LIMIT LOVE17コメント

1 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

2012-03-18(日) 08:50:39 [削除依頼]
[1・8月19日の再会]

 抜けるような青空を、わずかな雲がさえぎる秋の日。3歩先を歩く彼女の小さな背中を追いながら、少年野球の威勢のいい声をBGMに、俺は河川敷の道をいつものように歩く。うつむいてはいないけど、胸を張ってるわけでもない。そんな中途半端な姿勢で、二人はあるいていた。風はない。暑くもない。寒くもない。ジメジメもしないし、乾いてもいない。見事と言っていいほど特徴のない天気だが、俺は何か特別なものを、耳の奥の「サンハンキカン」で感じていた。

踏みしめる砂利道を、自転車が立ちこぎで通り過ぎる。自転車が3歩先を歩く彼女をかすめると、彼女は突然立ち止まる。そして、それとほとんど同時に振り返る。まるで、その自転車が合図だったように。俺も一瞬遅れて立ち止まる。そして、いつもの見慣れた笑顔で「(アリガトウ)」・・・・・・・。


そして、それとほとんど同時に、携帯の大音量が俺の耳を貫いた。
  • 2 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:51:08 [削除依頼]
    いつもここで目が覚める。目覚まし用の携帯が鳴ってもが、鳴らなくてもがお構いなしに。まだ秋なんて遠い未来に思える8月の19日。6畳のわが城では、サッカーボールを蹴り当てて壊したエアコンが、俺を見下ろしている。午前10時過ぎ。この気温さえなければ、あと4時間は寝られる自信がある。中学2年生の夏、受験もないし、特に特徴のない夏休みが、あと一週間で終わる。なんで31日までじゃなくて26日なのか。昔はもっと長かったはず・・・。まぁ、いいや。セイジテキなことは、考えたくもない。
  • 3 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:51:38 [削除依頼]
    そういえば、まだ自己紹介してなかった。俺は安斉竜也。皆、「ある一人」を除いて、俺のことを「タツ」と呼ぶ。同じTシャツを多分3日くらい連続で着ているから、汗ですごいことになっている。その汗のせいもあるのか、寝癖も芸術的なレベルだ。まだ眠いが、このまま二度寝するわけにはいかない。気温のせいじゃない。今日は一年に何回あるかわからない、「ちゃんとしなくてはいけない日」だからだ。
  • 4 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:52:05 [削除依頼]
    洗面所で頭をざっくり洗うと、昨日洗濯しておいたTシャツを一枚洗濯機から引っ張り出す。ほぼ空の財布と、スマートじゃない携帯をダメージジーンズ(お手製、というか、ただのジーンズが自然にそうなった)に突っ込み、共働きで俺しかいない家をあとにした。何も盗られるようなものはないが、一応カギはかけておく。俺はいとこのお下がりのボロチャリにまたがり、まっすぐあるところに向かう。理緒に会うために……。
  • 5 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:52:34 [削除依頼]
    今の家に引っ越す前、俺のお隣の家に「丸山理緒」という同い年の娘が住んでいた。理緒の母親と俺の母親が幼なじみであったこともあり、安斉家と丸山家は、いわゆる「家族ぐるみ」の付き合いをしていた。一緒にキャンプに行ったこともあるし、海に行ったことも何度かあった。理緒は「クールガイ」と言う言葉が似合う、サッカー好きの活発な少女だった。日焼けしたショートカットのイデタチは、アスリートを思わせていた。

    当然、同じ小学校、中学校に通っていた。理緒とは5歳からの長い付き合いだったから、いつもの遊び仲間と同じように、一緒に遊んでいた。理緒は男勝りな面が多く、サッカーなどやらせたら、男子相手でも普通にプレーする。そんな性格のせいか、体のどこか一ヶ所には必ずバンソウコウが貼ってあった。成績も、体育だけはずば抜けていた。他の成績は、本人いわく「まぁまぁ」だが、俺は理緒に一度しか勝ったことがなかった。
  • 6 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:53:22 [削除依頼]
    その唯一勝ったのが、中1の一学期の成績だった。中学生になり、俺の母親が「高校はマシなところに行って欲しい」という、要らんおせっかいで始めたZ会をやり始めたら、数学だけではあったが「5」になった。理緒は「4」。期末テスト前に右手を捻挫したのが響いたらしい。理緒は陸上部、俺はサッカー部に入っていた。何で女子サッカー部がないのか、とぶつくさ言っていたが、サッカーで鍛えた脚力をかわれて入部した。
  • 7 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:56:54 [削除依頼]
    サッカー部のマネージャーにならないかと誘ってはみたものの、「選手として参加できないのなら、やらないほうがマシ。」と断られた。俺がサッカーをやったのは、他でもない「消去法」だった。田舎の学校だから、もともと部活の種類がすごく少ない。運動部はサッカー部(男子のみ)、陸上部の他に、軟式野球(男子のみ)、バレーボール(女子のみ)、卓球部、水泳部。文化部は吹奏楽と美術だけ。

