二人喋り。39コメント

1 ごん id:pdkFYNN1

2011-10-22(土) 00:01:57 [削除依頼]


「はじめまして、深山拓夢です。よろしくね!」
「えっ、と……、横山、聡美、です。……よ、よろしく」

――ここから、二人の物語は始まった。
  • 20 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 11:41:30 [削除依頼]

    聡美の口からこぼれたのはそんな予想外の言葉だった。
    拓夢はあわてて叫ぶ。
    「え!? 嫌いじゃないよ! どうして?」
    なんでそんなこといい出すのか、拓夢には分からなかった。
    ずいっと聡美との間を詰める。当時は、とくに高低差がなかったために真正面から見つめ合うことになった。オセロ板は床に落ちてしまったが、そんなことは誰も気にしなかった。
    拓夢は、根気よく聡美の言葉を待った。

    聡美が再び口を開いたのは、オセロが床に落ちてから15分経過したころだった。
    「……ぁくらちゃん、が、私、のこと、嫌い、だって」
    「さくらちゃんが? 仲良かったじゃん」
    入学してから、一か月も経つと、お互いに『女の子の仲良しさん』『男の子の仲良しさん』ができていた。さくらちゃんというのは、聡美の友達でいつも休み時間に聡美を遊びに誘っていた。そして、悪気なく思ったことを口にするタイプの女の子だった。
    「で、も、……嫌い、なんだ、って。
     話すのが、遅くて、イライラ、する、って。花ちゃん、とか、優ちゃんに、言ってたっ」
    だからこそ、そんなことを面と向かって本人のいる目の前で言ってしまえたのだろう。
    「そっかぁ……」
    拓夢はそれを聞いて、ひどく悲しくなった。まるで自分自身が傷つけられたかのような痛みが、拓夢の体の奥のあったかいところを襲った。
  • 21 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 11:55:35 [削除依頼]

    拓夢のくりくりした目から、涙がこぼれ始めた。
    聡美は驚き、目を見開いた。
    「な、んで……た、くむくん、も、泣いてる、の?」
    拓夢は、泣いている割には、はっきりとした声で答えた。
    「だって、悲しいもん」


    「悲しい、の……?」
    「うん。聡美ちゃんが悪く言われたら、悲しいよ」
    「どう、して……?」
    そう首をかしげる聡美に向かって拓夢はまた叫んだ。なんて当たり前のことを聞くんだと言わんばかりに。

    「だって、大好きな友達だもん!」

    その言葉に聡美はもう一度目を見開き、そして、
    「…………ありがとう」
    涙でくしゃくしゃな笑顔を見せた。くしゃくしゃなのに、とびきりの笑顔だった。
    「あ、笑った!」
    拓夢も、やっと笑顔を見せた聡美につられて、笑顔になる。

    「拓夢くんも、笑ってる」
    「ほっぺたびしょびしょなのにねー」
    「……ちょっと、変な感じ、だね」
    「二人して変な顔ー! アハハハハ」
    「変、だね」
    「うん!」

    二人でなんだか可笑しくなって、見つめ合ったまま笑い合う。

    「でも、聡美ちゃんは笑ってた方が可愛いね!」

    その言葉に恥じらうようにはにかんだ笑みを見せた聡美をみて、拓夢は「あ、可愛い」と照れたように顔を俯かせたのだった。

    ***
  • 22 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 12:07:23 [削除依頼]
    6〔しりとり〕

    「”しーりーとーりのりー”で始めるよね。たいていは」
    「まぁ、そうだな」
    「で、次は、りんご、ごりら、らっぱ、パンツと続いてく!」
    「確かにそうだな」
    「まぁー、女の子はたまに恥ずかしがって”パンツ”を”パセリ”に変えちゃうよね」
    「そうだな」
    「別に、りんご以外のものから始めてもいいんだけど、いきなり、『しりとり』のあとに、『リトマス紙』って来ても、”ん?”って感じになるよね」
    「言われてみれば違和感が」
    「でしょ!!」
    「……なんでそんなドヤ顔なんだ」
    「しりとりには、最後に”ん”がついたら負け。ルールはそれだけ。
     でも、皆が分かっている、暗黙のルールというものがあると思うんだ!」
    「んで、拓夢は何を言いたいんだ?」

    拓夢は勢いづいて立ちあがり、

    「りッ、”り”づめにするのは、ルール違反ということにしよう!」

    と叫んだ。

    「却下」
    即答だった。考えておこうという措置すら与えられなかった。
    「えぇぇぇぇ―――ッ!?」
    悲壮な顔の拓夢。
    クラスメートは何ごとかとこちらをちらちら見てくる。
    聡美は、なんでもないから気にするなとばかりに、クラスメートにゆらゆらと手を振る。それをみて、あぁいつものアレか、とクラスメートは興味をなくしてさっさと自分たちの昼食に戻っていった。

