魔王伝記-be changed-24コメント

1 私 id:eFTgIDu.

2011-09-11(日) 20:05:43 [削除依頼]
 俺は確か草むらで野宿をしていたはずなのだが、何やら様子がおかしい。
 どうやら、俺が今寝ている場所はどうやらふかふかのベッドらしい。しかも天蓋がついている。
 
 すると、突然どこからか声が聞こえてきた。

「おはようございます、魔王様」
  • 5 私 id:eFTgIDu.

    2011-09-11(日) 20:42:43 [削除依頼]
    アルトさん
    キリトリさん

    二度と失敗は犯さないつもりです……///
    頑張ります! よろしければ見てってください!
  • 6 私 id:eFTgIDu.

    2011-09-11(日) 20:45:02 [削除依頼]
    【魔王伝記】 
     
     アルス・ベルトルトは勇者だった。
     勇者とは旅を行く道すがら、強いモンスター達を倒して、町を救ったりする職業である。
     ただ、勇者と言っても「選ばれし〜」だとか「伝説の〜」が頭につくような力をアルスは持っていなかった。
     勇者はこの世界にごまんといて、その中にはアルスのような、所謂若輩者も多くいるのである。
     アルスは現在18歳で、まだまだ将来が楽しみな勇者ではあったが、実力としてみればその辺に転がる、石ころの様な物だった。
     今日も今日とて、アルスは町を救うことなどせず(正確にはできず)その辺の街道をブラブラと歩いていた。

    「おいアルス」

     森の中を通る街道の途中、アルスの従者であるガイアは、鼻歌を歌いながら陽気に歩く勇者アルスを引き止めた。
     アルスはその声に振り向く。強面のオッサン剣士"ガイア"は少し怒った様子で腕を組んでいる。

    「なんだよ。俺の鼻歌があまりに下手だとかそんなクレームは却下するぜ」

     ガイアは「そうじゃない」と首を振った。

    「あの……私からもあるんですけど……」

     すると、もう一人の従者、クラリスがおどおどと挙手をする。普段あまり、主張らしい主張をしないちびっ子女魔導師クラリスだったが、今回ばかりは是が非でもアルスに伝えたい事があるらしい。

    「んん? クラリスも俺の鼻歌が下手だって言うのか。悲しいな。俺泣きそう」

     クラリスは「違います、違います」と何度も首を左右に振った。

    「じゃあ、なんなんだよ」

     すると、従者二人は、ピッタリと声をそろえて勇者にもの申した。

    「いつ、魔王を倒すんだよ」
    「いつ、魔王を倒すのですか……?」

     その質問にアルスは「ふん」と鼻を鳴らした。

    「魔王を倒すなんざ、俺にはまだ早い。今は力を溜める時期なのだ」
  • 7 私 id:eFTgIDu.

    2011-09-11(日) 21:39:24 [削除依頼]
    そう言って、アルスは腰に掛けた豪奢な剣を引き抜き、自分の顔の前で、垂直に立てた。

    「この勇者の剣がそう言っている……」

     従者二人はやれやれ、という感じでため息をついた。

    「それは1年前にも聞いたぜ。というか、その言い訳には聞き飽きたぜ」
    「あの、いい加減街で働きながら旅費を稼ぐ生活はやめた方が良いと思うんです……」
    「そうそう、俺はもう皿洗いなんてしたくないぜ」

     うっ、とアルスはたじろいだ。
     
    「私、もっと自分の魔法の腕を磨きたいんです。皿はもう磨きたくないんです」
    「おお、俺だってそうだ。この背中の大剣も錆付いちまって、今じゃ鞘の中でベソかいてるぜ」

     うっ。うっ。アルスは一歩二歩後ろに後退する。自分の胸に剣がグサリと刺さっているのが分かる。
     なんだか今日に限って二人の押しが強い。いい加減我慢の限界を超えたのだろうか。

    「い、いや。でもさ、やっぱり旅の資金は大事だし。皿洗いだって、やってれば集中力はつくって……」

     アルスは引き抜いた勇者の剣を鞘に戻した。
     アルス自体は、その辺に転がる石ころの様な勇者ではあるのだが、この剣だけは"選ばれし剣"だった。
     いや、正確には持ち主を選ぶ、選ばれし剣なのだ。
     その、持ち主を選ぶ剣に、アルスは選ばれたのである。
  • 8 私 id:eFTgIDu.

