Identity Crisis −慟哭−94コメント

1 シュナイダー id:RpIE8tq.

2011-09-26(月) 20:07:27 [削除依頼]
少女は嘆いた―― 何が“正義”で、何が“悪”なのか―― 分からなくなってしまったから―― 登場人物紹介&あいさつ>>2
  • 75 黒の組織【GALILEO】 id:u/dUx1Q0

    2012-03-13(火) 19:50:32 [削除依頼]
    復帰後の一番乗りでしょうか。この作品見ていると本当に制作意欲が漲ってくるんですよ。更新頑張って下さい。
  • 76 シュナイダー@試験終わった id:bR0Lsy01

    2012-03-13(火) 21:27:25 [削除依頼]
    黒の組織s>
    キャスでは初めてやなw
    改めて(ry

    制作意欲沸いてもらえたなら嬉しや^^
    ま、俺は変態意欲の方が((強制終了
  • 77 シュナイダー@試験終わった id:bR0Lsy01

    2012-03-13(火) 21:38:51 [削除依頼]
    >>74  その時だった。  エレクトラの視界に偶然、怪しいフードの男が入った。それに加え、その男と目が合った。路地の奥の薄暗さの中で表情や容姿は見えなくとも、目だけはくっきりと見えた。  刹那、男は何かを察知したのか、最初は忍ぶように後ずさり、そして、背を向けて路地の奥へと逃げ出した。  エルザはシュヴァルツと未だに交信しており、異変に気づいていなかった。  だが、そんな彼女を待つような配慮も余裕もエレクトラは持ち合わせてはいない。  怪しい者は逃がすわけにはいかない――その一心で一気に駆け出した。フードも外れ、金色の髪が路地の闇の中で露わとなる。  そこでエルザもやっと気づいた。 「……!? え、エレクトラちゃん!?」 <<どうした?>> 「す、すみません!! 後で連絡します!!」  エルザは慌てて無線機を切り、懐に押し込みながらエレクトラの背を追い始めた。  だが、その時点で何が起こったのかは把握できずにいた。単に混乱していた。   「」
  • 78 シュナイダー@試験終わった id:bR0Lsy01

    2012-03-13(火) 21:55:05 [削除依頼]
     路地を抜けた。急に目の前が明るくなった。
     男は何度も振り返りながら、必死に逃げていた。群衆を掻き分け、ただ必死に――。
     それを見ているだけでエレクトラはますます逃がしてはいけないと感じた。走りながら、マチェットや拳銃をいつでも抜き出せるように左手を腰のケースに忍ばせていた。
     流れるように人ごみの中を潜り抜け、警戒に進んでいくエレクトラに対し、エルザは彼女の小さな後姿を視界に留めておくのが精一杯だった。
     無論、そんな強引な突破をするだけで群衆はざわつき、閑散としたスラム街も一挙に騒がしくなる。人という障害物が何度も押し寄せたり、逆に吸い込まれたり――とにかく、容易に抜け出すこと自体がエルザには難しかった。

     だが、エレクトラ自身も人ごみの多さには難点を抱えていた。持ち前のモーションで抜けるのに苦労はしなかったが、得物をいつものように使用することはできなかった。誰もいない、せめて数人程度の通行人ならば、逃げる男一人の動きを止めることは彼女にとって容易いことだった。
     しかし、人が多いと彼女が攻撃すれば、無関係の人間まで巻き込む可能性があった。
     いくらSランク隊員であるエレクトラでも、罪の無い人を殺めるようなことはできない。できるだけ、人の少ない場所へ追い込もうと画策した。
     そこで捕らえ、何かの情報を聞き出す。もし、抵抗するようであれば――手を下す。エレクトラのやり方はそう決まっていた。
  • 79 シュナイダー@試験終わった id:QPA4TUU0

