Still you...29コメント

1 祥雲 id:5oO2oFt1

2011-10-18(火) 20:29:11 [削除依頼]

 
 どうして、こんなことになってしまったんだろう。


 
 中学3年の、クリスマスの日。
 
聖なる日に、サンタは私から大切なものを奪っていった。

それは、あまりにも近いところに在りすぎて、
失うまで大切だと気付かなかった。
失って初めて、大切だと気付いた。

 もう少し早く気づいていれば、
 きっとこんなことにはならなかった。


今さら後悔しても遅い。

 目の前には、血だらけで道路に投げ出されている
弓弦の姿があった。
  • 10 祥雲 id:1CwJFQ50

    2011-10-26(水) 18:14:58 [削除依頼]

     弓弦に出会ったのは、中学に上がってすぐの頃。席が隣だった私に、弓弦がしつこく絡んできていた。
    当時の私は、小学校の頃のトラウマから人間不信で、いつだって独りだった。

     トラウマの内容は、定番だけどいじめだった。きっかけは何だかわからない。きっと、いじめていた相手も、途中から分からなくなっているような、そんな些細なことがきっかけだった。
    私に非がなかったとは言い切れない。どこかで、その子を傷つけていたのかもしれない。それは分からないのだけれど……
    何かが原因で、私はクラス中の人から無視をされた。
     今まで仲が良かった仔も、皆私を避けた。まるで、初めから友情など存在しなかったかのように。

     どんなに仲が良くっても、些細なことで壊れてしまうもんなんだ。
     友情なんて、口先だけの綺麗ごとでしかないんだ。
     バカみたい。
     そんな友情だったら、こっちからやめてやる。
     
     もうトモダチなんていらない。裏切られるくらいなら、もういらない。
     もう誰も信じない。信じられない。信じたくない。

     もう―――……


     そうして、私は孤立した。
    そのまま小学校は終わっていき、地元の中学校に進学して、

    ……そこで、弓弦と出会ったのだ。
  • 11 祥雲 id:1CwJFQ50

    2011-10-26(水) 20:11:13 [削除依頼]
    -中1・4月-

     私はクラス分けの紙を握りしめて、そっとため息をついた。
    半年前、私を裏切った人たちとはクラスが違った。
    「よかった……」思わず呟いてしまう。

     あの日。
    教室に入った時の絶望感は、今でも忘れられない。
     もう、二度とあんな思いしたくないから―…

     ガラッ
     ドアを開けて、教室に入る。黒板に張られた座席表で、自分の席だけ確認した。
    真ん中の列の、真ん中の席。クラスの中心だ。
     最悪な席だな。そう思った。できれば、教室の隅が良かった。
    …まあ、あまり周りと関わらなければいいか。
    そう思い直して、席に着く。入学式だからか、周りは皆おとなしくしているようで、妙に静かだ。
     鞄を床に置いて、私は机に伏せた。

     周りを見ないように。
     周りから見られないように。
     周りと自分を遮断するように。

    『ねえねえ、何て名前??』
     ふいに、声をかけられた。気配で、一人ではないことがわかる。
    一人じゃ行動できない女子の群れか。
    思ったけれど声には出さない。私は彼女を無視した。それでも、彼女らはしつこく話しかけてくる。
    『私はね、西小出身なんだ。どこ小だったの?』
    『ねえ、うちらのグループに入らない?』
    『●×ってアイドルスキ??かっこよくない??』

     うるさい。関わるな。放っておいて。

     それが通じたのだろうか。彼女たちは話すのをやめ、去っていく気配がした。
    最後に、『何アイツ。暗ッwww』『つか無視するとか何様?』『関わんない方がいいよね』なんて言葉を残して。

     馴れ合おうとした結果がこれだ。
     やっぱり、人間なんてこんなものだ。

     私はまた、自分の殻に閉じこもる。
    ---
  • 12 祥雲 id:1CwJFQ50

    2011-10-26(水) 20:59:51 [削除依頼]

