天の時間α32コメント

1 ‘‘理文” id:YzrWcAs.

2011-07-10(日) 15:51:39 [削除依頼]
注:タイトルはあまのじかんと読みます。

【00.0】プロローグ

 ある秋のある日。秋の夕日を背景に立っていたエアと名乗った少女は、僕にこう言った。
「例えば、どこかで誰かが飢え死ねば、その人が死んだ責任というのは誰が背負わなければならなくなると思う?」
 この時の僕は、ただ純粋に考えた。
 もちろん、それは誰の責任というわけでもないんじゃないか。
 多分、今、このことを聞かれてもそう答えるだろう。
 けど、そんな僕の答えに、エアは苦笑しながらこういったんだ。
「……やっぱり。君ならそう答えると思ってたよ。残念ながら不正解」
 そう言いつつ、彼女は自分が背にしている夕日を見る。そして、街を囲む山の中に沈む夕日を眺める。
 このとき、僕が思ったことといえば、綺麗だな、とか言うその光景への感想だった。
 一人たっているだけでも綺麗な彼女が、夕暮れの中で立つ。夕日の景色も相俟って、可憐な、そして芸術的な絵の様な光景となる。
 僕は質問の答えの催促も忘れて、この光景に見入ってたんだ。
 しばらく黙っていた彼女は、やがて口を開いた。
「何処知れぬところで誰かが死んだ要因。それは、すべての世界の存在……だよ」
 勿論、何を言っているのかは僕に分かるはずもない。だが、彼女はそれに気づいて、それでも気にした風も無く続けた。
「すべての出来事は、すべての時空で起こった出来事が要因になっている。分からないかな。私と君が出会ったのも、すべての時空で起こった出来事が要因になってるんだよ」
 僕はそのとき、必死で頭を働かせたんだ。彼女の言ってる意味を理解したい。そうしなければ、置いていかれる気がして……。
 けど、時間も彼女も、僕が考えをまとめるまで待ってはくれない。
 誰かが考えをまとめるのを何時までも待ってくれるほど、世の中は甘くはない。
 エアは、考え続ける僕を待たずに、こう言った。
「結局、私達は天の時間に振り回され続ける。何時までも、何時までも、自分達の意思に関係なく。世の中を理で埋めていく」
 独り言のように、自分に言い聞かせるかのように言った。今思うと、実際にこのとき彼女は、自分に言い聞かせていたのだ。
 この言葉を僕は今でも一言一句間違いなく覚えている。これからも、何時までも、何時までも、僕の頭の中で生き続けるだろう。

 これは、エアとこの街で戦い続ける戦士達が織り成す物語。
 主人公はあくまで彼女達で、僕じゃない。
 天の時間と闘い続けた戦士達の話だ。
  • 13 ‘‘理文” id:f46rvsi.

    2011-07-19(火) 17:28:18 [削除依頼]
    「え、知り合い?」
    「あ、まあな。友人だよ。中学時代のね」
     佳奈の驚いたような声に昨夜が答える。
     吉野昨夜。あだ名はサク。先ほども言ったとおり中学時代の友人だったんだけど、二年の三学期に転校していった。それっきり音信普通だったんだけど、まさか転校先で会うとは……。
    「お前、この学校に居たんだ」
    「転校生ってのはお前だったのか」
    「まあね」
     学校には僕のクラスに転校生が来る、ということだけが噂として広まっていたらしく、名前はあまり知られてない。
     昨日担任から紹介されたばかりだから、まだ彼が僕が転校してきたことを知らなくても当然と言えた。
     佳奈が何かしばらく考えた後、いらないだろうけど、と言って僕とサクの紹介を始める。
    「この子が僕のクラスに転校してきた永江遠見君。で、こっちがうちの数少ない部員のサク、もとい吉野昨夜」
     そんな紹介は虚しく響いただけで、今は昨夜と僕で勝手に会話を進めていた。
    「連絡の一つぐらいよこせよな。心配したんだぞ。親友にまで音信普通って」
    「親友って言うほどの間柄でもなかったろ。ま、音信普通は謝るがな。というか、お前この部活に入るのか? だとしたら、お前あ.ほだぞ?」
    「お前部員だろう。……入る気は無いよ。今日は佳奈に頼まれたから仕方なく見学に来ただけ」
    「なら良いがな。毎日賭け事の真似事して遊んでるだけの部活に来たってつまらないだけだぞ」
    「あ、少しだけ興味湧いたかも」
     そんな会話を続ける。
     蚊帳の外となった佳奈は机をもう一つ、先にあわされていた二つの席に組み合わせ、わざと音を鳴らしながらそこに座る。
     そこでようやく、僕もサクも、佳奈の存在を思い出した。
     悪い、とサクと共に佳奈に向かって頭を下げる。
     佳奈は良いよとでも言うように手を振った。
     取り敢えず、それでサクが座ったので、その向かいに僕は座る。
     で、何をするのかと思えば、佳奈が鞄の中からトランプとゲームセンターで見かけるようなコインの入った箱を机の上に出した。
    「それじゃ、今日は見学者も居ることだし、一番簡単なポーカーでもしようか」
     って、本当に遊ぶだけの部活でしたか。
  • 14 ‘‘理文” id:f46rvsi.