    2011-09-11(日) 21:54:42 [削除依頼]
     ――ある日、城の雑用を任されていたアルスは、城に伝わる勇者の剣を盗み出そうとした。
     その時アルスは、勇者の剣が持ち主を選ぶという情報は耳にしていなかった。勇者の剣は、選ばれし者でなければ、その身を重くして、どのような怪力を持ってしてでも持ち運ぶことはできないのだ。
     城の兵士達もその事を知ってか、泥棒アルスを簡単に勇者の剣のありかまで行かせた。
     だがしかし、雑用係アルスはいとも簡単に勇者の剣を持ち運び、見事盗むことに成功したのである。これには兵士達も開いた口がふさがらなかった。
     その後、城下町の酒場で盗んだ剣の自慢をしているところを、城の兵士にあっけなく捕縛されたアルス。
     だったが、捕まった後、すぐに謁見の間へ連れられ、王と対面することになった。王は驚いていたが、すぐにアルスに「旅立て」との命令を下したのである。
     当然と言えば当然の事だったが、アルスは「嫌だ」と駄々をこねた。しかし、従者を二人付けるという条件で渋々承知し、旅立つことに決めたのである。
     この様ないきさつがあって、アルスは勇者なのである。しかも、勇者の剣に選ばれた超エリート勇者なのである。
     だがしかし。実際の所はいつまでも魔王を倒そうとしないばかりか、モンスターでさえろくに倒せない、石ころ勇者なのである。
     アルスも、このままではまずい、と思っているのだがどうにも剣を振ることが出来なかった。その上「何でこの剣は俺を選んだんだ。このへっぽこ剣め」等と愚痴を言う始末である。
  • 9 私 id:eFTgIDu.

    2011-09-11(日) 22:11:31 [削除依頼]
    「そう言ってさ、結局は怖いんだろう。モンスターがよ」

     城内随一の無双剣と呼ばれたガイアが、自らの髭をさすりながら呆れたように言い放った。
     天才魔法少女であり、王の第4子であるクラリスも、いつもと違う攻撃的な態度でこちらを見つめている。

    「う、そんな事はない……ぜ」

     嘘をつけ。というようなじとーっとした4つの目がアルスに向かって注がれる。

    「本当だって!」

     唾を飛ばし反撃をするが、依然二人の舐めきった態度は変わらないままだった。

    「ならさ」

     と、ガイアが今まで進んでいた方向とは逆の方向を向く。
     
    「俺たちが働いてたあの街、なんだか悩み事があったようだぜ。皿を洗ってたときにさ、店の客が何やら焦ってたな。洞窟に住む魔物だとか、何とか言ってたっけ……」
    「それがどうしたんだ」

     薄々気づいていたアルスではあったが、わざと質問をしてみた。もしかしたら「魔物を倒そう」なんて、ふざけたこと、言わないかもしれないから。いや、言わないでくれ頼むから。
     アルスは心の中で、祈り続けた。が、その祈りは届かず、ガイアは街の方向へと歩き出した。

    「いこうぜ。そんで、さくっと洞窟に住む魔物を倒そう。怖くないんだよな? 勇者アルス」

     やっぱりそれか、とアルスはため息をついた。ここで断れば、俺のプライドはズタボロになるだろう。いいさやってやる。
     アルスは歩き出したガイアを小走りで抜き去った。

    「付いてこい。我に使える二人の戦士よ。共にあの街を救おうではないか」

     そう言って、勇者の剣を高々と天に突き刺した。
     従者二人はため息をつきながらも、それに合わせ付いていった。とりあえず、天に突き刺した勇者の剣がプルプルと震えていたことを二人は見逃さなかった。
     
  • 10 アルト id:gYkEvu6/

    2011-09-11(日) 22:25:34 [削除依頼]
    臆病勇者おもしろいな
  • 11 私 id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 20:33:07 [削除依頼]
    >10 マジですか! いらついてもいいんですよ(笑) というか、今のところタイトルが全く持って 意味を為してないことに今更気づいた。 長い前振りになる予感
  • 12 私 id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 20:36:49 [削除依頼]
    ****

     コルドという街は、この世界の平均とも言える、生活水準を保っている。
     目に付くほどの何かがあるわけでもなく、ただ普通に、人々が家を造りそこに住んでいるだけ。という感じの街である。
     大きさも世界から見れば至って普通。煉瓦造りの家が円形に集合し街の形を作っている。
     ただ、人が住んでいるというだけの街ではあるが、多少なり旅人の為の施設は用意されている。
     宿屋や、食事処等々簡単な物ではあるが、それでも旅人がこの街で不満を抱くことは極めて稀な例である。良くも悪くも普通。それがこの街の特徴だった。
     
