フラワーショップ SHION 41コメント

1 青空模様 id:Ls/xWgl0

2012-03-31(土) 20:32:43 [削除依頼]
「お望みはどちらですか?」

 彼女はその澄んだ瞳を揺らしながら、そう問うた。

 ――ここは、《貴方が本当に欲しいもの》が必ず手に入る花屋。

「いらっしゃいませ」

 フラワーショップ SHIONへ。
  • 22 青空模様 id:mHxp5WJ/

    2012-04-09(月) 14:51:13 [削除依頼]
    >22  何で今日はこんなにも人間離れをした美貌の持ち主によく会うのだろう。こんなの日常じゃありえない。いや、多分この店に足を踏み入れた時から、もう俺は日常とはかけ離れた世界へと歩みを進めてしまっていたんだろう。  光に包まれ登場した女性の印象は、隣の彼女を可憐というのなら、こちらは艶麗。決してやらしい眼で見ている訳ではないが、全体の雰囲気から色気を感じる。  タイトな赤のワンピースの中に黄色いシャツを合わせ、真っ赤なハイヒールを履きこなすその姿は派手ながらも魅惑的だった。  女性が綺麗に巻かれた腰まである髪を掻き上げた。そんな些細な行動でさえも写真集のワンショットのように絵になる。 「あたしはアルストロメリアの楓霊、ロメル。よろしく、ケンくん」  
  • 23 ソウル id:YHKCLUj/

    2012-04-14(土) 18:03:52 [削除依頼]
    またまた来なくてごめ☆
    更新ないようだけど、
    頑張って!
  • 24 ソウル id:YHKCLUj/

    2012-04-14(土) 18:06:47 [削除依頼]
    20レスおめでた(*’A’*/オメデト)
  • 25 青空模様 id:M8jIfVz/

    2012-04-23(月) 14:34:12 [削除依頼]
    >23-24 ソウルさん ありがとうございます! 私自身新年度が始まり、忙しくなって参りまして。 更新、非常に遅れます。すみません。
  • 26 青空模様 id:M8jIfVz/

    2012-04-23(月) 14:40:16 [削除依頼]
    あるすとろめりあ>22 「あ…あるす…?」  何だかよく分からん単語が飛び出してきた。しかも今会ったばかりなのにケンくんって……。  突っ込みたい所があり過ぎて、ぽかんとなる俺を見たロメルがくすくすと笑った。 「アルストロメリア、よ。花言葉は『エキゾチック』『未来への憧れ』」  花言葉がエキゾチックとは。もしかして楓霊って、その花のイメージに結構影響されるもんなのかもしれない。
  • 27 青空模様 id:M8jIfVz/

    2012-04-23(月) 14:41:22 [削除依頼]
    >26 一番上の「あるすとろめりあ」は無いことにして下さい。 ミスです。
  • 28 青空模様 id:NbfzEAv/

    2012-05-03(木) 21:16:06 [削除依頼]
    >26  その時だった。  一筋の風が渦巻き、たなびいて、周りの鉢植えに行儀良く並んだ花を散らして――。  あまりに強く、突然現れたそれに俺は思わず、固く瞼を閉じた。  その間、傍らにいた彼女が動いた気配はなかった。  額に舞い上がっていた前髪が下りてきた気配がして、恐る恐る目を開ける。するとどうだろう。そこには百合によく似た花を揺らした、ガラスの花瓶しかなかった。 「あ…れ…? ロメルは?」  素直に口を突いて出た疑問に、恐らく微動だにしないまま、その場の状況を見つめていた彼女が答える。 「今日はここまでよ。あくまで私はあなたの力の手助けをしただけ。主はあなたの力でロメルは姿を現していたの。」  つまり、と少し尖った声で彼女が続ける。 「もっと楓霊達に会って話がしたければ、それに見合う力を培わないといけないのよ」 「…力…」  今日初めて知った自分の潜在能力。初めて出会った楓霊達と、彼女。もう踏み込んでしまった、未知の世界への扉。  どうせならもっと高めてみたい。何でもなあなあに済ませてきた俺が、初めて持った感情だった。  すう、と肺に酸素を行き渡らせる。 「お願いします」  白き上弦が、その淡い光で窓辺の花を照らす。小さくて、どこか儚い雰囲気を持った花だ。そう、まるで、彼女のような。 「バイト、やります」  俺がもう一度そう言った時、その端正な顔を無機質な程に固めていた彼女が、ようやく微笑んだ。まるで彼女自身が谷間に咲く白百合のようだった。 「よろしくお願いします、健斗くん。」  そう頭を下げられたとき、俺は彼女の名前を聞いていなかったことに気が付いた。今更何をと思ったが、この店に入った時から奇想天外の連続だったのだ。仕方ないだろう。 「あの…お名前は…」  そう問うた時、曖昧な輪郭を持った記憶が舞い降りた。この世界へのドアを開ける時に見た、青空の共に浮かんでいた白い文字。 「私の名前は……」  彼女が静かに名を告げた時、一陣の強い風が吹いた。窓を通じ入ってきた薄桃が、彼女の華奢な腕に寄り添う。 「紫苑」  この時、俺が知らぬうちに、止まっていた異世界の時が――動き出したのである。
  • 29 青空模様 id:wr36w/V1

