逢魔時12コメント

1 はな id:EKW3CVB1

2011-08-03(水) 14:54:22 [削除依頼]
――お父様、どうしてお外に出ちゃいけないの?

――お外は危険だからね。

――どうしたら自由にお外に出てもいいの?

――うむ、マキアが魔王に就任したらかなあ。

――じゃあマキア、いつ魔王になれるの?

――はは、いつかなぁ。

――ぶー! お父様のバカぁ!

――ははは……


それが、今から三百六十二年前の話。

三日前、魔王であるお父様は人間に殺された。
実の娘である私は産まれてからたったの五百七十八年で魔王の座を継いだ。
  • 2 はな id:EKW3CVB1

    2011-08-03(水) 15:31:13 [削除依頼]
    早速魔王の就任式は開かれた。
    黒と紫の薔薇の花が色とりどりに飾られている。
    カーペットは真っ赤に染め上げられていて、グラスに注がれた赤い液体は人間の血液である。
    多くの魔物が私の就任式の為に集まってくれた。数は九万七千百二十一。
    尤も、97%の魔物はグループ行動で、その魔物のグループを束ねるリーダーだけしか集まってないのだが。

    「(それでもこの数ですのね…。一体魔物全体の数はどれ程になるのかしら)」

    テーブルを回り、色々な魔物達と数分だけ会話をする。
    みんな気さくで仲間思いな魔物だった。

    「(…人間の方がよっぽど悪い心の持ち主ですわ)」

    人間は魔物を裏切ったのだから。
  • 3 はな id:EKW3CVB1

    2011-08-03(水) 17:27:40 [削除依頼]
    昔の話だ。いや、昔と言っても六百五十三年前の話だが。
    簡単に言えば、マキアが産まれる少し前の話だ。

    当時、魔物はセントディスカという王国に住んでいた。
    魔物は悪者扱いされていて他に居場所がなかったのだ。
    セントディスカの王は魔物達に王国の一部を与え、そこに住まわせていた。
    小奇麗な町で、海に面した静かな場所だった。
    そこに十年程住んだ。

    雪の降る季節だったか。
    俗に「聖戦」と呼ばれる迫害が起きた。

    セントディスカの王は自国の軍と隣国の軍を魔物達が住んでいた町に送り込んできた。
    魔物達が何かの間違いかと暫く様子を見ているうちに次々と仲間は殺されていった。
    王の狙いは自分の目の届く所に魔物達を住まわせ、丁度いい頃合いに根絶やしにして各国から認められる事だった。
    根絶やし、とまでは行かなかったが、魔物の数は随分と減った。
    魔物達は空を飛び海を渡り地を掘り進み、安全な場所に避難した。
    町から魔物は消え、兵士達は「全滅した」と報告した。
    セントディスカは各国から認められ世界で最も豊かな国へと発展した。

    散り散りに逃げた魔物達は誰からか、その迫害をこう呼んだ。


    「紅い雪」と――
  • 4 はな id:EKW3CVB1

    2011-08-03(水) 17:57:04 [削除依頼]
    戴冠式が始まる。
    奥から先代魔王の家臣だった魔物が出て来てマキアの頭の上に冠を乗せる段取りだ。

    拍手。

    家臣が入場する。
    ゆっくりとした足取りでカーペットを歩く。
    真っ直ぐとマキアに近づいてくる。

    「(あれが)」

    家臣が大事そうに持っているのは、先代が継いだ王冠ではなく。
    銀のティアラだった。

    三代目魔王が女だった為に戴冠式で冠をどうするかどうかで会議があり、結局ティアラを作ったらしい。
    魔王就任後、類稀なる格闘センスと魔力で人間を恐怖で支配した彼女は魔物達からこう呼ばれていた。

