ひだまり。12コメント

1 焚緒 id:HfBWl9J0

2011-08-10(水) 09:54:06 [削除依頼]


けっして、おなじ瞬間を歩めない

貴方にとって、私などただの戯れ


それでもいい。だから、


貴方のお傍に居たいのです……。
  • 2 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 10:01:02 [削除依頼]

    【立春】


    「朱雀様」
    「何だ……」
    「えへへ、呼んでみただけです」

    朱雀様。と、呼ばれた男は呆れたように瞼を閉じる。
    隣で笑う無邪気な少女は何やら鼻歌を歌いだした。

    そんなふたりのやり取りを、額に玉のような汗を浮かべて眺める少年がひとり。

    ――あの小娘……。

    少年は、気が気ではなかった。
    少女より数年年上の彼は、もう長いこと朱雀様に仕えている。
    だからこそわかってしまうのだ。

    朱雀という男の無情さ、冷酷さを。


    朱雀は東国で最も恐れられている「妖」だった。
  • 3 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 13:17:33 [削除依頼]

    「こら、ナギ!!朱雀様から離れろっ!!」
    「えー!何でよ。阿久里には関係ないじゃない」

    ――この生意気娘……。

    「ご迷惑をおかけするな!」

    阿久里が無理やりにでもナギを連れていこうとすると低い声が零れた。

    「阿久里」

    全てを睨み殺すような眼差しが少年に向けられる。
    一瞬にして背中を滝のような冷や汗が流れた。

    「誰も迷惑などとは言っておらん……」
    「はひ……」

    嗚呼、なんて情けない声。
    阿久里はおとなしくふたりから離れた。

    小娘ときたら今度は朱雀様の髪で三つ編みをはじめた。
    一方朱雀様は何も気にしていないのか……いや、穏やかな顔さえ浮かべている。

    ――一体……。

    少年は、雲ひとつない青空に向かって盛大な溜息をついた。
    まだ15にもなっていない己を、年老いた爺様のように感じていた。

    再びふたりの方角へ目をやれば、ナギは眠りこけていた。
    小さな手で朱雀様の衣を握りしめ、胡坐の上に頭をのせている。

    ――こんな生活も、悪いわけではないんだが……。

    俺の立場が、と思いかけて首を横に振った。


    ――まあ、いいか。


    穏やかなひだまりの中、3人は今を生きている。
  • 4 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 13:29:18 [削除依頼]

    【雨水】

    しとと、と。小雨が降り始めた。

    「あー、雨降ってきちゃったよ」

    ナギは呑気に曇天を見上げ、そうわかりきってることを呟く。
    主の歩みが止まった。

    「朱雀様?どうかなされましたか」

    阿久里が控えめに朱雀の横から顔を覗き込んだ。
    朱雀はというと、眉間にかすかに皺を寄せ阿久里を睨んだ。

    「ひぃっ!すみませんっ。承知してます!!」

    阿久里は慌てて湿っぽい空へと飛んでいった。


    朱雀様は東国一の強さを持つ大妖怪。
    阿久里は何処にでもいる普通の妖。
    そして、ナギという人間の娘。

    あまりに考え難い組み合わせの3人は旅をしていた。
    その目的は主である朱雀しか知らない。


    阿久里は蝶の妖怪だった。
    それ故、こうして空を飛ぶことができる。
    長い間朱雀に仕えてきた阿久里は主の考えをなんとなく悟ることができる。

    ――屋根のある場所、ね。

    たかが人間の餓鬼ひとりのために。
  • 5 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 13:40:20 [削除依頼]

    朱雀とナギは、阿久里が戻るまで大木の影にいた。
    ナギは空を見上げた。あまりの退屈さに欠伸がひとつ零れた。
    本当は、濡れた土の上を走りまわったりしたいのだけど。
    朱雀に「汚れる」と止められたため、何もできない。

    ナギはちらりと朱雀を盗み見た。
    整った端正な顔は何処か憂いげに一点を見つめている。

    ――朱雀様は雨がお嫌いなのかな。

    幼い思考回路はそう解釈する。
    ナギはまだ10歳。朱雀の胸の下までの背丈しかない。

    「朱雀様」

    そう声をかければ、朱雀はちらりとナギを見ただけですぐに視線を戻した。
    そっけない態度だか、ナギには朱雀がちゃんと聞いている事がわかっていた。

    「雨は悪いことばかりじゃないよ」

    朱雀が、特別ナギに「雨が嫌い」と言ったわけではない。
    あまりに突拍子もないことを言うのはいつものことだけど。

    「雨はね、お野菜とかを育ててくれるの。
     あとは……喉が乾かないようにしてくれるし……」

    突然ナギの声が途絶えた。
    どうしたものかと朱雀が見下ろせば、手のひらに雨蛙をのせていた。

    「ケロケロ。ケロ?」

    話しかけてるつもりなのだろうか。
    雨は悪いことばかりじゃない。の、説明はどうしたものか。

    雨蛙は何も鳴かずにナギの手のひらから跳ねて消えた。 
  • 6 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 13:55:08 [削除依頼]

