涙雨 〜sprinkling of rain〜10コメント

1 未来 id:d2W27NH1

2012-04-24(火) 13:36:29 [削除依頼]
  涙雨 〜sprinkling of rain〜


  ?


 素敵な人に出逢った。黒いスーツに身を包んだ背の高い男の人。優しそうな笑顔…どこかアノ人に似ている。
「一緒に飲まない?」
 バーで一人、酒を飲んでいた私に彼は声をかけてきた。彼も一人だった。
「いいですよ」
 私は彼に笑顔を向けた。

「うまいなぁ」
 彼はカクテルを飲み干した。本当に美味そうに飲む彼の横顔にドキドキしてしまう。
「こういうところには一人でも来るんですか?」
 私は訊いてみた。すると彼は苦笑を浮かべて答えた。
「今夜が初めてだよ。ちょっと仕事でミスってね、ヤケ酒ってわけよ」
「ヤケ酒の割には飲んでないじゃないですか」
 私が噴き出すと彼は「そうだね」と笑った。目尻に皺ができている。
「俺、実は酒に弱いんだよ」
 結局彼はカクテルを二杯しか飲まなかった。


 バーを出た時間は午後十一時過ぎだった。私は真っ直ぐ帰ろうとしたが彼が手を離してくれなかった。
 明日は土曜日だしいいか、と軽い気持ちで彼についていった。
 二人でコンビニに行き缶ビールを三本買った。二本は彼ので一本は私のだった。私の分を彼は奢ってくれた。
「乾杯」
 彼の部屋に行き缶ビールで乾杯した。冷たいビールが私の喉を潤す。
「付き合ってくれてありがとう」
 彼は私の手を握って、そう言った。
「酔ってるでしょ」
 私は彼を上目使いに見て笑った。
「酔ってなんかないよ。まだまだ酔い足りないくらいだ」
 舌が回っていないが一生懸命に強がる彼が可愛かった。本当にアノ人に似ていると思った。
「そういえば、お名前は?」
 私は訊いた。すると彼は私の手の甲に指で字を書いた。『タカ』と。
「タカ?」
 私が訊くと彼は右手でピースした。
「そう。俺、友達にタカって呼ばれてるの。可愛いでしょ」
 ふぅん、と頷いてから新たに聞いた。
「じゃあ本名は? 高田? 高野?」
 すると彼は笑った。「何が可笑しいのよ」と睨むと彼は答えた。
「タカっていうのは俺の下の名前なの。だから名字じゃないよ」
 どうも納得いかなかった。だったら名字を教えてくれればいいのに、と思う。でも言えない理由があるのかもしれないので、それ以上は突っ込まないでおいた。
「君の名前は?」
 彼は訊いてきた。それに対して私は彼と同様に自分の渾名を答えた。
「ジュン」
「ジュン?」
 彼は目を見開いた。口元は笑っている。
「いい名前だな。君によく合っているよ。純粋さというか…とにかく合ってるよ。可愛い名前だな」
「あたしのジュンは純粋の純じゃなくてアツシっていう字に使うサンズイの淳よ」
 私は彼の手の甲に指で書いた。なるほど、と彼は頷いた。
「お互い、いい名前だね」
 そう言って彼は私の唇を奪った。


 その後、私はタカに抱かれた。案外彼は激しかった。でも優しさがあって全身で幸せを感じることができた。
「痛くなかった?」
 タカの腕枕に頭を預けている私に彼は訊いた。彼の手は私の髪を撫でている。
「大丈夫よ」私はタカに笑顔を向けた。「むしろ、よかった」
 タカは頬を赤らめてはにかんだ。「それならよかった」
 暫く布団の中でじゃれ合って私達は眠りについた。
 外は、雨が降っていた。
  • 2 未来 id:EQmi3zJ.

    2012-04-25(水) 13:27:42 [削除依頼]
      ?


