Ein Wolfsmädchen -狼少女-52コメント

1 祈祷 彗月 id:iQ0LlPb1

2011-07-21(木) 20:02:04 [削除依頼]
 
 黄金色の瞳を持つ気高き狼
 エメラルドグリーンのような髪を持つ高貴なお嬢様

  
  廻り出した歯車は誰にも止められない
  たった一人の少女の決断ですべてが決まるのだ
  • 33 祈祷 彗月@ツキ id:XFCQ12T0

    2011-08-12(金) 13:30:57 [削除依頼]
     言い返すことが出来ないシビニは口ごもる。
     ヴィクトリアの言っていることは的を得ていた。今のシビニに反撃は出来ない。
     「……だったら、なんだ……」
     力なく言うシビニは死を覚悟した。ハイネを守れないのならこの命は無駄でしかない。
     だがそれは今始まったことではない。気づかないうちにハイネを大切に思う心が強くなっていただけだ。
     
     「違う……。違うっ、違う!!」
     いきなり声を荒げたハイネ。
     ここでヴィクトリアの言葉を認めてしまったシビニへ怒りを感じた瞬間。
     握り締めていた銃を地面へと叩きつけるとシビニ、ヴィクトリアの順に双方を睨んだ。
     涙が零れだし、しゃくりあげ、とても惨めに感じた。
     正直とてもかっこ悪く感じたが今はそれでもいいと思ったのだ。
     「シビニは、シビニは認めちゃダメなんだっ!! ずっと守ってくれるって、守るって誓ったじゃんかっ!!!」
     それは、紛れもないハイネの本音。シビニの死を感じたハイネの心の叫びだった。
     静止するヴィクトリアを無視して走り出した。
     男達に囲まれたシビニへと抱きつく。血が付こうがもうそんなこと関係なかった。
     今はシビニのぬくもりだけが欲しかった。
     
     「ハイネっ……」
     抱きついて離れようとしないハイネの名を呼ぶ。愛おしそうに、慈悲のこもった愛情に溢れる声で。
  • 34 祈祷 彗月@ツキ id:XFCQ12T0

    2011-08-12(金) 13:53:00 [削除依頼]
     シビニの毛に顔を疼くめるハイネはこんな状況にもかかわらず昔を思い出した。
     寒いとき、怪我をしたとき、いつもこうやってシビニへ抱きついていた。
     そんな昔に戻りたい。それがハイネの願い。
     だがその願いはリースを失ったことによりもう叶わないと知っているハイネ。
     
     「ハイネ……」
     ヴィクトリアの声に肩が震えたハイネ。シビニへ抱きついたまま静かにヴィクトリアを見据える。
     男達は相変わらずシビニへと銃口を向けたまま。
     風が通り過ぎ、木々を揺らし、ボサボサに伸び切ったハイネの長い黒髪を撫でた。
     そしてその風は流れるように、同じようにヴィクトリアの美しい髪を撫でる。
     それを耳にかけながら小さく吐息を吐いたヴィクトリアは足元の小さな紫色の花を手に取り微笑んだ。
     「この花びらの色、瞳の色と似ているわね」
     花とハイネを見比べながら言うヴィクトリア。
     男達を押し退け、中心にいるハイネとシビニへと歩み寄ったヴィクトリアはしゃがみ込んだ。
     丁度ハイネと目の高さが同じくらいだ。
     
     警戒心を解かないシビニは鋭くヴィクトリアを睨んだ。
     “大丈夫”と小さくシビニに言い聞かせながらも内心は怯えているハイネ。
     花を持つ手を躊躇いながらあげ、ハイネの耳へとかける。
     黒い髪のハイネに紫の花はよく似合っていた。よく分らないハイネはそっと花を触れてみる。
     小さく頷いたヴィクトリアは満足そうだ。
  • 35 祈祷 彗月@ツキ id:XFCQ12T0

    2011-08-12(金) 14:15:40 [削除依頼]
     「よし、似合ってるわ」
     腰に手をあて断言するヴィクトリア。
     この場にいるヴィクトリア以外、全員が呆気に取られた。
     
     (この人は何をしている……?)