     入学から一週間が経った。
    最初の方は、社交辞令のように話しかけてくる人が居なくもなかったけれど、初日の彼女たちがクラスの皆に
    “あいつは暗い、話しかけても無視をする”と広めたらしい。
    その通りなのだけれど。
     それもあってか、今では私に話しかけてくる人は居ない。

    「あ、篠宮!! 今日も来んの早いな!!」

     ただ一人、コイツ…相楽弓弦を除いて。
  • 13 祥雲 id:H.VCMCt0

    2011-10-27(木) 20:46:56 [削除依頼]
    「おはよう篠宮!」
    「……」
     
    「昨日のTV、おもしろかったよな!」
    「……」

    「今日って数学小テストじゃん!! 勉強した?」
    「……」

    「なあなあ、俺らの担任って何歳なんだろーな!!」
    「……」

    「なあ篠宮!!」
    「……」


     無視しても無視しても、相楽だけは私にしつこく話しかけてくる。
    そして不運なことに、相楽は私の隣の席なのだった。
    授業中も休み時間も、所構わず絡んでくる相楽。
     いったい、何なの……?!
    話しかけられても目も合わせない、返事もしない。そんな私に関わろうとするなんて、この人は何を考えているんだろう。
    「弓弦、今日も頑張るな〜」
    笑っているのは、相楽といつもつるんでいる2人、大岡湊と鈴原春樹だ。
    「ねえ弓弦、そんな子ほっといて話そーよ!!」
    「昨日のあれおもしろかったよね。弓弦も見たでしょ?」
     女子に引っ張られて、弓弦はクラスの輪の中に入っていった。
    こっちを見ているのが気配で分かるけれど、だから何なんだ。
    私は、一人で構わないのだから。
  • 14 祥雲 id:H.VCMCt0

    2011-10-27(木) 21:18:54 [削除依頼]
    その状態が、どれだけ続いただろうか。
     必要最低限の会話を2.3度交わしたくらいで、ほとんど弓弦が一方的にこちらに話しかけてきていた。
    本当にうざったいと思ったし、大嫌いだった。

     どうせあんただって、暗い奴だって思ってんでしょ?
     だったら、私のことなんて放っておいてよ。
     あんたには、関係ないでしょ。
     あんたみたいなやつには、私の気持ちなんか分からない。
     分かって欲しくもないよ。
     だからもう関わらないで。

    ずっとそう思っていた。
    ---

     きっかけになったのは、6月の初め頃、まだ梅雨に入りきらず、晴れた日が続いていた日だった。
    その週、私たちの班は掃除当番で、裏庭を掃除する予定だった。
     ……のだが。

     掃除に来ているのは、毎回毎回私一人。
    皆、誰かがやるだろうと思っているらしかった。
    さすがに、金曜日になっても誰も来ていなかったのには腹が立ったが、班の皆でやるよりは一人でやった方が気が楽だ。
    そう思って、私は腹立たしさを相殺した。

     掃除用具を手に取って掃除を開始してから、10分ほど経った頃。
    「あれ、篠宮一人?? 他の奴らは?」

     ……一番来てほしくないやつが来た。
     ここで無視するのはさすがに、と思い、私は短く答える。
    「サボり」
    「え、嘘。全員?!」
    「今週全部そう」
    「マジかよ〜、言ってくれれば良かったのに」
     その言葉に、胸が鳴った。

     やめろ。偽善者ぶるのはやめろ。

    「…相楽だってサボりじゃん」
    「いやマジ悪かったって。皆来ねーって知ってたらサボんなかったよ」
    「……」

     私は答えずに、黙々と手を動かす。相楽も掃除用具を手に取り、無言で掃除を始めた。
  • 15 祥雲 id:H.VCMCt0

    2011-10-27(木) 21:35:07 [削除依頼]
    「…あのさあ」
     弓弦が口を開いたのは、それから少し経った後だった。
    何を言われても無視しようと決めていたから、手は止めないで動かしたまま、だけど何を言うのかは少し気になったから、耳は傾けて。

    「篠宮って、何でそんな周りを避けてるわけ?」

     その言葉に、思わず手が止まった。
    「……相楽には、関係ない」
     そう返すのが精一杯だった。過去の記憶が蘇りそうになる。
    あの日の、皆の目が。
    私を透過して、どこかを見ているような目が。
    私に向けられた時のあの感覚が。

