ペン回しは永遠と164コメント

1 遙 id:8AucpU//

2011-06-13(月) 14:54:18 [削除依頼]
ほら、インクが切れてしまう前にさ

――
 その時男は締め切りに追われていた。
 男は世間で本を出せばたちまち飛ぶように売れるという小説家であり、究極の怠け者である。筆を走らせ始めたのは数時間前、つまりは締め切りの丁度一日前であった。
 担当からの電話はこの一時間鳴りっぱなしである。男は無視を決め込んでいたが、とうとう我慢できなくなったらしい。ペンを投げ捨て廊下へ向かう。

「――何! 俺は忙しいんだ分かってるだろ、文句なら後で聞くから!」
 
 乱雑な言葉遣いでまくしたて、男はすぐに電話を切ろうとしたが、担当ではない声の主が相手だと分かり、その手を止めた。「ああ、すまないな。また後で掛け直すか?」

 兄からの久々の電話で、男は自分に姪がいることを思い出した。
  • 145 遙 id:droN/ao0

    2011-08-21(日) 16:02:03 [削除依頼]
     そんな様子の彼女を気にも留めず、娘は話しだした。

    「私の名前はジェシカ・ロッドフォード。ロッドフォード公爵家が長女よ。貴女に依頼があるの――殺しではないのだけど」
     
     眼前で語るジェシカという娘は指を組み、彼女をしっかりと見つめた。

    「一年だけでいいの。とある屋敷で、私の代わりになってくださらないかしら。もちろん、報酬は弾むし……一年間、貴族の暮らしが堪能できるのよ。上手い話だと思わない?」
     
     娘の依頼は、彼女にとっていわゆる「二重契約」というものだった。娘の依頼を受理してしまった瞬間、今までの全てを裏切る事になる。学校には通っていない彼女だが、それだけは知っていた。彼女は腰のハンドガンにそっと手を伸ばす。
     断る、そう口にしようとした時、娘は彼女にとあるものを向けた。

    「殺し屋とかいう輩に命を狙われたのは、今日が初めてってわけじゃないのよ。このくらい、私が持っていても普通でしょう? ……素敵な表情ね、驚いたって顔に書いてあるみたいだわ」
  • 146 遙 id:1AUH75D.

    2011-08-22(月) 16:32:42 [削除依頼]
     娘は今までの妖.艶で美しい表情の裏を彼女に見せた。それは貴族という箱.庭で育ち人の血を見たことがないような娘から、想像できないようなものである。まるで――人を殺.し慣.れているような。彼女からしても娘の殺.気を正面から感じてしまい、背筋が凍るのが分かった。
     娘の手にすっぽりと収まっているのは、豪華な装飾が施された――しかし使用する際に影響しない程度だが――銀.色の銃だった。

    「その腰のものから手を離さないと、私、いつでも引.き金を引けるわ。あら、人の血を見て叫びあがるような教育なんて受けて無いわよ。むしろ、その逆」
     
     ぺろり、娘は真っ.赤な唇を舐.める。
  • 147 遙 id:1AUH75D.

    2011-08-22(月) 16:35:22 [削除依頼]
    「殺し屋に対抗する手段なんて、お金と教育でどうにかなっちゃうもんなのよ」
     
     彼女は臆することなく腰のハンドガンを手にする。が、手にした瞬間床に落としてしまった。手が異常に震え、物など持てる状態ではなかったのだ。

    「で、どうしますの? 私の依頼を受けるか、ここで死.ぬか」
     
     娘は引き金にゆっくりと手をかける。
     彼女にはこの仕事を始めてから、いや、生まれてきてから、組織のボスという絶対的存在に命を捧げる覚悟が出来ていた。仕事の失敗、それは死を意味するに等しい。ああ、死ぬんだ、あたし。その程度の気持ちしか浮かばなかったが――
     死.にたく、ない。
     ふいにその言葉が脳内を駆け巡る。何故だろうと彼女自身不思議に思った。こんな世界に何の未練も無いのに、むしろ死ねたら幸せだとずっと思ってきたのに、彼女は心から生きたいと願ってしまったのだ。

