幻影師は夢を見る。20コメント

1 ヒナミ id:QXGi6qJ.

2011-09-09(金) 22:22:43 [削除依頼]


 だって、この夢の世界を愛しているの、無限ループ、止めたって無駄なのです
  • 2 ヒナミ id:eRFREcd0

    2011-09-11(日) 21:02:51 [削除依頼]


     ぐろいシーンが入りますので、お気を付けくださいm(__)m
  • 3 ヒナミ id:eRFREcd0

    2011-09-11(日) 21:03:11 [削除依頼]


     ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン……。

     朝、目覚め始めた街に張り巡らされた毛細血管のような線路を、電車は規則正しいリズムを奏でながら進んでいく。
     時刻は七時半、通勤通学ラッシュだ。
     巨大な箱の連なりには何百人もの人が窮屈に押し込められていた。
     
     少年――枝垂柘榴はそんな空間に身を置いていた。

     明るい髪に幼さの残る顔立ち、低い背、大きな瞳は、坊ちゃん風なのに飄々とした雰囲気の猫を思わせる。
     近隣には見当たらない学校の制服の胸ポケットに携帯型音楽端末を忍ばせているのだろう、イヤフォンのコードが彼の両耳まで繋がっている。
     柘榴は吊皮を持ったまま目を閉じ、無意識のうちに流れている曲の鼻歌を蚊の鳴くような小さな音量で歌い始めた。
     いよいよ曲のサビに入ろうとしたその時――柘榴は左側頭部に妙に強い衝撃を感じた。
     顔だけ左の方へ向けると、頭の禿げかけた中年のサラリーマンが眉間にしわを寄せ、柘榴を睨んでいた。

    「うっせぇぞ。ちゃんと座れ」
     
     ぷん、ときついアルコールの匂いがした。
     おそらく明け方まで飲んでいたのだろう、スーツはシワクチャだしネクタイもゆるゆるでいつほどけてもおかしくない。

     柘榴は何も言葉も発さずに、左側頭部がジンジンするのは気にせずにサビに集中しようとした。
     しかし中年はさらに言葉を重ねる。

    「おい、聞いてんのか。ああ? ガキがよぉ。お前らがそうやって安穏と学校に行けるのは、俺らがこうやって懸命に働いて日本を動かしてるおかげだ。わかってるのか? ああ!?」

     中年の声が車両に響き渡る。
     楽しそうに喋っていた学生も、ひたすら携帯電話をいじっていたサラリーマンも、口をつぐんでいた。
     柘榴はなお答えずにただひたすらイヤフォンから流れる曲に耳をすましている。
     中年の顔がカッと歪み、握りしめられたこぶしが振りあげられ――

     柘榴の左ほおに喰いこみ――

     
     ごろん。


    「き……」

    「きゃああああああああ!!!!!!」


     その周辺の人々の視線は、床に転がったただ一つのものだけに向けられていた。
     中年が茫然としてそれと自分のこぶしを見比べている。
     それとは――――――


     いましがた柘榴の首の上から転げ落ちた、まぎれもない彼の首であった。
  • 4 ヒナミ id:eRFREcd0

    2011-09-11(日) 21:26:22 [削除依頼]


    「全く……本当に悪趣味な人ですね、貴方は?」

     同時刻、線路沿沿いにある神社の大木の枝に、二人の人影があった。
     漆黒の長い髪を後頭部で一つに縛り、例の電車を見ながら気まじめそうに大きなため息をついている。長身で端正な容貌に鋭い双眸の少年の横では、

    「ははっ。そうかなっ? 一度やってみたかったんだよ、あれ。なかなか面白そうだろ?」

     先ほど電車内で首を落としたはずの枝垂柘榴が軽快に笑っていた。
     少年は困ったものだ、というように、
    「許可されるはずがありません。あんな事」
    「だからさ、不可抗力だよ。ねっ? 頭と頬を殴るなんてさぁ、ましてや僕の……」
     柘榴の猫のように飄々とした雰囲気が一瞬だけ、翳る。

