生きること。幸せになること。29コメント

1 理海 id:N8TmtHk/

2012-04-29(日) 21:09:37 [削除依頼]
 ――今度こそ、サヨナラだね。
 夕暮れ時。色の無い部屋に佇みナイフを握った少女は、心の中でそう呟いた。その言葉は予想以上に少女の心に響いた。自分がこの世界と、そして自分自身とサヨナラをするのだという事実に、少女は目を閉じることで答えた。――やっと私がいるべきところに行ける。少女の口角がゆっくりと上がっていく。その表情は、まるで人間を超越した女神のような笑みだった。少女は白く光るナイフを首筋にあてた。
「……サヨナラ」

 ――なんで死んだの?
 ――あたしには何でも言うって。そう約束したのに。辛いことがあった時にはいつでも分かち合うって約束したのに。彼女は、最愛の友人が死んだ地で泣いた。自分が最も愛する人を護ることが出来なかった。命を懸けてでも護りたかった。だが、愛すべき友人は死んだ。彼女は旅に出た。友人が最後に赴いたあの場所へ。海が美しかった、夕陽が沈んだ、涙が流れた……。そこで出会った新たな友人は、心に闇を抱えていた。

 ――結局人間は偽善に溢れているんだ。
 少女はそう嘆いた。私が希望に満ち溢れていると思っていた世界は、偽善に溢れる白い闇。あたしが蔑んでいた貧困の世界は、ぬくもりが息づく黒い光だったのだ。潤っているように見える偽善の世界、貧しい中に人間の温かさが微笑む世界。あなたはどっちの世界で生きたいですか? あなたはその世界で、幸せでしたか? 私はそこで、幸せになれますか? そこにいることは、あなたにとって誇りですか?
  • 10 まな id:fR.70FZ.

    2012-04-29(日) 22:26:18 [削除依頼]
    さっきsageしてた…ゴメン
  • 11 希罪 id:F7m4XQ91

    2012-04-29(日) 22:35:06 [削除依頼]
    理海さんの新作、待ってましたっ!
    なんか、考えさせられる内容……。
    更新頑張ってください。
  • 12 黒の組織 id:pZ3wNOv0

    2012-04-30(月) 00:56:07 [削除依頼]
    どうも。ブログの記事からサーフィンしてきました。始まり方はいいと思います。執筆頑張って下さい。
  • 13 理海 id:xo7UYAS0

    2012-04-30(月) 11:07:27 [削除依頼]
    >9+10 頑張ります。 >11 ありがとうございます!! 嬉しいです。 頑張ります。希罪さんの新作も楽しみです。 >12 黒の組織さんにそう言われると自信が持てます。 頑張ります!!
  • 14 理海 id:xo7UYAS0

    2012-04-30(月) 15:38:14 [削除依頼]


     真穂は蒼い空が広がる街を歩きだした。まだ朝だったが暑かった。七月初旬、当たり前のように蒸し暑さが押し寄せてきた。真穂は思わず顔をしかめ、半そでのパーカを脱いで丸めた。小さな頃から慣れ親しんできた、いつも通りの道を歩きながら記憶を辿った。
     ――歩美が、死ななきゃいけない理由なんかあるの? “私はたくさんの人を殺して産まれてきたから”なんて、全く意味の分からないことをほざいていた。何で……。
     真穂は、歩美の言葉を反芻しながら過去の記憶を呼び寄せた。……歩美は昔からあの施設に居た。真穂が来るよりずっと前から。
     真穂が今住んでいるのは千葉県にある児童養護施設で、家族を亡くした未就学児から高校生までが和気あいあいと生活をする「やすらぎの里」だ。もちろん真穂もその一人で、シングルマザーの母親を三歳の頃に亡くして「やすらぎの里」へと訪れた。
     そこで出会ったのが歩美だった。山浦歩美、真穂と同じ年で現在高校二年生になる。三歳で施設に訪れた時からルームメイトで、とても仲が良かった。歩美は人見知りなのか心を開かない性格だった。けれど真穂とは隠し事など何もない、お互いに信頼しあう心友だった。だからこそ真穂には、今日の歩美が不思議でたまらなかった。何か悩みごとがあれば真っ先に真穂に相談してきたし、それも自,殺まで思い詰めるような深刻な問題を一人で抱えていたとは思えない。
     そんなふうに考えを巡らせながら街を歩いていると、小さい頃に二人でよく遊んだ公園が見えてきた。さびれたブランコとベンチが適当に設置されている、貧相な公園だ。真穂は久しぶりに公園に足を踏み入れて、ベンチに腰かけた。リボンのアクセントがついた可愛らしいハンドバッグを開くと、さっき脱いだグレーのパーカを丁寧に畳んで仕舞った。
  • 15 wwwwwwww id:XIvi0nf1

