願望の終末98コメント

1 憂理 id:wGpBdxv.

2011-10-10(月) 20:36:39 [削除依頼]

ここはね、願いが叶うの。願いを叶える、石屋。
艶やかな藍色の髪、冷たく光る藍色の瞳。その女店主は黒いドレスに身を包み、白い肌に映えた真っ赤な唇をゆっくりと動かす。
――あなたの願いは、なあに。

/願望の終末
  • 79 憂理 id:gxPgz0B/

    2011-12-14(水) 14:39:57 [削除依頼]

    一時を過ぎても彼女の夫は現れなかった。紅茶をちびちびと飲んでいるのにも飽きたので、何かサンドイッチでも注文しようかとメニューに目を通す――その時だった。
    隣の席に見知った顔が近づいてきて美香は思わずメニューをおとしかけた。鼓動が大きく跳ねる。
    間違いなく、あれは彼女の夫――安西であった。
    嘘でしょう。
    美香は驚きやら悲しみやら分けの分からない感情に押しつぶされそうになりながらも目立たぬように、マスクをもう一度しっかりかけて、隣のテーブルに坐る二人組みに目をやった。
    嘘でしょう。
    もう一度、彼女はそう思った。ゆっくりと息を吐く。
    あの女と? じゃあ、あの女が私に電話をかけてきたというの? 美香はまだ信じられない気持ちでいた。目が微かに釣りあがり、ぐるんと巻いた茶色い髪は確かにきつい印象を与えなくもないが――それ以前に大人しそうで、まあまあ美人である。まともな人に見える、と彼女は考えた。
    今は「まともな人」とか「いい人」って、あてにならないものなのかしら――そういえば、だいたい犯罪者の身近な人はこう答える。特に、そんな感じの人じゃなかったけどねえ。挨拶もしてくれるし。真面目な方でしたよ。
    少し様子を見てみよう。美香は目立たぬよう紅茶を一杯追加注文した。もしかしたら、会社の約束とかで、それを悪戯しようと思っているやなやつがかけてきたのかもしれない。その可能性のほうが大きいわ、と彼女は一人頷く。だって、彼がそんなことするはずないもの。私は幸せで、私はテレビやなんかで見る同情される女とは違う、ごく平凡な主婦なはずなのだ――
  • 80 憂理 id:gxPgz0B/

    2011-12-14(水) 14:48:47 [削除依頼]

    耳を澄ますと、彼らの話声が微かに聞こえる。盗み聞きしている時の気分はなんだか、後ろめたいけど楽しい。そんな状況じゃないのは分かっているのに、こうした秘密めいたことはいつだって心を躍らせるのだ。
    「何の用だ。悪戯電話もお前なのか」
    彼の、低く押し殺したような声が聞こえて美香はどきりとする。
    ああ。同時に絶望に近い感情が押し寄せてきた。やっぱり、やっぱり彼は浮気していたのだ。私と幸せな家庭を築いていると見せかけて。あの女と! その上、勝手な恨みを買ったんだわ――なんてことだろう。そんな。そんなことって。でも。
    手が震えて、紅茶をソーサーに置くときにぶつかり、かちゃかちゃと音を立てる。
    「そうよ。ぜーんぶ私」
    その声色からは余裕すら感じられた。満足している声だった。
    膝に置いた拳をぎゅっと握り締める。
    二人はしばらく押し殺した声で低く、鋭く何かを言っていた。およそうららかな午後の喫茶店には似つかわしくない、陰気な声だった。
  • 81 憂理 id:gxPgz0B/

    2011-12-14(水) 15:02:18 [削除依頼]

    「別にそういうわけじゃないだろう!」
    さっきよりも大きく、少し響いた安西の声が聞こえた。安西は怒っていた。
    それに、と美香は思う。
    焦っている。あのいつも冷静な彼が、あの女の言葉によって焦って、怖がっている。
    その事実がさらに美香の心を重くした。手を持ち上げて、紅茶を飲もうとしたがその手は鉛のように重く、のろのろとしか動かなかった。
    「私はあんたなんかがずっと好きだったのよ。妻の愚痴もぜーんぶ聞いてやったじゃない。悪口ばっかり、あんたばっかり言ってたじゃない。覚えてないの? 都合のいい脳みそなのね!」
    今度の女の声は美香の耳に刺さるように響いた。
    愚痴……? そんな、莫迦な。なんて。嘘よ。そんなはず。
    困惑する頭がついていかない。ああ、知っているのだ。彼女は私が隣にいることを知っているのだ。だから、聞かせるようにゆっくりと、だけどそれでいて威嚇するような声で言ったのだ。
    美香はゆっくりと首を回して、その女をよく見つめた。美香は少しばかり目を見開いた。女の周りはどす黒かった。オーラ? 私、そんなもの見えたかしら? 暗黒の煙が巻きついたようだった。その煙はときにきらきらとラメのようなものが反射している。なに、これ。これじゃあ、まるで。
    ――まるで、悪魔に魂を売ったみたいだわ!
  • 82 憂理 id:gxPgz0B/