    「愛おしき幻影を……」

    「今頃、車内は大パニックでしょうね。どこかの誰かさんの悪趣味のせいで」
    「科(シナ)って皮肉っぽいよねぇ」
    「ええ、俺はただ御主人の反吐が出るような趣味を更生させてさしあげたいのですよ」
    「……うん、反省するからさ。ただの悪ふざけだし。そんなに言われたら僕も傷つくよ……?」
    「失礼しました」
     科と呼ばれた少年は枝に乗ったまま優雅に会釈した。柘榴と同じ制服が翻る。
    「じゃあ、そろそろ学校に向かおうか。入学早々遅刻も気まずいしね」
    「そうですね」
    「それにしても……」
     柘榴が眼下を見下す。 
     二人がそんな会話をしている間に、電車は線路の真中で停止していた。 
    「あのおっさん、ちょっとは反省してくれたかなっ?」
     
  • 5 ヒナミ id:eRFREcd0

    2011-09-11(日) 21:27:16 [削除依頼]

    2》
    「座れ」は省いてください
     わけわからん
  • 6 ヒナミ id:ymhAOmO1

    2011-09-12(月) 21:22:30 [削除依頼]


    「聴いて、聴いて―――――っ!! 今世紀最大の大・大・大・大ニュースっ!!」

     それから二十分後、長い下り坂を駆け下りながら、塀の上で転寝をしていた猫が飛び上がるくらいの大声をとある少女が上げていた。
     腰に届くほどの長い黒髪を無造作に垂らし、楽しそうに笑う口から鋭い犬歯が覗いている。黙ってさえいればさながら淑やかな美しい人形のような容貌だ。
     近隣の中学の制服であるセーラー服の襟が勢いよく翻る。
    「うっさい」
     あくび交じりに少女に応じるのは、同じ中学の白シャツを身に纏う少年だ。
     少し伸びすぎた前髪から、漆黒の瞳が見え隠れしており、本人は鬱陶しそうにそれをいじっている。
    「お前は、もうちょっとでもいいから、黙って行動できないもんかね、釣瓶よ」
    「にゃははっ。だって、これがうちだもんっ。今更生き方は変えられないねっ」
    「あー、はいはい。で? どーしたって?」
    「おおっ。聴いてくれるんだね、恭也君。実はニュースは二つあるんだよー。どっちから先に訊きたいかねっ?」
    「どんなニュースだ」
    「えっとねぇっ。めちゃくちゃ面白いニュースと、めちゃくちゃ気になるニュースだよん」
    「お前に説明を求めた俺が馬鹿だったよ。……じゃあ、面白い方で」
    「面白い方だねっ」
     少女――釣瓶みのりは満開の向日葵のように、にかっと笑った。
  • 7 ヒナミ id:ymhAOmO1

    2011-09-12(月) 21:38:14 [削除依頼]


    「今朝のニュースなんだけど、たぶん二十分前くらいかなっ? ケータイの最新ニュースで観たからさ。
     この近くの電車でね、中年男――ああ、アル中のね――が男の子を殴ったんだって。怖いよねぇ。そしたら男の子の首が取れちゃってさぁ。うん、ぽろって。
     慌てて電車を停めたら、警察が来る前に、すぐにその男の子の身内の人が車でやって来て遺体を回収して行ったんだって。飛び散った血もすごく少なくて、その人たちが全部拭いて行ったんだってさ。
     それで完全にその車が立ち去った後に、警察が来て中年男を逮捕したとか、でも何せ証拠をその人たちが残していかなかったから何にも無くって出来てないとか。
     ねっ、すっごく面白いでしょっ?」

    「…………」
    「ねぇねぇっ。恭也君ってば」
    「…………」
    「ねーえっ!」
     みのりはうんともすんとも言わぬ恭也――松岡恭也の顔を覗きこもうとするが、恭也は必死でそれを阻止する。
     そして、みのりはにんまりと笑うと「ははあ」