    「関係あるよ。だって隣の席だし。……まあ、理由も大体分かるけどさ」
    「相楽には分かって欲しくない」
     反射で返していた。言ってしまってから、はっと我に返る。
    だめだ。これ以上関わったらだめだ。
     そう思ったけれど、体が動かない。
    弓弦の言葉に、想像以上に動揺したようだった。
    「何だよそれ。まあいいけど。イジメだろ?」
    「!!」
     答えられなかった。それが肯定していることになるのは分かっていたけれど。
    まるで金縛りにあったように、動けなくなった。
    あの日の記憶が頭の中に流れ込んでくる。
    「…なんで相楽がそんなこと知ってんの」
    「ん? 経験者のカンってやつ?」

     ……え?

    「俺もさ、前いじめられてたんだよ」
  • 16 祥雲 id:p6CveZr1

    2011-10-28(金) 18:11:25 [削除依頼]
     思わず、相楽の顔を見てしまった。
    あの相楽が、虐められてた?
    いつもクラスの中心にいるのに…
    全然想像できない。
     相楽は、自分の足元に目線を落として、話し出した。
    「俺、前は別の件に住んでてさ。そん時、クラスに虐められてる奴が居たんだ。そいつ、幼なじみで、放っとけなくて。虐めてるやつらに、やめろよそんなことって言ったら、次は俺がターゲットになってさ。」
    そこで相楽は、ふっと笑った。目は下に落としたままで、
    「怖いよな、人間って。昨日まで仲間だったのに、簡単に敵になるんだぜ。
     仲良くしていたやつ虐めて、笑ってられるなんて、可笑しいよな」
    「……うん。分かるよ」
     初めて、相楽にまともな言葉を返した気がする。
    「私も、そう思う」
     相楽は、返事があったことに少し驚いた様だった。
    「そっか。俺もそん時はそう思ってて、もう二度と他人なんか信用してやんねえって思って…。そしたら、親が転校させてくれてさ。
     そこで、アイツ……湊に出会ったんだ」
  • 17 祥雲 id:p6CveZr1

    2011-10-28(金) 18:41:19 [削除依頼]
    「そん時の俺はさ、全然他人を信用してなくて、
     いっつも一人で行動してたよ。
     ……今の、篠宮みたいに。
     でも、湊だけは、俺に関わってきてくれたんだ。
     俺がどんだけ拒絶しても、諦めなくってさ。
     
     今の俺があんのは、アイツのおかげなんだ。
     湊のおかげで、俺はもう一度だけ信じてみようかなって
     そう思えたんだ」
    「……」
    「そのまま中学入って、篠宮を見つけて、
     ああ、コイツは前の俺と同じだって思ったら、
     なんかほっとけなくて」
    そこまで言って、相楽はゆっくりと微笑んだ。

    「だから、今度は俺が、篠宮の助けになれたらなって思ったんだ」
    「……え」
     
     私の……?

    「それが、湊への恩返しだと思うんだ。
     自己満足でしかないかもしれないけど、
     でも篠宮、今のままだったら絶対後悔する。

     そりゃ、辛かったこと忘れるなんてできないけど、
     でも、ずっと後ろ向いて独りぼっちで居たって、
     なんも解決しないんだからさ」

     私は思わず俯いた。
     相楽の言葉一つ一つが、胸に響いた。
     
     本当は、全部分かってた。
    何も解決しないってことも、このままじゃいけないってことも。
    ただ、前に踏み出す勇気がないだけなんだって、自分でも分かってる。

     相楽が、背中を押してくれるのなら、
     もう一度、歩き出せるかもしれない……

    「だから、もっと周りと……って、ええ?!!
     ちょッ、篠宮、何泣いてんだよ!!」
    慌てたような相楽の声。

    自分でも気づかないうちに、涙が流れていた。
     ……きっと、ずっと探していた。
    戻れなくなった私を、導いてくれる人を。
    もう一度歩き出せるきっかけをくれる人を。
    信じさせてくれる人を。
    私が作った壁を、壊してくれる人を。

