黒色蝶々31コメント

1 トリガ id:wmgARgC/

2012-03-04(日) 14:00:19 [削除依頼]


久しぶりに名前を呼ばれた。

忘れかけていた何かを呼び覚ますように。
  • 12 トリガ id:XcfC7190

    2012-03-09(金) 17:52:35 [削除依頼]


    くだらない。

    こんなくだらない仕事はない。

    泡を吹いて頭から血を流す死体から目を背けてから、私は誰にともなく呟いた。まだ熱い拳銃をその場に棄てる。指紋を採られたところで、どうせ身元は分からない。裏の人間に、表の人間としての名前も姿も存在しない。
    雨と血で湿った髪をかきあげる。視界がふっと明るくなって、暗かったのは髪の毛の所為か、とぼんやり思う。無気力。何もかもが鬱陶しい。やる気が出ない。久しぶりに体を動かしたのに。とんだ期待はずれの相手だった。少しだけ、頬が熱くなった。
    雨が少し強くなってきている。コートの内側に水が滲んでくるぐらい。少し上がった体温が急速に奪われていくのを感じる。けれど、頬に当たる雨の冷たさが心地よかった。動きたくなかった。
    コートのフードに水がたっぷり溜まるくらいの時間、突っ立っていると、不意に背後に誰かが立つ気配がした。いや、ずっといたのだ。ただ、気配を絶っていただけで。

    「何をしている」

    背後の人物が静かに呟く。決して大きくはない声。けれど、よく通る、どこか従わなければならないような空気を纏う。
    後ろを横目で確認すると、私とそろいのコートで、フードを被った長身の姿が、影のように佇んでいた。

    「サイ」
    「自分のものを回収しろ。マグナスが喚いて仕方がない」

    サイはそれだけ言うと、コートを翻して先に路地の奥へと歩いて行った。まだ仕事は終わっていない。報告を済ませてから好きなだけ雨に当たれば良い、ということだろう。サイの遠まわしな言い方が私は嫌いだった。あまり係わり合いはしたくない、という意味だ。もちろんそれは、私にかかわろうとする人間すべてに平等に言えることだったが。
    一度棄てた拳銃を元通りホルスターに仕舞い、死体に突き刺さったままの小刀を回収する。全員の目を閉じさせてやってから、私は立ち上がった。あたりはまだ鉄の匂いが漂っていた。
    水溜りに沈みつつあるその場を一瞥してから、私は重く濡れた黒髪をたなびかせて、路地の奥へと歩いていった。その後姿を見たものが、私をこう呼んだ。
    黒い蝶。クローチェ、と。
  • 13 トリガ id:MiO4BOW/

    2012-03-13(火) 17:28:54 [削除依頼]