    今は昼休み。隣のクラスである拓夢は、毎日聡美のクラスまで来て昼食を食べている。聡美は最初クラスの友人たちと食べようとしていたのだが、「彼女とお昼ご飯が俺の夢なの!」と言う拓夢の言葉に負けたのだ。なんだかんだ言って聡美は拓夢に弱いところがあった。
  • 23 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 13:30:03 [削除依頼]

    聡美はウインナー(ちなみにタコさんウインナーだったりする)を刺したフォークをふり拓夢を促した。
    「ほら、拓夢。早く次言え」
    ぅぅぅと唸りながら、拓夢はなんとか言葉をひねり出す。彼らが何をしているのか。もう分かるだろう。

    「りー……。りぃ……”陸”!!」
    「”栗”」
    「ぅぅぅぅ。”リクルート”!!」
    「”鳥”」
    「だぁぁぁぁ! り、り…………”リターン”」
    「ん?」
    「……”マッチ”!」
    「あ、リターンマッチか」
    「そうそう!」
    「”地理”」
    「”リメイク”!」
    「”草刈り”」

    ぽんぽんとまたリズムの良くなる『しりとり』。

    「”リンカーン”!! ……あ」

    勝利の女神は聡美に微笑んだ。拓夢は、机に拳をぶつけて地団駄を踏む。その顔には、悔し泣きまで浮かんでいるように見える。
    「拓夢の負けな」
    聡美は容赦なく勝利宣言する。
    「り、”リンカーンの銅像”」
    往生際悪く、そんなことを苦しげに吐きだす拓夢。珍しく聡美は顔に愉快そうな笑みを浮かべながら、
    「却下」
    と切り捨てた。拓夢は天井を仰ぎ見ながら嘆く。
    「チキショウ―――ッ!! ひどいよ聡美! ”28回”も”り”ばっかり回してきて!」
    「正確には34回だな」
    「もっとひどいよ!」
    「ビシッと負けを認めろよ。ほら、早く。ジュース買って来い」
    にやりと笑う聡美。拓夢はがっくりと肩を落としてプルプルと震えている。
    『聡美はなんだかんだ言って拓夢に弱いところがある』というのは、少し訂正したほうがいいかもしれない。
    「賭けなんてするんじゃなかったぁーッ!!」
    「どんまい」
    「聡美が言うな!」

    拓夢はがたんと椅子を蹴倒して教室を飛び出た。その手にはしっかり財布が握られている。
    聡美はそんな拓夢を満足げに見送りながら、ふと思いついたように、弁当のタコさんウインナーを拓夢の弁当箱の中に一つ入れたのだった。

    ***
  • 24 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 19:38:17 [削除依頼]
    7〔しりとり、あの頃〕

    当時、聡美は”パンツ”が言えなくて”パセリ”と言う女の子だった。


    町の小さな病院『とよの内科』。聡美は緊張気味に父親とその『とよの内科』のドアをくぐった。
    受付で父親が何やら書いている間に、奥のお子様待合室に行く。
    待合室には、子供用の絵本がたくさん置いてあった。カラフルな明るいソファーに座って、母親に読み聞かせてもらっていたり自分で読んでいる子どもたちが多くいた。
    聡美は、自分も絵本を選ぼうとして、その子どもたちの中に知っている顔を見つけた。
    そして、聡美が気付いたと同時に、その子どもも聡美に気が付き、声をかけた。
    「あ! 聡美ちゃん!!」
    「……拓夢、くん」
    拓夢だった。
    拓夢は、ぴょんと立ちあがり絵本を戻すと、聡美を手招きした。聡美は小さく頷くと、拓夢の隣に腰かけた。
    「偶然だねー。聡美ちゃんも注射?」
    明るく言われたその言葉に聡美はつい顔をしかめた。インフルエンザの予防接種なのだが、どうにも注射が嫌いでたまらなかったからだ。
    「うん。……そう、なの」
    「僕、注射苦手なんだよねー。一緒で良かったー!」
    「……うん」
    同じように顔をしかめる拓夢を見て、少しだけほっとした。
    何も注射を怖がるのは、自分だけではなかったのだ、と。
  • 25 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 19:46:59 [削除依頼]