    「魔姫」

    ティアラが乗せられた瞬間。
    誰かが呟いた。

    わっと歓声が湧きあがり拍手が鳴り響く。

    「魔姫」

    「魔姫!」

    マキアはそう呼ばれる中ふと思い出す。
    自分の名前は魔姫からとったのだと。

    お父様―とマキアの唇が揺れ動く。
    そして両手を挙げ静寂を作り出すと、

    「わたくしはッ」

    叫んだ。

    「わたくし達が平和に住める世界を。
    皆様と! 創り上げていきたい、いえ、創り上げてみせます!」

    紫水晶の瞳に魔物達が映される。
    ブロンドの髪は月の光を浴びて輝く。
    誰もが彼女の美しさに息を飲んだ次の瞬間。


    ―歓声。


    マキア・カトレーヌは今、皆に祝福されて。

    魔姫となったのだ。
  • 5 はな id:EKW3CVB1

    2011-08-03(水) 18:37:45 [削除依頼]
    お父様、見ていて下さいまし。
    わたくし、立派な魔姫になりますわ。

    ―お父様、何故悲しそうなお顔をなさるの?
    何故消えてしまうの、何故、何故


    「夢だからですわね」

    すぐに理解出来た。
    寝室の床には祝いの品が沢山転がっている。

    マキアは起き上がると、寝室から出て顔を洗った。
    幾分か目が覚めて、自室に行き着替える。
    後で祝いの品を整理しなければ、と呟くと事務室に向かう。

    そう、あれは夢。

    誰よりもマキアを愛してくれた。お父様は。

    「わたくしを」

    自分を。自分が何だというのだ。自分は何なのだ。

    ―魔姫か。

    自らを嘲笑うような表情をして、マキアは鎮魂歌を口ずさんだ。
  • 6 はな id:EKW3CVB1

    2011-08-03(水) 19:03:48 [削除依頼]
    事務は午前中に終わった。
    というか、終わらせた。
    今日の午後は外に出るのだ。

    大きな鏡の前で一人ファッションショーをする。
    シルクの高価な物から鮮やかな緑のドレスまで。
    迷いに迷って、就任祝いに貰った鮮血で染めたらしいワンピースに決めた。
    シミにならないのは、ちょっとしたコツがあるらしい。
    身だしなみはバッチリ整った。
    マキアはセナという下女を一人従えて、セントディスカに向かった。

    ***

    セントディスカは憎たらしい程賑やかだった。
    今日はパレードをするらしい。
    あちこちに旗が掲げてある。
    どうやらこの国の王子が戦前に出向いて魔物を退治したらしい。
    セナの人間変化が解けそうになるのをマキアは窘める。

    今日は偵察に来ている。
    ここで騒ぎが起きては面倒だ。

    「魔姫様は元々人型ですよね」

    「人間と同じ形なんて忌々しいですわ」

    苦笑した後、行進する兵を後ろに並ばせた王子らしき人物をマキアは指差す。

    「同じ王家でも魔王はそんな事しないのに。人間は矢張り下劣です」

    「ですわね」

    ふと王子がこちらに目を向ける。
    近くの女性がきゃあきゃあと騒ぎ出す。
    王子はマキア達に向かって歩いてきた。

    「異国の方ですか」

    そう言えば最近世界で共通して同じ言葉を使うようになったらしい。
    しまった、と思いつつマキアは「いえ」と答える。

    「では語学の勉強を」

    「ええ、まぁ」

    「そうですか」

    王子はそう言うと踵を返した。
    何となく、嫌な予感がした。
  • 7 はな id:libaQVj1

    2011-08-04(木) 20:01:12 [削除依頼]
    日が落ちかける。
    空が真っ赤に染まる。
    おお怖い、まるで血の様、とセナは呟く。
    セナは目の前で親が人間に殺された、と聞いた記憶がある。
    きっとそれを思い出したのだろう。
    マキアは曖昧に笑って見せて、突然陽気な声を出した。

    「大丈夫ですわ。わたくし、きっと世界を平和にしてみせますわ。
    野蛮な人間ごときに殺されてしまった魔物達の仇、きっと討ってみせます」

    そう、やらなければ。
    同志達の無念を晴らして、魔物や動物や植物が安心して過ごせる場所を。
    創り上げなければ、ならない―

    街灯に明かりが点く。
    まだ暗くないから意味が無い。

    夕日が眩しい。
    セナがトラウマのようなのでマキアは黙っているが、マキアは黄昏時が一番好きなのだ。
    昼と夜の間。青が黒に変わる間。
    世界が膜に包まれたような不思議な感覚。
    日が沈みかけている間だけ、死んでしまった仲間達に会える気がするのだ。

    暫くの沈黙。
    瞬間、セナが静かに問い掛けた。

    「姫様は帰られるのですか。城に」

    「そうですわねぇ」

    マキアは呑気に答えると、クルリとその場でターンする。
    ワンピースがフワリと風に舞う。
    夏のそよ風が二人の髪を揺らした。

    「わたくし、もうこの街を壊滅させる予定表を組んでありますのよ。
    その一。この街を活気づけさせますの」

    「は」

    何故、と聞く前にマキアは勝手に答える。

    「普通から突然恐怖のどん底に落とすよりも、幸せな状態からジワジワびくびくさせた方が素敵なシナリオですもの。
    うふふ。明日にでも伝言係に世界中の魔物に通達を頼みましょうか」

