策定3コメント

1 男 id:vk-cpOP3MA/

2011-07-14(木) 12:21:05 [削除依頼]
彼女と出会ったのは、夏の終わり頃であった。それは、私とかつて幼なじみだった人との再会。住み慣れない土地に引っ越して来たその次の日、私は転校生として、新しい学舎の門をくぐった。もうすぐ秋だというのに、見事なまでに青々しい葉をつけた木々が、学舎の玄関に向かって、一列に並んでいて、その下を、見慣れない学校の生徒たちに対する不安を胸に、私は歩いていた。けれど、そんな心配はすぐに払拭されたのだ。彼女の存在があったからだった。
「佐倉葉 恭子です。宜しくお願いします」
つたなく挨拶をした私を、五年二組の皆は、笑って迎え入れてくれた。皆、明るく穏やかな人柄の生徒たちで、それは喜ばしいことだったけれど、何よりも嬉しかったのが、その彼女と再び巡り会ったことだった。
「私のこと、憶えてる?」
窓側の席についた私に、突然そう話しかけてきた少女に、はじめは戸惑いを隠せなかったが、聞き慣れた声から、それがすぐに彼女のものだと判ると、私たちはすぐに意気投合した。
「もしかして、景ちゃん? 景ちゃんなの?」
「そうだよ」
と、深い靨を作って笑うその顔は、まさしくかつての彼女のままの表情であった。
「嬉しいよ、また景ちゃんと一緒だなんて」
「私もよ」
そう言い合いながら、思いがけない幸運に、私たちは興奮した。そして、担任に咳ばらいをうたれ、はっと我に返った時、その苦々しそうな顔と、さっきまで大人しかった転校生の豹変ぶりに驚いているクラスメートたちの表情を目にして、私達は一緒になって赤面した。
クラスの皆が、どっと吹出す。あの苦い顔をしていた担任までもが、一緒になって吹出している。
楽しかった。彼女とまた一緒にいれると思うと、胸の内に溜まっていた不安が、一気に大きな期待へと変わるのだった。
気がつくと、皆と一緒になって、私もまた、彼女と共に、笑っていた。
  • 2 男 id:vk-dyFuITJ0

    2011-07-15(金) 00:14:38 [削除依頼]
    そこは、山間に囲まれた静かな村だった。都会人に言わせれば、まさしく“田舎”と呼ぶに相応しい場所だ。空はどこまでも青く澄み、地上にはどこまでも田園が広がっている。高地から低地にかけては棚田が連なり、空が赤一色に染まる黄昏時になると、緑と光の織り成す陰影が、空の色を映す田園を際立たせ、美しくも妖しい世界を作り出す。私の家は学舎から見ても割と高い位置にあったので、夕方になると、その景色を一望することができた。毎日その景観が拝めるだけで、私はこの村に来て良かったと、心の底から、そう思えるのだった。
    田舎なので、学舎も大変質素な作りで、一年から六年まで、時には皆が同じ部屋に集まって、授業を受けることもある。一学年ごとに三クラス程別れてはいるが、やはりそこは田舎の学舎。一クラスの人数が五人程度と少ないこともあってか、この学舎では、一週間に最低一回はこういう時間が設けられており、生徒たちはそれを“学習会”と呼んでいた。上の子が下の子に勉強を教えてあげたり、お互いに理解を深め合ったりすることで、両者の絆を深めてあげるのが目的で、実際人付き合いの苦手な子は、そこで友達を作ったりする。かくゆう私もその一人で、学習会のおかげもあってか、私にも少ないながら、友達と呼べる人間ができた。最も実際は、私の一番の親友である彼女が、積極的に私を誘ってくれたことが大きな理由であったりもするのだが、そのおかげもあり、私にも、小さいながら仲間と呼べる輪ができた。共に山の奥へ足を踏み入れたり、時には私の家で、共に窓から見える幻想的な世界に心を打たれてみたり、とにかく何かにつけて、私達は一緒に居るようになった。明るい彼女を筆頭に、私達がその後に続く恰好で、毎日日が沈みきるまで、汗だくになって遊び回った。私と彼女を含め、四人ばかりが集まり、それぞれを、風ちゃん、春ちゃんと言った。
    友達――その響きだけで、私は幸せになれた。かつていた都会の学校では絶対手に入ることのなかったものが、この村には沢山ある。
    それだけで、私はいつだって、笑顔になれるのだった。
  • 3 男 id:vk-TPU35400

    2011-07-21(木) 21:20:21 [削除依頼]
    「祈願祭」

    それは、冬休みをあと十日に控えた日のことだった。二学期の終わりを目前に、生徒たちは皆、酷くそわそわしていた。勉強という束縛から逃れられる毎日が来ることに、ただ胸踊らせるだけの者もいれば、正月が来るまでの日を数えて、残された時間の少なさに、物鬱げになっている者もいる。降り積もる雪が、村全体を白に染めては、一年の終わりを、無情なまでの時の流れを、再認識させる。こういう時、都会が所謂クリスマスムードとやらに包まれていることを思うと、田舎とは、何て寂しい場所なんだろうと考えてしまう。いや、クリスマスがあろうとなかろうと、どの道それに沸く町の様子を独り眺めるしかない私にとっては、どちらであっても同じことなのだが、まだ都会っ娘の抜けない私には、田舎はとにかく、何もない場所に写ってしまう。
    「祈願祭に来てよ」
    だから、そう彼女に誘われた時は、少し意外に思った。それは、いつもの学習会での時間のこと。
    「祈願祭?」
    「うん」
    それは、年に二度催されるという、村の祭事のことであった。毎年、海開きの日と、師走の終わりに、村の若年寄りらが集まっては、豊作を願い、満天の夜空に向かって、祈りを捧げるのだという。まさに、田舎ならではの祭りである。
    「お神子さんがね、祭壇の上で舞うの。とっても綺麗なんだよ」
    夢みがちに、風ちゃんが言った。
    「今年は景ちゃんが踊るんだよね」
    春ちゃんの言葉に、私は思わず彼女を見遣った。頬を少し赤らめながら、彼女は恥ずかしそうに頷いた。
    「うん。お神子さんはね、村の女の子が努めることになってるの。で、今年は私がその神子を努めるの」
    「そうなんだ」
    彼女の姿が、どことなく大人びて見えた。私の脳裏に、月に照らされて舞う、彼女の美しい姿が映った。
    「そうなの。だから、もし良かったら、佐倉ちゃんにも見に来て欲しい」
    「勿論よ。絶対に行く」
    私がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべた。とても嬉しそうだった。私も、彼女が神子になって踊ることを思い浮かべると、祭りの日が途端に待ち遠しくなった。
    「でも、神子として踊るとなると、暫くは会えなくなるね」
    少し淋しそうに、風ちゃんは言う。が、彼女の晴れ姿が見られる喜びに比べれば、そんな苦しみは些細なことに過ぎない。
    「楽しみにしてるね」
    と、私は言った。控え目に、彼女は、
    「うん」
    と、応えてくれた。
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