     そして、アルス達、勇者御一行は、そのコルドの街に再び舞い戻ってきたのである。

    「うーん、本当に魔物に困っているのか? この街は」

     アルスはコルドの至って普通な町並みを眺めながらそう言った。石畳を歩く人々は、切羽詰まった顔はしてないし、道の両脇にそびえる一般家屋からは、布団を叩いている音が聞こえてくる。
     どう見ても平和だぜ。アルスは勇者の剣を触りながら、そう思っていた。

    「たしかに、最初訪れたときと全く同じで平和そうですね」

     クラリスも周りをきょろきょろと眺めながら穏やかに言った。

    「まあ、とりあえず。俺たちの働いてた店で、もう一度情報を確かめてみようぜ」

     ガイアも、少しばかりこの街のあっけらかんとした様子に拍子抜けしていた。
  • 13 私 id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 21:15:09 [削除依頼]
     以前、アルス達が一週間ほど働いていた食事処は至って普通な食事処だった。普通の家屋に、調理施設がついたような、非常にこぢんまりとした物である。
     それ故に、従業員も少なく、味も水準ギリギリと言ったところだった。だが、一人一人の人の良さは格別だった。 
     
     今回、何を食べるわけでもなく来店したアルス達だったが、小太り店長は快く「洞窟の魔物」について語ってくれた。

    「ああ、それならさ。本当に数日前までは困っていたんだよ。店の材料源である畑も荒れに荒らされたけどさ、もう気にすることなんざ無くなったんだ」

     死んだのかな、ラッキーラッキー。とアルスはほっ、と胸をなで下ろした。

    「いやいや、違うんだ。まだ、ソイツは生きてるんだけどさ"勇者の剣"を持った勇者が来たからには、もう安心ってもんよ。お前さん達も気を楽にして旅を続けられるな。ははは」

     んんん?
     アルスは後ろで話を聞いていたガイアとクラリスに目を合わせる。二人もどうやら驚いていたらしい。ガイアは目を大きく見開き、店長に向かって今にも異議を申し立てようとしている。クラリスもおどおどして、視点が定まっていない。
     それよりだ。勇者の剣を持った勇者だと?
     アルスは困惑すると同時に、心の底から何かがこみ上げてくるのが分かった。無駄に高いアルスのプライドであったから、この時は本当に、世界を揺るがすレベルの火山活動を彷彿とさせる怒りようだった。

    「おい、何て言った。おっさん」

     店長は、まだ火山活動には気づいてない様子だった。微笑みながら「勇者の剣を持った――」と身振り手振りを加えて言い直している。

    「もう一度!」

     アルスは声を張り上げる。店内にはぽつぽつと客がいたが、その全てが、何事かとアルスを物珍しそうに観察し始めた。

    「どうしたよ。そんなに声を張り上げて」

     店長は、驚いた様子でアルスを眺めている。
     すると、アルスは腰にかけた、勇者の剣を引き抜き、店長の鼻頭へと突きつけた。店長は人間の本能か、反射的に両手を上にあげた。

    「これ、何だか分かるか?」

     店長は、額に汗を浮かべて「ちょっと待て、とりあえず。とりあえず剣を離してくれ」と懇願した。
     アルスはすっ、とその剣を離しておじさんに見えるよう掲げてみた。

    「これが、何かって……? ううん? ただの高そうな剣だろ?」
    「勇者の剣だ」

     アルスはしっかりと、勇者の剣と言ったが、おじさんは「ん? 何だって? と、聞き返してきた」
  • 14 私 id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 22:07:35 [削除依頼]
    「だ! か! ら!」

     アルスは店内の客にもわざと聞こえるように大きな声を出した。

    「これは勇者の剣なの! そう、正真正銘本物に間違いない勇者の剣なの! んで、俺は勇者なの! この剣に選ばれた勇者なの!」

    「分かる!?」と、アルスは勇者の剣を頭の上でぶんぶんと振り回した。
     店内は、一瞬ではあったが、完全なる静寂を保っていた。が、次にはアルスと従者二人を除く、店内にいた人間、いや全てが笑い出したのである。
     数人の笑い声ではあったが、大と爆がつく笑いだった。店内は、男女混じった笑い声にしばし包まれていた。
     アルスは、何で何でと勇者の剣を店長の目の前で振り続けていたが、店長は腹を抱えながら笑っており、剣を見ようともしなかった。
     しばらくすると、笑いも幾分かおさまってきた。店長はそれでもどこか笑いの燻った表情で、アルスにこう言った。

