Alone Princess.9コメント

1 Sea id:amJIvrD1

2011-07-15(金) 16:22:25 [削除依頼]


  これは、1200年の歴史を持つこの大国で、

   最も誇り高く生き抜いたひとりの姫の、

最も悲しく美しいと語り継がれた物語。


     ――Alone Princess.――
  • 2 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 16:56:10 [削除依頼]

    Prologue,0

    「姫の独裁に終止符を……!!」

    都市・オアシスに歓声が上がった。
    処刑台に立ちつくしてるのは大国・グロリアの姫君。
    薄汚れ、引き裂かれた布に身を包み、細く痩せ衰え、体中は痣や血に塗れていた。
    もう、姫などと呼べる姿ではない。

    一人の少年が処刑台へと進み出た。
    手足を鎖で繋がれた姫の顎を乱暴に持ちあげる。

    「わがままは楽しかったか?」

    憎しみに満ちた、恐ろしく低い声で彼は問う。
    姫は黙ったまま、虚ろな目から一筋の涙を流した。

    「お前に……泣く資格などないだろ……!!」

    少年は姫の顔から手を離し、腰から銀色の剣を引き抜いた。
    背後から、再び国民の歓声が響いた。

    「最後に言い残すことは」

    少年は姫の首に剣をあてた。
    姫はまっすぐに少年の瞳を見つめ、震える唇を開いた。


    「国が……グロリアが、未来永劫平和であるよう……、

     カガリ、貴方を次期国王に命じます……」


    かすかな、少年にしか聞こえない声で姫は言った。
    少年は目を見開いた。何かを、悟ったような気がした。
    背後ではしびれを切らした国民が姫に石を投げ始めた。

    「早く終わりにしてしまえ……!!」

    悲痛な叫び。これまで耐え抜いてきた怒り、悔しさ。

    「承りました、姫」

    早口にそう言い捨て、意志が揺らぐ前にと少年は剣を振り上げた。
    命が消える寸前、涙でぼやけた少年の視界に映ったのは、

    姫の、幸せそうな微笑みだった。


    「ありがとう」


    最後にそう、聞こえた気がした。


    王国グロリア第100代目姫君、此処に死去。


    少年が真実を知るまで、あと数刻……。
  • 3 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 17:16:00 [削除依頼]

    Episode,1 王国グロリア

    大海原を正面に、1200年前にひとつの国が生まれた。
    以前、その土地に暮らしていた民は「信じる」ことができずに日々争いに明け暮れていた。
    初代国王は、民に信じることの素晴らしさと力強さを説いた。
    そして生まれた。「栄光」の名を持つ王国グロリアが……。


    薫歴1200年4月1日午前7時。


    第99代国王カエンの胸に、一人の赤子が抱かれていた。
    隣には王女カイリの姿。そして数百人の家来や召使い。
    2人の前に跪くのは里長グレンとその妻カイラ。そして4歳のレイン。
    カイラの胸には同じように一人の赤子が抱かれている。
    カイラは国王の前に1歩進み出て、頭を垂れた。

    「我が子、カガリを……姫君の戦士として捧げます」

    国王は切なげな笑み浮かべ、ゆっくりと瞼を閉じた。

    「グレン、カイラ……すまない。感謝する」

    ゆっくりとそう答えると、一人の家来がカイラの手から赤子を受け取った。
    カイラの目には母としての涙が溢れた。
    グレンはカイラに寄り添い、その体を抱きしめた。
    国王と王女は2人を残し、その場を後にした。

    これは、2代目から受け継がれている忠誠の儀式。
    この日は、第100代目姫君カオルとその戦士カガリのはじまり。


    それは、すべての物語のはじまりだった。
  • 4 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 17:26:40 [削除依頼]

    Cast,1

    第100代目姫君・カオル
    国王カエンと王女カイリの間に生まれた姫。

    カガリ
    命を懸けてカオルを守る運命を背負った戦士。
    カオルとは同じ年であり、幼い頃はよく遊んだ。

    第99代目国王・カエン
    カオルの父であり、帝国グロリアの国王。
    同時に、グレンの兄でもある。

    第99代目王女・カイリ
    カオルの母であり、帝国グロリアの王女。
    同時に、カイラの姉でもある。元下民の過去を持つ。

    第99代目里長・グレン
    カガリとレインの父。カエンの弟。

    カイラ
    カガリとレインの母。カイリの妹。

    レイン
    カガリと同じようにカオルを守る運命を背負った。
    カガリより4歳年上。
  • 5 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 22:12:09 [削除依頼]

