屋上と水際の空16コメント

1 月姫 id:haFbuQH1

2012-01-21(土) 21:22:58 [削除依頼]
  序章


 未来なんて知らないほうがいいのだ。

 退屈と期待。
 明瞭と曖昧。
 本物と偽物。
 現在と未来。
 二つの世界。
 二つの視界。

 全てを知るのは怖いことだ。
 何もかも失ってしまうから。
 明日への期待。
 そんなものは昨日に置いてきてしまった。
 結果は私を裏切らない。
 全ての結末を知った私は―すでに明日の私なのだから。

 私は確かに今を生きているはずなのに。
 私の視界は未来にある。
 物語の先をみるなんて―

 そんな権利、誰も持っていないっていうのに。

 面白おかしく言いながら、明日の私が嗤ってる。
 本当に滑稽過ぎて笑えてくる。

 まったく、

 ―なんて皮肉なんだ。


            /おわりの行方
  • 2 月姫 id:WFydvgW0

    2012-01-23(月) 21:31:06 [削除依頼]
       1章 ―はじまりの場所―

      001

     池上瑞(すい)と出会ったのは、転校初日の七月十日、昼休みのことだった。
     僕はほんの気まぐれで屋上に出向いたのである。
     本当は教室で食事を取ろうと思ったのだが、もう七月ともなると、僕に居場所はないのだった。
     売店で買ったパンを持って、屋上に向かう。
     幸運なことに、屋上へ続いている扉の鍵は開いていた。
     昼間であるため陽射しは強いが、暑さはまだそれほどではない。
     コンクリートで固められた地面は、平面に佇む錯覚を起こすほど鮮やかで、頑丈そうなフェンスの落とす影を一層際立てて映していた。
     その光景は不自然なくらい目に焼きついて、罪人を閉じ込める“檻”を連想させる――
     ふと。
     人影があることに気がついた。
     誰も来ていないと思ったのだが。
     最初に目に付いたのは、その脚だった。
     無造作に、力なく投げ出された両脚。
     この学校―黎凛学園高等部の制服を着た少女は、仰向けになって寝ていた。
     ―否、倒れている状態に近い。
     人形。
     ―みたいだった。
     しかし。
     今まで微動だにしなかった少女が突然、動いた。
     そして、振り向くように僕を見る。
     出会って十秒。
     彼女は、僕がここに来ることを既に知っていたような口調で―そう、言った。
  • 3 月姫 id:AStGaYl/

    2012-01-27(金) 21:06:38 [削除依頼]
      002

     四辻漸(ぜん)。
    それが僕の名前だった。
    生まれてこのかた、特別なんてものを実感したことがない。
    人生が狂うほどの不幸もなければ、幸福もなかった。
     けれど一つだけ言うのなら、父親の転勤が多いことは多少不幸である。
    言うまでもなく引越しが多いし、転校は今まで五回してきた。
    つまり、今回で六回目。
    転校するたびに、前の友達との思い出なんかが薄れていくのを感じた。
    そんな当たり前のことに慣れていく自分が怖くて、嫌だったのだ。 
    妹は特に父親を嫌っていたと思う。
    父親も体力的に疲れていたし、母親は精神的に疲れていた。
    それに。
    僕も相当、荒れていたと思うのだ。
     どんなに足掻いたって。
    やはり、家庭崩壊は免れなかったのだろう。
    これ以上ないくらいに冷めた―冷め切った家庭になってしまった。
     それでも、僕は良かったと思う。

