リュウ - 七つの国と一つの村-64コメント

1 名前 id:nIew.Yg/

2011-07-09(土) 12:09:34 [削除依頼]

 竜の翼が夜空に舞う。
 
 満月の光を一杯に浴び竜は上へ上へと昇っていく。
 
 竜が目指すは塔の頂。
 
 どこまでも高く高く高くそびえる塔の頂……
  • 45 name id:QB0SyeE0

    2011-07-24(日) 22:39:19 [削除依頼]
    重大なミス

    ×何の変哲もない扉をノックせずぎいっとあける、315と書かれた扉をぎいっと開く。

    ○何の変哲もない315と書かれた扉をぎいっと開く
  • 46 name id:6OHCp1i.

    2011-07-26(火) 23:32:17 [削除依頼]
    ****

    「おりゃあ!」
    「何の! これごときで平和を守ろうなど片腹痛いわ!」
     
     今まさに、小柄な兵士が剣を構え大柄な兵士に立ち向かっていき、無残にも吹き飛ばされたところである。

    「次! かかってこい」
     
     大柄な兵士は、大きな斧を振り回し叫んでいる。
     ごつごつした顔にたくさんのひげを生やしたこの兵士は、オレア護衛隊の1番隊隊長の「ボッヅ」だ。斧をぶんぶん振り回すその姿から、兵士内から「鬼のボッヅ」というあだ名がつくほどの強者である。

     兵舎の隣。城の裏側にある訓練場では今まさに鬼を相手にした実践訓練が行われている。実際は、複数人と戦う訓練なのだが、隊長であるボッヅが一番隊の面々に宣戦布告をしたのでこの様な状況になっているのだ。
     誰か、誰か奴を、鬼を止める者はいないのか。ボッヅは順々にせまりくる兵士100人を次々となぎ倒し、ただ今4週目。おそらくは300強と相手をしたことになる。
     しかし、彼の顔は未だ涼しい。髪は一つも乱れておらず、余裕さを伺わせている。

    「次! 誰だ!」

     少し、というよりものすごく楽しそうな声で次の兵士を誘うボッヅ。
     何くそ、とその声につられ飛びかかっていく兵士だが、ボッヅに近づいた瞬間にまるでボールの様に跳ね返っていってしまう。跳ね返ると言うことなので、ボッヅは斧すら使っていない。
  • 47 name id:iIcvduK1

    2011-07-27(水) 21:18:57 [削除依頼]
     訓練場の片隅で、まるでボール遊びのような訓練を眺めているリュウとビスタ。
     部屋の説明が終わった後、ビスタに連れられてここへやってきたリュウだが、この訓練では一体何をしているのかがよく分からなかった。
     端から見ると、その訓練は大きな男にぶつかっていき跳ね返るだけの遊びの様に見える。

    「ボッヅさん。また好き勝手やってますね……」
     
     ビスタは首を横に振る。

    「おらあ! 次はどいつだあ。がっはっはっは」
     訓練場のど真ん中で斧をぶんぶんと振り回すボッヅ。ビスタは見てられなくなったのか、大声でボッヅに呼びかける。

    「ボッヅさん!!」

     ボッヅは、まるで狩りをしている獣のような顔で振り返る。しかし、声の主に気がついたのか、顔を狩猟体勢から普通の顔に戻す。普通の顔も相当な物だったが。

    「おお。ビスタ。何だ? 次はお前があいてか。いいだろうかかってこい!」

     訓練場の真ん中から中指を突き立て挑発するボッヅ。だが、ビスタは動かなかった。だが代わりにリュウの肩をぽんぽん、と叩いた。

    「え?」
    「チャンスです」
    「は?」
    「ここで、あの人を倒せば一気に昇格間違い無しですよ」

     リュウは、焦った。つまりは、あの鬼のような男と戦えということなのだろう。けれど、まだ心の準備という物が出来ていない。「戦いには臨むべき態度で臨め」そう父から教わった。
     けれど、あの鬼。ボッヅと言う男のギラギラ滾る目が自分に照準を合わせた。

    「んん? ビスタ。何だそのチビは」
    「チビだからって、舐めない方がいいですよ。さ、リュウくん」
     
     ビスタが、リュウの背中を押す。リュウはバランスを崩し前のめりで鬼の方へと押し出された。
     リュウは体勢を立て直し、前を見る。そこには、自分の2倍はあろう体が立ちはだかっている。見上げると、その体の持ち主と目があった。
     端から見ると、捕食者と被食者。だが被食者に見えるリュウは背中の大きな剣に手をつけた。

    「おお! 背に似合わぬ大剣。面白そうじゃないか。さあかかってこい!」
     
     捕食者であるボッヅは大きな口を開け、頭上で斧を振り回しながら叫んだ。
  • 48 name id:kFbrRjj1

    2011-08-03(水) 17:26:29 [削除依頼]
     かかってこい。そうは言われてもリュウの戦い方は「かかっていく」ではなく、相手が「かかってくるのを待つ」ものであった。いわゆる、抜刀術。敵が自らの間合いに入ってきたところを必殺の一撃、巨大な剣で相手を両断するというものだった。村の兵士にもこの戦い方でいくつもの勝ち星を挙げている。村から森を抜けるまでの道のりでも、リュウは迫り来る巨大な怪物を一撃で沈めていた。
     リュウは、静かに、そして、確実に敵の攻撃を跳ね返すタイミングを狙っているのである。敵から見れば、それはただボーッとしているように見え、絶好の好機とも取れる立ち姿である。しかし、そう思って闇雲に飛び込んだら一巻の終わり、行く先には死が待っている。
     そして、ただ今リュウと相対する相手はまさにその様に、力押しで闇雲に突撃するタイプ。だと、リュウは戦う前に思っていた。しかし、いざ相まみえてみると目の前の鬼が、ただ大きいという理由だけで、強い訳ではないことを悟った。

