僕の石集め〜キミの生きた証〜104コメント

1 劉籐 魅倖 id:1OrBowc1

2012-05-20(日) 19:49:14 [削除依頼]
 
 一人の少年が携帯を耳に押しあてながら町を駆け抜ける。理科学系の研究所で有名なその町は、今やあちこちから煙が上がっていた。
『あのさ、ありがとう』
 彼の髪の色とと同じ白銀の携帯から漏れるのは、彼の大切な少女の声。
 少年は息を切らすだけで、何も答えることができない。
『こんな私と一緒にいてくれて、嬉しかった』
 右へ、左へ。細い道をひたすらに走る。その角を曲がって。
『約束、守れなくて本当にごめんなさい。こんな方法しか選べなくて本当にごめんなさい』
 少女の声が震えていた。少年はまだ焼けていない建物の前で足を止めて、壁に寄り掛かる。
  • 85 劉籐 魅倖 id:EzVdiEU1

    2012-06-23(土) 11:51:48 [削除依頼]
    >82  そこからが、とても曖昧だ。まるでピンぼけしたかのようなぼろぼろの記憶しかない。ただ一つ、覚えているのは、母が何かとても大切なことを言った。それが思い出せない。  何だっただろうか。  結局、地下室に忍んでいた敵が火炎瓶を投げて、燃え盛る地下室から母は俺だけを逃がしたと聞いている。  あの日、あの時何が起こったか知りたくても、それを見た人間で今生きているのは自分だけで、その自分も記憶がない。  そんなことを思い出せば、自然と遠い日に想いが寄る。 「魁絃」
  • 86 劉籐 魅倖 id:EzVdiEU1

    2012-06-23(土) 11:55:31 [削除依頼]
    >85 「魁絃!」  はっと目を開けば、磨秀がいた。もう着くぞ、と眉を寄せて言う。  魁絃は、夢うつつに昔のことを思い出していたのか、と納得した。あの日のことを考えてしまうのはよくあることだった。ぼーっとしているときは、大抵そうなる。自分の記憶の棚を隅から隅までまさぐってでも見つけたい答え。それが見つからない。そういうもどかしさがたまらなかった。  窓の外には、もう空港が見えていた。はしゃぎだす小さな子供の声がやけに耳に響いた。 「勉学、か」  ――ここで俺が学ぶべきことは、何なのだろうか。
  • 87 劉籐 魅倖 id:EzVdiEU1

    2012-06-23(土) 12:03:18 [削除依頼]
    >86  空港の雰囲気は、少し日本とは違った。作りはそんなに違わないはずだが、魁絃にはなんとなく感じや雰囲気が違うように感じる。それは磨秀も同じようで、あたりをきょろきょろ見回して物珍しそうにしている。 「やあ、魁絃さま、磨秀さま」  明るく片腕を上げて声をかけてきたのは、小鳥遊連斗。言っていた通り迎えに来たようだ。 「ありがとうございます、小鳥遊さん」魁絃が頭を下げれば、よくある感じに謙遜する。  さあ行きましょうか、と小鳥遊が案内した。広い空港内を歩き、外に出る。  駐車場にすでに止まっていた車のトランクをあけ、二人の荷物を入れた。
  • 88 劉籐 魅倖 id:EzVdiEU1

    2012-06-23(土) 12:08:50 [削除依頼]
    >87 「こっちはまだ寒いですからね」  魁絃と磨秀が後ろの座席に座る。魁絃はふと磨秀を見上げた。さっきからあんまりしゃべらない。表情は何も読み取れない無表情だ。 「行くところはこのどでかい国のすみっちょです。古い民族衣装なんかが当たり前のところですよ」  小鳥遊が笑いながらそう言えば、やっと磨秀は口を開いた。 「古い民俗伝承なんかも信じられてるわけっすよね?」  磨秀の問いに小鳥遊はそうだよ、と笑いながら答える。
  • 89 劉籐 魅倖 id:EzVdiEU1

    2012-06-23(土) 12:13:02 [削除依頼]
    >88  そういうところにしか、むしろストーンは存在しない。 「長くなりますから、どうぞ寝るなりなんなり好きにしてくださいね」  そういえば、と魁絃はふと思って口を開いた。 「資料とか、ありますか?」  小鳥遊はええ、と短くうなずいた。信号で止まった間に鞄を渡す。その声がさっきとは違い一トーン落としたような気がした。  異変につっかかりを感じつつ、魁絃は鞄を開けた。分厚いファイルの中には資料だらけだ。
  • 90 劉籐 魅倖 id:EzVdiEU1

