Heaven/Hell8コメント

1 ナオ id:QSEOeCs1

2011-07-02(土) 08:33:13 [削除依頼]


天国と地獄。

ふたつの世界を生きた物語。


Heaven/Hell
  • 2 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 08:46:03 [削除依頼]

    ―第0章―

    天国へ昇った善人は地獄へ堕ちた悪人を嘲笑う。


    (裏切られるのがこんなにつらいなら)
    (もう、二度と誰かを信じたりはしない)
  • 3 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 08:58:23 [削除依頼]

    平等だ。なんて、一体誰が喋ったんだ。

    惨め、苦痛、絶望、無力。
    期待なんてとうの昔に忘れてしまった。

    今日という日を生きていられるのかもわからない。


    悔しさ、怒り、憎しみ、殺意。
    たとえ何を犠牲にしたとしても俺は必ず復讐してやる。


    どんなことをしても、引きずり降ろしてやる。


    同じ痛み味わえばいい。
    身を焼かれるほどの苦痛を味わえばいい。


    俺は憎い。


    父親と俺を捨て、天国へと逃げた母親の影。
  • 4 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 09:01:32 [削除依頼]

    ―第1章―

    天国で暮らす天使の笑顔は悪人の心を乱す。


    (笑いかけるな)
    (慣れない優しさに胸が痛んだ)
  • 5 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 09:22:39 [削除依頼]

    「俺を使ってください!何でもします!」

    プライドなんて掲げていたら死んでしまうだろう。
    それでも、汚い床に頭をこすりつける自分の無力さとか惨めさに胸が引き裂かれるような悔しさを感じる。
    自らを奴隷と称し、涙ほどの金を稼ぐのに必死になるのにはわけがあった。

    「小僧、そんなに働きたいなら家畜小屋の糞でも片せ」

    弾かれたように俺は立ち上がり、言われたとおり小屋へ向かった。


    ――死んでたまるか……。


    めまいがするほどの悪臭がする小屋の掃除に取り掛かる。
    痛ましい程(といっても俺と同じくらいだか)痩せこけた番犬が掃除をする俺に歯を剥く。
    風通しの悪い小屋の中は息苦しく、夏の気温のせいでほどんど蒸されるような状態だった。


    数時間後。
    やっとの思いで掃除を終え、主人に報告へ向かう。
    掃除に使っていたモップより細い脚で乾いた道を走った。

    「近づくな小僧。ひでぇ匂いだ」
    「すみません……掃除終えました」
    「はっ、時間がかかりすぎだ!クソが!」

    主人は唾を吐き、俺にボロボロの巾着を投げた。
    中には予想してた金額よりも少ないわずかな金が入っている。

    「とっとと帰(けぇ)れ」
    「はい!ありがとうございました!」

    過酷な労働と引き換えに得たパン2つ分の金。
    それでもこれで俺は3日間生き延びる事ができる。
    絶対に落とすまいと、サイズが合わずぶかぶかのズボンに巾着を結びつけた。
  • 6 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 09:41:27 [削除依頼]

    俺が住む「hell」は、国一番治安が悪いとされている地域(エリア)だ。
    その名前の通り地獄そのもの。
    強盗、放火、孤児、殺人……この地域の象徴。
    住人の大半は奴隷と前科者だった。
    ちなみに俺はそのどちらにも属している。

    一方で、隣の地域は「heaven」といいhellと真逆の世界だった。
    平和そのもの。犯罪率、失業率はほぼ0%に近く地域中が笑顔に溢れている。
    月末には祭りがおこなわれ、人々は宴を楽しんでいた。
    住人は資産家や国に貢献した人が大半を占める。

    二つの国の境に、「商いの地」というものがあった。

    豊かな地域に住むheavenの住人が、貧しいhellの住人に商品を売る地だった。
    そう聞くと素晴らしいシステムのようだが実際は違う。
    heavenの住人は商品に高い値をつけ、貧しい俺たちに売りつける。
    hellの地では作物はほとんど育たないから俺たちは買うよりほかに方法はない。
    金のない客は営業妨害とでも言わんばかりに店の前から叩きだされる。

    俺は今さっき手にした金とともに商いの地へ向かった。
  • 7 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 09:58:24 [削除依頼]

