家を目指して幾千里13コメント

1 虻瀬 id:1P7gI0C0

2011-10-15(土) 06:02:03 [削除依頼]
12月20日
いや、もう少し前の手記を読み直すところから始めたほうがいいだろう。
そうでもしないと、この日記に書いている事実が僕ですら信じられなくなってきそうだ。
そうすると八月……あの辺りから順を追って読んでいくのが妥当だろうか。
  • 2 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:02:45 [削除依頼]
    8月2日――
    一体、僕が何をしたのだと言うのだろう。仮にこれが俗に言う神の悪戯なら神様は僕一人に対して、ひたすら冷たすぎる。慈悲の欠片も見当たらない。
    僕はこのまま、こんなところで野たれ死んでしまうのか。思い起こせば良い事なんて何ひとつない人生だったな。
    と、ひたすらネガティブになってみても仕方がない。今ある現状を客観的に見るためにも、今日あったことを改めて書きなおしてみる。
    そうだ。そうすることで根本的な解決策が見えてくるかもしれない。
    高校が夏休みに入ってから暫くたつ。なので今日、特にやることもない僕は図書館に行った。クーラーがある部屋で静かに本を読める。しかも無料で。暇つぶしには丁度よかった。
    ここまでは問題ない。問題が起きたのは、その後だ。
    本棚から何気なく抜き取った一冊の本。いや、何気なくではないかもしれないけど。なんとなく目につく表紙だったような気もする。
    とにかく、その本を開いた瞬間、目の前で車のヘッドライトでもつけられたような光が広がった。あまりの眩しさに目を閉じる。が、それもたかだか三秒足らずだったはず。
    なのに、目を開けたらココにいた。
    ココ、というのは砂漠だ。なんで僕は砂漠にいるんだろう?
    客観的に今日あった出来事を書いてみたけれど、根本的な解決どころか余計に困惑してどうする僕。
  • 3 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:03:58 [削除依頼]
    辺りに人の気配はない。この日記の続きをつけるまで暫く歩いてみたが、どこまで歩いても砂、砂、砂、時たま砂丘くらいで何もない。
    持ち物は腰かけのバッグに入っている財布と日記帳(メモ帳)、それにボールペンとポケットティッシュに携帯電話だけ。こんなのは砂漠じゃなんの役にもたたない。携帯電話だって無論、圏外だ。
    現代社会の完全敗北である。
    おまけに陽が暮れてきたせいか急に冷え込んできた。噂に聞いた程度だけれど砂漠の夜が寒いというのは、どうやら本当らしい。こうやって書いている今も手が震えている。
    冷たい月だけが砂丘の上でぼんやりと輝いてる。
    たぶん、このまま僕は死ぬ。
    眠たくなってきたのは寒さのせいか
    それとも歩き疲れたからなのか
    明日の僕、生きてたら朗報を頼んだ
    のどかわいた
  • 4 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:05:04 [削除依頼]
    8月3日
    奇跡が起きた!
    昨日の出来事は全て夢で、目が覚めると僕は自室のベッドの上で幸せそうに寝がえりをうっていた。だったらよかったのだけど、そうでもなかった。
    けれど、こうして日記を書けているのだから生き延びたのは本当だ。
    昨日、真冬みたいに寒い夜の砂漠で暢気にザコ寝して、やもや凍死しかけていた僕を助けてくれたのは頭から二本の角を生やしたヘンテコな連中だった。
    彼らは弱った僕を抱え、砂漠に張られたテントまで運び、そうして介抱してくれた。
    目を覚ました僕に、角を生やした少女が暖かいスープとパンを差し出してくれた。
    スープを一口飲んでパンを齧ると、やたらと塩の効いた味がした。どうやら僕は泣いていたらしい。
    とりあえず彼らのお陰で、今こうして日記を書いている僕はすこぶる元気だ。が、幾つか問題もあった。
    まず一つ。
    これが結構な問題だった。それというのも彼らの言葉が僕にはわからないのだ。彼らは僕に話しかけてくるのだが、何を言っているのかまるきし解らない。
  • 5 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:08:42 [削除依頼]
    彼らが話す言語は英語でも日本語でもない。民族語なのだろうか。
    そして、そんな僕と同様に彼らにも僕の日本語が通じないようだった。お互い言語による意思疎通が不可能の状態で、とりあえず身振り手振りで対話することになった。
    しかし、それもすぐに限界がくる。互いに首を傾げるばかりになってしまう。
    一応、このメモ帳の余白ページとペンを使った文字による対話も試してみたけれど、やはりというか当たり前のように無理だった。彼らが用いる文字はアラビア文字より読解が困難だと思う。
    いよいよもって会話は無理か、なんて僕と彼らの双方ともに諦めかけたところで、彼らの仲間の一人が頼れる人物を連れてきてくれた。
    小さなハンドバッグを肩に下げた背丈の小さい女性。幼さが残る顔つきから見て、彼女の年齢は僕と同じくらいだろうか。ただ、髪の色が着色されていない自然な金髪だったので、たぶん日本人じゃないと思う。
    こちらの目線に気が付いたのか、彼女はバッグから薄紅色のニット帽を取り出した。それを頭からすっぽりと被ると、僕に顔を近づけて彼女は言った。
    「オニさん。ヒトカミ、ジロジロみるな」と
  • 6 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:09:37 [削除依頼]
    その後もカタコトの日本語でペラペラと喋るニット帽を被った女の話を要約すると、彼女はどうやら行商人であるらしい。
    海を渡り、切り立った崖を越え、茨の道を進み、時には火を吐くドラゴンと対峙したりしつつ各地を旅し、行き着いた町や村で物品を売っているのだそうだ。とんだ妄想がすぎる女だけど、あえて僕は深くつっこまない事にしておいた。
    で、各地を旅してきた行商人ゆえに通訳はお手のもの。自分に話せない言語はないと自信満々に言う彼女だったが、まず日本語が怪しいのはどうしたものなのか。
    「ここはドコ?」
    とにもかくにも、そう訊ねた僕に対して彼女はこう答えた。
    「クラマカン大陸の砂漠ダよ。オニサン、アホか?」

