アリ大戦82コメント

1 ichi id:P.5bwoB.

2012-02-14(火) 17:59:51 [削除依頼]
ぼくらはシアワセだった。――あいつらが来る前までは。

「全く……やってらんねぇぜ!なぁ、アディ?」
でっぷりとした黄緑色のイモムシを引きずりながらそう呟くのはぼくのともだち、ジャグル。
汗で光を反射しているその身体は、いつ見ても逞しい。
「そうだね……っとほら、あんまり文句を言うとあいつらに目を付けられるよ」
ぼくも隣でジャグルの引きずるイモムシを手伝う。
そのイモムシはもう虫の息で、ヒクヒクと身体を痙攣させている。
「おいおい。こいつまだ生きてやがる」
ジャグルの触覚が、驚いたように小刻みに震える。
「なんでもいいよ、早く運ぼう」
ぼくはいつものように、小さく溜息をつく。

ぼくらの丸々としたお腹、折れそうなほど細い六本の足。二本の触覚と鋭い牙。
その全てが真っ黒。

ぼくらは?アリ?と呼ばれるイキモノなのだ。
  • 63 ichi id:cJw6JOx0

    2012-05-12(土) 18:59:27 [削除依頼]
    最近更新できなくてすみません。

    高校って忙しくて……。
    時間を見つけてちょこちょこ書いていくつもりです^^
    途中放棄は絶対にしません。
    これからもよろしくお願いします。
  • 64 ichi id:8pMlIet0

    2012-05-17(木) 17:49:48 [削除依頼]
     「みんながあいつらをどれだけ許せないかは分かってる。ぼくだって許せない。大嫌いだ。けど……。それ以上にみんなが大切なんだ。あいつらを傷つけたために傷つかないでほしい」
    黒の間に静寂が訪れる。どのアリも、真剣な瞳でぼくを見ている。
    「あいつらと戦うより、みんなで安全にここから出たい。みんなであそこに帰りたい」
    ここから先を言って、もし誰もついて来てくれなかったら。
    そんな不安をかかえながらも、一気に言う。
    「ついて来てくれるアリは、それぞれの部隊長のところへ集まって。部隊長はその中から、3分の1をジャグルの部隊として割り振っておいて」
    その言葉を言い終わらないうちに、わっとアリたちがそれぞれの部隊長の下へ駆け寄っていく。
    やる気に溢れる瞳で。
    仲間と意気込みを語りながら。
    嬉しい。
    ぼくとジャグルの思いは、ここまでみんなに伝わった。
    じわ、と瞳に涙が滲む。
  • 65 ichi id:InzrF.g/

    2012-05-26(土) 18:53:26 [削除依頼]
     「一番隊、全員います!」
    「二番隊、全員います!」
    「三番隊、全員います!」
    トーフィー、リィ、カティの報告。
    全てのクロヤマアリが、ここから出ようと一緒になってくれる。
    それを思うだけで何度でも涙を流せる。
    「じゃあ、ジャグルの部隊として分けたアリをひとつにまとめて。それからトーフィーはジャグルの指示を仰いできて」
    「はい!」
    気合の入った返事。
    ここから先、ぼくは何の役にも立てない。戦いはジャグルの得意分野だ。
    せめて邪魔にはならないように。
    「アディさん!一番隊、これから武器の運び出しにかかります!」
    トーフィーの報告。一番隊の隊長はリィだ。
    「了解。見つからないよう、十分に気をつけて。いくらオーフィの部隊がいないからって怪しまれないようにね!」
    「分かっています、アディさん」
    リィの青みがかった瞳がきらりと光る。
  • 66 ichi id:OsQu7H8/

    2012-07-01(日) 16:53:29 [削除依頼]
    *
    わたしが初めて見た景色は、広くて暗い洞穴。
    そして、優しさに溢れた、暖かい瞳。