    2012-04-30(月) 20:22:02 [削除依頼]
     相当練っておりますな……。
     やっぱりこういうネガティブな話は書いてる自分がノイロ
    ーゼにならないことが重要ですよねw

     どうやらわしが暫く高校野球に熱中しているうちに文力に
    差が付いた様相ですなwww

     完成第一です。がんばってください!
  • 16 えにそるK id:uZN6Tyu/

    2012-04-30(月) 22:59:18 [削除依頼]
    こんばんわ
    タイトルを偶然見つけることができました
    たくさんの困難が予想できますが、幸せな最後をいのっています
  • 17 ichi id:/BrMdAw.

    2012-05-01(火) 10:39:52 [削除依頼]
    準備板から飛んで参りましたw

    引き付けられましたよー!
    これから楽しみです^^
  • 18 理海 id:DKvA.5E0

    2012-05-01(火) 15:05:30 [削除依頼]
    >15 コメントありがとうございます! ワラっちさんにそう言っていただけると… ノイローゼはおそらく大丈夫かと思います。 今作は○○の景色という明るさがあるので。 私なんてワラっちさんの足元にも及ばず… ワラっちさんの作品も楽しみにしています♪ >16 コメントありがとうございます! 更新は激遅だと思いますが、是非是非 最後まで見守ってやってくださいね〜 >17 コメントありがとうございます! 書きだしは非常に重要なので不安でしたが 大丈夫なようでまずは安心です。 これからも是非見てやってください♪
  • 19 理海 id:DKvA.5E0

    2012-05-01(火) 19:34:26 [削除依頼]


    「歩美が、死ななきゃいけない理由……?」
     真穂は柔らかい唇に触れてからそう呟いた。それから目を閉じて首を振った。――歩美が死ななきゃいけない理由なんてない。

     ヴッヴッ、ヴッヴッ

     バッグの中に眠っていた携帯電話が身を震わせた。真穂が急いで取り出すとサブディスプレイには『山浦歩美』の文字が光り、イルミネーションが白い携帯を彩っていた。
     携帯を開いてメールフォルダを開くと、歩美からのメッセージが表示された。件名は無かった。
    『昨日はごめんね。いきなりだけど、実は沖縄旅行に行くことにしました。夏休みなので。十四日から三泊四日行きます。この日のためにずっと貯金していたから、楽しみです。』
     真穂は思わず「えっ」と声を漏らした。――今日は九日。つまり五日後から四日間、沖縄に行くというのだ。そういえば、歩美はいつも沖縄の海の写真を大切に持ち歩いていた。貯金しているのは何で? と訊くと、きまって「沖縄に行くため」と答えを返した。
     真穂はとりあえず返信を、と画面を変えてメールの本文を打ち込みはじめた。携帯は、家族のいない真穂や歩美達 施設の子供にとって、大きな買い物であった。正確には子供が買うわけではないが、施設の大人たちが契約者として契約を交わし、高校生以上の子供が「欲しい」と言った場合のみ買い与えられる。真穂もその手順を踏んで念願だった携帯を入手したのだった。
    『沖縄!? いいなぁ、あたしも行きたい! 楽しんでね。準備とかあったら手伝うから何でも言ってね。モーニング食べたら帰るから。  真穂』
     真穂は送信ボタンを撫でるように押し、携帯を閉じてバッグに突っ込んだ。そして安くて美味しいモーニングが食べられるレストランへと歩き始めた。
  • 20 理海 id:DKvA.5E0