    「怖いんだぁ、恭也君」

    「なっ……んなわけ……!」
    「恭也君、昔っから血とかぐろいのとか苦手だもんねぇ。ブラック・ジャックの手術シーンをうちが見せつけた瞬間なんて半泣きだったもんねー」
     ぷっぷー、と笑うみのりに、恭也は顔面をみるみるうちに真っ赤に染め、
    「昔の話だろ!」
    「じゃあ、今は直視できるんだっ? 理科のカラー資料集」
    「でっ、できるに決まってるだろ!」
    「蛙と鮒の解剖ね。あの内臓が見え見えのやつ」
    「……できる」
    「ふーん。実はうち、今持ってんだよねぇ。見る?」
    「何で持ってんだ!」
    「えっとー、何処だっけなぁー」
    「やめろぉ――――――!!」
  • 8 ヒナミ id:Z0JFbDw/

    2011-09-13(火) 19:03:53 [削除依頼]


    「……で、もう一つのニュースは何なんだ」
    「うっわー。話ずらした、恭也君。めちゃくちゃ気になる方っ?」
    「あー、うん、そう」
    「これは噂だけどさ、心して聞くんだよっ」
     みのりは軽やかに恭也よりも一歩、二歩、前に進むとくるりと振り返った。
     長いみどりの黒髪が夢のように広がる。

    「転校生が来るのさっ!」

     
     夏休みが明け、蝉の求婚も徐々に勢力を衰え始めていた初秋――。

     世界の輪郭がぼやけ始める。
  • 9 ヒナミ id:Z0JFbDw/

    2011-09-13(火) 19:28:32 [削除依頼]


     教員室。

    「こんにちは、じゃなくって、まだ、おはよう、ね。こほん。では改めまして、おはようございます。そして初めまして、枝垂柘榴君に傘凪科君。今日から貴方達の担任になる、笹倉杏里です。よろしく」
     
     杏里は眼前に立つ二人の転入生に向かって、にっこりと微笑んだ。
     柔らかいブラウンの髪、白いマキシ丈ワンピースにニットのカーディガンを羽織った、おっとりとした雰囲気のまだ若い教師だ。
    「はい、よろしくお願いします、笹倉杏里先生」
     枝垂柘榴はきゅ、と日向ぼっこをする猫のように目を細めて右手を差し出した。
     杏里は慌ててその手を握り返す。
    「よろしくお願い申し上げます、笹倉先生」
     傘凪科はその固い表情を緩めることなく、深々と頭を下げた。
     後頭部で一つに結んだ黒髪がその拍子にさらりと肩から零れ落ちた。
    「よろしくね。みんな、良い子たちだからきっと仲良くなれると思うのよ。あら、もうすぐチャイムが鳴るわ。では行きましょうか」
     そして杏里は二人を連れて教員室を出ると、改めて二人を見て、あら、と声を漏らした。
    「まだ、制服が届いてなかったのね。もうすぐ届くでしょうから、今日はその恰好で良いかしらん?」
    「ええ、もちろんです、先生」
     柘榴はまたにこやかにほほ笑んだが、科は黙りこくっていた。
     杏里は科を見ながら、何かいけない事しちゃったかしらん、と不安になりながらも、自らその不安もかき消すかのように笑った。


    「幻庭学園へようこそ!」
  • 10 ヒナミ id:AZ0B6Wm/

    2011-09-21(水) 12:56:52 [削除依頼]


    「というか、何でお前がそんな事知ってんだ?」
     朝拝の始まる五分前の教室で、恭也は鞄を机の上に置きながら怪訝そうな顔をしていた。
     恭也の後ろの席のみのりは鋭い犬歯を覗かせながら、
    「知りたいかい?」
    「いや、やっぱりいい。知らなくていいわ」
    「昨日、笹倉ちゃんが廊下で不安そうに溜息ついてたから、何故にっ? って思って声かけたら、教えてくれたのさっ。あ、その後に慌てて口止めされたから恭也君も、誰かに言っちゃだめだよー」
    「お前なあ、担任困らせんなよ」
    「見解の相違さっ」
     何がだ。
     と小さく口内で呟くと、恭也はすとん、と固い木製の椅子に腰を下ろした。
    ――担任の笹倉先生が不安そうだったっつーことは
    ――転校生が転入してくるのは……
    ――うちのクラスってわけか
    「転校生……ねぇ?」
  • 11 ヒナミ id:0On79YW.

