追いかける僕、逃げる男。10コメント

1 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

2012-01-09(月) 03:28:24 [削除依頼]
 愛することって、難しい。
  • 2 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:29:06 [削除依頼]
    「助けて! お願い、助けて!」

     嫌に悲痛な声が、夜の街に響き渡った。
     その甲高い声を聞いて、僕――ジャック=ウォークは、走るスペースを更に引き上げた。
     辺りを暗闇が覆う、午前二時。僕はレンガ造りの民家の上を、跳ねる様に走り続ける。止まることは出来ない。
     何故なら目の前を走る男が、この『ピレーノ王国』の姫であるユナ=ピレーノを抱えているからである。
     何としても、ユナ姫を取り戻さなければならない。
     マントをなびかせ、分厚い仮面を被った不気味な男は、姫を抱えていない余った方の手を使い、走りながらも僕にナイフを投げてくる。
     僕は屋根の上を飛び跳ねてその凶器をかわすと、大きな声で叫んだ。

    「おい貴様! ユナ姫をどうするつもりだ!」
  • 3 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:30:07 [削除依頼]
     薄ら寒い気温の中に、僕の怒号が響き渡る。しかし、仮面の男は何も答えない。

    「お願いよ! 助けてぇ!」

     訴えかけるように、ユナ姫は僕以上の大きな声を上げた。
     仮面の男が再びナイフを投げてくる。暗闇の中でナイフを見切るのは至難の技だが、僕はギリギリでそれらを避けきった。
     追跡劇は続く。
     僕と仮面の男との距離は十五メートルくらいで、走る速さはほぼ互角だ。
     しかし、さっきから投げつけられるナイフのせいで、仮面の男との距離はグングンと広がって行く。山の上から追いかけっこをしているのだ。どうやら、体力では奴の方が上手らしい。

    「くそ! 僕じゃ、姫を救えないのか……?」
  • 4 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:30:49 [削除依頼]
     ――二年前、僕はこのピレーノ国に来て始めて地球上の女の人に恋をした。
     ピレーノ国の姫、ユナ=ピレーノ。
     長い金髪に、大人びた顔立ち。加えて、他者を思いやる気持ちに満ち溢れた、とても素敵な女性だった。
     一方、僕の身分は、ただの傭兵。体を鍛えて、国に尽くす事しかしなかった、ただの傭兵だ。
     突然現れた僕が、彼女に気持ちを伝えても、相手にもされないだろう。僕はそう思っていた。

    「いつも、私たちの為に体を張ってくださって、ありがとうございます」

     しかし、三日前のその日、彼女は僕にそう言ってくれた。一傭兵でしかない僕を、彼女は労り、労い、そして優しい笑顔で接してくれたのだ。
     僕はその瞬間、彼女を本気で愛してしまった。命を捧げても、良いと思ったのだ。
     なのに、なのに。今日、いきなり現れた仮面の男が、ユナ姫を誘拐しようとしている――
  • 5 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:31:19 [削除依頼]
    「ユナ姫、僕が、助けてみせます!」

     暗闇の中で、僕は思いっきり叫んだ。喉の奥から、腹の底から叫んだ。
     ああ、そうだ。こんな場所で諦める訳にはいかない。
     彼女に愛されなくてもいい。彼女が健康なら、それでいい。僕が守るんだ。僕が!

    「うおおおおおおッ!」

     僕は疲れきった足を叱咤しながら、全力で走った。屋根の上を飛び回りながら、目の前の男を追跡する。
     ナイフを投げられたら、弾き飛ばせばいい。スピードを落とさずに、走り続けるのだ!

     そして僕は追い付いた。追い詰めた。
     仮面の男を、路地裏の行き止まりまで、追い詰めた。
  • 6 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:32:39 [削除依頼]
    「姫、お怪我はありませんか?」

     ユナ姫はピンピンしている。どうやら無事なようだ。僕は胸を撫で下ろした。

    「早く助けて……!」

     姫の言葉に、僕は腰にかけた剣を抜き、仮面の男に刃を向けた。

    「もう逃げ場はない! 早く姫を離すんだ!」

     仮面の男は何も答えない。
     こいつは一体、何者なんだ?
     僕が考えを張り巡らせている間に、仮面の男はナイフを構えた。どうやら闘いたいらしい。
     男は姫を突き放すと、僕に向かって突進してきた。
     しかし、勝負にならない。ナイフとソードでは、間合いが違うのだ。
     あっという間に僕の刃が仮面の男を貫いた。男が倒れると、その正体を隠していた仮面が外れる。
     真っ白な髪をした、若い男だ。額に傷がある。