    2011-07-19(火) 18:41:55 [削除依頼]
    「じゃ、俺は10レイズ」
    「げ、そんなに賭けるか」
    「僕、降りるよ」
     ルールは普通のポーカーと一緒で、各自ポイント代わりのコインは三十枚ずつの簡易戦。
     この三人の中で一番強いのはサクだった。
     賭け方は上手いし、運が良いのか戦略が良いのか出る役がとにかく強い。それも、確実に何かしらの役を出してくる。
     僕はと言えば、良くてワンペアやツーペア。
     佳奈はストレートやフラッシュも出してくるし、サクに勝つこともあるけど、サクの方が強い。
     ゲームも終盤に入ったところで、佳奈がそういえば、と雑談を切り出した。
    「昨日、遠見が裏路地にうっかり入ったらしいんだよね。それで、ヤクザの領域に入って、間違って珈琲ぶっ掛けちゃったらしい。それでヤクザに追われたんだって」
    「へえ。相変わらず不注意だな、お前」
     サクの言葉に、図星で何もいえない僕。
     サクの言うとおり、昔からそうだった。不注意で失敗を犯.す。今やってるポーカーでも三回ぐらいミスして、捨てるカードを表に向けてしまっている。
     それでなんだけど、と佳奈が続けた。
    「お前、知り合いなら街の案内してやれよ。このゲーム終わったら今日は終わりにするから。遠見、良いだろ?」
     いや、まあそうしてくれるなら僕としてはありがたいけど、サクは不満顔してるよ。
    「おい、なんで俺が」
    「友達だろ? それに、お前の方が裏路地事情詳しいじゃん」
    「いや、確かにお前より詳しいかも知れないけどな、って、裏路地を案内しろってか!?」
    「違う違う。ヤクザや不良が居るようなところ教えてあげたら良いんだよ」
    「それでも俺にだって予定が……」
    「よし、じゃ、このゲームで僕か遠見がサクに勝ったら案内してやれ」
     いや、絶対に勝てないと思うよ。すでにポイントに差が出てるし、実力差あるし。
    「まあ、それならいいけどな」
     ま、そりゃ受けるよね。明らかに勝てるし。

     実際、その後のゲームも順位は変わらず、サクが勝って、惨敗したのが僕だったんだけど、何故か結局サクが僕を案内することになった。
     佳奈から何を言われたのか、僕は知らない。
  • 15 ‘‘理文” id:f46rvsi.

    2011-07-19(火) 19:46:56 [削除依頼]
    「ねぇ、本当に佳奈からどうやって買収されたの」
     あれから何度目か分からない僕の質問にサクは、
    「さあね。あと買収って言うなって何度も言ってるだろ」
     断固として白状しない。
     今は学校付近と駅前付近を案内してもらっているところだった。
     僕は佳奈からもらった地図に、サクが言ってくれる不良やヤクザの溜まり場に印を付けていく。
     ヤクザは大きなのが二つだけかと思っていたが、実際は細かいのが幾つもあった。昨日、僕を助けてくれた少女から聞いた、多分例のシステムを取り扱っているのだろう樋上組というヤクザは小さいグループに値した。
    「樋上組は確かに小さい集団だけど、実力はでかい集団の蜂王組とそう変わらない。多分、一対一なら樋上組の方が強いんじゃないか? 大将同士は分からないけどな」
     サクはそういう風に説明してくれた。
     樋上組は義に反する者を正すこともしているらしく、何か会った時は、寧ろ樋上組の領地や溜まり場に入ったほうが寧ろ安全らしい。ただ、そこにも蜂王組や他のヤクザ、不良が溜まっていることもあるから、どちらにせよ普段は近づかないほうが良いとのこと。
    「というか、地図に書き足すなら案内しなくても良かったんじゃないか?」
     サクのもっともな疑問に、そうだよね、と気の無い返事で僕も答える。
     実際、佳奈がわざわざサクに案内をさせた理由がよく分からなかった。当の本人は図書室に本を返しに行きたいからと一人離脱している。
     まあ、久しぶりに旧友と会って、さっきから昔話もしてるし、結構楽しいからこれで良かったような気もするけど。
     もしかしたら、佳奈もそのつもりでサクに案内させてるんじゃないかな……。
     そんな僕の考えをサクは、
    「いや、それは無いだろ」
     とあっさり否定した。
     そうやって無駄話を叩きつつ、最後の印をつけたときだった。
    「おい、てめえ、昨日の坊主じゃないか?」
     後ろから、物凄く聞き覚えのある厳つい声が聞こえた。
  • 16 ‘‘理文” id:DGHCHKD.

