ひとめこぼれ10コメント

1 小由 id:6nHMXMU.

2011-06-13(月) 03:38:31 [削除依頼]

現実が妄想を超えたときに生じる感情をわたしはまだうまく整理しきれないんですよ。んっと、たとえば考えていたよりずっとずっと綺麗な景色だったとか、男だと思っていた人が女だったとか。好きな人が思っていたより優しかったとか、あれ? これなんか昔の歌にありませんでしたっけ? まぁ、そんなことはどうでもいいんです。とにかくそういう、自分が想像していたよりも遥か上をいっていたとか、むしろまったくもって違うものだったってときのことです。驚いたとか仰天したとか、そんなんじゃなくてもっとこう――もっとこうすごいんです、そういうときの感情って。だってありえないことが起きるってことなんですよ。まぁ自分にとってだけですけど、他の人とはきっと共有できませんよ。他の人とはそれは無理な話ですよ。その人は知ってるけどわたしは知らないってだけなんですから。いや、そういう場合もあるってことですよ。これもただのたとえなんです言ってみれば。ほら、今みたいに整理できなくなるんですよ。言葉にすればするほど訳がわからなくなっていくんです。わたし、言葉のボキャブラリーが足りないんですかね? それだったら話は変わってくるんですけど、でもそれでも変わらないかもしれませんね。結局のところわたしの中の問題なんですから、わたしがそうだと思えばそうなってしまいます。だからわたし、それらをまとめて一目ぼれって呼ぶことにしてるんです。なんでかよくわからないんですけどそうしてるんです。他にも色々あったんですけどね、なんとなくそうしてみたかったんです。だからあなたをすきなのもこの一目ぼれのせいなんです。すきです。一目ぼれのせいだとしても、すきです。あれ、また訳のわからないことになってきたみたいです。すきです。なにがどうなっているんでしょうか。まったくもって言いたいことがきちんと言えた気がしないんですけどすきです。言葉として整理できないものはどうやって相手に伝えればいいんでしょう。まぁ死ぬほど理解してほしい相手なんて特にいないんです。あ、一人いました。すきです。
  • 2 小由 id:6nHMXMU.

    2011-06-13(月) 03:40:18 [削除依頼]

    私は焦点の定まらない目で瀬野さんを見ながら呂律のまわらない口で、遠まわりに遠まわりを重ねていつの間にかそんなことを言っていた。グラスの中の氷が、からんと音をたててハイボールの海に沈んだ。瀬野さんはそれをじっと見つめて、表面に浮き出ている水滴を下から上へすくうように撫でる。私の焦点は未だに定まらない。定まりたくないとでも言いたげに、正面の触りたくてたまらない彼の癖っ毛の上で、ぼやぼや宙を漂う。あれだけ騒がしかった店内の雑音が、まるで鼓膜に薄いビニール袋でも被せたかのように、一歩遠のいた場所に移動していた。瀬野さんは何も言わない。何も言わないどころか、何かを言う気配がない。今ならなんでも聞き取れる自信があるのに、彼は何かを言う気にもなっていない。どんなに小さくてもどんなに短くても、今の私ならこの瞬間なら一文字を聞き逃さずに、しっかりと鉛筆で文字に起こせるはずなのに。そう考えていると自身のやるせなさでふいに目頭が熱くなってきたので、ちょっと、と言って席を立った。
  • 3 笹 id:efQIJxU1

    2011-06-14(火) 23:47:02 [削除依頼]
    はじめまして。
    私はこの小説にひとめぼれしました*
    がんばってくださいっ!
  • 4 小由 id:NtXoVn/1

    2011-06-26(日) 01:46:40 [削除依頼]
    >笹さん
    はじめまして
    ひとめぼれ、なんてとんでもない!
    更新激遅ですが、よろしくお願いします
  • 5 小由 id:NtXoVn/1

    2011-06-26(日) 01:50:24 [削除依頼]

    向かった先のトイレでは、個室の前に四十代くらいのおばさんが立っていて、携帯越しの相手に「死ね」だとか「黙れ」と物騒な言葉を連発していた。私はその様子を、鏡越しで確認しながら、かばんから化粧ポーチを取り出し、滲んだ目尻のアイラインを直す。ふらつく足を床に無理やり押し付けて、ぼやけた視界でなんとか直し終えた。先ほどの瀬野さんの顔を思い出して、どうしてここまで必死になって、自分は化粧を直しているのかと自己嫌悪に限りなく近い自問自答をしてみても、鈍ったままの鼓膜を、微かに揺らすおばさんと通話相手の口論が、それをうやむやにさせた。
  • 6 小由 id:NtXoVn/1

    2011-06-26(日) 01:52:54 [削除依頼]

