chamomile.39コメント

1 優柚◇ id:Uc713X./

2011-10-19(水) 17:54:54 [削除依頼]
あなたは、カモミールを知っていますか?

白くて、儚げな、小さな花。

けれど、カモミールの花言葉は、

「逆境の中の力」。

私にあの花をくれたあの人は、

誰よりも力強く、また、

美しく咲き誇った人だった――……。
  • 20 優柚◇ id:vhsT/8s.

    2011-10-21(金) 22:00:41 [削除依頼]
    「……すみません、こんな話。
     嫌でしたよね。
     ていうか……嫌いになりましたよね、私の事」

    何しているんだろう、私……。

    話しながら、そう思った。

    見ず知らずの人に、こんな情けない話をして。
    きっと、この人も呆れた。
    つまらなくて、退屈にさせたかもしれない。

    そして、それが過去形になれば
    まだ良いけれど、
    いじめは今でも現在進行形だ。

    ザッ……という音がした。
    多分、彼が立ちあがった音だ。

    そのまま、ザッザッザッと
    どこかへ行ってしまう音がする。

    ああ……やっぱり。

    私を助けてくれる人なんていなかった……。

    そう思い、視界が滲んだ瞬間、
    私の胸元に、真っ白い花束が落ちてきた。

    「……え…………?」

    いきなりの事に声が出ない。

    そしてその直後、柔らかい笑顔が私の真上にあった。

    「驚いた?」

    私は、コクコクと頷く事しか出来ない。
    ていうか……

    彼が、あまりにも優しい顔で
    私に笑いかけることに、
    一番驚いた。

    こんな笑顔を向けてくれる人が……

    この世界に、居たなんて。

    「……これはね、カモミールっていうんだ。
     この花、俺の爺ちゃんが好きな花でね、
     この場所にはたくさん植えてあるだろう?
     ……全部、爺ちゃんが一つ一つ、植えたんだ」
    「……全部!?」

    凄い。
    一体どれだけの時間を有したのだろう。
    ざっと数えても、五百はざらに超えている。

    「凄い……」
    「っていっても、もう爺ちゃんは2年前にとっくに
     亡くなってるから、
     この花達は今、誰のものでもないんだけどね」

    そう言って、彼は笑った。

    陽だまりの様な、温かい笑顔だった。
  • 21 優柚◇ id:vhsT/8s.

    2011-10-21(金) 22:17:19 [削除依頼]
    「カモミールの花言葉を知ってる?」

    彼は、事もなげに聞いてきた。
    私は素直に、知りません、と答えた。

    「自分で後で調べてみて。
     俺の口からは、敢えて言わないでおくから。
     そして、その言葉をしっかりと胸に刻んで」
    「……はい」

    彼の真剣な、真っすぐな瞳が
    私を捉えて言った。

    私は、彼の言った事を絶対に
    忘れないようにしよう、と心に刻んだ。

    そして分かる所まで送ってもらった。

    その夜は、なかなか眠れなかった。
    寝ようとしても、気持ちが浮きだってしまう。

    「カモミール、か……」

    貰った花束を枕元に置いて、
    優しいりんごの花の様な香りに包まれた瞬間、
    私の意識はそこで途切れた――……。
  • 22 優柚◇ id:/tqB0Yh.