    「何かと思えば、勇者の剣ときたか。兄ちゃん、お前そりゃ百歩譲ってもただの高価な剣にしか見えねえよ」

    「何だと!」ともう一度、店長に飛びかかろうとしたアルスだったが、店内のあちこちから店長の意見に賛同する声が飛びかかってきた。

    「そうそう、兄ちゃんより先に来た勇者はもっと強そうだったぜ。筋肉ムキムキでよお。いかにもな勇者だった」

     店内の客は、まるでアルスを嘲笑うかのように言った。
     アルスは分かっていた。この店長も周りの客も決して悪い奴じゃない。確かに俺みたいなモヤシが勇者の剣を振るってるだなんて想像もつかないだろう。じゃあ、悪いのは誰だよ……?

    「おい、その勇者とやらはどこにいるんだ……?」

     アルスは、また笑い出しそうな店長に訊ねた。

    「多分、街の外れの宿屋にいると思うぜ。明日魔物を狩りに行くらしいから、ゆっくり休んでるんだろうよ。会いに行くんならさ、なるべく静かにしてくれよ。あの勇者にこの街の命運はかかっているんだからさ」
    「分かった、ありがとう」

     アルスは剣を鞘に納め、店長に頭を下げた。静かにしてられるか、とも思ったが、当然口には出さなかった。
     そして、後ろの従者二人に「行くぞ」と声をかけた。

    「ん、なんだよ。色々言われてるけどもういいのか?」
    「ああ。とりあえずはな。まずはその勇者とやらに合ってみようと思う」
    「いつになくやるきですね……」
    「当たり前だろう!? これで、やる気にならない奴は、よっぽどのビビリだぜ」

     お前が言うな、というような目をしている二人だったが、アルスは構わず店を後にした。
     出て行く途中に「よっ若い勇者さん、頑張ってくれよ!」という煽りも喰らったが、アルスにしては珍しく反抗はしなかった。
  • 15 私 id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 22:08:25 [削除依頼]
    >13 店長やおじさんと名称がちょくちょく変わっていますが、どれも同一人物です。
  • 16 私 id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 22:11:32 [削除依頼]
    店の外に出ると、ガイアが顎に手を当てまじまじとアルスの方を見つめていた。

    「何だよ」
    「いやな、もしかしたらお前、やっぱ偽物勇者かもしれんな。とか思って」
    「はあ?」
    「いやいや、勇者の剣自体偽物かもな。実は今から会いに行く勇者の方が本物だったりしてな」

    「はあ」とアルスはため息をつき、腰に付けていた勇者の剣を外した。そしてそれをガイアに向けてポンと放り投げる。
     
    「……!」

     ガイアはその剣を両手でしっかりと、キャッチした。が、次の瞬間、ガイアの膝はガクッと崩れ落ちた。そして地面に倒れ込んだ。そして、そのまま釘でも刺されたかのように、うつ伏せの状態で固定されてしまった。

    「ふん、お前はそのままそこで、勇者の剣により固定されてるのがお似合いだ」

     ガイアを遥か高みから見下ろすアルスは、そのまま目的の宿場へ向かって歩き出した。

    「行くぞ、クラリス。こんな奴ほっといてさ」

     名指しされたクラリスではあったが、ガイアをここに置いてけぼりにするのもまずいと思った。かといってアルスについていくのを拒否する訳にもいかないので、二人の間をオロオロとあっちにこっちに往復を繰り返していた。
     しばらくしてガイアは仕方なさそうに、遠くなっていくアルスの背中に呼びかけた。

    「おーい、すまなかったからさ。この剣離してくれやー。俺もう限界だぜー。頼むよ勇者サマー」

     その声にアルスは「待ってました」と振り返り、ガイアに近づいた。そして、彼の手に重く重くのしかかった剣をいとも簡単に持ち上げたのである。
     枷が外れたガイアは立ち上がって、ぱんぱん、と服についた埃を払った。そして「何でお前がこの剣に選ばれたのかね」とため息混じりに言った。