    2011-12-14(水) 17:26:46 [削除依頼]

    age
  • 83 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:21:17 [削除依頼]

    *
    がたん、と大きな音を立てて目の前の女は立ち上がった。安西は少し後ろにのけぞった後回りの様子に素早く目を走らせる。どの客も無遠慮な好奇心を投げかけてくる――くそ、なんだってんだ。
    いい加減にしなさいよ、と言ったこの女――結城愛子――は安西を固く睨みつけたままだった。このままではそこにある手付かずのミネラルウォーターを彼にぶっかける勢いだった。目は憎悪の色で染まっている。
    愛子の周りには恐ろしいほど深い、黒い気のようなものがたちこめていた。安西はびくりと体を震わせて愛子を見る。
    畜生、どうするか。とりあえずこの女、落ち着けないと何をするか分かったもんじゃない――
    「お、落ち着け。悪かったって。ほら、周りも見てるじゃないか。恥ずかしくないのか」
    しかし彼の口から出た言葉は彼が思ったよりもひどく情けなく、惨めでおどおどとした声だった。
    「周り?」
    愛子はいっそう目を吊り上げた。
    「周りがなんだってのよ――あんたは、そうやっていっつもいっつも周りばっかり気にして。情けない男。どれだけ私があんたを憎く思っていたか――」
    殺したいと思っていたか、あんたには分からないくせに。
    愛子の口は確かにそう動いた。
  • 84 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:22:25 [削除依頼]
    カッと頭に血が上る。侮辱され続けるのに限界だった。
    「お前――」
    勝手に、手が動いていた。愛子の頬を打とうとした。
    それを何かが抑えた。ぐん、と力が腕にかかってそれを止めたのだった。その主を見て、安西はさらに仰天した。
    「なんで美香が」
    呻くように、そう言葉を発する。彼の手を止めたのは紛れもなく妻の美香だった。悔しさと恨みと悲しさと哀願が詰まったような、いまにも泣きそうな表情をした美香が彼の手をつかんでいる。
    冷や汗がつう、と背中を通るのを感じた。
    「あの人から電話があった。ばか、なんで、ひどいわ」
    美香が濡れた棄てられた子犬のような目で安西を見上げる。なにがなんだか分からない、でも鬱陶しかった。
  • 85 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:22:55 [削除依頼]

    「死.ねばいいのに」
    愛子はそう言い捨てて、店を後にした。「あ――待て」安西は美香を振り払い、慌てて勘定を済ませて彼女の後を追う。美香がショックを受けたような顔をしたのが視界に入ったが、そんなことは気にしていられなかった。あのやろう、何をしてくれるんだ。こんちくしょう。愛子を罵倒する言葉が彼の頭を埋め尽くす。あいつを、あいつをどうにかしてやらなくては。
    「待って、待ってよ――」
    縋り付いてくる美香は非常に鬱陶しく、邪魔くさかった。目の前を駆ける愛子。くそ、あのやろう!
    もうぐちゃぐちゃだ、あいつのせいで全てが台無しだ。

    その時だった。愛子の前に、大きなトラックが飛び出す。クラクションが鳴り響く。

    世界は、静止したかのように感じられた。
  • 86 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:27:43 [削除依頼]

    *

    ――え?

    トラックが不意に前から衝突する。
    全てが、スローモーションのように感じられた。安西が呆然を立ち尽くし、その横をすがりつくなさけない惨めな女。

    彼女の視界は暗転し、天地は真っ逆さまに。

    うう、と小さく呻き声が漏れる。私は、誰かに私を、私だけを選んで欲しかっただけなのに。
    大きな衝撃が走ったような気がした。愛子の口に浮かんだのは笑みだった。ひとつだけ、思う。

    私の、勝ちだ。
  • 87 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:37:10 [削除依頼]


    今日は、おわりの日。
    誰かがそう言った気がした。

    暗闇の中に彼女はぼうっと立っていた。音もなく、風もなく、感覚がない、途方にくれるような闇の中に一人たたずんでいる。


    「――だから、言ったのに」

    そう澄んだ低い声が聞こえて、彼女はのろのろと顔を上げて目の前に立つ人形のような女に目をやった。藍色の髪に藍色の瞳。この世の造形物とは思えないほどの美しさを滲ませて。

    「石を渡してちょうだい」
    彼女は言葉のまま、ポケットから黒くにごった石を出して女に手渡す。女はひとつ溜め息をついた。「ああ、こんなに汚れている。あなたの黒い部分に反応して、こんなにも濁っている」
    彼女はその言葉を無表情で聞いていた。
  • 88 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:38:02 [削除依頼]