    「あたしの名前は、サラ。殺し屋だ。だがその仕事、引き受けよう」
     
     状況を無視した滑らかな言葉に、サラは自分自身が信じられないような心地に陥った。
    「分かったわ」サラの依頼主は案外あっさりと銃をしまい、何故かクローゼットの方へ歩き出した。しばらく眺めた後、数着のドレスと様々な化粧品を持ってくる。

    「貴女、私にそっくりだもの。ちょっとだけ整えれば、すぐに依頼はこなせるわ」
     
     素早い動きで娘はサラの姿を見違えるまでに変えた。彼女が自分だと認識できないほどだった。

    「そうね。あとはマナーとか……私の口調も真似てもらわないと困るわね。一週間くらい泊まっていったら? 歓迎するわ」
     
     娘は悪戯な笑みを浮かべる。サラは複雑な心境のまま、依頼のため、と頷いた。
  • 148 遙 id:1AUH75D.

    2011-08-22(月) 16:53:11 [削除依頼]
     その後、娘の言ったとおり貴族のマナーを徹底的に仕込まれたサラであったが、決して逃げ出すようなことはしなかった。依頼のためだと口では言っていたが、本当は彼女の居場所がもう無いからという理由からの行動だった。

     
     一週間後、娘の仕立てでサラは貴族界で生きていけるようまで成長した。この成長ぶりには教えた娘が一番驚いていたが、サラとしては何とも無い。殺しを覚えるより数十倍楽だったからだ。

    「そろそろ貴女には向こうの家に行ってもらわなきゃね」娘は淡々と述べ、クローゼットから数着のドレスを引き出した。そしてサラとドレスを見比べ、娘は青が多く使われたドレスを鞄に多少乱雑に入れる。
    「私はピンクが似合うと言われることが多いのだけど、貴女は青が似合うわ……とても。ああ、ドレスはプレゼントするわ。気にしないで」
     
     そして最後に装飾品を適当にあしらった娘は、クローゼットの中から娘の持っている中でも豪華な部類に入るドレスを、サラに直接渡す。

    「もう、自分一人で着れるんじゃないかしら。これで依頼料に足りるかしらね」
     
     ――プレゼントじゃないのか。
     内心そう突っ込みながらも、生まれて初めてとも言える女らしい服装に、彼女は少なからず心躍らせていた。
  • 149 遙 id:1AUH75D.

    2011-08-22(月) 17:05:08 [削除依頼]
    07./Goodbye, my favorite uncle.
     走馬灯のような長い夢から目が覚めた彼女は、現実を受け入れるのにしばし時間が必要だった。口内に滲む血の味が、残酷な運命を知らせようとしていた。

    「ああ、起きた? 待ってて、ブラッドレーを呼んでくるよ。あいつったら、まだ煙草を止めようとしないんだ」
     
     長身の童顔男――レオンは、まるで普段の何気ない会話のように笑顔を浮かべていた。その表情が、彼女の知っているかつてのレオン以上に狂っているということを感じさせる。この一年間で何があったのか――それは彼女自身がよく知っている。
    「起きたか」短く鋭い言葉を発したのは、かつての仲間、ブラッドレーだ。煙草を右手に、ゆっくりと煙を吐く。その煙が彼女の青い瞳に触れ、少女は顔をしかめる。

    「先程、ボスから正式なお前に関する判断が下された」
     
     ボス。彼女は心の底でブラッドレーの言葉を反芻する。未だ彼女の「絶対的な存在」であり、今の彼女の敵であった。不安と恐怖がこみ上げるが、彼女にはもう既に予想がついていた。

    「ボスは――お前の処分を望んでいる。そして俺たちは、逆らえない。分かるな」
     
     ああ――。
     当然の仕打ちなのだ、と自身でいくら理解していても、彼女の胸は自分の運命に逆らいたい思いでいっぱいになる。いくら生まれた世界が地獄のような場所でも、あの不器用で優しい男と出会えたのが仕事のうちだったとしても、彼女は世界を愛したいのだ。
  • 150 遙 id:1AUH75D.