     隙がない。

     まず、そう思った、いやそれしかない。リュウも何回か「待つ敵」を相手に戦った事があるが、これ程までに隙がない敵には出会ったことがない。まるで、幾重にも重なる鋼鉄の鎧が鬼に被さっている。そんな印象を受けた。
     ともあれ、二人とも待っていては勝負が始まらない。されど、動いてしまえば負けという状態に二人は陥っていた。ボッヅ自身も、この少年の隙のなさに驚いていた。だが、内心では自分の中の何かが蠢いているのが分かった。
     久しぶりの「強敵」 ボッヅは隙を見せないが、心の内でとてもはしゃぎ回っていた。
     
     二人が、停止している状態で時は進んでいく。ビスタや他の兵士も息を呑んでいた。二人の間には、見えないが幾つもの斬撃が飛び交っている。
     ビスタは、まだ勝負はついていないものの、これ程までにあの少年は強いのかと感嘆のうめき声を上げた。ボッヅさんは、1番隊一大雑把で、がさつで。だけど、武闘術に関しては一番繊細なのだ。だけど、あの少年も負けてはいない。ボッヅさんの見えぬ斬撃を躱すどころか、抵抗してさえいる。
     
     だけれど、それでもボッヅさんに軍配が上がりそうだ。ビスタを始め観戦している兵士達はそう思った。
     少年があの大剣を一度振り下ろせば、もう一度その剣を振ることはできないだろう。どう見ても、少年はあの巨大な剣を一回でも振ってしまえば二回目の追撃はできないように見える。そうなると、もし、リュウがボッヅを一撃で負かすことが出来なければ自然にボッヅの勝ちは決定する。
  • 49 name id:h8JpQC50

    2011-08-04(木) 18:55:45 [削除依頼]
     兵士達が息を呑んでいる間もボッヅと、リュウの間にいくつもの見えない攻撃、防御が組み重なる。
     しかし、やはりその戦いにも終わりはくるのである。何らかの気の揺らぎが両者どちらかに合ったのではないだろうか。

     突如。ボッヅが、自らの巨体を恐るべき速さでリュウの間合いへ近づけた。まるで風のような速さ。あの巨体からは想像もつかない速さだった。
     リュウは鬼が間合いに入った瞬間、刹那、右手で肩に掛けている大剣の柄を握り、一気に上へと振り上げた。重く、鋭いその一撃だったが、ボッヅを捉えることは出来なかった。
     ボッヅは、リュウが大剣を振り上げる刹那のそのまた刹那の間にリュウより低くしゃがみ込んでいたのだ。そしてボッヅは、剣を振り上げた状態でがら空きのリュウの胴体を攻撃する。完璧だ。誰もが思った矢先であった。ボッヅの斧はリュウを捉えず空を切った。

    「何!?」

     ボッヅは驚きの声を上げる。
     リュウは振り上げた大剣の重さをそのまま利用して、ボッヅの攻撃を後ろ宙返りで回避したのである。
     リュウは剣の切っ先を軸としてきれいに着地をする。そして、兵士達が無いと思っていた、二回目の攻撃をボッヅに喰らわせようと大剣を右手だけで勢いよく横薙ぎに振るった。ボッヅはその横薙ぎの攻撃を斧で防いだ。重い一撃であったが、ボッヅは己の怪力を存分に利用し、防ぐどころかその大剣をはじき返した。

    「ぐっ!」

     リュウの体ははじき返された大剣と一緒に体勢を崩す。まさかここまでの怪力だったとは。リュウは今まで戦ってきた相手とは比べものにならないほどの強さを目の当たりにしたのである。やっぱり世界は広い。リュウは戦いの最中にそう思ったのである。
     ボッヅは体勢を崩した、リュウに追い打ちを掛ける。リュウもなんとか体勢を立て直し大剣を盾のように扱いボッヅの攻撃を防ぐ。リュウは右手のみで大剣を、ボッヅの攻撃にあわせて器用に防いでいたがボッヅの攻撃が重なるにつれ危なっかしくなってゆく。
     だんだんと、ボッヅの攻撃に耐えられなくなったリュウ。程なくして、ボッヅの攻撃がリュウの大剣を吹き飛ばした。
     盗賊とリュウが戦ったときと同じように、大剣が宙を舞いリュウの後ろにどすっと突き刺さった。

