イン・ザ・ライト13コメント

1 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

2011-09-04(日) 19:25:07 [削除依頼]
「私が死んでみたって、生きていたって、何も変わるものなど無いではないか。私の代わりなど、この世にいくらでもいるのだから」
 とその青年は言った。
 するとその老人は、
「あなたの代わりなど、どこにも居ません。そもそも、あなたの代用品など用意して、誰が得するというのですか?人は、無くなったら困る物にしか、保険を掛けないのです」
 と言った。


 アルマートル・F・フランクル著/『春風の叫び』より抜粋
  • 2 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

    2011-09-04(日) 19:36:28 [削除依頼]

     僕と同姓同名の人間を世界中で探してみたって、そう簡単には見つからないと思う。それは僕の名前が変わっているからだ。
     第一に僕はハーフだ。
     しかも父方の家は、良くも悪くも日本に古来からある由緒正しき旧家だ。大昔は貴族だ何だと威張り腐っていたようだが、それも太平洋戦争が過ぎれば、足した権力も財力も持たないくせにプライドだけは高い、頭でっかちで厄介な老人が指揮を握る面倒な家になっただけだ。
     その家が僕に与えた、古い家独自の難解な漢字が多用される苗字と、ロシア人の母方の家から頂いたロシア語の名前が入り交ざって、僕はとても人に覚えて貰えないような、長ったらしく訳の分からない名前になっている。
     でも僕という人間において変わっているところは、ハーフであるということと、変な名前であるという事だけだ。
     父親の血が濃いのでさほど外人顔でもないし、母は元々日本人留学生で、日本で父と結婚した。だから僕は生まれも育ちも日本人だ。
     日本語しか話せない、ただ普通の中学生だ。
  • 3 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

    2011-09-04(日) 19:54:43 [削除依頼]
     僕がその事を話すと理恵は言った。
    「そんなことないわよ。あなたは相当変わってるわ。社会人間的にね」
    「社会人間的に?」と僕は聞き返した。
    「そう。人間的に。人って、そのステータスと年齢で、大抵は適当で常識的な役割と立場があるものよ」
    「例えば?」
    「具体的に言うと、女性は優しくって体が華奢。男性は活発で体が頑丈。小学生は子供だから外で元気に遊んで夜早く寝る。中学生は思春期だから悩んで暴れて苦しんで成長する。高校生は徐々に社会に順応してくる。大学生は暇をもてあましてる。そういう具合にね」
     僕は納得がいかなかった。
    「でもそれはあくまでイメージだろう?頑丈な女の子だっているし、軟弱で不活発な男だっている」
     彼女は頷いて続けた。
    「そうね。外で遊ばない小学生も、悩まずに成長もしない中学生も、順応できない高校生も、忙しい大学生もいるわ。それはあくまで社会上のイメージよ。社会の構造から読み取れる、おおまかな想像よ。それの『中学生』という想像の枠から、あなたは逸脱してるのよね」
  • 4 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

    2011-09-04(日) 19:58:27 [削除依頼]
     失礼な事を言われているような気がした。
    「――例えば?」と僕は聞き返した。
    「例えば、想像の枠に納まっている中学生は日曜の深夜にバーでピナコラーダなんて飲まない。23歳のOLと付き合わないし、アルマートル・フランクルの本も読まない」
     今日は日曜日で時刻は午前二時で、僕はピナコラーダを飲んでいた。上着のポケットにはアルマートル・フランクルの文庫本が入っていた。
     理恵は、今年で23歳になる。そして理恵は、僕と交際関係にある
  • 5 ウォルター id:ez-7pCYjQy1

    2011-09-04(日) 20:04:41 [削除依頼]
    この文章のクールで安定した感じは良作の匂いがぷんぷんしますね。

    応援しています。頑張って下さい。
  • 6 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

    2011-09-04(日) 23:07:54 [削除依頼]
    ウォルターさんコメントありがとうございます。

    文章の雰囲気は、ある有名作家に影響されちゃってます……^^;
  • 7 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

    2011-09-04(日) 23:16:36 [削除依頼]
     僕はピナコラーダを一口啜った。
    「そんなに変かな?中学生がこういう状態になっているのは、社会の枠からはみ出ている?」
     理恵はカウンターの向こうに並んでいる酒瓶を見ながら答えた。
    「まぁ、法に触れている以上、貴方ははみ出し者よね。法なんて馬鹿みたいなものだけれど、それでも地味に規範の線引きになってるのよ」
     規範の線引き。
    「確かに」と僕は返した。
     そしてピナコラーダを飲み干して、「もう出よう」といった。彼女は一瞬だけ不満そうに眉をゆがめたが、すぐに合点が行ったように頷いて、二人で席を立った。
     たとえ何があっても明日は月曜日だし、学校だ。
     僕は煙草臭く居心地が悪い地下のバーから、排気ガス臭く居心地の悪い街に這い出た。
     
  • 8 眼玉焼き id:1E2N1Dl/

    2011-09-04(日) 23:31:11 [削除依頼]