    2012-05-04(金) 18:20:03 [削除依頼]
    *2 誰も知らぬ未来 ―アルストロメリア―

    「健斗くん!」

    「はい!!」

     紫苑の厳しい怒号とも取れる声に、俺はレジの整理をしていた手を止める。視線を数枚の野口さんから声のした方へと向けると、そこには美しい顔を怒りに歪ませた紫苑がいた。

    「『はい!!』じゃないわよ!! 何これ!!」

     どうやらそうとう怒っているらしい。落着きを失った紫苑は、一つの鉢植えを俺に向けて突き出した。
     可愛らしい小さな白い花をいくつも付けた、可憐な花だ。特別華やかという訳ではないが、その素朴な愛らしさが見ている者を楽しませる。

    「…鉢…ですね」

     俺は情けなくも、怯えきった声でそう答えた。頭に血が昇っている状態の彼女は恐ろしい。その上植物の知識が乏しい俺は、気の利いた台詞の一つも浮かんでこなかったのだ。
     すると、彼女は俺の中身の薄い返答がますます頭にきたのか、もう一度、今度は先程よりも強く鉢を突き付けてきた。下手をすれば顔面に追突しそうなくらいの距離に、白の花がある。紫苑が鉢植えを動かしたはずみに、それの中になみなみと注がれていた水が零れた。

    「鉢よ! そう、鉢!! あのね、この花は水をあまり多くやると枯れちゃう品種なの。それと! 茎が水の重みで折れてるじゃない! お花はもっと……」

    「はい!! もっと丁寧に、デリケートに扱います!!」

     毎度毎度注意をされていては、彼女が次に言うことまで覚えてしまう。
     怒りの咆哮を挫かれた紫苑は、うん、と頷くと持っていたそれを俺に渡した。

    「分かっているのならいいんだけど……じゃあ余分な水は捨ててきて」

    「はいはーい」

     ここは素早く退散するに限る。俺は白い花をいかにも大切そうに抱えると、店の裏へと回り、薄暗い路地にひっそりと存在する水道を目指した。
     目的地に到着すると、肥料を含んだ高価な土を流さないように、そっと鉢を傾ける。
     細く透明な水の糸が、弱弱しく水道管の中へと吸い込まれた。
     バイトを開始して、一週間が経った。
     元々花にもそんなに興味がなく器用でもない俺は、毎日こんな調子で紫苑を怒らせてばかりだけれど。
     もっと自分の中にある、未知の力を見てみたい。新たな世界を知ってみたい。そして、何より、紫苑の喜んだ顔が見たい。
     そんな願いに突き動かされて、不慣れな仕事を何とかこなす毎日だった。
  • 30 青空模様 id:wr36w/V1

