漆黒に恋、46コメント

1 虎辻 凪 id:rO99oqF/

2012-06-22(金) 15:33:52 [削除依頼]


 彼が助けた美少女は――――殺し屋でした。

.



「殺されたくなかったら、私と恋してよ」


                【漆黒に恋、】
  • 27 虎辻 凪 id:z44sekz0

    2012-06-24(日) 21:52:51 [削除依頼]
    「…………は?」

     潮は一瞬自分の聞き間違えだと思った。
     思わず、口が半開きになってしまう。紫の瞳も見開いた。
     潮が知っている脅しの手は、お金か身体だった。カツアゲはするほうではないが、されたことはある。潮はいつもしてきた相手を、倍返し以上に打ちのめしていたが。とにかく、脅しが告白なんて、夢にまでも思っていなかったのだ。

    「私は本気よ。じゃないと撃つわ」

     美しい少女はニコリと微笑む。その姿には微かに黒いオーラがあった。
     どう対応していいのかわからない潮。ただ一つわかっているのは、少女が本気だということ。本気で自分を殺そうとしているということのみだった。
     彼女は潮が今まで見たこともないほど、可愛らしい。普通なかたちで出会っていたら、潮はまず一目惚れしているだろう。だが、彼は今、拳銃を突きつけられて、死の隣で告白されているのだ。

    「えっ、と……」
    「気に入らないわね、もういいわ」

     潮が言葉を詰まらせると、少女が露骨に嫌な顔をした。
     少女の言葉に、潮の背中が一瞬震える。ゴクッと唾をのんだ。

    「殺.してあげる」

     彼女の声とともに、ガチャッという機械音がした。
     少女が指に小さな力を入れる。

     静かな、夜だった。
     濁った鉄砲音が、辺りに響いた。
  • 28 虎辻 凪 id:z44sekz0

    2012-06-24(日) 21:54:58 [削除依頼]
    *漆黒に訂正、 ぎゃあっ! なんかへんな更新してる泣 ごめんなさい、ごめんなさい、 >26は無視してください。途中でおしてしまったみたいです。 本当に申し訳ありませんでしたっ!
  • 29 虎辻 凪 id:z44sekz0

    2012-06-24(日) 22:16:48 [削除依頼]
    *

    「ちょっと待つゾッ!!」

     潮は、死んだ。と、思っていた。
    しかし、痛みはなかった。何も感じなかった。一瞬、死んでいるからだと思ったが、血は流れていないし、視界も安定している。つまり、自分は生きているのだ、と理解した。
     潮は、ほんの少し前を思い返す。そして鉄砲音が響いたと同時に、機械のような甘いアニメ声が聞こえたのを思い出した。
     口を開けたまま、潮が少し視線をずらすと、煙が見えた。
     少女の拳銃の銃口から出た、微かに紫がかった淡い煙だった。

    「どーゆうことだ……?」

     自然と口から声が漏れる。
     目の前を見ると、少女がいた。しかし、少女はさきほどと違い、ななめ後ろを見ている。拳銃はもう、潮の額ではなく、肩の横の位置にあった。
     無意識にななめ後ろを見ると、多少距離が離れたところに背の小さい少女がいた。右斜めによった目を隠す前髪、小柄な彼女に似合う茶髪のショート。真上にリボンがついた黒いカチューシャ、ゴシックロリータ風の黒と白のシフォンファンピース。その姿から、潮には小悪魔のように感じられた。

    「フライディ? 何でいるの?」
    「ロサがあまりにも遅いから、きたんだゾ!」

     美少女の無表情な問いに、フライディと呼ばれた小悪魔のような少女は頬を膨らませて言った。
  • 30 虎辻 凪 id:z44sekz0

    2012-06-24(日) 22:33:22 [削除依頼]
     潮は訳が分からず、呆気にとられていた。
     そんな彼を無視して、二人は会話している。

    「もう行くところだったわよ、彼を連れて」
    「彼? 誰だゾ? ロサ、まだ殺.してなかったゾ?」

     フライディが、ロサと呼ばれた美少女に尋ねる。
     ロサは軽く微笑むと、顔の向きをかえて、再び潮と視線を合わせた。
     潮は突然のことに僅かに胸が高鳴る。ポカンとしていたため、余計反応が大きかった。
     ロサは、そんな彼に構わず、桃色の柔らかい唇を開く。