     翌日の朝、私とタカは朝食をサイゼリヤでとった。正直朝からイタリアンは嫌だったがタカが好きだということで渋々ながら行った。
    「何がいい?」
     タカが私にメニューを見せてくれる。でも私はいつも決まったものしか食べないのでメニューには目を向けなかった。
    「ペペロンチーノ」
    「朝から?」
     タカは噴き出した。あまりにも笑うものだから私は睨んでやった。
    「おかしい?」
    「いや」タカはまだくすくすと笑っている。「朝からイタリアンは嫌とか言ってたくせに、にんにくたっぷりのペペロンチーノを食べたがるなんて面白いなぁと思ってさ」
    「それしかあまり好きじゃないのよ」
     そう言っておいたが実際はそんな理由でペペロンチーノを選んだわけではない。本当はペペロンチーノが一番安いからだ。スパゲッティの中で一番安いから、ただそんな理由だが、そんなことをタカには言えなかった。
    「ジュンは安上がりで済むなぁ」そんな風にタカは笑ってくれた。
     タカは暫くメニューと睨めっこをして結局ミラノ風ドリアを選んでいた。
    「じゃ、注文しちゃうね」
     タカは店員さんを呼んだ。


     注文して間もなくペペロンチーノもミラノ風ドリアも運ばれてきた。
    「早いね」私は苦笑した。「もう少し料理を挟まずに会話をしたかった」
    「可愛いこと言うなぁ」タカの目尻に皺ができた。「また帰ったらいっぱい話そう。ここでもいいじゃん。上手い料理があるときっと会話も弾むぜ」
  • 3 未来 id:EQmi3zJ.

    2012-04-25(水) 22:56:08 [削除依頼]
     私はにっこり笑って頷いた。そしてペペロンチーノを口に運ぶ。程よい大蒜の香りが私の胃袋を刺激した。
     こんな素敵な人に出逢えるだなんて、私は何て幸せ者なんだろう――。
     私が想い続けてきたあの人によく似た『タカ』という一人の男性…。本名も年齢もまだ分からないけど警戒心というものが生まれない。
     あぁ、きっと私は、また恋ができるようになったんだ――。
    「…ジュン、どうした?」
     タカが私の顔を覗き込んでくる。その眼は心配そうに私を見ていた。
     自分の頬を触り、気づいた。
     私の頬に幾つもの涙の川ができていた。


     私が泣いてしまったからかタカは帰り道、強く強く手を握ってくれた。少し痛かったけど私を気遣って何も聞かずにいてくれるタカの優しさが嬉しかった。痛む手から幸せを感じることができた。
     タカの部屋につき、私が玄関で靴をそろえていると彼は後ろから抱きしめてくれた。
    「何?」
     私が訊くとタカは小さな声で言った。
    「俺たち、一緒にならないか?」
     一瞬で私の顔は熱くなった。一緒にならないか?
    「それ、どういう意味?」
     震える声で私は訊いた。するとタカは私の背中に顔を埋めてこう言った。
    「結婚しよう、ってこと」
     見えないけど、たぶんタカの顔は真っ赤なんだと思う。でも私の顔のほうが赤い。目頭が熱くなってきた。
     突然の告白に戸惑いすぎて私は何も言えなかった。暫く二人とも黙りこくったがタカがもう一度切り出した。
    「俺、思うんだ。ジュンを幸せにできる人間は俺しかないって。でも、俺達出逢ったばかりだから、ジュンに急いで決断しろなんて言わないよ。ただ俺がプロポーズしておきたかっただけ」
  • 4 未来 id:8oLsNgH.

    2012-04-26(木) 16:38:16 [削除依頼]
     もう耐えきれなくなって涙がこぼれてしまった。これが嬉し涙なのか何なのかよく分からなかった。ただとめどなく湧き上がってくる涙をぽたりぽたりと地面に落とすことしかできなかった。
    「なんで…」
     やっと出た言葉がこれだけ。でもそれが精いっぱいだった。
     タカは私を立ち上がらせベッドまで連れて行ってくれた。そして二人でベッドの縁に腰掛け見つめ合う。私の涙は止まらなかった。
    「泣いてていいよ」そう言ってタカは立ち上がった。
     五分ほどたった頃タカは私にココアを入れてくれた。
    「ありがとう」涙声で私は言った。
     ユラユラと立ち上る湯気が私の視界をあやふやにした。その甘い香りに誘われた唇がゆっくりと開きカップにキスをした。とろりと口の中に入るココアの味を暫く口内で楽しんでから飲み込んだ。
    「おいしい」
    「落ち着いたみたいだね」
     タカは私にハンカチを差し出してくれた。それで私は涙の跡を拭き去る。
    「落ち着いたというか、ココアが気を紛らわせてくれたみたい」
     私がそういうとタカはくすりと笑って「俺ってすごいんだな」と言った。
  • 5 未来 id:G3fk8JB1