    2011-07-20(水) 17:39:09 [削除依頼]
     その一声でサクもすべてを悟ったのだろう、振り返って確認することもせずに僕に小声で聞いてくる。
    「どんだけ因縁つけられてんだよお前……」
     それは僕が一番知りたいよ。って思っても、心の中にとどめておく。
     あんまり後ろを放置しておくと怖いので、サクとそろって声のした方へと振り返った。
     そこには案の定、昨日のヤクザの集団のリーダー的な男が一人、そこに立っていた。
     僕達が振り返ったのを確認して、男は威圧感を放ちながら、こう言う。
    「昨日は時姫が居たからてめぇは無傷で済んだ」
    「時姫……?」
     時姫という言葉に、サクも噂のことを思い出したのだろう。その単語を小さく呟いた。
     男は続ける。
    「次、俺達みたいな奴が居るようなところに入ってみろ。てめぇの身に何があっても、誰も保障は出来んからな。よく覚えておけよ」
     それだけ言って男は去っていく。
     ってあれ? 何かと思えばそんな警告? もしかして案外良い人なのか、あの人……。
     ふと、右から小さく唸るような声が聞こえて、横を向く。そこに居たサクは手をあごに当てて何か考え事をしていた。
     唸るような声は、よく聞くとぶつぶつとだが、ちゃんとした言葉になっている。
    「サク?」
     心配に思って僕が声を掛けると、はっとしたようにサクは僕を見た。
    「おい、時姫にあったことあるのか?」
     え、えっと、ある、と言えばあるけど……、あれをあるって言って良いのか?
     取り敢えず、僕は曖昧に頷く。するとサクは僕に肩を置いて少し揺らしながら言った。
    「時姫と会った場所、俺に教えろ。今すぐに」
     サクの気迫に押され、僕は無言でもう一度頷く。
     何でサクがこんなにも時姫の居場所を知ろうとしているのか僕にはさっぱり分からないが、取り敢えず僕は昨日彼女と会った場所へ案内することにした。
  • 17 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 15:18:07 [削除依頼]
     昨日、あの少女が去っていた表通りへとやってくる。ここは相変わらず、人気が無い。
     サクはここに来るまで、始終喋ることはなかった。
    「サク、どうして時姫に会おうとするの?」
     僕の何度目か分からない質問にサクは何も答えない。
     僕は一つ溜息を付くと、前を向きなおす。と、居た。
     昨日、少女と会った裏路地のすぐ近くの店と店の間あたりで、そちらに体を向けて、しゃがみこんでいる。
     今日は髪を括っていないため、彼女が昨日の少女であることにすぐに気づくことが出来なかった。
     やはり予想通り、髪は腰のあたりまで届いている。
     昨日は彼女の背後から表通りの強い光が入っていたため、暗がりに居た僕は彼女の容姿は良く見えなかったが、今はよく見える。
     髪は艶やかで、少し光を反射している。整った顔に、瞳は色素が濃いのか、綺麗な漆黒。着ているのはやはり柄の無いワンピースで、色は水色だった。首に、先に十字架の付いたネックレスを掛けている。
     そこに何か居るのか、彼女は店の間に手を伸ばして、撫でるようなしぐさをしていた。よく見ると、そこには猫が居る。
     綺麗な少女が猫を撫でるその様子は、まるで絵を見ている様だった。
    「サク、あの子だよ。昨日、僕を助けてくれた子」
     そう、サクに指差しながら伝える。
     サクは僕の指した方向を見て、なるほどな、と言った。
    「確かに、一見すると小学生だな。あいつの情報は正しかったわけだ」
    「え?」
     サクの謎の言葉に、僕は思わず聞き返してしまう。
     だがサクはそれを無視して、少女へと歩み寄った。
     サクの足音に気付いたのか、猫がピクリと顔を上げて、撫でていた少女の手から逃れると、一目散に反対方向に逃げていく。
     少女は、「あ」と名残惜しそうに声を上げた。
     そんな少女の元で、サクが立ち止まる。僕も慌てて後を追いかけた。
     サクに気付いた少女はゆっくりと立ち上がり、そして、僕に気付いて、サクではなく僕のほうへと歩いてくる。
    「こんばんわ。あれから、大丈夫だった?」
     少女にそう心配されて、僕は曖昧に頷く。
    「う、うん。一応大丈夫だった。昨日はありがとう」
    「お礼は一回で良い」
     少女はまたお礼を言った僕にそっけなくそう言って、サクのほうへと向いた。
     サクは僕より背が高いため、少女と並ぶと、少女が急にさらに小さくなったように見えてしまう。
     少女はサクにおびえることも無く、言った。
    「それで、なんの用かな。"氷結のジャッジメント"さん」
  • 18 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 15:18:33 [削除依頼]
     氷結?? ジャッジメント??
     えっと、氷結ってのは、凍りつくことだろ。で、ジャッジメントは、審判、だったか?
     で、サクがなんでそんな風に呼ばれてる? というか、知り合いか?
    「へぇ。俺の事、知ってるんだ」
    「急に現われて、樋上組のリーダーに勝った、となれば、それなりの知名度になるからね。皆、噂してるよ」
     樋上組、って言ったら、サクの話じゃ一番大きなヤクザ団体の蜂王組、だったか? それと同じぐらい強いんじゃなかったか。
     そこのリーダーに勝った? まさか、喧嘩で勝ったのか?
     いや、待て。中二のときは体育も人並み以下にしか出来ないインドア派だったはず。たった二年間でそんな強い奴に勝てるほど強くなれるはずないだろ。
     あ、そうか。システム。詳しくは知らないけど、暴動がなくなるほどのシステム。そのシステムで定義されてることで勝ったのか?
     それなら、納得できる。
    「でもさ、顔は噂にはならないんじゃないかな?」
    「写真よ。"群成す狼の喧嘩王"から、"氷結のジャッジメント"が勝負を仕掛けに来るかもしれないからって、私に写真をくれた」
     勝負? 例のシステムって勝負できるようなものなのか。
     でも、年下相手なら、どんなゲームか知らないけど、勝てて当たり前なんじゃ。一体何のためにサクは勝負なんて……。
    「警戒するようにってか?」
    「いいえ。寧ろ、私から接触できるように」
    「なに?」
     サクの驚いた声。勿論、僕も驚いている。
     警戒どころか、彼女から接触って。どう考えてもまともな判断じゃないだろ、それは。
     あ……いや。違う。そうじゃない。
     そうだ、思い出した。今さっき、サクは、彼女が時姫だって確信してた。それじゃ、本当に彼女が時姫。本当にいたってこと?
     もし、そうなら、彼女がそのシステムってのの創造者ってこと。それじゃ、そのシステムに関することはすべて彼女が作った。それじゃ、その勝負ってやつも少女はすべて把握してるはず……。
     なら、彼女はその勝負というのに、強い。それに、多分、彼女自身もそのシステムの管理に携わってるんだ。だから、彼に自ら接触できるようにって……。
     でも、一体なんなんだろう。あんな小学生ぐらいの少女が出来るようなことって。
     しばらくの沈黙の後、少女が切り出した。
    「ま、そんな話はどうでも良いね」
    「それもそうだな。一つ、確認しておく。あんたが、"天の時姫"か?」
     天の、時姫……。
     その単語に、今朝、佳奈から聞いた話を思い出す。
    『昨日友達から聞いたんだけど、例の噂の人って、"天の時姫"って呼ばれてるらしいよ』
     つまり、彼女は本当に、噂の人ってことなのか……?
     サクの質問、そして、僕の疑問に少女はしっかりと頷いた。
    「ええ。私がそうよ。けど、その名前は私は認めてない」
    「へぇ? じゃ、なんて呼べば良いんだ?」
    「エア。それか、本名、絵逢空音って呼んでもらえるかな。私が認めてるのはそれだけ」
     エア……。それが、彼女の名前……。
     サクはそれを聞いて何か思案するような顔をするが、すぐにもとの顔、無表情に戻り、言った。
    「エア、俺と勝負しろ。そして俺が勝ったら、四天王の座を俺に渡せ」
  • 19 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 15:18:56 [削除依頼]