    2012-05-04(金) 21:21:17 [削除依頼]
    >29  ダラダラと過ぎるばかりだと思っていた高2の春が、予想外の出会いによりバイトまで始める事になり、何だかんだ言いつつ俺の毎日は充実していた。していたが、最近の俺には一つの悩みがあった。  当然だけれど、俺の本業は学生だ。高校生だ。花屋の従業員じゃない。だから毎日、我が大宮高校に通っている。  新たなクラスに最初こそ噛み合わない歯車のようなぎしぎしと固い空気だったものの、今では男女関係なく仲の良い、いわゆる「アタリ」の学級にも入れたのだ。  だが、俺の悩みは、一年の頃から仲の良い友人――中島光多にある。  今日もいつものように窮屈なローファーから、これまた近頃きつくなってきた上履きに履き替えて。そして、「2年2組」とまだ少し慣れないプレートを潜って教室へと足を入れた。  すると、その瞬間を待ち侘びていたように、人工的な明るい茶色が視界の端から飛び出してきた。 「はよっす!! 待ってたぜ〜健斗!」
  • 31 青空模様 id:qvDHeVI.

    2012-05-05(土) 19:29:15 [削除依頼]
    >30  まるで無邪気にじゃれついてくる子犬を思わせるはしゃぎようで、俺の周りをぐるぐると回るこの男子が、先程言った中島という男である。  中島との出会いはちょうど一年前ぐらいの入学式の日。式を終えた俺は、ほっと一息つくためにトイレを訪れていた。  用を足していると隣に一人の男が立った。左の耳に2つ光るピアスに、金色のチェーンネックレスと派手な格好だったので、一瞬上級生かと身構えたが、だらしなく結ばれたネクタイに走る緑のラインが同級生だという事を示している。  俺は肩に入った力を抜いて、体内の不要物を出し終わると、手を洗おうと水道に向かう足を進ませた。  すると、ちょうどその頃用を終えたらしい彼が、明らかに腰より下にずり落とされたズボンのポケットに手を突っ込んだり出したりと、何やら不穏な動きをし始めたのだ。  何だこいつ……、と冷めた目で慌てる彼を見ながら、水道水濡れた手を拭きその場を後にしようと出口へ体を向けたその時。自分のものよりも少し高めで柔らかい声がトイレに響いた。 「ねえ、ちょっと君!」  出来るだけ関わらないように逃げようと思っていたのに、つい振り返ってしまう。条件反射とは恐ろしいものだ。  何の用だというニュアンスを濃厚に含ませて、首を傾げる俺。幸い彼にそれは伝わったようだった。 「ハンカチ持っていない?」  あまりに間抜けな頼み事。思わずずっこけそうになったが、ちょっぴり抜けた所が何だか憎めない奴だと感じた。  それが「緑風中の風」と言われていた―その時は知らなかったが―中島との出会いだった。
  • 32 青空模様 id:BTZ.sRy/

    2012-05-19(土) 17:08:59 [削除依頼]
    久々に更新しますよっと。 >31  その後自身のクラスへと足を踏み入れてみると、驚いた。あのピアス野郎がいたからだ。  そんな訳で、トイレという色気もへったくれもないような場所で出会ったクラスメートの男二人は、何となく過ぎる日々の中で何となく友情を深めていったのだ。  そして現在、俺は何故その友人に悩まされているかというと、理由は先ほど言った「緑風中の風」にある。  中島は外見こそ軽いイメージを抱かせるが、実は中身がかなりの優等生なのである。  成績もトップとまではいかなくとも、必ず学年20位には入っているし、何よりも運動神経が半端ではない。  特に陸上競技には長けていて、陸上部短距離チームのエースを務めている。  中学時代からその能力を偉観なく発揮していた中島は、当時から当然の如く注目の的で、いつしか「緑風中の風」という敬称がついたらしい。
  • 33 青空模様 id:gnp3m6a1