    2012-03-14(水) 22:13:43 [削除依頼]
     第七管区全体まで騒がしくなる中、男は別の路地へと逃げ込んだ。さすがに逃げづらいと感じたようだった。
     チャンス――相手から自ら墓穴を掘ってくれた。エレクトラは拳銃をついに取り出し、男と同じ路地へと駆け込んだ。
     そこは左方が日の光に照らされ、右方が漆黒だった。白黒のはっきりとした空間だった。だが、男の姿は一直線上の先にあった。
     エレクトラはすかさず走りながら拳銃を水平に振りぬき、流し撃ちをした。一発のみ――“当たる”という自信がこもった一発だった。
     しかし、男は命中するかしないかのタイミングで路地の脇へと入り込んだ――壁に反射した光が逆光となって見えなかったのだ。
     弾丸は空気を切っただけで外れてしまった。だが、エレクトラは冷静だった。まだ“敵”は近くにいる――そう分かっていたから。
     彼女は拳銃だけでなく、マチェットも手にした。先ほどまでの“制限”がない分、自分なりのやり方でやれるというのも、彼女の判断を鈍らすことはなかった。
  • 80 シュナイダー@試験終わった id:qKe.ldC0

    2012-03-15(木) 22:09:05 [削除依頼]
     迷路のような路地をガムシャラに突き抜けていく男の姿はまだ前方に捉えている。
     エレクトラは水たまりがあっても感覚だけで飛び越え、だんだんとその間を詰めていった。
     男がどこへ逃げていくのかは予測はできない。単に闇雲に逃げているとも考えられた。だが、そんなことはどうでもよかった。人通りの少ないところに追い込めれば、それでよかったのだ。
     右へ、左へ、次々に角や行き当たりで曲がり続けるうちに、少しだけ開けた路地裏へと出た――その脇にはドラム缶や木箱などの“オブジェ”が無造作に高く積まれていた。
     男はその“オブジェ”を手当たり次第になぎ倒したり、後ろへ投げたりして抵抗を始めた。少しでも進路を塞ごうとしているようであった。
     しかし、エレクトラに大してはあまりに“ムダ”だった。彼女は目の前に飛んできた“オブジェ”をマチェットで一閃のうちに叩き斬った。光が走ったかと思えば、真っ二つにキレイに斬れてしまう――そして、分裂した“オブジェ”は双方の壁へと音を立てて無惨に散乱した。
     男はその様を見た途端に顔を引きつらせた。そして、そのままうろたえ、足が空回りし、呆気なく転倒した――影に隠れた水たまりの上へと。

    「はぁっ、はぁっ……く、くそっ!!!」

     男は顔を服を汚しながらももがいて立ち上がろうとした。だが、足が痺れたかのように動かず、何度も転倒した。尻餅もついた。
     醜く、情けない――エレクトラは男を見下すように思った。しかし、そんな男は今は“オブジェ”同然。情けは無用だった。
     彼女は呼吸を整えながら、躊躇なくマチェットの刃を男の右足へと落とした。刃はスッと音も無く肉を斬り、貫いた。
     あまりにも静かであったせいか、男はマチェットが足に刺さっていることに気づくのが遅かった。気づいて狼狽したが、声も出ずに震えているだけだった――痛みが恐怖に飲み込まれてしまっていたようだった。
     エレクトラはそんな男に言った。

    「何を……してたの……?」

     そう問うたが、男は答えなかった。言葉を変えてまた言った。

    「何で……逃げたの……?」

     それでも呻くだけで何も言おうとしなかった。
     エレクトラはついに拳銃の銃口を向けた。

    「言って……言わないと……」

     しかし、男は急に服を両手で開いた。男の目は“強気”なものに変わっていた。

    「こう……なったら……道連れだぁっーー!!!!!」

     男の胸や腹には大量の手榴弾があった。
     エレクトラは一瞬、度肝を抜かれ、“逃げる”といった判断を忘れてしまった。
     それをあざ笑うかのように男は最後の力を振り絞り、一つの手榴弾のピンを引き抜いた。
     
  • 81 Δ id:oDV6vT30

    2012-03-16(金) 18:14:04 [削除依頼]
    お、久々に更新されているね。
    受験お疲れ様でした。

    この作品は最後まで読みたいから、
    更新頑張って^^
  • 82 シュナイダー@試験終わった id:oDV6vT30

    2012-03-16(金) 22:56:06 [削除依頼]
    >>81 応援あざ〜す^^ まぁ、出来る限り進めていくって感じっすねw 何とか書き上げていきまふ
  • 83 シュナイダー@試験終わった id:oDV6vT30