    2011-12-22(木) 18:02:03 [削除依頼]


     杏里が先頭を切って三人が教室に向かう途中。
     科は無愛想に唇をぎゅっと固く結んだままだし、にこにこ微笑んでいる柘榴は何だかこの気まずい沈黙すらも楽しんでいるような気がする。
     元々お節介な所がある杏里はついに沈黙に耐えられなくなり、
    「そう言えば、二人はお友達なのね? もしかして、幼馴染とか?」
     思い切って二人を振り返ってそう尋ねてみた。
     すると柘榴は「ええ!」と元気よく返事したが、あくまで科はその無表情を崩さずに
    「幼馴染は本当ですが、断じて友達ではありません」
     杏里はぽかぁん……と口を開け「そ、そう……なの?」とかろうじて返事をした。
    ――え? え? どどどどどどど、どういうこと?
    ――幼馴染だけど、友達じゃないって……それ、仲良いの!? 悪いの!?
    ――でででででも枝垂君は「ええ!」って……あれって肯定じゃないの!? 違うの!?
     杏里が一人で困惑していると、柘榴が「やだなぁっ」と軽快に笑いながら科の背中をばんばん無遠慮に叩いた。
    「今朝、ちゃんと言っただろ? 僕と科は友達だって。忘れたのか?」
     その言葉に、科は「ああ、そういえば、貴方はそんなことをほざいてましたね」と呟いた。
    「確かにそういう設定でした。失礼しました」
    「うん。解ってくれればいいのさ。ははっ」
     柘榴はなおも軽やかに笑い声をあげる。
     しかし科は依然、掴みどころのない無表情だ。
     二人の会話を聞いて、杏里はますます困惑した。

    ――今朝、友達って……言った……?
    ――ほざく……?
    ――設定……?

     杏里の思考回路はもはやショート寸前だった。

    ――思春期って……複雑……よね……うん……きっと、そうよ……

    ――がんばれ、あたし!
  • 12 ヒナミ id:0On79YW.

    2011-12-22(木) 20:16:41 [削除依頼]


    「ねぇねぇ、恭也君、恭也君っ」
    「うっせぇな。何だよ」
     恭也は鬱陶しさ半分恥ずかしさ半分で、わざとぞんざいな口調で言った。
     ただでさえ(性格が性格とはいえ)こんな美少女と登校しているだけで友達から、やっかまれるやら冷やかされるやらなのに、その上教室でも仲睦まじく(見えるそうだ)話していてあらぬ噂をたてられるのは、ごめんだ。
     しかし、みのりは全く気にすることなく話し続ける。
    「転校生って、どんなんだと思うっ?」
    「知らん」
    「知ってるか訊いてないじゃん。うちが聞きたいのは、恭也君の予想さっ」
    「別に、何も考えてない」
    「うちはねー」
     おい、聴けよ、と恭也は内心思ったが、言わないでおいた。
     みのりが無意識のうちにさらりと長い髪をかきあげる。
     ふわ……っと何だか良い香りがして、どきりとした。 

    「面白ければ、何でもいいかなっ」
  • 13 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 21:10:40 [削除依頼]