    2012-06-17(日) 20:00:16 [削除依頼]
    >32  そんな彼は、陸上を愛している。心酔している。溺愛している。  もちろん元々性根が真っ直ぐな奴だから、勝利のためなら手を穢すとか、そういう事じゃあない。  しかし、中島は陸上選手として一瞬の煌きを持つ者を見つけると、それはもう獲物を仕留めるカメレオンも真っ青な速さで飛びつくのだ。  そして陸上界へ引きずり込むまで毎日毎日べったりと張り付いてくる。実際俺は中島の被害者を何人も見てきた。  他の部の奴まで持って行ってしまうものだから、最初こそ疎まれていたが、この学校の人々は善良だ。しばらくするといつもの事か、と溜息一つで許してくれるようになった。  それを中島の隣でずっと見てきた俺は、時に中島の一生懸命さを面白く思い、時にロックオンされた人間を憐れんできた。  しかしそれは、あくまでも傍観者の立場だからこそ出来た見方であると――自身がターゲットとされた今、俺は痛感している。 「健斗! ちょっと50メートルで競走してみようぜ! 走る楽しさってやつが分かるぜ!」 「健斗! 宮崎っていう陸上選手知ってるか? お前と走るフォームが似てんだよ。お前も陸上始めたら、宮崎みたいにすげえ選手になるかもな……」 「健斗! お前は走れる、選ばれた人間なんだ。そう、お前は『高宮の風』になれるんだよ!」  健斗、健斗、健斗、健斗――。自分の名前のはずなのに、ここ最近それを耳にすると頭痛がするようになってきた。  どうも去年の体育祭でリレー走手に選ばれた俺の走りを見て、中島の陸上スイッチが稼働してしまったらしい。  それをすぐ行動に移さなかったのは、親しい俺を勧誘するからこそ、もう少し温めて時期を見計らってから、という思惑があったから、と中島は言った。全く見計らえてないと思うが。  とにかく俺は、この男からの熱烈なアプローチをどうにか打開しなければならないようだ。  健斗、と甲高い声で呼ばれた名前に一つ溜息を零すと、ゆっくり体を中島の方へ振り向かせた。
  • 34 青空模様 id:WC8J7uR1

    2012-06-20(水) 20:37:25 [削除依頼]
    >33 「何だ?」  どうせまたロクな事は言わないだろう、というニュアンスをたっぷりと込めて返事をする。  そしてそれは案の定中島にも伝わったようだった。 「何だよー、その気怠そうな返事! せっかく人がいい話を持ってきてやったのに……」 「いい話?」  先程まで刺々しく接していたくせに、単純な俺はすぐ様食いついた。するとそんな俺を見た中島は、してやったりと言わんばかりに、にやりとする。 「実はな、今新入生向けに体験入部をしている訳よ」 「じゃあ、また明日な」  中島の一言で全てを察した俺は、素早く方向転換を済ませた。しかし一度引っかかってしまった蜘蛛の糸がなかなか解けない。  早足で逃れようとした俺のジャケットの裾を、中島は布が破れそうになるくらいに強く引っ張って引き止めた。 「ちょ、ちょっと待て! マジで一度でいいから来てくれって!」 「嫌だよ!! 俺はこの頃バイト始めて忙しいの! 部活してる時間がないの!」  畳み掛けるように訴えると、中島の動きがピタリと止まった。 「……バイト? バイト始めたのか?」  その瞬間、俺は自分が口を滑らせてしまった事に気付いた。しかし、もう遅い。中島の茶色い瞳はキラキラと輝いている。 「遊びに行っても」 「ダメだ!!」 「じゃあ陸上部来いよ! そしたら行かない!」  うっ、と言葉に詰まる。  交換条件を出されてしまっては少し思案してみようか、と思ってきてしまう。  しかしその間にも、風の男は俺を渦の中に巻き込んでいた。  中島は素早く俺と自分の分の鞄を持つと、俺の襟首を掴んだ。首が締まり一瞬空気が補給出来なくなる。 「はい、契約成立!」  嗚呼、何て阿呆だったんだろう――。  自身の失態を今更悔やんでも、グラウンドに続く玄関はもう視界の中に収まっていた。
  • 35 青空模様 id:nyTHvqz0