    2012-03-16(金) 23:27:42 [削除依頼]
    >>80  エルザはエレクトラまで見失い、右往左往していた。群衆もあたふたと混乱しており、先ほど響いた銃声も拍車をかけていた。 「エレクトラちゃん……どこ!?」  エレクトラが何を思って、何を追ったのかはまだ分からなかった。しかし、ついさっきにやっと隔てられていた“壁”が取り除けたのに、置いていかれるのだけはゴメンだった。  お互いに助け、助けられる――シュヴァルツたちと戦ってきた彼女はその大切さを重々に分かっていた。それだけにエレクトラに何と思われようと、今は彼女の“仲間”として彼女のサポートだけでもしてあげたかった。  だが、その矢先で爆ぜた爆音。エルザはただ事ではないことに危機感と不安を募らせた。  地が揺れ、音がこだまし、鉄筋コンクリートの建物の間から白煙が巻き上がった 「まさか……!?」  エルザは拳銃を取り出し、白煙の元へと急いだ。  群衆の混乱は頂点に達し、悲鳴や泣き声がどっと起こっていた。    路地裏に入ってみると、煙の元が見えなくなった。しかし、独特の火薬の匂いが漂っていたため、それを頼りに迷わず進んでいった。  フードが邪魔臭く感じたため、外した。結んだ黒の長髪が現れる。  無線機がまた鳴っていた。気づいてはいた――爆音を聞いたシュヴァルツたちからだと。だが、それよりもエレクトラの安否を確認することを優先した。  ――エルザは彼女を“仲間”として意識していたから。
  • 84 シュナイダー@試験終わった id:Z.mIpjU0

    2012-03-17(土) 15:02:49 [削除依頼]
     ある角を曲がったとき、急に匂いは血生臭いものへと変わった――鼻につく、気色の悪い匂いへと。
     それはエルザの不安をいっそう強くした。気持ちも足も、急いだ。
     そして、ついに見つけた――突き当たりの壁に寄り添うようにグッタリとしているエレクトラの姿を。

    「エレクトラちゃん!?」

     慌てて駆け寄り、抱き起こした。
     人が三人ほどしか通れそうにない、狭い路地の中。その周辺には肉塊や血が飛び散っていた。とても正常とは思えない光景だった。しかし、そこが異臭の根源であった。
     傍にはエレクトラの得物であるマチェットがコンクリートの壁に突き刺さっていた。一体、何があったのか――さすがに分かった。

    「しっかりして!!! 何があったの!?」

     エレクトラを揺さぶり、呼びかけたが、反応はない。
     特に主だった外傷はなく、額から一筋に血を流して気を失っているだけだった。
     爆発があったのは確かだったが、それを間一髪で交わした彼女のした行動が何となく分かった。

    「こ、こういうときは……どうしたら……」

     エルザはとにかく何かをしなければならないと思った。だが、どうしたらいいのかに迷った。
     応急処置も、シュヴァルツたちの助けを借りることも、色々と混同し、プライオリティが定まらなかった。
     しかし、彼女を放っておくわけにはいかない。
     エルザは無線機を取り出し、連絡することをまずしようと決めた。それが手っ取り早いと考えたためだった。
     ボタンを押し、通信しようとした。だが、その前に声が飛んできた。

    「エレクトラ!?」

     少女の声だった。その声にエルザは驚き、振り向いた。
     そこには身なりは貧相だが、清楚な少女がいた。
  • 85 シュナイダー@試験終わった id:vvo3ZJg0

    2012-03-18(日) 22:05:26 [削除依頼]
     エルザにとっては見知らぬ少女だった。だが、少女はエレクトラを知っているようだった。黒髪で可憐な少女の身なりは少しくすんだレース姿だった。
     彼女はエルザに構うことなく、エレクトラに寄り添った。その手には古びたハンドバックがあった。スラム街ではあまり見かけないような容姿だった。

    「あなた……誰?」

     エルザはおもむろに尋ねた。
     少女が目を向け、目が合った。

    「助けなきゃ……手伝ってくださいっ!!!」
    「えっ? あ、ちょ、ちょっと!?」

     少女はエルザの手を取った。

    「エレクトラを助けたいんです!!! お願いします!!!」

     エルザは困惑していた。だが、少女はあまりにも必死であった。そして、エレクトラを何とかしたい、という目的は一致していた。そのせいか、とりあえず彼女と協力してエレクトラに応急処置だけでもしようと考えた。
     いずれにせよ、エルザに何かができたかと言えば、できた。しかし、医者ではないし、エレクトラの容態は見た目ぐらいでしか判断できない。そういったことを含めれば、少女の提言はありがたいものであった。