    【1.02】カジノゲーム

      "氷結のジャッジメント"サク VS "天の時姫"エア

    「エア、俺と勝負しろ。そして俺が勝ったら、四天王の座を俺に渡せ」
     サクは、そうはっきりと言った。
     え、四天王? なんだよそれ。
     僕にはサクが言ったことがどういうことなのか、全く理解できない。
     しかし、唐突に勝負を仕掛けられた少女、もといエアは理解できたようで、神妙な顔で、サクを見返した。
    「本気……?」
     抑揚の無い言葉。しかし、少し冷ややかさを感じる。
     エアは続けた。
    「四天王になるために、私を探していたの?」
     エアの言葉に、サクは無言で頷く。
     少しの間の沈黙。
     もう、一体、何がどうなってるのか、僕には分からない。誰かに説明してほしいんだけど、状況の分かってる人たちに話しかけられる雰囲気ではない。
     ふと、後ろから扉が開くような音が聞こえた。僕は反射的に振り向く。
     そこには、一人の大人の女性が、無言で睨み合うサクとエアを見て頭を抱えていた。
     あれ、もしかして、店の邪魔、しちゃった? それとも、今、ここで何が起こってるのか知ってるのか?
     正解は、両方だった。
     女性はサクたちに近づくと、なあ、とアルトトーンの大きな声で言った。
    「あんた達、店の中でやったほうが良いんじゃないか。そこの子も意味が分からないで突っ立ってるよ。そこじゃ邪魔だから、店の中でやってくれ」
     女性のその言葉でサクもエアも女性を見る。
     サクは誰だよって顔をしているが、エアの方は特に慌てたことも無く、そうですねと呟いて、先に店の中に入っていく。
     サクはその場から動かなかったが、女性からの無言の圧力に、仕方なく店へと向かう。
     サクが中に入ると、女性が僕に近づいてきた。
    「ほら、あんたも入りな。話は店の中に全部聞こえてたから、大体の事情は分かってるよ。私が説明してやるから、分からないことがあったら私に聞いてくれれば良い。あの勝負しかけた子の友達なんだろ。付き合ってあげな」
     取り敢えず、運よく、僕は説明してくれる人を見つけたみたいだった。
     僕は女性に頷くと、店の中へと入った。
  • 20 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 18:19:46 [削除依頼]
     僕達の入った店はケーキや紅茶を売っている、小さな喫茶店だった。少し古風のインテリアが多く、何となく落ち着くような雰囲気をかもし出している。今は客足の途絶える時間帯なのか、それとも元々客足の少ない店なのか、今は誰も居ない。
     きょろきょろと店内を見渡す僕に、さっきの女性が、先に座っていたエアとサクの隣の席を指して言った。
    「あんたも座りな」
     少し男勝りな口調に押されながらも、言われた席に座る。
     女性はエアとサクから注文を取ると、僕からも注文を取って店のカウンターへと戻った。程なくして、ケーキと紅茶三人分を用意して戻ってくる。
     って、何気に商売もしてますよこの人。さすが商売人、ぬかりない。
     それぞれにケーキと紅茶を置くと、女性は僕の隣に座る。
    「一応、場所貸すんだから、商品買うぐらいしてほしいじゃない?」
     聞いてもないのに、僕の疑問に答えてくれた。
     隣の席で、向かい合わせに座っているサクも戸惑っているようで、あたりをきょろきょろと見回している。
     それを留めたのは、エアだ。
    「ここ、カジノゲームの協力店だから。そこまで戸惑う必要ない」
     カジノ……、ゲーム……。
     もしかして、例のシステムってやつのことか?
    「もしかしたら、貴方も聴いたことあるんじゃない? 二度と大きな暴動が起こらないようにと作られたシステム」
     女性が、急に話し始める。
     僕が目を向けると、聞くか、と聞いてきくる。勿論、聞きたい。
    「あんたも大変ね、知らずに付き合わされて」
     そう、僕に同情しながら説明してくれた。
     その、大きな暴動を起こさないようにするシステムというのは、ヤクザや不良、裏企業間で起こったいさかいや勝負は、全て賭け事で決めよう、と言うことだった。
     法律で禁止されている、いわゆる賭博。実際に金を賭けることもあるため、決して安全とはいえないものだが、それでも一応暴動は収まっている。
    「賭け事で決まったとなれば、誰も文句は言えない。言ったやつは、樋上組にグループ毎潰される。それに、連中が警察の世話になりたくないのは当然だから、それに同調した」
     だから、ほとんどのヤクザグループは、仲間の中でルールを無視した者に処罰を与えているらしい。
     それにより、本当に小さな暴動でもない限り、暴動が起こることはなくなったらしい。
     但し、やっていることは賭博。警察に見つかれば、そく全員逮捕となる。
    「けどね、警察だって、ずっと手間取っていた暴動がやっと治まったということに安堵している。それに、どんなに頑張っても賭博者全員を捕まえることなんて不可能。だから、この街の警察は表立ってやらない限りは黙認してるよ」
    「でも、それって……」
    「ああ、いけないことだ。いけないことだけど、そうでもしなけりゃ、警察沙汰になる以前に、一般の住人に迷惑かけることになる。だから、彼女はこれを止めるためにこうしたのさ」
     女性が、彼女と言いながら指したのは、エアだった。エアもサクも、女性の説明を僕が聞き終わるのを待ってくれている。
     やっぱり、噂はどれも本当だったらしい。天の時姫の存在や、町のシステム、そしてそのシステムの創立者がその時姫であること。
    「で、その賭け事のことを、彼女達はカジノゲームって読んでるのさ。説明はこれぐらいで十分かな」
     女性の言葉に、僕は慌てて頷こうとして、とめた。
     まだ、晴れてない疑問を女性にぶつける。
    「あの、四天王って言うのは」
    「ああ、それね。四天王ってのは、今説明したカジノゲームの管理者たち、四人のことよ」
     その四人は、賭け事が上手であることは勿論、人としての資質も持っている人たち。その四天王は、カジノゲームに関わる全ての権限を持っている。
     その最上級権限者が一人でないのは、悪用などを防ぐため。四人の内、誰かが悪用を行っても、それを管理できるようにしている、ということだった。
    「教えてくれて、ありがとうございます」
    「気にするな」
     しかし、サクは一体どうして四天王なんかになろうとしてるんだ?
     この様子じゃ、サクが四天王になっても何の意味もない。
     それも相手は四天王の一人で、そのシステムっていうものの創立者でもある。考えなくても、すごく強いことが分かる。
     サクがどれぐらい強いかは分からないが、そう簡単に勝てるとも思えなかった。
  • 21 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 18:20:16 [削除依頼]
     と、そこまで考えて、エアに視線を向ける。
     何処からどう見ても、小学生にしか見えないエア。
     僕はもう一度女性を見た。
    「あの……、エアって何歳なんですか?」
    「中二」
     その言葉に僕は驚く。サクが驚いている様子のないところをみると、彼は知っていたらしい。例の、樋上組のリーダーから聞いたのだろうか。
     しかし、中二でもあそこまで落ち着いているものだろうか……?
     それに、設立っていつの話だ?
     そんなことを考えている間に、エアが話を進めた。
    「それじゃあ、私はこの四天王のバッジを賭ければ良いの?」