    2012-06-30(土) 08:26:56 [削除依頼]
    >34 「は!? 光多、アンタの言ってた期待の新人って笹島だったの!?」  一字一句濁さないようなハッキリとした声が、俺の耳に突き刺さる。  それの主は、チャームポイントである長いサイドポニーを揺らしながら言葉を続けた。 「何よ、イケメンの一年でも来てくれるかと思ったのに。まあ確かに、笹島、足は速いけど。でも…私の中で笹島は『部活面倒くさい』みたいな帰宅部の代表ってイメージしかないんだけど…」 「心外だな」  何だその無気力少年みたいな印象は。内には熱い炎を秘めているんだぞ。  そう口に出そうとしたが、学級役員を務める彼女に、口喧嘩で勝てる訳がないと思い直す。  代わりに今の正直な感情を言う事にした。 「仕方ないだろ。そこにいる陸部のエース様に無理矢理連れられてきたんだから」  じろりと恨みを込めた視線を向けると、大きな瞳を弧にしてはしゃぐ中島が見える。  あまりに純粋なその笑顔に、俺の胸中にあった毒気はすっかり抜けてしまった。 「アイツあんなにはしゃいじゃって、よっぽど笹島が来たのが嬉しいのね」  横から聞こえてきた声が、思いのほか優しくて。俺の視線は弾かれたようにそちらへ向いた。 「……馬鹿なんだから」  そう呟いたサイドポニーの彼女――もとい、堀田未悠の瞳は、俺が中島に持つ親愛とは明らかに違うそれが宿っていた。  堀田と中島は中学からの腐れ縁らしく、お互いに信頼している裏返しなのかいつも言い合いをしている二人だ。  両者共に陸上で好成績を残し、頭も良いため、「お似合いカップル」なんて茶化される事もしばしば。  しかし、堀田は見ての通り分かりやすいが、中島の天性の鈍感が直らない限りそれも実現しないと思う。 「じゃ、とりあえず体験者の皆には、挨拶をしてもらおうか!」  黒縁メガネをかけた部長らしき人物の一声で、周りで駄弁っていた部員達素早く集合していく。  今だこの部の雰囲気に慣れない俺は、流されるままに足を進めたのだった。
  • 36 青空模様 id:FYajkjI0

    2012-07-08(日) 01:55:12 [削除依頼]
    >35 「2年2組笹島健斗です。よろしくお願いします」  飾り気もユーモアもない挨拶に軽い礼を添える。その間も中島はずっとニヤニヤしていた。畜生め。  25人いる体験者の中で―さすが我が校人気ナンバーワンの部活だ―唯一2年という浮いた存在の俺は、居心地が悪くて仕方ない。  落ち着かずにきょろきょろしているうちに、先程の黒縁眼鏡さんが立ち上がった。  さらりと流れる黒髪は、多分俺の5センチ以上は上にある。所作がいちいち綺麗だ。フレームを指で押す仕草さえも洗練された何かを纏っていて、美しささえ感じる事が出来た。 「この陸上部の部長で、3年3組の寺本日向です。競技は高跳び。分からない事があったら、気軽に声をかけて下さい」  頼もしい笑みを浮かべる寺本先輩に、思わず見とれた。彼には人を惹きつける何かがある。  ぱらぱらと拍手が散ると、待ってましたというように一人の女子生徒が跳ね上がった。  耳まで切り揃えられた栗色は、彼女の小柄な体をより一層引き立てている。 「体験入部の皆さん、こんにちは!副部長の3年1組野口輝でっす!小っちゃいとか言わないでね!? こう見えても幅跳びの選手なんだから! ええと、とりあえずよろしく!」  堀田もかなりハキハキしている方なのだが、この先輩と比べれば可愛いものだと思う。けれど野口先輩が繰り出す笑顔は決してうざったくなくて、むしろ活力を分けてもらえるようだった。 「さっきも言ったけど、分からない事や聞きたい事は俺か副部長の野口さんに言って下さい。それでは各競技別に、解散!」  その声が響くと、皆は陸上部の奴らを先頭に、それぞれの練習へ向かっていく。  果たして、俺はどこに行けばいいのか、今更ながら気付いた。無意味に視線を巡らせるも、何も情報は掴めない。  ふとその時、一人の少女が視界に入った。  ジャージの色からするに、同級生のようだった。細く小さいたれ目に控え目なだんご鼻。無造作に切られたショートカットは、お世辞にも可愛いとは言えない。  その黒目がちな瞳は何故か濁りきっていて、ぼんやりとこちらを見つめていた。 「…あの…?」 「おーい、健斗!」  発しかけた言葉を飲み込み、声のした方向を振り向く。  案の定、中島は大げさなアクションと共に俺の名を叫んでいた。 「けーんーとー!! お前は短距離に決まってんだろー!! 早く来い!」 「はいはい」  中島のテンションに呆れながら足を踏み出し、また止める。振り向いた先に少女はいなかった。彼女も自分の持ち場に行ったのだろうか。 「けーんーとー!!」  まあいいか、とどうでもいい事として、頭の隅に追いやる。グラウンド中に響く自分の名前に苦笑いしながら、俺は中島のもとに急いだ。
  • 37 青空模様 id:FYajkjI0