    ?黒の間?という洞穴で蛹から生まれ出たわたしは、脆くて弱かった。
    そして同じ時期に生まれたきょうだい達も。
    わたしに?リィ?という名前を与えてくれた兄さん、アディさんとジャグルさんはわたし達が成長するにつれ、いろいろなことを教えてくれた。
    ここはわたし達?クロヤマアリ?の本当の家じゃないと。
    わたし達の家はもっと温かくて、しあわせな場所だと。
    そんなことを少しずつ教えてくれるアディさんの瞳に、強い決意の色が浮かんでいたことは今でも忘れられない。
    アディさんとジャグルさん。本当の家を知っているのはこの2アリだけなのに、帰りたいと思う気持ちはどのアリも同じだ。
    それだけ、2アリの故郷を思う気持ちは強い。
    わたし達も、そこに帰りたいと強く焦がれるほどに。

    ――そして今、そのチャンスが巡って来ている。
    そして、武器を運ぶという重要な役目を任せられた。
    「行くぞ!」
    絶対に成功させる。この命に代えても。第一部隊、全アリの想い。
    その想いを形にするべく、わたし達は静かに動きだした。
  • 67 ichi id:tUZ1hMA/

    2013-06-05(水) 23:34:14 [削除依頼]
    途中放棄はしない、と宣言したのに途中放棄のような形になってしまっていました。
    すみません。

    私がいない1年の間にここがどう変わっているのかまだ分かりませんが、少しずつでもまた書いていけるように頑張ります。
  • 68 ichi id:xIAMtw10

    2014-08-19(火) 20:26:11 [削除依頼]
     リィ達一番隊が無事に運んで来てくれた武器が兵士達に配られていく。
    小枝に括りつけられたガラスの先端が、薄暗い洞穴のなかで微かにきらめいている。
    無数にあるそれはまるでぼくらの小さな希望のようで。
    ぼくは武器が配り終えたことを確認し、また大勢の仲間達の中で声を上げる。
    「みんな!準備は整った。後は上手く逃げ出すだけだ」
    ざわり。
    アリ達の興奮が空気を揺らす。 
    「いい、これからは脱出経路について説明するよ。この計画において一番大切なことは、何が何でもジャグルを守り抜くことだ」
    それを言うと同時に、いつの間にか隣に来ていた相棒ーージャグルの身体が震える。
    「どういうことだアディ!お前、自分はどうでもいいって言うことか!?」
    ぼくに掴み掛からんばかりに詰め寄ってくるジャグル。ジャグルの強靱な顎の牙が、怒りと興奮でガチガチと音を立てる。
    自分より弱いぼくがジャグルを守れと言ったことに相当怒っているようだ。
    「そうじゃない、ジャグル。分からない?ジャグルしか、ぼくらの巣がどこにあるのか知らないんだ。案内役はジャグルしかできないんだよ」
    「あ……」
    ジャグルの触角が震える。
    本当に忘れていたみたいだ。あの時ぼくは気絶していたから、正しい道はジャグルしか知らない。
    ぼくらがジャグルを失ったら、たとえここを出られたとしても、巣に帰れるという希望は限りなく薄くなってしまう。
    「お願いだ、ジャグル。今回は、今回だけは守られてくれ。ジャグルがどれだけ強い戦士かなんて、そんなのぼくが一番知ってる。でも、それでも、」
    もう一度、息を吸い込む。
    ジャグルに。周りのみんなに。心からのぼくの思いが届くように。

    「ジャグルはぼくらの希望なんだ。何が何でも生き残って、必ずぼくらを巣に導いてほしいんだ。ーー頼む」
  • 69 ichi id:/kfBHti/

    2014-08-31(日) 18:41:21 [削除依頼]
     「アディ……」
    押し殺した低い声に、涙で潤む鋭い瞳。
    ジャグルはぼくのお願いに何を思うのだろう。
    「みんなに、ぼくらの築いてきた巣を見せてあげたいんだ。ぼくらの女王様に、母様に、会わせてやりたいんだ」
    ぼくの願いに息を飲む、ぼくらの弟と妹たち。
    触角を揺らし、じっとぼくの話に聴き入ってくれている。
    「こんなところであいつらサムライアリに使われている悔しい思いじゃなくて、仲間と共に働く喜びを知ってもらいたい。仲間と共に女王様に仕える喜びを知ってもらいたい」
    でも本当は、ぼくが一番帰りたがっているのかもしれない。
    だってぼくが生まれたのは、ここじゃないんだ。
    「生まれ故郷に帰りたい。……お願いだよ、ジャグル」

