銀色の月78コメント

1 夏風 id:EPzJ0xQ1

2012-02-02(木) 15:49:05 [削除依頼]



*

 ――好き

 その言葉に応えることができないまま、

                 私達は引き放された。


          /銀色の月


*
  • 59 夏風 id:5tAKfeh.

    2012-02-22(水) 13:14:31 [削除依頼]



    3*

     ホールの中で行われていたのは、“舞踏会”というものだったとリーウィルは後から知った。
     その日は、すぐに気分が悪くなりすぐに帰らされた。そして、すぐにベッドに寝かされた。
     翌朝、ハレル大佐の口から愛人の話はなくなったと聞いた。そして、ハレル大佐は何があったんだとリーウィルに聞いた。リーウィルは、ゆっくりと首を横に振った。知らないわけではない。むしろ知っている。きっとヒーテップは、リーウィルのために愛人の話を破棄したのだろう。息子に暴力を振るわれた可哀そうな少女のために……。
     ハレル大佐は、すぐに部屋から出て行った。クローゼットに、メイド服をきちんと置いて行って。

    「大変だったのね」

     ハレル大佐と入れ替わるようにして、ライゼが入ってきた。ライゼの後ろからも、たくさんのメイドが入ってくる。リーウィルは、咄嗟に嫌な予感がした。決してあたってほしくないような、嫌な予感が。

    「舞踏会に行ったみたいね」

     まず最初に、ライゼが口火を切った。けれど、リーウィルには舞踏会がわからなかった。だから、リーウィルは首を傾げた。すると、ライゼの後ろのメイド達が次々に怒鳴った。怒鳴り声は混ざり合って、リーウィルの耳に一つの声として聞こえることはなかった。

    「静かに!」

     鋭い声でライゼが怒声を断ち切り、リーウィルに向き直った。

    「舞踏会というのは、あなたが昨日行った場所のことよ」

     リーウィルは頷いた。自分は舞踏会に行ったのだという認識ができたからだった。だが、ライゼや他のメイド達が何故怒っているのかは分からなかった。

    「リーウィル。舞踏会はね、貴族しか行くことができないのよ」

     リーウィルはやっと理解した。そして、同時に怖くなった。――貴族しか行くことはできない。貴族じゃない自分に、何故行ったのかと問うているのだろう。私達はいけないのに、何故お前は行ったのかと。

    「……ごめんなさい」
    「ごめんですむような話じゃないわ」

     ライゼは、冷たい声でそう言い放った。そして、メイド服のスカートを翻しスタスタと歩き去ってしまった。それに続くように、他のメイド達も歩き去る。リーウィルは、何も言葉をかけられなかった。
     自分が悪いことをしたという自覚はなかった。けれど、貴族じゃない人が舞踏会に行ってはいけないのだということはなかった。きっと、メイド達は知っているのだろう。リーウィルが行きたくて行ったわけじゃないと。ハレル大佐の命令だったのだと。けれど、メイド達はハレル大佐に抗議することができないのだ。だから、抗議しやすいリーウィルのもとへと来たのだ。なんて卑怯な人たちなんだということは、リーウィルには言えなかった。
  • 60 ユナ id:1cJejJq.

    2012-02-22(水) 14:08:25 [削除依頼]
    嫉妬深い
    人だね…;;

    そんなに
    憧れるのかな.
  • 61 夏風 id:klTIYEL0

    2012-02-27(月) 16:33:35 [削除依頼]


    >ユナさん

    人間は皆、嫉妬深いものですよ(キラーン((蹴
    人間は皆、憧れるもので((黙
  • 62 ぁげ id:kxQON0m0

    2012-02-27(月) 18:58:39 [削除依頼]
    更新待ちです!
  • 63 夏風 id:klTIYEL0

    2012-02-27(月) 20:06:02 [削除依頼]


    >ぁげさん

    ありがとうございます。
  • 64 朝香@テストとか爆発すればいいのに id:GpGar59/

    2012-02-27(月) 20:11:32 [削除依頼]
    いろいろあって、
    ずっと見ることが
    できませんでしたorz

    …これから一気読みしますね!!b
  • 65 夏風 id:klTIYEL0

    2012-02-27(月) 20:15:16 [削除依頼]



