海色のキミへ10コメント

1 紫苑 id:jFtLVVY1

2011-06-04(土) 12:29:16 [削除依頼]
登場人物

桐谷 風太 -キリヤ フウタ-

江南中三年二組の学級委員。
明るくて屈託のないクラスの人気者。
海の写真を撮ることが趣味。

湊 鈴蘭 -ミナト スズラン-

江南中に時々現れる謎の少女。
帽子を深くかぶっているため
よく少年に間違えられてしまうらしい。
  • 2 紫苑 id:jFtLVVY1

    2011-06-04(土) 12:53:48 [削除依頼]
    「おい…あれ誰だ?」

    昼休みの熱気に包まれた三年二組。

    その中で ふと窓の外へ目をやった
    一人の男子生徒が突然声を上げた。

    その一言で 教室にいた他の生徒達も
    一斉に窓から身を乗り出す。
    何だ何だと口々に言い出した。

    市立江南中学校は
    広く横たわる白鳥灘のすぐ脇に
    孤立するように建てられている。

    辺りには 白く光る海面の他には
    海と陸の境界として伸びる堤防や
    なだらかな田園などしかない。

    自然豊かでのどかなところだが
    いささか中学生には
    退屈すぎる田舎だった。

    だから生徒達の視線は
    自然と一つのものに集中した。

    海と平行して伸びている
    段の高い堤防の上を
    何の気なしに歩く人の姿。

    校舎の窓からさほど遠くないため
    その人物が子供だということは
    生徒の全員が理解できた。

    年頃は 中学生くらい。
    ビーチサンダルを
    ぺたぺた鳴らしながら
    まるで飛ぶように軽く跳ねて歩く。

    赤いショートパンツに
    白いノースリーブのシャツが
    綺麗に映えて見えた。
  • 3 紫苑 id:jFtLVVY1

    2011-06-04(土) 13:03:33 [削除依頼]
    青色の帽子を深くかぶっているせいで
    顔がよく見えない。
    短い黒髪だけが帽子から覗いている。

    パンツとシャツからすらりと伸びる
    長くて細い手足は色白で
    その人物が地元の者ではないことを
    無言で語っていた。

    「あの子 誰?」
    「ここの生徒じゃないの?」
    「でも制服着てないじゃん」
    「ってかあんな子 見たことないよ」
    「ここら子供少ないもんねー」

    生徒達の一部では
    そんな言葉が交わされ始める。

    過疎化のせいで子供や若い人が
    少なくなってきているここらの地域では
    学校といえばこの江南中か
    隣町にある小学校しかない。

    少年らしいその人物は
    たしかにかなり小柄ではあったが
    とても小学生には見えなかった。

    そのうえ 隣町からここまでは
    バスでも1時間以上かかる。

    だから滅多なことがない限り
    隣町の子供がこちらに
    来ることはないのだった。
  • 4 紫苑 id:jFtLVVY1

    2011-06-04(土) 13:20:22 [削除依頼]
    「つーかあいつ
    どうやってあんなとこ乗ったんだろ…」
    誰かがふとそう呟いた。

    この地域は雨が多く
    特に雨が多い梅雨の時期などは
    小さな規模の津波がよく起こる。

    この堤防は
    その津波を防ぐためのものだ。
    そのため かなり段が高く作ってある。

    地元の子供でも
    二人がかりで登らなければ
    とても上には上がれない。

    しかもよく見れば
    少年はその高い堤防の上で
    くるくると踊るように跳ねている。

    何とも不思議な雰囲気を持った少年を
    生徒全員は目で追うしかなかった。
  • 5 紫苑 id:jFtLVVY1

    2011-06-04(土) 13:35:41 [削除依頼]
    するとその時
    三年二組の教室の扉が不意に開かれて
    一人の男子生徒が中に入ってきた。

    手元に分厚いファイルを抱えた男子は
    窓にへばりついて外を見つめる
    クラスメイト達の姿に 目を丸くする。

    「な、何してんの?みんな」
    驚きを混ぜた声でそう言うと
    クラスメイト達が振り返った。

    「おぅ風太!何してたんだよ。
    早くお前もこっち来て見てみろ。
    面白い奴がいるんだ」

    「面白い奴?」

    男子の名前は 桐谷風太。
    このクラスの学級委員だった。

    職員室で先生から
    ファイルの記入の仕方を教わっていた
    風太だけは教室にいなかったのだ。

    風太は興味本位で
    みんなと同じように窓を覗く。
    そうしてやはり同じように
    少年を見つけた。

    「あの男子 誰?」
    風太は戸惑うように言う。

    「それが俺らにも分からないんだ」
    「桐谷くんも見たことないよね?あんな子」
    「ってか顔が見えればいいのにぃ」

    その時
    「ねね ちょっとあの子呼んでみない?」
    女子の一人が突然そう提案した。

    たちまち生徒全員の中で賛成の声が上がり
    少年に声をかけてみよう
    ということに決まる。

    「……でも 誰が呼ぶんだ?」
    その疑問の声が出ると
    しんと声が静まる。

    誰が勇気を出して 大声を出すか。
    たしかに少年のことは気になるが
    誰も そんな恥ずかしい真似を
    したくないのだ。
  • 6 紫苑 id:b1XZ48V0