    「いらっしゃい」

    パン屋の前で立ち止まるとそう声をかけられた。
    ショーウィンドウに焼きたての湯気が立ち上る、柔らかそうなパンが並べられているところだった。
    俺は生唾を飲み込んだ。空腹感に胃が痛みだした。

    「さあ、どれもおいしいよ」

    hellでは絶対に見かけることのない、ふくよかなおばさんがそう俺に話しかける。
    ふっくらとした頬がその笑顔で盛り上がっている。

    ――落ち着け……騙されるな……。

    気づかれないように静かに深呼吸をして気を沈めた。
    これは一種の罠だ。heavenの奴らはhellの住人が笑顔に戸惑うことを知っている。
    俺らの気を緩ませ、高価なパンを買わせようとするんだ。
    俺はかすれた声でゆっくりとおばさんに言った。

    「一番安いパンを……この金で買えるだけください」

    小汚い巾着を差し出した。
    おばさんは一気に無表情になり、かすかに舌打ちをした。
    ビニール袋に小さく固そうなパンを2個ほど乱暴にいれ、投げるように俺に渡した。

    「買い物が済んだならとっとと帰りな」

    別のショーウィンドウにパンを並べている男が俺に叫んだ。
    急いで店から出て近くの木の陰に崩れ込んだ。
    ビニール袋に手を突っ込み、ほんのりと温かいパンを取りだした。
    2日ぶりの食事だった。ほおばってしまいたい欲望を抑え、1個の小さなパンをゆっくりと噛んだ。
    1個目を食べ終えると、袋に残っているもう1個のパンに誘惑される。

    ――食べちゃダメだ。

    これは父親の分だから。腹が減ってるのは俺だけじゃない。
    自分にそう言い聞かせ、ポケットにパンを突っ込む。
    ガリガリに痩せてるはずなのに、鉛のように重い体。
    少し休憩しようと、俺はそのまま気にもたれかかった。
  • 8 ナオ id:QSEOeCs1

    2011-07-02(土) 10:23:47 [削除依頼]

    「ねぇ」

    心地いい声がした。
    閉じていた瞼を開き、俺は声の主を確認した。

    目の前に、俺と同じ目線までしゃがみこんだ女がいた。
    年は同じくらい。健康そうな赤みがかった頬と、綺麗な茶色い目をしていた。
    そよ風に柔らかそうな黒い髪が少しなびいていた。

    「……何か用ですか」

    不思議とheavenの住人に俺は敬語になってしまう。
    思ったより冷たく聞こえたのか、女は少し戸惑っていた。
    無言で抱えていた袋から何かを取り出し、俺に差し出した。

    「あの……本当はダメって言われてるんだけど……」

    もごもごとはっきりしない口調で女は喋る。
    俺は差し出された何かを受け取った。

    「パン……?」

    女はコクリと頷いていった。

    「私、そこのパン屋の娘なんです。
     そのパン、自分で作ったんだけど食べきれなくて……。
     売り物にもできないし捨てるのはもったいないし……。
     お母さんはhellの人にあげたらダメっていたけど、
     私は誰かに食べてほしくて・・・・・その、えっと」

    上手く話せないのか、俺から完全に目を逸らして女は慌てていた。
    紙袋を開けると、甘いパンの匂いがした。

    「貰っていいのか」
    「……食べてくれる?」

    紙袋の中にはいろんなパンがたくさん入っていた。
    ひとつ手に取り、口にする。
    その動作を女はじっと見つめていた。

    「どう、かな」
    「……うまい」
    「本当?」

    本当にうまい。確かに店で売っているものよりは劣る部分もあるが、商品には感じられない温かさを感じた。
    胸に穏やかな何かが広がっていく感覚。
    俺は食べかけのパンを一気にほおばり、2個目を手にした。

    「えへへ……なんか嬉しいよ」

    笑い声に顔を向けると、女は目を細めて幸せそうな顔をしている。
    直感的に、こういうのが本当の笑顔なんだろうなと悟った。
    hellの奴らを利用しようとか、そう言った悪意が微塵もない純粋な表情。
    直視できずに、今度は俺が目を逸らしていた。
    なぜか動悸がした。胸のあたりに違和感があった。

    「また作ってあげるね」

    女はそう言い残し、パン屋に向かって駆けていった。
    数秒……いや、数時間かもしれない。
    取り残された俺はただ呆然と女の帰って言った方向を見つめていた。
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