    黒の間に沈黙が満ちる。
    「アディ」
    一番近くでぼくの願いを聞いていた親友は、触角を震わせてぼくの目元を優しく拭った。
    気づかない間に、涙が流れていたらしい。
    「アディさん」
    ふいに涼やかな声が響く。この声はきっとリィだ。
    仲間達の間を縫ってぼくら2匹の前まで出てくると、彼女の青みがかった強い瞳がぼくを射抜いた。
  • 70 ichi id:s4k0ksi0

    2014-09-23(火) 09:41:12 [削除依頼]
     「わたしが、ジャグルさんを護ります。わたし達二番隊は機動力に優れています。きっとあいつらの監視の目を潜り抜けてみせます。守り通してみせます」
    一息でそう言い切ったリィ。彼女の瞳は真っ直ぐにぼくに向けられたまま、微塵も揺らがない。
    本気だ。本気でリィはやり通そうとしている。
    「お願いです。わたしにやらせてください、アディさん」
    「……いいぜ、リィ。お前に任せてやろうじゃないか」
    ぼくの隣からの声に、リィの瞳が驚きの色に染まる。
    ぼくも驚いた。ジャグルはきっと、それでも自分の身は自分で守ると言って聞かないとどこかで思っていた。
    「!……ジャグルさん。本当ですか?」
    リィの問いかけに重々しく頷くジャグル。その口元がニイ、と歪んでひどく残忍な笑みに変わるのを、ぼくは見逃さなかった。
    「決まりだな。アディ、俺らが先頭だ。いいよな?」
    思わず息を飲む。ぼくはジャグルのこの顔を知っている。
    この顔をしたときのジャグルはーー誰よりも強くて、誰よりも勇ましい、凶暴な戦士となる。
    「分かった、そうしよう。急がなきゃ、オーフィたちの部隊が帰って来ちゃう」

    ジャグルを信じる。リィを信じる。仲間を信じる。
    そしてぼく自身を信じる。
    指揮官が揺らげば全員が揺らぐ。ここから先、ぼくは何としても揺らいではいけない。迷ってはいけない。

    ぼくはそっと深く息を吐いた。
  • 71 ichi id:VwEa9Gh0

    2014-10-05(日) 17:30:07 [削除依頼]
     クロヤマアリの熱気に溢れた黒の間。
    ぼくらは今日、このサムライアリの巣を出て行く。ぼくたちの生まれ故郷へ帰る。その為ならなんだってする。
    「いい?ここからは何があっても迷っちゃ駄目だよ。何があっても故郷に帰るんだ。……一番隊。準備は、いい?」
    声を掛けた先は、リィ率いる機動力特化の一番隊。取ってきたサムライアリの武器を携え、どのアリも興奮で瞳をぎらぎらと輝かせている。
    「もちろんです。アディさん」
    揺るぎないリィの返事。
    隣のジャグルは無言だけど、誰よりも気迫に満ちている。
    「よし。じゃあカティとあと何匹か、斥候をお願い。そのまま一番隊を巣の外まで護衛して」
    そばに控えていてくれたカティにそう指示を出す。
    「じゃあアディ、行ってくるわ」
    少し散歩に行ってくるとでも言うようなジャグルの調子に、心の底から頼もしく思った。ーージャグルなら、絶対にみんなをぼくらの巣まで連れて行ってくれる。
    「行ってらっしゃい、ジャグル。みんな。また後で」
    機敏に動き出した一番隊とジャグル。残りのアリも、自分の出番を今か今かと待ちわびている。
    一番隊の最後のアリの姿が通路の奥に消えてるのを見送ってから、ぼくは再び口を開いた。
  • 72 ichi id:VwEa9Gh0

    2014-10-05(日) 17:31:22 [削除依頼]
    >70 ミス。 二番隊じゃなくて一番隊です!
  • 73 ichi id:EbSTf1K.

