止まってしまえばいい。8コメント

1 岬 id:uWKNVAT/

2012-03-24(土) 11:53:42 [削除依頼]


止まってしまえばいいのに。

そう、願った。
  • 2 岬 id:uWKNVAT/

    2012-03-24(土) 11:56:12 [削除依頼]
       ―1―

     駅のホームで下りの電車を待ちながら、舞い降りる雪を眺めていた。三番線の屋根より向こうには白く覆われた山々が見え、その上では明るく白い空が世界を覆っている。立春も啓蟄もとうに過ぎ、吹く風は冷たくも、昨日までの暖かい日差しは春のものだった。しかし、今朝また冬に逆戻りした。
    長く、熱い息を吐いた。吐息は雪のように白く、冷たく見えた。
    ゆるゆると静かに降る雪。他に動くものがない中であまりにゆっくりゆっくり降るものだから、世界にスローモーションがかかっているように感じる。実際、私の中で時間がひどくゆっくり流れる。たっ数分間ここにいるだけ。なのに、何日も何年もこうしているような錯覚。雪に見惚れながら、いつまでも電車を待っていた気がする。
  • 3 岬 id:uWKNVAT/

    2012-03-24(土) 11:58:21 [削除依頼]
    『一番線に十時四十分発、各駅停車長野行き下りの列車が参ります』
     アナウンスとともに動きだすホームに立つ人々。構内は急に騒がしくなった。スローが解け、慌ただしく時間がまた動きだす。
    『黄色い線まで下がってお待ちください』
     私はベンチから立ち上がり、点状ブロックの上に立った。視線を下げると、ふわふわの雪の上にむりやり敷かれたような、黒々としたレールが目に飛び込んだ。その上を鉄の塊がものすごいスピードで通過し、停止する。
    『扉は自働では開きませんので、手でお開けください』
     旅行者らしい夫婦二人が、手で開けるんだ―、と感嘆の声を上げるのが扉越しに聞こえた。旦那さんの方が扉に手をかけ、そのまま右に引く。そして、左手で奥さんをエスコートしながらホームに降り立った。私より少しだけ年下に見える奥さんのおなかは大きくて、ああもう赤ちゃん産める歳なんだ、と驚いた。奥さんが大事そうに手を当てるふくらんだおなかに、胸の奥がチクリと痛む。私はくちびるを軽く噛みしめ、幸せそうな夫婦と入れ違いに電車へ乗り込んだ。
  • 4 真綾* id:3KlXIkG1

    2012-03-24(土) 11:59:19 [削除依頼]



       初めまして。
       すごく綺麗で繊細な文章
       に惚れてしまいました。  
       続きを楽しみにしてます。
  • 5 岬 id:uWKNVAT/

    2012-03-24(土) 12:03:47 [削除依頼]
     屋代駅で私を待ち迎えていた奏夜は、次々に改札口を通り過ぎる人々の中から懐かしい姿を見つけると顔を輝かせた。少年らしい、その素直な表情にまた胸がチクリと痛むのを感じながらも、私は口はしを上げた。奏夜の学ラン姿はなかなか新鮮だった。懐かしい母校の校章が入ったかばんは見事ペッタンコに潰されている。
    「夕子、ひさしぶり」
    「また呼び捨てにして」
    「今さらじゃん。それとも姉貴のが良かった?」
    「おねえちゃんのがきゅんとするわ」
     ありえねー、と腹を抱えて笑う奏夜。その声が記憶のものよりも低くて驚いた。
    「あんた、いつの間にか男になったみたい」
    「何それ。俺は生まれたときから男だよ」
     首をかしげながら可笑しそうにまた笑う。ずいぶんとよく笑うようになった。昔は泣いてばかりだったのに。夕子夕子と拙い声で呼んでは私の後ろを追いかけていた小学生はもういない。
     大きくなった。
     二年ぶりに再会した、私の、弟。
  • 6 岬 id:uWKNVAT/

    2012-03-24(土) 12:06:13 [削除依頼]
    >4真綾*さん ありがとうございます^^
  • 7 岬 id:uWKNVAT/

    2012-03-24(土) 12:10:21 [削除依頼]
       ―2―

     駅を出ると、こちらはすごい勢いで大粒の雪が降っていた。私が折り畳み傘を取り出すのをうらやましそうに見る奏夜。
    「あんた傘は?」
    「折れたから捨てちゃった」
    「はぁ?」
     だから入れてよおねえちゃん、と調子よく私の傘を奪って半分体を入れてきた。
    「相合傘だー。きゃーはずかしい」
     棒読み口調できゃーきゃーと奇声を上げる奏夜の脇腹を小突いて、私はさっと傘を奪い返す。そして、そのまま奏夜を置いてスタスタと歩きだした。傘の柄は奏夜の体温で少し暖かかった。
    「ちょ、夕子夕子!」
     奏夜が私のマフラーをキュッと軽く引っ張ったので、私は立ち止った。後ろを振り向くと、ほんの少し傘を差さなかっただけなのに、奏夜はもう頭に雪を積もらせていた。シュガーパウダーをふりかけたようで、なんだかとても、おいしそうだ。甘いものは可愛い。可愛くて、食べてしまいたくなる。
     私は苦笑しながらも奏夜を傘の中に入れ、頭の雪を払った。サラサラと前髪を撫でる雪。久しぶりに触った奏夜の髪は子どものころの柔らかさはなく、硬い。
     ふかふかの雪の上を二人並んで歩く。ぎゅっぎゅっと足に伝わる感触が懐かしい。
    「これからずっとこっちにいんの?」
    「そのつもりよ」
    「ふーん、そっかそっか」
     
     じゃあ、またにぎやかになるね。寂しかった? なわけないじゃん。
     素直じゃないなぁ。俺チョー素直だよ。
     ほほう。
     ……ホントはちょっと寂しかった。

     トーンの下がった意外な言葉に内心驚きつつ、ちらりと横目で顔を見た。奏夜は微笑んでいた。口端を上げただけの大人びた表情に、背筋がぞくりとする。私の震えを見てとったのか。
    「寒いの?」
    「……ちょっとね」
     差し出されたマフラーをありがたく受け取り、首に巻く。
     そうだ。寒いから。寒いから、ちょっと熱が恋しくなっただけ。
  • 8 岬 id:uWKNVAT/

    2012-03-24(土) 12:14:16 [削除依頼]
    「夕子、タバコ吸うんだね」
    「まあね」
     途中立ち寄ったコンビニで、おにぎりとそれからタバコを買った。
     ありがとうございましたー。コンビニを出た直後に、奏夜は一言小さい声でボソッと、
    「意外」
    「二十歳越えてんだからいいでしょ」
     もっとも、吸い始めたのは短大に通い始めてすぐのことだったからあまり威張れない。あんたも吸う? そう差し出したタバコに、躊躇なく伸ばされた手を叩く。
    「未成年でしょうが」
    「いいじゃん、一本くらい」
    「高校いったらにしなさい」
    「いいの? 高校生も未成年だよ」
    「高校いったらその辺は自己責任」
     少なくとも、義務教育の間は一つも責任なんて持たせてもらえないのだから。そういうと奏夜はふてくされたようにほんのり赤い頬を膨らませた。
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