    2011-08-22(月) 17:17:21 [削除依頼]
     かつての仲間の実力は知っている。彼女にも勝算が全く無い訳ではないのだが、腕を縛る紐でさえ解けないほど体力が落ち込でしまったため、彼女は動けない。
     レオンは腰のナイフを取り出し、彼女の心臓の辺りに向けた。

    「運命とは、実に残酷だね……また妹を殺さねばならないなんて、僕には死ぬに等しいほど辛いよ。嘘じゃないさ。君は僕と血のつながりはないけど、僕は君を本当の妹のように愛していた」
     
     優男の顔が、喜怒哀楽に分別されない新たな歪みを生み出した。彼女は男達に複雑な感情を抱きながらも、生きたいと必死に願い続けている。

    「生きたいのかい?」
     
     レオンの言葉に、彼女は体をびくんと震わせ、彼を見上げる。表情は全く変わっていなかったが、ナイフを持つ手が胸から次第に離れていった。ブラッドレーがナイフを持つ彼を背後から咎める。「お前、ボスに逆らう気――」
     彼は銃を構えるブラッドレーを手で制す。「ブラッドレーは黙ってて。これは僕ら兄妹の問題なんだよ」

    「お前の妹への執着を見ると、薬使って発狂した奴らのほうがまともな人間に思えるな」
     
     呆れた顔でブラッドレーは言うものの、彼は銃を懐へ仕舞った。「褒め言葉と受け取っておくよ。どうもありがとう」
     邪魔をされてしまったね、レオンは何でもないかのように呟いた。

    「君は、生きたいんだろう? 僕らを殺して逃げてしまいたいんだろうね――あの男のところへ。随分と笑っていたじゃないか、幸せそうに」
     
     でもね、とレオンは遠ざけたナイフを再度彼女の首に近づける。

    「サラにはあんな笑顔なんて似合わないよ。僕が前みたいに――笑わせてあげよう」
     
     レオンはゆっくりとゆっくりと彼女にその鋭利な刃物を近づけ、彼女の肌に触れたとき、真っ赤な液体がとうとうと流れ出した。鈍い痛みに彼女は顔をしかめる。

    「ぐ……はぁっ……ぁ」
  • 151 遙 id:R.jTKI30

    2011-08-23(火) 12:52:04 [削除依頼]
     時間が重なるごとに刃物は彼女の白い首から血を抉り出す。それに比例して、彼女の固く結んだ唇から苦痛の声が漏れ出した。その声は次第に増えていき――レオンの表情を明るくした。

    「なんだ、笑えるじゃないか! もうあの男に洗脳されて、無理かなとは思ってたんだけど……やっぱり、サラは僕の期待に背かなかった! 僕には勿体無いくらい素晴らしい妹だッ!」

     
     世界は彼女に苦痛を与えた。
     彼女はそれを運命だと割り切り耐え続けた。
     苦痛を味わった人こそ明るい幸せが待っている、そんな御伽噺を信じていたから。
     しかし世界は彼女に手を差し伸べない。
     だが彼女は信じる事を止めなかった。
     そして、いつの日か世界は彼女を見つけ出し――……、
     彼女に、精一杯の平和と幸せを与えた。

     
     扉の開く音がした。失血のため朦朧とする視界を必死に保ち、彼女は瞳の中に映る人物の名を、呼びなれた人物の名を、途切れ途切れに口にする。

    「お……叔父、さ……ま……!」
     
     人影は何気ない挨拶のように片手を上げた。
  • 152 遙/もしくは久遠寺ハル id:R.jTKI30

    2011-08-23(火) 13:06:38 [削除依頼]

     彼が最初に異変を感じたのは、夕食を作り終えてから彼女を呼んだときだ。普段ならばハイヒールを優雅に鳴らしやってくるのだが、今日に限り声はおろか足音すらデレクの耳には届かなかった。先ほどの自分ではないが、寝ているのだろうか――そんなことを考え、デレクはジェシカの部屋へ向かう。しかしベッドには睡眠をとったような後は無く、しばらく誰も入っていないような片付けようだった。
     次にデレクは応接間に向かった。そこで彼は衝撃的な景色を見ることになる。