     警戒心ビリビリなはずのシビニまで開いた口が塞がらないようだ。
     だがそんな皆には気にせずハイネの頭を優しく撫でるヴィクトリア。
     この場で引き離すのは得策ではない。ヴィクトリアはそう考えたのだ。
     シビニを殺し、ハイネを無理矢理連れて行くことは出来るだろうがそんなことをすればハイネの心が壊れるかもしれない。
     心が壊れたハイネなどヴィクトリアは欲しくはなかった。
     欲しいのは今のように喜怒哀楽があるハイネだ。
     (私になついた頃、捨てればいい……)
     自分でも酷い考えだ思ったヴィクトリア。
     それでも変更するつもりはない。ましてや誰にもいう気はない。
     心の中で微笑んだヴィクトリアは周りの男達に一つの提案を出した。

     「ねぇ、最初はハイネだけの予定でしたけれど、狼も私が貰うわ」
     予想もしない提案に一番反応したのはシビニ。ヴィクトリアを凝視した。
     周りの男達も賛成する者はいなく、口々に口論を始めた。
     「ヴィクトリア嬢はどうしたのだ?」「一緒につれて帰る? 馬鹿げているだろう」
     意見を聞けば聞くほど全員一致で反対らしい。
     両手を広げ、オーバーにため息をつくヴィクトリア。
     男達全員を見るようにして歩きながら先程のヴィクトリアとは思えないほどの冷めた低音で言う。

     「……ちょっと、誰に向かっていっているの? 私が誰だかお忘れで?」
     笑顔だが目が笑っていない。
     ヴィクトリアの周りだけだけとても冷たいオーラーがにじみ出ていた。
  • 36 祈祷 彗月@ツキ id:XFCQ12T0

    2011-08-12(金) 14:31:33 [削除依頼]
     顔を見合わせた男達は不満がありながらも納得する。
     この世には絶対に逆らってはいけない人物がいる。そのうちの一人がヴィクトリアということだ。
     勝ち誇ったような顔でヴィクトリアは高らかに言った。
     「では、決まりですわね」
     男達全員がそれに従おうと銃を下ろした瞬間、シビニが小さき声で呟いた。
     「おい、何勝手に納得してんだよ」
     少なからず怒気が混じった声音。ハイネはシビニの毛をそっと掴んだ。
     ここを出て行くつもりはない。ハイネとシビニの意見は同じである。
     皆との思い出のあるココをそう簡単に捨てられるはずがない。 
     だがそれが分らないヴィクトリアは真顔で小さく問う。“どうして?”と。
     「思い出がたくさんのかけがえのない大切な場所だから」
     答えたのはシビニではなくハイネだ。ココを出て行くなど考えられない。
     真っ直ぐに揺らぎない瞳でヴィクトリアへと言ったハイネ。
     ヴィクトリアは間をおいて妖艶に微笑み、囁くように呟いた。
     「そう……でも……。片方が行ったら行くしかないわよね?」
     どうやら選択権は与えないつもりらしい。
     ヴィクトリアらしいやり方に冷や汗を流した男もいた。
     「なっ……「撃って」
     シビニの驚愕とした声に重ねるようにヴィクトリアは呟き、正面の男を指差した。
     麻酔銃を持つ男だ。
     あらかじめそれを知っていたヴィクトリアは素早く指示を出す。
  • 37 祈祷 彗月@ツキ id:.icsjuY/

    2011-08-14(日) 15:43:28 [削除依頼]
     言われた男は戸惑い間ながらもシビニへ発砲。
     「くそっ……!」
     避けるのに間に合わず、弾はシビニの右前足へと直撃した。
     苦痛に顔を歪ませ、ハイネに横たわるように倒れた。
     消え往く意識の中でハイネの叫び声が最後に聞こえたのは気のせいだろうか……。

     「っ!? シビニっ……」
     ハイネはいきなりの出来事にリースの死がフラッシュバックした。
     まさかシビニまでも死んでしまったのではないか。
     不安がハイネの胸を駆け巡る。
     キュッと拳を握り締め、周りの男達、ヴィクトリアを憎しみのこもった瞳で睨んだ。
     殺せるものなら殺してしまいたい。だが駆け寄るときには銃は落してきてしまった。
     だから今のハイネは武器や凶器といった物を持ってはいなかった。
     