    2014-10-06(月) 23:21:48 [削除依頼]
     「よし。カティの隊ーー三番隊は、トーフィー率いる二番隊と合わせてそこから6つの隊に分けて。ジャグルが“導”を残して行ってくれてる筈だから、少人数編成で追いかけるよ。ぼくが最後尾になるようにお願い」
    「「はい!」」
    勢いのいい返事をしてきびきびと動き出したアリたち。
    ーーこのまま上手く抜け出せるといいんだけど。
    駄目だ。楽観視なんてしてられない。ぼくがトップだ。ぼくが全ての指示を出さなくちゃいけないんだから、最悪のことを考えて動かなきゃ。
    取りあえず攪乱作戦は必須、かな。そのためにも、サムライアリたちの動きを把握しなくちゃ。
    「誰か6匹、ぼくについてきて!サムライアリの動きを探る!」
    「私が!」
    「俺が!」
    我先にと返事をして集まってくれたアリたちと二手に別れて上の層と下の層を探りに行く、と説明する。違和感があったらすぐに報告するようにしっかりと念押しをして、もう一班のアリたちを見送る。

    さて、ぼくも行かなくては。
  • 74 ichi id:y/MHNi3.

    2014-10-14(火) 19:32:05 [削除依頼]
     ぼくの班が担当するのは上の層。そっちの方が、ばたばたしているサムライアリに何か感づかれる可能性が高くて危険だから。
    ついてきてくれた2匹の弟妹に、サムライアリと目を合わせないことや脱出する素振りを少しでも見せないようにと注意してぼくの後ろを歩かせる。
    見た目だけでもあいつらの女王を探してる風に装わなきゃね。
    出来るだけ急ぎ足で駆け回ると、どのサムライアリも自分たちの護るべき女王がいなくてとても混乱している様子。ぼくらがあいつらの間をうろうろしても、いつもなら怒鳴られる筈なのに何の言葉も掛けられない。
    ーーこれはチャンス、だ。
    「2匹とも。黒の間に戻って、第一班を出発させて。ぼくはこのままもうすこし探るよ」
    振り返らずに小声でそう弟妹に告げる。2匹は了解の印にぼくの腹の天道虫に付けられた傷へ触れ、踵を返した。
  • 75 ichi id:eU1xckM1

    2014-11-04(火) 09:49:34 [削除依頼]
     これからどうしようか。
     サムライアリの目につかないように物陰に隠れて移動しながら考える。
     ぼくらの額には“複眼”と呼ばれる三つの眼がある。この眼は巣の中でも良く見えるようになっていて、暗がりなんて障害にならない。だからあいつらの目につかないようにするには、まず視界に入らないようにしなきゃいけない訳で。
     
     弟妹たちは黒の間に戻った。そしてこれから脱出が始まる。
     サムライアリに気づかせずに、弟妹たちを脱出させる為には、あいつらの目をできるだけ黒の間から出口への道のりから逸らすことがどうしても必要になってくる。
     ふとした拍子に震え出す、か細い六本の脚を見た。ちっぽけで貧弱で、戦いも苦手なぼく。いまだって本当は、怖くて堪らない。
     先陣を切って脱出していったジャグルが頭を掠めた。ぼくと正反対のジャグルなら、きっとみんなを最後まで導いてくれるだろう。
     