     勝者と敗者が決定した瞬間である
  • 50 name id:h8JpQC50

    2011-08-04(木) 19:22:43 [削除依頼]
     ボッヅは、剣が突き刺さるのを見る。そしていきなり笑いはじめた。

    「ははは。ははははははは!!」

     リュウは、呆然と立ち尽くしている。敗北感に打ちひしがれたというよりは、いきなり笑い始めたボッヅを不思議に思ったからである。

    「強い。強いなあチビ。こんな楽しい対人戦はギルとやり合って以来だ」

     ボッヅは、リュウに近寄る。

    「名前。なんて言うんだ」
    「リュウ……です」
    「へえ。"竜"か。なかなか良い名前じゃないか」

     リュウは、少し驚いた。名前を褒められたのは初めてのことだったのだった。

    「どうだ。一番隊に入ってみる気はないか?」

     ボッヅは、リュウの後方に落ちた大剣を手に取りながら言った。そして、その大剣を片手でひょいっと、リュウに渡す。

    「駄目ですよ」

     すると、戦いを観戦していたビスタが「それはいかん」と飛びいってきた。

    「リュウくんはもう二番隊に入隊してることになってるんです」

     実を言うと、まだ正式に入隊したわけではないがビスタはリュウを取られてはならないと嘘をついた。

    「ん? そうなのか。うん、なら仕方ないなあ」

     ボッヅは残念そうに首を振った。

    「しかし。さっきの戦い熱かったですね。ボッヅさんなかなか本気じゃあありませんでした?」

     ビスタは既に「うちの隊員すごいでしょう?」という感じだった。

    「ああ。結構危なかったが、まあ流石俺様って所かな」

     ボッヅは、がっはっはと大きな笑いを見せる。

    「しかし。チビがまさか片手で大剣を操れるとはな。驚いたぜ」

     ボッヅは服の袖から出ているリュウの右腕を見る。見た感じは細くもなく太くもなく、普通の腕である。あれ、そう言えばこのチビは戦闘中に左手を使っていただろうか。
     ボッヅは、首を傾げ左腕があるはずの場所に目を向ける。おかしい、どうやら袖から出てるはずの左腕がない。

    「おい。チビ。左腕はどうした」

     ボッヅは、驚いた口調で言う。

    「小さいとき。竜に襲われたんです」
    「竜に襲われたあ?」

     リュウはコクリと頷いた。

     

     
  • 51 name id:h8JpQC50

    2011-08-04(木) 19:25:58 [削除依頼]
    ×名前を褒められたのは初めてのことだったのだった

    ○名前を褒められたのは初めてのことだったのだ。

    地味に50レス突破。
  • 52 name id:mKYBhBq0

    2011-08-05(金) 20:46:08 [削除依頼]
    リュウは、悲しそうに俯いた。ビスタとボッヅは顔を見合わせる。

    「竜と遭遇してよく生きていられたな!」

     ボッヅは感嘆の声を上げた。ビスタも驚いた様に口に手を当てている。竜と遭遇して片手で済むとはなんたる強運の、いや実力の持ち主!
     二人は、目の前の少年を尊敬の入ったまなざしで見つめる。
     
     この世界では竜との遭遇は「死」を意味する。それは変えることの出来ない、「=」で結ばれており、竜の存在は恐怖そのもの、恐怖と言えば竜なのだ。竜の行動は基本気まぐれで、人の住む場所にやってくるという事はあまりない。しかし、それだからこそ竜は恐怖の象徴なのである。
     竜の出現は気まぐれ、故に雷地震大雨等と同じで予測がつかないのである。この世界の人々はトイレに行っている間に、住んでいる村や町や国が竜に襲われてしまうかもしれないという危険に立たされながら暮らしているのに等しい。
     過去にオレアでも竜が城と城下町を襲ってきた事件があった。当時のオレア王はそれに対し護衛隊の全兵力を竜討伐に向けたのである。しかし全兵力を注いだ被害は明らかにそれに見合わなかった。オレア城下町の南部分はほとんどが焼け跡となり、大勢の市民が竜に焼かれ潰され喰われていった。護衛隊でも兵士のほとんどが負傷し、死亡者は一隊の半分にのぼった。
     
     国に大打撃を与えるほどの竜。そんな奴と遭遇して片腕一本ですんだのである。少し離れて話しを聞いていた兵士達もざわついている。
     だが、誇らしい顔をしても良いようなことなのに、リュウの顔は少し曇っている。ビスタは、思い出した。今日の昼間、食堂でも左手の話しになると、リュウは突然悲しい表情になったということ。
     今は、左手の事にはあまり触れない方が良いのかもしれない。あまり人の心を読まず直感で喋るタイプのボッヅも今回は場の雰囲気を察したらしい。

    「ああ。まあそうだな、何があったかは分からないがお前の右手は充分過ぎるほどに強い。左手なんてなくてもいいさ。まあ、もしあったら俺も多少は苦戦しただろうけどな。がっはっは」

     最後の言葉は、ボッヅお得意の「自分自慢ギャグ」である。リュウはそのギャグと「左手なんてなくてもいいさ」にとても勇気づけられ元気が出てきた。
     顔を上げて、ボッヅに「ありがとうございました」と深々と礼をした。
     その礼は、感謝の礼か、それともいつか追いついてやるという挑戦の礼なのか。ボッヅはその礼に対しまたがっはっは、と大きな笑いを見せたのである。
     
     かくして、片手の大剣使い(少年)の名はたちまち広まっていくこととなった。ボッヅと互角に渡り合える兵士など対人戦に優れた二番隊に1人いるかいないかくらいだったので、城の兵士達は新たな強兵士の誕生に沸き立ったのである。
     だが、とあるところでリュウの名は「求婚少年」なんていうあだ名が広まりつつあるのをリュウは知らなかった。
     
  • 53 name id:ZL7Ki9Z/

    2011-08-07(日) 12:15:59 [削除依頼]
     リュウは訓練場から出て、平和の庭園へ舞い戻った。先ほどの戦いの後、ビスタにお城を散策してよいと許可が下りたのである。