     そんなハイネを安心させるようにヴィクトリアは言う。
     「大丈夫よ。殺してなどいないわ。眠らせただけよ」
     美しい笑顔だがハイネは逆に恐ろしかった。
     天使を思わせるような美しさの裏にどんな悪魔が潜んでいるのか。
     ヴィクトリアが男達に目配せで何かを合図したと思ったらいきなりシビニを抱え上げた。
     「あっ……」
     悲しみの声を上げたハイネはシビニを抱く男へ両手を差し出し奪い返そうとする。
     だが男が返すわけもなく、先へ歩き出してしまった。
     「ハイネ、どちらかが無理にでも行けば片方も来なければいけないわよね?」
     悪魔のように勝ち誇った笑顔で言うヴィクトリア。
     悔しかったが当たっている。ハイネは眉を八の字にさせ、ヴィクトリアの後を付いて歩いた。
  • 38 祈祷 彗月@クラウン M629 id:UOQ5kHz/

    2011-08-29(月) 14:36:56 [削除依頼]
     
     見慣れた景色の中、後ろから銃を突きつけられたままゆっくりと歩くハイネ。もう後戻りは出来ない。
     不思議とハイネの中に恐怖はなかった。あるのは底知れぬ眠っている怒りと思い出すだけで涙が出てくるような悲しみ。
     親しんだこの森ともお別れ。もちろん、狼たちともだ。
     森から出たことがないハイネは初めて水が流れる――海の音を聞いた。
     ある一定の範囲の森から出たことがないハイネからしてみれば海に囲まれこの森の端に行くのは初めて。
     自分の今の状況も忘れ、一瞬瞳を輝かせた。
     
     「ハイネは海を見るのは初めて?」

     振り向いたヴィクトリアの声で我に返ったハイネ。
     殺意のこもった瞳で睨みつければ後ろの銃を持つ男に背中を押された。
     前へ進め、ということだろう。
     白い砂の上を素足で歩きながら周りを眺める。
     何処まで続いているのだろうか、この海という水は。考えていれば一日はもつかもしれない。ハイネにとってはそれほど興味深いものである。
     だがそれほど時間はない。
     小さな船に乗り込み、隊員が何人か板のような物を動かせば船は進んだ。
     身を乗り出し、海から顔を出すハイネ。
     綺麗な水は透き通っており、真下の白い砂や珊瑚、小魚まで見える。
     手で水を触り、魚を掴もうとすれば手の隙間からするりと逃げられてしまう。
     
     「ふふっ……。ハイネからしてみれば何もかもが初めて?」

     口に手をあて小さく笑うヴィクトリア。とても優雅で上品だ。
     ここにいる男達が裏のヴィクトリアを知らなければ鼻を伸ばしているはず。
  • 39 祈祷 彗月@クラウン M629 id:UOQ5kHz/

    2011-08-29(月) 14:59:44 [削除依頼]
     ハイネはヴィクトリアの言葉を無視して水で遊び続けた。
     ヴィクトリアは無視されたことに対し、何も感じていないように髪を耳にかけた。
     そしてハイネを愛おしく見つめる。

     除々に水深が深くなり、真下が見えなくなってきた頃、船はゆっくりと止まった。
     何事かと顔を上げ、絶句するハイネ。
     それこそ見たことのない大きな“物”。口をポカンと開けたまま硬直した。
     その大きな“物”は影で小さな船をすっぽりと隠し、紐を二本、垂らしてきた。
     
     「よし、引き上げてくれっ!」

     その紐を船の端と端に括り付けた男は上に向かって叫んだ。
     ハイネが言葉の意味を考えた瞬間、水しぶきを上げ、船が浮いた。紐に引き上げられているのだ。
     いきなりの出来事に立ち上がったハイネは体制を崩し、ヴィクトリアへと倒れこんだ。
     船が揺れ、立っていることが極めて困難だ。