     リーウィルは浮かない気分でベッドから降りた。そして、浮かない気分でメイド服を着た。リーウィルは、とても辛かった。だけど、辛いなんて言えなかった。辛いなんて言ったら、またメイド達に何か言われてしまうから……。
     メイド服は、リーウィルには少し大きかった。スカートの裾が床についてしまう。袖も長く、リーウィルの手をすっぽりと隠してしまっていた。黒いメイド服に身を包むと、自分の心も黒く染まる気がした。染まればいいと思った。黒く黒く、染まってしまえばいいと……。

    「ずいぶん酷いことされたみたいだね」

     振り返ると、そこにいたのはカイルだった。初めて会ったときと変わらず、何の感情もこもっていないような眼をしている。それに無表情だ。

    「卑怯だって、言わなかったの?」
    「言えない」

     カイルの問いに、リーウィルは一言で答えた。カイルから見ても、メイド達は卑怯なのだろう。だけど、自分に費用だと言う資格はない。自分は新人なのだ。居候の身なのだ。もしも追い出されたら、どこにも行けなくなる。シリウスを探すのもいいが、シリウスを見つける前に息絶えてしまう。

    「言えないんだ」

     カイルも一言で返してきた。その一言に侮蔑の色が見えて、リーウィルは少し苛立った。言いたいことがあるなら言ってほしかった。

    「君がいいならいいんじゃない」

     カイルは最後にそう言って、メイド部屋から去った。
     メイド部屋には、リーウィル以外に誰もいなくなった。寂しいとは思わなかった。むしろ落ち着いた。ずっと一人だったらいい。いや、ずっと一人は嫌。一生、シリウスとだけ一緒にいられたらいいのに……。
     リーウィルはそう願い、サイズを変えてもらうためにメイド部屋を出た。我ままを言ってと、反感を買うのは目に見えていたのに。
  • 66 夏風 id:klTIYEL0

    2012-02-27(月) 20:16:15 [削除依頼]



    >朝香さん

    一気読みだなんてそんな……!
    すいません何か……。
  • 67 夏風 id:.Cb9mS50

    2012-02-28(火) 19:34:59 [削除依頼]



     案の定、メイド服のサイズが合わないと言うと明らかにメイド達は嫌そうな顔をした。もっと災難だったのは、その場にライゼがいなかったことだ。

    「サイズぐらいいいでしょ。身長とか伸びるんだから」

     それを聞いて、リーウィルは俯いた。リーウィルは、少なくとも16は過ぎている。自分の年がだいたいでしか分からないのは、小屋の中で過ごす冬の数を数えるしか方法がないからだ。それも、物心がついてから。それも、物心がついて頭が回るようになってから。頭が回るようになるまで何もしていなかったのだから、自分の年はだいたいでしか分かるはずがない。
     けれどリーウィルは、自分がもう成長しないことは分かっていた。ここ何年か、リーウィルの目線はまったく変わることはなかった。変われば分かるのだ。今まで分かってきたように。

    「じゃあもういい? 私達、仕事しなくちゃいけないの」

     自分だって仕事をしなくてはならない。なのに、何故この人たちはこんなにも自分という存在を優先するのだろう。自分のことしか考えられないのだろうか。仮にも、メイドという仕事をしているのに。人の世話をする仕事をしているのに。
     気付くと、リーウィルの周りにたくさんのメイドが集まっていた。さっきまで目の前のメイドしか相手にしてくれなかったのに、今はたくさんのメイドがリーウィルを取り囲んでいる。リーウィルは嫌な予感がした。さっきよりも、もっと嫌な予感がした。

    「ライゼさんに言うんじゃないわよ」

     リーウィルの横にいたメイドがそう言った。リーウィルは何のことか分からず首をかしげた。瞬間、リーウィルの腹に鈍い痛みが走った。リーウィルは、今までこんな痛みを感じたことはなかった。怪訝に思い顔を上げると、目の前のメイドの腕が前に突き出ていた。その腕が自分の腹に突っ込まれたのだということは咄嗟に分かった。でも、これまでリーウィルはそういうことをされたことがなかった。だから、それが殴られたのだということは、リーウィルには分からなかった。