     それならぼくの役目は。

    「弟妹たちを頼んだよ、ジャグル」
  • 76 ichi id:QfM7u3K/

    2014-11-27(木) 11:23:01 [削除依頼]
    「女王様の“導”が見つかりました!」

     そのサムライアリの言葉は、巣の全てのアリを更なる混乱に叩き落とした。
     歓喜に震えて走り出したり、がちがちと牙を噛み合わせたりして一様に喜びを表現して女王の“導”へと殺到するサムライアリとは対照的に、小さなクロヤマアリたちは怯えた瞳で忙しなく周囲を見回す。
     そんな中で、少数編成をして出発したトーフィーの率いる第一班は、ちょうど巣の出口に足を掛けた所だった。
    「トーフィーさん……」
     一際不安そうな声を上げたのは、一番最後に生まれた弟妹。
     ムスビ、と名付けられた彼女は見ていて可哀相になるくらい震えている。
    「このまま行くよ。伝言、聞いたよね? ……アディさんが出発しろって言ったんだ。行かなきゃ他の弟妹たちも出てこれないだろう?」 
    「分かって、ます……っ!」
    「大丈夫、ムスビ」
    「私たちが守る、から」
     そう言って俯いたムスビに、周りの弟妹たちが次々に声をかけてやっている。
     一番下の妹であるムスビは、弟妹たちに責任感を持たせてくれるありがたい存在。今だって、ムスビに対していいところを見せようと余裕ぶっているのが分かる。
     ここで一番最初に生まれたトーフィーは、弟妹たちのそんな姿に苦笑を漏らした。
     アディやジャグルからはこんな風に見えていたのかと、今更になって恥ずかしさがこみ上げる。そんな恥ずかしさを打ち消すように、トーフィーは声を上げた。
    「ほら、行こう! ジャグルさんたちに追いつくんだ!」
  • 77 ichi id:YOz7sxU1

    2014-12-20(土) 19:44:51 [削除依頼]
     どく、どく、どく。
     ぼくのちっぽけな心臓が張り裂けそうなほどに早鐘を打っている。
     熱くなる身体に共鳴したのか、傷痕がじくじくと疼く。
    「こっちに女王様の“導”が続いてるぞ!」
    「急げ! 早く見つけて差し上げなければ!」
     目の前の十字路から、複数のサムライアリの兵士の足音が近づいてきた。慌てて兵士たちの進行方向とは違う通路に身を隠して、更に奥へと足を進める。
     急がなきゃ。あいつらに見つかる前に、出来るだけこの巣の中を混乱させるんだ。
     サムライアリが混乱すればするほどきっと、姉弟たちがここから逃げ出すのは容易になる。
     それが、ぼくがみんなにしてあげられることだ。
     兵士たちの足音が通路の奥に消えてから、ぼくは咥えていた女王アリの“導”の露嚢を路に下ろした。

     ーーサムライアリの追っている女王の“導”はぼくが撒いた罠だ。姉弟たちの通る道とは出来るだけ離れた道を選んで、“導”をつけてきた。
     いつか役に立つかもしれません。
     この露嚢はそう言って、女王の食事担当の姉弟たちが時折僅かに零れる女王の“導”を集め続けてきてくれていたものだ。
     役に立ったよ。ありがとう。
     ぼくは路に下ろした露嚢を、再びしっかり口に咥えた。
  • 78 ichi id:sztkmgl/

    2015-01-09(金) 18:43:21 [削除依頼]
     “導”とは、ぼくらアリがお腹の中にある袋に溜めている液体のことを指す。
     この液体は一種のフェロモンのようなもので、触角を触れさせることによってこのフェロモンを察知する。
     例えば一匹では運べない大きな食糧を外で見つけたとき、他の仲間を導くために使われるのが主な用途とされている。
     
     でもジャグルは今、この導をぼくらが帰るための道筋として使っているし、ぼくは女王の導を用いてサムライアリたちを混乱させようとしている。
     大事なのは、この“導”はひとつの巣のアリごとやアリの種族によって違う、ということだ。
     この巣にいるぼくらクロヤマアリは同じ女王様の卵から孵ったから、同じ“導”のフェロモンを持つ。
     ぼくらはサムライアリたちの“導”は分からないけど、同じようにジャグルの“導”はサムライアリたちには分からないのだ。

     ――つまり、一度逃げ出して簡単には見つからないほど遠くまで行ってしまえば、ぼくらの事を探し出すのは非常に困難になる。

     まだ巣に残っている姉弟はあと何匹だろう。
     あとどれくらい、囮をすれば皆が脱出できるだろう。
     露嚢に詰められた女王の“導”は極僅かしかない。これが切れたら、この混乱はきっとそう長くは保たせられない。