    「それは俺にも分からん」

     アルスはそう言って勇者の剣をまじまじと眺めてみた。金色の柄から伸びる銀色の刀身。刀身は太陽の光をこれでもかと反射し、アルスの目を瞑らせた。
     どこからどう見ても勇者の剣である。金色の柄に描かれた、仰々しいレリーフも。そこから伸びる、美しい銀色の刀身も。
     さて、覚悟してろよ偽物め。
     と、アルスは再び、従者を引き連れ、町外れの宿屋に向かって歩き出したのである。
     その足取りはいつもと違って、確かな物であった。

     
  • 17 私 id:NXOOAMK0

    2011-09-13(火) 21:30:49 [削除依頼]
    街の外れの宿屋。と言われても、どの方角の外れなのか分からなかったアルス。もう少し落ち着いて話を聞いとけば良かった、と後悔の念に苛まれながら、アルスはコルドの街をあっちにこっちに彷徨っていた。

    「おい、人に訊ねるってことをしらねえのかよ」

     ガイアは無鉄砲に歩き続けるアルスを止めようと、近くの町民に声をかけようとしていた。

    「やめろ!」

     アルスはそれを大声で止めた。ガイアは意味が分からんと言わんばかりに首を傾げた。

    「何でだよ、おい。お前だって歩くのは疲れるだろう」
    「歩くのは疲れる。だが人に頼るのは、俺のプライドがけっして許さん」
    「それって、プライドですか……?」
    「ああ、プライドだ。勇者としてのな。元来勇者とは、孤高の旅人であるはずなのだ。目立たず、ひっそりと。気づいたら魔王殺っちゃいました、が俺の理想だ。あまり町民に不必要に声をかけることはしないのだ。それがよ、何だよ、俺の偽物め。町民にちやほやされたいってのが体全体で感じ取れるぜ。俺はあくまで、ストイックに勇者の道を突き進むんだよ。偽物勇者は放っておけないね」
    「皿洗いのどこがストイックなんだか……」

     ガイアは納得いかないというように首を振った。
     アルスは、それに対し「もう一度くらいたいのか」と、勇者の剣を腰から外そうとする。
     ガイアはそれを見て慌てたように言葉を続けた。

    「でもさ、その"偽物"が許せないってのは、俺も心の底から同意だ。もし、実力もねえようなぺーぺーの甘ちゃんだったら俺の剣が火を噴くぜ」
    「私も……嘘をつくのはいけないと思います……」

    「だろう?」とアルスは少しご機嫌になった。
     俺たちからしてみれば、偽物は勇者ではなくただの偽物だ。こらしめてやるのもいいかもしれん。もちろん、こらしめる際は、後ろの二人に任せるとして。
     
    「あれ……アルスさん。少し向こうにある家って、もしかして宿屋じゃ」

     すると、突然クラリスがアルスの肩を叩いて、向こうの方を指差した。
     ん。アルスは目を細め、遠くにある家屋を見てみた。それは普通の家に混じっていたが、明らかに他と大きさが違う家だった。サイズが普通の家に比べ二回りは大きい。何やら看板の様な物が立っているので、あれは確かに宿屋かも知れない。いや、宿屋だ。

    「ふふふ、言っただろう。少し時間はかかったが俺の第六感による推察は正しかったのだ」
     
     アルスは誇らしげに胸を張った。「すごいです……!」とクラリスがアルスを褒め称えている。

    「いやいや、単なる偶……」

     ガイアはそう言いかけてやめた。また、アルスが勇者の剣をこちらに向けて放とうとしているからだ。

    「まあ、かくにも、日が落ちる前に見つかってよかった」

     アルスはそう言って、宿屋に向かって歩き始める。
     さてさて、覚悟はいいか。偽物勇者。
  • 18 私 id:NXOOAMK0

    2011-09-13(火) 22:09:53 [削除依頼]
     宿屋の中に入ると、まず最初に「いらっしゃい!」という元気な声が聞こえてきた。
     扉を開けると、そこはぼろい机と椅子が数台置いてあるロビー。そして入り口から入って正面に、カウンターがあった。そこから小太りのおばさんがこちらに声をかけてきている。
     とりあえず、三人はぺこりと頭を下げ、カウンターに近づいていった。