    2012-05-01(火) 19:37:23 [削除依頼]


    「ただいま帰りました」
    「おかえり」
     施設では“お母さん”と呼ばれている管理者のタカハシが、台所で食器を洗っていた。カチャカチャと重なり合うプラスチックの皿が音をたて、跳ねた水が頬に着地した。真穂はタカハシの横に立って「あたしがやりますよ」と花のように微笑んだ。真穂は早速食器を洗い始め、食卓に腰を下ろしたタカハシに訊いた。
    「お母さん、歩美まだ部屋にいる?」
    「歩美? あぁ、確か買い物に行くとか言ってた」
     真穂は返事をせずに、洗い物の手を動かしていた。タカハシは腰をさすり、ヨイショと声を出して立ちあがった。「じゃ、よろしく頼むよ」
     真穂は素早く皿洗いを終え、部屋に戻った。部屋には誰もいなかった。歩美と真穂の二人部屋は、施設に入った頃から変わらなかった。空がよく見える窓辺で、二人はいつも他愛のない話で盛り上がっていた。真穂は、そんな二人の様子を思い浮かべながら二段ベッドの下段に腰かけた。ベッドが軋む音が空気を劈く。
     真穂は普段、二段ベッドの上で眠っている。スラリとした長身の真穂には下の段は向かず、頭をぶつけてしまうからだ。歩美は背が低く、真穂とは仲の良い姉妹のようだといろんな友人に言われていた。真穂はベッドの木枠に触れた。ぬくもりが直接指先に伝わった。
     真穂は、自分が柔らかい気持ちに捉われていくのを感じた。暖かく静かな空間が、真穂の眠気を誘う。不思議な程に穏やかな笑みを浮かべたまま、真穂は歩美のベッドに倒れこんでいった。深い眠りにつく前、歩美の匂いがした――。
  • 21 理海 id:tfEtwOR.

    2012-05-02(水) 22:26:04 [削除依頼]


     七月十四日。歩美は早朝五時に目を覚ました。旅行のために早起きをしたというよりは、体が自然に目覚めてしまったのだ。下段ベッドを揺らさないようにゆっくりとベッドから出、すやすやと寝息を立てて眠る真穂に置き手紙を残して足早に部屋を去った。手紙には『今から行ってきます。楽しんでくるので、真穂もゆっくりしてください。 歩美』と書き残した。
     歩美は駅への道を歩き始めた。時間を追うごとに熱気が押し寄せてくる。今晩も熱帯夜記録を更新するだろうとニュースが伝えていた。――沖縄は暑いのだろうか、だが南国なら空気は重だるくはないだろう。歩美は沖縄への期待をふくらませながら電車に乗り込んだ。
     「やすらぎの里」がある千葉県北部から羽田空港まで、電車に揺られる時間は長い。歩美は端の席を選んで、キャリーバッグを手で押さえながら乗換の駅を待った。少し人見知りの歩美は、遠慮がちに周りに目を遣りながら窓の外の景色を眺めた。

     その頃、真穂は起床していた。自分の下段に歩美の気配がないことに気付くと、見つけた置き手紙を指でなぞって静かに頷いた。細く開けられた窓から重い風が吹き込み、くすんだカーテンを揺らした。
  • 22 理海 id:gWDeQ8s.