    上も下も分からないその世界で、

    悪夢のように濃い色が飛び散ってゆくのを、

    私は、

    ただ見ていました。



    元は栄えていた輸出入用の港の跡地。その辺りの全盛期に建てられた幾つものビルが、今はただの廃屋となって佇んでいる。一見人の一人もいないゴーストタウンに見える此処は、現在、裏の世界の首都と呼ばれるほど栄えているところだ。港の跡を利用しての武器、麻薬の輸出入や、表の世界の首都に近いことを生かした“仕事”の都合の良さがその理由といえる。そんな稼業が許される町だ。自分の身の安全が保障される確証のない無法地帯である。皆が皆、自分の安全のためにいつでもトリガを引く。刃を研ぐ。世界を見回している。そんな緊張感の中に、この町は存在している(当然のことながら、この町は表の地図には存在しない)。
    まだ雨の降りしきる中、私は立ち並ぶビルのうちの一つに駆け込んだ。ガラスの砕け散った幾つもの窓と、鉄筋のむき出しになった灰色の壁が、雨漏りによって黒く染まっていた。私はガラスとコンクリートの散らばる通路を抜けると、五階建てのビルの三階まで階段で上がった。そこだけはしっかりとした廃ビルの三階の鉄扉を開けたとたん、むっとするほどの熱気と、消毒液のにおいが鼻を刺す。私の、唯一“ホーム”と言える場所だ。
    本拠地である、という意味でだが。
    「帰ったか、クローチェ」
    鉄扉を開閉した音を聞いたか、一人の男が顔を出した。真っ白くまだらに生えた髪に、こちらも白いひげを不ぞろいに伸ばしている。マグナスという、裏では名の知れた薬の開発者だ。私はこの男に仕事をもらい、その見返りとして、報酬と生活場所を提供してもらっている。
    「対象の証拠を回収してきたか?」
    私はうなずくと、あの傭兵達の雇い主から拝借した一部分を投げてよこした。ビニールの小さい袋に収められたそれは、空中で何回転かした後、マグナスの手に収まる。
    中身を確認して、彼は代わりに、私に小袋とタオルを投げてよこした。小袋にはいつもの通り、金貨が十数枚と、その他の小銭諸々。報酬だ。タオルは、人にあまり気を使うことのないマグナスには珍しい配慮で、その毛羽立ったような生地を見つめていると、決まり悪いような表情をして、マグナスは目を逸らした。
    「いや、サイがなぁ…。多分ずぶぬれになってかえってくるだろうから、渡しておいてやれというものでな」
    「……サイ?」
    「あやつにしては心配しておったぞ。後で行ってきたらどうだ?」
    私の返事を期待してはいなかったのか、マグナスは少ない頭の毛をかきながら、カーテンで仕切られた“実験室”らしき場所へと姿を消した。
    私は、少し複雑な気分のまま、手に持ったタオルを少しの間、見つめていた。
  • 14 曖昧レイン id:KMt8lNM.

    2012-03-16(金) 12:18:43 [削除依頼]

    見ーつけた笑
    初めまして、トリガ。
    否、実際初めてじゃないけどな。
    風邪平気か?
    一応心配してんだぞ。
    あの日、トリガ以外全員いたからな。
    少し寂しかったぜ?
    また会えたら嬉しいな。
    ・・・おっと、雑談してしまったな、すまねぇ。
    小説頑張れよ!
    続けろよ!
    つながりはここしかねぇからな笑
    またよみに来る。
    頑張れ!!
  • 15 トリガ@花粉症なう id:HZa.uJ5.

    2012-03-19(月) 15:25:38 [削除依頼]
    >14 みつかった(笑 まだ完治はしてないけど大丈夫…か、な? 激励攻撃にちょっとむせたぜ。 頑張るよ。 だがお前こそ続けてもらわにゃ困る 君のは敢えてこっそりよんでいるy((( から心配するなb← また会おうぜb
  • 16 トリガ@花粉症なう id:HZa.uJ5.

    2012-03-19(月) 17:01:42 [削除依頼]



    ――追えっ、向こうだ

    夢の中で、私はいつも追われる“役”だった。
    何故なのか、まだ脚力も体力も貧弱な幼い頃の姿をした私は、見覚えのない道をただ闇雲に走って、私を追ってくる気配と影におびえていた。

    ――いたぞ、手間取らせやがって

    しょっちゅう立ち止まったり、生半可な気配絶ちばかりしていた私は、当然のようにすぐに見つかってしまう。逃げようとして踏み込んだ足は、足元をはじいた銃弾におびえて、その場で止まる。それだけでなく、足からだんだんと、力が抜けてしまう。あ、と思ったときには、私はその場に座り込んでいるのだ。
    嫌になるほど、今の私と体とのギャップは激しく、その“感情”の波の中で、私は感じる。今はもう感じなくなってしまった、「死ぬかもしれない」という恐怖を。

    ――外すなよ、一発だ

    ガチャリ、とグリップを握りなおす音。
    脈打つ心音。
    真っ白になる頭。
    きぃん、と頭に響く。

    ――死ぬの?