     知りたいけど、無闇に動いたらバレてしまうかもしれない。
     直ぐ近くを走り抜けたサムライアリの姿に、ぼくは身を硬くした。
  • 79 ichi id:psfhjsh/

    2015-01-23(金) 18:24:22 [削除依頼]
     サムライアリたちの巣は深い。
     百階を優に越える、縦に連なった部屋の数々。そこかしこで育てられている幼虫の数は目眩がするほどだ。
     ぼくらの黒の間はそんな巣の中の中腹より少し浅い、兵士たちの部屋の近くの細い通路の奥に位置している。サムライアリの兵士が何時でも見張りに来れる、そんな位置。
     対して女王の部屋はこの巣の一番奥深く。今もなお拡張を続ける巣の奥底で、ひたすら卵を産むために用意された豪奢な部屋。
     今ぼくがいるのは、黒の間から更に深く潜ったところ。おそらくは女王の部屋まであと二十階くらいだと思うのだけど――
    「……迷った」
     如何せん広すぎる。ぼくらには立ち入りを禁じられた部屋も多く、混乱に乗じて普段は近寄らないところまであちこち巡った結果がこれだ。
     迷い込んだ部屋は今は使われていない食糧庫らしく、古びたバッタの脚の欠片やぼろぼろの蝶の羽などの様々な昆虫の食べられない部分が打ち捨てられていた。
     こういうのは、棄てに行かなきゃいけないんだけどなあ。
     そんな考えがここで染み着いてしまっている自分に苦笑する。あまりアリが立ち入らないらしく、誰の気配も感じない部屋に少しだけ安堵していると、遠くにサムライアリの喧騒が聞こえた。
     この辺が潮時かな。そろそろ見つかってしまうだろう。
     咥えていた露嚢をそっと下ろす。最後に女王の部屋にぶちまけてやろうと思ったのだけど、どうにも行き方が分からない。
     それなら、考えていたもう一つの選択肢を選ぼうか。
     勢いよく、それを実行しようとして、

    「あれ、アディ兄?」
     唐突にかけられた余りにも場違いなその声に、ぼくは目を丸くした。
  • 80 ichi id:ElXAERw.

    2015-01-23(金) 18:24:37 [削除依頼]
     サムライアリたちの巣は深い。
     百階を優に越える、縦に連なった部屋の数々。そこかしこで育てられている幼虫の数は目眩がするほどだ。
     ぼくらの黒の間はそんな巣の中の中腹より少し浅い、兵士たちの部屋の近くの細い通路の奥に位置している。サムライアリの兵士が何時でも見張りに来れる、そんな位置。
     対して女王の部屋はこの巣の一番奥深く。今もなお拡張を続ける巣の奥底で、ひたすら卵を産むために用意された豪奢な部屋。
     今ぼくがいるのは、黒の間から更に深く潜ったところ。おそらくは女王の部屋まであと二十階くらいだと思うのだけど――
    「……迷った」
     如何せん広すぎる。ぼくらには立ち入りを禁じられた部屋も多く、混乱に乗じて普段は近寄らないところまであちこち巡った結果がこれだ。
     迷い込んだ部屋は今は使われていない食糧庫らしく、古びたバッタの脚の欠片やぼろぼろの蝶の羽などの様々な昆虫の食べられない部分が打ち捨てられていた。
     こういうのは、棄てに行かなきゃいけないんだけどなあ。
     そんな考えがここで染み着いてしまっている自分に苦笑する。あまりアリが立ち入らないらしく、誰の気配も感じない部屋に少しだけ安堵していると、遠くにサムライアリの喧騒が聞こえた。
     この辺が潮時かな。そろそろ見つかってしまうだろう。
     咥えていた露嚢をそっと下ろす。最後に女王の部屋にぶちまけてやろうと思ったのだけど、どうにも行き方が分からない。
     それなら、考えていたもう一つの選択肢を選ぼうか。
     勢いよく、それを実行しようとして、