         Ψ Х Ξ

     翌日、僕はいつものようにベットから起きて歯を磨いて朝食を取り、顔を洗って仕度をし、スクールバスに乗って学校へ向かった。
     月曜日の朝は街そのものが憂鬱に見えた。誰もが眠たげで不満げでイライラしていて、取り付く島もないような雰囲気だ。
     僕も不満だしイライラするけれど、それを理由に中学生が学校に行かないというわけにはいかない。理恵の言葉を使えば、社会人間的に許されない行動だ。
     学校に向かう途中のバスの中では、街に生きる様々な人々が見えた。会社行きのサラリーマンに学校行きの小学生にゴミ出しの主婦にホームレスに……
     見ていて訳が分からなかった。街全体が、様々なものでごった返したカオスだった。
     そして僕もその一員を担っている。中学生という立場で。

         Ψ Х Ξ

     学校に着くとすぐに職員室に呼び出された。
     飲酒の件かと思ったが違った。それはそうだ。あのバーの店長は法に対して慣用な、ごく少ない大人だ。 


     内向的反抗期 
  • 9 眼玉焼き id:yjyQf1g1

    2011-09-05(月) 20:57:17 [削除依頼]
    うわ何かミスった。 >8の途中から直します。
  • 10 眼玉焼き id:yjyQf1g1

    2011-09-05(月) 21:36:51 [削除依頼]
         Ψ Х Ξ

     学校に着くとすぐに職員室に呼び出された。
     飲酒の件かと思ったが違った。それはそうだ。あのバーの店長は法に対して慣用な、ごく少ない大人だ。
     今年で四十二になる、額の後退が見るも無残な、クラスの担任教師が僕に向かって言った。
    「お前、金曜日に俺が言ったこと覚えてるか?進路調査票、ちゃんと書いてきたか?」
    「はい」と僕は言った。
    「じゃあ悪いが今出してくれ。こういうのは遅れると本当に面倒なんだから」
     僕は無言で紺のスクールバックのファスナーを開け、ヨレヨレのプリント用紙を手渡した。担任教師は、人生に疲れた中年男性特有の顔の歪め方をした。
    「お前、こういう大切な書類は折らずにちゃんと……まぁ、いい。ちゃんと親御さんと話して決めたんだろうな?」
    「はい」と僕は嘘をついた。
     最近の生徒は親の名前まで勝手に書いて提出すんだもんなぁ、と担任教師がぼやきながら僕のプリントを机の書類の山に重ねた。
    「じゃ、ご苦労さん。教室行って良いぞ」
    「はい。失礼しました」と僕はズボンの右ポケットの中で中指を立てて言い、ズボンの左ポケットの中で親指を下に向けて職員室を出た。
  • 11 眼玉焼き id:yjyQf1g1

    2011-09-05(月) 21:37:46 [削除依頼]

         Ψ Х Ξ

     進路希望調査票の保護者記入欄は理恵に書き込んでもらったものだ。
     僕が『公立高校進学』と書いたその紙を見ると理恵は、「進学するの?」と僕に聞いた。
    「たぶんね」
    「他人事みたいに言わないでよ」
    「なるほど?」
     はぁーあ、と理恵は溜め息をついた。
    「自分の将来なのよ?確かに私だって中二の頃はなぁんにも考えてなんていなかったけど、それでも今の貴方よりは自分の人生に真面目に生きてたわ。せめて行きたい高校ぐらい探せば?」
     僕は少しだけ腹が立った。
    「まだ先の事だろう?」
    「来年はもう受験生じゃない」
    「そんな先のことは誰にも分からないよ」
    「あのね」と理恵は頭を抑えながら言った。
    「あなた、まだ若いから時間に対して余裕に構えていられるだけなのよ。その内に絶対に後悔するわよ、若いうちからそういう考え方だと。どれだけ後悔したって時間は戻らないし、なかなか思い返せないものなの。歳を取れば貴方もわかるわ。だって貴方、去年の事を思い出してみなさいよ。ろくに思い出せやしないでしょう?」
     僕は腕の虫指されの後を見ながら答えた。
    「そんな昔のこと誰も覚えてないからさ」
     はぁーあ、と理恵はまた溜め息をついた。
  • 12 眼玉焼き id:yjyQf1g1

    2011-09-05(月) 21:39:12 [削除依頼]

         Ψ Х Ξ

     そういった具合で僕は社会不適合な人間だ。そうなった理由や家庭は僕にもわからない。なりたくてなったわけじゃないからだ。
     「人は己の意思の届かぬ事の規範を、理論的に実証することは出来ない。」これは僕が霊長類ヒト化の生物の中で唯一、尊敬に値する人物であると思っているアルマートル・フランクルの言葉だ。
     中学生をやりたくて中学生をやっている人間なんてこの世に居るだろうか?
     生まれてきたくて生まれてきた人間がどこにいる?
     僕にわからない事が多いのは、案外そういうことなのかも知れない。
  • 13 ゜甘楽゜ id:rsUwZj70

    2011-09-06(火) 18:02:13 [削除依頼]
    なんか本物の小説家みたいですね!
    関心!
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