    「やあ、どうも。こんなボロい宿に良く来たね。三名様かい?」

     おばさんはにこにこと、そしてテキパキと、アルス達の接待を始めた。

    「いや、そうじゃないんだ」

     アルスは、申し訳なさそうに言った。すると、おばさんの顔は目に見えて翳った。

    「ん、何だい。あんたらも勇者さんに会いたいってんのかい?」

     その通り、と三人は頷いた。

    「ダメダメ。はいはい、帰った帰った。あんたらねえ、勇者様は出発前なんだから、ゆっくり休みたいに決まってるだろう。ましてやこっちも商売だ。お客さんの情報なんて一切漏らすわけにゃいかないんだよ」

     手でパッパッとアルス達を追い返す仕草をするおばさん。
     アルスはカウンター越しに、おばさんへ襲いかかろうとしたが、ガイアにあっけなく体ごと掴まれ止められた。

    「な、何だよ!」

     アルスは体ごとつかまれながらも、ガイアに反抗しようとした。
     すると、ガイアはアルスを離し、後ろを指差した。
     見るとそこには、クラリスが杖を掲げて、何やらぶつぶつと呟いている姿があった。体が青白い光に包まれ、地に魔方陣が浮かび上がっている。今まさに何かが起ころうとしていた。
     そうか、魔法だな。アルスは怒りを抑えて、クラリスの魔法の発動を待った。

    「2階、手前から2番目の部屋だよ」

     程なくして、おばさんが虚ろな眼で偽勇者のいる部屋を教えてくれた。くれた、というにはあまりに強引な方法ではあるが。
  • 19 私 id:NXOOAMK0

    2011-09-13(火) 22:33:07 [削除依頼]
     普段は大人しいクラリスも、魔法に関するとなると容赦は全くと言っていいほどしない。アルスは少しばかりゾッとした。
     一年ほど昔。旅立って間もない頃だ。道中、アルスはクラリスにちょっとばかし悪戯をしたのである。
     いたずら、と言っても本当に軽い物だった。と、アルスは思っているが娘クラリスに取っては大問題だったのだろう。
     その軽い悪戯の内容は勇者と言うにはあまりに低俗であった。アルスはとある宿屋で、お風呂に入っているクラリスを覗いてみようと画策したのである。
     しかし結果は当然ながら、あっさりとばれ、果てには魔法による呪いをかけられてしまったのである。
     その後、アルスは2週間、老人の体となってしまい、ろくすっぽ身動きの取れない状態となってしまったのである。
     反射的に出た魔法だと、クラリスは後に必死の弁解を行ったが、反射的にしてはとてつもない威力の呪いだった。
     あの時以来、なるべくアルスは女のプライドを傷つけないようにしているが、それでもゾッとする場面は今でも多々ある。
     詠唱を終えたクラリスは、にこっとアルスに微笑みかけた。
     無邪気、無垢である微笑みが、やはり何となく怖い。恐らくこの子に魔王ばりの野心があれば、世界征服なんて四〜五年あれば足りるんじゃないだろうか。なんて、アルスは思ったのである。

     とにもかくにも、アルスは虚ろな眼でどこか遠くを見つめているおばさんに頭を下げておいた。

    「2階の手前から2番目か。まあ、それより」

     アルスにはどうしてもクラリスに訊ねてみたいことがあった。

    「この魔法ってさ、俺にもかけようと思えばかけれるの?」

     その質問にクラリスはにこっと微笑んだだけで、何も答えなかった。
     その微笑みは、何のくすみもない、真っ白な笑いだった。だからこそ怖いんだ。影さえも飲み込む白。
     
    (……ま、ただの考えすぎだよな)

     アルスは、そう結論付けた。そう結論づけておきたかったのかもしれない。

    「……よし! じゃあいくか!」

     アルスはパンと手を叩いて、カウンターの横にある階段を上り始めた。
    (しかし、これから一層クラリスには細心の注意を払わなければならないな。操られるなんてごめんだぜ、俺は。)
     
  • 20 私 id:Gx1ShTa1

    2011-09-14(水) 19:37:47 [削除依頼]
     アルス達は2階に上がった。階段からのぼって真っ直ぐに廊下が続いている。
     ギシギシとアルス達が進むたび音の鳴る廊下。確かにボロい。一つジャンプでもしてみれば、一階へ墜落してしまってもおかしくない。

    「ここか?」

     アルスは、手前から2番目の部屋で立ち止まる。
     とりあえず、木製の扉を軽くノックしてみた。
     だが、部屋の中から返事らしい返事はなかった。
     もう一度、アルスはさっきより強めのノックをしてみた。しかし、返事はない。