     ガラッ――と、杏里が教室の引き戸を開けた。
     教室が、彼女の後ろに控えている見慣れない二人にざわめく。
     みのりに至っては前席の恭也の背中をばんばんと叩いていた。
    「はいはーい、みんな、静かにしてね」
     杏里は教壇に立つと、すぅっと深呼吸をした。その姿は、まるでこれから発表会の司会を務める幼児のようだ。
    「転校生を二人、紹介するわね」
    ――二人も? 同じクラスに?
     恭也は疑問に感じたが、皆はそんなことよりも二人の転校生自身に興味があるようだった。
    「入って。二人とも」
     杏里の言葉に、一人の少年は愛想よく頷き、もう一人の少年は仏頂面で足を踏み出した。
     愛想が良い方の、背が低くて童顔の少年は教壇に立つと何も言われていないのに、白のチョークで自らと幼馴染で友人の名前を深緑色の黒板に記した。

     
     枝垂 柘榴

     傘凪 科


     
  • 14 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 21:13:03 [削除依頼]


    「しだれ、ざくろ、です。よろしくお願いします」
     その後間髪いれず、仏頂面で整った顔立ちの長身の少年が続けた。
    「カサナギ、シナ」
    「よろしくね」
     何故か柘榴がそう言い、杏里の方に向き直った。
    「先生、僕たちの席は?」
    「え……っと」
     杏里は二人の少年に気圧されながらも、自分は担任だ、と気を取り直して、すぅっと人差し指を伸ばした。
    「枝垂君は窓際の一番後ろで、傘凪君は廊下側の一番後ろよ」
    「ありがとうございます」
     柘榴がそう微笑む間に、科はさっさと指示された席へと向かった。
  • 15 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 21:30:05 [削除依頼]


     端麗な顔立ちのせいか、科の周囲の女子はほんのりと頬を赤らめながら、ひそひそと「ねぇ、かっこよくない?」「あたし、結構、タイプかも」等と言いあっている。
     科は眉ひとつ動かさず、足を止めると言いあっていた女子に向かって
    「傘凪君? な、に……」
    「俺の事に関してひそひそ話すのはやめて下さい。不愉快です」
     絶対零度の言葉を放った。
     女子の動作がぴきっと急停止する。
    「もしも、それが深い事情があっての事なら百字以内でお答えください。十秒くらいなら時間をあげます」
     シィン……ッと空気が凍った瞬間だった。
     恭也はあんぐりと口を開け、みのりは「へぇぇ」という顔をしていた。
     科は表情一つ変えず、自分の席へと向かった……と思ったが、くるりと振り返り
    「追加です」
     まだあるのか、と恭也は思ったが口には出さなかった。
     もはや教室は科の支配下にあったし、恭也にはそんな度胸は無い。
     科はぴっと柘榴を指差した。
    「あの人に関してのことも、ダメです」
     女子はしばらく圧倒されていたが、元々気の強い性格なのか、ぐっと持ち直した。
    「な、なんでよ。別に、いいじゃん。何がだめなのよ」
    「不愉快だからです。納得いただけましたか?」
    「不愉快って……なによ、それ、何なのよっ」
    「はっきり申しますと、貴方のその醜い顔を拝見するのも、醜い声を拝聴するのも、俺には酷ですね。大いに不愉快です」
    「な……っ」
     あまりの毒舌に圧され、女子は酸欠の金魚みたいにしばらく口をぱくぱくしていた。
    「では、失礼します」
     科は何事もなかったかのように、すとん、と席に腰掛けたのだった。
  • 16 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 21:36:36 [削除依頼]


     教室にはしばらく何とも言えない沈黙が流れていたが、柘榴の軽やかな声がそれをいとも簡単に破った。
    「科」
    「はい」
    「言葉には、気を付けて。だめだよ、そんなこと、女の子に言っちゃあ」
    「はい」
    「可愛い子じゃないか」
    「可愛いか醜いかは人の価値観です」
    「ダメだよ、科。可愛くない女の子なんていないよ。ね?」
     先ほど科に暴言を吐かれたばかりの女子に向かって、柘榴はにこっと笑いかけた。
     女子はかっと顔を赤らめると、ふっとその顔をそむけた。
    「ほらね、可愛いじゃないか」
     柘榴はいまいち要領の掴めない笑顔を浮かべていた。
  • 17 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 21:48:22 [削除依頼]