    2011-10-23(日) 14:58:30 [削除依頼]
    翌日、私は一人で図書館へ赴いた。

    そこで植物図鑑を探して、
    空いている席に適当に座る。
    そして、カモミールの載っているページを
    ゆっくりと開いた。

    「カモミール……」

    カモミールは、キク科の花。
    学名はMatricaria rectita。
    これを特にジャーマン・カモミールと言う。

    草丈は60cmにもなり、葉は羽状複葉で、
    春先に中心の管状花が黄色で、
    舌状花が白い直径3cmくらいの頭花を多数咲かせる。

    和名は、カミツレ。
    りんごに似た強い特有の香りを持ち……

    花言葉は……

    「逆境の中の力」。

    図鑑を手に取ったまま、
    私の頬に思わず涙が伝った。

    『生きる力』を。

    どんな事があっても負けない、強い力を。
    戦う、力を。

    彼は……あの人は……

    教えようとしてくれたんだ。

    私は、居ても立ってもいられずに、
    がばっと立ち上がった。
    勢いで立ち上がり、
    座っていた椅子が凄い音を立ててひっくり返る。

    隣で歴史の本を読んでいた小学生が
    驚いてビクッと体を強張らせ、
    こちらを怪しげに見てくる。

    他の利用者も、何だ何だと
    野次馬根性剥きだしに見てくる。

    けれど、そんなの知るか。

    私は颯爽と椅子を立たせ、
    図鑑を元の位置に手早く戻し、
    急いで出口へと向かった。

    向かう場所は、ただ一つ。
    昨日あの人に会った場所だ。

    私は迷わず真っすぐに、
    その場所へと歩みを進めた。
  • 23 優柚◇ id:/tqB0Yh.

    2011-10-23(日) 15:00:28 [削除依頼]
    ≫22 

    カモミールの情報はWikipedia参照です。
  • 24 優柚◇ id:/tqB0Yh.

    2011-10-23(日) 15:40:34 [削除依頼]
            *

    しかし、勢いで現地まで来てしまったものの……
    こっから先、何も考えていなかった
    愚かな自分に気付く。

    昨日助けて貰った裏山なら、
    まっすぐに目の前に広がる坂の小道を
    歩いて行けば良い。

    しかし、勝手に入ったら不法侵入という
    扱いになり、警察へ……何て事も在り得る。

    かと言って、家を探そうにも
    名前も聞かなかったのだし、
    探し様が無い……!

    どうしようか試行錯誤していると、
    近所の人らしき女性が、
    セント・バーナードを連れて声を掛けてきた。
    犬の散歩の途中らしい。

    「こんにちは、何かお困りですか?
     ここらではあまり見ない顔ですけど……」
    「あ、はい……。
     この、裏山を所持されている方に
     お会いしたいのですけれど……」

    そう言うと、女の人はちょっと
    困ったような顔をして言った。

    「そうですか、それなら残念ですけど……」
    「……残念?」

    え、何がですかと聞く前に、
    その女の人は思いもよらない言葉を出した。

    「昨日の夜、成田国際空港の
     ニューヨーク行きの飛行機に搭乗して、
     そのままボストンへ行かれましたよ」
    「……え?」

    ちょっと待って。
    話が突飛すぎやしませんか。

    思わず、何で……と口から漏れる。

    「確か、家の誰かが手術を受けることになって。
     それで医療の中心地のボストンへ……。
     そしてそのままあちらに住まわれると……」
    「つまり……もう、帰っては来ない……んですか」