    「嫌いよ。あなたなんて」

     別の方向から声がして、今度は後ろから突き飛ばされた。リーウィルはうつ伏せに倒れた。

    「どうされたい?」

     ニヤニヤと笑みを浮かべ、また別のメイドが聞いてきた。どうもされたくなかった。怖かった。何かをされると思うと怖かった。また痛い目に遭うかもしれないと思うと怖かった。メイド達は、ずっとニヤニヤと笑っていた。
  • 68 ユナ id:s17zGv7/

    2012-02-28(火) 19:53:25 [削除依頼]
    >>63 ごめんなさい. >>62の<ぁげ> は、ユナです((汗 間違えて 一時的に 使っていた 名前に…((汗 すみません! メイドさん たち… 見かけによらず (いや.見え ませんが) 恐ろしい!! そして リーウィルの 教養の無さが みじめ…。
  • 69 夏風 id:OIlVin9.

    2012-02-29(水) 14:15:29 [削除依頼]


    >ユナさん

    そうだったんですか!
    気にしないでください^^

    メイド達は恐ろしいですよー。
    いや、全世界の人間は恐((黙

    みじめですか……。
    頑張れリーウィル((蹴
  • 70 夏風 id:LR23Bgs.

    2012-03-01(木) 19:55:13 [削除依頼]



    「何やってんの!」

     突然、声が響いた。メイド達が一斉に脅えた顔をして声のした方を見た。リーウィルは倒れたままで、声の主を見ることはできなかった。でも、予想をすることはできた。そして、その予想は当たった。

    「暴力でも振るってんじゃないでしょうね?」

     いきなり、リーウィルの前のメイド達が横に移動した。道が開く。その道を進んできたのは――ライゼだった。
     ライゼはリーウィルの体勢を見て、はっと息を飲んだ。そして、すぐにリーウィルの体を起こしに来た。体を起こされた時、リーウィルの腹部に激痛が走った。

    「うっ……」

     リーウィルは痛みに耐えられず、思わずうめいてしまった。その声を聞き、ライゼの目が鋭くなった。

    「お腹に何をされたの?」

     リーウィルもメイド達も黙っていた。リーウィルは痛くて話せなかっただけだが、メイド達は明らかにライゼに知られたくないからだった。

    「何をしたのか言いなさい!」

     ライゼは今まで聞いたこともないような大声でわめきたてた。リーウィルは驚きすぎて声も出なかった。もちろん、腹部の痛みのせいでもある。ただ、ライゼは自分と同じで感情を表に出さない人だと思っていた。なのに、平気で声を荒らげるライゼを見た。自分とはやっぱり違うんだ。リーウィルはそう思った。そう思ってしまったことが、悲しくて悲しくてしょうがなかった。

    「……殴りました」

     震えたか細い声で、一人のメイドが言った。そのメイドは、リーウィルを殴ったメイドだった。メイドは、青白い顔をしていた。脅えているのだろう。怖いのだろう。その恐怖は、さっきリーウィルも味わった。なのに、何で……。
     何で自分は、もっと恐怖に苦しめばいいなんて思っているのだろう。

    「なんてことしたの!」
    「ごめんなさい」

     ライゼの怒声に、メイドはほとんど涙声で返した。泣いていたのかもしれない。だけど、リーウィルは見たくなかった。自分をいたぶった相手の涙なんて、見たくなかった。
  • 71 黒の組織【GALILEO】 id:uDBhZh//

    2012-03-08(木) 16:15:31 [削除依頼]
    【キャスフィ直木賞より】

    最終候補作にノミネートされました。
  • 72 夏風 id:WlgEtJg1

    2012-03-11(日) 08:56:11 [削除依頼]
    >71 うわああああ!!!!!!! 本当ですか!? ありがとうございます!!
  • 73 明日香@骸骨楽団とリリア id:lhGgS10/