    ―悲しい結末を知るより、辛い現実の方がまだ幸せだから。
  • 4 月姫 id:VeEjte7/

    2012-04-02(月) 18:34:03 [削除依頼]
       003

    「待ってたよ。四辻くん――四辻 漸くん」
    僕を見るなり、その少女が最初に口にしたのは、そんな言葉だった。
    待ってた――なんてまた、見透かしたような口振りで。
    やわらかい口調とは相反して、その目は鋭く睨みつけるように僕を見据えている。
    転校初日で、ここの生徒とはいえ見知らぬ少女にフルネームを知られているのは些か不審なのだが――それ以上に。
    その少女の姿が異常だった。
    白い。
    とにかく、白いのだ。
    頭の先から足の先まで、全部。
    おまけに肌まで透き通るようだ。
    少女の周辺だけ丸ごと色素が抜けたようだった。
    長い白髪のような髪を揺らしながら、少女は立ち上がる。
    会いたかった、なんて言いながら、口は笑うどころか緩みもしない。
    まるで無表情そのものだった。
    「え、っと。誰、ですか?」
    「池上瑞。同じクラスだよ。まあ、いなかったけどね。サボってたし」
    彼女は空を眺めながら、譫言のように言った。
    「…じゃあ、なんで名前」
    「そんな疑うなよ。捕って喰ったりしねーからさぁ」少し怒ったような声で、僕の言葉を遮る。
    まるで、そのことには触れるな、というように。
    池上瑞はフェンスに手をかけて、下の校庭を見ていた。
    誰もいない、真下。
    何か汚いものでも見るように、じっと睨みつけている。
    そこには何もない。
    ベンチどころか、木さえ。
    不可視のものを視るような。
    そんな眼。
    「池上さんは――」
    「瑞」
    彼女は短くそう言った。
    下の名前で呼べ、ということらしい。
    「瑞は――」
    「『何か見えるの?』」
    「――え?」
    「だろ?あは、お前面白れー奴だな」
    僕が言おうとしたことを先に言われた。
    心でも読んでいるかのように。
    「知りたいか?」
    瑞は振り返り、僕の方を見る。


    「私には幽霊が視えるんだ」
  • 5 月姫 id:.SG9IQV1

    2012-04-07(土) 19:58:39 [削除依頼]
       004

    「幽霊が――視える?」
    そういったのか、彼女は。
    「なんちゃって。あは、お前本気にしただろ」
    「え?」
    悪戯をした子供みたいな笑顔で、瑞は言った。
    「嘘だよ、嘘。冗談」
    そう言って、また外に視線を移し、空を眺めている。
    迂闊にも信じてしまいそうだったのは。
    「…あ、そうだよな。幽霊なんて――」
    「――でも」
    彼女の瞳の陰の所為か。

    「未来は視えるよ」

    未来。
    今、この瞬間から先の時。
    これから起こること。
    あるいは――死。
    それは、不可視であり、視てはいけない真理。
    未来視という、
    未来を視る能力。

    「…それも、嘘か?」
    「あは、…だったらいいんだけどな」
    瑞は、少し悲しそうに微笑んだ。
    「だから、ほら」
    彼女は下の校庭を指差す。
    「自分の死体が視えてしまうんだ」
    「は?」
    「言っただろ?私には未来が視えるんだよ。まあ、そういった意味じゃ、幽霊も視えるのかもな」
    確かに、彼女はそう言った。
    未来が視える、と。
    では。
    何故彼女が“視える”という、自分の死体が学校の校庭にあるのだろうか。
    「要は結果なんだよ。私が視ているのは、ものの結果――結末なんだ。だからね、どうしてそうなったのかさえ、わからない時だってあるんだ」
    私の“能力”ってやつは多分、そう強力なものではないからね、と。

    「誰が私を殺したのかな、なんて。あは」
    これから、自分が殺されるかもしれないのに――いや、わかっているから、か。

    「お前なら」

    急に真剣な顔つきになって、僕の方を見つめる。
    変わった女子ではあるけれど。
    やっぱり美人なので、不意にどきり、としてしまう。
    「お前なら、私の未来を変えてくれる」
    そんな気がしたんだ、と。
    そう言った途端、瑞は表情を変えた。
    驚いたように、目を見開く。
    瑞の視線の先には何もない。
    眩暈でもしたのか、と思った。
    瑞が目を閉じ、開けた瞬間。

    目の色が――変わった。
    比喩なんかではない。
    元の目の色から、鮮やかな青色へと。
    陽射しの所為なのか、微かに光っているようにも見える。
    何だ…?あれは。
    ゆら、と青い蝶となって揺れる眼は、何処を見るでもなく、ただ――先を、視ていた。
    その眼は空と同色だというのに、不釣り合いなほど似合っていなくて。


    水面に反射した、偽物の空のようだった。
  • 6 千本桜 id:t7HiNBb0

    2012-04-20(金) 18:16:40 [削除依頼]
    来ました。
    なんかファンタジーに若干ホラーを混ぜたような作品ですねw
    ヒロインが未来を見れるという面白い展開です。
    これからの更新に期待です。
    では、評価です。
    ☆☆☆☆★
    内容の濃さ的に少し斑があったような感じです。
    これからも更新に励んでいただければと思います。
    ではノシ
  • 7 月姫 id:zFuKZEE1

