懸想のかけ違え(けそう の かけたがえ)9コメント

1 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

2011-06-12(日) 22:11:36 [削除依頼]
序章『亡妻の弟』

 ゆるい坂道を登りながら、ふと視線を右の方へと向ける。生い茂る竹林が、吹く風に揺れてざわざわと音を立てており、その上には薄墨(うすずみ)を刷(は)いたかのような逢魔(おうま)の空が広がっていた。
 
 午後六時を少し過ぎたころの、初夏の空である。
  • 2 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

    2011-06-12(日) 22:14:51 [削除依頼]
    こんばんは。はじめまして、あぬびすわんこです。

    この作品は、なんとBL作品になります。お恥ずかしいですね……////
    でも、年齢制限にふれるような描写はないと思います。

    舞台は大正時代のはじめころ、妻を亡くしたばかりの大学教授と、妻の弟である大学生の切ない恋物語です。
    どうぞ、おつきあいくだされば嬉しいです。
  • 3 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

    2011-06-12(日) 22:30:05 [削除依頼]
    >>1  ああ、ずいぶんと日も長くなったのだな、と思いながら、薄暮(はくぼ)に心地よく包まれて歩む。孟宗竹(もうそうちく)の根元では、淡い紫色の和紙をちぎってこしらえたかのような、シャガの花が可憐に咲いていた。この坂道を登り切ったところ、そして竹林の終わるところには、私の住まいがあるのである。  やがて坂道は尽き、古びた門扉(もんぴ)とその上でやわらかに光を放つ電燈(でんとう)が私を迎える。白熱電球の回りでは、蛾や小さな虫どもが飛び交い、ときおりガラス管球にぶつかって、ぢんぢん、とあわれな音をあげていた。その門をくぐり、三つの飛び石を踏んでいくと、私は慣れ親しんだ玄関の戸をがらりと引き開けた。
  • 4 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

    2011-06-12(日) 22:42:31 [削除依頼]
    >>3 「お帰りなさいませ」  出迎えに現れた者に「ああ、ただいま」と返事をすると同時に、さっと伸ばされたその手に革鞄を渡す。靴を脱いだ足を上がり框(あがりがまち)に置くと「今日はいかがでしたか」と、先ほどの声が私に問うた。 「いや、これといって何もなかったよ。いつも通りだね」  薄い口髭(くちひげ)をなでながら返し、私は声の主の顔も見ないまま床の間へと向かっていく。それでもその人物は私の後をおとなしく着いてくるようで、その静かだが確かな気配が、じん、と背中に伝わってきた。
  • 5 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

    2011-06-12(日) 23:01:22 [削除依頼]
    >>5  薄暗い床の間に入り、むせかえるような花の匂いを感じながら黙って仏壇(ぶつだん)の前に座る。床に置いてあるマッチ箱を取り上げ、赤燐(せきリン)マッチを一本擦る。つん、と鼻を突く燐(リン)の臭いをかぎつつ、揺らめく赤を線香にともした。マッチを持った手をふって火を消すと、周囲はふたたび薄墨(うすずみ)に沈んでいった。 「ただいま、百合枝(ゆりえ)」  私はしばらく黙祷(もくとう)したあと、真新しい位牌(いはい)に向かってそうささやいた。そこにはいつまで経っても慣れぬ法名(ほうみょう)が金字で記されていたが、それは亡き妻の戒名(かいみょう)なのである。  お前がいなくなって、もうそろそろ一年が経つのだね――胸の中でつぶやきながら、鈴(りん)を打つと、チィーンと涼やかな音が鳴った。花立て(はなたて)を見ると、そこには花粉をぬぐった白百合が、闇に浮かぶように生けてあり、花の匂いの正体は、やはりこれであったのだと知る。私はずっと背後に控えていた人物に向かって、にこりとほほえんでやった。 「この花は、君が? 妻の……百合枝の愛した花だったね」 「ええ。姉さんのいっとう好きだった花は、しっかり覚えていますよ、義兄(にい)さん」 ――そうなのだ、先ほどからまるで貞淑(ていしゅく)な妻のようにふるまっていたこの人物は、私の亡き妻の実弟なのである。妻が逝ってから半年が経ったある冬の日、彼は唐突に我が家へやってきた。八年前にただ一度、交わしたきりの情愛をよすがに!
  • 6 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