    2012-05-04(金) 11:40:01 [削除依頼]


     歩美は飛行機の搭乗手続きをしていた。一般では夏休みは始まっていない時期で、人はあまり居なかった。耳に飛び込んできたのは、鈴を転がしたような凛々しい声だった。一種独特な女性のアナウンスは、歩美には新鮮だった。荷物を預けて、飛行機の入り口へと歩く。周りには上流階級であろう老夫婦や、黒い細身のスーツを綺麗に着こなす男性など、歩美とは無縁の人々が居た。彼らは慣れた様子で飛行機に乗り込む。歩美は、飛行機という異空間に怯え、それと同時に期待が胸を膨らませた。
     初めての飛行機。歩美は緊張してベルトを固く締めたが、何事もなく離陸した。今までに感じたことのない浮遊感に、歩美は戸惑いを隠せなかった。
    『今回は、成田―沖縄便にご搭乗いただき誠にありがとうございます。機長の山田です』
     少し音の割れた機内放送が流れた。だが、歩美の興味は完全に一つに集中していた。
     窓から見える雲――初体験の景色に、歩美は心の中で歓声をあげた。果てしなく蒼い空、そこに柔らかく浮く雲。まるで、絵のように美しかった。窓枠が額のように、景色を収めていた。歩美は窓に触れた。冷たかった。それもそのはず、前席の背に取り付けられた画面には、マイナスの外気温度が示されていた。
     歩美はガラスから手を離し、美しい空を目に焼き付けた。

    『もうしばらくで着陸いたします。ベルトを締めて、携帯電話などの電子機器のご使用をお止めください。今日の沖縄は二十八度、晴れです。ご搭乗いただきまして誠にありがとうございました』
     アナウンスが着陸を告げ、歩美はベルトを締め直した。
     体に軽い衝撃が伝わる。つかの間の沈黙。歩美には初めての飛行機だったが、美しく広がる蒼い空を見られたことが、歩美の心を鷲掴みにしていた。
    「(ここに来てよかった)」
     歩美は心のなかで呟きながら飛行機を降り、荷物を受け取って空港を後にした。

     建物を出た瞬間、目の前に広がったもの。蒼い空に散りばめられた、白い雲。テレビでしか見たことのない、南国の植物。夏の蒸し暑い熱気は感じなかった。気温は暑いのだが、空気が透き通るように軽い。景色がワントーン明るく見えるようだ。
     歩美は、予約したホテルへのシャトルバスに乗り込んだ。
     バスは爽やかな沖縄の街を走り始めた――。
  • 23 理海 id:Z7yNre0/

    2012-05-06(日) 17:20:13 [削除依頼]


     ――綺麗……、嘘みたいに。
     ――歩美は心に溢れてくるものを留めることが出来ず、サラサラの砂浜の上に裸足で立ちつくして静かに涙を流した。歩美の前に広がるのは、果てしなく広がる綺麗な海だった。
     砂浜の白と、透き通る水色が溶け合う浜辺。海は果てしなく広がり、その先はやがて地球の向こうにまで続いている。柔らかい風が、今にも溶けてしまいそうな波を創る。太陽の光を呑みこみ、生命に代えていく地球の循環。時折聞こえるのは僅かに海を揺らした音。そして跳ねる魚が織り成す滴の音。この海の上に居る空気には、潮の香りが広がっていく。
     歩美は無心でその波へと向かって歩き出した。水に足が触れたその時、自分がパーカを羽織っていることに気付いた歩美は自虐的な笑みを浮かべてパーカを脱ぎ捨ててビーチチェアに置いた。周りを見渡したが、誰もいなかった。
     もう一度、水に足が触れる。都会の穢れを打ち消すほどの静かな冷たさに、歩美は一瞬足を引っ込めそうになったが、その冷たさに心地よさを感じると少しずつ海の中へ身を溶け込ませていった。
  • 24 理海 id:A1YJLV20

    2012-05-09(水) 19:38:44 [削除依頼]