    ――6年後。

    「レイン速く!カガリも!!」
    「お待ちください姫!!ほら、カガリ急げ」
    「姫っ……兄さんっ……待って……!!」

    1人の幼い少女と2人の戦士が、国の中枢都市オアシスの本通りを駆けていた。
    少女の名はカオル。いずれ王国グロリアの後継者となる姫君。
    そして少女を追う2つの小さな影は、命を駆けて少女を守る運命を背負った戦士だった。

    「カオル姫は今日も元気じゃ」
    「そうね……あの笑顔を見ると、少し明るくなれるわ」

    カオルと2人の戦士はこうして毎日、オアシスに朝を告げるかのように本通りを無邪気に走りぬいていた。
    それを見る民の眼差しは、つらい生活をおくっている中でも温かかった。
    漆黒の中に藍色の艶やかさを持つ不思議な色をした短い髪。
    透きとおるように白い肌と、大きな海色の瞳をもつその容姿はまるで国を温める小さな太陽。

    「ねぇ、レイン。今日はもっと奥のほうまで散歩したいの」

    急に立ち止まり、カオルは期待に満ちた顔をレインに向けた。
    「ダメ?」と小さく小首を傾げた様子は本当に愛らしい。

    「国王にはご内密に」

    レインは口に人差し指をあて、少し困った顔をして笑った。

    「嬉しい!!ありがとうっ」

    カオルは、今度はレインの手を引いて駆けだした。


    「カガリもっ!速くおいで!!」


    後方で必死に2人を追いかけるカガリの顔には、幼いながらも「嫉妬」の表情が浮かんでいた。
    カガリはカオルのことを慕っていた。

    それは、まだ身分の差を理解していないからこそ許された想い。
  • 6 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 22:26:14 [削除依頼]

    「レイン、ここは何ていうの?」

    本通りを抜け、みすぼらしい小屋が立ち並ぶ通りに3人はたどり着いた。
    細い道を、骨が浮き出たガリガリの狂犬が横切った。
    脇に積まれているゴミの山にはおびただしい数の蠅がたかっていた。

    「カオル姫……ここは貴女の見るべき世界ではない」

    レインはカオルの小さな手を引いて、引き返そうとした。
    カオルはレインの手を振り払い強い眼差しを向けた。

    「ここだってグロリアの中でしょ?教えて、レイン」

    どれだけあどけなくても、国に対し人一倍強い関心を示す想いは既に立派な姫の器だった。

    「カオル姫、ここはセロというエリアです。
     グロリアの中の……スラム街みたいな場所ですよ」

    「貧困地……?」

    レインは静かに頷いた。
    しばし、カオルは俯いて唇を小さく噛みしめていた。
    ふいに顔をあげると、乾いた道を歩き始めた。
    レインもカガリも何も言わずにカオルの後を追った。

    突如、カオルの目の前に性別の判断がつかない子供が跪いた。
    髪は伸びきり、絡まり、日に焼けた体はガリガリに痩せ衰えている。
    身を包んでいるのは粗末な、泥だらけの衣。
    カオルは思わず後ずさった。
  • 7 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 22:38:48 [削除依頼]

    「頭をあげて……?」

    震えた声でカオルが声をかけると、子供は虚ろな目を向けた。

    「……お腹がすきました。助けてください」

    子供は豆だらけの手をカオルに向けた。
    すると、カオルの目に子供の腫れあがった腹部が見えた。
    それは満腹でなったわけではないことくらいカオルにも分かった。
    重度の、栄養失調だった。

    カオルはとっさにポケットに手を突っ込んだ。
    桃色、黄色、水色……キラキラと、まるで高価な宝石のように輝く飴玉をひとつかみ取り出した。
    得体のしれない感情に震えながら、カオルは飴玉を子供に与えた。

    「姫!!ダメです!!」

    レインが事の重大さに気付き、叫んだときにはもう遅かった。
    何処からか同じようにみすぼらしい子供たちが一気に現われ、カオルを取り囲んだ。
    理解不能な奇声を発し、隙間なくカオルに群がる。

    「無礼であろう!!姫から離れろ」

    レインは腰から剣を抜き、子供たちの前にちらつかせながらカオルから引き離した。
    子供たちはその拍子に散らばった飴玉を死に物狂いで集め始めた。
    カオルは力が抜け、その場にヘタリと崩れ込む。
    レインはカオルを抱き上げその場を急ぎ引き返した。

    レインの腕の中のカオルは、涙を流して震えていた。
  • 8 Sea id:amJIvrD1

    2011-07-15(金) 23:00:42 [削除依頼]