    「貴方、私たちの“黒”にきてもらうから」
    「っ、はぁ!?」

     ロサの言葉に、潮は度肝を抜かれた。
     途端に、脳に渦巻が浮かび、躍り上がる。
     ――――さっき殺.されかけたよな、俺!? 死ぬとこだったよな、俺!? 意味わかんねぇ、この女! 
     心の中の自分が叫ぶ。そしてそれは、いつのまにか声にも出ていた。

    「意味、分からないんスけど……」
    「そのままよ」
     
     ロサは、きょとんとした愛らしい顔で、淡々と続けた。
  • 31 虎辻 凪 id:z44sekz0

    2012-06-24(日) 22:52:51 [削除依頼]
    「私たちの“黒”に入らなければ、今ここで貴方を殺.す――つまり、貴方は死.ぬ。もしここで“黒”に入るといったのならば、貴方は生きて他人を殺.すことになる――つまり、他人が死.ぬ。あなたはどちらを選ぶ?」

     その言葉は嫌なほど潮の心に突き刺さった。
     ロサの大きな黒目はまっすぐ彼を捉えている。まるで、真実を知っているかのような目だった。
     彼女のななめ後ろにいるフライディは、可笑しそうに笑っている。潮はロサの言い分から、このフライディという少女も、“黒”だということは見当ついていた。

    「どちらを選んでも、貴方は漆黒に染まる」

     ロサは静かに言う。
     しかし、この言葉は潮にはあまり意味が分からなかった。
    それは感じたのか、いつのまにかロサの隣に立っていたフライディが、アニメ声を出した。

    「“黒”に入らなかったら、キミはフライディたちに殺.される――“黒”に殺.されるゾ。だから漆黒に染まるんだゾ。もし“黒”に入ったら、その時点でキミは殺.し屋となり漆黒に染まるんだゾ」

     殺.し屋――否、犯.罪者となる。
    潮は、不良だ。暴力行為は当たり前である。これでも普通は、警察に目をつけられるであろう。
    しかし、“黒”は犯.罪者だ。目をつけられるだけではすまされないかもしれない。潮はまだ、“黒”の仕事を知らない。
     自分が死.ぬか、他人が死.ぬか。潮は人間だ。答えは決まっていた。

    「俺は――――」

     口が動いた。

    「“黒”に入る」

    .

     ――青年は、漆黒に染まる。
  • 32 虎辻 凪 id:n42ice1/

    2012-06-25(月) 16:02:44 [削除依頼]
     潮は意を決して言ったつもりだが、目の前にいるロサは何ら乗じず柔らかい口調で返す。それはまるで答えを知っていたかのように、潮には聞こえた。

    「男に二言は無いわ。……これで正式な“黒”になるわね」

     ロサの最後の言葉は、嬉しいような悲しいような入り混じった感情が入っていた。
     少し俯いて黙っている潮を気にかけたのか、ロサは続ける。

    「私はロサ。本名ではないわ、“黒”としての名前なの。この子はフライディという名前よ」
    「よろしくだゾ! イケメンくんの名前を聞いてないゾ?」

     フライディはアニメ声を弾ませて問いかける。澄んだ灰色の瞳が、潮をとらえる。
     潮はこの時、自分が“黒”になった、という事実を実感していた。口先では言ったものの、彼はあまり感覚がつかめていなかった。だが、彼女たちの“黒”としての自己紹介は、彼にとって自分も“黒”――否“犯.罪者”になったことを思い知らせてくれた。