    その瞬間、私の中で、懐かしいものに近い何かが、炸裂した。

    いつの間にか私の右手にあった固く冷たいそれを、私を向って黒く鈍く光る銃口に、振りかぶった。
    鈍く腕に伝わる感触。受け止められたのか。とたんに冷静に研ぎ澄まされてゆく頭。足に力が戻ってくる。ふらついていた上半身に芯が戻ってくる。いつもの、そう。いつもの私になってくる。ただ、どこにやったらよいのかわからない大きな感情の波を残して。
    銃声がとどろく。すぐ近くのコンクリが飛び散る。跳ね上がるようにして立ち上がった私は、ほんの数メートル先に見えた人影に向って、右手の小刀を投げる。敵か味方かも確認しなかったその人間は体の真ん中から血を噴出して地に伏した。
    もし味方であってもかまわなかった。いや、違う。ここに味方などいない。此処にいるのは敵だけ。戦わなければいけない。生き残るために。
    視界の端に写った一人が、私に向って撃とうとしている。させない。私は、私だけが生き延びる。敵が生き残る必要はない。無意識に銃を抜き放った左手が、正確にその姿を打ち抜いた。
    その一人が倒れてゆく後ろから、人が溢れ出てくる。それぞれが武器を持って、私を睨みつけている。持っているのは古風で錆びた斧やナイフ。そんなもので私に勝とうと思っているのか。そんな鈍重なもので、私から生き残れると思うのか。右手の死体に刺さっていた小刀を取り戻し、私は吼えた。
    私には無抵抗に近い、その人間たちの体を切り裂く。斬る、斬る、斬る。真正面から返り血を浴びる。ぬめりつく小刀を無理やり握り締め、叫ぶ。

    生き残るのは私。
    生き残りたければ、私を殺してみろ。

    狂気的な感情の波に襲われながら、私はふと背後に感じる気配に気付いた。
    首筋にナイフを当てられたようにひやりとする気配。振り返るのが怖いほどの気配。けれど、私は、これが誰であるかを知っている。それを悟った瞬間に、私の中の感情の波が、嘘のように鎮まっていった。代わりに残ったのは、安堵に似た、穏やかな感情だった。

    ああ、
    これで、終わるのか。

    胸の中心に走る衝撃。手から離れてゆく小刀。続けざまに打ち込まれる銃弾。やけに鈍い痛みを感じながら、私は世界から離脱する。

    ゲームオーバー。
    私は、自分の世界でも生き残れない弱者だ。

  • 17 曖昧レイン id:lel1rMO0

    2012-03-21(水) 15:20:07 [削除依頼]

    むせんなや。
    まぁ、激励攻撃をするなんて思ってもみなかっただろう?
    第一、俺のキャラじゃないからな笑

    俺は続けるぜ。
    たとえ地獄の果てに行こうがパソだけは持ってくからなww

    トリガが敢えてこっそり読むなら、
    俺は敢えてコメントしまくるぜw

    おう、またな。
  • 18 トリガ id:K/X5VH2.

    2012-03-23(金) 09:30:35 [削除依頼]
    >17 ほんとだよ。 だからこそむせたんだ。 まず地獄の果てに行かないでくれ(笑 地獄に行くのは私の後にs((ry のんびり更新↓
  • 19 トリガ id:K/X5VH2.

    2012-03-23(金) 11:03:14 [削除依頼]