    2012-04-27(金) 21:40:39 [削除依頼]
     無邪気なタカの笑顔を見ていたら、決心がついた。ドキドキしながら口を開いた。
    「さっきの返事、してもいい?」
     するとタカの顔は紅潮した。何度か瞬きをして、唇を噛みながら頷いた。
     何て答えるかは自分の中でもう決まっている。だが上手く声が出せない。でも伝えたい、そんな思いが自分を焦らせた。
    「あ、あの…」
     頑張れ私! 自分を励ましてやっと声が出た。
    「あなたのプロポーズなんだけど、正面から受け止めます」
  • 6 未来 id:8G8uqq1/

    2012-04-28(土) 15:11:42 [削除依頼]
     はっきり言えない自分が可愛かった。「あなたの気持ちに応えます」でいいじゃん、なんて思うものの恥ずかしくてとてもじゃないが言えない。思わず両手で顔を隠してしまった。
    「ジュン?」タカが私の肩に手を載せた。「それってOKってことだよね?」
     私は両手を膝の上に載せタカを見つめた。そしてゆっくりと頷いた。その瞬間タカの目は充血した。
    「マジかよっ」
     そう叫んでタカは泣きじゃくった。


     お互い本名も知らない。でも何かで結ばれているような気がした。私はタカから離れてはいけない、心からそう思う。やっとアノ人のことを忘れることができる、やっと新しい恋ができる、そう思うだけで涙ぐんでしまう。
    「ねぇ」ここでちょっと駄々をこねてみる。「もう一度、ちゃんとプロポーズしてね」
     するとタカは目をまん丸くして驚いた。「なんで?」
    「なんでって…」私はうつむいた。「ちゃんと、外でプロポーズされたいから」
     私の言葉にタカは噴き出した。
    「可愛いなぁ」そして私の頭を撫でてくれた。「じゃあ今度とびっきりのプロポーズをしてやる。楽しみにしておきな」
  • 7 未来 id:veGZpf./

    2012-04-29(日) 18:23:48 [削除依頼]
     気持ちが高ぶってまた泣き出してしまった。そんな私の手をタカは握りしめていてくれた。


    「タカの名前、なんていうの?」
     泣き止んだ私はタカに訊いた。結婚するなら名前を知る権利はあると思う。
    「名前?」タカは唇を噛んだ。「それ、言わなきゃダメ?」
     えっ…?
     私は戸惑った。何故名前を教えることをためらっているのか分からなかった。何故? どうして?
    「あ、あたしの本名を教えるからさ、タカも教えてよ」
     そうは言ったものの、私は苦い思いだった。本名は言いたくなかった。それは私の過去を蒸し返してしまうから。


     中学一年生の時の三月、私の親は離婚した。私と弟は母親と三人で暮らすことになった。
  • 8 未来 id:cPVpC5h.

    2012-04-30(月) 22:27:21 [削除依頼]
     当時、私には好きな人がいた。部活の先輩で、笑うと目尻に皺ができるのが印象的な優しい人だった。一方的な片思いだった。でも先輩が好きだということに変わりはなかった。
  • 9 未来 id:cPVpC5h.

    2012-04-30(月) 23:08:45 [削除依頼]
     こんな思いのままお別れなのか――。
     何度泣いただろうか。夜な夜な声を殺して泣いて、明け方眠ってという不規則な生活を送ったせいで私は表情がパッとしなくなった。常に顔が浮腫んでいて、突然泣き出してしまったりと情緒不安定になってしまった。
  • 10 未来 id:OKTcj6v.

    2012-05-01(火) 22:51:42 [削除依頼]
     不安が募るたびに壊れていく私を誰も助けてはくれなかった。助けるどころか気づいてもくれなかった。母親でさえも私の異変には目もくれない。それは私が無理して笑っていたからかもしれない。
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