ヴィントミューレの廻る世界12コメント

1 玄冬 id:/gjfv0q0

2011-08-26(金) 21:09:43 [削除依頼]

 この世界は空洞で、至極つまらないものだった。
 少なくとも少年にとってはそうだったのだ。
 この世界は虚構で、偽られたモノで溢れていた。
 少なくとも少年にとってはそうだったのだ。

 唯一大切だったものも、今では失われてしまっていた。

 上着がはためく程に風の強い、ビルの屋上。
 少年は越えるべきでない柵の外側に立っていた。

 薄汚れたコンクリートと、眼下に望む灰色の街。
 空の青と白も排気にまみれ、綺麗だとは微塵も思えなかった。

 鳥を真似るように世界を絶つことに、さして未練はなかった。
 少年は既に、他人の悪意によって天涯孤独の身となっていたからだ。
 
「愁、……おまえが居なくなったこの世界は」

 酷く冷たく、息苦しくて。
 少年は、死人のように白い瞼を閉じる。
 誰かの姿を、その裏に思い浮かべるかのように。

「…………」


 ふわりと、舞落ちる羽毛のように緩やかに。
 少年は一歩を踏み出した。
 
 
「憂くんッ……!!」
 
 
 誰かの焦ったような叫び声を最期に聞いて。
 少年の視界は、白く染まった。


-ヴィントミューレの廻る世界 序章-
  • 2 玄冬 id:/gjfv0q0

    2011-08-26(金) 21:29:41 [削除依頼]

     新崎晃という人物は、誰にでも好かれるアイドルのような存在だった。
     眉目秀麗な容姿に、悪くない運動神経とそこそこに良い成績。
     人懐っこく、加えて真っ直ぐな性格も、彼の人気の理由のひとつだった。

     そうして、晃はいつも沢山の人に囲まれている。
     それが普通で、日常で、当たり前のことだった。

    「……」

     晃は人に囲まれるのが嫌いではなかったが、それでもたまにこうして、ひとりになりたくなるときがあった。
     いつもの避難地である学校の屋上に吹く風は爽やかで、心の悪い部分を吹き飛ばして貰えるような錯覚さえ起こしそうな程だった。

     眠りを誘う日の温もりに、晃はひとつだけ、しかし大きな欠伸をする。
     目尻に浮かぶ涙は生理的なものだ。

     ごろり、と埃臭い地面に横になって、晃は微睡みに身を委ねる。

     このときの彼はまだ知らなかった。

     自らの無意識の悪意も、自らにこれから降り懸かるであろう災いも。
     

     眠りの世界は宵闇に包まれている。

     晃は微睡みから睡眠へと深く堕ち、その視界を、黒に沈めた。
     
     

    -ヴィントミューレの廻る世界 序章ll-
  • 3 玄冬 id:/gjfv0q0

    2011-08-26(金) 23:35:43 [削除依頼]
    廻:

     世界が逆さまになるという感覚は、鉄棒に蝙蝠になれば分かるだろう。
     世界が回転するという様は、回るジャングルジムに乗れば分かるだろうか。
     世界がぐちゃぐちゃになる錯覚は、その二つを混ぜ合わせたような感じだった。

     少年には、そう感じられた。

     憂という名のその少年は、自分が居る場所が何処であるかわからなかった。
     天国にしては暗くて尚且つ湿っぽく、地獄にしては涼やかだったからだ。
     憂の抱く双方へのイメージと、その場所は、あまりにも違い過ぎていた。

     死ねなかったのか、と憂は薄く息を吐く。
     それとも、これが死後の世界というものなのかもしれない。

     辺りは暗闇に包まれていたが、下には土の感触がしていた。
     苔のような、腐葉土のような湿り気と柔らかさ。しかし、よくわからない。
     仕方がなかった。憂が山に行き、土に触れた回数などたかが知れているのだから。

    「……しかし、ビルの下には森が広がっていたかな」

     憂は何も見えない目で、しかし癖のように辺りを見回した。
     街中に完全な闇は存在しないので、初めての闇に憂は背筋を粟立てた。

     かさり、と揺れる木々の葉。
     僅かに聞こえる虫の音。
  • 4 伊藤 夏生 id:AOzx8ft.