    「おう。惜しかったな」

     突然、どこからか声が聞こえてきた。リュウが辺りを見やると、ギルが訓練場の外壁に腕を組みながら身を預けている。

    「見てたんですか?」

     ギルは頷いた。

    「ああ。まさか大剣をあんな風に利用するとはな」
    「いや、あれはとっさに思いついたものです。運良くかわせただけかと」

     リュウは実際、ボッヅの攻撃を予測してはいなかったのである。あの時。振り上げた剣が空を切った時、反射的に回避の方法が見つかっただけ。

    「とっさに……」

     ギルは、驚いた様に目を大きく開く。

    「やっぱりお前はそこらの兵士に比べて圧倒的に、センスがある」
    「あ……ありがとうございます」
    「だけどなあ。もう少し。もう少しなんだよなあ」
    「え?」

     ギルは、壁から身を離しリュウに近づく。

    「そうだな。例えばお前は誰かに勝とうとしたことはあるか?」

     リュウは突然の質問に、少し戸惑った。
     勝とうとしたこと。
     ―――いくらだってある。村の兵士、眼前に立ちはだかるモンスター。勝負とは勝ち負けをつける物であり、当然勝負をするからには勝とうとするはずだ。
     リュウはコクリ、と頷いた。

    「そりゃあそうだろうな。お前はかなりの数の"勝負"をしてきた。俺には分かる。当然その中で一回も勝とうとしなかったことなんてあるわけないよな」

     ギルは、少し考えている振りをしてからてからまたリュウに質問した。

    「じゃあ。これはどうだ。"お前は勝った先に何を求めている?"」
  • 54 name id:o.48BBa1

    2011-08-20(土) 12:53:19 [削除依頼]
    勝った先。
     例えば、村の兵士に勝った後。僕はその勝利の後に何を求めているのか。要はそういうことなのだろう。
     当然勝った後は勝った後である。それ。だけ。
     リュウは黙っているしかなかった。確かに考えてみれば勝ちの先に何かを求めた事なんて無かった。だけど、それが「もう少し」の部分にすっぽりとはまっていくのだろうか。
     リュウはしばらくの間微動だにせず、沈黙が色濃くなる。

     そしてギルはリュウの沈黙を見て喋り始めた。

    「うん。そうだなあ、あの力馬鹿。ああボッヅの事だけど。あいつだって、何の考えも無しに勝負したりしてる訳じゃないし、あれに向かってく兵士にだっていろいろとある」

    ギルは組んでいた腕をほどき、訓練場の壁からその身を離した。

    「だけど、お前はただがむしゃらに剣を振っているようにしか思えない」

     ギルはリュウに近づく。そしてリュウの右肩にぽん、と手を置いた。

    「俺はお前が左手から逃げているようにしか思えない」

     リュウの右肩がびくんと動いた。微かではあったが、手を置いたギルには充分伝わった。

    「逃げることが目的。それもいいだろう。だけど、それじゃあ強くなんかなれない。と俺は思う。要は積極的に堂々と、だ」

     ギルは腰を低くし、リュウの目を覗く。何か、リュウの黒い瞳の奥に、何かが。何かがいるような印象をギルは受けた。やはりそんな簡単な問題ではなかったのか。

    「まあそんな簡単に強くなんかなれるはずないし、俺だってまだまだだ。たまに仕事から逃げてる俺が言えたことでもないしな」

     ギルは自分のサボり癖をネタにして、「ははは」と笑ってみせる。リュウもそれに少し反応したがまだ「左手から逃げている」という言葉に押しつぶされているのだろう、笑みとまではいかない反応だった。

    「うんうん。やっぱり難しいよな。だけど、逃げるのが良くないってのは誰でも分かることだ。……んん。でもやばいと思った時は逃げた方が良いぞ。……あれ。まあ、そうだな」

     自分で逃げるのはいけないと言っておきつつも、逃げることを肯定しているギルは誤魔化したように笑う。

    「ま、まあ。頑張れっ」

     ポンッ
     ギルはリュウの肩を叩くと、早足で訓練場の中へと消えていった。矛盾に収拾がつかなくなったので逃げたのだ。
     途中で逃げ出すほどにギルにとっては、軽い感じで行った説教だった。しかしリュウはそれを思いの外重く受け止めたようだ。
     しばらくの間、訓練場から少し離れたところで立ち止まり、どこか遠くを見つめていた。
  • 55 name id:qZdV3aK.

    2011-08-22(月) 00:03:26 [削除依頼]
     ****

     オレア城内は外から見たオレア城の白く清いイメージをそのままに映し出している。床は一面白の大理石、壁も一面白に塗装されている。所々にある窓からは太陽の光が入ってきているが、窓が金縁故に太陽の光を目だたなくしている。天井には、明るい光を作り出す豪華絢爛なシャンデリアが所狭しにつり下げられている。
     と、その中を明らかに煌びやかとは真反対な存在が城内の廊下を歩いていた。どうやら、その存在とは年端もいかない少年のようだ。その少年は、ぼろぼろな服を纏い背中には大きな大剣を担いでいる。ぼろぼろな布で作られた服は大理石と比べるとさらにぼろさが増している様に見える。
     城内は誰でも歩いて良いということにはなっているのだが、この少年は流石にやり過ぎているらしい。すれ違い様、警備の兵士や用事のあって連れてこられた市民、そして王族とその親類の者達に「なんだこいつは」というような視線を投げかけられている。
     しかし、そんな道行く人達の視線は気にしていないのか。その少年はふらふらとした足取りで城内を彷徨い続けていた。