     そう言いながら、エアがワンピースの袖を指す。そこには、ハートを押しつぶしたような形の小さなバッジがつけてあった。
     それを見て、サクは、ああ、と頷く。
    「それで、貴方は何を賭けるの?」
    「あ……」
     おいおい。そこは考えておかないと賭け事にならないんじゃないか? それぐらい、僕でも分かるよ。
     サクはしばらく思案し、そして、それを遮って、エアが言った。
    「それじゃ、彼の持っているネックレスを賭けてもらおうか。あのネックレス、かなり高価みたいだし」
     その言葉に、サクが僕の方を向く。……って、え? 僕?
     って、ちょっと待て。何でサクの勝負で僕のネックレスをかけろって言われてるの!? 待って、絶対おかしいよ!?
    「ちょ、ちょっと待……」
    「おい、絵逢!!」
     抗議しようとした僕の声を遮って、女性が怒声をあげる。
     絵逢……? ああ、エアの本名か。
    「なに人の試合で他人のもん賭けさせようと……」
    「受けるてやるよ。それで」
     今度は、僕の抗議を代弁してくれようとした女性の声をサクが遮る。
     って、ちょっと待て。サク!? お前何言ってるのさ!?
     もう一度抗議しようとした僕を、サクが穏やかに抑える。
    「大丈夫だ。俺が勝つ自信はある」
     サクはそう言って、エアの方を見る。
     勝てる、と言ったサクをエアは黙って見詰めていた。
     未だに納得できないでいる僕の肩を女性が叩く。
    「あいつ、本当にお前の友達か?」
     そう、聞かれる。
     確かに、あんな事をされて、言われてる僕を見れば、皆、同じ事を言うだろう。……だけど、
    「はい。あれでも、友達です」
     昔のことがある。絶対に、彼は僕を裏切ろうとは思わないはず。いや、逆か。僕が信じたいだけだ。
     はっきりと頷いた僕に、女性は肩を竦めながらも、僕を安心させるかのように言った。
    「まあ、大丈夫だろう。多分、お前の友人は勝てないだろうが、お前のネックレスが奪われることはないはずだ」
     ……え?
     僕が、女性の言った意味を理解しかねて、問い返そうとしたとき、エアが冷めた声で言った。
    「それじゃ、カジノゲームをはじめようか。見学者が居るから、状況の分かるようにポーカーで良いね」
     エアの言葉に、サクが頷いたことで、ゲームが始まった。
  • 22 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 19:10:15 [削除依頼]
    「それじゃ、私は仕事に戻るよ」
     エアとサクのゲーム開始と同時、女性、もとい店長が席から立ち上がってカウンターへと向かう。
    「って、え、ちょっと、説明してくれるんじゃないんですか!?」
    「ポーカーのルールぐらい知ってるだろ?」
    「いや、まあ知ってますけど……」
    「なら、勝敗、優劣わかるだろ。じゃあな」
     そういって無常にも去って行く。
     ふとサクたちの方を見ると、エアが、何故か唖然としている。
    「ディーラー、何時も瑠奈さんに頼んでるんだけど……」
     瑠奈っていうのは、多分、あの女店主のことだろう。そして、ディーラーって言うのは、親のことだ。つまり、何時も親をやってくれている瑠奈さんが早々に退散して困っている、と言ったところか。
     エアの困惑に気付いたサクが、僕のほうを向く。
    「遠見、お前やれ」
    「え、僕が!?」
    「ルールは知ってるだろう」
     まあ、ルールは知ってるけど……。仕方ないか。
     僕は頷いて、席を立ち、二人のテーブルの横に立つ。それを確認したエアが、無言でポケットからトランプを取り出し、僕に手渡した。
     っていうか、なんでトランプなんて持ち歩いてるんだ!?
    「持ち歩いてはいない。それ、ここの備品」
     僕の突っ込みは声に出ていたらしい。エアが極めて冷静に答えた。
     というか、トランプを常備してる喫茶店って、なんだよ……。
     そう思いつつも、僕はトランプを繰る。
     僕がトランプを繰っている間に、エアがポケットから髪留め用のゴムを取り出し、髪をまとめてポニーテールに仕上げる。多分、カードを見るのに邪魔になるからだろう。
     髪型をポニーテールにしたことで、さっきまでの清楚な印象が消え、凛とした印象に変わる。地位を賭けた勝負をするから、という理由もあるかもしれない。
     僕がエアに見とれながらカードを繰っている間に、瑠奈さんが来て、サクとエアの前にコインを並べた。
    「って、あの、仕事があったんじゃ……」
    「これを持って来ただけ。それじゃ」
     そう言って、また去って行く瑠奈さん。
     髪型を整えたエアが、僕に片手で繰るのを一旦やめるように伝えると、サクにルールの確認を始める。
    「今回のゲームは、1600ポイントで、十回勝負。十回目の勝負後、残っていたポイントの高いほうが勝ち。途中、ポイントが無くなった方が負け」
     サク、エア、それぞれの前には十枚重ねたコインが八つずつ置いてある。つまり、一枚100ポイントということだろう。
    「それじゃあ、先攻は交代で。最初は……、えっと……」
     急に、エアが熟考に入る。
     サクと僕は、エアが何に困っているのか分からず、顔を見合わせる。
     しばらく考えた後、エアが吹っ切れたように聞いてきた。
    「ごめん。"氷結のジャッジメント"さん。名前、なんだった?」
    「ニックネームはサクだ」
     僕は、エアにも意外と抜けたところがあったことに少しほっとした自分がいた事に気づいき、頭を振った。
  • 23 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 19:23:27 [削除依頼]
    >>22 ミス。すみません。 コインのポイントですが、一枚100ポイントではなく、一枚10ポイントでした。
  • 24 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 19:39:03 [削除依頼]
    >>22 「それじゃ、改めて。最初の先攻はサク」  言われ、二人はルール通り、一枚ずつコインを賭ける。  それを見て、僕はルールどおり、サク、エア、サク、エアと交代に五枚ずつ配る。  二人はカードをそれぞれカードを見る。二人とも、その表情に変化がない。いわゆるポーカーフェイス。 「ビット」  呟いて、サクは手元のコインを九枚出す。合計100ポイント。 「コール」  そう呟き、エアも同じ枚数分出す。  多分、サクは最初の様子見のつもりだろう。それに応じたエアも。  さて、最初の手は終了。次はカードの交換。  サクはたっぷり十秒考えた後、二枚、裏向きにカードを捨てる。僕はそれと同じ枚数分サクに送る。  エアも同様に二枚交換した。  サクはビットし、コインを二枚追加する。これで賭けポイントは合計120ポイント。  エアはこれに対し、コールで同じく二枚追加。こちらもかけポイントは合計120ポイント。  これで、準備は終了。あとは、勝負。  まず、サクがカードを開く。  スペードの2、スペードの3、クローバーの4、スペードの5、ハートの6。ストレート。  次に、エア。  ダイヤの4、ハートの4、スペードの4、ダイヤのK、ハートのK。フルハウス。  よって、一回目の勝負はエアの勝ち。コインは全て、エアに送られる。  というか、なんなんだ、この際どい勝負。一対一での勝負で、一回目からここまで強いカードが二人ともに出るものなのか?  この勝負、僕には先が読めない。  これで、サクは680ポイント、エアが920ポイントとなった。  サクが少し顔は、少し顔をしかめた。
  • 25 ‘‘理文” id:9va7xZC/