    しかし、やはり怖いものは怖い。聡美は刻一刻と迫る注射の時間に怯えていた。
    「もうそろそろだね」
    拓夢も、少々青い顔をしていた。
    「……」
    「聡美ちゃん?」
    「……ッ」
    ビクッと震えて、聡美は拓夢の袖をちょこんと握った。
    「聡美ちゃん、もしかして注射怖いの?」
    「……ん」
    聡美は、ひどく恥ずかしかったが、素直に頷いた。目にはうっすらと涙が浮かんだ。
    そんな聡美を見て、拓夢は何かを考え始めた。
    そして唐突に、
    「そっかぁ……あ! じゃあ、しりとりしようよ!!」
    と言った。顔に少々無理やりな笑顔を浮かべて。

    聡美は涙を引っ込めて、きょとんとした顔で拓夢を見つめる。
    「し、しりと、り?」
    「うん! 聡美ちゃんから始めていいからさ」
    「な、んで、しりとり」
    「怖いからさ―。他のことやってた方が考えなくていいじゃん!」
    「あ……」
    「ほら! やろ?」
    「うん」
    それは、拓夢なりの気づかいだった。聡美は、そんな拓夢の優しさに、思わず顔をほころばせた。
  • 26 *椛なゅ* id:v13JW31/

    2011-10-23(日) 19:48:59 [削除依頼]
    面白いです頑張って下さい^^
  • 27 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 19:52:59 [削除依頼]

    「えっと……”しりとり”」
    「”りんご”!」
    「……”ごりら”」
    「”らっぱ”!」
    「パン………ちが。パ、”パセリ”」


    拓夢は、それを聞き逃さなかった。ニヤッと笑って、聡美をからかう。
    「今へんなこと言おうとしたでしょー?」
    「し、してない……」
    聡美は顔を赤くしてもごもごと否定する。
    「本当にぃ?」
    「……た、拓夢くんの、いじわる!」

    聡美は、珍しくムキになり、拓夢の足を踏みつけた。ぐりぐりと。
    「痛い痛いっ! ご、ごめん」
    「いい、よ」
    拓夢の謝罪に聡美は、足をどかした。
    「じゃあ……つぎね――」
  • 28 ベイス id:SywU8e5/

    2011-10-23(日) 19:56:21 [削除依頼]

    おー^^子供のころの聡美さんが可愛過ぎる―!大人になってからとのギャップが……!
    破壊力抜群ですな←

    更新楽しみーー^^
  • 29 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 20:06:01 [削除依頼]
    >26 *椛なゅ*さん ありがとうございます!嬉しいです(涙 頑張ります!
  • 30 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 20:07:06 [削除依頼]
    >28ベイスちゃん もう、別人だね;w ありがとう! 頑張るね!
  • 31 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 20:26:35 [削除依頼]

    そして、語彙の少ない二人がお互いにもう次の言葉が思い付かなくなってきたころ、その時間が来た。
    「あ、今呼ばれたね」
    「うん……」
    先に呼ばれたのは拓夢だった。拓夢はスクっと立ち上がる。そこに怯えはなくなっていた。
    「じゃあ、行ってくるね」
    「……がんばってね」
    むしろ、聡美のが不安げに拓夢を見上げていた。拓夢は少し笑う。
    「うん。だから、もう手を離しても、大丈夫だよ?」
    そう言って、あいている方の手でちょんちょんと繋がれた手を指差した。
    いつのまに繋がれていたのか分からない。気が付いたら、聡美の方から、遠慮気味にその手を握っていた。まるで勇気づけるように。実際、勇気づけたかったのだろうし、それは成功していた。
    「……うん」
    ゆっくりと離れされる温もり。
    「ありがとう。聡美ちゃん」

    拓夢は母親と診察室に入っていった。
    聡美はその後ろ姿を見つめながら、自分の番が来るまでぎゅっと手を握りしめていた。

    手と手をつないだその温もりが、逃げていかないように。

    ***
  • 32 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 21:35:37 [削除依頼]
    8〔逆コナン君現象〕

    拓夢は机にぐでーんと突っ伏した。「終わった。もう知らね」とぶつぶつ呟く様子は、ちょっと近寄りがたいものがある。
    周りのクラスメートは気を使ってなのか、それともただ単純に関わりたくないのか、見ぬふりをしていた。
    拓夢の周りに停滞し続ける負の淀んだ空気。
    誰かこの空気変えてくれ、とクラスメートが願ったところで救世主が現れた。

    帰るぞ、といつまでもうなだれる拓夢の襟首をつかんだ救世主こと、聡美。

    拓夢は、愛する彼女を目の前にして一気に回復した。
    今までの淀んだ空気どころか、るんるんとお花でも舞いそうなそれはそれでうざったいオーラを出している。
    聡美、聡美、といちゃいちゃいちゃいちゃ。
    彼女募集中(そして彼女いない歴=年齢)の一人クラスメートは祈った。
    もういいからさっさと帰ってくれ、と。
  • 33 ごん id:Fo0qTkF.