    そんな大陸、聞いたこともない。少なくとも地理の教科書には載っていなかった。
    更に質問しようとしたものの、喋り続けるニット帽の行商人と、僕を助けてくれた角を生やした謎の民族から板挟みの質問攻めにあってしまった。そんなこんなで疲れた僕は、こうしてテントの外に逃げ出し、砂の上に座り込んで日記をつけている訳だ。
    なにがなんだかわからない。とにかく家に帰りたいと切に思う。これは悪い夢かなにかなのか、そうであってほしい。
    どっと疲れた。今日はテントに戻って寝よう
    後は明日の僕に任せる
    おやすみ
  • 7 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:11:14 [削除依頼]
    8月4日
    大発見があった。
    僕を助けてくれた彼ら。つまり砂漠でテントを張って生活している遊牧民的な民族である彼らの頭に生えている角!
    あれは装飾品の類ではなくて、本当に頭から生えているらしい。
    今日の午後。彼らの族長と僕、そして通訳である行商人ことニット帽の女を加えた三人で開催された質疑応答会のようなものでその事実が発覚した。
    そうして衝撃の事実を知った僕が解りやすく驚くと、行商人の女はヘっと鼻で笑った。
    「ツノ生えてる種族もシラネーナイのかオニサン」
    思いっきり馬鹿にされているような気がしたが、普通はそうだろうと思う。
    族長が言うには、角は部族の誇りであり象徴でもあるらしい。角が大きいものほど力が強く、それに伴って権力も行使できるという。
    「オレのツノ、オオキ。ダカラ、エライ。言うてるよアンサン」
    関西弁をまじえた高度な日本語で必死に翻訳してくれていた彼女には悪いが、その辺は心底どうでもよかったので適当に聞き流しておいた。
    族長の自慢話も終わり、ようやくこちらが質問するタイミングが巡ってきた頃を見計らって「ここは何処なんですか?」と聞いてみた。
  • 8 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:12:33 [削除依頼]
    族長からの返答は昨夜、彼女が僕に告げたものと同じだった。
    「ここはクラマカン大陸の砂漠である」と
    適当っぽい性格の彼女と違い、見た目からして厳格そうな族長が言うのだからそうなのだろう。
    ここはクラマカン大陸とやらの砂漠なのだ。
    一昨日、クーラーのきいた図書館で本を開いた僕は今日、クソ暑い砂漠のテントの中。サウナにでも入っているような熱気にやられながら胡坐をかいて絶望している。
    どこだよ、クラマカン大陸って。なんで角が生えてるんだ。
    滴り落ちる液体は涙なのか汗なのか、もう謎だ。
    気分が悪くなってきたので少し横になることにする
    明日の僕、どうか気を確かに
  • 9 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:13:20 [削除依頼]
    8月7日
    少し日記をサボってしまった。ここ数日、気分が沈んでいたからだ。それもそうだ。
    ここが何処なのかすらわからないのだから。