    2012-06-23(土) 12:17:43 [削除依頼]
    >89 「一番最初に入っている資料の村を中心に動きます。魁絃様のご両親行かれた場所でもあるんですよ」  武尊が。魁絃は自分を抑えつつ資料を見た。雪の降りつもる村だ。時期的には今でも降るらしい。ストーンの名前がいくつか書かれており、たしかに学ぶにはぴったりかもなと笑う。 「新しく見つかったクリソベリルもその村周辺の山奥です」  小鳥遊の声を聞きながら資料を見比べた。隣で、磨秀が次の資料を読む。 「磨秀さまが見ておられる方は、一番最初の村から山をひとつこえたところにある村です」  魁絃が横から覗けば、そちらも数個のストーンの名が記されていた。
  • 91 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:10:37 [削除依頼]
    >90 「そうですね……。クリソベリルについて、いくつか御話ししましょうか」  窓の外は雪が舞い始めた。春でも降るのか、と少々驚きつつ、魁絃は小鳥遊の話に耳を傾けた。 「クリソベリルがストーンとして見つかった場所には、もちろん民俗伝承がありました……その中のひとつですが」  昔、とある旅人が山に入った時の事。  お気に入りの笛を吹いて休養をとっていると、何やら自分の音以外に笛の音が聞こえた。不思議に思った旅人は、笛を吹きながら音の鳴る方へ近づいた。  たどり着いたのは洞窟で、ぼんやりと金緑の光がはなたれて、それはそれは幻想的な風景だったという。
  • 92 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:14:35 [削除依頼]
    >91  音はその洞窟から聞こえた。だから旅人は、その洞窟へと足を踏み入れたのだ。  その金緑の光の中、旅人が見たのは家で笛を吹く自分の母の姿だった。とはいえ、年が見るからにずいぶん若い様子だった。母親はこちらに気づかず、熱心に笛を吹いている。悲しいような、愛しいような旋律に、思わず旅人は涙した。  それで家を飛び出して旅をした自分を後悔し、慌てて自分の家に戻った。  家には老いた母が待っており、彼を優しく抱きとめた。 「とまあ、ありふれたようでありふれていない民俗伝承です」  小鳥遊は肩をすくめるようにして話した。それを聞いていた二人は顔を見合わせ、なるほどな、と息をつく。
  • 93 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:19:22 [削除依頼]
    >92  その話が本当ならば、その洞窟にあった金緑石――クリソベリルが、笛の音を聞いて時空操作をし、旅人を過去の風景へと導いたのだろうが。  それならば、と魁絃は思う。それなら。  ――自分の記憶も、自分の抜けてしまった大切な記憶も、見ることができるだろうか。  もしできたなら、魁絃はずっと気がかりだったあの場面を見たいと思った。ずっと忘れた自分を悔やみ続けた理由になったあの時を。 「俺だったら、自分の小さい頃とか見てみたい気がするけどな〜」  磨秀がいつものへらっとした口調で言った。確かに、それはそれで面白いかもしれないと魁絃は心の中でだけ同意する。
  • 94 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:22:56 [削除依頼]
    >93 「そんなことでいいんですか?」  小鳥遊が口をはさんだ。少し不機嫌になって頬を膨らませた磨秀が尋ね返す。 「じゃあ、小鳥遊さんは何が見たいんですか?」  小鳥遊は窓の外の風景を見つめていた。日本人より背の高い人達が、マフラーを揺らしながら通り過ぎる。 「さて、何でしょうかね……」  その時の彼の横顔はとても寂しそうだった。いわくつきか、と内心魁絃は思う。大体研究所にいる人物はこうだ。何か、過去を背負った人たちばかり。  この人もなんだな、と魁絃は自分の握った手に視線を下ろした。
  • 95 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:26:23 [削除依頼]
    >94 「未来も、見れるということでしたら」  小鳥遊がようやく口を開いた。何か想いを馳せるように語る。 「私たちの研究所がどうなっているか見たいですね」  そういって振り返った小鳥遊は笑っていた。磨秀がぽん、と手を打つ。 「く、とられました……今の名台詞!」  名台詞でもないだろ、と突っ込みそうになるが小鳥遊が言ったことなので突っ込めない。  はは、そうでもないですよ、本心です、と小鳥遊はわらって返していた。そうだったなら俺が言いたかったです、と意地をはる磨秀。
  • 96 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:29:33 [削除依頼]
    >95  止まった車の窓の外には、小さな子供が母親に手をひかれて歩いていた。大事そうに紙袋を抱えている。 「魁絃は、未来が見れるとしたらどうする?」  突然の磨秀の質問に魁絃は戸惑った。そうだな……と言いつつ、考える。  もし未来が見れるなら。第一に出てきたのは自分の姿。いつかは所長になるであろう自分の姿。  ――間違っても父さんみたいにはなりたくないな。  自分でも反抗期真っ盛りだと苦笑する。もう高校生なのに。  隣で磨秀が静かに答えを待っているので、魁絃は口を開いた。
  • 97 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:33:11 [削除依頼]
    >96 「自分がどうなってるか見てみたい、かな」  ああ、それも一理あるなあと磨秀がつぶやく。何もないところを見て目を凝らしているのは、きっと未来の自分を想像しているのだろう。 「でも言ってみれば、過去の自分からしたら今も未来なわけだよな」  何を言い出すのだろう、と磨秀が魁絃をみて首をかしげる。そんな磨秀に構わず魁絃は続けた。 「もし金緑石が未来を見せるとしたら、時間感覚がないと意味ないんじゃないのか?」 「そうか、ストーンにとって未来が今だったら、見せてもらえないよな」    
  • 98 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:36:01 [削除依頼]
    >97 「確かにそうだね」  運転席の小鳥遊がうなずく。そういうのは実際どうなんだろうと首をかしげた。  多分丁度今研究や実験を重ねてそういうのも調べているのだろう、と魁絃は思う。 「でも、人間にも体内時計ってあるだろ? そういうのがストーンの中にあれば、なんとなくでも時代を分かることができるよな?」  磨秀の案に、二人はうなずいた。そういう仕組みがあれば、ストーンだって時が分かるだろう。 「あ、言い忘れてたけど」  小鳥遊が思い出した、と言わんばかりに話し始めた。
  • 99 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:39:03 [削除依頼]
    >98 「外国には石もストーンもないから気をつけて」 「「へっ?」」  言っている意味が分からず、二人して首をかしげた。息ぴったりだな、と驚いて苦笑しつつも小鳥遊は話を続ける。 「だってほら、たとえば英語でも、両方『ストーン』だろ?」  ああ、と最初にうなずいたのは魁絃で、その後磨秀がその十倍ぐらいの声をだしてうなずいた。うるさい! と魁絃に怒鳴られて首をすくませる。 「じゃ、どうやってて区別するんですか?」  魁絃の質問に、小鳥遊は運転しながら答えた。 「目を指さす、って君らもやっているでしょう?」
  • 100 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:40:49 [削除依頼]