    2011-07-22(金) 19:53:57 [削除依頼]
     二回目の勝負。
     二人とも、同時にコインを一枚出す。
     僕は先ほどと同じように、今度はエアからカードを配る。先攻は交代だから、今回はエアが先攻だ。
    「ビット」
     エアは当然のように呟いて、今度は十一枚出す。
     その様子を見ながら、サクは苦々しくコールと伝えた。多分、エアが先ほどサクから手に入れたポイントをジャストかけたからだろう。サクの表情は険しかった。
     エアはを二枚、サクは一枚、カードを交換する。
     エアはビットすると、今度は五枚賭ける。それに対し、サクはここぞとばかりに、レイズ(掛け金の吊り上げ)で応じた。
     賭けた枚数は、十枚。エアはどうと言うでもなく、それにコールで応じる。
     それぞれの賭けポイントは、220ポイント。
     エアは一つ溜息を付くと、カードを置いていく。
     スペードの5、スペードの6、スペードの7、スペードの8、スペードの9。ストレート・フラッシュ。
    「って、ストレートフラッシュ!?」
     僕は驚いて声を上げる。サクもそれを見て、目を見張っている。
     サクはそのまま、所在なさげに、そっとカードを展開した。
     ダイヤの3、ダイヤの4、クローバーの4、ハートの4、スペードのK。スリーカード。
     エアの出したストレートフラッシュには到底敵わない。
     二回目の勝負、エアの勝ち。
     一体、なんなんだ。この二人。特に、エア。二回も連続で相当強い役を出してきた。一体、どれだけの強運を持ってるんだ? それとも、たまたま、なのか?
     どちらにせよ、二回目の勝負の結果、サクが460ポイント、エアが1140ポイントとなった。
  • 26 ‘‘理文” id:wO9MCqQ/

    2011-07-23(土) 10:57:09 [削除依頼]
     その後、三回目の勝負と四回目の勝負でサクがポイントを取り戻し、逆転の兆しを見せた。
     勝負の成り行きは以下の通り。
     三回目の勝負は、賭けポイント300で、サクがフルハウス、エアがフラッシュでサクの勝ち。
     四回目の勝負は、サクがレイズで賭けポイント560、エアがフォールド(その勝負の降参)し、サクの勝ち。エアの賭けポイントは240だった。因みに、このときのサクの役を覗き見すると、ツーペアだった。
     そして現在のポイントは、サクが1000、エアが600。
     そして、勝負はこの次からが問題だった。
     ………いや、あれは、勝負と言えるのか?
     五回目の勝負の時だった。
     今回の一回目の賭けでの賭けポイントはお互いに300。エアにしてみれば、結構でかい数字だ。勿論、そこまで賭けポイントを吊り上げたのはサク。
     カードの交換を終え、二回目の賭けポイントを決めに入る。
     先攻だったサクは当然のようにビット。そこで賭けたポイントは、200。流石に、これには僕も驚いた。エアにとっては勿論、サクにとってもポイントが半分になる量だ。
     それだけ、自信のある手札なのか……。
     僕は当然のようにこの勝負はエアは降りるだろう。そう思った。いや、先ほど彼女が降りたばかりだったから、先入観があったのかもしれない。僕なら降りる、という考えも入っていたはずだ。
     だが、エアは、冷静に、静かにこう言った。
    「レイズ。100ポイント分」
     な!? あれだけ自信満々にかけてきているサクに100ポイントも賭けポイントを吊り上げるのか!? それだと、合計賭けポイントは600。エアの全ポイントだ。
     まさか、サクが賭けポイントを吊り上げている時は弱い役であると見たのか?
     だけど、さっきの勝負でのサクの役を知っているのは僕とサクだけだ。エアは知らないはず。
     それじゃ、エアにもそれだけの自信があるということ。
     でも……、流石のサクも、これなら降りるだろう。あそこまでの賭けに出られたら、普通は降りる、と思う。
     けど、そんな素人の僕の考えは、結局素人の考えでしかない。
     サクは、コールと伝えた。
     サクが応じた。これで、この勝負の賭けポイントは互いに600。エアは、自信の全ポイントを賭けている。
     多分、サクも、エアも、相当強いカードを持っている。二人とも、互いの大勝負に応じたのだ。
     先攻のサクが最初にカードを開く。ハートの10、ハートのJ、ハートのQ、ハートのK、そして、ハートのA。つまり、ロイヤル・ストレート・フラッシュ。
     予想通り……、いや、予想以上に強い役だ。ポーカーで最強の、役。同じマーク(フラッシュ)で、その上順番に並んでいて(ストレート)、一番強い数字。それが、ロイヤル・ストレート・フラッシュだ。
     この勝負、決まったな。多分、サクの勝ち……。そう思って、僕はエアの顔を見た。その顔には、悔しそうな表情も、悲しそうな表情も浮かんでいない。ただ、無表情。だまって、自分のカードを見詰めていた。
    「サク、ここまでギリギリの勝負、見たことないよ。お互いに、ロイヤルっていうのは。一体、何の因果でこんなことになったんでしょうね。お互い、強運の持ち主って事ね」
  • 27 ‘‘理文” id:wO9MCqQ/