    今にも消えそうな声で聞く。

    多分そうなんじゃないんですかね、と
    その女の人はいかにも他人事の様に言った。

    バウッとバーナードが一声あげて、
    女の人は思い出したように言った。

    「すみません、私散歩の途中でして。
     お役に立てなくてごめんなさい。
     それでは失礼します」

    そう言って丁寧に頭を下げ、
    ジャッキー行くよ、と言ってその女の人は
    坂を下って行った。

    ありがとうございました、と
    聞えるか聞えないかの声でお礼を言い、
    私も頭を下げた。

    ポタポタと、自分の足元に
    透明な雫が落ちた。
  • 25 優柚◇ id:We7D73b1

    2011-10-24(月) 20:47:14 [削除依頼]
    もう会えない。もうアエナイ。モウアエナイ――……。

    ぐるぐると、頭の中を
    その言葉が駆け巡る。

    どうして。

    私はまだ、お礼さえ言えてないのに。

    嗚咽が漏れる。
    そのまましゃがみ込んだ。

    人通りは少なかったが、
    それでも通る人達の眼は刺さった。

    けれど、もう本当にどうでも良くて。

    たった1日の出会いだったけれど、
    とてつもなく自分にとって大きい出来事だったと
    今更思い知らされる。

    そうやって、一体何時間経っただろうか。

    涙も引っ込み、冷静に物を
    考えられるくらいには落ち着いた。

    そして、冷静になっても
    1番に思ったことは、
    やはりあの裏山に行きたい、という事だった。

    不法侵入とか、もうどうでも良い。

    ていうか家族ぐるみなら、
    誰にも咎められはしないだろう。

    最後だけ。

    もう一度だけで良いから、
    あの美しい桃源郷を目に焼き付けたい――……。

    もう日は、オレンジに染まりかけていた。

    私はゆっくりと、
    裏山に向かって坂の小道を上がって行った。
  • 26 優柚◇ id:We7D73b1

    2011-10-24(月) 20:52:25 [削除依頼]
    25≫

    家族ぐるみなら――……って所、
    軽く意味分かりませんね、
    家族ぐるみで出て行ったなら、
    って事です。

    言葉がたりてない……((@_@;
    未熟ですね、すみません。

    以後気をつけます。
  • 27 優柚◇ id:We7D73b1

    2011-10-24(月) 21:04:39 [削除依頼]
    キィイイ――……

    ゆっくりと、裏庭のゲートを開ける。
    やはり裏庭と言っても洋式でお洒落な感じなので、
    躊躇なくガーデンと呼べる。

    カモミール・ガーデン……

    ふと思いついた言葉だが、
    直接的すぎるわりには結構良い響きだな、
    と一人ごちていると、
    いきなりポストに郵便物が入る音がした。

    心臓が飛び出るかと思う程、吃驚した。

    そっと木陰から、
    郵便ポストの方を見る。

    しかし、郵便配達の見慣れた赤い業務用バイクは
    特に見当たらない。

    ……明らかにおかしい。
    大体、家の主はもう誰一人と居ない筈なのに。

    細心の注意を払いながら、
    そろそろとポストまで近づく。

    そして、郵便受けをそうっと開けた。

    「……――え?」

    そこに入っていたのは
    宛先が、『昨日の女の子へ』と書かれた、
    淡い黄緑色がベースの、カモミールの手紙。

    差出人は、『カミツレのお兄ちゃん』。

    ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ、
    ゆっくりと、破らない様に
    丁寧に封を切った。
  • 28 優柚◇ id:bkF.lSC1