    2012-04-22(日) 00:23:30 [削除依頼]
      005

    「…っ、またか」
    瑞は呟く。
    その言葉で僕はふと、我に返った。
    僕が瞬きをした瞬間に、すうっ、と目の色が戻る。
    「…瑞。目が――」
    「お前、怖くないのか」
    瑞は驚いた顔をしている。
    「…私が怖くないのか。目の色が急に変わったり、未来が視えたり、変だと思わないのか」
    「変だとは思うよ」
    僕がそう言うと、瑞は落ちるように少し、俯いた。
    きっと、彼女は。
    僕がそう言う事を知っていたはずだ。
    知っていて、覚悟をして、訊いたのだ。
    こんなところで、つまらない嘘なんてつきたくない。
    そう、思ったから。
    「…でも」
    正直、怖い。
    変だと思う。
    でも。
    「でも、君がそれを言っちゃ、駄目だ。君には未来が視える。それだけで、意味があるんだ。自分で自分を嫌うことだけは、しないでくれ」
    僕だって、同じだったから。
    「…なんだよ、それ」
    瑞は鞄を持ち、帰る、と言って出て行ってしまった。
    もう会うこともないかもしれない。

    売店で買ったパンの封を開けることもなく、昼休みは終わろうとしていた。
    そろそろ教室に戻らなければいけない。

    僕が扉を開けようとしたところ、急に勢いよく扉が開いた。
    一瞬、瑞かと思ったが、彼女にしては明らかに小さい。
    中学生かと思うほどだ。
    中学生、といっても、限りなく小六寄りの中一である。
    女子であることは間違いないだろう。
    ポニーテールで、黒縁のメガネをかけている。
    制服はこの学校のものだ。
    しかし、カラーが赤ってことは二年なのか?
    そんなことを考えていると、その少女が僕に話しかけてきた。
    「…ねえ、四辻くん、だっけ。転校生の」
    「あ、ああ」
    少女はここまで走ってきたようで、相当息が乱れている。
    というか、どうしてこんなに僕の名前が広まっているのだろう。
    「池上さん、見なかった?」
    「…池上、瑞?」
    「そ。知ってるの?」
    「いや、さっき会ったから」
    「ぐ、また逃げられた…」
    少女は、肩を落として溜息をついた。
    「逃げられた、って?」
    「今日こそは授業に出てもらおうと思ってたのにー」
    ん?ということは、同じクラスなのか?
    この中学生、じゃなくて女子高生。
    「え、と…」
    「あ、自己紹介してなかったよね。あたし、敦賀(つるが) 小鷺(こさぎ)、っていうんだ。君と同じクラスで、学級委員長やってるよ。よろしくね、四辻くん」
    「…ああ」
    顔の隣でVサインをきめる、敦賀 小鷺。
    苦手なタイプだ…。
    瑞が逃げるように去っていった理由が、なんとなくわかった。


    さっきの池上 瑞といい、変人が多いのか、この学校は。
  • 8 月姫 id:4/GFfsG0

    2012-05-29(火) 17:27:51 [削除依頼]
       006


    「だからね、小川めだかより御門惟架の方がまだ綺麗だからいいんだよ」
    「…どっちも化物だけどな」
    「なんだよ。七凪はさー、惟架ちゃんがいなくなって寂しいんじゃないか、って男子が思ってるの。女子は今がチャンスだ、って狙ってるの。…わかる?」
    「なんのチャンスだよ」
    「争奪、彼女の座!」
    「あー、言っとくけど。惟架とは何の関係もありません」
    「女子の皆さん聞きましたか!?爆弾発言ですよ!」

    教室のど真ん中で男子二人が談話している姿を女子が見詰める、という不思議な光景がいつの間にか出来上がっていた。
    今は六時限目を終えたHR前の休み時間――のはずなのだが、教室から出ている者はただの一人もいない。

    なぜなら、池上瑞がいるから。

    やはり、彼女は異質な存在のようで、周りから奇妙な生物でも観察するような目で見られている。

    そんな中、僕は正体不明の恐怖に駆られていた。
    一つは、教室に瑞がいること。
    二つ目は――敦賀小鷺を含めた複数の女子が、僕の机の周りを囲んでいること。

    …どうしてこんなことになったのか。


    時間は、僅か二時間前に遡る。
  • 9 月姫 id:669w14A.