    「駄目だな。留守か?」

     アルスは苛立たしげに、扉へキックをかました。あまり、強くしたつもりはなかったのだが、扉が部屋の内側へ凄い勢いで開いた。
     それと同時に、きついきつい酒の匂いがアルスの鼻を襲った。つん、とする程の刺激がある臭いで、アルスはとっさに鼻をつまんだ。後ろの二人も、それに倣った。
     部屋の中は、あっちこっちに酒瓶や、食いかけの料理が散乱しており、足の踏み場もない状態だった。見ると、入って左側のベッドには、大男が見たこともないような鼻提灯をかきながら眠っている。
     こいつが偽物の勇者だな。アルスは、酒瓶等を謝って踏んづけないよう、足下へ細心の注意を払いながら、そのベッドへと向かった。
     ベッドで寝ている大男は、確かに筋肉質ではあった。タンクトップを一枚だけ着ていて、それが今にもはち切れそうにギチギチふくらんでいるのが分かった。
     髪はボサボサ、髭はモジャモジャ、それらがゴツゴツした大きい顔にくっついている。アルスは大男の寝顔を見て思った。どこが……どこが勇者なんだよ。
     アルスは勇者の剣を腰から外す。後ろの二人はアルスの動向を黙って見守っていたが、あまりの酒臭さに我慢できなくなって部屋から離れた。
     アルスは勇者の剣を「そうれ」と大男の上へ放り投げた。程なくして、勇者の剣の落下は始まり、大男の逞しい胸へのしかかった。

    「ぐ……!」

     のしかかった瞬間、大男は体をくの字に折り曲がらせた。一瞬なにが起こった分からないのは当然の事だろう。大男は息をヒュッヒュッと小刻みに吐きながら、胸にのしかかっている何かをどうにかしようと奮闘する。
     が、奮闘の最中、ベッドの横にだれかがいることに気がついたらしい。 
  • 21 私 id:ZplBAL.0

    2011-09-16(金) 18:44:51 [削除依頼]
     大男は、アルスを大きな瞳で捉えた。

    「何……だ、お前」

     大男は苦しそうに言った。

    「勇者だ。勇者の剣に選ばれた、真の勇者だ」
    「は……?」
    「そして、お前の胸に乗っかっているのは勇者の剣だ。勇者の剣は持ち主を選ぶ。どうやらその様子だと、お前は真の勇者ではないようだな」

     大男は意味が分からないと瞳で訴えた。
     アルスは観念したか? と後に付け足したが、尚も大男は困惑の表情を変えなかった。
     大男の体はそろそろ限界が近づいているらしく、アルスに縋り付くような目をしている。
     このままでは、この男を反省させる前に、殺してしまう。そう思ったアルスは、男の胸から勇者の剣を外してやった。
     男はその瞬間にバッと、体を起こし、激しく吸って吐いてを繰り返した。
     もはや、これは反省させる必要などなかったのではないか。充分に、懲らしめきった。というより、なんだか自分が悪者のような気がしてきたアルスだった。

    「フ……これに懲りたら、二度と勇者の剣に選ばれただなんて言わないことだな。偽物め」

     男は、少し落ち着いた様子でアルスを見やる。

    「お前が勇者……? 勇者の剣に選ばれた?」

     その言葉を聞くに、どうやら、何がどうなっているかを理解したらしい。アルスはそうだ、と頷いた。
     男は、ベッドから立ち上がった。予想以上にでかい。部屋の天井に頭がつきそうなほどだ。
     男は、じろじろとアルスを眺めてくる。そして、「フン」と鼻で笑い飛ばした。
  • 22 私 id:ZplBAL.0

    2011-09-16(金) 18:51:46 [削除依頼]
    「お前が勇者だと……? 笑わせてくれるぜ」
    「何?」

     男は、ため息をついた。直後、男の太い太い右足がアルスの胸を捉えた。アルスは部屋の端まで吹っ飛んだ。瓶や皿の倒れたり、あるいは割れたりする音が室内に大きく響き渡る。
     アルスは一体何が起こったのか分からなかった。とりあえず、男がため息をするところまでは分かった。だが、たった今、自分がなぜ、この位置まで吹き飛んだのかが全く分からなかった。
     ただ、分かったのは、この男が反省する気など毛頭ないということだ。あと、腹がものすごくいたい。息が出来ん。
     男は、のそのそとそこらに近づいてくる。口には下卑た笑いを浮かべていた。

