堕魔覇身2コメント

1 あ id:w5nIIo0/

2011-09-21(水) 14:35:09 [削除依頼]
 失業した。十五年来の職を失った。
 寒空のもと、私はため息をついた。灰色の雲がわたしの人生まで覆おうとしている。
 困ったことになった。
 私の視線の先には、高速道路高架建設のための説明が記された看板が、ふんぞり返った役人のように立ちふさがり、わたしが内に入ることを阻んでいる。
 そこは先日まで私の職場のあった場所だった。

 職場といっても、企業ではない。もちろん、役所でもない。もし役所だったなら、高速道路がそれを避けただろう。

 私は一応神職で職場は神社だった。しかし神主ではない。ただの祝(はふり)、しかもモグリである。

 神社と一口に言っても、いろいろあるが私の務めていた神社の祭神はウカノミタマノカミ、つまりお稲荷さんだった。わたしは十八歳で家を出てから今日まで、ここで祝の真似事をしながら、住込みで働いていた。ここはわたしの家であり、職場であり、少々大げさに言うならば人生だった。
 その神社が、なくなってしまった。
 正確に言うと、移転してしまったのだ。高速道路が敷設されるライン上に位置したために。
 移転先は神主さんのおうちの庭の一角である。
 時代の流れです、と彼は言い、笑った。
「わたしも、こちらのお稲荷さんも、これからは楽隠居をするんです。のんびりとね」
 そう言いながら愛しそうに、小さな社を見つめた。
「引越しといってもそれほど遠いわけでもありませんし、高速道路の排気ガスを浴びながら意地を張るよりは、いい環境の中でお世話したいんですよ」
「はあ」
 こうして私は失業した。なにか技能を持つわけでないわたしの再就職がかなえられる可能性は極めて低い。

 途方にくれるとはこのことだ。

 もちろん、神主さんは私の今後をきちんと考えてくれていた。
「そろそろご実家に帰ってさしあげたらいかがですか」
 実家に帰れ、とはいかにも厄介払いのようなことばだが、彼はわたしの実家を知っている。
「お母さんから、電話がありましてね。お父さん、最近体の調子が良くないというお話でしたよ」
「はあ」
 あの親父にかぎっては、体調不良などありはしない。親父の体調が崩れるようなら人類はとうに滅亡している。母が電話できるいわれはない。
 わたしの思いを感じ取ったのか、神主さんはにこやかにこう付け足した。
「お体の調子はさほどでもないご様子でしたけれどね。あの気合の入った読経が、電話口から聞こえていましたから。お母さん、きっとお寂しいんでしょうねえ」
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