    「神様の神に中宮の宮、高潮の潮で……神宮潮(しんぐう うしお)」

     潮は小さく口を動かせる。
     小さいころから、変わった名前だと言われた。特に、名字については散々言われていたのを、潮は覚えている。凶暴なお前に似合わない、金持ちみたいな名字はお前に合ってない、などなど。自分が好きで決めた訳でも無いのに、名前に文句を言ってくる奴らを、潮はいつも馬鹿げた目で見ていた。
  • 33 虎辻 凪 id:n42ice1/

    2012-06-25(月) 16:24:29 [削除依頼]
     潮が言い終わると、すぐにフライディが何かを考え込む様子をする。
     ロサはそれを文句ひとつ言わずに待っていたので、三人の間には少しの沈黙ができた。
     そして突然、フライディが口を開いた。黒く塗られた爪が目立つ小さな指を、潮に向けながら。

    「キミ知ってるゾ! 安善高校の一年だゾ!」

     突然指を指され決めつけられたように言われた潮。だが、内容はあっていたので、顔を引きつらせながら頷く。
     潮は中学生時代結構荒れていた不良だった。勿論、その名前は地域に轟くはず。最初はなぜ知っているのかと驚いたものの、そのせいで知ったのかと潮は勝手に思っていた。
     しかし、それでもフライディが知るはずがない。なんて言ったって彼女は“黒”だ。安善高校周辺の地域住民ではないだろう。だが、頭の悪い潮には、そこまで頭をまわらす力がなかった。
     
    「変わった名前だから覚えてたんだゾ」

     フライディはそう言って、白い綺麗な歯を見せた。
     “変わった名前”――潮は軽い溜息を吐きそうになったのをこらえる。
     その刹那、ロサが微笑んだ。目の前にいた潮は不意の笑顔に、心が揺れる。

    「そう? 神宮潮、良い名前よ」

     透き通った声。潮の心にまるで風が吹き抜けたようだった。
     可愛らしい彼女は、少し間を開けて続ける。そのときには微笑みではなく、黒く大きな瞳が見開かれていた。

    「じゃあ、貴方はこれから“ゼノ”という名前にしてね」

     ――――よろしく、ゼノ。
  • 34 虎辻 凪 id:n42ice1/

    2012-06-25(月) 16:54:03 [削除依頼]
     ロサの言葉を聞いた瞬間、潮はゼノが“黒”としての名前だということを理解した。
     
    「カッコいいゾ! 意味があるんだゾ?」
    「……秘密よ。フライディにはまだ分からないわ」
    「むー。フライもロサと同じ歳だゾ」

     ロサのあっさりとした答えに、フライディは口をとがらせる。
     潮は二人の会話から、ゼノという名前には意味があり、またこの二人の少女は同じ歳だと知った。後々わかったのだが、ロサという名前にはラテン語で薔薇という意味があった。

    「……さあ、じゃあもう行くわよ。アウルムさん達に怒られるわ」

     ロサが拳銃をホルスターに入れながら言う。言い終わった後、ホルスターを左太ももに結んだ紫のリボンの輪に入れ、固定した。
     その時、潮は無意識に彼女を見ていた。小さな顔に色白の肌。短すぎるミニワンピースから露わになった細く長い足。彼女に似合う黒いヒールの靴。思わず見とれてしまう、華奢な体。
     ひとめ見たら、誰だって彼女に惚れてしまうほどだった。
     ただ、一つだけ難点なのは彼女が殺し屋、“黒”ということだ。そして、潮自身もまた、“黒”なのだ。

    「私についてきて。私たちの“黒”の隠れ家がある」

     ロサはそう言い、歩き出した。フライディも、彼女の隣につき足を弾ませる。
     潮も、大きく息を吸った後、そのあとに続いて行った。
  • 35 虎辻 凪 id:n42ice1/

    2012-06-25(月) 17:26:32 [削除依頼]
    *

     歩いた道は、そう長くなかった。
     空き家が並んでいる道を通り過ぎ、空き地を歩く。真夜中を過ぎているため道は暗く、人もいないため静かだった。しかし、足の感触から、道の上にゴミや武器がたまっているのは確信することができる。だが誰一人としてそのことを話題にはしなかった。
     歩いているときは会話が弾んだ。フライディが潮に色々聞いてきたからである。誕生日に血液型、好きなものなど。潮はそっけなく答えていたが、フライディは満足そうに笑っていた。
     ロサも途中途中で会話に入り、潮からすれば登校時の会話に思えた。彼は不登校だが、雰囲気からしてそんな風に感じられる。
     しかし、今自分が向かっている先は“黒”の隠れ家なのだ。潮はそのことを、心の中で常に繰り返していた。