     「ハイネ、大丈夫?」

     ヴィクトリアはハイネの肩を支え、顔をのぞきこんだ。
     肩をつかまれたことにより、恐怖心が湧き出たハイネは素早くヴィクトリアの手を振り払う。
     拒絶されたヴィクトリアは一瞬だけ眉を下げた。
     だがそれは一瞬の動作だったため、ハイネにはまったく分らなかった。
     振り払ったものの、上手く立つことができないハイネは素早くヴィクトリアから離れ、端っこへと座り込む。
  • 40 祈祷 彗月@クラウン M629 id:UOQ5kHz/

    2011-08-29(月) 15:50:12 [削除依頼]
     船が上げられ、騒音にも似た声が耳に響く。
     その大きな物改め船には大勢の屈強な男達がいる。
     
     「ヴィクトリア嬢、お帰りなさいっ。先程届いたこの狼は?」

     この中でのリーダーのような役割であろう、中心に立つ男が声をかけてきた。
     端に置いてあるタルの上の狼を指差す。
     ヴィクトリアは別の隊員からワインの入ったグラスを受け取ると、視線を彷徨わせた。
     誰かを捜している。
     この場の誰もがそれに気づき、先程一緒に森に入った一人の男がハイねの手首を掴んだ。

     「なっ……」

     あまりの痛さに悲鳴もあげられなかったハイネ。
     半分引きずられるような状態でヴィクトリアのもとまで連れて行かれた。
     そして後ろから来るハイネに気づいたヴィクトリアは顔を輝かせた。
     
     「この子、ハイネの連れよ。一緒にレモニアスアまで行くの」

     ヴィクトリアの言葉に周囲がざわついた。食べるのではなく、連れて行く。
     そんな中、ハイネはやっとシビニにの存在に気づいた。
     男の手から逃れ、周りの男達を押し退け、シビニへと抱きつく。
     息をしている。死んではないようだ。
     大きく息を吐き出すと、今までの疲れがどっと押し寄せた。
  • 41 祈祷 彗月@クラウン M629 id:mTZ9VQx0

    2011-08-30(火) 22:12:36 [削除依頼]
    @ぼやき@

     一度改行を増やしてみましたが戻します。
     うむ、なんとなく書きにくい((
     なので前半(?)の書き方で。
  • 42 祈祷 彗月@クラウン M629 id:T8tDCvN1

    2011-09-03(土) 19:41:52 [削除依頼]
    >40  「ハイネ、私の部屋で休みなさい。寝ていればすぐ到着するから」  ヴィクトリアはハイネに近づき、優しく言う。  でもそれは表だけの優しさだけであってハイネは命令されているように感じた。  シビニを抱きしめながら首を横に振るハイネ。ヴィクトリアに逆らうのはとても怖かったがそれ以上に離れたくなかった。  周りの隊員達は珍しいものでも見るかのようにハイネとシビニを凝視する。人間と狼が一緒にいるのが不思議なのだろうか。  「……ハイネは度胸があるわね。私に逆らうなんて」   ハイネの肩が震える。大きく目を見開き、そのまま硬直した。頭では素直に従うのが良いと分っていても体が反応しない。無言で鋭い視線へと堪えた。  先に動いたのはヴィクトリアだ。  近くにいた隊員へと目配せすると、震えるハイネの肩へと手を置く。  「ハイネ、先程シビニ撃ったのはね、猛毒があるの」  淡々と言うヴィクトリア。  ハイネは“猛毒”という言葉に反応し、シビニへ抱きつく手に力を込めた。  その様子を見たヴィクトリアは小さく笑う。  「あなたが私の部屋に来てくれないのなら治療しないけど?」  首をかしげ、愛らしく残酷なことを言うヴィクトリア。  もちろん、麻酔銃であるため猛毒なの大嘘である。  だがそれを知っているのはヴィクトリアと隊員のみ。  「……どうする?」  続けて問うヴィクトリア。  ハイネはシビニから手を離すと後ろに立っているヴィクトリアを見据える。 敵意しかない、冷たい瞳で。  迷いに迷ったハイネは震える声を絞り出した。  「行く、だから……シビニを助けて……」  怒りと悲しみが混じった声。ヴィクトリアを見つめながら言った。
  • 43 祈祷 彗月@クラウン M629 id:T8tDCvN1

