マミーズ・エスケープ4コメント

1 島田徹 id:h0PdO4E/

2011-08-25(木) 18:51:30 [削除依頼]
「正直、君がこの部屋に戻ってきてくれて私は、ほっとしている」と、彼女は言った。
「お願いだから私を置いて行かないでくれ」
そう続けた彼女は、どこか寂しげな笑みを浮かべて僕を見つめてくる。
そんな顔をされると返す言葉も見つからない。
僕は顔を俯けて、その場しのぎの苦笑で誤魔化す事しかできなかった――
  • 2 島田徹 id:h0PdO4E/

    2011-08-25(木) 18:51:51 [削除依頼]
    いや、その前にもう少し前の話をしたほうがいいだろう。
    あれはいつだったか。四月の二日? それとも三日だったか。
    どちらにしても、僕がアパートにやってきてからだ。
    このアパートから出られなくなったのは――
    本音で言えば、あのアパートに下宿するかどうか直前まで迷っていた。
    お世辞にも綺麗とは言えない外観だし、部屋番号だって204号室なんていう不吉なもの。その上、僕がこの春から通う大学からも位置的に遠い。
    さらに、契約前に一度だけ会った大家さんの印象も余り良くなかった。春なのに喪服の様な黒一色のスーツに身を包んだ、顔色の悪い痩せ細った男。骨と皮で構成されているのでは、と疑ってしまう様な不気味さが大家さんにはあった。まるでホラー映画に出てくるクリーチャーだ。
    とにかく、そんな所でその様な人のお世話になるのは嫌だ。
    正式な契約が完了する前だったので両親にそのことを相談しようと思っていたが、二人とも仕事が忙しいらしく余り取り合って貰えなかった。自営業に休みは無いのだ。
    「家賃も安いし、アパートだって立派な造りだ。それに大家さんだって良い人そうじゃないか」と、父さんは笑った。父さんの目は確実に腐っている、と僕は思った。
    「父さんの言う事は違うと思うけど大丈夫よ。住めば都って言うじゃない」
    母さんに至っては父さんを全否定した上で、らしいコトワザを持ち出して根も葉もないことを言う。
    まったくもって僕の両親は適当だ。
    そんな二人の遺伝子を受け継いで生まれてきた僕も、やはりというか適当なのである。結局、自分でほかの部屋を探すこともせずに時間はダラダラと無為に流れ、そうしてやってきたのだ。
    あのアパートに入居する日が。
  • 3 島田徹 id:h0PdO4E/

    2011-08-25(木) 19:36:09 [削除依頼]
    諸々の荷物や家具などは既に業者が部屋に持ち込んでくれているらしい。
    「元気にやれよ」
    「食べ物には気をつけるのよ。あ、それから大家さんにもちゃんと挨拶しておきなさいね」
    住み慣れた町から新しい住居へと僕を車で送り届けてくれた両親は、車内から餞別の台詞を送ってくれた。それはいいのだが、車から出てこないところを見るに部屋の荷物を一緒に片付けてくれる気は更々ないようだった。さすがは僕の両親である。
    僕は小さく息を吐き、力なく片手をあげて両親に対してヒラヒラと振ってみせた。適当にがんばるよ、という意思表示だ。
    そんな僕の、やる気など欠片も感じさせない態度を確認した両親は、なにを勘違いしたのか満足そうに頷き、そうしてクラクションを一度だけ鳴らしてさっさと帰路に着いてしまった。この対応、僕は厄介者か何かか。
    両親を乗せた車が遠のいていくのを見送りながら、僕は微妙な気分でそんな事を考えていた。
  • 4 島田徹 id:h0PdO4E/

    2011-08-25(木) 19:36:20 [削除依頼]
    さて、母さんからも言われていたが、まずは大家さんに挨拶するとしよう。部屋の鍵を貰っておかなければいけないし、それにこれからお世話になるのだから一応、挨拶くらいはしておくべきだ。
    僕は二階建てアパートの一階にある大家さんの部屋に向かう事にした。幸い、大家さんが在住している部屋は表札に『大家』と書かれていたので一目瞭然であった。これで間違えるのはサルかチンパンジーくらいのものである。
    木製のドアを数度ノックする。しかし、返事はない。だが、ここで慌ててノックを繰り返すのもみっともない。おそらく大家さんは私用で手が放せない状況にあるのだろう。僕のノックには気づいている筈だ。なので、待つことにした。
    ただ待つのも暇なので、とりあえず目の前のドアに目を遣る。ドアは長年、風や雨に曝されてきたのだろう。元の木の色を失い、すっかり黒ずんでいた。アパートの外観も同じ様な感じである。ここまで痛んでいるのに改修はしないのだろうか。と、他人事ながら心配してしまう。
    いや、僕だって今日からここに住むのだから他人事ではない。それこそ地震や台風なんかでアパートが倒壊とかしてしまったら洒落にもならない。なんて、取りとめも無い考え事に思いを巡らすこと数十秒。
    僕は待った。確かに待ったが、大家さんが出てくる気配は一向に無い。
    冷静に考えると、返事がない場合は少しだけ間を空けてもう一度ノックをすればいいだけの話だった。数十秒も呆けて待つ必要はなかったのだ。
    意味のない咳払いをひとつ。もう一度ノックをしようとした瞬間、目の前のドアが開き、一人の男が顔を出した。
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