     相楽が、私の壁を破ってくれた。
    私の心の奥に、触れてくれた。
     きっと、やり直せる気がする。

    「……ありが、とう…………」

    泣きながら、相楽の顔を見てそう言うと、相楽は照れくさそうに笑って、
    「篠宮、初めて目合わせてくれたな」
    その言い方が可笑しくて、思わず私も微笑んだ。
  • 18 祥雲 id:p6CveZr1

    2011-10-28(金) 19:33:59 [削除依頼]
     
     その後、私は相楽に対して無視をするのを止めた。
    相楽なら、信じられる。
    同じ痛みを味わっている相楽なら、人から裏切られる辛さを分かっている相楽なら、きっと私を裏切らない。
    確証もないことを、あの時どうして信じられたのかは分からないけれど。

     相楽のこと、信じてもいいんだよね?

    そう問いかけた私に、相楽は笑って、
    当たり前だろ、そう言ってくれた。
     それだけで、十分だった。


     あの掃除以来、相楽とは言葉を交わすようになった。
    いきなり、というようにはいかないけれど、少しずつ。
    本当に少しずつだけど、相楽や大岡、鈴原とは、打ち解けていった。
     気がつけば、そのメンバーと行動を共にするようにしていて。
    “トモダチ”になっていた。

    「弓弦から、事情きいた?」
    大岡と鈴原にそう聞かれた。
    「弓弦頑張ってただろ〜??
     あいつがもう一度他人を信じられるようにしてやる、
     なんて言っちゃってたからな〜」
    「そうなんだ」
    「ちょッ春樹!! てめー何ばらしてんだよ!!」
     そんな“普通”のやりとりすら、輝いていた。
    久しぶりの心からの笑顔は、相楽がくれたものだった。
  • 19 祥雲 id:p6CveZr1

    2011-10-28(金) 20:29:12 [削除依頼]
     本当は、相楽が話しかけてきたときも、嬉しかったのだと思う。
    だけど、相手が相楽だから、その感情を素直に認められなかった。

     いつもクラスの中心にいて、誰かと笑っていて、みんなから好かれている人間。
     いつも一人でポツンと過ごしていて、自分の殻に閉じこもっている人間。
    私と相楽は、隣に居ながら遠かった。
     
     周りの人に愛されている奴に、私を理解してほしくない。
    そんなくだらないプライドと意地が、私をかたくなにしていたのだろう。
     だけど。
    相楽の想いは、確かに私に伝わった。
    相楽が、私のためにしていたことだと知った。
    だから、私はそれに応えたい。
    少しずつでいいから、周りになじんでいこう。そう思った。


    ……だけど、上手くはいかなかった。

     今まで一度も、他人と目を合わせず会話もなかった暗い奴が、いきなりクラスの中心人物、それも相楽と打ち解けて、さらに相楽といつも一緒に居ることを、クラスの女子は許さなかった。
    『あんな暗い奴、弓弦君には釣り合わない』
    『男に媚びちゃって、バッカみたい』
    『私たちのことは無視するのに、弓弦君とは話すんだ』
     聞こえよがしに陰口を叩かれ、相楽と一緒に居るときは大抵女子が睨んでくる。
    でもこんなこと、相楽には言えない。大岡にも、鈴原にも。
    一人で暗い気持ちを抱え込んだ私は、気がつけば前の私に戻りかけていた。
  • 20 祥雲 id:p6CveZr1

    2011-10-28(金) 20:48:24 [削除依頼]
    「おい奏、お前最近俺らのこと避けてねえ?」

     最初に勘付いたのは相楽だった。
    この頃はもう、相楽たちの方は私を名前で呼んでいた。
    それも彼女たちの気に障ったらしい。
     私の方は、彼女たちが怖くて苗字呼びを貫いていたのだが。
    こうやって話しかけてくるから、ほら今だって睨まれてるんだよ……
    「別に避けてなんかないよ」
     そう答えるほかない。相楽は納得のいかない表情をしていたが、私が席を立って話は中断された。