    2011-09-03(土) 20:12:40 [削除依頼]
     「いい子ね、ハイネ。大好きよ」
     恋人に言うみたいにうっとりするヴィクトリア。ハイネの頬に優しく触れ、キスをした。
     隊員達は冷や汗が流れるのを感じる。今、声を出しているのはヴィクトリア一人。皆二人の会話へ耳を傾けていた。
     突然キスを去れても微動だにしないハイネ。
     ヴィクトリアに背中を押されながら船の奥へと連れて行かれた。

     隊員達はその光景を黙って見つめる。放心状態で、無表情で。
     奥でドアが閉まるような音を聞き、弾かれたように皆動き出す。話さず、無言で。怯えているようにも感じるが。

     「ハイネ、ワインは飲める?」
     奥ではヴィクトリアが赤いソファに優雅に座っていた。手にはビンを持って。
     煌びやかで美しい物達が飾られ、置いてあるこの部屋はヴィクトリアにとても良く似合っている。
     ハイネはヴィクトリアの正面に立ち、石造のように動かない。
     そもそもワインというものを知らないため、反応しようがないのだ。
     「隣においで」
     横に詰めたヴィクトリアは空いている隣を指差す。そこに座れということだろう。
     大人しく座るハイネ。
     ヴィクトリアは一度立ち上がり、戸棚からガラスのコップを二つ取り出した。コップへと慣れた手つきでワインを入れる。
     初めての物に視線を逸らせないハイネはコップへと注がれていく赤い液体を見つめる。
     赤い液体は血しか知らないハイネ。途端にリースの死が脳裏を遮る。
     無理矢理振り払うといつの間にかヴィクトリアが隣へと再び座っている。
     「飲んでみて。美味しいわ」
     ハイネへとコップを差し出すヴィクトリア。
     船の揺れに合わせ、波打つコップの中の赤い液体。
  • 44 祈祷 彗月@クラウン M629 id:T8tDCvN1

    2011-09-03(土) 20:35:31 [削除依頼]
     赤い液体を見つめながら両手でコップを受け取った。そして上から覗いてみる。やはり真っ赤だ。横から見ても同じ、血のようだ。
     どうしても口に入れられないハイネはずっと見つめる。
     ヴィクトリアは自分の分を一気に飲み乾し、ハイネへと視線を向ける。
     「大丈夫、きっと気に入るわ。ブドウと苺から出来ているのよ」
     初めて聞く単語に首をかしげたハイネ。
     ヴィクトリアが飲み乾し、大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろうが、中々飲む気にはなれないハイネ。
     真剣な顔で見つめたまま動かない。
     「……血、じゃないの?」
     ヴィクトリアに視線を向け、困ったように聴く。
     一瞬度肝を抜かれたような顔をしたヴィクトリア。ハイネがそんなこと考えていたなど思いもしなかったのだろう。小さく笑い、「大丈夫」と一言言った。
     信用したわけではないが、正直喉が渇いていたハイネはゆっくりコップへと唇を付けた。
     そのままゆっくりコップを傾け、液体を口の中へと誘導する。冷たい液体が喉を通り、体の中へと落ちていくのが分った。
     酸味と僅かに甘い液体はハイネの口の中へと後味として残っている。
     「お味は? 美味しいでしょ?」
     何ともいえない顔をしているハイネ。
     ヴィクトリアは身を乗り出してハイネへと賛同を求めた。
     舌で口の中を舐め、唾を飲み込んだハイネは残った液体が入ったコップをテーブルへと置く。
     その動作で美味しくないというのがヴィクトリアに伝わった。
     「ワインは大人の味ですものね……」
     独り言を言うヴィクトリア。実に残念そうである。
     ヴィクトリアはもう一杯飲んだ。
     ハイネにワインの美味しさを知ってもらうのを諦めたヴィクトリア。
     
     「あ……」
     小さく声を上げたハイネ。視界が歪んだ。
     隣にいるヴィクトリアがぼやけ、霞んでよく見えない。
  • 45 祈祷 彗月 id:lRaRRsA1

    2011-09-04(日) 20:37:58 [削除依頼]
     瞼が重く感じ、ふわふわとした曖昧な感じ。自分でもよくわからないハイね。
     目を擦り、必死に目を閉じるまいとするのだが睡魔には勝てない。
     ハイネの意思に反し、睡魔は犯し続けた。
     