    「この森をすぐ歩けば、家が見えるの」
    「裏町の奥に、森なんてあったのか……」

     慣れた口調で言うロサをよそに、潮は一人感心する。
     目の前には背丈が高い木が数えきれないほどたっていた。規則正しく並んでいて、茂った深緑の葉をつけている。目の前は茶色と深緑に染まっていて、その奥は何も見えなかった。
     裏町に一人で住み始めたのは中学一年生の頃だったが、森があるなんて初耳だ。裏町は広いし、納得できなくもない。だが、こんなゴミ町にこんなにも立派な木々が生えていることに驚いた。

    「ボッーとしてないで、早く行くわよ。ゼノ」

     フライディが先にいってしまったらしく、微かに慌てているロサが言った。
     潮は一瞬動きが止まったものの、すぐに彼女のあとを小走りでついていった。
  • 36 虎辻 凪 id:n42ice1/

    2012-06-25(月) 17:41:40 [削除依頼]
    *

     立派な煉瓦の家だ。潮の第一印象はそれだった。
     周りは背丈が高い木々。目の前にはそれに負けないくらいの高さを持つ大きな家。
     まるで森の中にぽっかり大きな穴があいたように、木々が生えていない地面が広がっていて、その半分の敷地を使うほどの家が建っていたのだ。家の周りは広場のように何もなく、綺麗だった。
     大きな家は赤茶色の煉瓦でつくられた煙突もある、おとぎ話ででてきそうな雰囲気をしている。潮は完全に目を奪われていた。

    「すげぇ……」

     潮は耐え切れずに声に出した。ロサも、でしょ、と同意する。
     その刹那だった。

    「アンタら遅いんやァァ!! ボケェ!」

     家から大人びた女性の荒げた声が聞こえた。
     潮が驚いて目を向けると同時に、ロサが言う。

    「ゼノ、来てっ」

     そう言い放つと、彼女は小走りに家に入っていく。
     潮は言われた通りのまま、彼女についていき、恐る恐る赤茶色の美しい装飾をしたドアを開ける。

     彼の紫の瞳に映った光景は、予想をはるかにこえたものだった。
  • 37 虎辻 凪 id:2GRt1L80

    2012-06-26(火) 00:00:13 [削除依頼]
     目の前には、赤い血。
     正確にいえば、目の前にいる女性の腕から流れている、右腕を真っ赤に染めるほどの大量の赤い血。
     勿論、潮の思考回路は停止した。半開きの口に目が点になっている。
     そんな彼をよそに目の前では乱闘ともいえる喧嘩が繰り広げられていた。
     
    「フライ。アンタまた勝手に盗みよったな」
    「何のことだゾ? 血のりなんて盗んでないゾ」
    「今オノレで言うたやろ」

     右腕が鮮血に染まった関西弁の女性が、真向いにいるフライディに向かって睨みながら言った。
     関西弁の女性は、フライディに比べて身長が結構高く、大人びていた。キリッとした黒目に美しい顔立ち。前髪は真ん中でわかれていて、黄金色のストレートの長髪がツインテールで縛られている。髪ゴムについた鈴が、彼女の動きとともに軽やかな音色を放つ。へそと胸元を露出した大胆な黒い上着に、黒いカーゴパンツ。どちらとも、黒い生地に淡い黄色の花がところどころに描かれていた。
     潮はその容姿から、妖艶な大人の女性という第一印象を持った。

    「フライもホンマの血流しいや!」

     潮が呆気にとられていると、関西弁の女性が真向いのフライディに向かって、何かを素早く投げる。それは刃先が鋭く光る、小型ナイフだった。
  • 38 虎辻 凪 id:2GRt1L80