    「私の家、すぐ近くだから……エレクトラの手当てをしないと!!!」
    「え、ええ。わかったわ……」

     エルザはエレクトラを背負ってみた。彼女の体は予想以上に軽かった。初めてエレクトラと会ったときから彼女は小柄に見えていたが、改めてここでその“具体性”が分かった。それに加え、エルザ自身もガイアの隊員として訓練してきた身。人一人――少女一人を運ぶぐらいは難しいことではなかった。
     とりあえず、まだ余裕があったため、彼女の得物であるマチェットや拳銃も回収しておいた。
     そして、少女に案内されるがままに、路地を抜けていった――何の不自然さも感じずに。
  • 86 シュナイダー id:lGMhyyR/

    2013-06-15(土) 19:42:07 [削除依頼]
    長く放置していましたけど、この度キャスでの
    リハビリがてらにIdentity Crisisを進めたいと思います

    更新はブログとなろうを優先するんで、遅くなるとは
    思いますが、ご了承くださいなm(__)m
  • 87 シュナイダー id:lGMhyyR/

    2013-06-15(土) 20:17:25 [削除依頼]
    >>85 「…………うっ」  全身に走る痛みがエレクトラを目覚めさせた。強打した名残なのか、頭が疼く――。  彼女は頭に包帯を巻かれ、粗末なベッドに寝かされていた。部屋は木造で所々が朽ちていたり、蜘蛛の巣が張られていたりと、とても清潔と言える場所ではなかった。広さも大人五人ほど入ってしまえば、身動きが取れなくなってしまう程度しかない。実に窮屈だった。明かりも蝋燭が中に据え付けられたランプが天井から垂れ下がっているくらいである。 「ここは……?」  すると、ドアが開いた。入ってきたのはエルザ――彼女がいるということは少なくとも敵に捕らわれているというわけでもない――その確証を得られてホッとした。 「あ、エレクトラちゃん! よかったぁ〜」  エルザは持っていたアルミ製の古い洗面器を部屋の片隅にある小さな台の上に置き、喜んでいた。  そこまで喜ぶほどのものなのか――エレクトラは死んでもいないし、瀕死の重傷を負ったわけでもなさそうだっただけに、エルザの振る舞いがおかしく思えた。しかし、人の目の前の状況における心境は千差万別――あまり深く考えないようにした。というより、考えること自体“ムダ”であると思うようにした。 「ここはどこなの……?」  唐突にエレクトラは問うた。 「私たちを助けてくれた人がいてね――」  エルザがそう言った途端、見覚えのある少女が駆け込んできた。 「エレクトラ!!!」 「れ、レイチェル!?」  清楚な雰囲気を漂わせる少女――レイチェルだった。 「もう大丈夫? 痛くない?」  エレクトラに近寄り、細い手で彼女の頬などに触れてきた。その感触は冷たかった。  レイチェルが手助けして自分を保護してくれたことは判明したものの、内心に一抹の不安があった。  彼女とは既に何回か遭遇して、助け助けられたりして顔も名前も知っていたものの、完全に信用できる人物かといえば、そうではない。彼女がここまで連れてきたことには何か裏があるのではないのか――そう思い始めるとキリがない。 「ここ、レイチェルの家なの?」  エレクトラは遠まわしにレイチェルを探ろうと尋ねた。  相手は「うん」と眩しい笑顔を見せて返した。 「ボロボロでごめんね」  彼女は小さく笑いながら謝ってきた。  全く読めない――ふと、頭に巻かれた包帯を思い出し、また尋ねた。 「この包帯とか、全部レイチェルの?」 「そうだよ。本当はおばあちゃんのために買ってきたものなんだけどね」 「おばあちゃん?」  一体、どういう家族構成なのかは知らないが、エレクトラたちがいる屋内に別の人物がいることを把握した。 「何かね、この子、おばあちゃんと二人暮らしみたいでね……」  エルザが付け加えてくれた。  二人暮らし――父や母ではなく、祖母のみという内訳――自分と父も似たようなものではないか、と自然と思わされた。
  • 88 シュナイダー id:UuGl26b/

