藤川君が急に仰向けに寝ころんだ。

    今までと態度が違う。

    どっちかというと態度が悪い。

    「ねえ、何社長から気にいられてんの?」

    「え?」

    「あんたなら社長から嫌われて結婚しなくて済むと思ったのに」

    それから佐藤川君は起き上がって胡座をかき、テーブルの上にあるお茶を一気に飲み干した。

    そして呆然と見て座っている私の手を握り、上下に数回振るとすぐ離した。

    「今日は一応ありがと。もう帰って良いよ」
     
    この言葉を聞いて、私の心の奥の何かが騒ぎ出した。

    佐藤川を睨みつけ、沸き立つ怒りを落ち着かせながら話す。

    「ちょっと、全部説明してくれないかな。勝手に家に連れてきて、結婚だの失敗だの、そんでもう帰って良いって。全然意味が分からないんですけど」

    「何怒ってんの?もしかして結婚本気にした?」

    佐藤川がにやっと笑った。

    悔しい。

    「俺まだ結婚したくないんだよ。だから社長が気に入らない女をつれていけば結婚しなくてすむと思ってそんな女をさがしたの。悪いけど、青山田さんなら気に入られないだろうって思っちゃった」

    ごめんね、と佐藤川は言って私の頭を撫でた。

    完全に人のことを馬鹿にしてる。

    許さない。

    私は悔しいことや悲しいことがあっても、解決するのは忍耐だと思ってる。

    ただただ我慢する。

    そうすればきっと大きい人間になれる。

    「さよなら」

    私はそう言って佐藤川に頭を下げると部屋を出た。

    後ろで佐藤川が「つまんない女」と言っているのが聞こえた。
  • 16 空子 id:Av58rfs/

    2012-07-15(日) 21:43:40 [削除依頼]

    「理衣、昨日どうだった?」

    教室に入った途端、加奈子が話しかけてきた。

    好奇心に満ちた顔を見ると、本当のことを話すか躊躇してしまう。

    だけど嘘はいけない。

    「佐藤川って最低な男だったよ」

    「何それ?何があったの?」

    「結婚したくないから、親に嫌われそうな私を婚約者に推薦したみたい」

    「はあ?嘘でしょ?」

    加奈子の驚く顔を見たら泣きそうになった。

    そりゃあ誰だって驚く、こんな話。

    女のプライドがズタズタだ。

    「でもおかしくない?」

    「おかしいって何が?」

    私は加奈子が指さす方を見た。

    そこには教室のドアの前でこちらに手を振っている佐藤川の姿があった。

    昨日あんなことがあったのに笑顔だ。

    信じられない。

    「青山田さん、ちょっと話があるんだけど」

    そう言う佐藤川の言葉を聞いて、私は加奈子と目を合わせる。

    「理衣、行ってきたら?」

    「でも」

    「良いからいってきな、昨日のことは誤解かもしれないし」

    加奈子に背中を押され、渋々佐藤川へ近づいていく。

    気のせいか、教室中の視線が集まっているような。

    しかも女子からは嫉妬のまなざしだ。

    「ここじゃ何だから、隣の美術室に行こう」

    「うん」

    佐藤川について私は美術室に入った。
  • 17 空子 id:Av58rfs/

    2012-07-15(日) 22:12:03 [削除依頼]

    美術室は普段授業がないときは、窓にカーテンがされているから薄暗い。

    そのため少し緊張するというか、怖いというか、私は暗いところが苦手だからあまり好きではない。

    好きではない場所で好きではない人間と一緒にいるから、早く教室に戻りたい。

    早く戻れるかは、多分こいつ次第だ。

    「単刀直入にいうと、青山田さんにまた社長と会って欲しい」

    「何で?」

    「社長が青山田さんを気に入ったみたいでまた家に連れてこいって」

    私はあきれてため息をはいた。

    「結婚したくないんでしょ?」

    「そうなんだけど、社長のいうことは絶対だから」

    「じゃあ結婚もしたらいいじゃん、私じゃなくて好きな子とさ!」

    私の声が美術室に響く。

    誰かに聞かれたらどうしようとか思わない。

    むしろ聞かれちまえ、そしてばれれば良い。

    こいつが学校ではモテモテのいい男でも、本当は最低だってこと。

    「結婚は本当にしたくないんだ」

    そう言うと佐藤川はズボンのポケットから一枚紙を出して、私に向かって差し出した。

    「俺と取引しない?」

    「取引って?」

    紙には契約書と書かれていた。

    「俺のフィアンセになってよ。期間は分からないけど、でもその代わりに俺は青山田さんのいうことを何でも聞くから」
  • 18 空子 id:Av58rfs/

    2012-07-15(日) 22:40:29 [削除依頼]
    眠い。。今日はここまで
  • 19 空子 id:T.5cMrg/

    2012-07-16(月) 17:01:24 [削除依頼]

    な、何でも?何この人。完全に頭おかしい。

    「断る!」

    「お願い。お金だっていくらでも払うから」

    「絶対嫌だ」

    「頼むよ、ねっ良いでしょ?」

    「もうやだ」

    右腕を掴んでくる佐藤川の左手を私は振り払った。

    こんなやつに触られるなんて不快だ。

    暫く二人とも沈黙になる。

    その沈黙を先に破ったのは佐藤川だった。

    「じゃあこれでどう?」

    そう言って佐藤川は私の顔に顔を近づけてきた。

    まさか、これは。

    「おいそろそろやめとけ」

    ん?何?誰?