    「あれ、アディ兄?」
     唐突にかけられた余りにも場違いなその声に、ぼくは目を丸くした。
  • 81 ichi id:FWrIhlh1

    2015-02-06(金) 10:03:20 [削除依頼]
    「どうしてここにいるの、エン!?」
     悲鳴のような声が漏れる。
     小さな体躯に好奇心で輝く丸い双眼。ぼくらクロヤマアリの中で、ムスビと共に孵化した一番下の姉弟であるエンの姿がそこにはあった。
     どうして。クロヤマアリは全員、脱出するために隊列を組んでいる筈なのに。
     明らかに動揺するぼくを見たエンは不思議そうに食糧庫を見回してからかち、と小さな牙を打ち鳴らした。
    「おれ、ぼーけんしてたんだ、今日!」
     嬉しそうに六本の足を張り、ぐっと頭を持ち上げて自慢気に胸を反らす。
    「……エン、黒の間へは行った?」 
     もしかして、と言う嫌な予感が外れることを願って、楽しそうに食糧庫を物色する後ろ姿へ恐る恐る声をかける。ぴん、と触角を跳ね上げたエンはぼろぼろの蝶の羽の破片を勢いよく振り回して粉々にしてから弾むようにぼくへと駆け寄ってきた。
    「今日はいってない! それよりアディ兄、遊ぼうよ!」 
     ここはサムライのやつらも来なさそう! と楽しくて仕方ないようにそわそわと体を揺らし、ぼくと食糧庫の中の食べ滓とを見比べる。
     どうしよう、エンが居なかったなんて気がつかなかった。エンは同じ時に孵化したムスビよりもまだ思考が幼くて、誰かがそばに着いてやらなきゃいけなかったのに。
     悶々とするぼくの返答を待ちきれなくなったのか、今度はバッタの脚に食らいついているエンを見る。
     エンを連れて行かなきゃいけないとすれば、さっきまでぼくがやろうと思っていたことはエンを置き去りにしてしまうし、傷つけかねないから出来ない。だからと言って女王の部屋に行くことは、ぼくが迷っているから出来ない。

     無邪気に何かの虫の破片を拾って見せに来るエンの姿にぼくは途方に暮れた。
  • 82 尹茅@ichi id:stgpSmh0

    2015-02-24(火) 18:53:29 [削除依頼]
    「アディ兄、おこってる?」
     いつもと違う態度に戸惑ったのか、エンは咥えた破片をばらばらとその場に落としてぼくの前へと駆け寄ってきた。
     ぼくより確実にひとまわりは小さいであろう身体を更に縮ませ、力無く触角を下げる。
    「怒ってないよ。ただ少し困ってて」
     素直にそう告げるとエンは先程までの勢いを取り戻してぴょんと跳ねた。その拍子に前脚元に置いた露嚢が倒れかけ、慌てて脚で押さえた。
    「どうしてこまってるの? おれ、助けるよ!」
     ぴょんぴょん跳ねて必死に自己をアピールする健気な姿に思わず苦笑が漏れる。こんなにかわいい弟妹たちのためにも、必ずサムライアリたちの足止めをするという決意を胸の内で再び固めた。
    「本当? じゃあ黒の間へ戻りたいんだ」
    「もちろん! この巣だったら、おれのしらないところはないもん!」
     とりあえずエンの安全が第一。そう思ってかけた声に、思わぬ返答が返ってきた。
    「ムスビとよくふたりでぼーけんしたんだ! 今日はムスビ、いないけど」
     そう言えばこの双子はよく行方不明になる癖があった。大抵はふらっと居なくなってあちこち汚れて帰って来るけど、たまに見つかって連れ戻されてることもあったっけ。
    「エン、じゃあここの女王の部屋への行き方も知っている?」
    「うん! えっとねーあっちをぐるってしてにょろっていってぶーんって走れば! すぐつく!」
     当然とばかりに肯いて色々と説明してくれるエンだけどさっぱり分からない。
     エンを巻き込むなんてありえないという心の声もするけど、これじゃあエン抜きで女王の部屋へ行くのは無理だ。
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