贅沢な蜥蜴19コメント

1 なめこ id:i-iBfDlqz0

2011-08-22(月) 14:29:26 [削除依頼]

贅沢な蜥蜴

ぜいたく な とかげ
  • 2 なめこ id:i-iBfDlqz0

    2011-08-22(月) 15:07:20 [削除依頼]


    蝉が鳴き始めて、私は夏の訪れを感じていた。それまでとても暑かったけど、暑さだけではなく、空気感や匂いや空の青さや音が揃って、夏はやっと完成するのだ。
    六畳しかない部屋で、扇風機をかけて私は寝転んでいた。動いても動かなくても汗をかくなら動かないほうがいい。天井の木目を目でなぞりながら、夏が来た、夏が来た、と体のなかで繰り返しつぶやいていた。隣には大野がいた。
    「さっちゃん。やっぱり引っ越して一緒に暮らそうよ」
    大野はもうずっと私に同棲を提案している。私はなんとなくいつもそれをはぐらかしている。
    「この部屋、更新もうすぐでしょう。その前にさ、引っ越しちゃおうよ」
    更新という言葉で、自動車免許の更新の葉書がきていたのを思い出す。私はどうも無精でいけない。一つしなければいけないことがあるだけで、すべてが面倒になってしまう。
    「うーん。そのうちする」
    暑さに身を任せてだらけた声を出すと、大野は呆れた顔をした。
    「いつもそのうちって言ってる」
    「そう?」
    「そう」
    本当に重要なこととは案外少ないものだ。生きるということと生活はまったく別なものだとつくづく思う。大野と一緒にいることは、どちらかというと生活の部類に入る。生きることは一人でもできるが、生活は一人ではできない。多分、違いはそこだ。
  • 3 なめこ id:i-iBfDlqz0

    2011-08-22(月) 20:16:20 [削除依頼]
    よかったら読んでください(*_*)
  • 4 臍曲がり@膝ちゃいます臍でっせ id:xB8M4pN1

    2011-08-22(月) 20:29:59 [削除依頼]
    ども。題名につられてやってきました。これからが楽しみです。
    更新頑張ってください。
  • 5 A型の女 id:wTTn2H//

    2011-08-22(月) 22:20:54 [削除依頼]

    洗練された文章ですっきりと読みやすいです。
    日常的な題材の小説なんですね。
    続きがとても気になります。

    更新に期待です。
  • 6 なめこ id:4Dm.vYa1

    2011-08-24(水) 12:55:53 [削除依頼]
    臍曲がりさん
    ありがとうございます!
    どうぞよろしくおねがいします!
    A型の女さん
    そうですね。
    日常的なお話にしようと思ってます。
    よろしくおねがいします!
  • 7 なめこ id:4Dm.vYa1

    2011-08-24(水) 13:52:16 [削除依頼]
    一.

    何がきっかけでそう思い始めたのかはもう覚えていないが、高校生の頃、私にはとても好きな男性がいた。国語を教えており、物腰が柔らかい人だった。浅木という名だったが、どうしてか私は名前で呼ぶのが恥ずかしくて、いつも「先生」と呼んでいた。先生は私のことを「皐さん」と呼んだ。当時の私はとても幼かった。体型も服装も話し方も考え方も、すべてが幼かった。先生が他の生徒と話しているのを見るのが辛かったし、先生の授業がない日は学校に行かなかった。それでいて先生の国語がある日は風邪をひいていても登校した。
    夏休み、私は何か用事があって学校に行った。運動場では野球部が練習している。その奥の方で、私は先生を見つけた。運動場の奥には小さな花壇があり、先生はそこで水を遣っていた。
    先生、と呼びかけると彼は「皐さんですか」と笑った。私はそれだけで体全体が浮いたような感覚になり、じわんと刺さる蝉の鳴き声を遠くで聞いているような、周りは真っ白で、世界が突然収縮してしまったみたいで、とにかく目の前の先生しか見えないのだけど、後ろで野球部がバットにボールを当てた音がして、続いてわあわあと叫ぶ声が聞こえて、またそれから蝉の鳴き声が私の耳にじわん、と刺さるのであって、ようやくそこで、再び口を開くことができたのだった。
    「先生、お久しぶりです」
    「皐さん、少し痩せましたね」
    「そう、そうでしょうか」
    「ちゃんと、食べていますか?」
    「はい。あの、冷麦を、今日は食べました」
    「そうですか」
    先生の持つ如雨露の水がなくなってからも、私たちは少しの間そこに立っていた。先生は農作業をする人がつけるような大きな帽子を被っていて、ワイシャツの袖を肘まで捲り上げていた。
    「先生、毎日水を遣っているんですか」
    「誰も遣らないようなのでね」
    「それなら、明日から私が遣ります」
    「それは有難いです」
    「あの、先生」
    「はい」
    「先生も、来ていただけますか」
    「そのつもりですよ」
    なぜ私は先生のことが好きだったのか、今となってはもう思い出せない。それでも、私は先生がいないと生きていけないとまで思っていた。あの頃の胸の高鳴りと、背中に張り付いていた汗の触感は、今でも覚えているのだ。
  • 8 feather@絵本と小説 id:C85KDUD.