    2013-06-16(日) 15:57:17 [削除依頼]
    「そうなの……?」

     エレクトラはレイチェルに向かって尋ねた。
     彼女はコクリと頷くだけで、先ほどの笑顔を消していた。

    「私が小さい時にお父さんもお母さんも事故で死んじゃってね……おばあちゃんだけかな、家族は」

     レイチェルがあまりにも感傷的に言う言葉に、エレクトラは申し訳なく感じた。それ故にムダな詮索をしている自分が馬鹿馬鹿しくも思え、一時ではあるが、彼女への疑念を心の奥底にしまい込んだ。
     家族――エレクトラにとっては生まれてこの方父しかいない。血は繋がっていないが、父である。ただ、本当の“親”というものの概念はイマイチ掴めない。掴めないだけにレイチェルの思いを理解することは完全にはできなかった。しかしもし、父が何かしらの形でいなくなったならば――その時、自分はどうしていられるのかは無明であって、想像もしたくもない。父なしでは自分の“生きる意味”がなくなってしまう可能性があったから――。

    「あ、べ、別に気にしなくていいよ。もう、慣れてきたから……」

     重々しい空気を払いのけるようにレイチェルは再び笑みを見せる。それはどことなく無理をしているようにしか見えず、エレクトラは顔を背けた。

    「とにかく、エレクトラちゃん。もう、日も暮れたんだけど、どうする?」

     エルザが口を挟んできた。それが何かの逃げ道に導かれたかのように感じ、すぐに反応した。

    「どうするって……」
    「このまま、ここに一晩いさせてもらうか、このまま本部まで戻るか、どっちかなんだけど……」

     任務でここまで出向いていることを忘れていた。帰らなければ、父を心配させてしまう――エレクトラはベッドから降りようと思ったが、頭が疼いた。動いちゃいけない――そう警告するかのように。

    「うっ……!」
    「だ、ダメだよ!エレクトラ……」

     レイチェルが気遣って彼女を再び寝かせた。何でこんなケガをしたんだろう――深追いしすぎたのが失敗だったようにも思えるが、あのまま逃がしていてもダメであった。状況判断の難しさを改めて実感した。

    「エレクトラちゃん、私が長官に伝えておくから……今日はここにいさせてもらった方がいいと思うよ」
    「で、でも……」
    「大丈夫、私も一緒にいるから」

     エルザは彼女を安心させるようにそう言ってくれたが、エレクトラが気にしていたのはそこではない。エルザの説明の仕方によっては父が変に不安を抱いてしまうのではないか、ということであった。
     だが、エルザはさっさと部屋を出て外で通話を始めてしまった。大きくため息しか吐けない。

    「どうしたの? エレクトラ」

     レイチェルが顔を覗き込んできた。

    「ううん……何でもない」
    「そっか……。でも、今日エレクトラと一緒にいられるんだね」
    「そ、そうだけど……。本当に……」
    「いいのいいの。気にしなくて。何かあったら、何でも言ってね!」

     彼女はエレクトラがここに留まるというだけで妙にテンションを上げていた。“真”か“偽”かはまだ判定がつかないが、なるようになるしかなかった。

    「ねぇ、エレクトラ?」
    「何?」
    「今日、一緒に寝ていい?」
    「え……?」
    「エレクトラのこと、もっと知りたいなぁって……」
    「う、うん……」

     不思議と断れなかった自分はどうかしてる――そう思いながらも、レイチェルに対して気持ちが変わっているのは否めなかった。
  • 89 シュナイダー id:zmb4.tU.

    2013-06-17(月) 22:20:56 [削除依頼]
     エルザが再び部屋に入ってきた。

    「長官の許可、下りたから大丈夫みたい」
    「ぱ。パパ……」

     エレクトラはふと父がどのような反応を示していたのかを気にした。きっと心配しているに違いない――そう考えただけで些細な罪悪感を感じる。
     だが、それに気づいたエルザは何気なく言った。

    「長官、エレクトラちゃんが無事と聞いて、安心なさってたよ」
    「ホントに……?」
    「私、ウソは言わないって心に決めてるから」

     彼女の言うことをそのまま受け入れていいものか――少しずつではあるが、エルザとも距離を縮めている。向こうが壁を作ったのではなく、壁を作っているのは自分自身――父に説得されて以来、何かが間違っているような喉に詰まるものが取り除けた気がした。