    2012-05-30(水) 17:01:15 [削除依頼]
    007


    屋上で敦賀小鷺と別れ、廊下の自動販売機を利用してから教室に戻った後のことである。

    僕は未だ慣れない制服に不快感を覚えながら、ノートを団扇替わりにし、教室の窓際で涼んでいた。午後になると、暑さも増して徐々に湿気を帯びてきている。
    この学園はクーラーがついているのに何故こんなに蒸し暑いのだろう、などと疑問を持つ気にもなれないので、仕方なく手首を労働させていた。

    その時。

    突然、勢いよく教室のドアが開けられた。
    「……!?」
    眼前の光景に顔が引きつる。
    追い打ちをかけるように酷使しすぎた右腕が机の角に激突し、悲鳴を上げた。
    「――ってえな。離せよ!」
    「やだね。委員長に怒られたくないもん」
    先ほど別れた池上瑞が、謎の少年に引きずり戻されてきた。
    謎の少年、といってもさっき会ったばかりなのだけれど。
    瑞は僕に気付いたようで、即座に睨みつける。
    …目つき悪いな。
    「おい、漸!どうなってんだよ」
    あー、呼び捨てだよね。
    やっぱり。
    どうなってる、って訊かれても。
    こっちが訊きたいんですけど。
    当然のように周囲の目が僕たちに向く。
    今この瞬間が一番注目されているんじゃないかと思うほど、視線が一点に凝縮されていた。
    「おー、おつかれ。奈々ちゃん♪」
    どこからともなく現れた敦賀小鷺は、からかうようにそう呼んだ。
    「ああん!?てめえ何回言やあわかんだよ!俺の名前は志倉奈々緒――」
    だ、と言い終えないうちに謎の少年――もとい志倉奈々緒の顔に、見ようによっては凶器となる物体が飛んできた。
    「!?」
    「…五月蝿い」
    奈々緒目掛けて飛行したのは、シャープペンシル。
    奈々緒はそれを眼前ぎりぎりで掴んでいた。
    「だからよぉ、危ねえだろうが!」
    「…知るか」
    投げたのは、静音寺絶珂。

    ……。
    僕の全身から危険信号が出てるんだが。
    どうしてみんな「当然でしょ」みたいな顔してるんだ。
    あれ、僕がおかしいのか。
    一体、どんな顔をすればいいんだろう。

    「…おい、喧嘩すんなよ。転校生くんが困ってる」
    七凪、と呼ばれていた男子が見かねたとばかりに声を掛けてきた。
    「めだかの前でそれやったら、もれなく死刑宣告が言い渡されるぞ」
    死刑宣告…?
    「……」
    それを聞いた瞬間、そこにいる生徒全員が黙り込んだ。
    静まり返った教室の中で、ただひたすらに消化できそうもない頭上の疑問を増幅させていく。

    そしてなぜか今に至るわけだが――
    なんだこの、普通じゃない感じ。

    どうやら僕は、非日常に足を踏み入れてしまっていたようで。
    取り残された昨日の日常と早々におさらばした。

    新しい世界は少しも待ってくれないらしい。

    立ち位置的に。
    「…誤認されてる?」


    同時に、僕の明日は暗転した。
  • 10 無花果。 id:i5nO3uC1

    2012-05-31(木) 19:26:55 [削除依頼]
    めっちゃ面白い!
    更新頑張ってくださいな♪♪
  • 11 月姫 id:dHkcDhw.

    2012-06-02(土) 22:07:58 [削除依頼]
    >無花果。さん

    コメありがとう♪

    更新頑張ります!!
  • 12 月姫 id:5vDAI28/

    2012-06-04(月) 14:05:05 [削除依頼]
    次2章入ります
  • 13 月姫 id:1GIUb5l1

    2012-08-16(木) 17:11:56 [削除依頼]
       2章 ―過去の残留―

      001


    俺たちは過去に囚われすぎている。

    楽しい思い出なんかはすぐに塗り潰されて。
    辛く悲しい思い出ばかりが心の奥底を支配する。
    人間はそれを後悔って呼んで。
    悔しがっているふりをして、他人に許してもらおうとしているのだ。
    なかなかどうして人間ってやつは、
    他人の不幸に弱いから、優しく振舞って適当に許してしまう。

    まるで、自分を見ているようだと。

    でも、俺はそれを許せなかった。
    お前もそうだろう――池上瑞。

    人間は誰だって他人の罪を受け入れたくないし、受け入れるつもりだってないはずだ。
    それでも許してしまうのはなぜだと思う?