    2012-06-26(火) 00:25:39 [削除依頼]
     ナイフはまるで糸を通るかのように、真横に進む。
     フライディは目の前にきたナイフを舌打ちをしながらかわし、それと同時にポケットからあるものをとりだした。数枚のトランプカードだった。
     小さな指の間にトランプを持つと、彼女は勢いよく関西弁の女性に投げつけた。それはトランプとは思えない素早さで風をきる。
     関西弁の女性はまたもやどこからか出したかわからない小型ナイフで、トランプを弾き斬ろうとした。しかし、それは傷さえつかず、ただ弾かれて、妙な金属音をたてて関西弁の女性の足元に落ちていった。

    「何度やっても無駄だゾ! そのトランプは鉄でできているんだゾ、それじゃきれないゾ」

     フライディの満足そうな言い分に、関西弁の女性は鋭い瞳で睨み返す。そして、もう一度、ナイフを握っている手に力をこめた――その時。ドンッという濁った鉄砲音とともにそれに負けないくらいの大声が部屋に響いた。

    「フライディ、アウルムさん! やめなさいよっ!!」

     まぎれもなくロサだった。
     黙りこくっていた潮はもちろん、フライディ、アウルムと呼ばれた関西弁の女性は動きをピタッと止める。
  • 39 虎辻 凪 id:2GRt1L80

    2012-06-26(火) 00:53:35 [削除依頼]
    「すまんすまん。だが何も撃つことはないやろ」
    「びっくりしたゾー」

     アウルムとフライディはそう言いながら、ナイフとトランプをしまう。その声には反省や驚いている様子は全くなく、ただ気が抜けたような声色だった。
     それを見計らったのか、ロサは二人に近づいてまた何かを言う。二人は渋々ながらも相槌を打っていた。
     そんな中、思考回路をとりもどした潮は、いったん溜息をついて辺りを見渡した。四方八方壁に囲まれていて、扉が何か所もある大きな部屋だった。靴は脱がないシステムになっていて、家具は何も無い。普通の家ならばリビングやらを想像させる空間だったが、殺風景な広い部屋はそれを一切感じなかった。

    「ゼノ、大丈夫? ちょっといいかしら」

     大きな部屋を見渡す潮に、ロサが愛らしい顔を傾けてきた。とても、先ほど拳銃を手に持って大声で叫んだ少女とは思えない。

    「紹介するわ、この人はアウルムさん。二十七歳の女性よ」

     ロサが、アウルムを紹介した。
     アウルムは潮よりも少し背が高かったため、潮が感じる威圧感は大きかった。
     
    「ウチも“黒”や。金にはうるさいでぇ」

     アウルムが口元だけあげて、妖艶に笑みを零した。
  • 40 虎辻 凪 id:2GRt1L80

    2012-06-26(火) 18:43:38 [削除依頼]
     軽く自己紹介をするアウルムの口ぶりは、まるで潮がここに来ることを知っていたかのようだった。
     それが潮の顔に出ていたのか、アウルムがクスッと再び口角を上げる。

    「何で自分見ても驚かないの、って顔してはんな」

     図星の潮は背中を引く。彼女は続けた。

    「さっきロサから聞いたんや。まあ、ロサたちが遅いちゅー時点で何かあると思うたけどな」

     ニヤニヤとした何かを含んだ笑み。不気味である。
     ロサ達が口喧嘩のような会話をくりひろげる中、潮は頭の中にある渦巻に襲われていた。自分が選んだ道は正しかったのか、否か。その答えに彼は苦しんでいた。
     そんな中、広く白い部屋にガチャリ、とゆっくりとした金属音が伝わった。部屋の周りにいくつかある扉の一つが、開けられたのである。
     潮は当然の如く、言い合いをやめたロサたちも、その一点に視点を集める。周りの白い壁のせいでやけに目立つ黒色の扉から、背の高い男が出てきた。
     耳までの黒髪、黒い眼鏡、整った顔。長い手足に黒スーツがよく似合う、大人びた男性だった。白い部屋に、彼の容姿はとても存在感があった。