    2011-10-29(土) 17:34:56 [削除依頼]
    「前略 これを見ているのが、翌日である事を
     願ってこの手紙を書いています――……」

    小さく声に出しながら読む。
    けれどその声も、情けなく震えていた。

    まだ、心臓のドキドキは収まらない。

    ――……

    この手紙を君が読んでいる頃、
    俺は、おそらくボストンに居ます。

    持病が近年悪化してしまって、
    半年前から行くことが決まっていました。

    ボストンは医療の中心地なので、
    きっと治ると思います。

    ……治ったら、また戻ってきます。

    昨日、君の事ばかり聞いて、
    俺がいなくなる事を言って無くて失礼でした、
    すみません。

    また、俺に会えると思って
    ここに来てくれたなら、尚更すみません。

    この手紙を見ているって事は、
    きっと君はもう花言葉の意味を理解していると思う。

    もし理解してなかったら、
    もう答え合わせするね。

    カモミールの花言葉は、「逆境の中の力」。

    俺が、一番好きな言葉で、
    今の君にも必要だと思った、言葉。

    たった一言で、励ましにもなったかどうかは
    俺も神様じゃないから分からないけど。

    俺は少なくとも、爺ちゃんにこの言葉を聞いて、
    持病と戦おうって……そう思う事が出来たから。

    だから君も……

    ――……

    「戦って」

    声にする。
    瞬間、鳥肌が立った。

    私も、あの人……
    カミツレのお兄ちゃんと一緒に。

    戦うんだ。

    こんな自分をとりまく環境を、
    すべて1から……

    始めるために。

    大丈夫、一人じゃない。
    だって、この空の下に絶対に……
    カミツレのお兄ちゃんはいる。

    絶対絶対……帰ってくる。

    手紙は、最後に
    “また逢えた時、次は君の名前が聞けますように”
    と締められていた。

    私は手紙を握りしめ、
    自分の家へと向かって駆けだした。
  • 29 優柚◇ id:rQdOHc2/

    2011-10-30(日) 18:52:52 [削除依頼]
            *

    それから、7年の月日が経った――……。

    あたしは今でも、カミツレのお兄ちゃんの事を
    忘れていない。
    思いはあの日から、募るばかりだった。

    いじめられっ子だった、
    あたし――……東城宙は。

    宙って名前なのに、お兄ちゃんの影響で
    天体より花や自然に興味のある
    子に成長してしまった。

    天文学者だった叔父さんは、
    なんかあからさまにがっくりしてた。

    あ、そうそう。
    少し確執があった叔母夫婦とも、
    今は本当の両親の様に、暮らせてる。

    全部――……カミツレのお兄ちゃんのおかげだった。

    今あたしは、地元の図書館で、
    高校の時に出会った
    川崎紫園と二人一緒に、働いてる。

    そして、この図書館で。

    また、新たな出会いが私を待っていた――……。
  • 30 優柚◇ id:z1miGMg0

    2011-10-31(月) 17:08:15 [削除依頼]
    #02 次の舞台は図書館で

    「宙ーっ! 遅刻するわよーっ!」

    いつも通りの朝を迎える。

    奈美叔母さんの高い声が、
    今日もキッチンから2階の宙の自室までよく響く。

    宙はガバッとベッドから飛び起きた。

    「はぁーいっ」

    空は肌に馴染んだパーカーとジーンズに
    すばやく身に付けつつ、返事をする。

    そして鞄を持って、ドタドタと派手な音を立てて
    ダイニングへ向かった。

    「叔父さん、おはよっ」

    挨拶をしながら、自分の席に着く。

    「おはよう、宙。
     今日も寝坊かい?」

    宙にそう聞いて苦笑いしながら
    新聞を捲っているのは、天文学者の将叔父さん。

    宙はてへへと笑って誤魔化す。

    そこへ奈美叔母さんがキッチンから
    朝食のハムエッグを持ってきて言った。

    「もう、宙ったら成人しても毎朝懲りないわねぇ。
     そんなに朝からあたしの声を拝みたいー?」

    「奈美叔母さんの声を頼りにしてるのっ」

    宙が笑ってそう答えると、
    全く調子が良いんだから、と叔母さんは笑いながら
    宙の前に出来たてのハムエッグを置いてくれた。

    「宙、今日で図書館勤め2年目に入るんだったっけ?」

    新聞を閉じて、宙の方を向いて将叔父さんが言う。
    宙は、ハムエッグを頬張りながら頷く。

    「そうなんだー! あっという間だよね、2年なんて」

    あたしもすっかりベテランだよ、と
    宙は笑って言った。

    「2年目でしょ、まだまだ新人新人っ」

    隣で奈美叔母さんが悪魔の微笑みを浮かべる。
    奈美叔母さんは凄く美人なので、
    どんな表情を見ても綺麗に見えるから何かズルイ。

    「叔母さんの意地悪ーッ!」

    そう言って宙はふざけてポカポカと叔母さんを叩いた。
    冗談よ冗談、と叔母さんは笑った。
    将叔父さんもそんなあたし達のやりとりを見て微笑む。

    いつも通りの、楽しい朝だった。
    ただ、一つ違ったのは――……

    ひとしきり笑った後、何かに気付いた様子で
    奈美叔母さんが、あっと声を上げた。

    「そうそう、うっかり忘れる所だったわ。
     お隣さんが今日引っ越してくるの」

    それを聞いて、宙は眉を顰める。

    「えー、もうー?」

    そんな宙の嫌そうな顔に気付いたのか、
    奈美叔母さんは笑って答えた。

    「大丈夫よ、前の戸田さんみたいな
     五月蠅い人はきっと来ないわ。
     とりあえずそういう事だから、もし会ったら
     きちんと挨拶してね」

    宙は、はーいと返事をした。
    とはいえ、隣人の存在は心境的に複雑な気持ちだった。

    というもの、1ヶ月前に引っ越した、
    隣家の戸田家は最悪だからだった。

    父親は真昼間から飲んだくれの駄目親父、
    母親はいつもヒステリックに何か叫んでいた。
    長男はここらで有名な不良だったし、
    その妹はロックか何かを目指しているのか
    毎日騒がしいメタル系バンドの歌が流れていた。

    やかましいったらありゃしないと言った感じで、
    ようやく静かな環境を手に入れたと思ってたのに。

    そう言ってぶつくさ文句を言っていると、
    奈美叔母さんに大丈夫? と聞かれた。

    「何が?」

    まだ眉が下がったままで、奈美叔母さんの方を向く。

    「もうすぐ、8時だけど」

    そう言われ、バッとリビングの時計に目をやる。
    確かに、7時56分だった。
    8時15分までには向こうに着かなくてはならない。
    宙はギャーッ遅刻! と叫んで、
    急いで鞄に手をかけて玄関までダッシュする。