    「姫、もう大丈夫です」

     右手を背中に回して座り込んでいる姫に、僕は手を差しのべた。姫の目には恐怖が浮かんでいる。まだ恐怖が抜け切らないのか。そう思って、僕は姫を安心させる言葉を考えた。

     しかし、その瞬間だ。

     ――僕の首筋に、ナイフが突き立った。

    「っ!」

     バカな! 仮面の男は、息の根を止めたはず――と、思ったが、それは誤解に終わった。
     何故なら、僕の喉を切り裂いたのは――――他ならぬユナ姫だったのだから。
  • 7 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:33:27 [削除依頼]
     ユナ姫は肩を上下させて、荒い呼吸を繰り返している。

    「こ、この変態!」

     ユナ姫の言葉に、僕は愕然とした。
     変態? 何を言っているんですか? 僕が、変態?
     突然の出来事に、僕は声すら上げられない。
     その隙にユナ姫は立ち上がり、仮面の男へと近寄った。

    「ねえ、コレット! 目を開けてよ!」

     ユナ姫は、仮面の男の死体を揺さぶる。あの男はコレットというのか。

    「あなた、よくもコレットを……!」

     ユナ姫の可愛らしい視線が僕に向けられる。怒っていても綺麗だ。
     しかし、その姫の目を見た途端に、僕は頭の中で全てを受け入れた。
  • 8 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:34:03 [削除依頼]
     ――ああ、そうだ。そうさ。解っていたよ。全部、全部。気づかない振りをしていただけなんだ。
     三日前のあの日。僕に微笑んでくれた姫を見て、僕は我慢が出来なくなった。城から姫を連れ去ってしまった。子供の頃から傭兵をやっていた僕を止められる人間は、この城には居なかったんだ。
     三日間、僕は山小屋でユナ姫と身を隠しながら楽しい一時を過ごしていた。ユナ姫の足首を拘束したのは、彼女が逃げようとしたからだ。姫は嫌がって抵抗していたけど、恥ずかしがっているんだと思っていた。
     なのに、さっき、いきなり仮面の男が現れた。奴は僕が寝ている隙にユナ姫を奪い去ってしまった。
     それに気付いた僕は慌てて仮面の男を追跡し始めたのだ。ああ、解っていたよ。解っていた。僕はユナ姫を守ってなんかいない。
     姫が叫んでいた「助けて」は、僕ではなく、仮面の男に言っていたんだろう? ああ、解っていたよ。解っていた。
  • 9 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:35:12 [削除依頼]
    「コレット………ごめんなさい、私が弱いばかりに……」

     姫が仮面の男にすがって涙を流している。二人はどういう関係だったんだろうか。仮面の男は、姫が誘拐された後、必死で僕を探したんだろうか。そして、命懸けで姫を取り返したんだろうか。

     僕は姫に何かを言おうとしたけど、喉が切られていて喋れなかった。

     僕だって、命懸けで姫を城から連れ出したんだ。二人っきりになりたい一心で、頑張ったんだ。それなのに、こんなの……。こんなの、あんまりだよ。あんまりだ。

     僕の脳みそから意識が抜けていく。駄目だ、死ぬ。
     僕は地面に倒れる。血は止まらない。
     ユナ姫を見た。まだコレットに涙を落としている。
     ああ、最後の最後まで、僕を見てもくれないのか。ちくしょう。

     ――さようなら。僕の愛した、お姫様。
  • 10 マラカス日和 id:i-i/Kvxt/.

    2012-01-09(月) 03:39:36 [削除依頼]
    おしまい。ご愛読ありがとうございました。
    こっちに書くのはスゲェ久しぶりだったんで、一レスの書き込み量とかオカシイかも知れませんが、許してチョンマゲ。
    あ、ご感想いただけたら、嬉しいです。
    それでは、出来るのならまた次のお話で。さようなら。
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