    2011-10-23(日) 21:53:26 [削除依頼]

    並び歩く帰り道。拓夢は、落ち着いた途端、また思い出してしまい落ち込んでいた。何を思い出したのかというと、

    「テストどうだった?」


    そう、テストである。今日は、先日行われたテストの返却日だったのだ。
    聡美の問いかけに、拓夢は曖昧な笑みを浮かべ、
    「んー? アハハハ……」
    と渇いた笑い声を発した。
    聡美は眉間にしわを寄せ、
    「見してみ」
    「あっ!」
    バックを素早く奪いとった。そして、勝手に中身をあさる。出てきたのは、くしゃくしゃの解答用紙。妙に綺麗に破れているところがあるのは、拓夢が一度それを破り捨てようとしたからだ。
    聡美は、しばし絶句した。そして、ハッと我にかえり、呆れたような声を出した。

    「……9点って。このテスト、十点満点?」

    拓夢は、ぶんむくれて頬をふくらます。
    「100点満点! もういいじゃんか! 追試にかけるよ」
    もう完全に開き直っていた。
    「……○×問題のみ正解は、追試にかけていいレベルでもない」
    追い打ちをかけてくる聡美。拓夢は、グハァとうめきながら胸を押さえた。
    「うぅ……、いいもん。どうせ馬鹿だもん!」
    「どうして? ……昔は秀才だったのに」
    そう、小学生時代、拓夢は勉強のできる子だった。運動もそこそこできるし、人望もあるというデキスギくん状態な小学校時代を過ごした彼。
    「その時点で、頭の進化がストップしたんだよ、きっと!」
    「……見た目は16歳、頭脳は小学生?」
    「イエース!!」
    「……逆コナン君現象」
    「もうなんとでも言えこの野郎! もう、こうなりゃ自棄だ!! 俺は留年する!」
    小学生秀才のなれの果てが、これだった。
  • 34 ごん id:fDex/Yj/

    2011-10-25(火) 00:27:32 [削除依頼]

    バシッと音が鳴った後、後頭部に痛みを感じた拓夢は、ガバっと聡美を振り向いた。「いった……――」文句を言おうとしたが、途中で口を噤んでしまう。
    聡美は無表情だった。それが、拓夢を怯えさせる。急に頬を撫でる風がいつもよりも冷たく感じた。
    聡美が
    一切表情を変えないまま口を開く。

    「そう。今日から徹夜で勉強教えてあげようと思ったんだが」
    「……え?」
    拓夢は驚きに目を見開き、まじまじと聡美の顔を見つめた。
    「そこまで拓夢が覚悟を決めているなら、私は身を引くことにしよう」
    「え?」
    「一緒に進級して、今度こそ同じクラスになるのを楽しみにしてたのだが。まぁ、仕方ない」
    仕方ない、と言いながら、聡美さんはわずかに眉間にしわを寄せた。ご立腹だった。
    拓夢は、その言葉に含まれる意味を――もはや直球だったのだが――理解しようと軽い頭を働かせた。

    そして、「あ」と今さらながら気づいた。二人の通う高校では、2年に上がる際進路と点数を考慮してクラスを振り分けられる。今年はあいにく別々になってしまったが、確かにある程度拓夢が頑張れば、来年同じクラスになる可能性はある。そして、聡美はそれを「楽しみにしていた」と言った。

    聡美は、ボォっと突っ立ったままの拓夢を置き去りにして早足で歩く。
    静かな怒り。

    しかし、拓夢はどうすればその怒りが静まるのも理解していた。

    「さ、聡美さん!」
    「なんだ?」
    「勉強教えてください!」

    そんな拓夢の叫びに、聡美はピタッと足を止めた。そして、ゆっくりと振り向いた。
    その顔には笑みが浮かんでいた。

    拓夢はその笑みに胸をなでおろすと、急いで聡美の元まで走ったのだった。

    ***
  • 35 ごん id:fDex/Yj/

    2011-10-25(火) 00:52:52 [削除依頼]
    9〔雪融け〕

    冬もだんだんと終わりに向かい、そろそろ春がやってくる。

    しかし、どちらかと言うと冬よりであり、まだまだ肌寒い気候が続いていた。聡美は、温かい店内から出て、意外なほどに冷たい空気に思わず体を震わせた。そんな聡美をみて拓夢は自分のコートをかけるという、非常にジェントルな行動に出た。しかし、「……重い」という聡美の身も蓋もない発言で台無しにされた。少々憐れな男である。
    買い物袋をぶら下げて、深山家に向かっていた。買いだしの帰りだ。