    「あっ、宙! お弁当!」

    奈美叔母さんが宙のお弁当を持って
    慌てて声をかける。

    「ああっ! 忘れてた! 
     叔母さんありがとっ!
     行ってきまーすっ」

    宙は靴を履きながら大声で言って、
    弁当を鞄に押し込み仰々しく出て行った。

    叔母夫婦はやれやれと言った顔で、
    お互い顔を見合わせて苦笑いした。
  • 31 優柚◇ id:z1miGMg0

    2011-10-31(月) 21:00:32 [削除依頼]
            *

    走りながら、鞄に付いている腕時計にちらりと目を向ける。
    現在8時5分。
    あと最低でもここからだったら
    15分はかかる。

    「わーん5分遅刻ーッ!」

    そう叫びながら、顔を前に向けた時だった。

    「わっ!」
    「きゃあっ」

    そう叫んだのが同時だった。

    目の前に暗い影が出来たかと思った瞬間、
    自分は固いコンクリートに尻をついていた。

    「いった……って、すみませんッ!」

    ガバッと立ち上がって、
    向こうも倒れていたので手を差し伸べる。

    「大丈夫ですか?」

    そう聞くと、向こうも痛そうに顔を歪めながら、
    宙の差し出した手を取った。

    「あ、はい……。
     こちらこそ、すみません」

    そう言って、宙の顔を見た。
    その瞬間、あ――……と、何か驚いた様な顔をしたが、
    すぐに何でもなさそうな顔になる。
    宙は不思議に思いながら、その人――……
    20代半ばあたりの、その青年を眺めた。

    サラサラとした黒髪が、まず目につく。
    前髪が結構長くて、この年頃で
    こんな十代よりの髪形をした人は初めて見た。

    そして、瞳。
    凄く澄んだ、灰色に近い色をしていた。
    その瞳に映った自分の顔がなんだか
    可笑しく見え、思わず眼を背ける。

    とにかく……こんな綺麗な男の人を、
    久しぶりに見た。

    けれど、華奢とか綺麗とか……
    そんな感じではなく、
    雰囲気は健全な男性っぽい……
    何とも言えない男の人だった。

    見惚れていた自分にハッと気が付き、
    急いでその人を立たせる。

    ……あれ?
    ていうか普通こういう事って、男の人の方がしないか?

    そんな疑問が突如発生したが、
    ぶつかったのは自分だった事に気付いて、
    まあいいかと頭の中で自己処理した。

    その男の人は自分をまた改めて見て、
    すみませんでしたと律儀に頭を下げて
    去って行った。

    その後ろ姿をぼーっと見ながら、
    自分の今の切羽詰まった状況を思い出す。

    ガバッと腕時計に目をやると、
    もう13分だった。

    「おわーっ!」

    その場で叫んで、一気に走り出す。

    もう、先輩の鬼の様な形相が
    目に見える位想像出来ていた――……。
  • 32 優柚。 id:z1miGMg0

    2011-10-31(月) 21:13:23 [削除依頼]
            *

    「すみませんでしたッ!」

    深々と頭を下げる。
    現在8時30分。
    結局、15分も遅れてしまった。

    目の前にはもちろん怖い顔をした、
    ベテランの堀川冬美先輩。

    「宙ちゃん、困るわねぇ。
     あなた、もう2年目になるのよ?
     いつもいつもギリギリだったけど、
     今日は遂にやらかしたわね」

    厳しい口調でそう叱咤され、
    普段はピンと張っている肩も、
    昔の様にしゅん、と小さく縮こまる。

    ここはNPO事務室前の廊下で、
    丁度朝のミーティングが終わり、
    バタバタと色々な人が行きかう時間帯だった。

    移動図書館の準備をしているおじさん方が
    こっちを見て苦笑いで立ち去って行く。

    ううー……恥ずかしい…………。

    宙が俯きかけると、
    顔を上げなさい、と堀川先輩に指摘される。

    「とりあえず、業務後も残って罰則掃除!
     良いわね?」

    その有無を言わさぬ言い方には、
    渋々頷くことしか出来なかった。
  • 33 優柚。 id:XZn7SYo.