     周りには誰もいない海を一人で独占していた歩美は、海の中を自由に動き回った。透き通る水の間から、自分の足が見える。この大きな大きな海に比べて、ちっぽけな自分の命。ここに身を沈めることさえ、抵抗はない。だが、この美しい海が自分の血で染まる――この海に自分の身体が浮かんでいると思い浮かべると、怖かった。だからこそ自分が死,ぬ場所はここではない。今までを生きてきた千葉で人生に終止符を打ちたかった。
     ――歩美は、滴と戯れながらいろいろなことを考えていた。その時、足の裏に何かが触れた。顔が海に浸からないように気を付けながら、身を縮ませて足元のものを拾い上げた。
     軽かった。白かった。丸みを帯び、細かな点模様があるそれは珊瑚だった。
    「綺麗……」
     唇を動かした歩美は、それを最期の真穂へのプレゼントにすることにした。
     揺れる水面から覗く足元には、たくさん珊瑚が落ちていた。折角ならたくさん拾っていこうと、歩美は体をくねらせながら両手にいっぱいの珊瑚を持ち上げた。――これは真穂へ。これはタカハシ母さんへ。これは隣の部屋の結衣ちゃん。
     施設で時を重ねてきた仲間達の顔を思い浮かべながら、一つずつ珊瑚を摘み上げた。

    「(この珊瑚……私に似ている)」
     最後に拾った珊瑚を見た瞬間、歩美はそう悟った。その珊瑚は欠けていた。でも大きく一片が無くなっているのではなく、何箇所かが小さく欠けていた。見ていた面を裏返すと、傷は付いていなかった。――表の姿は普通。どこにでも居そうな地味な少女。だけど裏は違う。歩美は、運命を抱えた悲劇のヒロインだったのだ。
    「(悲劇のヒロインには哀しいエンディングが似合ってる)」
  • 25 理海 id:lYWAUIh0

    2012-05-11(金) 21:56:37 [削除依頼]
    10

     部屋に戻り、私服に着替えた歩美はホテルの中を巡った。お土産店には沖縄らしい商品が並んでいて、甘いものが好きな真穂には「石垣塩チョコ」を、タカハシ母さんにはピンク色が印象的な「沖縄の塩」を、そして仲の良い施設の友人へは「ジンベエザメストラップ」を購入した。今日、十四日は旅の一日目。明日には「美ら海水族館」へ行く予定だ。
     歩美にとって、ジンベエザメはおろか間近で魚を見るのさえ初めてだ。テレビでしか見たことのないイルカも居るはずだ。

    「(今日はホテルの周りをゆっくり散歩しよう)」
     歩美は、バッグの中の携帯を開く。六時だった。食事の予約を入れたのは七時半、それまで歩美はホテル周りの美しい庭園で過ごすことにした。貴重品の入ったバッグを肩にかけて部屋を出る。ガチャリ、という音と共にドアが堅く閉まった。――たしかオートロックとかいう名前だったっけ。暖かい照明が優しい廊下を歩きながら、歩美は顔に苦笑いを浮かべた。エレベーターのボタンを弾くように押した。

     ホテルの一階に着き、庭園へ続くドアの前に立った。ふと横を見遣るとそこにはカフェがあり、壁に立てかけられた黒板には『庭園での癒しの時間に花を添えるメニュー』の文字。歩美は眼鏡をずり上げて、そのメニューを見つめた。シークワーサージュース、アセロラジュース、黒糖ミルク……知らないメニューも多かったが、歩美は黒糖ミルクを注文した。お金と引き換えにミルクを受け取った歩美は、庭園の一番端の席を陣取った。横目で、燃える夕陽を拝める絶好の景色だ。歩美はチェアに腰をおろして沈んでいく夕陽を見つめた。
  • 26 理海 id:MmfB/aY1

    2012-05-14(月) 17:48:04 [削除依頼]
    11

     ――甘い。口にした黒糖ミルクの優しい甘さが心に沁みる。
    「(今、私は満ち足りている)」
     歩美はそう心で呟く。確かにその通りだった。絵に描いたような癒しの空間に、歩美は心を溶かしていた。独特の優しい甘味を感じる味覚、美しい夕陽の色彩が飛び込んでくる視覚、遠くからの微弱な波の音を捕まえた聴覚、柔らかい海風が通り抜けるのを認めた触覚、甘い黒糖と潮の香りを弄る嗅覚。