    2011-08-24(水) 13:58:37 [削除依頼]
    まさか上のお二人方にお褒めの言葉を頂けるとは・・・!!
    そんなこんなで風と共にやってきたfeatherです。
    うまい文章ですね。キレイ。それしかない。
    この文章読んでいると自分がどれだけヘタクソなのかが分かりますorz
  • 9 みぐ id:vt-JNo6Usm1

    2011-08-24(水) 14:10:26 [削除依頼]
    面白い!
    私、こういう感じの物語好きなんです*
    更新頑張って下さい!
  • 10 なめこ id:i-0GvW1rl1

    2011-08-24(水) 21:53:13 [削除依頼]
    featherさん
    ありがとうございます!
    上のお二方は有名な方なのでしょうか…
    恐縮です。

    みぐさん
    ありがとうございます!
    こてこて恋愛小説にしたいです。
  • 11 なめこ id:i-e5QoNwO.

    2011-08-25(木) 18:25:29 [削除依頼]
    先生のことを知ったのは、二年生になってからだった。それまで私たちのクラスの国語は、若い女の教師が担当だった。男子も女子も文句を言っていた。
    先生は老眼鏡をかけていて、いつも教科書を覗き込むように読んでいた。男子はその姿をよくからかっていたが、先生は怒りもせず、「歳には勝てませんよ、みなさん」と言っただけだった。
    「先生はやさしいので、人気があります」
    花に水を遣りながら、私はなんとなくそう言った。
    「そうでもないですよ」
    「それは、どっちが」
    「どっちが、とは」
    「やさしいのと、人気があるのとです」
    先生はかがんでいて、花壇に生える雑草をぷつぷつと抜いていた。軍手をした先生の手には、抜かれた雑草が詰まっている。
    「どちらもですよ」
    私は水を遣り終わってしまい、先生の隣にかがんだ。私たちの影が花壇を飛び越えて映していた。
    「僕はこう見えて不真面目な教師です」
    先生は雑草を抜き続けながらそんなことを言う。
    「最低限なことしかしないし、生徒のこともろくに覚えていないんですよ」
    「私のことは覚えていてくれました」
    「見損なわれるかもしれませんが」
    「はい」
    先生はそこで手を止めて、一息ついた。そして困ったような顔をつくり、
    「こどもの名前が、皐なのですよ」
    と、静かに呼吸をするように言った。
    とっくに知っていたことだった。先生が結婚していることも、子どもがいることも。私は両足の爪先に力を込めるようにして、その場にかがんでいた。先生がまた雑草を抜きはじめて、けれど雑草は全然なくならなくて、先生の手のなかにただただ雑草が収まっていく。私は先生に裏切られたような気分になり、次の瞬間にはこの場から立ち去りたい衝動に駆られたが、そんなことはできなかった。私はいつまでも雑草を抜く先生の隣でかかんでいたかったのだ。
    「先生」
    「はい」
    「私も雑草を抜きます」
    「ありがとう」
    そうして私たちはぷつぷつと、湿った土に生える雑草を抜いていた。
  • 12 A型の女 id:4de.ddO0

    2011-08-26(金) 20:05:39 [削除依頼]

    またまた来ちゃいました。
    先生とのやりとりが何だか切ないですね…。

    日常的な小説なら.私の小説と似ていますが
    なめこsほどの文才がなくて……
    本当にその才能がうらやましすぎます。

    続きがとても気になるところですね。
  • 13 なめこ id:i-79l4vAJ.

    2011-08-27(土) 22:21:01 [削除依頼]
    A型の女さん
    またまたありがとうございます!
    切ない話が好きなのでそれを目標にしています
  • 14 なめこ id:i-FzyDErk0

    2011-09-03(土) 17:11:18 [削除依頼]
    枕草子を含ませたい。
  • 15 臍曲がり id:JzGZcgt0

    2011-09-03(土) 17:20:09 [削除依頼]
    お久しぶりです。
    ほわほわした可愛らしい文章が羨ましいです。
    枕草子、ですか。楽しみですね。がんばってください。
  • 16 笹 id:1Pp58T2.