    拓夢の持つ買い物袋の一つには、”半額”のシールが付いた焼肉用の肉がたくさん入っている。なんでも、深山家は今日焼肉をするとのことだ。そこには、聡美も呼ばれている。

    細い道を軽トラックが横切ったとき、聡美は前、拓夢は後ろにに避けた。そして、車がと通り過ぎたあとにまた元の位置に戻る。いや、正確には先ほどとは逆側の位置に立つ。
    聡美は、こっそりと買い物袋を持つ手を入れ替えた。しかし、拓夢はそれに気付かない。

    結局、拓夢が聡美の無言のおねだりに気付いたのは、もう少しだけあとのことだった。。
  • 36 ごん id:iNY0Zrx0

    2011-11-19(土) 23:55:36 [削除依頼]

    ちらりと隙間雪を眺めながら、拓夢が呟く。
    「最近、雪少なくなってきたねぇ」
    「そろそろ、春だから」
    「春かー!」
    「うん。春だ」
    春。二人して、何回も言い合った。春だね。うん、春だ。春なんだ! そうだ、春だ。
    まだ来ぬ春に二人して早々と心を浮き立たせていた。
    「春になったら何したい?」
    「私か? 私は、公園に花見にいきたい」
    「公園て、すぐ隣じゃんかー」
    「あそこの桜が一番綺麗だ」
    「確かに綺麗だねぇ、一本桜」
    「あぁ。そして、あの木の下で拓夢とお喋りしながら、おいしいものを食べたい」
    聡美は少し頬を緩めながらそんなことを言う。拓夢は、少し照れたように笑った。
    そして二人は少し遠くを見つめるようにしながら、公園に咲き誇る桜を夢想した。その木の下で二人が今と変わらず並んでいる様子まで目に浮かんでいるようだ。
    繋いでた手をゆるりとほどき、拓夢は小指を差し出した。
    「いいね! じゃあ、今年は花見をしよう」
    そんな子どもっぽい拓夢の仕草に聡美はちょっと笑いながら、迷わず小指を絡めた。
    「約束だぞ」
    「うん。約束だ!」
    ぎゅっぎゅっと少し痛いくらいに力を込めて、何年ぶりかの指切りを交わした。そして、はにかみあって笑う。


    拓夢と聡美の間にひらひらと白い花弁のようなものが待った。


    「あれ……? 桜の花びら?」

    二人は驚いたように目を見張り、それから同時に空を見上げた。低く、白い空。ひらひらと舞い落ちるそれは、まるで桜吹雪ようだった。聡美は思わず手を伸ばす。手のひらの上に一瞬のったそれは、すぐに溶けて消えた。
    「……違う、雪だ」
    「あ、なんだー。一瞬桜に見えた」
    春が楽しみすぎて、と拓夢は言う。雪が桜に見えるほど、花見が待ち遠しいと。
    「私も……」
    聡美は小指をほどくと、そのまま全ての指をまた絡めて手をつなぐ。拓夢は内心焦りながら、平然を装って首を傾げた。
    「え?」
    聡美はもう一度空を見上げ、それから拓夢に視線を戻し、
    「私も、桜に見えた」
    と微笑んだ。


              ***
  • 37 ベイス id:FeBHgo60

    2011-11-20(日) 12:01:13 [削除依頼]
    聡美さんが可愛過ぎるでしょーーーー←
    手をつなごうと無言で荷物持ち替えるとかぁぁぁ!

    あー、やばいやばい。ウチんのこの先生にも見習ってほしい可愛さだな←オイ

    それでは!
  • 38 ジャック id:TCmcfKm0

    2011-11-20(日) 12:04:33 [削除依頼]
    え!?
    まさかのごんの作品
    しかも書き始めはつい最近
    なぜだ、なぜおれは気づかなかったのか

    よし、今日からこれもブクマしよう

    更新頑張って
  • 39 ごん id:Gz0CkxD/

    2011-11-20(日) 12:22:14 [削除依頼]
    >37ベイスちゃん 聡美さんは私の萌をつg(以下略 尋さんも尋さんであれはつぼなのですがw(大好きだぁぁぁ ありがとう^^ >38ジャック いやいやー。 私が書いてるのが多いのもありますし、 題名で分かったらびっくりですてw (そして放置癖ありw) ブ、ブクマなんて光栄な…っ ありがとうございます!がんばります。
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