     ―――あれ、ここはどこだ?
     ふと意識の戻ったリュウは周りを見渡す。先ほどまでずっと「左手から逃げている」について考えていたのである。意識を一旦外の世界に向けてみた途端、周りの景色が眩しいほどに真っ白で輝いていることに驚いた。「うわっ」と思い、思わず下に目を伏せるが、床までピカピカに輝いている。
     どこもかしこも、眩しい。そう結論を出したリュウはしばらくの間、目を細めながら、城の廊下を歩いた。
     その途中、自分があの大きい城の内部にいて。その城の内部は外観と同じでこんなにも大きく広く高く、そして眩しくて。それで自分はさっきまで考え事をしていたからここがどこだかよく分からない。ということをリュウは思い出したのである。
     とりあえず、ここの位置がどこなのかを把握しようと、先ほどから随分この長い広間(廊下)を歩いているリュウ。しかし、歩けど歩けど同じ広間が延々と続いているだけ。所々に扉はあるのだけれど開けてはいけない雰囲気を持っている物ばかりで、結局は広間がずっと続いているだけだ。
     はて、どこかにこの長い広間を脱する場所は無い物か。リュウがそう思っていると、突如長い広間の右側に曲がる道があった。
     「おっ」と思い近づいてみると、どうやらそれはどこかへと向かう渡り廊下らしい。とりあえず、リュウは何も代わり映えのない広間よりはこっちに進んでみたほうが何か進展があると思い、渡り廊下に踏み出した。
     渡り廊下では右側に窓がついており、そこから外を眺めることが出来た。窓から少し向こうをみると白い城壁が先の景色を見せまいと立ちふさがっている。どうやらここは城の中ではまだまだ低い位置にあるらしい。そういえば、あの高い高い物見櫓、天まで届かんとするあの物見櫓の頂上にはどうやっていくのだろうか。リュウはふと城に着いたときの事を思い出した。あの高い位置から人で溢れたオレアを見てみたい。子供ながらの好奇心であった。
     渡り廊下の先は少し薄暗かった。先ほどの広間とは違い石材で全てが形成されているからだろう。その薄暗い中に階段が堂々と構えている。その階段の行く先はどこか、と、上を見上げるとどこまでも高く螺旋状に天へと上っている。ぐわんぐわんとうねるその階段はリュウの好奇心をこれでもかという様に誘い込んだ。
    (多分この階段の先は、ものすごく高い場所だ。おそらくはあの物見櫓に辿り着く階段に違いない!)
     リュウは先ほど考え事をしていたのも忘れ、螺旋階段を2段飛ばしで駆け上がる。その先には、何が潜んでいるのかも知らずに。
  • 56 name id:hdRhs5G/

    2011-08-24(水) 23:30:13 [削除依頼]
    ****

     夕刻。涼しい風が少女の銀髪を揺らした。吹き抜けていく風はオレアの展望台を通り遙か彼方へと過ぎ去ってゆく。
     オレア展望台は円形の広間の様になっており人が充分に入れるスペースを持っている。しかし少女一人以外は誰もいないので寂しい雰囲気が展望台を包んでいる。それはどうやら少女も同じようだ。寂しそうな面持ちで、展望台の手すりに寄りかかり、眼下に広がるオレアの町並みを眺めている。
     少女、否、王女ルナはこの展望台をお気に入りの場所としていた。理由は、ここが誰にもとがめられることなく町並みを眺めることが出来るからである。オレア城内から、街を眺めることが可能なのはこの場所を含め数える程しかない、そして、この展望台は人々に忘れ去られたかのように、ただそびえ立っているだけである。これは王女ルナにとって好都合だった。まだ少女である王女は誰にもとがめられず自由に行動したいのが本当の思いなのだ。しかし、この場所以外で街を眺めていれば嫌でも人に目をつけられる。なので、王女は自由を求めこの展望台へと辿り着き、以来ここが自分の生活の大半を占める場所となったのである。
     そして生活の大半を占めるほどに王女は街を眺めるのが好きだった。こうやって風に吹かれながら、忘れられた場所で街を眺めているととてつもなく「自由」になれた気がする。時にはここで街を眺めながら、自分が王女に生まれなかった場合どの様な生活をしていたかを考えたりもする。
     しかし、今日。王女の頭の中は今まで考えたこともないような考え事で一杯になっていた。
     昼間の一件。いきなり現れた赤髪の少年に結婚を申し込まれたこと。今日はこれが王女ルナの頭の中を支配しているのであった。
     
    (一体何だったのだろう)

     ルナは眼下に広がる町並みを眺める。私があの男……少年を吹き飛ばしたのはおそらくあそこらへん。
     
     「はあ……」

     ルナはため息をついた。あのプロポーズはルナにとって意味不明の極地だが同時にルナの奥底に眠る何かを呼び起こそうとする物だった。結婚なんてものは当然未だしたくないし、そもそもあの少年とは初対面なのであって、だがしかし、あのプロポーズを受けた瞬間に少しだけ、何か私の中で変化があったのは確かだし、結局のところあの少年の行動から私が感じ取った物は……