    2011-09-03(土) 17:38:16 [削除依頼]
    こんにちわ。
    センセイの鞄をなんとなく思い出します。やっぱりいいなあ。如雨露って素敵な言葉(^^)
    これからも読ませていただきます。
  • 17 なめこ id:i-4r/MQVO1

    2011-09-05(月) 21:37:12 [削除依頼]
    臍曲がりさん
    好きなんです枕草子!
    コメントありがとうございます!
    笹さん
    大当たりです(笑)
    川上作品のなかでセンセイの鞄がダントツで好き。
  • 18 なめこ id:i-GKfbDil/

    2011-09-06(火) 18:23:52 [削除依頼]
    「さっちゃん、最近学校行ってるんだって?」
    制服を着ていると、大野が家に来た。大野とは小学校が一緒で、中学で離れ、高校がまた一緒になった。家が近く、親同士の仲がいいので昔はよく遊んでいた。高校生になっても、昔ほどではないがこうやって互いの家を行き来している。
    「うん。お母さんにきいた?」
    「昨日部活の帰りに会った」
    「部活かあ。どうだった、なんか試合やったんでしょ」
    「負けた」
    「それは、まあ」
    「うん?」
    「次があるよ」
    そう言うと、大野ははにかんだ。彼は昔から笑い方が変わらない。目がきゅっと細くなって、小さなえくぼが両の頬にできる。大野のその笑い方をかわいいと言う女子がたくさんいる。
    「それで、さっちゃんは今から学校に行くの?」
    「行く」
    「何しに」
    「水を遣りに」
    「水?」
    「花壇に」
    「さっちゃん、そんな偉いことする子だった?」
    小さく笑いながら大野が言う。
    「先生に頼まれて」
    「え?田辺?」
    大野は私の担任の名前を挙げる。
    「違う、浅木先生」
    「ふうん」
    私と先生の繋がりが見えなかったのか、大野は腑に落ちない様子だったが、それ以上は何も訊いてこなかった。かわりに、「俺も行こうかな」と言う。
    「え?部活は?」
    「今日は休み」
    断るべきか悩んだか、理由が見当たらないので、「わかった。一緒に行こう」と言った。
    「じゃあ制服に着替えてくる」
    そう言い残して、大野は軽やかに家の方へ走っていった。
  • 19 なめこ id:i-va/xX6I1

    2011-09-13(火) 19:36:42 [削除依頼]
    華奢だった大野は、部活を始めてから筋肉がついた。背丈も高くなって、私より小さかったのに、いつの間にか追い抜かれていた。彼が野球を始めた理由は聞いたことがない。けれどたくさん努力をしているのを私は知っている。二年生になって、レギュラー入りをしたとき、大野は本当に嬉しそうだった。部活に入っていない私は、そうやって野球に打ち込む大野を見ると、ときどき羨ましくなる。
    「さっちゃん、試験どうだった」
    「まあまあ、そこそこ。大野は」
    「俺も、まあまあ、そこそこ」
    大野とは長い間一緒にいるから、たとえ会話が続かなくても気まずいことなんてなかった。沈黙のなかには二人の距離感が埋まっていて、その距離には今まで培ってきた互いの妙な信頼感が常にある。それは川のせせらぎのように穏やかなものだ。
    「そういえばさ、大野、女の子に告白されたんでしょ」
    「ああ、うん、まあ。夏休み前にね」
    「三組の、山科さん」
    「よく知ってるね」
    「噂、すぐ広まるから」
    「かわいい女の子だったけど、付き合うとかよくわからないから断った」
    「うぶ」
    「馬鹿にしないでよ」
    大野は口を尖らせる。
    「それに今は野球やりたいから。硬派なの」
    「ほうほう」
    「まだ馬鹿にしてる」
    付き合うとかよくわからない。実際、それは私も同じだった。先生のことがとても好きだったけど、先生とどうなりたいかなんてことはあまり考えたことがなかった。ただ先生が好きだった。優しげな雰囲気や、柔らかな物腰、教科書を開いて音読をする声、如雨露を持つ指。先生だから好きだったのだ。
    学校に行くまで、ずっと暑かった。風はなくて、コンクリートからの熱気が体全体に当たっていた。夏はすでに完成していたけど、先生がいなければ私にとってこの夏は永遠に損なわれたものだった。
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