     言えるわけない。
    相楽が私に構うから、他の女子に嫌がらせされてるなんて。
    言えないよ……
  • 21 祥雲 id:p6CveZr1

    2011-10-28(金) 21:21:44 [削除依頼]
     行くあてもなく、戻ることもできず、私が向かったのは屋上だった。
    地面に座り込んで俯いた。
    「はあ〜……」
    思わずため息が漏れる。
     もう色々……疲れたなあ……。
    「やっぱなんかあったんだ?」いきなり頭の上から声が降ってきて。
    「?!」
     驚いて振り向くと、大岡湊だった。
    「……ないよ」
    「あるって顔してる」
     その言い方に、思わずふっと笑ってしまう。
    「弓弦には言わないからさ。あ、もちろん春樹にも。
     俺で良かったら、聞くよ?」
    正直、まだ相楽以外と長い会話をするのは苦手だ。
    だけど、今なら話せそうな気がした。
     大岡が、“聞いてくれる”姿勢に入ってくれたからかもしれない。

     私は、女子のことを話した。
    相楽が原因で、そういう状況になっていること。
    相楽には、このことを知られたくないこと。
     大岡は、黙って聞いてくれた。そして、
    「気にすることないよ」

     それだけ言った。私は拍子抜けして、大岡の顔を見た。
    「…それだけ?」
    「それだけ。だって、篠宮が気にしなかったら済む話だろ?」
    「……気にしないとか、無理だよ」
    大岡の言い方に少しイラついた私は、少し声をとがらせた。
    大岡は、少し黙って、
    「じゃあそん時は、俺に話せばいいじゃん。
     篠宮は、一人で溜めすぎだよ。
     そういうとこ、弓弦にそっくりだよ」
    言い方は相変わらずだったけど、その言葉はすごく嬉しかった。
     頼ってもいいんだなって、そう思えたから。
    「ありがとう。
     もう少しだけ頑張ってみる。
     相楽にも、話してみるね」
    大岡は優しく微笑んだ。
  • 22 祥雲 id:84ixndV/

    2011-10-31(月) 15:11:57 [削除依頼]
    ---
    「はあ?!! なんだよそれ!!!」
     放課後、帰り道。
    私は、相楽に事情を説明していた。
    相楽は私の話を黙って聞いていたが、限界が来たようだった。
    「つーか何で奏も俺らに相談しねーんだよ!!」
    「え、だって……」
     相楽がせっかく私を一人にしないようにって、仲良くしてくれているのに、それが原因だからやめてくれなんて言えるわけがない。
    それに、相楽に迷惑なんてかけられない。相楽だけじゃなくて、大岡や鈴原にも。
     それを言うと、相楽は私のおでこを軽く小突いた。
    「ばーか。迷惑くらいかけやがれ。友達だろ?」
    「そーそ。弓弦なんて俺らに迷惑かけまくりなんだし!
     な、湊」
    「ああ。弓弦はもう少し遠慮した方がいいぞ。奏を見習え」
    「オイてめーらちょい黙れ」
     そんな3人のやり取りに、思わず笑いが漏れる。
    「奏も何笑ってんだよ…ま、笑ってた方がいいけどな。
     とりあえず、女子には俺から言っとくから」
    「うん。ありがと」
    「おう」
     相楽は照れくさそうに笑った。
    ---
     
     その後、女子からの嫌がらせはぱたりと無くなった。
    私がいないところで陰口を叩かれたりはしているのかも知れないけれど……知らなければ、そこまでではないから。
     そして私は……

    「奏、球行ったよ!!」
    「はい!!」

     テニス部に入部した。
    相楽が、小学校からずっとテニスをやっていて、誘われたからだ。
    「部活やってないなら、テニスやろーぜ! 教えてやるから」
    「うーん……じゃあちょっとだけ……」
     そうして、他の人より2か月遅れで入部し、日々練習に励んでいる。
    部活でできた友達も増え、入学したころからは想像もつかないような中学校生活を送っている。