     柘榴はその笑顔を保ったまま歩を進めると、窓際の一番後ろの席――みのりの隣席に腰掛けた。
    「よろしくっぽ」
     人見知りを知らないみのりが奇妙な挨拶を投げかけると、柘榴の笑いながら
    「よろしくね」
     と微笑んだ。
     恭也も自然に左後ろに目線を向けてしまう。
     バチッと火花が散ったかと思うほど強烈に、目があった。
     柘榴の深い湖のような瞳が、恭也の瞳を見据えている。
     そこには、さっきまでの軽快な頬笑みはなく、あるのはただ「真剣」な光だった。
     しかし、それも儚い夢だったように、すぐにきゅ、と目を細めると
    「よろしくね」
    「あ、ああ……よろしく」
     ――気のせい?……か?
     恭也が不思議に思っていると、みのりはぐいっと柘榴の方に身を乗り出した。
    「恭也君はねぇ、人見知りなんだよっ」
     要らんことを告げ口するみのりを恭也は軽く睨もうとしたが、はっと息をのんだ。
     そこには、やはり確かに真剣な瞳があった。
     ようやく獲物を見つけた肉食獣のような危険な光――。
    「恭也……君?」
    「うんっ。うちは、釣瓶みのり。で、こっちが……」
     みのりがちょんちょんと、口を半開きにしていた恭也のひじをつついた。
     それに気付くと、恭也は慌てて
    「松岡……恭也……です」
     柘榴が「ふぅん」と呟いて、笑った……気がした。
     それは、愛想の良い笑顔じゃなくて、もっと濃くて、もっと妖しい、笑顔だった。

    「釣瓶みのりさん、松岡恭也君、これから、よろしくね」

     そして柘榴はこう付けくわえた。


    「色々、さ」
  • 18 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 21:56:08 [削除依頼]


     それまで茫然自失だった杏里ははっと我に返り、急に

    「こらっ!」

     と教室中に響き渡るような大声を出した。
     ほとんどの生徒が驚いて杏里を見上げたが、だれよりも杏里自身が自分の声に驚いているようだった。
    「かっ、傘凪君っ!」
    「はい、何でしょうか、先生」
     1?も動じない科の態度に杏里はひるみそうになったが、
    「そっ、そんな風に、人をけなしちゃ、いっ、いけませんっ!」
    「すみませんでした」
    「え……、あ、えっと、わっ、解ればいいんです」
     淡々と反抗されるかと身構えていた杏里は、あっさりと謝罪した科に拍子抜けし、その後ひとり言のように
    「そう……解ればいいの……解れば……」
     ぶつぶつと呟いていたが、朝礼の開始を告げるチャイムが鳴り、杏里はまた我に返った。
    「えっと、じゃ、これで転校生の紹介は終わりです。皆、仲良くしましょうね!」
  • 19 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 22:03:28 [削除依頼]


    「皆、仲良くなんてできるわけない。ただの理想だ」
    「それでも言ってなきゃ叶わないじゃない」
    「違う、妄言だ」
    「これだけ裏切られたのに」
    「もう信じられない」
    「誰も助けない。もう傷つきたくない」
    「だれかに依存したいだけでしょう? 弱虫」


    「皆、覚めない夢が見たいんだ――」


     
  • 20 ヒナミ id:WTTbCF3/

    2011-12-25(日) 22:07:26 [削除依頼]


    「ねぇ……」
     優しい、低い声だった。
     まるで世界を全て包み込むような、包容力のある声だった。
     ふわふわと雲の中にいるみたいだ。
     白い世界。透明な世界。
     ずっと、こうしていたい。
     そしたら、どれだけ幸福なことだろう……。

    「そろそろ、起きては如何でしょうか。そして、その馬鹿面をなんとかすべきでは?」

     
     
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