    私は声のする方を見た。

    そこには佐藤川の体を私から無理矢理引き離す、同じクラスの槇の姿があった。
  • 20 空子 id:VWuowpv.

    2012-07-17(火) 21:32:44 [削除依頼]

    「槇君?何でここに」

    「ちょっと用事あって」

    用事って何のことだろう、と私は開いた口が塞がらないまま槇君と佐藤川を交互に見た。

    佐藤川もいきなり槇君が来たから驚いたみたいだ。

    不思議そうな顔をしている。

    驚かせた本人の槇君はとてもクールに、私の制服の袖を掴んでいるのだけど。

    掴むところ微妙じゃない?


    「青山田、行こう」

    槇君が歩き出すと、引っ張られながら一緒に歩いた。

    男だし背が高いから歩くペースが早い。

    そのため、一生懸命歩幅を合わせる。

    でももう少しでドアというところで、佐藤川から阻止されてしまった。

    「まだ話終わってないけど」

    私の左手を掴むと、振り返った私をじっと見つめてくる。

    手を掴む力が強くて怖い。

    逆らえない。

    でもね、私はそんな柔な女じゃないのだよ。

    「いい加減にしろ!」

    大きな声を出すと、今までたまっていたもやもやがすっきり全部消えた気がした。

    「あんたには誠意ってもんはないの?世界が自分中心に回ってるんだよ、人からされて嫌なことは他人にすんな!」

    そう言い終わった後、佐藤川を見つめながら思う。

    言ってやった。

    ああ気分が最高。


    「おい」

    目を丸くした佐藤川が何か言おうとしたので、私は逃げるように美術室を出た。

    右手は槇君の手を掴んで、そのまま息を切らしながら全速力で教室に入った。

    「青山田」

    呼ばれて槇君を見ると、槇君は大爆笑し始めた。

    クラスのみんながその声にびっくりしている。

    何だかなあ。

    「お前、キレすぎ、ぶははっ、おもしろっ」

    「槇君」

    「ん?」

    「ありがとう」

    槇君は一瞬キョトンとしたけど、顔を俯かせながら「どういたしまして」と言った。

    意外と照れ屋なのか。

    私と同じにおいを感じる。

    「青山田、一つ言って良い?」

    「何?」

    「そろそろ手離して」

    「ああっ!」

    私の手には強く槇君の手が握られている。

    それに気づくとすぐに離した。

    「ごめんね、槇君」

    槇君がまたおもしろそうに笑った。
  • 21 空子 id:VWuowpv.

    2012-07-17(火) 23:25:25 [削除依頼]

    それから何もなかったように一週間が経って、また平和な毎日を過ごしていた矢先。

    「ねえ、何のギャグ?」

    「おこんばんは」

    おこんばんはじゃねーよ、と心の中で呟きながら目の前に立っている佐藤川を睨む。

    空は真っ暗、少々星、夜家に男が訪ねてくるなんて初めてだ。

    ただし、望んでいないのだけど。

    「何で来た?」

    「ハニーに会いたくて」

    ドアを閉めようとすると、すかさず佐藤川が慌てて止める。

    「うそうそ!冗談です」

    何かこないだと雰囲気が違うから調子狂うな。

    ご機嫌だし、冗談とか言ってるし、笑顔だし。


    「少し歩く?」

    「良いの!?」

    私が玄関を出て道路を歩き出すと、佐藤川は嬉しそうについてきた。

    まるで犬のようだ。

    そうだな、隣の家の犬に似ている、ばかなところが。

    「あの、こないだはごめん」

    振り返って立ち止まる。

    佐藤川から真剣な目で見つめられていて、少しドキッとした。

    こないだと全然人が違うじゃん。

    「もう良いよ」


    「こないだ怒鳴られて俺目が覚めた。本当に自分勝手だったよな」

    「分かってくれたなら良かった」

    私は何だか照れくさくなって佐藤川から目をそらした。

    そして目についた公園のベンチを指さした。

    「座る?」
  • 22 空子 id:VWuowpv.