    2011-11-02(水) 17:12:32 [削除依頼]
    堀川先輩が去った後、
    同期の川崎紫園が笑いながら傍まで来た。

    「宙ったら……今日は何やらかしたの?
     ただの朝寝坊じゃ無いんでしょ?
     あんたの持ち前の、陸上やってた足があるから
     どれだけ寝坊してもあんたならギリギリだもんね。
     王子様にでも出会った訳?」

    茶化しながら聞いてくるが、
    王子様と言われ今朝のあの人を思い出し、
    見惚れていた自分が恥ずかしく思えてくる。

    「べっ……別に、そんなんじゃないわよッ。
     ちょっと……朝食が美味し過ぎただけ」

    視線を逸らしながらそう言うと、
    紫園は一瞬目を点にして、声高らかに笑いだした。

    「あんった嘘下手くそねぇー」

    紫園は涙も浮かべながらヒィヒィと笑っていた。
    宙はむっつりとなりながら、煩いわよ、と一蹴した。

    川崎紫園は、高校の時と変わらず
    華奢で美人な癖に、一癖も二癖もある女だった。

    ……けれど、自分が変われたのも
    彼女のおかげなので、決して口に出したりはしないが、
    (理由・言うと調子に乗るから。)
    感謝しているのは否定しようのない事実だった。

    現に今も、笑い飛ばしてくれたおかげで
    少し気が紛れた。

    まあ気が紛れても、ちっとも
    罰則掃除が無くなる訳では無いのだが。

    まだ笑っている彼女の背中を見ながら、
    宙は小さくありがと、と呟いた。
  • 34 優柚。 id:XZn7SYo.