    2011-07-23(土) 10:57:28 [削除依頼]
     …………、今、ロイヤルって言った? しかも、お互いに……。
     おい、待てよ。ロイヤルストレートフラッシュの出る確率は、649740分の1。
     それが、二人ともに出たとなると、二乗して確率は………。
    「422162067600分の1」
     サクが、静かに呟いた。サクのほうを見ると、手には関数電卓を持っている。
     エアはそっと、自らのカードをテーブルに広げた。
     スペードの10、スペードのJ、スペードのQ、スペードのK、スペードのA……。ロイヤル・ストレート・フラッシュ。
     二人とも、ロイヤルストレートフラッシュ。
     こんなの、奇跡としか言いようがない。
    『天の時を操る女性がいる。
     彼女には運命を操る力があり、その力で世界を操っている。
     しかし、彼女は神ではない。普通の、人間に過ぎない』
     そう、か。あの噂。そう、あの噂、うそなんかじゃないんだ。
     噂の真意、分かった気がする。
     このエアって子、本当に噂の子なんだ。あの噂、多分本当に運命を操っているわけじゃない。ただ、とんでもない強運の持ち主なんだ。
     二人とも、役の強さは同等。つまり、カード単体ごとの強さで判断するしかない。だが、二人とも10からAで数字が同じだ。なら、マークの強さで判断しなければならない。
     そして、スペードは、四つのマークの中で一番強い……。
    「この、勝負……。エアの勝ち。これで、サクのポイントが400、…………エアのポイントが1200」
     サクの表情が見る間に青ざめていく。多分、僕も同じだ。こんなの、あり得ない。本当に、ただの奇跡としか言いようがない。小細工は、していないはずだ。ディーラーは僕。だから、僕が素人であっても、エアが小細工すれば僕がすぐに分かるはず。
     その後の勝負は、もう、見ていられなかった。だけど、僕はディーラーに選ばれた以上、勝負の行方を最後まで見続けた。
     僕の大切なネックレスが賭けられていることも忘れて……。
  • 28 ‘‘理文” id:wO9MCqQ/

    2011-07-23(土) 18:29:15 [削除依頼]
     その後の勝負の行方は、以下の通り。
     六回戦目、賭けポイント200でサクがフォールド。サクのカードを覗き見すると、ブタ(役無し)だった。
     七回戦目、賭けポイント100で、サクがフルハウス、エアがストレート。よって、サクの勝ち。
     八回戦目、賭けポイント300で、サクがフォアカード、エアがストレートフラッシュ。よって、エアの勝ち。
     結果、サクの所持ポイントは0、エアの所持ポイントは1600。
     サクの、完敗だった。
    「くそがっ!? なんなんだ、この勝負は」
     サクの悪態ももっとも。六回戦目を覗けば、全試合、ギリギリの勝負。それも、どれも半端なく強いカードだ。
     けど、僕からしてみれば、勝敗よりも、二人の実力に感嘆を覚えてしまう。
     二人とも、賭け方は上手いし、多分、役の作り方も上手い。それに、エアは至極の強運の持ち主だった。
     瑠奈さんの言葉を思い出す。彼女は確か、サクが勝つことはない、と言っていた。
     それは、こういうことだったのだ。
     ……あれ? 今まで忘れてたけど、この勝負で賭けられてたのって確か、
     そこまで考えて、エアがサクを見詰めていった。
    「本当はね、四天王の地位は賭けで決められない」
  • 29 ‘‘理文” id:wO9MCqQ/

    2011-07-23(土) 18:29:54 [削除依頼]
    「何!?」
     エアの言葉に、サクが驚く。勿論、僕も驚いた。
     なら、今の勝負は、何の意味も無いんじゃないのか?
     サクも、多分同じ事を思ったのだろう。テーブルを平手で叩いて、立ち上がった。乾いた音が喫茶店に響く。
    「ふざけるな!? それじゃあ、俺が勝っていたとしても四天王の地位は手に入れられなかったってことか!? この勝負には何の意味もなかったのか!?」
    「それはない」
     サクの言葉をエアは否定する。
     どういうことだ、という僕とサクの無言の問いかけに、エアは少し考えながら言った。
    「四天王の地位は、その人としての資質と、賭け事に関する資質を見て決定する。勝負は、その資質を見るためのものでもある。だから、負けても、四天王の誰かより資質があると判断できれば、四天王になることは出来る」
    「その賭け事に関する資質は、俺になかったってことか?」
     サクは自嘲気味にそう呟くと、乾いた笑いをあげた。
     その笑い声が、虚しく喫茶店に響く。
     僕が見た限りでは、サクの賭け事の資質は異常に高いように思えた。それでも、彼には四天王になるほどの資質はないという。一体、四天王というのはどれだけの実力を持っているんだ? エア以上に強い奴もいるのか?
     しかし、僕とサクの考えを否定したのはエアだった。
    「サク、貴方には十分、四天王になるだけの、賭け事に関する資質はあった」
     その言葉にサクも僕も硬直する。
     そんな僕達を見て、エアは続けた。
    「貴方に足りないのは、人としての資質」
    「は!?」
     エアの本当の答えに、サクが意味が分からない、というような声を上げた。それも分かる。僕にもそんなところを指摘されるような節があった覚えは……、いや、待て。あった。確かにあった。
     最初の、カジノゲームでかけるものの確認の時、彼女は、僕のネックレスを賭けるようにサクに指示した。サクは、それを当然の様に受け入れた。
     今思えば、今回の勝負は最初から、賭ける物は必要ない、ただのゲームだった。それに彼女はゲームに僕のネックレスを賭けるように指示した。この行為、全く意味がないように見える。だが……、
    「もしかして、最初、エアが僕のネックレスを賭けるように指示した時、サクが頷いたこと。その時点で、サクには四天王になる資格はなかった……?」
     僕の言葉に、はっとしてサクが僕の顔を見る。
     もう一つ、思い出した。それは、サクが頷いた後の瑠奈さんの言葉。
  • 30 ‘‘理文” id:wO9MCqQ/