    黴臭い臭いが鼻をつく。冷たく湿ったものが頬にあたっている。横目を最大限に使って、今の自分の状況を確認した。汚れて灰色になりかけている布、黒っぽく湿ったコンクリートの壁、その壁に適当に掛けられたコート。向きが全て横向きなのは、自分が横になっている所為だ。私の部屋。いつの間にか、寝てしまっていたらしい。夢か、現かもわからぬほどに。
    夢の名残か。私の中心、奥深くにはまだ、うだるような熱を持った何かがうごめいていて、暴れ足りないとでも言うように、時々手足が痙攣した。と、ふと気付く。先ほどから、私の体は何かに固定されているかのように動かない。いや、体全体に圧力が掛かっている、といったところか。それに、私の両手には、小刀が握られたままだ。
    唯一自由の利く目を背中の方へ向けると、豪奢に、しかしどこか控えめに光を反射する長めの金髪が視界に入った。顔を隠すように重く垂れ下がった金髪の下で、鋭い眼光を放つその目と、私の目が合う。
    「――起きたか」
    低くうめくようにつぶやいたサイは、同時に、私の頭を押さえていた手を緩める。全身がふっと軽くなった。サイが私の体の重石になっていたのだ。何故そのようなことをしたのかは分からないが。
    半身を起こして部屋を見渡した。銃弾の痕、壁のひび割れ、細かなコンクリートの破片。少し増えた気がするのは気のせいだろうか。立ち上がろうとすると、胸の中心が鈍く痛んだ。
    「止めておけ」
    バランスを崩して片膝を着くと、ベッドに横に腰掛けたサイが声を掛けてくる。
    「傷が深い上に、広がっている。無理に動くと治りが遅くなるぞ」
    言われてはじめて、私は自分の傷を見下ろした。背中から貫通して胸を貫いたその傷は、多分、普通の人間ならとうに死.んでいる大怪我だ。サイが言ったとおり、傷は広がっているようで、流れた血の量は多分もう致.死量に達している。今もなお、着ているTシャツのすそから、水ににじんだ血が垂れていた。
    それでもなお生きていることが、私が化.け物と呼ばれる由縁だ。
    「マグナスはもう呼んだ。傷の状態は自分で言え」
    座っていたベッドから立ち上がると、サイは顔に掛かってくる金髪をうっとうしそうにかき上げながら、ドアへと手を掛けた。後ろを向いたまま、一瞬止まった彼は、ちらりと私を窺ってから小さく呟く。
    「自分の体調管理位、自分で出来るようにしろ。そのたび俺たちが振り回されては、迷惑だ」
    閉められたドアが湿った音を立てる。
    しばらくして、私は自分が奥歯をかみ締めていたことに気付いた。
    傷ついた胸の奥で、それまでとは違う痛みが、私の徐々に崩れてゆく心を、貫き、更に崩していった。
  • 20 トリガ id:K/X5VH2.

    2012-03-23(金) 11:07:11 [削除依頼]
    >19 ワードが引っかかったので . 入れました。 気にせず読んでください。
  • 21 トリガ id:W6Mo7bm1

    2012-03-26(月) 18:41:38 [削除依頼]



    クローチェの部屋のドアを後ろ手に閉め、一人の青年が小さく息を吐いた。一見すると美しい女性のようにも見える整った顔に、若干の憂いを浮かばせている。その頬に、一筋の傷跡があった。鋭い刃物が掠めたような、真っ直ぐな傷。少しにじんだ赤をこする様に拭い取った青年は、廊下に響く足音に気付いた。
    「大事ないか、サイ」
    廊下の向こうの向こう。叫ぶようにしてサイに話しかけるマグナスは、斑の白髪頭を掻きながら、しかし表情は深刻に、長い廊下を急ぎ足で歩く。その手には、やけに大きな救急箱のような物体があった。
    その姿を目視で確認したサイは、寄りかかっていたドアから少し離れ、彼が来るのを待つ。息を切らしながら到着したマグナスは、状況の報告を求めて、サイを促す。
    「いつものあれには近いが、前よりも長くなった上に躊躇いも無くなってきた。そろそろ自覚症状が出てくるだろう」
    「ふむ……」
    息を整えたマグナスは不ぞろいのひげを撫でつつ、ふと、サイの頬の傷に気付く。磁器のような頬に鋭く走る刀傷。それをつけたのは、十中八九クローチェだろう。サイと互角に渡り合える相手は、今はもうクローチェしかいない。しかし、そのクローチェさえも、サイに傷をつけられるほどの実力は持っていない。
    「サイ、お前さん…」
    「……」
    サイは無言で、マグナスから目を逸らした。それは、マグナスの無言の問いの肯定だった。
    今までの相手を抑えるのに、彼は傷など負うはずもなかった。それは、彼が相手を上回る力で、傷つけられる前に抑えたからだ。つまり、手加減をしていない。しかし、クローチェには違った。加減をすれば怪我をする実力を持っていたにもかかわらず、彼は手加減をした。結果、彼女は元々の傷以上の怪我は負わず、逆に彼が怪我を負った。
    サイが戦う相手に対し、手加減をしたのを、マグナスは見たことがなかった。それはつまり…
    少しの間、じっとサイを見つめていたマグナスは、ふとその視線を外して、独り言のように呟いた。
    「後でちゃんと、クローチェと話しをしたほうが良い。お前さん、どうせあやつを傷つける物言いをしてきたんじゃろうからな」
    サイが横目で、マグナスをちらりと見た。睨むような目つきに近かったが、図星だったようで、すぐに目を逸らす。くくっと笑いをこぼしたマグナスは、さっさと背中を向けて部屋へと戻ってゆく彼の姿を、しばらくの間見つめていた。
  • 22 トリガ id:3RaEcof0

