夏の面影31コメント

1 ベイス id:UK08u2.1

2011-08-02(火) 00:11:44 [削除依頼]

***これは、かつてのヒーローと、その孫と、私のお話。***


************


『よーし。川島、ナイスピッチ!!』

今となっては、霧がかった記憶。まだ、声変わりをし切らないあいつの声が、私の頭の中で、響いた。


―――――――――昔と変わらないね、ここもさ。残酷なくらいに。

地区内で一番広いグラウンド、「広川グラウンド」に緊張した様な面持ちで立っている沙希に、心の中だけで問いかける。
多分、本当に問いかけたら、歯切れの悪い、そうだね。を聞く事になるだろうから。口には出さないけれど。
  • 12 ベイス id:UK08u2.1

    2011-08-02(火) 21:09:09 [削除依頼]

    ――――――約束しろよ、か。

    無駄に長ったらしい開会式なるもので、列の一番前に突っ立ちながら、私はあいつの言葉をリフレインしていた。

    今考えれば、変な言い草だよな。と思う。どうして、異変に気付かなかったのか、とも。

    意識がもう長い事遠くに飛んでいたらしい、開会式が終わると同時に、沙希に心配そうな声で、後ろから話しかけられた。

    「ねぇ、大丈夫?さっきから、ぼーっとしてるけど・・・。」

    「あ、ああ、心配ない。ちょっと、寝不足でな。」

    とっさに嘘をつく。すると、沙希の顔は少しほころんだ。

    「もー。仮にも、大会なんだからね?」

    日に焼けた顔で、にこにこと笑った。本当に人が良い。この子は。

    「分かってるよ。任しとけって。」

    そう言って、親指を突き出すと、沙希も同じように返してくる。

    「うん、期待してるから。頑張って!」

    「おうっ。」

    ちょっと低めの声で答えて、ぐっと、ビブスの端っこを握る。背番号は1だったはずだ。

    そうこうしているうちに、三輪先生の大声が聞こえてきた。

    「おおい!第一試合だぞー。遅れんなー。」

    グラウンドのど真ん中で口に手をあてて叫ぶ姿は、まるっきりおじさん臭い。

    皆、一様に眉をひそめる。

    その様子を見て、私は少し気分が軽くなった。
  • 13 ベイス id:UK08u2.1

    2011-08-02(火) 21:22:28 [削除依頼]
    プレイボール!というしゃがれ声を聞いて、私のやる気が萎えていくような気がした。

    その声の持ち主は、憎むべき、かつてのヒーロー。先程の開会式でも長い演説を披露していたらしいが、意識が過去にあった私は何も気がつかなかった。

    さすがに投げないわけにいかない。私はマウンドを蹴った。
  • 14 ベイス id:UK08u2.1

    2011-08-02(火) 21:31:53 [削除依頼]
    第一球は様子見の気持ちで投げた。左腕は無理のないフォームですべっていった。

    野球部に入っているわけじゃなし、最近は全然投げていなかったので、不安だったが、何とか大丈夫なようだ。

    私は左投げだ。右利きだが、左打ちでもある。なぜかといえば、あいつがそうだったからだ。
    別に、憧れて・・・などではなく、私に野球を教えたのはほかならぬあいつで、あいつの投げ方は、私の投げ方だ。コピーしたみたいだな。とあいつは言ったが、はっきり言って、質はあいつの方が何百何千倍と上だ。


    私は一心に投げつけながら、あいつのフォームを思い出していた。
  • 15 ベイス id:UK08u2.1

    2011-08-02(火) 22:12:00 [削除依頼]

    ゲームセットォ!!

    私が、最後のバッターを三振に取ったと同時に、またあのしわがれ声が叫んだ。

    ああ、もう、本当に嫌だ。
    この声は。この雰囲気でのこの声は。きつすぎる。


    まだ、あいつが生きていて、そこまでつまはじきにはされていなかった、あの頃。私たちは、しょっちゅうクラスメイトを誘って、誘われて、野球をして遊んだ。もっぱらゲームだった。

    あいつはピッチャー、私はキャッチャー。

    それが、いつものポジションだった。でも、たまに私にピッチャーを譲ってくれて。

    一人打ちとる度に、あいつはキャッチャーマスクを外して、こう叫ぶ。

    『よーし。川島、ナイスピッチ!!』

    気恥ずかしくて、でも柄でもなく、素直に嬉しかった。

    かずみねー、毎回毎回うるせーよ。

    という怒号が気にならないほどに。夢中になって、投げていた。

    『プレイボール!』『ゲームセットォ!!』

    いつも、ピッチャーかキャッチャーだったからか、そう叫ぶのは、いつもあいつで、ヒンシュクを買いながらもそれはなんとなく変わらなかったし、あいつも叫び続けていた。
    ゲームセットの方が大きくて。いつだって、言い出すのが早かった、私が投げている時は。