    「……おいおい、何てこった」
     
     彼が目にしたのは、強引に開けられたと思われる窓と、食べかけにしか思えないカップケーキだけだった。だが、現状を理解するには十分な資料である。
     デレクは困ったように頭を掻き、しばし脳をフル回転させる。
     ――面倒なことになりそうだ。
     虚空を見つめ呟いた彼は、真っ先に二階へ上がりとある人物に連絡を取ろうとする。デレクは受話器に手を伸ばしたのだが、突然の鳴り止まない電話に手を止める。担当かはたまた編集長か、デレクは相手とその内容を想像したが、鳴り止みそうに無いので受話器を手に取り、家名を名乗る。相手は電話越しでも分かるくらいに焦っていた。

    「おい、デレクか!? 重大な問題が発生したんだよ、よく聞いてくれ」
  • 153 遙/もしくは久遠寺ハル id:R.jTKI30

    2011-08-23(火) 13:15:48 [削除依頼]
     相手はデレクの兄――つまりはジェシカの父からであった。兄は弟が知っている中でも一位を争うほど焦り、心配そうな声を出している。内容は殆ど理解していたつもりで、焦りたいのは彼本人なのだが、兄が口にしたのは突拍子な内容だった。


    「ジェシカは今、私の家――ロッドフォードの本家にいるんだよ!」

     
     彼は兄の言っていることを噛み砕くまでに一分ほど時間を要した。
     ――おい、待てよ。姪はあの日玄関を壊して堂々と入ってきたじゃないか。あの高飛車な口調で毎日話してきたじゃないか。パン屋にだって夜会にだって出かけたはずなのに。どうして奴が二人も存在する――?
     困惑し声すら出せない弟をよそに、焦った口調で兄は続ける。

    「驚かせてすまない。しかし、本当なんだよ。家には間違いなく私の娘がいるんだ。――余計な男と一緒にね。どうやらジェシカの恋人らしいが……っと、話が反れたな。娘には全て真実を話してもらった。今からよく聞いてくれ」
     
     デレクは唾を飲み、自分自身を落ち着かせようとする。

    「どうやら、君のところへ行ったのは、娘が依頼した影武者のようなんだ。素性は今調べている途中なんだが、殺し屋紛いの仕事をしている奴のようでね。十分に気をつけろ」
     
     兄の心配の度合いが焦りを超えた。彼は未だ迷っているようだったが、返事をする。

    「ああ、分かったよ――気をつける」
  • 154 遙/もしくは久遠寺ハル id:R.jTKI30

    2011-08-23(火) 13:25:56 [削除依頼]
     気をつける対象の居場所すら分からない彼だったが、その声には何ともいえない芯が通っていた。兄も頷き、出来るだけ調査を早く終わらせる、と力強く言い残し電話を切る。
     デレクは廊下の壁にもたれかかり、しばし状況を纏める。そして彼は何か思いついたように、再び電話に手を伸ばした。番号を暗記しているようで、その指は滑らかに番号を押していく。

    「おい、ゴードンか!? 俺だ、デレク・ロッドフォードだ!」
    「どうしたんで、旦那。そんなに慌てて」
     
     彼が電話をかけたのは、贔屓にしているパン屋だった。パン屋の店主はデレクの慌てた声に驚きながらも、冷静に対応する。デレクはゆっくりと息を吸い、吐いた。

    「今日はパン屋の親父に用がある訳じゃないんだよ……?アレ?、用意できるか?」
     
     電話先のゴードン・アディはヘッと得意げに鼻を鳴らした。

    「旦那が最近暴れなくて、正直儲からなくて困っていたんですよ。やっぱりパンだけじゃ余裕が無くて、新しい商品を入荷できなくてね。旦那の全盛期のならありますぜ」
     
     彼は今まで見せた事の無いような怪しげな笑みを浮かべ、答える。

    「そうだな、あるだけ頂戴するとしよう」
  • 155 遙/もしくは久遠寺ハル id:utsC/LQ/

    2011-08-25(木) 12:34:49 [削除依頼]