     と、ルナが考え事をしている最中、それを妨げるかのように展望台の下の方から誰かの足音が聞こえてきた。誰かが階段を上ってこの展望台へ辿り着かんとしているらしい。
     ルナはそれに気がつき、はっと展望台の中央部分にある階段の出口を見つめる。この忘れ去られた展望台に人が来るなど、ルナがここに入り浸るようになってから初めての出来事だった。
     ルナはびくびく闇に包まれた階段の出口部分を見つめる。出てくるのは城の召使いかそれとも兵士か、はたまた観光気分でやってきた一般市民か。後者は無いに等しいかも知れない。
     階段の出口。薄暗い闇から人の頭が見え始める。ルナは闇から人が現れるのに少し恐怖を感じたが、ぎりぎり臆すことなく階段の出口を見つめていた。
     足音が次第に近づき階段の出口からその主なる物が現れた。
     現れたのは低身長の男だった。赤髪で背中には大剣を背中に担いでいる。何となく、どこかで見たことがあるような気がする。ルナはそう思ってその少年の次なる動向を探っていた。その少年は、階段を完全に上りきらない所で一旦顔を上げた。そして、ルナは少年と目があった。
  • 57 シガレット id:WYROK0B/

    2011-08-25(木) 08:00:46 [削除依頼]
    おお!気付いたら更新されている!!

    ここ最近見なかったから無くなったものだと
    思っていた。

    そして内容が深良い
  • 58 name id:RAZHEsI1

    2011-08-25(木) 08:47:43 [削除依頼]
    >57 コメントありがとうございます 最初の方は書きだめしてたので更新がスムーズにいってたのですが 最近はその書きだめが底をつき始めている状態でして…… 亀更新になるかと思いますが、頑張ってゆきたいと思う所存でございますです。
  • 59 name id:L1bSID30

    2011-08-26(金) 23:50:59 [削除依頼]
    「あっ!」

     ルナは思わず素っ頓狂な声を上げた。そうだ……この少年は間違いなく昼間の少年……。
     ルナと少年は目が合った状態のまま凍り付いた。
     そう、昼間の一件で振られた少年リュウと振った王女ルナの対面がこんなにも早く実現したのである。

     ルナは、一旦声を上げたはいい物の、その次とるべき動作が頭の中で見つけることが出来ず、ただひたすらに困惑した。
     とりあえず、人が来たことには驚いたのだが、その人が更に問題だったのである。
     ここで、ルナは何事もなかったかのように少年リュウを無視してまた街を眺め始めるのもありだろう。だがしかし、そうなるといきなり結婚を申し込んできた男に背を向けるのである。何をされるか分からない。そう、警戒の意でルナは固まっていた。リュウの方も昼間ビンタを放ってきた少女が目の前にいるので、ルナと同じ警戒の意で固まっていた。
     だが、両者この警戒の次に出てきたのは謝意だった。
    (思えば私はこの少年をビンタで吹き飛ばした挙げ句、気絶までさしてしまった。)
    (そうだ、僕はこの女の子にとてもイケナイようなことを言ってしまった気がする。いや……気がするではなくいってしまった)

     謝らなきゃ。

    「ごめんなさい!」
    「ごめん……ね?」

     両者、同時に頭を下げ同時に声を出した。ルナは驚いてリュウの方を見る。リュウも驚いてルナの方を見る。
     目の前の少年が赤い髪に包まれた頭を下げてきたことにルナはとてもほっとした。どうやらアブナイ人ではなかったようだ。安堵と同時にルナは少しおかしい気分だった。声が少年と本当に寸分の狂いもなく、ぴっったりと重なった事がすごくおかしかった。
     ルナは堪えきれずに笑い出した。すると驚いたことに少年リュウも同時に笑い始めたのである。
  • 60 name id:/sbKpJq.

    2011-08-29(月) 11:39:58 [削除依頼]
    「へえ。リュウって言うんだ。何か凄い名前だね」
     
     リュウとルナは先ほどの警戒を完全に吹き飛ばし、距離を離して柵に寄りかかりながら、一緒になってオレアの町並みを眺めている。

    「あ、私の名前はルナっていうの」

     ルナは自分が王女であることは告げずに名前だけを紹介する。
     実際、このときまだリュウは隣にいる少女がこの国の重要人物だとは思っていなかったのである。

    「……月」
    「そう。月」

     ルナは自分の名前が嫌いだった。
     この世界で月は"ルナ"とも呼ばれている。つまりは、自分の名前は月などという大層な意味を持つ物なのである。これはいかにも王族らしく、自分が自由になれないことを示しているように思えた。
     それに自分自身、月になんてなれやしないし月に近づくことさえ出来ない。私はただの王女なのであって、いや、それ以下を更に望む物であって「月」なんて、とてもじゃないが力が不足している。と、思っていた。

    「なんか、凄い名前だね」

     隣のリュウもルナと同じ感想を漏らした。

    「凄い。けど。何か嫌なんだ。ルナって言う名前……」
    「僕もなんだ」

     するとリュウも同調を示し、ルナの方を見つめた。

    「え?」
    「僕もさ、何か嫌なんだ。"リュウ"なんて僕が名乗れるような名前じゃない」

     リュウは視線をルナから柵の向こう側へと戻す。
     同じだ。とルナは思った。この隣にいる赤髪の少年も私と同じで、名前の重さに苦しんでいる。
     だがしかし。