    「全部相楽のおかげだよ」
    そう言ったら相楽は、
    「何言ってんだよ。変わろうって決めたのは奏じゃん」
     そんな相楽の言葉が嬉しかった。


     毎日が楽しくて、学校に行くのが楽しみなんて、久しぶりだった。
    楽しい日々は飛ぶように過ぎて、私たちは2年生になった。
    ---
  • 23 祥雲 id:ePCl3BN/

    2011-11-02(水) 21:31:13 [削除依頼]
    「おい奏、早く来いよ!!
     クラス替えの紙張り出されてるぞ!」
    「ごめん、今いく!!」

     新学期。
    去年とは違い、どきどきわくわくした気持ちで校門をくぐった。
    目の前に立っているのは、相楽と大岡と鈴原。
    大切な、友達。
     去年は独りぼっちだった私が、今年は“トモダチ”が居て。
    そんな小さなことに、涙が出そうになって、
    思わず目に力を入れて涙を堪える。
    「ほい、クラス表。見てみ」
    「うん……」
     恐る恐る、たたまれた紙を開いてみる。
    自分の名前は、すぐに見つかった。
    2年2組24番。そして、そのすぐ上に、相楽の名前。
    「さッ、相楽!! クラス一緒!!」
    「おう! 湊も春樹も一緒だぜ? やったな」
     相楽、大岡、鈴原がこっちを見て微笑む。
    私は大きく頷いて、
    「また1年間宜しくね、相楽、大岡、鈴原!」

     クラス替えがこんなに嬉しいものだったなんて知らなかった。
    今までは、何にも興味がなかったから……
    だけど。
    そんな私を、相楽たちが変えてくれて、
    今はもう、独りぼっちじゃないんだ……!

    「こっちこそ。つーかさ、もうそれやめねえ?」
    「え?」突然の相楽の言葉に戸惑った。それって何?
    「もう1年近くたってんだしさ、
     奏も俺らのこと名前で呼べよ。な?」相楽の言葉に、
    「それいいね!ほら!」春樹が同意して、私を促す。
    大岡は、何も言わずに私を見つめている。
    それが一番プレッシャー感じるのにな……

     一緒に居て分かったことだけど、大岡は冷静で
    頼りになるけど、いろんなところが抜けている。

     私はしばらく逡巡した後、口を開いた。

    「えっと……湊、春樹、……弓弦!」
    弓弦が満足そうにうなずく。
    その笑顔が、眩しかった。
  • 24 祥雲 id:i3xddbA.

    2011-11-05(土) 21:49:30 [削除依頼]
    ---

    「今日は転入生を紹介するー」
    担任の声に、私は伏せていた顔を上げた。

     始業式から2週間。
    随分微妙な時期に転入してくるんだなーと、少し気になった。

    「弓弦、転入生だってさ。起きて」
    私は隣の席の弓弦を揺さぶった。弓弦が薄く目を開ける。
    「あー、そう……興味ないや……」
    そう言って、また寝てしまう。
    「まったくもう……」

     名前順の席。
    なぜか私は、去年同様弓弦の隣の席になった。
    出席番号は隣同士だから、当たり前といえば当たり前なんだけど。

    「初めまして、狭山千優です」

     そう言って微笑んだのは、壮絶な美女だった。
    クラスのほとんどが、その人に釘付けになった。
    そして驚いたことに――――――

     興味がない、なんて言っていた弓弦が、
    驚いた顔をしてその人のことを凝視していた。
    ---
  • 25 祥雲 id:Vc2X5LF1

    2011-11-06(日) 14:45:31 [削除依頼]
     休み時間。
    恒例だが、クラスのメンバーは転入生……
    狭山千優の席の周りに群がって、質問を浴びせていた。

    『どこから来たの?』
    『習い事とかやってる?』
    『バレエとかやってそうだよね!』
    『雑誌読んでる?』
    『どのアイドルがスキ?』

     下らない、と思ったから、私はその輪には入らなかった。
    そういえば、弓弦が輪の中に居ないな…と探すと、弓弦は席で寝ていた。

    「弓弦、あっち行かなくていいの?
     皆が呼んでるよ。
     春樹と湊も行ってるし」
    「別にいいよ。興味ねえし」

    弓弦は顔を上げずに応えた。
     嘘だな、って分かった。
    だってさっきの弓弦の表情は、興味なさそうには見えないよ。

     だけど、弓弦がそういうなら仕方がない。
    私はノートを取り出して、予習を始めた。
  • 26 祥雲 id:u0W60Pl.