    だから、きついのだ。


    あの、声を聞くのが。和峰参治の声は、残酷なくらいあいつに似ていて、それが分かるくらい、私はあいつの声を覚えていて。


    あれから五年経っても、たまらなく、きつい。膝を折って倒れたくなりそうなくらいに。


    なんとか前を向くと、そんなわけないのに、あいつが駆けて来てくれるような気がした。


    『川島!ナイスゲーム!お疲れさん!』

    あいつの声が聞こえる気がした。

    マスクを着けたままのあいつが見える気がした。


    「だいき・・・。」


    私は久しぶりにあいつの名前を、呼んだ。


    fin.
  • 16 ベイス id:UK08u2.1

    2011-08-02(火) 22:15:00 [削除依頼]
    一応、完結しました。が、番外編として、他者目線からのお話もこれから書いてゆくつもりです。

    相変わらずの駄文ではございますが、よろしくお願いします。

    それでは。ベイス。
  • 17 ごん id:RcWxwux0

    2011-08-02(火) 22:26:41 [削除依頼]
    う、うるうる…><
    だいきくん。。。。
    てか、主人公が男前だー(女子ですが)

    おもしろかったです!!
    番外編、楽しみにしてますね^^
  • 18 ベイス id:UK08u2.1

    2011-08-02(火) 22:40:03 [削除依頼]
    >17ごんさん 感想ありがとうございます。 なかなか、暗い内容のお話となってしまいました。面白かったと言っていただけて光栄です。 男っぽい女子っていう設定は結構楽に書けるんですよね。 自分自身、「まぁ○○は男の子だから、ね?」なんてしょっちゅう友達に言われているような人間なので 笑 それでは、読んで下さり、ありがとうございました。 番外編もよろしくお願いしますね^^
  • 19 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 13:13:05 [削除依頼]
    ―番外編―

    和峰参治目線―――――――――――――――――


    その子が、投げた時、私は悟った。

    ・・・・・・大樹(だいき)が言っていた女の子は、この子か。と。


    他の子とは、格が違う。
    速さも。正確さも。フォームの綺麗さも。

    そして何より。左投げ。

    ビブスの着方からして、右利きだろうに、左投げだった。


    ・・・あの子が、川島さんか。そうなんだな。


    もうこの世にはいない、でも、誰より大切だった孫に、私は心の中だけで話しかけた。
  • 20 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 13:18:11 [削除依頼]


    私は、かつて、この地区、この町の英雄だった。


    小さなころから、野球が得意で。野球ばかりして。野球だけしか知らなかった。

    だから、野球から離れざるおえなくなった時からの私は、愚か者以外の何者でもなかった。やはり、あの時、あの球団の監督にでもなっておくべきだったのだ。私は、野球から離れて生きていけるほど、野球以外の事を知らなかったのだ。


    何かに憑かれたように投げる、あの子を見て、改めてそう思った。
  • 21 ごん id:XNwQMG1.

    2011-08-03(水) 13:48:23 [削除依頼]
    番外編やふーい^^
    ハイ、ごめんなさい><

    きましたね。かつての英雄さん^^
    更新楽しみにしてます!
  • 22 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 13:51:53 [削除依頼]
    >21ごんさん コメント、ありがとうございます!! 最近なぜか、たまにエラーでしばらく投稿できなくなったりしていて、ちょっと戸惑っていますが・・・。 何とか、頑張って更新したいと思っています^^ それでは。ベイス。
  • 23 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 13:58:04 [削除依頼]

    私は、自分の商売のやり方が、悪い事だったなんて、思っていなかったのだ。

    だから、癌で息子が亡くなって、孫を残して先だった時も、大樹をちゃんとした大人にしてやれると思っていた。
    自分がまっとうな人間なのだと思っていた。

    しかし。

    大樹は。たった一人、血のつながった孫は。

    私のせいで、自らの命を絶ってしまった。
  • 24 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 14:00:00 [削除依頼]

    私の人生は、選挙に出馬したところから、狂い始めたのだろう。

    もともと、私は日本を変えたいと思っていたのだ。
    なんと愚にもつかない事をと、今なら分かるが、あの時は分からなかった。甲子園に出たときのように。プロの世界に入った時のように。また、日本を元気に出来る。
    そんな風に考えていた。

    多分、本物の挫折を経験しないまま成功してしまったからだろう。言い訳をするならば。

    しかし、そんなことは通用しない。そんな私の安易な考えのせいで、和峰家は多額の金を巻き上げられ、自分自身、やりたくもないような商売に手を付ける事となってしまったのだから。