     ルナはリュウを眺めてみた。髪が燃えるように赤い。真っ赤な赤。どこまでも赤い赤。そして深赤の髪に包まれた横顔はどことなく儚げで、だけど、逞しそうだった。
     それを見て、思わずルナは「結構似合ってるような気はするけど」と呟いた。

    「え? 僕が?」
    「うん、赤い髪なんて始めて見たから。竜の実物はまだ見たこと無い、というより一生見たくないけど、全身燃えるような赤をしているって聞いたことがあって。それで、君……じゃなくて、リュウの髪も燃えるような赤だったから……。ねえ、それって生まれつき?」

     ルナはもう一度彼の髪を見つめてみた。本当に燃えるように赤くて、触れれば火傷してしまいそうだ。
     赤い髪を始めて見たというのも本当で、城に訪れるたくさんの人々の中でそのような髪を持つ物は見たことが無かった。実際の所外に出てみれば赤い髪を持った人なんてそこら中にいるのかもしれない。だが、この赤髪はリュウの為だけに用意された赤だと、この時ルナは思った。
     
    「生まれつき。だけど髪だけじゃ竜にはほど遠いと思うよ」

     リュウは右手で燃える髪をかき回す。すると突然かき回している手を途中で止め、ルナの方を見た。
     ルナは一瞬ドキッとした。が、持ち直し、首を傾け「何?」という風にリュウを見つめ返した。

    「そういえば。君の髪も月みたいだ。ルナっていう名前にも納得できる」

     リュウは少し目を大きくしてルナの髪を見つめる。ルナは自身の長い髪を手に取ってみた。

    「すごい。透き通るような銀色だよ。本当に、うん本当に月みたいだ」
    「そ、そうかなあ」

     ルナは少し顔を赤らめ、自分の銀髪を眺めてみる。しかし途中でそれをやめ「でも髪だけじゃあ」と言って少し微笑んだ。ルナの手から離れた銀髪が宙になびいた。

    「髪だけじゃあ……か」

     そう言ってリュウはため息をつく。ルナもそれと同時に息を吐き出す。
     それすらも、ほぼ同時に、寸分の狂いもなく重なることに二人はいくらかの安心感を覚えた
  • 61 流星のジャコバン id:Hgt8Min1

    2011-08-29(月) 15:49:57 [削除依頼]
    即席評価に参りました、ジャコバンです☆
    ご依頼ありがとうございます。

    ふむ、ファンタジー作品としては面白みのある
    良作品だと思いますね。
    基本的な描写もできてますし、十分でしょう。

    ですが、文末の区切りが少し不自然です。
    確かに「〜だ」や「〜る」などが連発しないように
    リズム感を以て書こうとしているのは分かります。
    しかし、時制が混乱している箇所がいくつか
    見受けられました。
    過去の話なのか、現在の話なのかが不明瞭でした。
    また、セリフなどで印象的なのが「。」で止まって
    ばかりであることです。
    文法としては間違っていないのですが、あまりにも
    端的過ぎて、キャラの活き活きさが見られません。
    そこで、余韻を残したり、黙ってしまったりするのを
    表現するために、以下の表現を紹介しておきます。
    ・余韻を残す
     「――」のように“「―」ダッシュ”を用いて
     少しだけの間を置いてみる、という用法です。

    例:「あいつは――やられちまったんだよ」

    ・沈黙
     「……」を間に挟むor「――」で始める。

    例:「そんな……」
      「――どういうこと?」

    即席評価なのでここまでにしておきますが、
    他にも色々な表現方法があるので、実際の
    小説などを読んで、学んでみてください。

    結論として、そこそこ出来る作品ですね。
    ★★★★☆

    ご意見、不満等は当方スレにてどうぞ!
  • 62 name id:6JZ8/yw1

    2011-09-03(土) 17:22:18 [削除依頼]
    「そういえば。君はここで何をしていたの?」

     リュウが少し間の空いた空気を取り戻そうとルナに質問を投げかけた。

    「うーん。何……と言われても。――ただ街を眺めていただけかな」

     ルナは柵に体を預けて少し遠くを見つめた。街を眺めていたのは確かだけど、本当の所は考え事をしていたルナ。とりあえず、その考え事が「今隣にいる君のことについて」だなんて言えるはずもなかったので、どこか誤魔化した風に言葉を付け足す。

    「好きなんだ。この景色」

     ルナの視線の先に、すっかり小さくなった建築群が映る。人はもう人なのかどうかすら区別できないほどに、小さく点の様に映る。だけど実際、街を眺めるというよりは、この先の景色である街の向こう側の方がルナは好きだった。
     建物もまばらになった、街の端っこ。どこともつかない街の終わりだが、そこから先には深い緑の森が現れる。
     その深い深い緑を見るだけで、風に揺れる木のざわめきが聞こえてきたり、雨水を蓄えた、軟らかい土の匂いが香ってくる。
     その向こうを見やると霞のかかった山が見える。あそこを越えれば工業都グランデルタがあると、城の教師に教わった。

    「まるで世界全体を眺めているみたいだ」
     
     リュウが呟いた。

    「でしょ! 私訳あってお城から出られないんだけど。この場所はすごいんだ。本当に自由な気分になるの」
    「僕の住んでた村じゃこんな高い場所無かったから。なんか羨ましいな」
    「あれ? そういえばリュウはオレア出身じゃないの?」