    セナは一瞬目を見開くと、ふっと笑って、

    「ええ、とても素敵ですね―」

    風に消え入りそうなほど小さな声でそう言った。
  • 8 はな id:libaQVj1

    2011-08-04(木) 21:49:49 [削除依頼]
    結局その日は宿に泊まった。
    小さくて、少し古い感じの宿だった。
    宿泊客はマキア一人。セナは洗濯物が溜まってるとかで帰ってしまった。
    宿主は気さくな小母さんでマキアを気遣ってくれた。
    嫌な事があったら何でも言って、とか、料金安くしとくね、とか。
    お金は結構持ってきたので心配いらないのだが。

    とにかくマキアは、マリーゴールドというその宿に泊まる事になったのだ。

    ***

    部屋の窓から見える空は妙に明るくて、マキアは少し不機嫌になった。

    午後に逢ったあの王子。
    魔物と感付かれたか。それともナンパか。
    人間は嫌いだが、後者の方がまだマシだ。
    もしも、仮に前者ならば。

    「その時は」

    呟いて、自分の手をかざす。

    丸腰なら一瞬で終わる。
    武器を持っていてもすぐに終わる。
    兵を引き連れても一分程度で済ませる自信はある。

    マキアは魔術を使う。魔術が使えるのは魔王の血筋だけだ。
    ちなみに他の魔物は基本的に腕力や鉤爪で戦う。人間の使う兵器の比ではない。

    何があってもマキアが負ける事は無いのだ。

    細く、白い指が。
    深紅のワンピースに触れる。

    「鮮血を瓶詰めにしましたら、もう一着作って下さるかしら」

    この色は夕焼けみたいで大好き、と独り言を言う。

    いつになれば人間は知恵を身に付けるのでしょうか、と。
    そう思いながら。
  • 9 はな id:k6.N.vd0

    2011-08-05(金) 14:18:18 [削除依頼]
    マキアは眠らずに空の色の移り変わりを見ていた。
    魔物は眠らずとも疲労を感じる事は無い。
    寝ても寝なくても大差は無いのだ。

    昨日落ちた日が、昇り始める。
    空が白んでくる。
    夜が明けた。

    思いきり溜め息をついて、空ではなく街並みを見る。
    レンガで造った家を。
    彩り華やかな植物を。
    既に道を歩き始める人影を。

    マキアは破壊衝動を抑え込む。
    そして無理矢理別の事を自分に考えさせ始めた。

    ―どうやって恐怖を感じさせましょう。
    それは一瞬でマキアの意識を乗っ取った。

    病気でも流行らすか、見せしめに残虐の限りを尽くした街の人間の屍を教会の前にでも放置するか。

    太陽が完全に顔を出し、気が付けば午前八時だった。
    ノックの音が聞こえてマキアは我に返った。

    扉を開けると女将が狼狽したような顔つきで立っていた。

    「まあ、どうなさいましたの。魔物でも出ました? なんて」

    「アンタに会いたいって人が、いやお方が」

    「お引き取り願うよう言っておいて下さいませんか」

    魔物の気配じゃない。
    人間と関わり合うのは極力避けたい。だからこの宿を選んだと言うのに。

    女将はすごい剣幕でマキアの申し出を拒否した。

    「お相手は王位継承者だよ、お前さん」

    ただの人間より尚更都合が悪い。
    しかし女将がとにかく会えとうるさいのでマキアは渋々了承した。

    「でも、少し待って頂けませんか。わたくし今目が覚めたばかりですの。」
    女の身支度に時間がかかるのは女将さんもご存知でしょう?」

    女将が頷いて扉を閉めるのを待って、マキアはポニーテールに結んだ髪を解く。
    マキアには会う気なんてこれっぽちも無かった。
    手櫛で髪を梳かして、リボンをワンピースの上から腰の位地くらいの場所で結ぶ。