     「お休みなさい、ハイネ」
     ヴィクトリアはハイネの肩をそっと抱き寄せ、膝の上へと優しく乗せた。
     ハイネの黒い髪を撫でながら目を瞑るヴィクトリア。
     この空間だけをみれば仲が良い、似てない姉妹にも見えなくはない。
     ハイネの穏やかな寝息を聞きながらヴィクトリアは船に揺られる。
     「レモニアスアに到着したら髪を切ってあげるわね」
     小さく「楽しみだわ」と付け加えるヴィクトリア。
     ほのかに微笑み、ゆっくり眠りへと落ちていった――……。

    ‡*‡

     船の揺れは一定で、冒険が好きな者なら心地良いと思う者が多いはず。とくにここ、カトユークス海には小魚から巨大魚まで幅広い魚達が生息する。運がよければオーロラだって見えるのだ。
     海で朝の光を浴びると目覚めが良い。その上オーロラが見られる確立が高い。たいした根拠はないのだが。
     こんな噂を耳にしたことがあるヴィクトリアはそっと瞼を上げた。
     相変わらずの揺れは目覚めたばかりのヴィクトリアには少々きつく、もう少しこのままでいたかった。
     膝の上の感覚に安堵し、もうひと寝入りしようかと思う。
     だがヴィクトリアのその考えは簡単に打ち砕かれた。
     除々に近づいてくる足音と太陽の光。もう動かなければと嫌でも思ってしまう。
     大きく息を吐き出し、ハイネの頬へと触れてみる。
     桜色の頬は柔らかくヴィクトリアの心をくすぐった。
  • 46 祈祷 彗月 id:lRaRRsA1

    2011-09-04(日) 23:02:45 [削除依頼]
     本当はこのまま時が止まってほしいほどだった。
     だがそれは叶わないこと。
     足音が除々に近づき、ついにはドアをノックする音がしてしまった。
     小さく「どうぞ」と言えば一つ置いてドアが開いた。
     現れたのはこの船の船長だ。ちょび髭が印象的が気前がいいおっちゃん。少なくともヴィクトリアはそう感じたのだ。
     それでも名前は知らない。自己紹介はされたが覚えるに値しないと判断したから。
     「レモニアスアはもう目と鼻の先です。このたびはご利用有難うございました」
     丁寧にお辞儀をする船長。
     興味がないヴィクトリアは適当に相づちをして部屋から追い出した。
     膝の上には未だによくねむるハイネ。
     「ハイネ、起きなさい。貴女が住む街が見えてきたのよ」
     ヴィクトリアは優しくハイネの肩を揺さぶる。
     声と体の揺れに反応したハイネはゆっくり瞳を開け硬直した。
     「っ……」
     目を見開き、なぜ正面にヴィクトリアの顔があるのか分らないのだろう。ヴィクトリアの膝から転げ落ち、床へ両手足を付いた。
     その様子を見つめ、小さく笑ったヴィクトリア。ソファから降りるとハイネを立ち上がらせた。
     されるがまま立ち上がったハイネは部屋を見渡す。特に昨日と変わったところはない。
     「さぁハイネ、行きましょう」
     ドアを開け、部屋の外へとハイネを連れて行くヴィクトリア。仕方なく歩き出そうとしたが弾かれたように振り返ったハイネ。
     いきなりのことに瞳をパチクリさせるヴィクトリア。
     「シ、シビニはっ!?」
     昨日の会話を思い出し、ヴィクトリアへと焦るように聴く。
     一方ヴィクトリアは思い出したような、納得したような曖昧な表情を浮かべただけだ。
     「大丈夫。貴女が大人しくしていれば平気よ」
     ヴィクトリアは微笑んでそう言っただけ。あとは何も言わなかった。
     妙に視線が鋭く、“大人しく”を強調したヴィクトリアの言葉に仕方なく押し黙った。
  • 47 祈祷 彗月 id:lRaRRsA1