    角の生えた砂漠の民族は、とても優しい。僕がなにもしなくても食べ物や水を出してくれる。
    働かざる者食うべからずというが、彼らには客人をもてなすほうが大事なのだろうか。
    明日の僕、頑張ろう
  • 10 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:13:54 [削除依頼]
    8月8日
    なにもせずに帰りたいと願っていても帰れないのは、もう痛いほどわかった。彼らの優しさも身にしみる。
    気晴らしもかねて、彼らの仕事を手伝おうと族長が鎮座しているテントを訊ねる。と、そこから例の行商人の女が出てきた。
    どでかいリュックサックを背負った彼女は僕を見るなり上機嫌丸出しの顔つきで笑った。
    「イパイ、イパイ売れたヨ、ショーバイハンジョー」
    どうやら行商人としての商談がうまくいったようだ。こっちは不幸全快なのに、彼女はとてつもなく幸せそうで恨めしくも思えてくる。
    思わず、はぁ、と溜息を吐いた僕の胸を彼女が小突く。
    「オニサン、アレか。デショ。カエリたいオモてる。違うか?」
    その通りだったが、相手が相手なので(どうにも彼女は掴み所がない)期待は余りせず僕は首を縦に振った。
    「アタシ、帰りかた知テル。黒い髪、旅のトチュ。たくさんデアッタ。言葉もナラッタからネ」
    そう言って彼女は胸をそらして威張ったような態度をとってみせる。
    僕は食いつかずにはいられなかった。
  • 11 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:16:26 [削除依頼]
    彼女の話では、僕と同じ日本語を話す黒髪の男性や女性に旅の途中で出会った事があるらしい。
    おそらく僕と同じ様に図書館であの本を開き、訳もわからないうちにこんな砂漠に放り出された哀れな人達だろう。
    そんな人達は決まって同じ場所を目指しているというのだ。
    「黒い髪。ミンナ、機械の都メザスんよ」
    機械の都ジスタン。とか言う都があるらしい。そして黒髪の男や女は皆が皆、そこを目指して旅をしている。
    なぜ、そこを目指すのかと聞いてみたら「カエレルから。チガウカ?」と可愛らしく小首を傾げられた。どうにも信憑性に欠ける情報である。
    だいたい、その黒い髪の連中は本当に僕と同じ境遇の人達なのだろうか?
    たまたま日本語を話す……というか、ここって別世界とかってやつなのか。機械の都なんて聞いたこともない。秋葉原が電子街だからそんな感じなのか。
    こうやって書いている今も頭がどうにかなりそうだ。ゲームのやりすぎ、もしくは漫画の読みすぎでとうとう僕の頭は違う世界に飛びだったのだろうか、とか。
    けれど、一縷の望みは見つかった。
    少なくとも、どうしようもない状況から脱するだけの薄い情報を手に入れた事により、目的を見つけることはできた。
    僕は流されやすい人間だから、皆がそうするのなら僕もそうするまでである。
    明日の僕、気合い入れていこう。旅のはじまりだ
  • 12 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:18:33 [削除依頼]

    8月9日
    「角がないお前を我々は蔑んだりしない。我々と共に来るつもりはないか?」
    そんなふうに言ってくれた族長の言葉は心の底からありがたかった。彼らと共にいれば野たれ死ぬことはないのだから。
    けれど僕の決心が揺らぐ事はない。
    家に帰りたいという思いのほうが強いからだ。
    「お世話になりました。なにも恩を返せずにごめんなさい」
    行商人の彼女に翻訳を頼み、僕は族長に頭を下げた。
    族長を含めた彼ら砂漠の部族は総出で僕と行商人の女を見送ってくれた。
    彼らは僕たちの姿が見えなくなるまで、頭から生えた自前の角を棒きれで叩いて音を鳴らしていた。いきなりなんの威嚇だソレはと思ったが、彼女が言うには旅の門出を祝ってくれているらしい。
    理由を知ればありがたいモノだった。
    軽快なリズムが心地良く耳に響き、なんとなく勇気がわいてくるような心持ちになった僕はザクザクと砂漠の上を歩いて行った。
    誇り高き砂漠の民よ、ありがとう。
  • 13 虻瀬 id:1P7gI0C0

    2011-10-15(土) 06:21:14 [削除依頼]
    夜。
    夜の砂漠は寒い。ここに来てから一週間たつが、未だに昼と夜の急激な温度差には慣れない。
    ああ、そうだ。
    行商人の彼女。彼女の名前はチシというらしい。これで日本人でないのは確定した。漢字で書けば血死だ。おそろしすぎる。山田血死なら尚の事おそろしい。
    それはそうとして、チシが僕を機械の都とやらまで案内してくれる事になった。交換条件として、僕はチシに日本語の読み書きの『書き』を教えることになっている。
    チシいわく、世の中はギブアンドテイクで回っているとの事。
    カタコトの日本語はかろうじて話せる彼女だが、文字を読んだり書いたりするのは丸きし駄目なそうだ。たぶん、馬鹿だからだ。
    こうして書いている今も、チシが馬鹿の二文字を指さして「コレはナンと読むか。イミ、おしえろくださいオニサン」なんて言っている。
    「利口って言う意味だよ。頭がいいとかそういう意味」
    「そか。アタシ、あたまいいからネ。オニサンは一人じゃゼタイ、たどりつけない。利口なアタシ必要」

    明日の僕、利口なチシを頼って頑張れ。
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