    「そう……」

     しかし、何か言おうにもいきなり親しげに言い返すのは気恥ずかしい。
     そんな彼女にレイチェルは微笑む。

    「エレクトラって素直だね」
    「え、いや……別に……」

     少々、心を見抜かれたようで驚き、焦ったが、それもすぐに可笑しく感じた。途端に笑ってしまった。
     いきなり笑ったエレクトラを見て、エルザは寧ろ目をぎょっとさせた。彼女の目の前でエレクトラがアガメムノンなしで笑っている姿を目にしたことがなかっただけに。だが、何故か新鮮で、何故か嬉しかった。お互いに何かを取り除けた一瞬にも感じた。

     女三人寄れば姦しいと言うが、この場ではまさにその通りだった。ただ、良い意味で。

    「バカみたい……あたしって……」

     二人に聞こえないような声でエレクトラは呟いた――。
  • 90 シュナイダー id:6kj9rJR/

    2013-06-20(木) 01:45:22 [削除依頼]
     その夜、エレクトラとエルザの二人はレイチェルの家に世話になることになった。
     ガイアの隊員が一般市民の家に上がって泊まらせてもらうということは今までに前例がないほど異例ではあったが、今更口うるさく言ったところで、状況は状況。アルカディアも八つの管区からなる巨大な都市であって、移動するのも容易ではないし、危険も伴う。それを分かっているからこそ、採った選択だった。

    「これくらいしかないけど……ゴメンね」

     小さな丸テーブルに相対して座る二人の前にレイチェルが作ったオニオンスープが出された。コンソメの香りが漂うが、量は少なめでチーズも玉ねぎも切れ端程度しか入ってなかった。
     木の天井と床、安いコンクリートで固められた壁とに囲まれた古いリビング。大きめのランプが二つ吊り下げられてはいるが、薄暗い。その空間の中で、粗末なスープはいっそうこの家の貧しさを象徴していた。

    「ううん、気にしなくていいから、ね? エレクトラちゃん」
    「あ、う、うん……」

     レイチェルに気を遣って言葉を選ぶエルザに対し、エレクトラはかつての孤児院にいた頃をふと思い出していた。
     あの時に朝食で出されていたライ麦パンと牛乳よりも酷い有様だった。ただ、孤児院では経費を節約するために出していたのに対し、出されたスープはレイチェルが自分たちのためにわざわざ無理して作ってもらった気がしてならない。申し訳ない――率直に言えばそうだった。

    「ねぇ、レイチェル……」
    「なに?」

     汚れたエプロンを外して畳むレイチェルはニコニコとしながらエレクトラを見た。

    「これ、レイチェルのおばあさんにあげて」
    「え? そ、そんなこと……だ、大丈夫だって」

     エレクトラは彼女の反応を見た。慌てながらも笑いで誤魔化そうとしているのが見え見えだった。
     エルザもいきなり別方向のベクトルを出したかのような発言をするエレクトラに驚いたものの、レイチェルを見て納得し、エレクトラの洞察力に感心した。

    「食べていいから、気にしないで! おばあちゃんの分はちゃんとあるし……」

     彼女は明らかに何かを隠している――エレクトラは言葉を投げかけた。

    「毒とか入れてないのはわかってるよ……」
    「……へ?」

     きょとんとした顔を見せた。

    「あたし、そこまでお腹空いてないし、レイチェルも無理しないで」
    「ど、どういうこと?」
    「本当は……もう何もないんでしょ?」
    「あ……」

     図星のようだった。
     確かに、ガイアの隊員二人がわざわざ民間人の家に無防備でいることは仮にレイチェルが反政府組織と通ずる人物であるならば、毒薬なりを混入させることはするはずだった。
     ただ、それならば自分が負傷した時にトドメでも差せば十分に事足りることだった。しかし、彼女は助けた。
     別にエレクトラは毒物に関しては何も分からないし、知識も持っていない。スープも怪しいかもしれない。だが、レイチェルの様子を見る限り、何故か彼女がそういうことをする人間とは思えなかった――“オブジェ”ではなかった。
     理由は分からない。でも、彼女に対して別の感情を無意識に持ち始めてしまっているのは確実だった。

    「レイチェル……。あたしたち朝になったら出ていくし、無理しないで。助けてもらったから……」
    「エレクトラ……」

     レイチェルもエレクトラと同様、やはり“少女”であった。目を潤わせていたのをエレクトラは見逃さなかった。
  • 91 シュナイダー id:6kj9rJR/

    2013-06-20(木) 23:24:15 [削除依頼]
    「あなた、ガイアの隊員さんなんだね」

     不意にリビングの奥の方から床を軋ませて老婆が現れた。厚い毛糸の上着を羽織り、白い長髪でおっとりとした優しげな雰囲気漂う老婆だった。
     だが、足取りはおぼつかなく、ほとんど壁に寄りかかるようにしていた。