    2012-07-08(日) 08:50:45 [削除依頼]
    >36  目の前には、甘く濃密な香りと、忙しなく動くミルクティー色の髪。  俺は【フラワーショップ SHION】のスタッフルームでソファにぶっ倒れていた。  カントリー調のこの店は、ソファの素材まで柔らかくて温かみがある。  意識を夢の世界へと手放す寸前の俺に、マグカップが差し出された。飲んでみなくとも中身は分かる。立ち上る湯気から、上品な香りがした。 「今日は何の紅茶? 紫苑」  鉛のように重くなった身体に鞭を打ち、上半身だけ起こしながら問うた。 「ローズティーよ。ところで、バイトも出来ない程疲れるなんて、どれほどのメニューをこなしてきたのかしら?」  涼やかに返された質問に、俺は紅茶を吹き出しそうになる。喉元をぐっと堪え、何とかそれを阻止した。 「い…いや…うん。何ていうか、やっぱりスポーツと趣味程度に走るのじゃ全然違うよな」  しどろもどろに答えながらも、つい1時間前まで参加していた体験入部を思い出す。そして、やはりインターハイなんかを目指す奴らは別格だな、と苦笑した。  陸上部の練習メニューは、俺の想像を遥かに超えるものだった。  まずは短距離という事で、100メートル×20本。次に200メートル20本、上り坂を往復20、800メートル×5、1000メートル×5、腹筋、背筋、腕立てをそれぞれ150回ずつ。  他にもまだまだやったが、最早記憶に残っていない。  中島いわく、これでも体験入部者用に作られた特別メニューなので、普段の30パーセントもやってないという。  それを聞いて卒倒しそうになったけど、ふと見た中島の足は筋肉の鎧でがっちり固められていて、これが努力の証なのか――と感じた。  事実、力比べで走ってみた100メートルは、俺も結構速いはずだけれど、やっぱり全く歯が立たなかった。  陸上というスポーツのすごさを、改めて知った。 「で、俺今まで帰宅部だったし……体力が全然ついていけなくてさ。悪いな、紫苑。仕事やらなくて」 「あら…それはいいけど…健斗くんが来るだけでも楓霊達は喜ぶから。でも体験入部って事は、まだ数日は行かなくてはならないでしょう?」 「……うん。途中で抜けるのは、少し……感じが悪いしね」  明日も膨大な距離を走らなければならないなんて、考えただけでも足が重い。こんな毎日を楽しめる中島は本当にすごい。 「でもいいわね。その部、話を聞いてると、明るくて良い人ばかりみたいじゃない」  紫苑が水蓮を愛でながら、にこりと微笑む。  その美しさに頬を赤く染めながらも、俺の脳裏をふと過ったのは――少女の、あの濁った瞳だった。  何故か紫苑の言葉が引っかかる。一つだけ掛け違えたボタンみたいな。真っ白いシャツにこびり付いた小さなシミみたいな。  俺の頭の中で、少女はどこかを見つめている。その瞳は底なし沼のようで。紫苑の言うとおり、あそこは、明るくていい人達ばかり、のはずなのに。
  • 38 ソウル id:FSOFVcy1

    2012-07-08(日) 15:10:54 [削除依頼]
    面白いよぅっ

    もっと頑張れ!!
  • 39 青空模様 id:FYajkjI0

    2012-07-08(日) 17:47:03 [削除依頼]
    >38 おおソウルさん。お久しぶりです。 亀更新ですみません!汗 出来る限りお応え出来るように頑張ります!
  • 40 *・花音です☆ id:Il.R/6u0

    2012-07-09(月) 17:41:50 [削除依頼]

    評価を依頼された花音ですっ。
    で、読んでみたところとっても面白かったので
    読者になります!

    更新待ってます
  • 41 *・花音です☆ id:Il.R/6u0

    2012-07-09(月) 19:10:20 [削除依頼]

     更新まだかな?
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