    窓を開ける。

    「(二階ですもの。楽勝ですわよね)」

    そして足をかけて、そこから―

    飛び降りた。
  • 10 はな id:k6.N.vd0

    2011-08-05(金) 14:39:59 [削除依頼]
    軽く音を立てて着地する。
    部屋からの脱出は成功した。

    が。

    問題があった。

    楽勝だと思って下を見なかったのが仇となった。
    下に通行人がいたなんて思いもしなかった。

    彼は少し目を見張った後、ニッコリと笑った。

    「これはこれは。まさか空から女性が降ってくるとは」

    「空からではありませんわよ。二階からですわ」

    「なんと…」

    上から降ってきたのは一緒だ。
    青年はおや、と言ってマキアをまじまじと見つめる。

    「何か」

    「貴女は昨日の」

    「は」

    落ちてきた窓から女将が顔を覗かせる。
    彼女は短く叫んでマキアの名を呼ぶ。

    「ああ、王子様。その子がマキア・カトレーヌですよぅ」

    マキアは一瞬、目の前の人物を殴って記憶喪失にさせようかと思った。
  • 11 はな id:KwQyD7N1

    2011-08-07(日) 09:04:41 [削除依頼]
    聞いた話だと、この国の王子ラミエル・ゼローダは二十歳。
    本人は否定しているが国民からの人気も高いらしい。
    背が高くて容姿端麗で、まさに理想の王子様と言ったところか。

    マキアはそんなラミエルと二人きりで喫茶店に来ている。
    まるでデートだ。

    周りがザワザワとしている。
    好奇の視線がまとわりつくのをマキアは不愉快に感じた。

    「マリア・チコートさん、でしたよね」

    人間と関わる時は偽名を使えと父に習ったのである。

    ラミエルは困ったように笑うと謝罪をした。

    「すみません。いきなり訪問したりして」

    「何か御用があるのでは」

    「いや、探し人に似ていたものでしたから…もしかして、なんて。
    でも名前も性格も喋り方も立ち振る舞いも、まるで別人だ」

    別人ですもの、と言おうとして飲み込んだ。

    頭がグラグラする。気分が落ち着かない。
    音量の不安定な声で

    「いいですか。その、煙管なんですけど」

    「ああ、そうぞ」

    火をつけて、そっと吸う。
    ふわふわと煙が浮かんで、それを見るとマキアは落ち着いた。

    昨日あの後、セナから渡された物である。
    人間の住む場所には魔物に対して有害な空気が漂っているらしく、その空気に抗体する、言わば解毒作用を含む気体を吸い込む為の道具がこの煙管らしい。
    いつもは人間が住む場所なんて行かないから呑むのは初めてだが、中々不味い。

    「でも、やっぱり他人の空似とは思えない」

    「しつこいですわよ、王子様」

    席を立ちあがる。
    どうにもしつこい男は苦手だ。

    「あ、あの」

    「では用事があるので」

    嘘である。

    早足で出口に向かい、その場から去る。
    やる事も無いので、城に返って蔵書でも漁ろうか。

    マキアは頬に触れる髪を耳に掛けると、思い切り伸びをした。
  • 12 はな id:jrNlBWP1

    2011-08-08(月) 16:19:24 [削除依頼]
    マリーゴールドに女将はいなかった。
    荷物を取りに部屋に行くと小さな机の上に花柄のメモには
    「お買い物に行って来ます」
    そう書かれてあった。

    荷物、と言ってもボストンバッグ一つだが、その中からずっしりと重みのある袋を取り出して、メモの横に置く。
    そしてメモを裏返すと、バッグから万年筆を出して「帰ります。ありがとうございました」とだけ書いた。

    裏口から出る。
    どうもこちらから出るとゴミ臭い裏路地を通らなければ大通りには出られないらしい。
    カラスがゴミを漁っている。猫が無音で道を歩いている。
    鼻をつまんで足早に行くと大通りにはすぐに出られた。

    ―雀が肩に止まった。セナだ。

    彼女の名前を呟くと人間の姿に変わった。

    「見ていましたよ、魔姫様」

    「見られて困るものは無かったと思いますが」

    「無礼を承知で言わせてもらいますが、注意力が足りません。
    宿では本名で泊まったクセに、あの男と会った時は偽名を使うなんて」

    口ごもるマキア。反論のしようも無い。
    セナは溜め息をつくと、マキアに深く帽子を被せた。

    「ま、二度と会う事は無いでしょうけど。
    会うとしたら冥界に道案内する時くらいですかね」

    「ですわね」

    まだ日は高い。
    早く城に帰りたい、とマキアは思った。
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