    「ニゲルさん! ……大変遅くなってしまい、申し訳ないです」

     ロサが先ほどまでとはガラッと変わった口調で、黒髪の男性に言った。
     ニゲルと呼ばれた黒髪の男性は、冷酷な目を光らせ、潮を見る。

     その漆黒の瞳は、何もかも見透かすように澄んでいて、暗かった。
  • 41 虎辻 凪 id:2GRt1L80

    2012-06-26(火) 19:08:07 [削除依頼]
    「彼、神宮潮というんですけど、えっと……」
    「――いや、いい。だいたい見当は付く」

     ロサの言葉を遮るニゲル。
     冷たい対応だったが、潮のことについて何といえば良いのかわからなかったロサは、ホッと胸をなでおろした。
     ニゲルは、潮の目の前に近づくと、微かに口先を上げて言う。
     彼は潮よりも背が高く、見た目からして二十代後半。だが、圧倒的に強いオーラを持っていた。潮さえも、背中に悪寒のようなものが走ったほどだ。それだけ、威圧感が大きいということである。

    「お前の目を見れば話は分かった。俺はニゲル、“黒”『ブラックフラワー』のボスだ。これから宜しくな」

     ニゲルの声は静かだった。
     潮は、彼の言葉に顔をゆがませる。疑問を口にした。

    「ブラックフラワー?」

     彼の問いにすぐにフライディが反応した。
     指を一本たてて、なぜか自慢げな口調で語る。

    「“黒”はそれぞれ沢山のグループがあるんだゾ。フライたちもそのうちの一つ。“黒”でグループをつくる場合最低でも五人は必要だから、まだ正式なグループじゃなかったんだゾ。でも、ゼノが入ってくれたおかげで正式なグループ、“黒”『ブラックフラワー』になれたんだゾ」

     つまり、『ブラックフラワー』というのは、自分たちのグループ名である。
     ロサが言っていた『これで正式な“黒”になるわね』という言葉はこのことだったのだ、と潮は理解した。
  • 42 虎辻 凪 id:KaWcmkY1

    2012-06-28(木) 23:39:30 [削除依頼]
    *

    「報酬の山分けやー!!」

     いつのまにかいなくなっていたアウルムが、突然、一番右の扉から出てきた。
     手のひらには黒くて大きいスーツケースが抱えられていて、アウルムはそれを両手で大事そうに持っている。

    「今回の報酬は大きいんだゾ。フライディも沢山貰えるゾ」
    「なんやて? ターゲットの居場所つきとめたのはウチやから、ウチのほうが多いはずや」

     フライディの弾んだ口調に、アウルムが睨みながら返す。そしていつもの如く、フライディも反発し、二人は言い合いになった。
     たいていの“黒”は、金で動く。金のために、人を殺.し盗みをし、依頼の者のいうとおりに罪を犯.す。だから“黒”は殺し屋と呼ばれているのだ。

    「……おい。ロサが一番多くもらうはずだろ」

     アウルムたちの言い合いに、ニゲルが口をはさむ。
    あまりに低い声だったため、二人は言い合いをやめて、動くことさえ躊躇った。
     不意に自分の名前がでたことに戸惑うロサ。顔を少し引きつらせながら、小さく口を開いた。

    「えっと、それなんですけど……。ターゲットを瀕.死にさせたのは私じゃなくて、ゼノなんです。殴りと蹴りで一瞬で決めてしまって、私も驚きました。私は瀕死になったところに、とどめをさしただけで……」

     他の三人の視線が、潮に集まった。
  • 43 虎辻 凪 id:KaWcmkY1

    2012-06-28(木) 23:54:30 [削除依頼]
     自分には関係ないと思っていた話だけに、潮は度肝を抜かす。

    「はぁ!? え、ちょ……。いや、そうだけど」

     何といっていいのかわからない潮は、曖昧な返事をする。
     ロサの言うことは本当だが、それにしても彼女は大げさに言い過ぎだった。一瞬ではなかったし、ロサは驚いた様子なんてしていなかった。
     潮はそれを否定しようとしたのだが、うまく言葉が見つからなかった。