    ただ走るのはつまらないし、野球はハード過ぎるし、屋内競技は性に合わないし、カナヅチだし、芸術的才能はないし、だからといって帰宅部もシャクにさわるし……。正直、サッカーだってハードだし、チームワークとか微塵もないけど、理緒とやったサッカーで少し慣れてはいたから、これをやることにした。まぁ、始めた理由がそんな感じだから、夏休み前に退部したんだけど。
  • 8 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:57:35 [削除依頼]
    一方理緒は、ただ走り、跳び、投げるだけの競技に熱中していった。ただの体力の消耗にしか見えないマラソンを、理緒は平気でやってのける体を持っていた。レギュラーは確実とされ、次期部長候補とさえ噂された。そういう境遇の違いと、中学生という「微妙な年齢」が相まって、俺と理緒の距離は離れていった。メールはしょっちゅうしたが、今までのように接することはなくなっていった。
  • 9 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:58:13 [削除依頼]
    期末テストが終わり、後は夏休みを待つばかりとなった7月の下旬の土曜日。すでにサッカー部を退部した俺は、買ったままほとんど使っていないボールをもてあましていた。何もかも中途半端になった俺とは対照的に、理緒の陸上部としての活躍は目覚ましかった。右手の捻挫にも関わらず、マラソンの市大会で新記録を出して優勝したらしい。これは県の記録を上回っており、県大会優勝の最有力候補となったという。

    そのことは母親が仕事帰りに持ってきた新聞で読んだのだが、昨日の時点で、理緒からのメールでざっくりとしたことは聞いていた。「理緒ちゃんはこんなに頑張っているのに……」と、明らかな俺への皮肉とともに、母親は「我が城」を出ていった。このころ、買ったばかりのエアコンで、「我が城」は非常に快適な空間となっていた。ただ、理緒が市大会で優勝してからは、メールがあまり来なくなったのが唯一の気がかりだった。
  • 10 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:58:44 [削除依頼]
    練習が忙しいのだろうか。まぁ、あれだけ大々的に報じられたら、顧問の張り切り具合は並大抵じゃないだろう。弱小校の一年生が、強豪を押さえて優勝したのだから。

    夏休みに入ってしばらくたった8月9日。約2週間ぶりに理緒からメールが来た。
  • 11 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:59:21 [削除依頼]
    「県大会には出ない ゴメン」………。
  • 12 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 08:59:54 [削除依頼]
    たったの12文字のメール。絵文字も何もない、今までで一番シンプルなメール。何があったのか、訪ねたい衝動に駆られた。でも、指が動かなかった。メールであれ、口頭であれ、理緒が「ゴメン」と言ったのを聞いたのは、これが初めてだった。そもそも、何で俺に謝るのか。途方にくれていると、次のメールが来た。「今度、2人っきりで話がしたい」………。俺は10年近く理緒と一緒にいたが、理緒がこんな乙女チックな台詞を言う姿が、俺には全く想像できなかった。俺は10日から旅行に行く予定だったから、そのあとならいいと伝えた。
  • 13 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 09:00:31 [削除依頼]
    久しぶりに訪ねた祖母の家。ボロチャリをくれたいとこにも、一年ぶりくらいに会った。夜通し持参したゲームをやり、とても楽しい時間を過ごした。祖母の作った料理は、さすが、母親の母親だと思った。何となく似ているけど、数倍旨かった。サッカー部を退部したモヤモヤが吹っ切れたが、その代わり、頭に理緒のメールがこびりついて離れなかった。
  • 14 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 09:01:16 [削除依頼]
    数日後、旅行から帰ってきた俺は、理緒と会う日付を決めた。場所は、小学生のころ一緒に行った、キャンプ場近くの河川敷。隣どうしなんだから、俺の家とか、あるいは理緒の家でもいいのだが、何となく俺達の近所から離れたかった。そのことは、理緒も快諾してくれた。

    時間は午後2時。今思えば、一日で一番暑い時間帯だったが、理緒の「話」のことが気になって、暑さなんて忘れていた。

    俺の服装は、ジーンズ(まだダメージではなかった)に、青無地Tシャツ。俺の信念は「シンプル イズ ベスト」。これにつきる。いとこのボロチャリで待ち合わせの河川敷に向かった。
  • 15 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 09:02:06 [削除依頼]
    目的地のすぐそばまできて、買ってもらったばかりの携帯の時計を見る。時間まで20分ある。ちょっと早すぎた。アイスでも買うついでに涼もうと、近くに新しくできたコンビニに立ち寄った。暑さを忘れていた俺にとって、コンビニの冷房は「ゼッタイレイド」だった。

    買い物を済ませて外に出る。「暑さ」を思い出していた俺には、砂漠に放り込まれた気分を味わった。数分の間に焼かれたサドルに座ろうとしたとき、交差点で信号待ちをしている人影を見つけた。黄色いTシャツにショートパンツ、野球帽にサンダル。短めの髪、小麦色の肌。右手首には包帯が薄く巻かれている。間違いない。理緒だ。小学生のころからほぼ毎日ジャージを着ていた理緒が、多分、精一杯おしゃれしてきたのだろう。
  • 16 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 09:03:09 [削除依頼]
    俺は無言で、理緒に向かって手を振った。理緒の鋭い視線が、俺の挙動をとらえる。そして、その挙動の主が俺だとわかったのか、少しだけ笑顔になりながら、青信号を駆け足で渡り始めた。俺と理緒の距離は30mくらい。
  • 17 草風 丸鷹 id:OlYteZI.

    2012-03-18(日) 09:03:36 [削除依頼]
    だが、その30mを、理緒は完走できなかった。
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