ベイビーユニバース10コメント

軽快に飛び出すと、体は無重力をうけつける。
そして一瞬で重力に従って、真っ逆さまに落ちて行く。
逆さまから見る景色は神秘的だ。
青空も寝そべって見るのと、ただ見上げるのでは見え方が違ってくる。

今、写っている景色も同じだ・・・綺麗だなあ。

ゴンッ。

頭に激しい痛みを感じて、手を頭に当ててみる・・・手が動かない・・。
それどころか、体が動かない・・・。

そうか、死んだんだ。
落ちれたんだ・・屋上から。

今になって、少年は自分がコンクリートに打ちつけられていることに気づいた。
激しい衝撃に襲われた少年の心臓が、体内で破裂する。
そして体内で溜まった血液は逆流して、少年の口からあふれ出てきた。
いろんな箇所から、血がとめどなく流れでてくる。

気がつけば、視界が真っ赤に染まっていた。
赤く塗りたくられた視界に映るのは、真っ赤な太陽と紅色の空。

あれ？・・さっきは青空だったのに、もう日が暮れちゃったの？

・・・まあいいや。

綺麗な夕日だし。

少年は静かに目を閉じた。

すると、まぶたの間からきれいな赤い涙が流れてきました。

これから僕はどこへと、僕は旅立つのだろうか？・・・


この命が生まれ変われるなら、いっそ動物にでも生まれ変わりたい。
もうゴミ出しで挨拶してシカトされることも、クラスのやつに愛想笑いをとることもなくなる。


カメとか、犬とか・・・なんでもいいいから、早く人間をやめたいな。

少年が目を開けると、どこまでも続いてそうなグレーが続いていた。
少年が体を起こすと、どうやらまだ手や足はつながっているみたいで・・・つまり人。

[まだ人間なんだ・・・。]

少年は不満そうな声を漏らすと、目の前にらせん階段が上までつながっていることに気付いた。
ここを上りきれば、なにかありそうだ。
何を期待したのか、かすかな希望を求めて階段に足を置いた。
のっそりと一段ずつ上がっていく。
体が上へ上へと逝く度に、強くなるものを感じた。
最後の段を上がった時、気づいた。

匂いだ・・・いい匂い・・・だが、何の匂いか思い出せない。

引き出しに眠った記憶をたどるが、どうも答えは出てきてはくれない・・・。
それより目の前に映るあれはなんだ？

灰色がかった変な物体・・・。

[っく！]

曇っていてよく見えないが、少年はそれを見たとたん頭をおさえて、倒れ込んだ。

少年は爆発しそうな頭を抱えて、視線を上げた。
いつの間にいたのか、その物体は少年の目の前に立っていた。

[うわああああ！]

耐えられなかった・・・あれを見てると、心をむしばまされそうで苦しい。
でも不思議なことにこんな体験は初めての感じはしなかった。
こんな気持ちになったのは一回目じゃない。
いつだったかな・・・だいぶ前に忘れたのに、今になって思い出すなんて。

でもなんだろう・・・この新鮮な気持ちは・・・。


あれ！？

気が付くと、どっかにいた。
さっきのとことはちがう・・・小学校だ。

[この小学校！？]

とっさに門のプレートを覗くと、確かに母校の名前が刻まれてあった。

[なんでここに？・・・]

気がつくと、自分がいつのまにやらどこかの教室の中にいたことに気づいた。
教室では放課後なのか、生徒たちがはしゃいでいる。

[っ！？]

突然、教室に放り込まれた少年は恥ずかしさを隠せずにいた。
だが、そんな少年を透明人間扱いするかのように子供達は無視する。
一瞬、いじめられてるのかと傷ついたが、後に気付いた。

見えてない・・・。

無視されてるんじゃなくて、見えてないんだ。

ほっと胸をなでおろし、ためしに一人の女子生徒に向かって
手を振ってみた。


反応なし・・・。


少年の推測が見事に的中した。

[よっしゃあ！できたぜ！]

一人の生徒の罵声が教室に響いた。
今までそれぞれが違うことをしていたのにそれをやめて、一斉にその生徒の方へと
集まってきた。

[ええ！・・・]

野次馬の中のひとりの女子生徒が開いた口を抑えながら、ガクガクと指を指す。
少年もその生徒が指す方向へと目をやってみる。

相合傘＝　秋田　陽介　＝　井上　里奈

なんだ・・・相合傘じゃないか・・・小学生の頃に流行ってたな。
こういうことやるやつって、必ずいるもんだな。
ところで、この名前のやつはここの教室にいるのか？

そんなことを思い教室の中を見回すと、明らかに様子がおかしい生徒が一人いた。
なにより、野次馬生徒たちがその生徒のほうを見ていたので明確である。
おそらく陽介という子だ。
陽介という少年は服の端をもちながら、モジモジしている。

[可愛らしいな・・・]

ところで♂はいるが、♀←こっちの方はどこにいるんだ？

少年はさらに目を凝らしながら探してみるが、なかなか見当たらない。
ほかの生徒たちも少年のように、里奈という生徒を探していた。

ガララ・・・

来た！

そっと開けられたはずが、かえって響いてしまったようだ。
みんなが開けられたドアの先に、変な期待を持ちながらワクワク待っている。
開けられたドアに何かが入ってくる。

[おいおい・・里奈って子じゃねえのかよ・・・]

思わず声が出るほどダメ出しを言ってしまった。
中に現れたのは、さえない顔をした中年のおっさ・・じゃなくて、おそらく
ここの教室の担任だ。

[おいみんなぁ・・・さっさと机に戻れぇ・・・。]


声ちっさ。
見た目通りというかなんというか、イメージ通りの声だな。


少年はその教師の声のか細さに、少し笑いそうになった。
生徒たちも一部、クスクスと笑っている。

[すいませーん！体育員の仕事で、遅れました！]

甲高い声がして、教師の小さなまん丸の瞳がカッと見開いた。

[あ〜里奈ちゃん！]

里奈ちゃん！？

やっと来たのかと少年は内心ちょっとドキドキしながら、声のする方へ
振り返ってみる。


美人だといいなぁ・・・

振り向くと確かに存在はあるが、何かが変だ。
しばらく考えてみると、ようやく気づけた。

さっきのやつだ！
あ・・まただ・・・頭や胸が締め付けられる。

[うぐ・・！]

少年は床に倒れこみながらも、かすかに視線をあげた。
およそ3ミリの視界には、確かにさっきの灰色の物体がいる。

入れてください！

８←

コメありがとうございます<m(__)m>

[黒板のあれ・・・なに！？]

ずいぶん照れくさそうな声でしゃべっているが、見た目は化け物そのものだ。
けれどクラスのみんなも、冴えない担任も誰一人として気づいてない。

どうして俺だけ・・・

すると意識もだんだん薄れてきた。