    2012-03-11(日) 09:15:49 [削除依頼]
    久しぶりに来ました!!
    元朝香です(^q^)
    覚えてたら嬉しいn( (ry

    やっぱライゼさんは良い人だね!
    うん!w w w
  • 74 夏風 id:kRgmcQ6/

    2012-03-22(木) 20:33:41 [削除依頼]
    >73 うわあああああ(( お久しぶりです!! 良い人ですねー さすがライゼ((黙
  • 75 夏風 id:kRgmcQ6/

    2012-03-22(木) 20:44:48 [削除依頼]



     その後、メイド達は無言で部屋から出て行った。何人か、リーウィルを睨んだメイドもいた。リーウィルは、その度にメイドから目をそらした。怖かったのだ。相手の憎しみが、自分に向けられていることが怖かったのだ。

    「ごめんなさい」

     メイド達が全員出て行った後、ライゼは低い声でそう呟いた。いきなり飛び出してきた謝罪の言葉に、リーウィルは驚きを隠しきれなかった。

    「何故?」

     やっとの思いでそう聞いた声はかすれていて、自分でも驚くほどに震えていた。腹部が、ズキズキと痛んだ。痛みを感じたとたんに、目から涙が溢れそうになった。溢れそうになる涙を必死でこらえ、リーウィルはライゼの返答を待った。

    「私が言いだしたのよ。何であなたが舞踏会に行ったのかって。そしたら、あの子達は同調したわ。当たり前よね。私が言ったんだから」

     ライゼの声は淡々としていて、何の感情もこもっていなかった。けれど、それはわざと感情をこめないように言っているんだということは分かった。きっと、ライゼも辛いのだ。自分のせいでリーウィルに傷を負わせてしまったことが、辛いのだ。

    「ごめんなさい。こんなことになるとは思っていなかったの。私は、あの場ですべてが終了したと思っていた。あの子達が、何かをやらかすなんて考えもしていなかった」

     ライゼの口調が、だんだん早口になった。早く言葉を終わらせたいとしているかのように。そうしないと、感情の糸がプツリと切れてしまうかのように。

    「本当にごめんなさい」

     ライゼの最後の言葉はかすれていた。唇を強く噛む動作が見えた。掌に爪を立てる動作も見えた。ああ、そうか。この人も、苦しいんだ……。
     リーウィルは、そっとライゼのそばに歩み寄った。腹部はさっきよりも強く痛み、少し脂汗がにじんでいた。痛みを我慢して、リーウィルはライゼの背中に手を置いた。瞬間、ライゼは膝から崩れ落ちた。ぽろぽろと、何粒かの涙がこぼれた。ライゼは、しゃくりあげるようにして泣いた。リーウィルは、ただ黙ってライゼの背中をさすっていた。
  • 76 夏風 id:YCfOpdS.

    2012-04-10(火) 21:28:39 [削除依頼]



    4*

     それから、数日が過ぎた。
     メイド達はライゼに怒られてから、リーウィルを避けるようになった。痛い思いをしないで済むのはいいのだが、それでも避け方がわざとらしい。すれ違う時に、大袈裟に遠回りをするのだ。それが、リーウィルには悲しかった。すごく、辛かった。
     リーウィルは、カイルの部屋の担当になった。毎日決まった時間に、カイルの部屋を掃除した。けれど、カイルはあまり掃除をするなと言った。見られたくないものも沢山あるからと。リーウィルは、それを素直に聞き入れた。見られたくないものがあるのは、人の普通だと思った。
     夜になると、リーウィルは誰よりも早くベッドに入った。けれど、すぐに寝つけるわけでもなく、毎夜毎夜シリウスを思って過ごした。どれだけシリウスを思っても、シリウスは現れないと知っていながら、シリウスを思った。どれだけ虚しさに襲われても、それでもシリウスを思い続けた。リーウィルは信じていたのだ。シリウスは、いつか必ず自分の前に現れてくれると。
     シリウスを思いながら見るときの星空は、いっそう輝いて見えた。最近リーウィルは、シリウスという名の星があると初めて知った。けれど、その星がどこにあるのかはリーウィルには分からなかった。
     リーウィルの運命が大きく動き出したのは、それから数週間がたったころだ。