    「お、おばあちゃん!? ダメだよ、寝てなきゃ!!!」
    「いいんだよ、レイチェル……」

     老婆はゆっくりとレイチェルに手伝われながら、小さな木の椅子に腰を掛けた。目線がエレクトラたちと同じ高さになる。

    「レイチェルを助けてくれたのも、あなたなんだね」

     彼女はエレクトラに向かってゆっくりとした口調でそう言った。
     エレクトラは頷くだけだった。

    「年はいくつなんだい……?」
    「14……」
    「その年であのガイアの隊員さんになるなんて……」

     憐れみでもなく、皮肉でもなく、普通に褒めるように言われた。この老婆はガイアをどう思っているのかは知らないが、少なくともエレクトラに対しては全くもって敵対心の欠片も抱いていないことは明らかだった。

    「立派に仕事して、一生懸命に頑張って……。まるで息子――レイチェルの父親と同じね」
    「お、お婆ちゃん……」

     急にレイチェルの表情が一変した。妙に哀しげであった。次第に唇を噛みしめ、肩を震わせていく――簡単な話ではなさそうだった。

    「レイチェル?」

     エレクトラは彼女を気にし、声を掛けた。
     すると、彼女は首を横に振り、手で目を擦りった。

    「な、なんでもないよ! お、お婆ちゃん……ベッドに戻ろ! ね!」

     何かを紛らわすように、煙を撒くように――孫娘が祖母を半ば無理やりに奥へと連れて行った。
     あまり触れない方がいい――エレクトラはそう思い、エルザにアイコンタクトさながらに伝えた。

    「複雑ね、この世界って……」

     エルザはそんなことを口にした。
  • 92 シュナイダー id:NuAXPyW.

    2013-06-21(金) 02:25:00 [削除依頼]

     ――数時間が経った。
     エレクトラは元いたベッドに入り、ランプも消した部屋の中で天井を見ていた。そうしていると、別の世界観を味わっているかのような錯覚に陥る。今まで任務をこなし、大抵返り血を浴びた状態で本部に戻り、自室でシャワーを浴びて寝るくらいだった。
     本部にある自室に比べて決して居心地のいい場所ではない。でも、それが逆に新鮮でこういったのも悪くはない、と思えるようにもなった。ずっと戦うことが本職となっている彼女にとって、この今のひと時は“異質”であり、“発見”でもあった。反政府組織との戦いもいつかは終わりを告げるのか――それは分からない。もしあるとするならば、戦いから身を引くこともあるのだろう――そうなった時、自分はどういった気持ちで、どういった行動を取るかは予想がつかない。先の長い話のようにも思えるし、近い将来のようにも思える。その曖昧な現状を何かで打破できるならしたいものだった。

    「エレクトラ……」

     静かにドアを開けて、レイチェルが入ってきた。寝間着姿は無いのか、レース姿のままだった。

    「エル……あの人は……?」
    「エルザさん? エルザさんなら、今日は寝ないでいるって。だから、エレクトラは安心してって」

     エルザの配慮にエレクトラは悪くは思わなかった。寧ろ、そこまでしなくても――という、ちょっとした呆れもあった。
     レイチェルは静かに同じベッドに入ろうとした。エレクトラは壁側にずれ、二人は背を向けあう状態になった。

    「ねぇ、エレクトラ?」
    「何?」
    「エレクトラは私のこと、どう思ってる?」

     唐突に即答が難しい質問を投げかけてきた。エレクトラは暫し考えた。

    「べ、別に……悪いとも思ってない……よ」
    「ホントに?」
    「…………うん」

     うやむやになってしまったが、レイチェルの方は何だか嬉しがっているようだった。
     すると、何を思い立ったのか、あの話を持ち出してきた。

    「私、お父さんもお母さんも五年くらい前に死んじゃってたの」
    「……え?」

     エレクトラは触れないでおこうと思った話題を、本人が自ら口に出してきたことに驚きを隠せなかった。

    「私のお父さん、政府の役人でね。お婆ちゃんが言ってたようにものすごい頑張り屋だったの。住んでた場所もここじゃなくて、第四管区だったし。でも、お父さん、お母さんと一緒に出掛けた時に事故で……」