    2011-09-04(日) 23:17:39 [削除依頼]
     【 宝石の街-レモニアスア 】

     ヴィクトリアに手を引かれながら船から一歩一歩降りるハイネ。
     周りを男達に囲まれ、結局シビニの姿は一度も見ていない。
     たくさんの人たちが船から降りたヴィクトリアを祝福し、群がろうとした。
     途端に周りの男達は回りを堅くし、結局誰も近づけない。 
     太陽が眩しく、焼けるように暑い。
     周りには大きな建物、ハイネがよく知る緑といった草木は少しだけしか見えない。
     何か大きな物が走り抜けたり、決められた囲いの中のような場所を歩いたり。
     ハイネにとって初めての経験がどっと押し寄せてきたのだ。
     そしてなぜだか男達の隙間から見える人達はヴィクトリアを見つめる。
     自分じゃないと分っていてもハイネには居心地が悪い。
     しばらく歩けばどこか下へ降りて行き、ヴィクトリアには“地下”だと教えられた。
     さすがに光が当たらないだけあってその地下という場所は涼しく感じた。
     明かりがなく、寂しいところだと感じながらもハイネは外よりは快適だと素直に思う。
     あまり色が変わらない、迷子になりそうな地下を歩き、黒い物体の前で立ち止まった。
     それは外で何度も見た色とりどりの動きが速い物によく似ている。
     男達は少しヴィクトリアから離れ、その物を掴んだ。
     「ひゃっ……」
     てっきり血が飛び散るのではと思ったハイネ。小さく悲鳴を上げ、ヴィクトリアと繋いだ手へと力を込めた。
  • 48 祈祷 彗月 id:lRaRRsA1

    2011-09-04(日) 23:27:44 [削除依頼]
     「どうしたの? これは車っていうのよ。乗れるから便利なのよ」
     心からハイネを愛らしく思うヴィクトリア。その思いがまた強くなった。
     男達によって開けられたドアから真っ黒な車へと乗り込む。
     ヴィクトリアを見つめ、ハイネは気分が乗らないままゆっくり車へと乗り込んだ。
     乗った後もハイネは落ち着かず、ずっとそわそわしていた。ヴィクトリアが街の説明をしても半分も聴いてないほどに。
     車が止まるたびに反応し、外を見ては車内を忙しく見つめ、動き出しては小さく声を上げ、そっと外を見つめる。
     
     「さぁ、着いたわ。レモニアスアでも一番大きくて立派な屋敷、家よ」
     大きな門が開き、車が中へと入っていく。
     先程の光景のように緑が少なくなく、中心の大きな屋敷を囲むようにたくさんの木が生えている。
     中心には水を出す大きな“何か”。ハイネが一番興味をそそられた物だ。
  • 49 .彗月. id:PwUrMgX.

    2011-09-05(月) 16:56:51 [削除依頼]
     ヴィクトリアと繋いでいた手を離し、車のドアが開いた瞬間急ぎ足で向かった。
     噴射される綺麗な水の周囲はとても涼しく、中を覗けば透明な水が見えるだけだ。
     身を乗り出して見つめていると背後に気配を感じた。水面に緑の髪が見えたため、振り向かずともヴィクトリアだと分った。
     「ハイネ、それは“噴水”というのよ。気に入った?」
     隣でその噴水……とやらを見つめるヴィクトリア。
     ハイネはてっきりヴィクトリアも一緒に見ていくのかと思ったのだがどうやら違ったらしい。
     屋敷の中から黒ずくめの男達が数人現れた瞬間素早くそちらを向く。
     つられるようにしてハイネも男達を見つめるが皆無表情でロボットのようだと感じる。
     「ハイネ、行きましょう」
     男達が近づくにつれ、ヴィクトリアの顔が険しくなっていく。
     どうしたのかと見つめれば素早く手首を掴まれたハイネ。そのまま半分引きずられるような体勢で歩きだした。
     屋敷に向かうハイネとヴィクトリア。屋敷から出てきた男達。真正面からすれ違った。
     すれ違い際に男達に囲まれた白い髭の老人が見えたような気がする。
     ヴィクトリアは平常心を装い、震える手でハイネの手首を強く掴んだ。
     