    2011-08-26(金) 23:43:59 [削除依頼]
    おお…なんという秀逸な文章。

    情景もとても目に浮かびます。
    素敵なお話ですね。

    これから、勝手ですが応援させていただきます^^
  • 5 玄冬 id:/gjfv0q0

    2011-08-26(金) 23:49:47 [削除依頼]

     そこに在るのに視認出来ないという気味の悪さ。
     得体の知れないものに対してのおびえ。

     自らが把握することの不可能なものへの、本能的な警戒。
     自らを害する可能性を持ったものへの、理性的な緊張。

     憂は呼吸を潜め、身を縮めた。何が潜んでいるかわからない闇は恐怖だった。
     手探りで木を見つけ、根本に潜り込む。気休めにでも体を隠しておきたかったのだ。
     幸いなことに根は太く、根と根の間に憂はすっかり収まることが出来た。

     憂は膝を抱えた。夜明けまで眠るつもりはなかった。

    「ここは……どこなんだ」

     誰かが答えてくれるわけもなく、ただ沈黙が重くなっただけだった。
     
  • 6 玄冬 id:1SoNQ190

    2011-08-27(土) 07:07:28 [削除依頼]
    伊藤夏生さん
     秀逸だなんて、見に余る褒め言葉です
     まだまだ未熟者ですが、頑張っていきたいです。
     声援? ありがとうございます。
  • 7 玄冬 id:Gxx4yL8/

    2011-08-28(日) 18:51:40 [削除依頼]
     
     
     
     目を瞑り、されど夢までには至らず。
     些細な音も逃さぬよう、耳だけを澄ませて暁光を待った。

     憂がその瞳に朝日を映したのは、それから幾刻後のことだったか。
     
     空が白み始め、薄らと浮かび上がる周りの様子に憂はわずかな驚きを覚えた。
     昨晩から予想していたこととはいえ、そこは鬱蒼と木々が生い茂る森の中だったからだ。

     驚きと同時に、途方に暮れる。鳥の歌、草の息遣い。生命の息吹に充ち満ちるこの世界。
     どう考えようと、死後の世界、黄泉の国ではなかった。
     死の世界でないなら、極楽でも地獄でも、楽園でも荒野でもない。

     生きる予定などなかったのだから、憂はこれからどうすればいいか分からなかった。
     先のことを考える力を、落下中にどこかへ落としてしまったようだった。

     
  • 8 chero id:HndyQx0.

    2011-08-28(日) 19:08:42 [削除依頼]

    久しぶり^^覚えてる?
    今回は珍しく現代系?
    玄冬のやつでファン体―以外の読むの初めてだから楽しみbb

    更新がんばって!応援してる
  • 9 玄冬 id:Gxx4yL8/

    2011-08-28(日) 21:33:49 [削除依頼]
    うほっ、ごめんなさい。ファンタジーっすorz
    忘れるわけがないよ、cheroさんや。

    古いやつも亀歩きに更新しようとはしてr←
  • 10 玄冬 id:Gxx4yL8/

    2011-08-28(日) 21:44:26 [削除依頼]
     
    「死に損なった……か……」
     
     抓ってみた頬は確かに痛みを感じ、憂は顔をしかめた。
     感じた痛みへか、それとも生き延びたという事実へか。
     何に当てた表情かは、外側からでは判断し難かった。

     不思議と感じない眠気に首を傾げながら、憂は立ち上がった。
     周りが明るいのならば、多少、恐怖も和らぐというものだ。

     これからの計画もなく、目的地さえ無かったが、憂は森を歩き始めた。
     どんな獣がいるか知れないのに、些か堂々としすぎる足取りだった。

     生物としての生存本能は働いていても、理性が生を求めていないからなのか。
     表情のない顔と光の失せた瞳は、まるで死にたがっているようだった。

     いっそ、一息に喰い殺して欲しいのかも知れなかった。

     
  • 11 玄冬 id:5LffHrF/

    2011-08-31(水) 21:08:50 [削除依頼]

     憂が木々の間を縫うように歩き続けていくと、突然開けた場所に出た。
     風は強く、ぴしぱしと跳ねながら頬を叩く髪が不快だった。
     手で髪を押さえつけながら、憂は辺りを見回した。

     そこは崖の上だった。断崖絶壁とは正にこのことだという様な、切り立った大地。
     谷底を見おろしてみればビルの屋上とは比べものにならない程の高さがあった。
     一歩踏み出せば谷へ落ちてしまうぎりぎりの位置に、憂は腰掛ける。

     立ち並ぶ巨木が圧迫感を感じさせる森の中より、いくらか気分は良かった。
  • 12 玄冬 id:CiTyJT11

    2011-09-04(日) 01:13:46 [削除依頼]
    すいません。立て直します。読んでくれてた人、ごめんなさい。
    違うスレで書くことになる話はだいぶ違うものになるから……

    被験体→組織とか施設とか
    ドラゴン→純ファンタジー

    みたいに

    めぐせか→異世界トリップ

    という王道をやってみたかったのだが、
    些か私には荷が重すぎました。

    立てたプロットもドラゴン・ハーツと少し似てたし…

    まあ、何言っても言い訳になっちゃいますが…すみません。
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