    2011-06-12(日) 02:00:06 [削除依頼]
    校舎から 少年のいる堤防までは
    さほど遠くもなく かと言って近くもない。

    大声を上げて呼べば 少年は気付くだろうが
    そんな恥ずかしいことを誰がやるのか。
    それでもめ始めた。

    「男子は休み時間とか
    いつもギャーギャー言ってるじゃん。
    その調子であの子も呼んでみてよ」

    「そんなこと言うなら女子の方が
    ギャハギャハ大声で笑ってるだろうが。
    お前らが声を合わせて あいつを呼べよ」

    たちまち教室の中では
    男子と女子がそれぞれ
    口々に言いたいことを言い始める。

    風太は始め 呆れたようにそれを眺めていたが
    やがて収集がつかなくなる前に
    「分かった」の一声で生徒達を静まらせた。

    「それなら 俺が呼ぶよ。間をとって」

    その言葉に クラスメイト達が顔を見合わせ
    そうして次に きまり悪そうな顔をする。

    「悪いな風太。結局お前に押しつけちゃってさ」
    「桐谷くん 頑張って!」
    「クラスの代表として あの子に声をかけてみて」

    風太はため息を一つつき
    そうして窓の外へ視線を戻す。

    少年はあいかわらず のんきな足取りで
    堤防の上を歩くことよりも
    むしろ跳ねることを楽しんでいるようだった。

    今なら声も届く。
    風太はすっと息を吸い込んで――

    「おーいっ」

    息を吐き出すと共に めいっぱい声を上げた。
  • 7 紫苑 id:b1XZ48V0

    2011-06-12(日) 02:11:04 [削除依頼]
    クラスメイト全員が息をのみ
    期待と高揚感に満ちた視線を送る中で
    ――風太の声は少年に届いた。

    風太の声が空に響いてからすぐに
    それまで振り返りもしなかった少年が
    初めて江南中の校舎を振り返った。

    そうして校舎を見上げ
    ちょうど三年二組の窓を
    視界に入れた時 少年の視線は止まった。

    風太はその時
    妙にドキリとしたことを
    今でも覚えている。

    気のせいかもしれないが…
    たしかに風太は
    少年と目が合ったのだ。

    少年は 生徒達がずらりと並んで
    自分を見ているということに
    気がついたらしい。

    そうして声をかけてきたのが
    その生徒達だということにも
    気がついたらしかった。

    風太の「おーい」という
    呼び掛けには あえて答えず
    無言で手を振ってきたのだ。

    生徒達は見知らぬ少年が
    自分達の存在に気づいてくれたと知り
    嬉しくなる。

    些細なことだけれど
    彼らにとっては
    それがどうしようもなく
    ワクワクする出来事だったのだ。
  • 8 紫苑 id:b1XZ48V0

    2011-06-12(日) 02:21:01 [削除依頼]
    少年が気づいたのをキッカケに
    それまで声を上げるのを嫌がっていた
    クラスの生徒達が
    次々と質問や言葉を投げかけていく。

    少年はどんな質問が来ても
    何も言わず 顔も見せてはくれなかった。

    ただ首を振ったり 手を振ったり
    体で表現することしかしてくれない。

    生徒の半数は「顔を見せて」や
    「声を聴かせて」などの希望か
    「どこ校?」「いくつ?」などの
    質問をする声が多かった。

    しかし少年は 答える気はないらしく
    YESかNOで答えられなければ
    無気力に首を振るだけだった。
  • 9 ぽさぬ id:Z5ez.wf0

    2011-06-12(日) 09:56:39 [削除依頼]
    爽やかな感じに惹かれました
    応援してます!(^^*
  • 10 紫苑 id:b1XZ48V0

    2011-06-12(日) 12:05:35 [削除依頼]

    ○ぽさぬサン○

    感想ありがとうございます!

    海をテーマに書いている(つもり?)ので
    「爽やか」と言ってもらえるのは
    とても嬉しいです!(@・ω・@)エヘッ

    更新ぼちぼちですが…
    よければこれからも読んで下さいねっ♪
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