    2011-11-08(火) 17:29:49 [削除依頼]
     ……だけど、すぐにそれどころじゃなくなった。
    狭山千優が、こっちに歩いてきて……私のすぐ横で立ち止まった。
     顔を上げると、狭山千優が弓弦に何か話しかけようとしているようだった。

    そして。

    「久しぶりだね、弓弦」
    弓弦の方はそっけなく、ああ、と返しただけだったのだが。

    女子の反響は凄まじかった。

    「えええええ?!! なんなの、今の!!」
    「千優ちゃん、弓弦とどういう関係?!!」
    「ってか知り合いなの?!!」

     狭山千優は笑って、さあ、と返した。
    それでさらに盛り上がる。
    あっという間に、“彼氏と彼女”“元カノ”という噂が立った。

     弓弦は、全部否定していたけれど。


     どうしてだか、胸の奥がぐるぐる渦を巻いていた。
    ---
  • 27 祥雲 id:sS4QnfS.

    2011-11-27(日) 12:42:00 [削除依頼]

     授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、部活に入っている人は皆一斉に教室を出ていく。
    私も、重い気持ちを振り切るように鞄を持ち上げた。
      瞬間。
    「いったあ……!!」
     手首に激痛が走る。
    見ると、手首が変に曲がっていた。
    隣で見ていた弓弦が、バカ! と叫んで鞄を取り上げる。
    私の手首をつかんで、そのまま早足で教室を出た。
    「保健室行くぞ」
    「う、うん……」
  • 28 祥雲 id:sS4QnfS.

    2011-11-27(日) 12:49:45 [削除依頼]

    「捻挫ですね。当分動かすのは控えて、安静にね。
     部活はテニスだっけ? 治るまでは絶対にやらないこと。
     分かった?」
    「はい……」

     隣の弓弦をちらりと見る。
    弓弦は何かを考えているような感じでうつむいていた。
    「弓弦……?」
    そう声をかけると、はっとしたようにこっちを向いて、
    「あ、ああ。じゃあ行くか。」
     いつも通りの声でそう言った。

     階段をのぼりながら、弓弦にこってり絞られた。
    「つーか思い鞄をあんなふうに持つやつがいるかよ、
     バカ野郎。試合近いのに練習できなくなっちまった
     じゃねーかよ。どうすんだよ」
    「……ごめん」

     不謹慎かもしれないけれど、心配してくれたことが純粋に嬉しかった。
    それはやっぱり、さっきのことを気にしているからなのだろうか。
    弓弦が私のことを気にかけてくれているのが嬉しかった。
     
  • 29 祥雲 id:TDe5i6V/

    2012-02-19(日) 15:35:15 [削除依頼]

     狭山千優が転入してきてから2週間。
     彼女はすぐにクラスに溶け込み、馴染んでいた。

     そして、私たち……弓弦と、行動を共にするようになった。

    「弓弦、次教室移動だから行こう?」
    「おう」

     二人が席を立ち、それに私と湊、春樹が続く。
    教室移動中も、下校中も、いつも。
    弓弦と狭山千優が楽しそうに話しているのを、後ろから見ていた。

    二人の間には、第三者の介入する余地がなかった。

    ---

    『大会が近付いているので、自主練習も増やして頑張ってください。
     これで今日の部活を終わります、礼!』

     私の捻挫も完治し、部活を再開してすぐに、大会に向けたハードな練習が始まった。
    なんとなく、……本当になんとなくだけど、弓弦と距離が開いた気がする。
    弓弦は弓弦で練習が忙しく、私もみんなに追いつくための練習をしなければいけない。
    ……そして私たちの間には、狭山千優が居る。

     必然的に、話す回数も減った。


    ……そんなある日。
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