     「屋敷の中、案内するわ……」
     力なく呟いたヴィクトリア。
     何もいえなかったハイネはコクンと頷くと、屋敷へと向かう。
     最初は噴水ばかりが気になってまったく気づかなかったが扉の両端に黒い物を持った厳つい男が立っている。
     それがライフルだと気づいたときにはもう遅く、距離がとても近かった。
     撃たれないと分っていてもやはり銃は怖い。たとえリースの命を奪った物と同じでなくとも、元は同じなのだから。
  • 50 祈祷 彗月@ボイコット希望 id:DNxFZNd1

    2011-09-06(火) 19:53:01 [削除依頼]
     ライフルを見えなくなるまで凝視したハイネ。まるで糸がピンと張っているように目が真剣だった。
     男達は丁寧にヴィクトリアへ敬礼し、すぐさま屋敷の中へと誘導する。
     『ヴィクトリア様! お帰りなさいませっ』
     大きな音を立て開いた屋敷へ一歩踏み込めばもう別世界のようだ。
     両脇には皆同じ服を着た男と女が一列に並んでいる。しかも皆揃って同じことを言ったのだ。
     天井からは大きな複雑な“何か”が吊るされており、美しい光を放っている。
     ハイネからしてみれば統一性がなく、只美しいだけの物を集めただけのような気もするが、豪華には変わりない。
     現代で言う和と洋の混沌……とでも言うのだろうか。
     長いヘビのような生き物(龍)が描かれた赤い絨毯の上を二人であるく。ヴィクトリアは澄ました顔でそつなくその上を優雅に歩いている。
     なんだか場違いなような気がしてならないハイネは力なく俯いた。
     そのまま正面にある階段を上がるのだが、後ろをついて来る人達が気になってしょうがない。
     ハイネは何回も後ろを振り向いては慌てて前を向いた。
     「ハイネ、後ろの人たちはね、“メイド・執事”って言うのよ。まぁ、お手伝いさんとも言うのだろうけど」
     口に手をあて小さく微笑むヴィクトリア。
     散々酷いことをシビニにしたのだがハイネはどうしてもヴィクトリアが嫌いにはなれないらしい。ヴィクトリアの微笑を見るとどうしても嫌いになれないのだ。
     「ねぇ、シビニはどこ?」
     階段を三階ほど上がり、同じ扉の部屋がたくさん並ぶ廊下でハイネが問う。心臓は五月蝿いほど音をたてているのが自分でも分る。
     それでもこれだけは譲れない。ハイネはヴィクトリアを見上げる。
     足を止め、ハイネの瞳を見つめたヴィクトリアは観念したように息を吐き出し、小さく言った。
     「ハイネは本当にシビニが大好きなのね……。あれならこの先にいるわよ」
     シビニを“あれ”と表現し、正面を指差すヴィクトリア。
  • 51 御坂紫音@最近日本語英語LOVE id:yKiQKMH1

    2011-09-17(土) 20:25:32 [削除依頼]
    評価にやってまいりました、御坂紫音です。
    それでは早速評価にうつります。

    ストーリーとしては非常におもしろい。読者を魅了し、個性の在る作品でしょう。
    気になった点を幾つか上げさせていただきます。
    一つは、スピード。
    ストーリー展開が全体的に早いと感じられました。折角のおもしろいお話ですので、じっくりとかけてみるのも良いかもしれないです。
    逆にテンポ感を出すための、ストーリー展開ならばこれからさきを、ゆっくりに落としてみるのも大切かと思います。
    どちらにせよ、作者様自身が協調したい部分などのテンポを意識してみると、尚よくなるでしょう。
    もう一つは、文章。
    そのなかでも言葉の選び方が時折目に付きます。場面の雰囲気によって、しっくりくる単語というものがあるはずなので、語彙をもっと増やせば表現の幅も広がるでしょう。
    そして、句読点が少ないとおもいます。
    普通ならば句読点で区切ってよい場所を、句点で区切っていたり。あっても良い場所に無く、要らない場所にあったりするのが目立ちます。
    投稿をする前に、一度。
    読者目線で読んでみて、じっくり直してみると良いのでは?

    評価:C

    質問、中傷等ありましたら準備版にて。
  • 52 くもにゃ id:hsmjQPM/

    2011-09-17(土) 20:27:11 [削除依頼]
    頑張って!><ww
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