    「誰かを不幸にすることを望めば、自分だってそのぶんの厄災はふりかかってくるのよ。わざわざ夢をわたってまで警告してあげたのに」
    女は続ける。

    「貴方からお代はもらわない――死人から奪うものなんてないわ。でも、貴方は勝負に勝った。復讐を遂げた。これ以上にない、復讐を。目の前で死んでやったんですもの。彼と、彼の妻との間に亀裂が入った目の前で。ずっとこのことに災悩むでしょうね、彼は」

    女は彼女にじろりと冷たい一瞥をくれてから、すきとおるように白い手を出した。
    「あなたの行くべきところはあそこよ――」
    結城愛子は、ぼんやりと目の前に見える明かりを見つめる。ああ、あそこに行けばいいのか。それだけ思った。私は、あそこに逝くべきものなのだ。ゆっくり、ゆっくり歩き続ける。灯に引き寄せられるように。


    その先にあるのは、天国か。或いは――


    .Fin
  • 89 さやりん id:V0w9sv2/

    2011-12-17(土) 16:39:07 [削除依頼]
    もしよければ、私の小説見てくださいっ!!!
    急にすみません!
  • 90 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:46:26 [削除依頼]

    >>さやりんさん
    ハア……
    小説の題名すら分かりませんけど、まあ見かけたら声かけます
  • 91 憂理 id:tpvqzRf.

    2011-12-17(土) 16:50:34 [削除依頼]

    *あとがき

    終わったー
    初めての完結作品。
    短編集にしようかと悩んだけど、キリのいいところで終わらせたほうがいいかなと思い、やめました。
    だいぶ最後のほうは詰まっちゃって、なかなか書き出せませんでしたがとりあえずばーっと更新してみました。
    なにはともあれよかったです。

    (もしかしたらいたかもしれない)見てくださった方、ありがとうございました(´ω`)
    「上を向いて零れる涙」という作品も書き始めたので、もし興味を持っていただけたときはよければみてください。

    お、わったあー(´ワ`*)
  • 92 遥子 id:VogCqG3.

    2011-12-17(土) 21:44:29 [削除依頼]
    完結おめでとうございます!!
    キャス来ない!!とかいいながらきになってきちゃった阿呆です。
    最初から最後まで憂理さんの文章に惹かれまくっていました。
    終わり方も綺麗で羨ましい限りですω

    書きたいことは沢山あって、でもうまくまとまりそうもないので心にしまっておきます…

    憂理さんの小説に出会えてよかったです。
    次作もこそこそ読ませていただきます**

    最後に。
    執筆、お疲れさまでした。
  • 93 憂理 id:36JPkw60

    2011-12-18(日) 19:46:23 [削除依頼]

    >>遥子さん
    はじめのほうからコメントいただけてほんと支えになりました(*´`*)ありがとうございます

    終わり方だけずーっと妄想してたのでそう言っていただけで嬉しいです。
    なかなかうまくいかないようなへんてこ作品でしたが、本当にありがとうございました(^∀^*)
  • 94 ごん id:GYeQJA81

    2011-12-18(日) 21:38:52 [削除依頼]
    ただいま一気読みさせていただきました
    なんだか新鮮で面白かったです。
    文章も変なところがまるでなくて読みやすかった。
    大変読んでいて楽しかったです^^
    完結、おめでとうございます
  • 95 憂理 id:3ioty2K/

    2011-12-19(月) 19:03:19 [削除依頼]

    >>ごんさん
    一気読みお疲れ様です。読んでいただけてとてもとても光栄です……!
    新鮮と感じていただけたようで幸いです。今までに書いたことのないジャンルで、私にとっても新鮮なお話しでした。
    そう言っていただけると安心します。すごい嬉しいです(´∀`)ノ

    コメントありがとうございました!
  • 96 祥雲。* id:GnQlLs00

    2011-12-19(月) 21:06:53 [削除依頼]

     完結おめでとうございます!!
     前回書き込みしてから、PC開くたびにチェックしてました←
     凄く綺麗にまとまっていて素敵です!!
     お疲れ様でした^^

     次作もぜひ読ませていただきますね。
  • 97 憂理 id:3jcuT6d.

    2011-12-20(火) 18:23:13 [削除依頼]

    >>祥雲さん
    ありがとうございます。
    見ていただけていたようでとても嬉しいです。書いててよかったなって思えました(´ω`)
    そう言って頂けると何よりですー……(´;ω;`)嬉しいお言葉ばかり……

    コメントありがとうございました(*´`)!
  • 98 憂理 id:ZrB.iTc1

    2011-12-28(水) 12:46:32 [削除依頼]

    いつかちがう題名でまた願いを叶えようとする女の子のお話しを書きたいな

    書いたら誰か見てくださいね←
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