    おばさんを一瞥して、化粧ポーチをかばんに押し込む。その拍子に、マスカラが床に転がり落ちた。転がった先には喧嘩中のおばさんがいて、おばさんも同じように足元に落ちているマスカラの転がってきた先を辿って、私の存在に初めて気づいた。トイレに入ってきてから、絶え間なく続いていた罵詈雑言は、おばさんと私の目が合ったと同時に消えていた。自分の存在が認識されて、そのことで配慮をされてしまったのだ。さっきまでの状況とはうって変わって、ここは二人の赤の他人が、共存する空間になってしまった。私からしてみれば元々そうだったのだけれど、おばさんからしてみたら、一人の孤立した空間で、その様子を外部からなんの感情も抱かず眺めていたのが私で、その関係が今、たった一本の使い古されたマスカラによってぶち壊れてしまった。携帯片手に足元の落し物を拾おうとおばさんが体をかがめたとき、私は逃げ出すように、さっき逃げ出した場所へ早足で戻った。呆気にとられるおばさんの表情を想像して、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。それがおばさんへのものなのか、目の前の瀬野さんに対するものなのかは判別がつかなかった。
  • 7 小由 id:NtXoVn/1

    2011-06-26(日) 23:41:31 [削除依頼]

    席に戻ると、瀬野さんは伝票を眺めていた。
    「――あの、もう出ますか?」
     少し余裕の出てきた私は、そんなことを訊ねる。
    「そうですね。あ、でも春乃さんがいたかったらまだ――」
     瀬野さんがそう言いかけた途端、店員が威勢の良い声でウーロンハイをテーブルへと運んできた。置かれたグラスが木製のテーブルと奏でた音の後に続いて、店内のカラフルな音が鼓膜に舞い戻ってきた。彼氏に抱きついて猫なで声で甘える女性や、歌っているのか怒鳴っているのか、境界線のなくなった声を張り上げるおやじ達。さまざまな種類の音が店の中で重なりあって、それは私と瀬野さんの静寂な雰囲気を、いっそう際立たせているような気がした。
  • 8 小由 id:NtXoVn/1

    2011-06-26(日) 23:44:33 [削除依頼]

    注文したことをすっかり忘れていたウーロンハイを右手で持ち上げて、すみませんと謝ってぐびぐび喉に押し込む。瀬野さんはその姿を見ながら、飲むことを放棄された目の前のグラスの水滴を、また人差し指と中指の腹で撫であげた。気づけばグラスの中は、広大なハイボールの海と化していた。レモンの船はもう手遅れな深い深い底へ沈んでいて、瀬野さんが水滴を撫でるたび、私はなんだか急かされている気分になって、喉に流し込む速度を速めると、ウーロンハイが気管に入ってむせた。にこやかに微笑む瀬野さんは、
    「そんなに慌てて飲まなくても大丈夫ですよ」
    と、私に優しく言ってくれたが逆にそれが申し訳なさを煽った。飲み続けながら、この人はわざとそんなことを言ったんじゃないかと思った。早く帰りたくて、すべて計算でやっているんじゃないかと思うほど、彼の行動ひとつひとつが、その後すべてそんな企てに見えてしかたがなかった。
  • 9 小由 id:ySk1ERo/

    2011-06-27(月) 16:48:19 [削除依頼]


    ウーロンハイを飲み干し、店員を呼んでお会計を頼んだ。二軒目だったのでそんなに高くはなかったけれど、一軒目もおごってもらっていたので悪いと思い、かばんを探っていたら、瀬野さんはてきぱきとした動作で、支払いを終えてしまった。ウーロンハイの件に続き、さらに申し訳ない気持ちで店を出る。思っていたよりふらつきの激しい私の両足は、ヒールを必要以上に大きく鳴らした。駅へ歩く道中で何度もかけられた、大丈夫ですか? の瀬野さんの問いかけに、ただただ私は笑って頷いた。内心、どう考えても大丈夫な状態ではなかった。許されるのであれば、今すぐにでも、横で心配の声をかけてくれるこの男の腕につかまってしまいたかった。それが素直にできなかったのは、どうしようもない不純な考えを、脳内から打ち消すことができなかったからだ。彼に触れたら最後、私は何をしてしまうかわからない。今日は、そんな確信があった。
  • 10 小由 id:ySk1ERo/

    2011-06-27(月) 22:43:24 [削除依頼]


    「ほんとに大丈夫ですか? タクシー呼びましょうか?」
    「あ、いえ。ほんとに大丈夫ですから」
    「そうですか。それにしても、今日は春乃さん、ちょっと飲みすぎましたね」
    「すみません。ご迷惑をおかけしました」
    「べつに迷惑じゃないですけど。何かありました?」
    「――何かって、なんですか?」
    「いや、それは僕にもわからないんですけど」
    「社交辞令ってやつですよそれ。瀬野さん、そういうの下手くそなんですから、無理にしないほうがいいですよ」
    「あはは」
    「あ、わすれもの」
    その一言で、私たちは来た道を引き返すことになった。忘れ物はしていない。忘れ物なんてしているわけもない。でも、出てきてしまった言葉は嘘ではない。瀬野さんの社交辞令並みに下手な嘘に見えたかもしれないけれど、これは私にとって本当の意味でしかなかった。だからなんの躊躇もなく店に戻ったが、店内に入ってみると、忘れ物なんてないことを改めて思い知るだけだった。外で待っている瀬野さんの元へ駆け寄り、なくなってたと嘘をつく。困ったように笑うから、私は何事もなかったみたいに明るく笑ってあげた。実際、何事もなかったのだから。でも本当に、何事もなかったのだろうか。私は何を忘れてきたのだろう。
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