     片手をゆっくりと下げた人影は、傷だらけの彼女――サラの最も良く知る人物であった。しかし普段の気だるそうな雰囲気は全くといって無く、デレクであってもデレクでないような、心身ともに憔悴しきっているサラを混乱させるには十分なものである。

    「お前は……あの屋敷の」ブラッドレーが驚きを隠せぬ表情で呟く。そして素早く彼に銃口を向けた。
    「運が悪いものだ。普通の不良程度の奴らがコイツを誘拐したら、お前にも勝機はあったものの――俺たちを舐.めてもらっちゃあ困るね」
     
     逃げて、とサラは大声を出そうとするが、口が動くばかりで声が出せない。ヒューヒューと空気が洩れるだけだ。そこまで傷は深いのだろう。
     だがサラの心配をよそに、デレクは背の低いブラッドレーを見下しながら、あるものを取り出した。それを目にしたブラッドレーは更に驚き、言葉すら出ない。

    「こっちこそ、舐.めてもらっては困るんだ。俺を一端の馬鹿な貴族とお思いかい? 殺し屋さんよォ」
     
     彼が手にしているのは、ロッドフォード家の華やかな薔薇の家紋が刻まれた銃だった。サラが以前本家で見たようなものと少し似ているが、デレクの大きな手に合わせてデザインも多少変わっているようだった。彼は冷静に指を引き金にかける。

    「……今の貴族は、銃なんて物騒なものを持っているのか」
     
     ブラッドレーには予想外の出来事だったのだろう。冷静さを失い手が震えているのが、サラの目からもよく分かった。デレクはブラッドレーの表情を見てニヤリと笑い、質問に答える。

    「俺たちよりもっと上の奴らなら、わんさか武器を抱えてるだろうよ。このくらい、貴族のマナーのうちさ」
  • 156 遙/もしくは久遠寺ハル id:utsC/LQ/

    2011-08-25(木) 12:45:55 [削除依頼]
     おい、そこの、とデレクはサラにナイフを刺している男――レオンに声をかける。

    「その女を放せ。じゃないとコイツ、殺.すぞ」
     
     淡々と殺.人を予期させる言葉を吐く彼に、背中を見せたままレオンは応答する。こちらも随分と淡々としていた。

    「大丈夫だよ。そいつは君みたいな素人さんには殺.られないからさ」
     
     その瞬間だった。二つの弾丸が彼女の瞳にゆっくりと映る。上手く交差した弾丸は、一人の体を打ち抜いた。

    「――ッ!!」
     
     声を出さず叫ぶサラ。その表情を見て、レオンは更にナイフを奥に、しかしゆっくりと突き刺す。その顔は悦に浸っていた。

    「ああ、残念だね、サラ。どうやら君の大切な勇者さんは、魔王の相手にすらならなかったよ。……これで君も、もっと笑ってくれるかな」
     
     サラは俯き、返事をしなかった。にんまりと顔を歪めたレオンは二本目のナイフを腰から出し――たが、背後に人の気配を感じて手を止める。その人影はレオンのナイフをやすやすと奪い取った。

    「おい、何をするんだよブラッドレー――……!?」
     
     振り返ったレオンの顔色が一瞬で青ざめる。レオンの目の前に立っていたのは、彼が思っていた人物とはかけ離れていたからだ。

    「そうだ、まだ自己紹介をしていなかったな。俺の名前はデレク・ロッドフォード。死に土産にでも持っていけ」
     
     レオンの顔が驚きから恐怖へ変わったとき――彼はこの世にはいなかった。
     普段の表情とは打って変わり真面目なデレクは、小説書きが書くような出来事を一瞬にしてやってのけてしまった。出血と驚きで困惑するサラは、ゆっくりと眼前のデレクを見上げる。
  • 157 遙/もしくは久遠寺ハル id:utsC/LQ/