    2012-03-27(火) 09:57:01 [削除依頼]
    ・無駄な独り言。

    この黒色蝶々は、数ヶ月前に私が投稿していた、とあるgdgd短編小説から派生したものだったりします。
    なんというか、自分でも意味分からないくらい真っ黒い文章を思いつくまま書きなぐった、まあ、ある意味厨二びょ((ry 的なモノでした。今となっては、投稿していたこと事態お恥ずかしい限りです。
    そのときは戦闘描写も何にもない、日常(?)の混沌の物語だったのですが、結局最終的に戦闘描写を入れたくなってむりっくり入れたという(←)非常にノープランなものになってしまいました。
    じゃあ、そこに至るまでの物語書いたら、戦闘描写いけるんじゃねぇ?おおいいじゃん!!という意味不な私のノリによって、黒色蝶々の原型が出来たわけです。
    つまりは、ただ戦ってる場面を入れたかっただけです。すみません。

    なんかほんとに無駄すぎる長すぎるつぶやき失礼しましたm(_ _)m

    こんなこと言う前に頑張って更新します↓
  • 23 祈祷 彗月 id:ac.9CcU0

    2012-03-27(火) 13:57:22 [削除依頼]

     どもノ
     相変わらず魔法のようにスラスラ読めちゃいます!((幼稚な表現←
     黒色蝶々……なるほど、クローチェですか。
     勝手に頭上の空を黒い蝶が飛んでいたとか想像してました(● ´_)
     そしてそして何度読んでも素晴らしい表現に息を呑みます。
     嗚呼、我輩にもこんな素晴らしい表現法が備わっていれば(´・ω・`)

     頑張れ(p`・ω・´q)デス*
  • 24 トリガ id:/Ef.ik/0

    2012-03-28(水) 11:55:26 [削除依頼]
    >23 コメありがとうございます。 そう言っていただけてうれしい限りですww 申し訳ないことにクローチェって当て字の上に、エピソードが>12の最後の二行しか思いつかなかったという← 深い意味もなく題名に取り上げてしまって、最後どう繋げてやろうかとあたふたしております^^;; 素晴らしいなんてとんでもない! いっつもこんな表現で物語が伝わるのかとはらはらしておりますドキドキ 長々とすみませんでした。
  • 25 トリガ id:/Ef.ik/0

    2012-03-28(水) 14:05:03 [削除依頼]

     *

     痛みと限界を訴える自分の体の意思を無視して、私は重くへたれた体をベッドの上まで移動した。倒れこむような馬鹿な真似はしない。マットレスが自身の体重で沈むたび、自身の意思に反して痛みが走る。
     少しの時間をかけて横がけの姿勢に落ち着くと、丁度、マグナスが部屋に入ってくる。片手には救急箱――傷が深いことを予期してか、いつものものよりも大きい。
     部屋に入ってきてまず私に目を向けたマグナスは、あきれたようにため息を吐き、次いで、静かに言った。