    「リーウィル」

     ハレル大佐が珍しくメイド部屋を訪れた。リーウィルを呼ぶためだけに。そんなことはいつも大佐専用の執事に頼んでいる。いつもとは違うハレル大佐に、リーウィルは怪訝に思いながらも応対した。

    「何ですか?」
    「お客様がいらっしゃる」
    「お客様?」

     リーウィルには、自分を訪ねてくるお客さまなど見当もつかなかった。リーウィルには1人も知り合いがいない。なのに、誰なんだろう――
     ハレル大佐はリーウィルの問いには答えず、手招きをしてメイド部屋を出て行った。リーウィルは、慌てて後を追った。
  • 77 夏風 id:9xKTEBy1

    2012-04-30(月) 18:39:27 [削除依頼]



     ハレル大佐が向かった先は、ハレル大佐の書斎だった。リーウィルはハレル大佐の書斎には、一度も入ったことがなかった。どれだけ広いのかも知らなかったし、どれだけ狭いのかも知らなかった。
     ハレル大佐は、ゆっくりとドアを開けた。ドアの隙間から少しずつ人影に、リーウィルは息を飲んだ。
     リーウィルはハレル大佐を押しのけ、ハレル大佐の書斎に急いで入った。そして、驚くその人に飛び付いた。その人は多少ビックリしながらも、すぐに腕をリーウィルへとまわした。そして、右手でリーウィルの髪に触れた。

    「久しぶり」

     優しい笑みは、リーウィルには見えなかった。

    「……シリウスっていうの?」

     リーウィルが絞り出した言葉に、その人の顔がこわばった。

    「あなたの名前は、シリウスっていうの?」
    「……そうだよ」
    「会いたかった」
    「……うん」

     歯切れの悪いシリウスの返事に、リーウィルは不信感を抱いた。けれど、そばにシリウスがいるという喜びが勝り、不信感はどこかへ消えてなくなった。

    「そうだ、リーウィル」
    「……何で、知ってるの?」

     シリウスには、その名で呼ばれたくなかった。血の繋がらない他人がつけた名前など、シリウスには発してほしくなかった。とっさに、リーウィルはシリウスから離れた。
     だが、シリウスは気にする様子もなかった。笑みを絶やさないままシリウスは自分のカバンを開け、中から錠剤をとりだした。

    「リーウィルは体が悪いみたいだね」
    「えっ?」

     リーウィルは、自分が体が悪いことを初めて知った。そのことに戸惑い、リーウィルはハレル大佐を見た。

    「黙っていて、悪かったね」

     無表情に発せられたその言葉に、リーウィルは自分の体が悪いのだと知った。そして、シリウスが持っている錠剤に手を伸ばし、自分からそれを飲んだ。
  • 78 夏風 id:9xKTEBy1

    2012-04-30(月) 18:47:22 [削除依頼]



    「眠りましたね」

     シリウスとハレル大佐の目の前に転がっていたのは、寝息を立てたリーウィルだった。

    「まさか、自分から飲んでくれるなんて」

     シリウスはそう言い、意地悪い笑い声をあげた。

    「本当に、よかったのかい?」
    「何がです?」
    「その薬は、記憶を消してしまうんだろう?」
    「よく知ってますね」

     シリウスは、ニヤリと笑みを浮かべた。さっきまでの優しい笑みとは違い、意地悪い笑みだった。それを見て、ハレル大佐の背筋に悪寒が走った。一緒に育ってきた娘をいとも簡単に手放せる、シリウスの神経が怖かった。

    「邪魔なんですよ」

     誰に言うともなくシリウスは言葉を発した。

    「僕は貴族の息子だった。それを知らずにこいつと小屋の中でずっと過ごしてきたけど、今僕は貴族として生活しています。今の暮らしは最高です。だから、昔の僕と過ごした記憶を持っているこいつが、邪魔なんです。でも、もう消しました。もう関係ないです。僕は帰ります」

     一気に言葉を吐き出すと、シリウスは書斎を出て行った。後に残されたハレル大佐は、リーウィルのそばにしゃがみこんだ。

    「ここで殺してしまった方が、君は幸せかい?」

     リーウィルの目に、涙が浮かんだような気がした。


                               *Fin
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