=別離=8コメント

1 黒庭レオン id:GPH1JZ40

2011-07-09(土) 12:55:28 [削除依頼]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
         別離の歌
 
 
 
 
 
  • 2 黒庭レオン id:GPH1JZ40

    2011-07-09(土) 13:18:31 [削除依頼]
    [始]

     ひとつふたつ 御名を呼ぶ
     手を打ち鳴らして
     寂しかろう 侘びしかろう
     祭り囃子の音に乗せて

     宵から出ずる 鬼の御代
     双眸絡めて
     苦しかろう 切なかろう
     繋ぐ手と手は放さずに

     紅い緋い 御衣の色
     開いた花が落ちるまで
     儚かろう 悲しかろう
     共に淵へと 沈みゆこう
  • 3 黒庭レオン id:GPH1JZ40

    2011-07-09(土) 13:39:00 [削除依頼]
    [壱]

     地上の全てを焼き尽くさんとばかりに照る太陽の下、桐崎慶は田圃の畦道を歩いていた。手に下げる白いビニル袋は全国に展開する大手コンビニ会社のもの。Convenienceの名にふさわしく、小さな店舗ながらも関心せざるをえない品ぞろえに、慶は至極満足をしていた。ガサリと歩みを進める度に鳴る音は、袋の中にあるアイスと文房具が揺れて起きる。手に感じる重さを確かめながら、慶は早足で帰路を進んでいた。

     慶の高校は今、夏休みだった。高校一年である慶は、今年はまだ受験勉強などに追われていなく、のんびりと祖母の家で夏休みを満喫していた。慶の父と母は夏休み中海外へ出張していて、同行するのを拒んだ慶は祖母の家に預けられることとなったのだ。
     何しろ田舎も田舎なので、ゲームセンターもショッピングモールもない。都会育ちの慶は、この町に来た当初はその田舎っぷりに落胆したものだったが、一週間が経った今では、静かにのんびりと流れていく時間がとても心地よく感じられていた。都会の喧噪の中では、いつも何かに急かされている気がしていて心休まる時がなかったのだ。
  • 4 黒庭レオン id:GPH1JZ40

    2011-07-09(土) 14:10:14 [削除依頼]
     緑色が眩しい田圃の中に、ぽつんと浮かぶ一軒の日本家屋。松の木が上品に生える広い庭と、数匹の鯉が泳ぐ池。犬小屋の白い犬は木陰に寝そべり、縁側では黒猫と雉虎の猫が毛づくろいをしている。瓦は綺麗に葺かれており、人が『懐かしい場所』と言われて思い浮かべる、正にそんな家が慶の祖母の自宅だった。

     キィ、と擦れる音を立てて開かれた門から慶が敷地に入っていく。寝そべっていた犬は起き上がり、門まで駆けていって慶を出迎えた。吠えもせず、軽く尾を振っているだけだというのが、この犬の育ちの良さを窺わせる。父親に北海道犬、母親に紀州犬を持つこの犬は、猟犬としての素質がにじみ出るような凛々しい顔立ちをしていた。慶は立ち止まると、犬の真白の頭を軽く撫でてやった。

    「ただいま、錦」

     白い日本犬の名前は、錦というらしい。錦はひときわ大きく尾を振った後、土間へ入っていき、冷たい床へごろりと寝ころんだ。鼻先には餌入れがあり、どうやら慶が彼におみやげを買ってきたことを理解しているようだった。

     なんとも言えずおかしくなった慶は、笑いをこぼしながら錦の後に続いて玄関をくぐる。

    「錦、待ってて。荷物置いてくるから」
  • 5 黒庭レオン id:GPH1JZ40

    2011-07-09(土) 14:25:09 [削除依頼]
     家の中には、人の気配がない。祖母はどこかへ出かけているのだろうと一人納得し、冷蔵庫にアイスをしまおうとして、慶は磁石で張り付けられたメモ書きをみつけた。冷凍庫に無事、アイスを収納した後、一本だけ出しておいたミルク味のアイスバーをくわえながら、慶はメモに連ねられた小綺麗な文字を目で追った。

    『慶へ。隠荷原神社へお参りしてきます。
     良かったら、あなたもお参りに来てください。    清』

     清というのは、祖母の名前だった。それにしても隠荷原神社なんてどこにあるのだろうか、と、慶は首を傾げた。土地勘のない慶がひとりでそんな聞いたこともないような神社に辿りつけるわけないのに、少しばかり抜けている祖母に慶は胸が暖かくなるのを感じた。都会にある家では、母も父もいつも仕事で居なかった。買い物にいっていても、置き書きなどはなく、それが当たり前の生活だったのだ。だからこうして少しの気遣いをしてくれる祖母の優しさが、慶は嬉しかった。それが無意識の行為であろうから、なおさら。

     ぺろりと自分の分のアイスをたいらげてしまうと、慶はもう日本のアイスを取り出す。包装を剥いで、口にはくわえず、慶は立ち上がって土間に向かった。
  • 6 黒庭レオン id:GPH1JZ40

    2011-07-09(土) 14:26:26 [削除依頼]
    日本→×
    二本→◎
  • 7 黒庭レオン id:GPH1JZ40

    2011-07-09(土) 19:13:25 [削除依頼]
    「錦、ほら。ばあちゃんには内緒だからな」

     アイスバーを餌入れに入れてやれば、待っていましたと言わんばかりに錦は自分と同じく真っ白なアイスを一心不乱になめ始める。木のバーが危ないと知っているのか、アイスを与えたときに、錦は必ずなめてそれを消費した。「誰も取りゃしねえよ」と、餌入れに顔を突っ込んだ錦の頭をぽんぽんと撫で、今度は縁側に向かった。
     
     
    「渚、湊。おいで」

     冷房の効いた涼しい和室から呼びかけると、縁側で毛づくろいをしていた二匹の猫は早足で慶に近づいていった。そして、黒猫の方は『早く寄越せ』と慶の足に体当たりをするかのように擦りつき、雉虎柄の猫はどこからか白いトレイを持ってきて、慶の目の前に置いた。そして目を爛々と輝かせて慶を見上げる。黒くて緑色の目をしているのが渚、雉虎柄で金色の目をしているのが湊という名前らしかった。

    「渚は食い意地張りすぎ。んで、湊。お前また勝手に台所入ったな」

     ブツブツいいながらも慶はもう一本のアイスを彼らに与えた。勿論、湊の持ってきたトレイの上に置いて、だ。台所に無断侵入した湊を軽く責めた慶だったが、彼らの餌入れを持ってくるのを忘れていたので丁度良かったのだ。
  • 8 黒庭レオン id:qOPcxf1/

    2011-07-10(日) 19:12:45 [削除依頼]
     ひととおり、これでやろうとしていたことを終わらせてしまった慶。アイスと一緒に買ってきた文房具は、夜、夏休みの課題を消費するときに使うものだ。昼間の明るいうちから勉学に勤しもうなどという考えは、慶の頭の中には一塵ばかりも転がっていなかった。多くの学生がそうであるように、勉強に関しては夜型なのだ。

     手持ち無沙汰になった慶は、冷房が効いた部屋で畳にごろりと横になった。傍らでは二匹の猫が、アイスを一心不乱になめている。ほほえましいその光景に、慶は目を細めた。

    「あー、それにしても暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ」

     ばたばたと無意味に足を動かす。

    「……あー」
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