    「あーあ……行っちゃった」

    少しだけ寂しそうな顔を浮かべた。
    おとなしくなったかと思えばすぐにまた話しだす。

    「えっと、何の話してたっけ……?」

    ま、いっか。と呟いてナギは朱雀を見上げた。
    つられて朱雀も見下ろせば、ナギはニヘラと溶けたように笑う。


    「朱雀様の隣にいられるなら、私雨好きかも」


    無邪気な笑顔には、少し泥が跳ねていた。
    なんとなくその泥が苛立たしく思え、朱雀は綺麗な指でナギの頬を拭った。

    「あ、泥?……ありがとう、朱雀様」
    「くだらん……」
    「へ?」

    「雨など降らずとも、お前は隣にいるだろう」

    ナギは一瞬キョトンとしたが、すぐに先ほどの話の続きなのだと理解した。
    そして胸の奥に温かなものが湧きでるのを感じた。


    「はいっ!隣にいます!!」


    そう明るく返事をすれば、阿久里が急ぎ戻ってくる。

    「阿久里ー!!お帰りっ!!朱雀様、阿久里が……」

    朱雀は空を見上げている。
    つられてナギも空を仰いだ。
    黒目がちの大きな目を見開く。

    「虹っ」

    決して濃くはなく、儚い色をした橋が架かっている。
    いつの間にか雨はやみ、鮮やかな青が頭上には広がっていた。

    阿久里はというと、せっかっく屋根のある場所を見つけたのにと恨めしそうに空を見上げていた。


    「あ、思いだした!!さっきの話っ。

     ね、朱雀様。雨がやんだら綺麗な虹が出るんだよ」


    だから、雨は悪いことばかりじゃないよ。


    「行くぞ」


    そう言い捨て、朱雀は歩き出す。
    その大きな背中を道しるべにナギと阿久里はついていく。


    ぬかるんだ道に、大きさがまばらな3人の足跡が続いた。
  • 7 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 14:04:07 [削除依頼]

    【旅人】

    朱雀 -Suzaku-
     年齢300歳、人間にして19歳。
     かつて東国を治めた大妖怪・紅蓮の息子。
     現在東国一最強の大妖怪として恐れられている。

    ナギ -Nagi-
    10歳。漆黒の胸のあたりまである髪と黒目がちな目。
     無邪気で素直。話し出すと止まらないお転婆娘。

    阿久里 -Aguri-
    年齢250歳、人間にして15歳。
     蝶の妖怪の血をひく。長い間朱雀に仕えている僕(シモベ)。
     ナギに手を焼いている。朱雀によく睨まれる。
  • 8 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 14:49:28 [削除依頼]

    【啓蟄】

    あ、と小さな驚きが零れた。
    ナギは樹の幹に咲くような命を手のひらに閉じ込めた。

    「阿久里っ」

    前方を歩く阿久里に、とてて、とおぼつかない足取りで駆け寄る。
    はてなと首をかしげる阿久里の前で、小さな手のひらを開いた。

    かすかに息づく、華やかな命。

    「阿久里の仲間だよ」

    ナギは無邪気に笑う。
    途端、阿久里はナギの手からその蝶を逃がしてしまった。

    「あっ」

    何するの、と泣きそうな顔をナギは浮かべた。

    「あいつは今日、はじめて蝶になったんだ。
     はじめて羽を持ったんだぞ!!飛ばせてやれよっ」

    興奮してるのか、阿久里は肩で息をして顔を真っ赤にしている。

    「ナギ、覚えておけ。蝶は人の手の中が一番嫌いなんだ……。
     あんなに湿っぽくて暗い所に閉じ込められたら死んじまうよ」

    「……ごめんっ、私……気づかなかった」

    明るい火が鎮火していくように、ナギはシュンと俯いた。
    阿久里はナギのそばまで来てしゃがみこみ、小さな頭を撫でた。

    「悪い……言いすぎた。
     でも、俺も捕まえられて殺されそうになったことがあるから」

    ナギは必死でコクコクと頷いた。
  • 9 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 15:06:48 [削除依頼]

    100年前。
    阿久里はまだ蝶の妖怪の中でも未熟なものだった。
    人の姿でいられるのは半日の間だけ。

    藍色の小さな羽根を広げ、樹木の蜜を堪能している時。

    突然視界がふさがれ、呼吸がままならなくなった。
    蝶の阿久里を捕まえたのは幼い村の男の子だった。

    「おっかあ!!」と、くぐもった声のみが聞こえる。

    阿久里が感じたのは息苦しさや不安感なんて甘いものではない。


    ――死の、恐怖。


    蝶のままでは妖術も使えない。
    無力で、未熟で、なす術もなくされるがまま。


    いやだいやだいやだ死にたくない死にたくない!!!!!