    「調子に乗るなよ、小僧。妙に重い剣を持ってるだけでよ。どうせなんかの魔法だろう? 魔導師風情が勇者様に刃向かうんじゃねえ、よ!」

     男の足がまたもアルスを捉えた。今度は後ろに壁があったので、吹き飛ぶことも出来ず、アルスは足と壁との二つにダメージを受けた。
     なんとか、意識を保てる程の威力だった。逆を取れば、もう少しで気絶するほどの威力を持つキックだったのだ。
     男は、もう一度アルスを蹴ろうとしている。流石にもう一度喰らうのは勘弁だ。アルスはハイハイで、男のキックを躱そうと試みた。が、床に散らばる、酒瓶が邪魔になり、上手く動くことが出来ない。
     既に男の足はアルスの眼前に迫っていた。まずい。アルスは反射的に目を閉じた。
    (俺の顔面に、あの威力が伝わる。当然鼻や唇は無事じゃすまないだろうな)
     糞。反省なんてハナからしないつもりだったのか。確かに、自分は勇者なんて柄じゃないし、魔導師に思われただけでも及第点を通り越して100点だろう。だがな、お前だって勇者なんて柄じゃない。お前なんて百歩譲って、山賊の頭領だろう。
     終わった、と思った。おそらく、次に目を開いた時は、天へと召されている頃だろう。良くて、包帯グルグル巻きで、病院のベッドの上だ。
     だがしかし、いつまで立っても、あの鈍い痛みは来なかった。まさか本当に死んでしまったのか……?
     いや、瞼は動く。
     アルスはそっ、と目を開けてみた。
     すると、男が両手を挙げて降参の合図をしているのが目に入った。
     何故? と思ったが、男の喉元に剣が威嚇するように突きつけられている。
     どうやら、ガイアがすんでの所で、男を止めることに成功したらしい。従者がいて良かったと思える瞬間だった。

    「おーい。大丈夫か勇者アルス」
    「ああ、大丈夫だ」
  • 23 私 id:ZplBAL.0

    2011-09-16(金) 18:54:39 [削除依頼]
     アルスは立ち上がろうとした。が、上手く水平を保てず、何度か尻餅をついた。
     やっとのことで、きちんと立つことの出来たアルスは。降参状態の大男に近づく。

    「良くもやってくれたな偽物」

     それに対して、大男も「うるせえ偽物」と唾を吐き付けた。

    「まあまあ御両人。落ち着いて落ち着いて」

     ガイアは剣を戻して二人の間に割って入った。

    「まあ、俺は当然、本物はこちらの生意気な小僧だとは思っている。だが、もしかしたらそこのでっかいあんたがそうかもしれん。だがしかし本物偽物関係ねえよな。勇者ってのは。いかに、人を助けることができるかだ」

     ガイアは二人の顔を交互に見やり、更に続ける。

    「ということでよ。魔物を倒した奴が真の勇者だってことで良いだろう? 勇者の剣に選ばれた選ばれてないは関係ない。人や街を救ったかどうかだ」

    「だろう?」とガイアは二人を説き伏せるよう言った。こういった、説教癖があるのも城で兵士長をやっていた経験から来た物だろう。
     アルスは素直に従った。良いだろう、やってやるさ。アルスは唾を男の足に吐き付ける。
     男もどうやら、納得したらしい。アルスにぎらぎらと燃える瞳を投げかけている。

    「おし。じゃあ決まりだな。とりあえずは、明日から狩りを始めて。先に魔物の首を獲った方が勝ち勝ちということでいいな」

     二人は頷いた。

    「そうだ、名前はなんて言うんだよ偽物」

     アルスが訊ねる。

    「ゴーンだ。おまえはなんて言うんだよ偽物」
    「俺はアルスだ。そして本物だ。お前は偽物だ」

     二人はしばし、偽物だー本物だーの論争を繰り広げていた。
     ガイアとクラリスはそれを呆れた様に静観していた。

     かくして、アルスとゴーンは真の勇者の座をかけ、狩猟勝負を始める事となったのである。
     今回ばかりは、尻込みすることの出来ない戦いとなった。皿洗い始め、今までやってきた仕事は訳の違う、まさしく勇者の仕事だ。
     アルスは震える体に鞭を打ちつつも、明日に備え、作戦を立てることにした。
  • 24 私 id:ZplBAL.0

    2011-09-16(金) 18:57:41 [削除依頼]
    >23 勝ち勝ちとは如何なる物か。 誤字は発見しにくいんです
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