    ――自分を受け入れないのと同じだからさ。

    正反対の俺とお前ならわかるはずだぜ。
    俺と全く逆のことを考えているお前なら。

    でもな、今きっと俺たちは同じことを考えて、行動しようとしている。

    お前は誰のために動いている?
    ――一体、お前は誰の罪を受け入れた?

    どうしようもない未来から逃げることなんてできないんだ。
    それはお前が一番よくわかっているはずだろう。

    ――逃げられないのなら、変えてしまえばいい。

    お前の言っていることは間違っている。
    未来は変えられるんだ。

    言っただろ、俺たちは正反対なんだよ。

    だって――


    過去を変えることはできないんだから。
  • 14 月姫 id:YXfr8VU0

    2012-09-09(日) 00:16:08 [削除依頼]
    002

    衝撃。

    缶コーヒーが後頭部に直撃した。
    しかも、もの凄い勢いで。
    もちろん中の液体も道連れだ。
    徐々に鈍痛が脳内を支配し始める。
    かなりの数の脳細胞が死滅した。
    缶コーヒーは壁に激突して中身を排出しながら床に落下。
    無残な姿となり果てた。
    ただ、人影のない特別教室前の廊下を手持ち無沙汰に歩いていただけでまさかこんな仕打ちが返ってくるとは。
    「あれ、これ夢なのか」と現実逃避を図ることはやめた。
    まずは、壁に疎まれて下に転がる円柱の形を成さない物体を凝視しながら、飛来を促した人物を呪う。
    おいこら自販機。缶コーヒーを出す前に缶コーヒーを人に投擲する驚愕の人類襲来警告を出しておけ。
    なんて不可能な要求を寡黙な機械に言うだけ無駄なので、素直に憮然に後ろを振り返ってみる。
    単なるかっこつけの仁王立ちで佇んでいるであろう少年を見るために。

    後ろの正面だあれ。
    「……。一応、弁解をどうぞ」
    「むしゃくしゃしてたから投げた」
    「邪心の極みだな」
    「野球ものまね?」
    「グラウンドはあっちですけど」
    そして帰れ。
    「んーと、まあ。大人しく罪を認めろ」
    「私が加害者なのかよ…」
    「じゃあ、あれだ。無駄な抵抗はよせ、かな?」
    無表情を崩さず、嘲笑うかのような声で、作った口調を使いだす。
    志倉奈々緒は億劫そうに言葉を紡いだ。

    「池上瑞。俺はさ、お前が大っ嫌いなんだよ」
  • 15 月姫 id:XF8C7OE.

    2012-12-17(月) 22:04:46 [削除依頼]
    003


    得体の知れない恐怖を体験することになった、原因となる人物と遭遇してしまったのは、僕が食堂傍の自販機を利用した後だった。

    「お前、池上と会ったんだろ」

    金髪にピアスという不良めいた少年が、開口一番に発した言葉がそれである。
    「今、どこにいる?」
    なんだろうこのデジャヴ…。
    池上 瑞という人間が、いろんな意味で人気者なことを再認した。
    そしてあまり関わりたくない人種と遭遇してしまったという絶望感が頭に重くのしかかる。
    当の本人はついさっきしれっと帰りましたけどね。
    瑞が不在であることを伝えようと僕が口を開く前に、違う既視感を覚えることとなる。

    「…帰る、って言ったのか」
    「――え?」

    途端に爪先から迫り上げるような恐怖がせめぐ。
    瑞と出会った時に似た感覚。

    「はあ、となると…」
    少年はなにか納得したらしく、今度は腕を組んで思考を巡らせている。

    「あー、あのさ。あとで金払うから、それくれね?ちょっと急ぐんだ」
    少年は僕が手に持っているものを指差し、無表情の上に薄い笑顔を作った。
    「いいけど、お金はいらないから。あげるよ」
    そう言って、要求されたものを少年に投げる。