     「お前さん、まさか自分が不死になったとでも勘違いしてるんじゃなかろうな」

     私は、怪我の状況を言おうと開きかけた口を閉じた。そのとおりといえば、そのとおりだった。そうでなければ、私はあのような非常人的な戦い方はしない。あれは、化.け物だからこそできる戦い方なのだ。
     「薬は、あくまで体を強化するだけのものに過ぎない。怪我に態勢が出来たからといって、怪我をしないわけじゃない。まして、死を逃れることなど出来はしない。確かに今のお前さんは化.け物と同じレベルの体をしとるが、普通の人間が死.ぬレベルの怪我は、お前さんも死.ぬレベルじゃ」
     とつとつと話しながら、マグナスは救急箱の中身を床に並べてゆく。銀色に光るメスの類の刃が、うつむきがちな私の無表情を映していた。
     「自分の体の限界くらい、ちゃんと自分で把握せい。でなきゃお前さん、早死.にするぞ」
     先ほどサイに言われたことと同じことを言われて、私は少しどきりとした。けれど、マグナスの言葉は私にはダイレクトに響いてこなかった。
     私には、私自身のことなど、とうにどうでもよいことだった。
     将来、私がどうなろうとも、どうだって良い。私にとって大切なものは、今。今この瞬間、生きているという事実。今を生きるために、生き残るための力が欲しかった。だから、私はマグナスの薬を飲むことを承知した。未来を考えるなら、確実に未来がつぶれる選択など最初からしない。
     一通りの治療をし終えたマグナスが、それだけは医者のような慣れた手つきで包帯を巻いてゆく。時々胸を突く痛みに、私は生きていることを再確認した。
  • 26 トリガ id:G0/I31J/

    2012-04-15(日) 12:52:07 [削除依頼]
    あげ。

    お久しぶりの更新↓
  • 27 トリガ id:G0/I31J/

    2012-04-15(日) 14:08:38 [削除依頼]



    私の体は、常人のものとは違う。しかし、最初から私の体はこのようだったわけではない。
    二年半ほど前まで、私は表の人間としてごく普通の生活を送っていた。私がこちらに来たのは、ある一事がきっかけだった。
    父親の、麻薬所持。
    元々気性の激しい人で、私と当時共に住んでいた弟は、夕方ごろ帰ってきて早々に酒を飲む父親に、理由も無く殴られることがほぼ毎日あった。母親はそれよりずっと前に離婚していて、物心ついたころにはそれは日常となっていた。不思議にも思わず、私は毎夜、父親が遊びに出かけた後に、もう泣きもしない弟の怪我を手当てしていたものだ。
    そんな毎日を過ごしていたとき、父親の部屋で、私はあるものを見つけた。大量の薬、注射。十五の私がそれが何かを理解するには、ほんの十秒もかからなかった。
    それを見つけてしまったのが、父親と私の運の尽きだった。
    それからの数時間は、あっという間だった。
    帰ってきた父親は、玄関でソレを持って立つ私を見て、恐怖に顔をゆがめた。父親は、裏からの流通を使って麻薬類を手に入れていた。
    裏での違反は重い。表との前面戦闘を防ぐために裏には定めがある。裏の事情を知るものは、表に裏の世界を悟られるものを知られてはならない、見られてはならない、教えてはならない。犯せば、本人、関係者全員が死を免れることは出来ない。
    本人が、知ってしまった者を殺すことを除いては。
    そこでとった父親の行動は、私を殺すことだった。
    今まで受けてきたものとは比べ物にならない力で父親は私の首を絞めた。焦点の合わない目で私を睨み付けながら、泡を吹く口で“お前が俺にこうさせるんだ”と叫びながら。首を絞め付ける力は一定でなかった。私はそのために意識を失うことも出来ず、無意味に絞め付けてくる手に抵抗した。
    そんなときだった。
    私が彼に出会ったのは。
  • 28 トリガ id:G0/I31J/

    2012-04-15(日) 15:05:16 [削除依頼]