    2012-07-17(火) 23:38:38 [削除依頼]

    人のいない公園はまずかったか?まあ、大丈夫だろう。

    隣に座る佐藤川に目をやると、佐藤川がにこっと笑った。

    この笑顔を見たらこないだまでのこと許しても良いかな、と思う。

    甘いか、私。

    「青山田さんってよく見たらKIKIに似てるね」

    「そんなKIKIになんか似てないよ」

    「似てるよ」

    可愛い、と笑顔で顔を覗き込まれる。

    やばい、何、このドキドキ。

    「青山田さん」

    「は、はい…」

    佐藤川は急に立ち上がると、ベンチの上に土下座した。

    「お願いします。俺の婚約者のふりしてください!!」

    「はい?」
  • 23 空子 id:fFWnZb3/

    2012-07-18(水) 00:29:35 [削除依頼]

    佐藤川がベンチにぴたっと額をつけている姿が信じられないのと、困るのとで私は恐る恐る話しかける。

    「あの、土下座やめて」

    「お願い聞いてくれるまではやめない!」

    「はあ?」

    こいつやっぱりやだ。

    「顔上げてよ」

    「無理」

    「佐藤川君ってば」

    「お願い聞いてくれるなら土下座やめる」

    「じゃあ一生土下座してれば?」

    立ち上がると、振り返らずに歩き出す。

    街灯だけが頼りな真っ暗な公園で何をやっているんだ、私たちは、ああ馬鹿馬鹿しい。

    公園の入り口を出ようとすると、後ろから佐藤川が叫んだ。

    「俺、恋したことないんだ!」

    これは聞き間違いだろうか。

    佐藤川に恋がなんだって?

    いや別におかしくはないけど、佐藤川ぐらいもてれば好きな子の一人や二人いそうだ。

    なのに。

    「社長が結婚したい人をつれてこないとすぐに社長の選んだ人と結婚させるって言ってるんだ。このままだと社長の選んだ女と結婚することになる。好きでもない、会社の利益のための、そんなつまんない人生の一部を背負って生きていくなんて俺は嫌なんだ」

    好きな人と結婚したいんだ。

    そう言って佐藤川はゆっくり近づいてくると、私の両手を握りしめた。

    「俺が恋するまで、婚約者でいてくれない?ただのふりで良いから」

    「私に本当の婚約者を造るまでのつなぎでいろと?」

    「青山田さん、こないだ言ったよね?俺には誠意はないのかって。あるよ、俺の目を見て、俺真剣なんだ」

    佐藤川の目はまっすぐで泣きそうで、確かに誠意が伝わってくる。

    嫌なほど。

    「分かった、ただし本当の婚約者が見つかったらすぐにやめるから」

    「まじで!?ありがとう!本当にありがとう!」

    佐藤川が握りしめた手を上下にぶんぶんと勢いよく振る。

    潤んだ目をきらきらさせて嬉しそう。

    「じゃあ、今からお互い名前で呼び合おう!おれは昴でもすうでもすうちゃんでも何でも良いよ」

    「そこまでするの?」

    「社長に怪しまれるから」

    私は少し考えて、渋々名前を呼んだ。

    「すうちゃん」

    「何、理衣?」

    な、な、何だこのカップルごっこは。

    「かゆい、かゆい、かゆい」

    両腕をかきむしると、昴が不思議そうな顔をして見せる。

    私は何だかいたたまれなくなって空を見上げた。

    沢山の綺麗な星を見たら、どうにかなるよね、と少しだけ希望が沸いた。
  • 24 空子 id:i-bpsO6lD1

    2012-07-18(水) 00:52:15 [削除依頼]
    また明日(´∀`)ノ
  • 25 空子 id:AdzjpMf0

    2012-07-19(木) 22:41:49 [削除依頼]

    空に浮かぶ羊雲を眺めながらアイスコーヒーを口に入れる。

    砂糖を二杯入れたのにまだ苦い。

    「それで了解したの?良いの?」

    「うん、もうオッケーしちゃったし」

    「本当に良いの?」

    「うん」というと、加奈子のため息が聞こえてきた。

    加奈子が心配してくれる気持ちは分かる。
     
    これが加奈子の話だったら、私なら反対する。

    でも一度決めたことなんだから、始まる前からやめられない。

    「お人好しにも程があるでしょ。昴君も昴君だね、理衣にそんなこと頼むなんて」

    私は窓の前から加奈子が座っているソファに移動すると、加奈子の隣に座った。

    加奈子もアイスコーヒーを飲んでいる。

    砂糖なしのブラックで。

    「大丈夫だよ、何とかなるさ」

    「全く楽観的なんだから」

    「加奈子を紹介しようか、佐藤川の恋人候補」

    「嫌だ、この話聞いたら幻滅しちゃった」

    加奈子は「ま、がんばれよ」と私の背中を叩くとにやりと笑った。

    「そういえば、半年前に佐藤川から家に招待された神崎さんはどうなったんだろう。理衣知ってる?」

    「神崎さんって2−Eの?知らない」

    「理衣に婚約者のふりを頼むってことは、結局神崎さんとは結婚にならなかったってことか」

    あまりその話に興味がなくてテレビをつけると同時に、私の携帯が鳴った。

    昴からメールだ。

    「今暇?迎えにきたんだけど」
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