    100達成です!長かったんだか短かったんだか……(^_^;)
    反省などはすでに少し前に書いたので100では書きませんが、
    御読みいただいている方々、ありがとうございます<m(__)m>
    これからも御目に書かれれば光栄です。
  • 101 劉籐 魅倖 id:C0oskJF/

    2012-06-25(月) 15:43:59 [削除依頼]
    >99  二人がうなずいたのをバックミラーで確認しつつ、小鳥遊は続けた。 「向こうでは、瞳を指させばストーンってことになるらしい。普通に石だけだったら本当にただの力のない石になる、っていう感じで」 「分かりにくいなあ〜」  磨秀が伸びをしながら言う。小鳥遊も全くです、とうなずきつつ言った。 「まあ、むしろこっちが勝手に英語を借りているようなもんだもんな」  魁絃が言えば、そうですねえと二人は同意する。研究所内だけに通用する言葉は多いから、まあ仕方ないだろうが。
  • 102 劉籐 魅倖 id:GCj..J.0

    2012-06-27(水) 18:45:34 [削除依頼]
    >101 「これからの予定を大雑把に言いますと、まずはこいつで」  小鳥遊がハンドルを指した。車で、という意味だ。 「ヤロスラーヴリという町まで行きます。そこからは鉄道で山脈まで向かいます」  二人は相槌を打った。といっても町の名前なんてものはすぐに忘れるのだが。 「注意点は、まずは財布を出さないでください。日本と違って、こちらは治安が悪いですから」  小鳥遊は苦笑いをしつつ言った。むしろ、日本が平和すぎるのかもしれないな、なんて魁絃は思う。
  • 103 劉籐 魅倖 id:GCj..J.0

    2012-06-27(水) 18:56:07 [削除依頼]
    >102 「たむろしている人たちとは目を合わせず、早足で素早く電車に乗ります」  小鳥遊がハンドルをきる。よほどだな、と魁絃と磨秀は顔を見合わせ。 「駅に着きましたら言いますから、少し休んでください」  小鳥遊がそういうと、磨秀は座席にもたれかかった。魁絃もゆったりと力を抜く。  長旅になりそうだな、と思った。予定なんてものは特に聞かなかったが、きっと帰る頃には夏は始まっているだろう。  ふわふわと舞い散る白い花弁を車の中から見つめ、魁絃はゆっくりと目蓋を閉じた。
  • 104 劉籐 魅倖 id:ug57EMV/

    2012-06-29(金) 18:06:02 [削除依頼]
    >103 「魁絃さん、磨秀さん」  とんとんと叩かれる感覚と、名前を呼ぶ優しい声に二人は目を覚ました。  魁絃がさっと体を上げると、隣の磨秀は目をこすりながらあくびをしていた。結構寝たようで少しだるい。 「着きましたよ」  小鳥遊が笑っていた。窓の外から差し込む日光がまぶしく感じ、一周目をそらす。 「今は何時です?」  時間感覚を取り戻したくなり、魁絃は言った。小鳥遊が腕時計を見る。
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