    オアシスまで戻ると、一番近くの公園のベンチにカオルを座らせた。

    「カガリ、姫のそばにいろ。俺は飲み水を持ってくるから」

    呆然と立ち尽くしていたカガリは、はっと我に返り頷いた。

    カガリはカオルの隣に腰かけた。
    それでもカオルは自分の小さな肩を抱き、震え続けている。
    大きな目からは絶え間なく大粒の涙が零れていく。

    「カオル……」

    戦士ということを忘れ、カガリはカオルの名を呼んだ。
    ただ一心に、目の前でおびえる大切な人を落ち着かせようとしていた。
    カガリはカオルを、戸惑いながら抱きしめた。

    「……カ、ガリ」

    「何?」

    「私……私……っ!!」

    カオルは両手で自身の顔を覆った。


    「私っ……!!何も知らなかった…………!!」


    カガリには到底理解できなかった。
    一国の姫として国を平和にしようと決意した姫の意志。
    カオルは、自分が何も知らないまま民に「平和な世界にする」と約束していたことを恥じた。
    自分は結局まだ小さな子供……無力な少女。
    姫という地位など何も役に立たない現実を実感した。

    「あんなに苦しんでる子がいるのに、
     私には何もできないの…………!!」

    かける言葉など見つからなかった。
    カガリにできるのはただ抱きしめて慰めることだけ。
    嗚咽を漏らし、しきりにしゃくりあげるカオルにカガリは胸が痛んだ。

    しばらくして、水を汲んできたレインが戻ってきた。
    レインが水を差し出してもカオルは飲もうとしなかった。

    「姫……よく聞いてください。忘れてはならないことです。
     ここオアシスはグロリアの全てではありません。
     先ほどご覧になったように貧困地も多々存在します。
     ああいった場所では、民に何も与えてはいけません。
     姫、貴女には貧困民全てを救う事ができますか?
    それができないのならば、たった一人の貧困民を
     救うのは不平等なことでしかないのです」

    感情を押し殺した声でレインは言った。
    その言葉はカガリにとって、カオルを追い詰めているように聞こえた。

    「兄さんは……、カオルが無力だって言いたいのか!!」

    カオルを守りたかったカガリは兄に食ってかかった。
    レインはカガリの頬を打った。
    カガリはそのまま地面に崩れ込み、レインを睨んだ。

    「ふざけるな!!戦士が姫を名前で呼ぶなど……!!
     戦士が姫を侮辱するなどあってはならんことだ。
     俺は姫に現実を伝えた。それだけだ」
  • 9 Sea id:5M9cCw30

    2011-07-16(土) 07:11:08 [削除依頼]

    カガリの顔が怒りで真っ赤に染まった。
    立ち上がり、レインに拳を向けた瞬間……。

    「カガリ!!やめてっ、」

    レインの前にカオルが飛び出した。
    急に殴りかかる軌道を変えることもできずに、カガリはそのまま姫の頬を打ってしまった。

    ガッ、

    そう鈍い音が響き、カオルは地面に倒れ込んだ。
    激しくせき込み、口に当てた手の隙間から血を吐きだした。

    「姫!!??」

    レインはどうしていいかわからずにカオルの背後にしゃがみこみ慌てだす。
    カガリはかすかカオルを殴った拳を呆然と眺めていた。

    「カ、ガリ」

    かすれた声でカオルは言った。
    カガリは己がしてしまった許されない行動を察して身を固くした。
    6歳といえど、どれだけ仲が良くともカオルは王国の姫君。
    幼くても天民である少女は、簡単に処分を下せる権限があった。


    「カガリ、私のために怒ってくれてありがとう」


    カガリの目から涙が零れた。
    死を覚悟していたための助かった安心感もあるが、何より、こんなに優しい少女を殴ってしまった己の無力感と感情をコントロールできない幼稚さに泣けた。


    「レインも。私、レインの言ってることわかったよ」


    腫れた唇の端を上げ、カオルは笑った。
    痛みを感じさせない、心からの笑顔だった。

    「姫、城へ戻りましょう!!傷の手当てをしなければ」

    カオルは立ち上がり、衣服の砂埃をはらった。

    「レイン」
    「はい」

    「私は、転んだの」

    「……え……?」

    「わかった?私は、転んで怪我したの」

    カオルはカガリのほうを向いた。

    「だって、わざとじゃなくてもカガリは処分を受けることになるでしょ。
     私はレインもカガリも大好きだから……。私の、戦士でいてほしいの」

    怪我とは違う、頬をほんのり紅潮させカオルは言った。
    ただ「大好き」だから、ずっとそばにいてほしいと切実に願った。

    「承りました、姫」

    レインはあくまで戦士としての礼儀を忘れなかったが、口元は緩んでいた。
    カガリは泣きやまずに、ただ2人の後ろを静かについていくことしかできなかった。
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