    彼は死神だった。
    けれど、彼の姿は、今、この状況にあまりにもそぐわなかった。
    気配もなく今、この場に降り立ったかのように空気の余韻を漂わせ。
    何とかまだ開いていた私の目の端で、美しい黄金色が見えて。
    私には、この瞬間が止まったように感じられた。

    いつまでも。

    永遠に。

    一瞬を留める写真のように。

    黒い衣が踊るように翻り。

    滑らかに動いた彼の右手が、銃口を定め。


    (私はこの瞬間に見惚れていたのだ)


    気付けば、私は動かなくなった父親の体の上にいた。
    徐々に床に広がってゆく赤色の液体の中で、父親だったモノは沈んでいった。私の首は名残に熱くうずき、どこか穴の開いたような、そんな気分で、私は何も言わずにその物体を見つめ続けていた。
    死神は私に、生きたいかと問うた。もしかしたら、行きたいか、だったかもしれない。私は答えた。生きたいと。
    殺すか、殺されるか。殺される側のなんと惨めなことか。私は今、目の前に横たわるモノにはなりたくなかった。
    殺すか、殺されるかであれば、殺す側に回る。生きるか、死ぬかなら生きる側になる。死神はうなずいたように見えた。まだきな臭い拳銃を、彼は私に差し出した。
    勢いで言った言葉は、今も私の意識下のどこかで生き続け、強烈な記憶を私の中にとどめ、私を薬漬けの化け物へと育て上げた。
    私はこうして、サイに連れられて裏の世界へと足を踏み入れることとなったのだ。
  • 29 トリガ id:figXH7X.

    2012-05-13(日) 15:57:12 [削除依頼]

    切り裂き、踏みにじり。

    その色を世界に広げてゆくその姿は、

    **の大切な、大切な……




    私が再び目覚めたのは、とうに日も暮れた夜のことだった。
    傷は、意思とは別にかなりのダメージを体に与えていたらしく、マグナスに治療してもらってからの記憶が私には何もなかった。知らずのうちに唇を咬む。少しの時間でも、気を抜いてしまうということは、この世界では命取りだ。怪我をしていたから仕様がない、という理由は通用しない。死んでからでは言いようがない。
    体に注意深く力を入れる。いきなり起き上がることはもうしない。そんなことをすれば、両方に何を言われるか分からない。
    特に問題はなさそうなことを確認して、ゆっくりと上半身を起こす。いつもの癖で部屋をぐるりと観察し、確認すると、ふとベッド横の椅子が目に留まった。木製の、滑らかな曲線を描く椅子は、私の部屋には無かったものだ。
    マグナスか、それともサイが、持ち込んだ物なのだろうか。座面に触れると、ほんの申し訳程度の暖かさが残っていた。二、三十分程前か。
    わざわざ目覚める直前まで安全を確保してくれたらしい。自身が生きていた理由が明確になったと同時に、胸の奥に感じた違和感に少しだけ眉を寄せた。

    何の馴れ合いのつもりか。
    私は彼らにとって他人であり、それ以上のかかわりはしないはずではなかったのか。
    現にマグナスは治療に賃金を要求するし、ほんのたまに小言を呟く以外は決して、自分からかかわろうとはしてこない。

    そう、恐らく、ここにいたのはサイだ。
    私よりもずっと、裏の世界にいるはずなのに、裏の理になじもうとしない、いつまでも私をなじるような態度を続ける、あの男だ。

    認識すると同時に、座面に触れている手のひらから体温が奪われていくような錯覚に見舞われて、私はその椅子を跳ね除けた。
  • 30 トリガ id:figXH7X.

    2012-05-13(日) 16:10:24 [削除依頼]
    お久しぶりです。
    学校が忙しくこれから本当にマイペース投稿になりますがよろしくお願いします。
  • 31 彗月. id:BgyLdZ81

    2012-08-07(火) 14:45:56 [削除依頼]

     トリガさーーーん!!!←
     お久しぶりです/
     最近はまったく書いていらっしゃらないのですね。

     無理にとは言いませんが再び更新していただければ嬉しいです|ヨω`)
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