    2011-11-02(水) 17:51:35 [削除依頼]
          *

    そして、事が起こったのは
    お昼を図書館の屋上で紫園と済ませた後だった。

    紫園と話をしながら、
    屋上の扉を開けて屋内に入ると、
    そこには――……

    朝会った、あの綺麗な男の人が居た。

    「えっ……?」

    そう行ったのは、双方同時だった。

    紫園が、知り合い? と目で合図してくるが、
    そんな行動にも気付かなかった。

    ただ目だけは、朝と変わらず
    彼に吸い寄せられていた。

    彼はハッとして、焦った様に
    手を振りながら言った。

    「あ、すみません!
     ここから先って、関係者以外
     立ち入り禁止でしたか?」

    そう言われ、宙も覚醒する。

    「あっ、いえッ!
     一般の利用者でも
     使用されて良いですよッ」

    あ、でも食事されるのでしたら
    鳶に気をつけて下さいね、と付け足す。

    そう言うと、彼は少し頬を上げて
    分かりました、と呟く様に言った。

    見た目は全然違うんだけれど、
    何故かその笑顔は
    カミツレのお兄ちゃんを思い出させた。

    その後は軽く会釈をし、
    紫園とも別れて業務に戻った。

    けれどそれから1時間経っても、
    鼓動の加速は収まらなかった――……。
  • 35 優柚。 id:bJhbglL/

    2011-11-03(木) 18:17:38 [削除依頼]
    そして午後3時。

    そろそろ、利用者の図書を探すサービス、
    レファレンスに交代の時間だ。

    貸出しカウンターの受付をやっていた宙は、
    レファレンスカウンターに移動する。

    そしてカウンターに入った直後、
    小さく誰かが後ろから声をかけて来た。

    「はい、何かお困りですか?」

    業務仲間では無いと声で分かっていたので、
    いつもの決まり文句を営業スマイルで言う。

    そして、その訪ねてきた相手を見た瞬間、
    思わず息が止まった。

    「あの……図鑑を探してるんですけど」

    そう言ってきたのは、さっきすれ違った、
    黒髪の王子様……とでも呼んでおこうか、
    とにかく、例の彼だった。

    「あッ……ハイッ。
     図鑑と言っても色々ありますけどッ……!
     何をお探しですか?」

    宙は動揺を悟られまいと、平静を装って聞いた。
    しかし、声は裏返ってしまった。

    黒髪の王子様は一瞬迷った様な顔をしたが、
    ちょっと躊躇ってから言った。

    「花……です。
     詳しく言うと、カモミール」

    口から心臓が飛び出しそうになった。

    カモ……ミールですか。

    思わず口から零れる。

    王子様は少し悲しそうな顔で、
    すみません、と謝らなくても良いのに謝った。

    「男が花とか……変、ですよね」

    あたし、もしかして王子様傷付けた……?
    宙は慌てて謝る。

    「申し訳ございませんっ!
     そういう意味で言ったんじゃなくて……!
     ただ、その花は私が個人的に
     思い入れがある花でしてッ!
     公私混合になっちゃってました……。
     私、別に男性が花が好きでも良いと思います!
     むしろ、私が好きな花を探してるなんて
     嬉しいくらいですッ」

    早口になりながらそう言うと、
    王子様はその綺麗な顔できょとんとした。

    そして、いきなり笑いだす。
    けれど図書館なので、かなり声を押し殺しながら。

    「あっ……ありがとう……ッククッ
     ッ……ございます……ハハッ」

    そ、そんな爆笑されるほど、
    あたしは抜けた事を言っただろうか……?

    爆笑している王子様を見て、
    何となく恥ずかしくなって顔が赤くなる。

    「こっ……こちらですッ!」

    そう言って、赤くなった顔を紛らわす為に
    さっさと先へ行く宙。

    王子様はまだ可笑しそうに笑いながら、
    レファレンスをする宙の後をついて行った。
  • 36 優柚。 id:bJhbglL/

    2011-11-03(木) 18:20:31 [削除依頼]
    >35  訂正 「利用者の図書を探すサービス」 とありますが、 「図書を探している利用者の為のサービス」 と変えて下さい...。 すみません。((_ _;
  • 37 優柚。 id:bJhbglL/

    2011-11-03(木) 18:39:45 [削除依頼]
    宙はスタスタと歩いて言って、
    児童書が置いてある方へ向かった。

    業務員に続いて王子様も入ってきたが、
    子供達の目が少し痛かったようで、
    ちょっと気まずそうに目を伏せてついて来ていた。

    児童書の一角にある、
    図鑑コーナーから一冊を取り出して、
    王子様に見せながら宙は言う。

    「これとかいかがですか?」

    取りだした本は、宙が中学時代に
    カモミールを見つけ出した本だった。

    あの後も何回もこの図鑑を引っ張り出しては
    読んでいたので、もう見慣れた表紙だった。

    王子様は図鑑を手に取り、
    カモミールのページを開いた。

    そして、にっこり笑って
    ありがとうございます、とお礼を言った。

    いえいえと会釈をする。
    機嫌はいつの間にか直っていた。

    「それにしても……
     なんで、カモミールを探していたんですか?」

    当然の疑問をぽろっと口にする。
    そして、慌てて口を塞いだ。

    ――……いけない、公私混同。

    しかし王子様は少し言い辛そうだったが、
    案外すんなりと言ってくれた。

    「俺の爺ちゃんが好きな花で。
     俺も好きだったから、興味あって。
     まあ、それだけですよ」

    彼はそう言ったが、なんだか
    その感慨深げな物言いを見ていると、
    まだそれだけでは無い様な気がした。

    けれどこれ以上は利用者と業務員の線を
    越えるかなと思い、
    敢えて深入りはせずに押し黙った。

    「そうだったんですね、納得しました。
     それでは私は業務に戻らせて頂きます。
     失礼しました」

    そう規律正しくそう言って、
    宙は斜めに上半身を傾ける。

    そして来た時と同じく、
    速足にレファレンスカウンターまで戻って行った。
  • 38 優柚。 id:mbIOje40

    2011-11-05(土) 17:02:32 [削除依頼]
    キャスから ブログに移転する事にしました!
    やはりまだ文才無いし、
    何回も訂正が出来ないので...((^^;

    とりあえず、
    はてなのブログに乗せようと
    思っています*

    【ヒトリゴト。 Lizee】って打ったら
    多分出てくると思いますw

    みたい方はどうぞそちらで。

    お世話になりました* by.優柚。
  • 39 優柚。 id:mbIOje40

    2011-11-05(土) 17:42:18 [削除依頼]
    >38  すみません; ブログの名前キレイゴト。です!!
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