    「助けてくれたのが、朱雀様だ」

    阿久里は心からの尊敬のまなざしを朱雀に向けた。

    「朱雀様が、ちっぽけなただの蝶だった俺に……。
     また、光を見せてくれたんだ」

    阿久里は「言うなよ」と、いつもの厳しい口調でナギに言い聞かせた。
    ナギはまた必死で頭を縦に振る。


    「置いてかれるぞ!!」
    「えっ!?待ってよー!!」


    先ほどの蝶に続き、森の中では数々の命が芽吹き始めた。
    儚く、短命なものだけれど。
    ひとつひとつが宝石のように輝くのは何故。

    阿久里は朱雀の背中を追う。


    もしも俺が、また闇の中に閉じ込められたなら。
    貴方はまた俺を救ってくださるでしょうか……。

    なんて、あの時助けたのなんてただの戯れだったのだろう。

    かつて救ってもらったこの命。
    己ができる限り、輝かせて見せましょうか……。
  • 10 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 20:34:08 [削除依頼]

    【春分】

    ナギの頬が桜と同じ色に染まっている。
    「わぁっ」という、あまりに素直な感動の声に阿久里は呆れた。

    ――人間とは、忙しいものだの……。

    何百年、何千年という時を生きる妖怪にとっては季節の変わり目などなんら気に留まらないこと。
    たかが桜など、散ったと思えば気づかぬ間にまた咲く。

    花を愛でることなど、朱雀や阿久里にとってはとうの昔に忘れた感情。

    主、朱雀は一本の桜の木の根に腰掛けた。

    桃色の絨毯の上を、幼い足が駆けていく。
    地を踏むたびに、少女の周りに花弁が舞う。
    そんな当たり前のことを少女はさぞおかしそうに、楽しそうに確かめている。

    時折ナギは朱雀の存在を確かめ、笑顔を振りまく。


    はしゃぎ疲れたのか、ナギは朱雀のもとにつたない足取りで戻ってきた。
    ふぅ、と小さく息を吐き、こてんと幹に頭を預けた。

    ふと、ナギの髪に絡まる一枚の花弁を朱雀は見つけた。

    「朱雀様?」

    朱雀の視線に気づいたナギは頭を傾げる。

    「ナギの顔、変?」

    朱雀の手がナギの頭に伸びる。
    花弁を取るのかと思えば、大きな掌はナギの髪を穏やかにすいた。
  • 11 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 20:48:55 [削除依頼]

    頭に感じる温かくて、どこかくすぐったい感触にナギはまた笑みを浮かべた。

    「えへへ、あったかいね」

    普段の無邪気な笑みとは違う、少しばかり切なげなもの。
    そんな小さな変化でさえも、少女のものなら気づいてしまう。

    「どうかしたか」
    「え……」

    自分でもいつもと違うと気づいたか、ナギは頬を引っ張ったり捏ねたりした。


    「あのね……おっとうってこんな感じなのかなって」


    おっとう。
    父親。
    血の、繋がり。

    ナギにとってはあまりに不確かな存在。
    自分にそんなものがいたのかさえ覚えていない、わからない。

    「朱雀様」

    ナギの頭から朱雀の手が落ちた。


    「私って、朱雀様の……」


    ……何?

    答えが怖かった。
    何も答えてもらえなかったら、消えてしまいそうな気がした。
    名前のない存在は、きっと死んでいるも同然。

    「お前は、ナギだ」
    「……?」
    「俺にとっての何かなど、くだらん」

    桜が散り始めた。

    「そばにいれば、いずれ答えは見つかるだろう……」


    ――そっか。

    今、わからなければ。
    これから、見つければいいんだ。

    答えを。存在理由を。


    「ありがとう、朱雀様」


    ひとつ、

    ふたつ、


    花弁は舞う。


    そのほかの花弁に紛れても、どれだけ儚い存在でも。


    そのひとつひとつに、存在理由が、価値があるのだと知った。
  • 12 焚緒 id:HfBWl9J0

    2011-08-10(水) 21:44:30 [削除依頼]

    【清明】

    阿久里は盛大な溜息をついた。

    ――俺、最近邪魔もの扱いされてないか……?

    そう、惨めにも己に問うた。
    いやいやそんなことはないと、激しく首を横に振る。
    そしてまたため息をついた。

    朱雀に命ぜられ、阿久里は遠くに使いへ出されていた。

    気のせいだろうか。
    ナギが仲間に加わってからというもの、朱雀はよく阿久里を使うようになった。
    大した用事でもないことを、此処の所毎日のように。

    阿久里は、嫌な予感がしていた。

    ――まさか、朱雀様に限って。

    忙しい少年はまた激しく首を振るう。
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