     段々と彼女の声色が小さくなっていく。
     相当辛い出来事だったはず――エレクトラもそう感じるようになり、体を反転させてレイチェルの方を向いた。

    「言わなくて……いいよ」
    「……ご、ゴメン……こんな話しちゃって」

     レイチェルも顔を向けてきた。その瞳は涙ぐんでいた。

    「エレクトラ、気にしてるかなって思って」
    「そ、そんなこと……ないから」

     何とか彼女を慰めよう――自然とそう振る舞うようになっていた。何故か、彼女を守ってやりたい――それに近いような感情がエレクトラの中で芽生え、今蕾にまで成長を遂げている。この一日でどうも変わってしまったようだった。 

    「……エレクトラって優しいんだね」

     彼女は健気に笑みを取り繕ってそう言った。
  • 93 シュナイダー id:QtdKaRL/

    2013-06-23(日) 20:05:00 [削除依頼]
    「べ、別にあたしは……」

     不意に目線を天井へと逸らした。
     やってしまった――つい感情につられ、レイチェルに対し露骨に中身をさらけ出してしまった自分が実に愚かに思えた。いくら彼女を信頼し始めているとはいえ、“守ってやりたい”などという気持ちを安易に抱いてしまうことは、ガイアの隊員として失格だった。
     だが、そう思わないようにしても思ってしまう――若さ故の過ち、甘さ、そういったものではなく、彼女の持ち合わせる内なる“優しさ”が根本たる原因となっていたのかもしれない。あまりにも不遇な暮らしを余儀なくされているレイチェルとその祖母と触れたことが、彼女を着実に変えていた。今まで“オブジェ”と断定したものに対しては“オブジェ”と接することすらも“ムダ”として一切合切、触れようとしなかった彼女はどこかへ行ってしまったかのようだった。
     しかし、レイチェルはもう“オブジェ”ではないと既に認識している。かつての少年と同じような親しいもの感じていた。それだけに、自分の気持ちを否定することは今の彼女には無理に等しかった。

    「ねぇ、エレクトラ……」

     レイチェルが小さな声で呟く。

    「私、エレクトラみたいになりたい……」
    「あたし……みたいに?」
    「どうしたら……なれるかな?」

     答えに詰まった。
     エレクトラ自身、単純に戦っているのではなく、父に示されたように“正義”のために戦っている――そうすることで自分の“生きる意味”を確立してきた。
     しかし、レイチェルは違う――エレクトラのように戦う理由もないし、ピープルである。ただ、貧しいだけのピープル。そんな彼女がエレクトラみたいになりたいということは、やはり彼女なりの“生きる意味”を見つけることなのかもしれない。

    「レイチェルって……何のために生きてるの……?」

     エレクトラは静かに尋ねた。
  • 94 シュナイダー id:yCoVhEQ/

    2013-06-30(日) 21:06:27 [削除依頼]
    「私……?」
    「うん……」

     空気が重々しくなった。
     これでレイチェルが答えられなかったら、彼女は“オブジェ”に様変わりしてしまう。それはそれでエレクトラの判断基準だった。
     彼女を試してみたい気もあった。ただ、それは感情を逆なでするかもしれない――ましてや貧しい暮らしをしている彼女にとっては。それに、自分自身、彼女たちから見たら十分に裕福な暮らしをしている。端からみたら、何とも傲慢で偉そうな、そしておこがましい問いだった。
     ところが、レイチェルはエレクトラの予想に反した。

    「私、“生きる”ことかな……」
    「生きる……?」

     “生きる意味”を聞いているのにオウム返しの如く、答えを返された。しかし何故か、あながち間違っているとは思えなかった。

    「あ、ごめん……変だよね」

     苦笑いを見せながら、レイチェルは謝ってきた。

    「そ、そんなことない……。レイチェルは……大変そうだから……」

     エレクトラは気後れしながらも、彼女を励ますようにそう呟いた。不思議と声が震えてしまうほど、中身をギュッと締め付けらるような苦しさを覚えた。

    「えへへ、ありがと……」

     レイチェルの健気な笑顔がまたいっそうエレクトラに何かを感じさせた。愛おしくも切なく、そして哀しい――哀愁漂う静かな時が流れた。
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