    落選したあの時、私は猛烈に金が欲しかった。
    癌で生死をさまよっていた息子のため。その息子・・・自分の孫との生活のため。

    商売は、成功した。のだろう。大金が手に入った。しかし、息子は亡くなり、孫は私の職業柄のせいで、いじめられ、それを苦に自らの命を絶った。

    私は何のために。老体にムチ打って働いて、金を手に入れようとしたのだろう。


    私は、一人になってしまった。


    金と権力の代わりに、それ以外の全てを失った。
  • 25 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 14:17:53 [削除依頼]

    大樹が命を絶つ前の日。

    大樹は、ボロボロになって帰ってきた。

    どうしたのかと聞いても、何も答えない。朝は、四番でエースになってやった。ざまぁ見ろなんて、言っていたのに。

    なぜ、気付けなかったのか。なぜ、分からなかったのか。


    私は、それと同じ思いを抱いているに違いない、あの女の子を見た。


    いつの間にか、もう最終回まで来ていたようだ。この様子だと、二回戦も三回戦も彼女ら・・・いや、あの川島さんが勝つだろう。

    「ゲームセットォ!!」

    私は叫んだ。
    川島さんの眼は、どこか遠くを映していた。彼女は、なにかを口にした。喧騒に紛れて聞こえないが、多分、大樹を呼んだのだろう。

    私には分かる。私もまた、無意識のうちに呼んでしまったから。

    「だいき。あの子のために、この大会を残して欲しかったんだな。」

    ぼそりと呟くと、それに気付いたのか、横にいる大会運営の手伝いをしてくれている男に話しかけられた。

    「どうしましたか?会長?」

    「いや、なんでもないさ。」

    そう言うと、初めっから、対して興味もなかったのか、あっさりと引きさがった。

    「そうですか。・・・にしても、あの子、川島さんでしたっけ?・・・凄いですよね。」

    「ああ、そうだな。」

    「全然、他の子と違う。惜しいな、男だったら、絶対プロ路線なのに。」

    「確かにな。あの投げ方は、誰にも出来るもんじゃない。」

    「そうですよね。こう、オーラというのでしょうか?必死さが伝わってくる投げ方ですよね。キャッチャーの係員が何度腰をついたかしれません。」

    このチームは途中から、キャッチャーは、危険という事で、女性係員が変わってやっている。そのくらい球威はすさまじい。

    しかし。そうではない。それだけでない。

    「・・・十字架を背負って投げてるからな。あの子は。」

    「え?」

    男は、怪訝そうな顔をした。

    「いや、なんでもない。」

    そう言うと、私は改めて、あの子を見た。


    背負わなくてもいい十字架を、背負わせてしまった。あの子を。


    fin.
  • 26 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 14:22:52 [削除依頼]

    完結いたしました。「夏の面影」。

    終始暗い話となってしまいましたが、楽しんでいただけたならば光栄です。

    それでは、また。違うお話で、お会いしましょう。

    ベイス。
  • 27 ごん id:XNwQMG1.

    2011-08-03(水) 14:24:30 [削除依頼]
    うるうる…><
    なんか、この人も苦労したんですねー…
    大人の過ちといいますか

    だいきくん><。あぁ、生きてて欲しかったぜ(おい
    惜しい人ですね、彼。

    完結おめでとうございます!
  • 28 ベイス id:vLR3j6n0

    2011-08-03(水) 14:33:20 [削除依頼]
    >27ごんさん コメントありがとうございます^^ ごんさんの素敵なコメントの数々のおかげで、完結させることが出来ました><。 とても励みになりましたし、うれしかったです^^。 それでは。ありがとうございました。ベイス。
  • 29 ごん id:XNwQMG1.

    2011-08-03(水) 14:59:10 [削除依頼]
    ベイスさんの小説は大好きです!

    これからも楽しみにしてますから^^
  • 30 ベイス id:7lmcia71

    2011-08-26(金) 21:44:42 [削除依頼]
    評価待ちのため、あげさせていただきます。
  • 31 A型の女 id:4de.ddO0

    2011-08-26(金) 22:26:28 [削除依頼]

    評価依頼ありがとうございます!
    それでは早速評価に入ります。

    話の内容や流れをとてもよく練ってあって
    読んでいたら何だかドラマになりそうな
    小説だなと思いました。
    良い意味で感情移入しやすい小説ですね。

    この小説の良い点は
    登場人物のことを説明していながら
    決して説明的になっていず
    とても自然に話に溶け込んでいるところ。

    反対に改善した方が良い点は
    登場人物の生い立ちの説明や気持ちを書くばかりで
    あまり周りの人の様子や描写
    その場の雰囲気などを書いていないところ。

    たとえば大会のところなどは
    本人の気持ちや心情を書きつつ
    周りの描写を詳しく書き足すなど。

    総合評価は5段階中の4です。

    話の内容や書き方などはとても魅力的なので
    今度は一人の読者として読みに来ます!
    続きが気になりますねw
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