    「結構使えるみたいだゾ」
    「ロサがそこまでいうんやから、ホンマなんやな」

     フライディとアウルムはなぜか納得している。
     潮はたまらずロサに文句を言おうとしたが、当のロサはニコニコ笑って聞いてくれる様子も無かった。

    「分かった。報酬の半分はゼノにやろう」

     ニゲルが無表情に言った。
     その言葉でアウルムがスーツケースを開く。スーツケースの中には、ありあまるほどの札束が入っていた。
     潮は驚きのあまり言葉が出なかった。目は点以上、白目に近い目になっている。見るこそ初めてだったが、その輝くオーラから、札束は本物だと確信した潮だった。
     アウルムはその半分を、どこからか出したトレイに置き、潮の前に差し出した。
     何円あるかわからない、それ。トレイを埋め尽くし高ささえも十センチはこえている、それ。
     潮はまだ、夢の世界にいた。

    「ゼノ。この……―――……円はアンタのもんや」

     アウルムからきかされた金額に、潮の意識はほぼ飛びそうになった。
  • 44 虎辻 凪 id:GZyWJci1

    2012-06-29(金) 00:12:02 [削除依頼]
    *

    「ゼノって家近くなんだゾ?」

     時計の針が丑.三つ時を過ぎたころ、フライディが潮に尋ねた。
    やっと現実に戻.ってきた潮は、目的が分からない質問に疑問をもちながらも、頷く。
     すると潮の横にお姉さま座りをしていたロサが、口を開いた。先ほどからずっと大きい白い部屋にいるが、この部屋は家具が一つもないただの空間のため、潮たちは仕方なく床の中央に円をつくるように座っているのだ。ここにニゲルはいない。

    「じゃあ明日の朝、七時にここにきてよ」
    「は? 何で?」

     思わず思っていたことが声にでた潮。
     その答えを口にしたのは、ロサではなく、胡坐をかいたアウルムだった。

    「何でもや。明日になれば分かる」

     意味が分かっていない潮に、再びロサが口を動かす。

    「そうそう、だからゼノはもう帰.っていいよ」
    「は? お.前らは?」

     ゼノの心の問いに、ロサが笑う。それはどこか哀しそうな笑みに、潮は見えた。

    「私たちみんな、親.も帰る場所も無いの。言っておくけど、私たちは“黒”よ?」

    .

    .

     そして、潮が玄関から出ると同時に、ロサは再び微笑んだ。
    その笑みは先ほどとちがい、“黒”の笑みだった。

    「明日来ないと、殺.すから」
  • 45 虎辻 凪 id:GZyWJci1

    2012-06-29(金) 00:22:28 [削除依頼]
    *

    「これから面白くなりそうだゾー」
    「そうやな。明日のゼノの反応が楽しみや」

     フライディとアウルムが渇いた笑みを浮かべながら、口にする。
     二人の雰囲気は、年齢の差を感じさせなかった。

    「アウルムさんが一番驚かれるんじゃないかしら」
    「分からんで。ロサも負けてへん」

     ロサの呟きに、口元をあげるアウルム。
     そんな中、フライディが微かに頬を膨らまして言った。

    「違うゾ。ニゲルさんが一番だゾ」

     その言葉にロサたちは、ああそうか、と納得した表情で頷く。

    「まあ、とにかく」

     ロサが、一旦言葉をきり、続けた。

    「“黒”は甘くないわ」


    ――――もう、逃げられないわよ?


                    2話【漆黒に染まる青年、】完
  • 46 虎辻 凪 id:GZyWJci1

    2012-06-29(金) 00:25:28 [削除依頼]
    *漆黒に雑談、

    なにこのむりやりおわらせた感ww
    まあ、いいよ、自己満足小説だし。←結局
    長くなっちゃったな……。わければよかったかも。
    まあ、こんなペースでやっていくつもりです。はい。

    また、1,2話のまとめとキャラのまとめしたいと思います。
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