    2011-06-12(日) 23:17:18 [削除依頼]
    ふう、疲れました。ちょっとだけ登場人物の紹介をしますね。

    ・鏑木 禮仁郎(かぶらき れいじろう)
     43歳。ドイツ語の大学教授。
     身長は163cmと少し小柄で、やせ形。
     やさしく品のある顔立ちで、整った口髭を薄くたくわえている。

    ・草津 久一(くさづ きゅういち)
     25歳。(禮仁郎とは違う大学の)大学生。休学中であり、失踪中である。
     身長は179cmと当時としては大男。筋肉質のがっしりとした体つき。
     目鼻立ちのはっきりした美丈夫。

    ・鏑木 百合枝(かぶらき ゆりえ)
     35歳(享年)。久一の姉。1918年のスペイン風邪で死去。
     ほっそりとした美人。でも顔は久一とよく似ている。
     病弱だったため、なかなか嫁のもらい手がなかったが、27歳のときに、禮仁郎と結婚する。
  • 7 あぬびすわんこ id:yzi8Dmq.

    2011-06-12(日) 23:26:09 [削除依頼]
    「懸想のかけ違え」は、これからまだまだ続きます。

    男の人も読めるBLを、と思って書いているのですが、いかがでしょうか///
    ご感想、ご意見などあればとても嬉しいです。

    ちなみに、タイトルの「懸想(けそう)」とは、「恋し、思うこと」という意味です。
    姉の夫である禮仁郎さんに惚れてしまった久一くん、そして八年前に一夜だけ、義理の甥と体を重ねてしまった禮仁郎さん。
    最後にもう亡くなってしまった美しい女性、百合枝さん。

    どこかかけ違えてしまった彼らの恋は、いったいどう続くのでしょう。
    書いている本人も、ちょっとどきどきしています。
  • 8 あぬびすわんこ id:dcnjo.f.

    2011-06-14(火) 20:20:37 [削除依頼]
    >>5 第一章『浜辺の徒花(はまべ の あだばな)』  私、鏑木禮仁郎(かぶらき れいじろう)と彼の出会いは十年前にさかのぼる。のちに私の妻となった女性から、歳の離れた弟だと紹介されたのが彼だった。当時まだ十五だった彼は、背ばかりがひゅるひゅると伸びる年のころで、薄い脂肪としなやかな筋肉が骨にぴたりと張りついた、どこか頼りなげな風貌をしていた。しかしその眸(め)に宿る光はひどく鋭く、三十路(みそじ)を越えたはずの私でさえ、少々気圧(けお)されてしまったのを覚えている。草津久一(くさづ きゅういち)とはそういう少年だった。 「禮仁郎さん、わたくしの弟のことですが、あの子は父が後添(のちぞ)えにいただいた方との間にもうけた子なんですの。わたくしと兄は同じ母から生まれたのですが、久一だけ違うのです。そのことを、どうか心のすみに留め置いてくださいましね」  久一君と初めて対面する前、彼の姉である百合枝(ゆりえ)は私にそう言いふくめた。二十五歳と初婚にしては薹(とう)が立っていた彼女ではあったが、ほっそりとしたその姿は十代だと言っても差し支えがなく、私はよくこの美しい許嫁(いいなづけ)に見とれていたのである。百合枝の話を聞いているふりをして、その顔をまじまじと眺め楽しんでいることが、当時の私にはままあった。だからそのときの彼女の言葉も、後になって思い出すことがなければそのまま忘れてしまったに違いない。
  • 9 あぬびすわんこ id:dcnjo.f.

    2011-06-14(火) 20:27:08 [削除依頼]
    ここから、禮仁郎さんと久一くんの回想に入ります。

    「徒花(あだばな)」というのは、実を結ばないがひどく美しい花、という意味をこめて。
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