    2011-08-25(木) 12:52:25 [削除依頼]
    「……な、……ん、で……」
     
     掠れきった声で彼女は問う。ここまで来たということは、自分の正体も彼に知られている事だろうと思ったからだ。デレクは答えを拒むように顔をしかめる。心なしか、彼女にはデレクの頬が少し赤く染まったように見えた。
     彼は何も言わないまま、ポケットからハンカチを取り出しサラの首に巻きつける。サラの自由を奪っていた縄をナイフで切り、そして彼女をひょい、と軽く抱き上げた。

    「……帰るぞ」
     
     サラが閉じ込められていたのは古い倉庫だったらしい。デレクに助けられた後、夜明けの太陽に照らされながら、かつて自分を大事にしてくれていた二人の亡骸を遠くから見つめる。デレクはゆっくりと彼女を下ろし、事前に用意してあったのだろう、彼は木の陰に隠していた袋を取り、中身の物体に火をつけ放り投げた。数秒後に大きな音がサラの耳を通り抜ける。爆弾のようだった。
     そしてデレクは再び彼女を抱きかかえ、二人は一年間ずっと暮らしてきたあの屋敷へと帰っていったのであった。
  • 158 遙/もしくは久遠寺ハル id:utsC/LQ/

    2011-08-25(木) 12:56:51 [削除依頼]
    08,もしくは00./And……,
    「ほら、やっぱり貴女には白じゃなくて青が似合うのよ。全く、ウエディングドレスを白って決め付けたのは一体どこの誰かしらね」
     
     ピンク色の華やかなドレスを身にまとった少女――いや、女性は、ため息混じりに口を開く。「せめて髪飾りだけは青にさせて頂戴ね」と自前の青い薔薇のコサージュをバックから取り出し、座りながらなされるがままにされるもう一人の女性の髪に上手く飾る。
     これでいいわ、とジェシカ・ロッドフォードはその美しい見た目に反し、ウエディングドレスを着たサラの背中をバン、と叩く。

    「貴女が私より先に結婚するのは何か癪だけど、相手があの『変わり者』だったら仕方ないかもしれないわね」
     
     その場にいない自身の叔父にあたる人物を堂々と揶揄し、じゃあねと彼女は手を振り去っていった。

     その頃、向かいの部屋には実に不機嫌そうな男性が、白いタキシードを着こなしていた。隣では男性と面影が似たもう一人の男性が、嬉しそうに彼の肩を叩いている。

    「いやあ、まさかデレクがあの子と結婚するなんてねえ! もう三十近いから一生結婚しないままだと思ってたよ私は! これで私も安心できる!」
    「……金払うから黙ってくれないか」
     
     冷たい弟の言葉に、兄はしばしうなだれる。「相変わらず君はつれないなあ」しかし、言葉の反面嬉しそうでもあった。

    「ああ、そういえば、サラちゃんの元へは行かないのかい? 今頃ドレスも着終わっていると思うし」
     
     本当ならここで向かいの部屋で妻の姿を見るのが通例だが、姪に「変わり者」と称されたデレク・ロッドフォードは断った。

    「いや、いい。後で」
     
     ふうん、と兄は子供のように呟いた。そして腕時計を確認する。

    「そろそろ時間だよ。私は客席の方にいるから、何かあったら気兼ねなく言ってくれ」
     
     先ほどとは打って違う雰囲気で、まるで保護者のように言い残し、兄はデレクの部屋を出て行った。彼も立ち上がり、指定された場所へ向かう。そこには既にサラの姿があった。純白のドレスに身を包んだ彼女は、普段にも増してデレクの瞳には綺麗に見えた。