     ヴッヴッ、ヴッヴッ

     バッグの中で眠っている携帯が体を震わせた。バッグを探って携帯電話を取り出すと、メールの送り主は『立石真穂』。本文は『沖縄どう? いいお天気でしょ。時間ある時に写メ送って! 楽しんできてね。』だった。歩美はすぐに携帯カメラで沈みかけの夕陽を撮影して、返信メールに添付した。『すごく綺麗な夕陽を見ながら黒糖ミルクを飲んでます! 甘くて美味しくて、真穂にも飲んでほしい! じゃあまたメールするね』
     携帯から視線を上げると夕陽は完全に居なくなっていて、絵に描いたような星空が広がっていた。
  • 27 wwwwwwww id:5QOB4GC0

    2012-05-15(火) 17:21:37 [削除依頼]
     文章力ハンパないですね〜
     ノーローゼさえ気をつければとんでもない作品が出来上がる
    のではないでしょうか?
     読んでいて飽きない作品です。更新頑張ってください!
  • 28 理海 id:77BaFz/1

    2012-05-15(火) 22:51:25 [削除依頼]
    >27 ありがとうございます^^ 更新は遅いですがコツコツ頑張ります! ワラっちさんも1000。10。と左利きの方 頑張ってください!! 特に左利きは 続きが気になって仕方がありません〜
  • 29 理海 id:X1nHjdv/

    2012-05-20(日) 21:50:39 [削除依頼]
    12

     ――大丈夫だろうか。
     返信されたメールに目を通して携帯をカーペットに投げた真穂は、一人になり静かな部屋の中で思案していた。ずっと前から、それも小学校の頃から歩美はずっと「沖縄の海を見たい」と言っていたことは覚えている。もちろん真穂も歩美が行きたい場所に行ってほしかったし、歩美がそのために貯金をするのにも協力した。
     いくら行きたいと言っていたとはいえ自,殺を試みた不安定な状態の歩美を、一人で旅行に行かせるのはよくなかったのではないか。――そんな思いが真穂の頭をよぎった。それからずっと部屋で考え事をしていたのだ。

     トントン

     乾いた木を叩く音。ドアが小さく揺れている。「どうぞ」と真穂が声を張り上げると、蝶番の軋む音と共に中道結衣が入ってきた。隣の部屋で生活をしている施設の子供で、歩美も真穂も仲良くしている友人だ。結衣は兵庫で生まれ、5歳まで大阪で過ごしたのちに親が事故死して施設に訪れた生粋の関西人だ。
    「真穂ちゃん今、大丈夫?」
    「大丈夫。どうしたの?」
     沈んでいた表情を引き上げるように笑顔を作った真穂は、結衣を招き入れてベッドの縁に腰かけた。結衣は学習机の椅子を引き寄せ、身を翻すように華麗に腰かけた。
    「歩美ちゃんは旅行行ったんやて?」
     結衣の言葉に真穂は僅かに顔を引き攣らせて「そう。沖縄に」と呟いた。結衣は関西人らしくオーバーリアクションで「沖縄? ええなぁ」と目を輝かせた。
    「わかんない」
     真穂はいきなりそう言った。静かだがいろんな感情を含んだ声だった。うつろな目でカーペットを見つめる真穂に、結衣は顔を強張らせて「え?」と細い声で訊き返した。
    「一人で行かせて良かったのかな」
    「せやかて……」
     結衣の呟きから、部屋は静寂に包まれた。何分経った頃か、結衣が痺れを切らして沈黙を破った。「せやかて今更言ってもしゃあないやろ、気にせんとき」
    「そうだね、そうだよね」
     真穂は言い聞かせるように返事をすると、「結衣ちゃん、暇なら何処か行かない?」と振り切るように結衣を誘った。
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