    2011-07-23(土) 18:30:10 [削除依頼]
    『あいつ、本当にお前の友達か?』
     そう、本当に友人だと思っているのなら、僕のネックレスを賭けたりしない。もし、自分が勝つという確信があってのものであれ、エアにとっては、その行為はタブーだったと、そういうことか……。
     エアは、僕のほうに一瞬視線を向けてから、言った。
    「そう、彼の言うとおり。あなたが彼のネックレスを賭けると言った時点で、貴方には四天王の資格はなくなっていた。自分の勝負に、他人のものを賭けるような人に、四天王は任せられない。それに、そんな人に私が負けることもない」
     エアは冷めた声でそう言うと、僕の方に顔を向けた。
    「すまない。ネックレス、大事なものだったんだよね。資質を見るためとはいえ、勝手なことをした」
     エアの心のそこから申し訳なさそうな声に、僕は思わず手を振る。
     気にしてない、という意思がエアに伝わったか伝わってないかというとき、サクが唐突に立ち上がり、カウンターへと向かう。支払いだけ終わらせると、さっさと帰っていってしまう。
     ……相当、こたえたみたいだな。
     サクの様子が出て行く様子を見て、エアはコインとトランプをまとめながら、呟いた。
    「四天王になって何をしりたかったのか、知らないけど、友人を犠牲にしてでもしたいことがあった……。けど、それは因果の上で仇となったか」
     とても中学生とは思えない言い回し。
     因果の上で仇となる、とは多分、それが逆に仇となった、と言う意味だろう。
     エアはトランプとコインをケースに仕舞うと、僕に笑顔を向けながら言った。
    「私、これから用事があるんだけど、付き合ってくれないかな」
     エアの言葉に、僕は頭の上に疑問符を浮かべた。
     何故、彼女の用事に付き合わなければならないのだろうか……。
     それに、サクを追いかけたほうが良いような気もする。
     そう考えたけど、でも、いまから追いかけても間に合わない。それに、僕が行ったところで、何て声掛ければ良いかも分からない。
     結局、僕は頷いた。

     そこで、考え無しに頷いたりしたから、あとあと、裏の世界へずるずる引き込まれることになったのかも知れない。

    【1.02】カジノゲーム

      "氷結のジャッジメント"サク VS "天の時姫"エア

       サク:0ポイント    エア:1600ポイント

        よって、"天の時姫"エアの勝利にて、終了。
  • 31 ‘‘理文” id:wO9MCqQ/

    2011-07-23(土) 19:49:53 [削除依頼]
    【1.03】ウロボロスの影

    「用事って、夕飯の買い物……。それも僕は荷物持ち」
    「本当の用事は別。買い物はついで」
     で、荷物持ちもついでと。
     僕はあれからエアの夕飯の買い物につき合わされていた。一体、誰の所為でこんなことに……、あ、僕自身か。
     エアはスーパーの野菜売り場で野菜を選びながら、言った。
    「遠見は何時も夕飯はどうしてる?」
     その質問より、名前で呼ばれたことに驚く。
     サクは名乗っていたが、僕はエアに名乗った覚えは無いぞ。……あ、いや待て。サクが僕のことを呼んでたか。それを覚えてたんだな。
     それにしても夕飯はどうしてる、か……。答えにくいことを聞いてくるな。
     うちは父子家庭だから食事は基本ばらばら。だから、ジャンクフードやコンビニ弁当、外食になることが多い。
     父子家庭の理由は、母が亡くなっているから。だから、言いにくい。
     いや、決して僕がそういうのにデリケートって訳じゃない。別に、家庭の事情ぐらい話しても良い。人は何時か死ぬ。それは割り切れてるから。
     問題は、答えを聞いた相手の方。不用意にこの事実そのままに伝えると、確実にむこうが遠慮してしまう。だから、話しにくいんだ。
     さて、エアにはどう話したら良いものか……。
    「それじゃ、質問を簡単にする」
     僕の困惑に気付いたのか、エアは選んだ野菜を僕が持つ買い物籠に入れながら、質問をし直した。
    「勝手に外食しても問題ない家庭?」
     ああ、確かにこれなら答えやすい。
     僕は頷く。
     エアはそれに、そう、と答えただけだった。
     そのままカウンターへと向かう。何故か肉や調味料の類を先に買っていた。普通は野菜を先に買うもんじゃないか?
     夕飯の買い物を終えると、エアは駅前の通りから出て、団地の辺りへと入る。
     って、あれ? 用事は?
    「もしかして、帰るの?」
    「ええ」
    「用事は??」
    「家で」
     それって、もしかしかして用事は僕にあるってこと?
     エアは僕の疑問に答える気も、用事について話す気もないようで、そのまま団地アパートの一つへと入っていく。
     はあ。今は黙ってついていくしかないな。
     そのままエアは四階まで上がると、そこにあった左の扉を無造作に開けた。
    「入って」
     そう言ったエアについて入ろうとして、気付いた。
     405と記された部屋の番号の下の表札。そこには神埼の文字。
     でも、確かエアの苗字は絵逢だったはず……。
     どういうことだ?
    「どうしたの?」
     僕が動きを止めていることに気付いて、エアが心配そうに聞いてくる。
     勝手に入った、ってことは、多分ここがエアの家で間違いない。
     まあ、エアにも事情があるんだろう。僕と一緒で。
    「なんでもない」
     僕はそう言って玄関扉を潜った。
  • 32 ``理文" id:ElBosZE.

    2013-03-03(日) 16:52:56 [削除依頼]
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