     リュウは頷いた。そうか、それなら王女である私におそれず結婚を申し込んで来たのが分からないわけでもない。いや、それでも相当おかしなことだとは思うが。
     そうか、そういえばリュウの服装はオレアで、あまり見かけない格好だ。たまに城へやってくる旅人や商人なんかは、リュウのように、布一枚で体全体を覆うスタイルの服を纏っていたりする。
     
     リュウもそのような立場の人なのだろうか。
     
     旅人や商人というのは世界を渡り歩いている意味で、とてつもなく自由な存在だとルナは思う。旅人は目的に縛られ、商人は商売に縛られているが、世界を渡るなんて憧れの対象どころか尊敬の対象である。

    「じゃあさ、じゃあさ。どこに住んでたの?」

     ルナは好奇心に胸を膨らませリュウに訊ねる。
     オレアの属村とかかな。いや、それともやっぱオレアの外? もし魔法都から来たならどのレベルでもいいから魔法を見せて貰いたい。工業都から来たなら、珍しい工業品の一つでも見せて貰いたい。
     でも、やっぱり、この格好だと属村もしくは自然都から来たのかな……? 
     ルナは一瞬にして世界地図を頭の中に広げ、一瞬にして胸に好奇心を溜め込み、リュウの答えを待った。

    「リュウゾン。ていう村」

     リュウはルナの問いに少し、悲しそうな、というより寂しそうな面持ちで答えた。
  • 63 name id:ux2iV9H/

    2011-09-07(水) 22:09:02 [削除依頼]
     ―――ドコダソコハ。ルナは脳内の地図の中を、これでもかと探し尽くした。縮尺を変えたりして、世界の隅々までを調べた。
     これでもルナは、時期にこの国を任せられる身として、様々な教育を受けてきた。つもりだった。地理に関しては特にそうだった。
     この世界の7つの国はもちろん、村単位の地名まですべて暗記し、世界地図を頭にインプット出来るほどだった。
     だが、ルナの頭の中にリュウゾンという文字はどこにもなかった。どうしても見つからなかった。
     悩んでいるルナをみて、リュウは言った。

    「良かった。知らないんだね?」

     ――はあ?
     ルナは心の内で、すごくトーンの高いツッコミをかました。
     知らないことが、良いことなの? 
     例えば「僕の出身はどこそこです」と兵士が入隊試験の時に言ったとしよう。
     そしたら試験監が「どこだねそこは?」なんて、言って来ました。そしたら、その兵士は当然怒るはずである。内心で。
     だが、リュウは内心で怒ることもせず、更には知らないことに安堵しているのである。
     リュウは地元への愛着を全く持たないタイプなのだろうか。
     
    「知らない……けど。なんだか興味がわいてきたなあ。ねえ? その村ってどんな所なの?」

     どうせなら場所とかを詳しく聞いて、脳内地図を更新しようと画策するルナ。

    「え……と。山奥。かなあ」

     その答えに思わずルナは柵に掛けていた手をオレアの町並みへと放り投げた。心の中の自分が、バナナを踏んで頭から後ろにずっこけたのが分かった。
     
    「山奥ねえ……うん。山奥と来たかあ」
    「ごめんね」
    「いや、謝ることはないって」
    「でも、本当に無理なんだ。これは世界の秘密だから」

    「世界の……秘密?」

     ルナは放り出した手をそのままにリュウを見つめた。リュウは深く頷いた。口を真一文字に結んでいる。
     その頷きの深さたるや、自然都ユーバニアにある、世界一深い谷に匹敵するほどだった。
     世界の秘密。それが何なのかは気になるところではある。だが、リュウの頷きを簡単に崩すことは出来なさそうだ。と、ルナは思った。
     ならば、だ。

    「じゃあ、なんでこのオレアに来たの?」
  • 64 name id:KebwKJJ/

    2011-09-12(月) 22:45:46 [削除依頼]
    リュウは先ほどと同様、口を固く閉ざしている。

    「それも……ダメ?」

     リュウは首を横に振った。

    「力を。試しに来たんだ」
    「力?」
    「うん、力」
    「その大剣を使って?」

     ルナはリュウの背負っている大剣を指差す。
    「ああ」とリュウは、気づいたように背中の大剣の柄を握った。
     すると、次の瞬間。リュウは、まるで球を投げるかのようにその大剣を展望台の外へ向かって振るった。風を切り裂く音がした。
     振られた剣の切っ先は空へと向かって一直線に伸び、微動だにしない。

    「僕は左手が無いんだ」

     リュウは空へと突き出した大剣を元に戻した。
     ルナは驚いた。今の今まで気づかなかった事実。みると、確かにリュウの左袖は宙にふらふらと浮いている。

    「でも、僕はこの大きな剣を振る事が出来る」

     もう一度リュウは大剣を振った。今度はもっと強く風を切り裂く音がした。

    「でも」

     だが、剣の切っ先は少しぶれた気がした。

    「それが、逃げてる。ってことになるらしいんだ」
    「逃げる?」
    「うん、僕は良く分からなかった。というより、何かこのままじゃ一生分からない気もする」
    「ははは、何それ」

     ルナは笑った。

    「でもさ、いつかは分かるって」

     ルナはリュウの肩を叩くように言った。

    「そうかな?」
    「そうだよ」

     二人は、見つめ合った。展望台の遙か向こうには太陽が山の向こう側へと沈み掛けていた。しかし、太陽は最後の力を振り絞り、精一杯の力で二人を照らした。
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