    「私が四年前に見立てた服の方が似合うわね、デレクさん」
     
     四年前やってきた高飛車な口調は未だ抜けず、上から目線でサラは彼の服装を批評した。しかし彼は、彼女が照れ隠しに言っているのを知っている。

    「兄貴に言え、俺が選んだんじゃない」
     
     そう? サラは悪戯に笑う。二人はお互いに手を組み、祝福の声で溢れる方へ歩いていった。

                                 Fin.
  • 159 遙/もしくは久遠寺ハル id:utsC/LQ/

    2011-08-25(木) 13:06:40 [削除依頼]
    ――
    後書きと堂々といえるようなものではありませんが、ちょっとスペースお借りします。
    「ペン回しは永遠と」これにて完結です。温かいコメントを下さった皆様、そしてここまで読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。
    正直私も100を超えることはないだろうなあと思いながら書いていた作品なので、このレス数には驚きです。生まれて初めて原稿用紙100枚突破しました!←
    もともとファンタジー畑の人間なもので、今回このような話が書けて本当に楽しかったです。最後の方なんかNGワード続出で余計な点がたくさんあって凄く読みづらいと思います、すいません;

    これ以外は小説板にスレを立てていませんが、これからもキャスの端っこの方で細々と活動出来たらなあ、と思います。ありがとうございました!
  • 160 悠飛 id:UfbMu76/

    2011-08-26(金) 13:05:47 [削除依頼]
    最後まで楽しませてくれる小説、ありがとうございました!! 最初は”ほのぼのしたまま完結するのかな”と思っていたのですが、 >124くらいから話がぐぐっと深くなって、良い意味で裏切られました^^ ラストは驚かされました!本当に毎日更新を楽しみにしていました。 もう読めなくなるのは寂しいですが、是非次回作も期待しています! ありがとうございました!!
  • 161 遙 id:5AIlkLa/

    2011-08-26(金) 16:27:24 [削除依頼]
    悠飛さま
    素敵なコメントありがとうございます!
    このラストの形にするのは少し迷ったんですが、そう言って頂けてとても有難いです。
    嬉しい言葉ばかりで本当に感激です。こちらこそ、最後まで読んで頂きどうもありがとうございました!
  • 162 遙/もしくは久遠寺ハル id:cQ7ylZK1

    2011-08-27(土) 13:27:13 [削除依頼]
    軽くまとめてみました。一気読みはこちらでb ご挨拶 >>2 01./He had a niece. >>5+8+14+19+22+25-26+29-33 02./Niece is no ordinary girl. >>34-37+40+43+46+49-51 03./Niece uncle knew the world more. >>52-57+59-60+63+64+67-70+73 04./Shy niece was unusual. >>74-78+81-90+93-99 05./Niece knew a different world. >>100-103+106-123 5.5,表/Knowledge accumulated in secret. >>124-127 5.5,裏/Accumulated debris lie. >>128 06./World and her movement, tells the end of a peaceful time. >>129-137 6.5,過去/In a dark world. >>138-139 6.5,約一年前/Disagree fate. >>140-148 07./Goodbye, my favorite uncle. >>149-157 後書き(?) >>159
  • 163 夢羽 id:tM/I5ng0

    2012-02-03(金) 23:59:10 [削除依頼]

    はじめましてですかね。むうです。
    完結おめでとうございます! もう遅いかなw

    ジェシカちゃん、もといサラちゃんが好きです、可愛い。
    デレクさんとの関係、会話がとっても素敵で、描写もわかいやすくて勉強になりました。
    やっぱりファンタジーっていいですね。わくわくがいっぱいで楽しいです^^

    最後はびっくりしました。まさか結婚!
    末長く幸せになって欲しいと思いましたばかやろう←
    最後のデレクさんの皮肉めいた発言、胸にずっきゅんときましたw
    なにわともあれ、執筆お疲れさまでした。
  • 164 桐生遙 id:TIX1EAO.

    2012-02-04(土) 16:36:01 [削除依頼]
    夢羽さま
    こちらこそ初めまして、桐生遙と申します。
    久しぶりに上がっていたので驚きまし((げふんげふん
    どうもありがとうございます^^

    ジェシカ(サラ)ちゃん可愛いですよね←
    初めて読者さまを意識した作品だったので、そう言って頂けて本当に嬉しいです。

    そうですまさかの結婚((
    この作品には2パターンほど結末を考えていたのですが、ベタ甘ラブな私はどうしてもこうしたくて//黙れ
    読んで下さっただけでもありがたいのに、こんなにも丁寧な感想まで頂いて嬉しい限りです。
    コメント、どうもありがとうございました!
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