    「おう、サンキュー。使う用があってさ」
    …使う?何に使うんだ、それ。

    少年は笑顔を崩さぬままそれを受け取り、謝礼を述べて走り去っていった。
    教室とは真逆の方向へ向かっていったので、人波を逆走しているのが金髪に並べて余計に目立っている。

    …あ、名前訊き忘れた。

    時間もないので、そのまま食堂付近から立ち去ることにした。
    まさか自分のあげたものが凶器にされようとしていることなど知る由もない。

    「…それにしても、あの缶コーヒー何に使うんだろう」
  • 16 月姫 id:WzBfV6z/

    2012-12-23(日) 00:46:27 [削除依頼]
    004


    「…それで、何か用?」
    少女は煩わしそうに言葉を吐き出す。
    「小鷺が死ぬ気で連れ戻して来い、って」
    「殺されそうになったのは私だからな」
    「因みに情報源は四辻 漸」
    「勝手にひとの過去覗くなよ」
    「視えるものは仕方がない」
    我ながら「俺は無実だ!!」と言い張る犯罪者並みに無駄な台詞だと思った。
    自己中心的なのではなくて、自分に優しく、他人に厳しいのである。

    「だけど」

    一拍おいて、続く言葉を紡ぐ。
    「――なんでお前の過去は視えないんだろうな?」
    「…そんなこと、私が知るかよ」
    露骨に嫌な顔をしながら、俺からの攻撃に備えるように後退る。
    俺がここに来るという未来は、彼女には視えなかったようだった。

    池上 瑞は、ものの未来を視る。
    それと同じように――俺は、ものの過去を視た。
    万物全てのものが相手の意思に関係なく視える――はずだったのだが。
    彼女の過去だけはどうしても視ることができなかった。
    それは、彼女に未来が視えるからなのか、それとも――

    彼女が池上 瑞の偽物なのか、だ。

    かつて、俺は瑞の過去を視たことがあった。
    もう一年も前の話だけれど、確かに、あれは未来視の能力を持った瑞だったのだ。
    「……」

    僅かな沈黙を破るように、突然瑞が声を発した。
    「…なんでわかったんだよ」
    「は?」
    「なんでここにいるってわかったんだよ。漸の記憶だけじゃ推測のしようがないだろ」
    「だってお前――帰る、って言ったんだろ?」
    「…だから?」
    全く理解できない、と首を傾げる瑞。

    「……」
    きっと今、俺はこの上なく無気力な顔をしているだろう。
    はあ。
    もういいや。
    「…こんな早い時間にあんな家帰れるのかよ」
    「ああ、そゆことか」
    納得したらしい。

    ――帰る場所なんて、ない。
    居場所なんて、ないはず。
    一度だけ視た、あの過去では。

    「ここなら今は使ってないし、ずっと開いてるからな」
    「お前、私には態度でかいくせに小鷺には弱いのな…」
    呆れ顔でため息をつかれた。
    …呆れてるのはこっちだよ。

    俺と小鷺は幼馴染で、腐れ縁というやつだ。
    勿論、小鷺は俺の眼のことを知っているし、理解もある。
    俺が小さい頃なんかは隠しきれるはずもないので、誰からも避けられ、怖がられるような存在だった。
    ただ、小鷺だけは違った。
    俺に『普通の人間』として接してくれたのだ。
    そういう経緯もあってか小鷺には逆らえず、彼女の精神的攻撃を被る余裕もないので、今に至る。
    と、いうか。

    「なんでお前は教室に戻らないんだよ」
    「お前がいるからだろうが」
    「あのなぁ…。お前が戻れば俺がこうやって探しに駆り出されなくて済むんだよ!!わかる!?」
    「ぎゃーぎゃーうるせぇな。そういうところが嫌いなんだよ」
    「あー、もうわかった。お前は降参する気ねーんだな?」
    「あるわけないだろ」
    こいつ即答で断言しやがった…。

    「因みに。後ろは行き止まりだけど――前言撤回なんて、しねぇよなぁ?」

    ***

    奈々緒に壁から引き剥がされて引っ張り戻されるのは時間の問題だった。
    人に触れられることを忌む私にとっては地獄である。
    私はものに接触すると、例外なく未来視が発動するのだ。
    閻魔でしかないその男の未来を視るはめになると防備していたのだが、
    いざ触れられても、見えたものは写真を撮られれば
    「誘拐寸前!!」と大見出しでスクープされてただの笑い事で済まされそうな背徳的な絵だけだった。
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